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息を「吐く」重要性: 横隔膜への徒手療法で頸椎・腰椎・股関節の可動域が改善する?

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ついさっきですが、スカイプ経由で第二回スポーツ救急サミットにて発表させていただいておりました(日本時間では昼、私には夜10時過ぎでした)。途中コネクショントラブルで会話が切れてご迷惑をおかけしましたが、私の発表後もそのまま繋いでいただいたので思いがけず他の先生の講義を聞く貴重な機会もあり、日本でのスポーツ救急対応にかける皆様の熱意が伝わってきてこちらにもとても良い刺激になりました。山本先生、太田先生を始めとするお世話になった関係者の皆様、ありがとうございます。

それから、引き続き12月25日開催のEBP講習のお申し込みも受け付けております!クリスマスにも関わらず、都内や関東圏はもちろん大阪、滋賀、福岡、熊本に福島など、様々なところからお申込みいただいていて、とても有難い・嬉しいです。楽しい一日にしましょう!広い会場を抑えたのでまだ残席ありますよぉー。

<講習日時>
2016年12月25日
 9:30am-12:30pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
 12:30pm-13:30pm 昼食(各自)
 13:30pm-16:30pm エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
 16:45pm-19:45pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで

参加はお好きなコースひとつだけでも、2つでも3つ全てでも可能です(複数講習参加する場合は、お手数ですがこちらから各イベントひとつずつお申し込みください)。参加資格の指定はありません、エビデンスという言葉が苦手な方や学生さん大歓迎です。ATCのクレデンシャルをお持ちの方には、各コースEBP CEUが3つきます。3つ全て受講すれば3 x 3 = 9 EBP CEUsです。

<会場> 連合会館 402会議室 東京都千代田区神田駿河台3-2-11
 東京メトロ千代田線  新御茶ノ水駅 B3出口すぐ
 東京メトロ丸ノ内線  淡路町駅 B3出口すぐ(B3出口まで地下道徒歩5分)
 都営地下鉄新宿線  小川町駅 B3出口すぐ(B3出口まで地下道徒歩3分)
 JR中央線・総武線  御茶ノ水駅 聖橋口徒歩5分

<定員> 70名

<受講料>セット割引、学割あります! 
  一般 1コース 9,000円
     2コース 16,200円 (10% off - 1,800円引き)
     3コース 22,950円 (15% off - 4,050円引き)
  学生 1コース 8,100円 (10% off - 900円引き)
     2コース 14,400円 (20% off - 3,600円引き)
     3コース 20,250円 (25% off - 6,750円引き)



さて、本題です。今回は読んだ論文のレビューを忘れないうちに書き留めておこうと思います。横隔膜系の論文を読むのは完全に趣味なので、これも個人コレクションに加えなきゃなりませんから…。んで。今回紹介するのはふたつの論文ではありますが、同一の研究チームによるものなので造りは非常に似ています。まずはこちら(↓)1から。
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この論文ではハムストリングの柔軟性が欠けているとバランスやスポーツパフォーマンスの低下が見られる、且つそのままにしておくと可動域の制限、姿勢異常、痛みや怪我のリスクにつながることから、2 早めの介入の必要性を呼び掛けており、特にShort-Hamstring Syndromeの患者が特定の腰椎異常も持っていることが多い3,4のであれば、腰椎に付着した横隔膜への介入も有効なのでは?というのがバックグラウンドです。ここまでは私もよく見聞き知っている理論ですが、正直なところここまでのLit reviewの引用と文献を用いての論理展開は雑な印象です。あまりそそられません。つーかShort-Hamstring Syndromeの学術的な定義ってなに?伸張位にあるから「張り」を感じるんであって、実際短くなってるわけじゃないでしょ?色々とつっこみたいけれども、まぁでもここはぐっと堪えて最後まで読むです。
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で、この研究では60人の"Short-Hamstring Syndrome (PAT >15°且つFFD >5cm、上図参照)"の被験者をランダムに1) Diaphragm Technique Groupか2) Placebo Groupにわけ、Diaphragm Technique Groupの患者には下の写真のような、「施術者が徒手療法を使って胸郭を下げ、横隔膜をリラックスさせ、呼気を強調することでそのドーム型をrestoreする」ことを目的とした5-7分間の治療が施され、その前後に計測したoutcome measureを比較しました。長期的な治療を追っかけたものではなくごく短期の、single-session studyですね。データコレクターがグループアサインメントを知らない、ということでsingle-blinded studyというカテゴリー分けになっています。
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"Doming of the diaphragm is a technique designed to relax the resting state of the diaphragm, enhancing its contraction and relaxation functions (p.344)." 原文より。このテクニックはイギリスのオステオパス医師、Leon Chaitow氏が提案・推奨した横隔膜不全/過呼吸患者へのアプローチテクニックですね。患者は胸椎屈曲位を取り、息を吐いている間に施術者が肋骨を下へ導く、という徒手療法で、肋骨を引き下ろしたらこの位置を5-7分キープするのだそう(吐き切った肋骨の位置を保つことにより、横隔膜が休まった位置をキープできる。これは横隔膜のストレッチと呼ばれたりもしているそうだけど、横隔膜を引っ張って伸ばしているわけでじゃなく、弛ませて休ませているわけだから、個人的にストレッチという名称はどうかと思います。誤解を招きそうかなぁと)。著者らはスペインの大学に勤務する研究者のようですが、これはスペインでよく使われているテクニックなんでしょうか?私は個人的にこれは見聞きしたことがあるだけでfamiliarではないので、一回施術風景を見てみたいです。

