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Indianapolisにて。

今週末はインディアナポリスにてPRIのPostural Respiration講習に参加してきました。大先輩のJamesの指導の下、今度新しく講師に加わるLouiseも研修に来ており、さらには今年PRT(Postural Restoration Trained)の資格を取得した友人のまささんもシカゴから参戦してPRI Familyは大所帯!その他40人超の参加者さんと、わいわい賑やかに勉強してまいりましたよ。
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せっかく二年ぶり?くらいのまささんとの再会だったので、何か楽しいこともしたいねー!ということで、土曜日の夜は講習が終わった後にIndiana Pacers vs Oklahoma City Thundersの試合を観戦に行ってきました。インディアナポリスダウンタウンに車を停め、ふらふら観光もしながら会場のBankers Life FieldHouseへ。早めに会場についたのでお散歩していたら、伝説のReggie・Millerのジャージが展示されているのを発見。こ、神々しい…!
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試合は一度見てみたかったPaul GeorgeもKevin DurantもRussell Westbrookも怪我もなくフル出場で、最後の最後まで分からない大接戦!見応えがありました。Georgeのシュートタッチ柔らかい!Durantの足長い!WestbrookはBad boyかと思っていたらチームメイトに満遍なくボールをdistributeし、試合が止まると真っ先にチームメイトに声をかけ、勝負どころでは自分で猛烈に点も取りに行ける、self-lessで素晴らしい選手でした。悪いほうの魔人ブウみたいだなんて思っててごめん…!彫りが深いだけなんだね…!
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そんなこんなでここのところ仕事が立て込んでいて殺伐とした気持ちになっていましたが、職場を離れ、がっつり学んでがっつり楽しんで、リフレッシュして帰ってくることができました。また新たな一週間、気持ちを新たに頑張りたいと思います。
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  by supersy | 2016-03-20 23:10 | PRI | Comments(0)

Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその2。

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もうひとつ紹介したかったのはこの論文です。1 これはネパールの研究者によるものですね、珍しい。2015年8月と、比較的最近発表されています。

膝の痛み、グラつき感や引っかかり感などを訴えてスポーツクリニックを受診した20-45歳の患者を対象に、Anterior Drawer Test, Lachman Test, Pivot Shift TestとLelli Test (以下Lever Sign Testと表記します。原文ままだとLelliなんですけど)を実施。のちにArthroscopeを全員に行い、ACL断裂の有無を確認した、という研究です。

ちなみに実際にこの研究に参加した被験者内訳は男性50人、女性30人の合計80人(平均年齢32.12歳)。内視鏡検査の結果、ACL断裂が確認されたのは35人で、そのうち13人がisolated ACL tear、22人が半月板損傷を伴うACL tearだったそうです。ACL tear全体のうち約63%が単独でなかったということは特筆すべきかもしれません(前回の記事で述べた穴の二番目がこれで大きくなりましたね。前十字靭帯断裂時の6割以上は他組織の損傷を伴っている。つまり、前記事の結果が当てはまらない場合のほうが多