で、結果は以下の通り。Placebo組が全てのoutcome measureにおいて治療前後で何も変化がなかったのに比べ(p > 0.05)、Diaphragm組はハムストリングの柔軟性、腰椎と頸椎の可動性の全てが著しく改善。Power Analysisをした上で、最低限必要な被験者の数以上(各グループ28人のところ30人)用意したことは評価されるべきで、95%CIのLower End Valueを見てもこれは統計的に決定的な結果と言うべきでしょう。
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そんなわけで、呼気を強調し、ドーム型を修復する横隔膜へのアプローチで、頸椎・腰椎の可動域が上がり、ハムストリングの柔軟性が向上する、つまり"Short-Hamstring Syndrome"に有効な治療法である…というのがこの論文の結論です。一回のセッションで得られた効果がどれだけ持続するかはこの研究では検証していませんが、横隔膜へのアプローチでハムストリングの柔軟性が回復するのなら、組織の拘縮はどうやら起こっていないのではないか、日々ストレッチをして軟部組織を「伸ばす」必要はどうやらなさそうではないか、ということも言えるかもしれません。ここんとこは、私の個人的な考察です。

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もうひとつの研究はこちら(↑)。5
こっちの論文のほうが冒頭の文章がさっきのものより格段に好みなんだけど、やっぱり文献引用がめちゃめちゃ甘い気がするんだけどなー。そんなことないのかなー。とりあえずこちらの論文ではですね、Short-Hamstring Syndromeは置いといて、健康な被験者に対しての横隔膜へのアプローチが脊椎の動きにもたらす影響について掘り下げています。

担当統計学者が研究目的やデザインを知らないままデータ分析を行った/データコレクション担当者もグループアサインメントは知らないままだった(=single blinded)、というところと、被験者はランダムに1) Diaphragm Technique Groupと2) Placebo Groupに分けられたのは先の研究と同じ。検証されたテクニック(横隔膜徒手療法)も上記と同じもの。で、計測されたOutcomeは頸椎のROM、腰椎のROMとFinger-to-Floor Test (FFT - 前回のFFD Testとほぼ同じ)の他に”Abdominal and rib cage excursion"、つまりテープメジャーによる胸囲の計測(2nd intercostal space, xiphoid process, midpoint between the xiphoid and umbilicusの計3箇所)を入れています。明記はされていないのですが、恐らく呼気と吸気の胸部の広がりをcmで記録したものと思われます(数値が高い=胸郭の開閉度が大きい、ということなんじゃないかな)。このMeasurement、私は初めて聞くのですがintra-rater reliabilityとinter-rater reliabilityはそれぞれ0.96-0.98、0.84-0.87だそうです。6 それぞれ問題のない、優秀な数字です。

で、結果は以下の通り。横隔膜のアプローチは頸椎・腰椎の可動域とPosterior Chain Muscleの柔軟性に対する改善が著しかったのに比較して、Placebo Groupは変化なし。これは前回の研究と同様の結果と言えますね。それから、Diaphragm Technique Groupは横隔膜の位置するXiphoid levelでの胸郭の開閉度も平均約2.6cmと大幅に改善。比べて、Placebo Groupは腹部のExcursionのみ1cm程増加…これは、お腹を休めるような恰好を7分間取っていたからでは、というのが著者の考察です。
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そんなわけで、こちらの研究5でも横隔膜へのアプローチで頸椎・腰椎の可動域が改善、Posterior Chainの筋緊張が取れ、ひと呼吸において胸部がより深く閉じた状態からより大きく、効果的に開けるようになる…というのが結論です。どちらの研究でも、徒手療法て触れてすらいない股関節や頸椎の可動域に影響が出ているのが非常に面白いと思います。使っているテクニックこそ違えど、テクニックの意図とコンセプトは私が勉強しているものと全く同じなので、こういう研究に出会えるのは楽しいですね。この冬に教えるPostural Respirationにも繋がってきそうな内容なので、講習参加予定の方はぜひ今回の論文ふたつ読んでみてほしいです!

1. Valenza MC, Cabrera-Martos I, Torres-Sánchez I, Garcés-García A, Mateos-Toset S, Valenza-Demet G. The effects of doming of the diaphragm in subjects with short-hamstring syndrome: a randomized controlled trial. J Sport Rehabil. 2015;24(4):342-348. doi: 10-1123/jsr.2014-0190.
2. Forman J, Geertsen L, Michael E, Rogers ME. Effect of deep stripping massage alone or with eccentric resistance on hamstring length and strength. J Bodyw Mov Ther. 2014;18(1):139-144. doi: 10.1016/j.jbmt.2013.04.005.
3. Raftry SM, Marshall PW. Does a 'tight' hamstring predict low back pain reporting during prolonged standing? J Electromyogr Kinesiol. 2012;22(3):407-411. doi: 10.1016/j.jelekin.2012.02.008.
4. Biering-Sorensen F. Physical measurements as risk indicators for low-back trouble over a one-year period. Spine. 1984;9:106-119.
5. González-Álvarez FJ, Valenza MC, Torres-Sánchez I, Cabrera-Martos I, Rodríguez-Torres J, Castellote-Caballero Y. Effects of diaphragm stretching on posterior chain muscle kinematics and rib cage and abdominal excursion: a randomized controlled trial. Braz J Phys Ther. 2016;20(5):405-411. doi: 10.1590/bjpt-rbf.2014.0169.
6. Cahalin LP, Braga M, Matsuo Y, Hernandez ED. Efficacy of diaphragmatic breathing in persons with chronic obstructive pulmonary disease: a review of the literature. J Cardiopulm Rehabil. 2002;22(1):7-21.

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  by supersy | 2016-11-26 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

ひとつのスポーツに特化する高校生アスリートは怪我をしやすい?: マルチスポーツのすゝめ。

アメリカの高校スポーツが面白いのは、シーズン制を採用しているところなんですよね。例えば9月から11月くらいまではアメリカンフットボールとバレーボール、11月から2月までがバスケットボールにサッカー、2月から5月までが野球にソフトボール…という感じで、終わりと始まりがはっきりと決まっているので、ひとりの選手が複数の競技に参加することが可能なのです。私が高校で働いていた頃も、運動神経のいい子はアメフトからバスケットボール、野球へと移行し、ついでに陸上も…、といったように、あちこちにひっぱりだこでなんでも活躍しちゃうマルチな子がたくさんいました。
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一方で、近年アメリカで問題になっているのが、高校のチームのみでなくクラブチームにも所属して、ひとつのスポーツに特化し一年中そのスポーツをプレーし続ける選手が増えていることです。これに関しては、IOC1やAMSSM2などの複数の団体がポジションステートメントを介して「若いうちは複数のスポーツをするほうが良い」と進言しているにも関わらず、それを無視する形で現状は悪化しているようです。3「プロになるには早いうちから専門性を高めなければ」と選手も親御さんも思うのでしょうけれども…、運動能力という意味でも、燃え尽き症候群を防ぐためにも、様々なスポーツを経験しておいたほうがいいのでは、と危惧する声が上がっています。
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もうひとつ、ATとして知っておきたいのが怪我のリスクです。ひとつのスポーツに特化したほうが怪我をしやすいのか、それとも複数するほうが怪我のリスクが高いのか?今回レビューするこの論文(↑)3では、1) どのくらいの高校生アスリートが「特化」しているか、 2) 「特化」するアスリートに、性別、学年、高校の生徒数など、特徴はあるのか、そして 3) 「特化」しているアスリートとマルチスポーツアスリートとで、下肢に起こる慢性傷害の頻度に差はあるか、を検証しています。

研究対象になったのはウィスコンシン州にあるふたつの高校で、ひとつは生徒数が2000を超えるジャイアント校、もうひとつは生徒数が600余りと規模の小さ目の学校。13-18歳のサッカー、バスケットボール、テニスとバレーボール選手302人を対象に、1) 特化かマルチ、自分のスポーツ歴をどのように評価するかと 2) 今までに下肢(股関節、大腿、膝、脹脛、足首、足部)に怪我をしたことがあるかをアスリートにアンケート形式で答えてもらい、結果を分析しました。

ここまでで私がうっかりがっかりした要素を上げておきますね。まずは、あらかじめスポーツの特化を調べてからそれぞれの選手を1シーズン追い、起こる怪我をその都度ATが研究者に報告するようなprospectiveの研究ではなく、後出しで「貴方のスポーツの特化具合はどうなの?あ、ちなみに今までどんな怪我をした?」という尋ねているタイプのretrospectiveな研究であるということ。Retrospectiveは選手の記憶が全てなので、例えば彼らがウソをついたり、わからなくて適当に答えたり、もしくは記憶違い (=recall bias) があればそれだけでデータがskewしてしまいます。
加えて、たったふたつの学校、それにスポーツもたった4競技というのはサンプルとしてどうなのでしょうか。あまりgeneralizabilityがないように思います(=この研究結果を「アメリカ在住の全高校生アスリート」という大きな対象に広げて解釈することはできません)。だってね、これだけサンプルに偏りがあると、コーチによる影響の比率が大きすぎるのではないかと思うんですよね。例えば、その高校のバレーボールコーチがクラブチームのコーチも兼ねていて、高校のチームに所属している子はクラブチームにも入るのが暗黙の了解になってしまっている場合なんか見たこともありますし、逆に高校のコーチが「勝手に変な癖をつけてほしくない」などの理由で、逆にクラブチームの参加に反対だとかという可能性もないことはないと思うんです。そんなコーチが一人でもいれば、かなりこの研究のデータも引っ張られてくるでしょうね。
それから、研究対象になった怪我が「慢性的な下肢傷害」に限定されている理由が明記されていないのが気になります。たぶん、高校スポーツで起きる怪我の半数以上が下肢の怪我だから、そして急性のコンタクトによる怪我はスポーツの特化性とあまり関りがないと判断したからなのでしょうが、それらを文献を引用して説明するのとしないのとではだいぶ印象が変わってきますね。
ここらへんは私は読みながら頭に「??」とクエスチョンマークが浮かぶあたりです。ここらを念頭に置きながら読み進めます。本題に戻ります。

で、結果なのですが。突っ込みどころはここでも多いんですけど、それをなるべく置いておいて、私が面白いと思った結果を中心にまとめますね。

● 規模の大きい高校のほうが、選手がスポーツに特化している傾向にある (↓下グラフ)。
これは理に適っているように感じますね。大きい学校のほうが人材が豊富にある分、それぞれの部活のニーズを満たすのに十分な選手数がそれぞれのチームで確保できる。ロスターに残る競争率も高い分、よりレベルが高くなければチームに所属すらできないということもあるでしょう。あとね、これは、組織の意識による影響も少なからずあるんじゃないかと思うんです。小さい高校ではコーチも複数のスポーツコーチを兼任にしていることも多く、「兼任」が当たり前という雰囲気がある一方で、大きな高校でコーチと環境がそれぞれのスポーツに「特化」していると、「あのーすみません、他のチームの練習があるんで抜けてもいいですかね?」とは選手は言い出しにくいですよね。大きい高校のほうが兼任が許されない雰囲気ができるかなと。
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ちなみにこのグラフの"High" "Moderate" "Low"というのは「どれだけ他のスポーツを排除し、一年を通じて特定のスポーツのトレーニングをしているか」の度合いを示したもので、「ひとつのスポーツに集中するために他のスポーツを辞めたことがあるか」「一年のうち8ヶ月以上をひとつのスポーツのトレーニングに費やしているか」「他のスポーツよりも『重要だ』と感じる特定のスポーツがあるか」という3つの項目に対する「Yes」の数を数えたものです。「Yes」が3つあれば「High Specialization」、2つなら「Moderate」、0-1なら「Low」という風に分類されます。
 
この3-point scaleが研究で使われたのには「スポーツの特化はyes/noの白黒ではなく、白が徐々に黒になるようなスペクトラム状のもののはずだ」という理念を著者らが持っているからなのですが(そしてそこは私も賛成です。例えば、普段はずっとバスケットボールばっかりやっていて、陸上部員として大会の日だけぶっつけ本番で競技に出る、みたいな選手がいた場合、この選手がシングルスポーツかマルチか、と言われれば所属上マルチと分類せざるを得ませんよね。でも、この選手は陸上競技に費やしているトレーニングは実質ゼロなので、事実上シングルに限りなく近いと思うんです。少なくとも、この選手が「陸上とバスケの練習、一日おきに交互に出ています」という選手と全く同じ「マルチ」組に分類されるようではあかんと思うのです。どのスポーツをどのくらいやっているか、もっと可視化して細かく分類する必要があります)、この論文中で述べられているように、3-point scaleによる「スポーツの特化度」の計測が正確で非常に有効である、と断定するのに十分な根拠は乏しいのではと私は感じます。なぜかというと、この計測法も結局選手の自己判断・自己報告に頼っているからです。集計が面倒くさくても、例えばもっと客観的に、各競技のトレーニングに費やしている時間を計測し、記録するべきなのでは?と私は考えます。それぞれの練習ボリュームをvariableにすべきではないかなと。…あ、また話が逸れてしまった。

"High Specialization"のカテゴリーに入った選手は、"Low"の選手らに比べ、膝関節の慢性傷害を経験している可能性が著しく高い(p = 0.048)。
これはなんでORが報告されていないんでしょう?個人的にはp値で言われてもちょっと…という感じ。

「一年のうち8ヶ月以上をひとつのスポーツのトレーニングに費やしているか」の項目に"Yes"と答えた選手は膝関節 (overall knee injury OR 2.32; 95% CI 1.22-4.44; p = 0.009, overuse knee injury OR 2.93; 95% CI 1.16-7.36; p = 0.018) と股関節 (OR 2.74; 95% CI 1.09-6.86; p = 0.026)の怪我の既往歴があることが多い。
なるほど。こうなると「そうか!やっぱりマルチスポーツしてるほうが怪我をしにくいんですね?」と言いたくなるところですが、correlationとcausationは異なる、ということはやっぱり指摘しておかなければなりません。これらの怪我がいつ起こったか分からない以上 (それこそ10年前の怪我だって数に入っちゃうわけですから)、シングルスポーツが怪我のリスクを上げるとは断定できません。もしかしたら、怪我をした選手が泣く泣くマルチを諦め、ひとつのスポーツを選択せざるを得なくなったという真逆の可能性だって考えられますもんね。因果関係をもっとはっきりさせたければ、やはり選手を予めシングル組・マルチ組に分類したあとで、1シーズンの怪我を現在進行形で追う、prospectiveタイプの研究をやらなければダメでしょう。

逆に非常に面白いなぁと思ったのは8ヶ月という数字ですかね。実は「ひとつのスポーツを一年のうち8ヶ月以上プレーすべきでない、年間を通じて休息時間を設けるべきだ」という提案は他の論文でもこれまでにいくつかされているんです。4-6 今回の研究もこれ(=8ヶ月)が結局のところ一番の怪我のpredictorということで、「8ヶ月」という時間軸がマジックナンバーである?という説を支持する結果になっています。こうなってくると本当に8ヶ月が適切なcutofffなのか、さらに検証する必要がありそうですね。例えばひとつのスポーツを6ヶ月やっている選手たち、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月…なとどグループ分けして怪我の頻度を追えば、どの期間が境界線として最も相応しいかデータ化が可能です。他にも「ユースの選手は自分の年齢以上の時間を一週間に練習に費やしてはいけない」なんていう提案も以前にされてましたけど(i.e. 15歳なら一週間練習も15時間以内)、5 これも併せてぜひ検証していただきたいものです。こうすることで怪我のリスクを下げられるのか、気になります。

色々書きましたが、この論文をまとめると「どうやらマルチスポーツをしたほうが怪我のリスクは総じて低そう?」ということは抜き出せるかと思います。この研究の質は決して高いものではないですが、マルチスポーツをすることに関する不利益は今のところなさそうですし…どちらがより安全?と聞かれたらマルチ、と答えたくなるのが私の脳内の現状です。早期特化派のママさんなんかからは「でもそんなに呑気に色々なスポーツに手を出していたら遅れを取ってしまう、うちの息子がスポーツ推薦もらっていい大学にいけなくなってしまうわ!」と言われそうですが、実はそれを否定するエビデンスはあるんですよ。NCAA Division Iの選手のほとんどは、実は高校を通じてひとつのスポーツに特化せず、マルチスポーツ選手として活躍している場合が多かった、7というのがね。もしかしたら「複数のスポーツをプレーできる環境」というのは、怪我のリスクを下げるだけでなく、燃え尽き症候群を防ぎ、しかも高い運動能力を兼ね備えられる、やはり優れたモデルなのかもしれない、という気がしてきますね。日本でもこういう機会、若い子が持てればいいのですが…。

1. Bergeron MF, Mountjoy M, Armstrong N, et al. International Olympic Committee consensus statement on youth athletic development. Br J Sports Med. 2015;49(13):843-851.
2. DiFiori JP, Benjamin HJ, Brenner JS, et al. Overuse injuries and burnout in youth sports: a position statement from the American Medical Society for Sports Medicine. Br J Sports Med. 2014;48(4):287-288.
3. Bell DR, Post EG, Trigsted SM, Hetzel S, McGuine TA, Brooks MA. Prevalence of sport specialization in high school athletics: a 1-year observational study. Am J Sports Med. 2016;44(6):1469-1474. doi: 10.1177/0363546516629943.
4. Brenner JS, American Academy of Pediatrics Council on Sports Medicine and Fitness. Overuse injuries, overtraining, and burnout in child and adlescent athletes. Pediatrics. 2007;119(6):1242-1245.
5. Jayanthi NA, LeBella CR, Fischer D, Pasulka J, Dugas LR. Sports specialized intensive training and the risk of injury in young athletes: a clinical case-control study. Am J Sports Med. 2015;43(4):794-801.
6. Valovich McLeod TC, Decoster LC, Loud KJ, et al. National athletic trainers' association position statement: prevention of pediatric overuse injuries. J Athl Train. 2011;46(2):206-220.
7. Post EG, Thein-Nissenbaum JM, Stiffler MR, et al. High school sport specialization patterns of current division I athletes [published online on November 2, 2016]. Sports Health. 2016;pii:1941738116675455.

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  by supersy | 2016-11-16 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

月刊トレーニングジャーナル12月号発売 &「脳震盪予防」最新エビデンスを考える。

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月刊トレーニング・ジャーナル12月号が発売になっています!12月かー…、もう師走近いんですね!
連載7回目の今回は「脳震盪シリーズ」の第二弾です。今回は脳震盪診断について、スポーツ医療の現場で働く医療従事者が知っていなければいけない基本中の基本から、最新のエビデンスに基づいた最先端の診断法まで幅広く言及しています。興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。

ついでといっては何ですが、MUSTER(マスター)というスポーツ関係の専門家が交互に執筆し合うウェブサイトで脳震盪に関する記事も書かせていただいたので、興味のある方はこちらもどうぞ。こちらの記事は選手、指導者や親御さんなど、一般の方に「脳震盪」についてもっと知っていただきたくて書いたものなので、このブログほど濃厚ではないというか、しつこくはありません(笑)。さっぱり味です。



別に脳震盪の記事を立て続けに書いていたからってわけじゃないのですが、最近こんな論文(↓)1を目にしたのでまとめておきます。脳震盪診断や治療に関しての進歩は日々目まぐるしいですが、脳震盪予防という分野は実はまだまだ未開の地なんですよねぇ。
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このSystematic Reviewでは条件を満たした15件の脳震盪予防に関するProspective論文をレビュー、うち、Meta-analysisに含まれたのは8件。Systematic reviewと呼ぶにはPubMedとEBSCOのデータベースしか使っていないというのは少しどーなのかと思いますけどね。あと、15件の論文の平均のPEDroが3.5っつーのは低いですね。猛烈に低いですね。まぁconcealとかしにくいかもしれない分野かなぁとは思いますけど。

15件の論文の内容に関する内訳は以下の通り。
 - 7件: ヘルメット・ヘッドギアの有効性
 - 8件: マウスガードの有効性
 - 1件: アメフトのタックル法指導プログラムの有効性

スポーツ別カテゴリー分けは、以下の通り。
 - 6件: ラグビー
 - 6件: アメリカンフットボール
 - 2件: アイスホッケー
 - 1件: バスケットボール
 - 1件: サイクリング

で、結論に飛んじゃいますと…
●ヘルメット・ヘッドギア・マウスガード・フェイスシールドの使用が脳震盪予防にもたらす効果
 RR = 0.82, 95% CI 0.56-1.20, p = 0.30
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統計的に有意な予防効果があった3つの論文だけ抜き出して掘り下げてみると…
 Collins et al 2006 (PEDro 3/10) - 実験組308人 vs コントロール組306人、
   アメリカンフットボール選手対象
   レボリューションヘルメットと一般的なヘルメットの比較
 Thompson et al 1996 (PEDro 3/10) - 実験組1718人 vs コントロール組1672人、
   サイクリング選手対象、ヘルメット有りと無しの比較
 Winters & DeMont 2014 (PEDro 3/10) - 実験組220人 vs コントロール組192人、
   アメリカンフットボール選手対象
   カスタムマウスガードと一般的なマウスガードの比較

Systematic reviewの結果(上グラフ)とMeta-analysisによる統計を見る限りでは、サイクリングという比較的特殊なノンコンタクトスポーツ以外は、ヘルメットやマウスガードは脳震盪予防に特筆するような効果は見られない、というのが結論ですかね。Point valueはともかく、95%CIの最大値が1を超えていますし、p値も>0.05です。

この分野で難しいのがブランドや種類の特定ですよね。何しろ選択肢が多いですから…。個々の研究結果のみを見てみると、マウスガードはカスタムのほうがそうでない商用のものより脳震盪予防効果が高いのではないか、そしてアメフト用ヘルメットは、Riddelのレボリューション型のほうが他のものより優れているのではないか、ということが言えそうです。レボリューションに関しては、もうひとつのRetrospective研究でも他のヘルメットより脳震盪予防効果が高いと報告されていたりもしますね (RR 0.46, 95% CI 0.28-0.76)。2 ヘルメットはね、もうどんどん新しいのが出ちゃうから研究が追い付いていない印象ですよ。最近だともっと柔らかい衝撃吸収型なんか出始めていて(↓)、硬いものよりこっちのほうが脳震盪予防にいいんじゃないか、なんて説もあり…。個人的にはこの柔らかタイプのヘルメットの予防効果が今一番気になるところなんですけどねぇ。これはさすがにまだ論文が出ていないなぁ。

あとね、これ、面白いのが単純に「ヘルメットやヘッドギアは総じて脳震盪予防に無効」というわけでなく、もしかしたら「ヘルメット・ヘッドギアをつける選手は、その安心感から、よりラフなプレーをするようになり、せっかくの予防効果も相殺される」という可能性が論文内でも言及されているところですね。ヘルメット無しの練習を敢えて取り入れるほうが、怪我をしにくくなる、なんて以前ブログにも少しだけ書きましたけど。個人的にはこの要因が非常に影響し得そうに思うので、Helmetless Tackling Trainingと特殊なヘルメットを併用したfactorial ANOVAとか見てみたいです。

●教育プログラムが脳震盪予防にもたらす効果
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 Kerr et al 2015 (PEDro 4/10) - 実験組人2108人 vs コントロール組704人、
   アメリカンフットボール選手対象
   Heads Up Football/Pop Warner教育プログラム有りと無しの比較

正しいタックル法や、練習時間の制限などのスポーツ指導者を対象にした教育プログラムの予防効果を検証したKerr氏らの研究から、(Heads Up Football/Pop Warnerによる)テクニック指導と練習時間に制限を設けることは、脳震盪予防に効果がありそうである(RR = 0.52, 95% CI 0.30-0.93)ということが言えますね。被験者の数も多く、PEDroも4/10と低いながら、今回の平均と比較するとまだ高いほうかもしれません。既存のプログラムなので、duplicateも簡単そうです。どうやら、「教育」はヘルメットやヘッドギアの使用よりはまだ効果が高そう…こうなると余計に、先ほど書いたように、教育と防具の併用で相乗効果があるのか、そこらへんを是非検証した論文を見てみたいです。

●ヘルメット・ヘッドギア・マウスガード・フェイスシールドの使用が頭部表面的損傷(lacerations, abrasions, contusions)予防にもたらす効果
 RR = 0.41, 95% CI 0.31-0.56, p < 0.0001
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これに関してはほぼ満場一致で効果ありとして良いでしょう。95% CI最大値も優秀です。先ほど脳震盪予防にはイマイチ決定打が欠ける、と言われていたこれらの防具ですが、頭皮からの出血や頭部(表面)の打撲などの軽度の損傷のリスクを半分近くにまで下げる効果があるようです。

そんなわけで全てをまとめると…
- 防具に関しては、(裂傷や打撲など)頭部表面の損傷の危険性を半分に減少させる効果はあるものの、総じて脳震盪予防効果は無し。レボリューションヘルメット、カスタムマウスガードはもしかしたら脳震盪予防効果あり?
- 指導者を対象にしたテクニックや練習時間に関する教育プログラムも脳震盪予防に一役を買うようであるが、これだけでは不十分でもある。
…という感じでしょうか。いやー、特に世界観がひっくりかえるような新しい結果っつーのは無かったですけど、面白いですね!研究の本質上、RCTってわけにはいかないと思うんで、もっと質の高いProspective studiesがこれからも増えてくれると嬉しいです。せめてPEDro平均値5か6くらいで!くどいですけど、ヘルメット無しの練習をした子たちがレボリューションやその他最新のヘルメットつけた場合の予防効果がめちゃめちゃ気になります。もう2年くらい待ってからまた戻ってきたいトピックです。

1. Schneider DK, Grandhi RK, Bansal P, Kuntz GE, Webster KE, Logan K, Barber Foss KD, Myer GD. Current state of concussion prevention strategies: a systematic review and meta-analysis of prospective, controlled studies [published online on June 1, 2016]. Br J Sports Med. 2016;pii: bjsports-2015-095645. doi: 10.1136/bjsports-2015-095645.
2. Rowson S, Duma SM, Greenwald RM, et al. Can helmet design reduce the risk of concussion in football [published online on January 31, 2014]? J Neurosurg. 2014;120(4):919-922. doi: 10.3171/2014.1.JNS13916.

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  by supersy | 2016-11-13 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

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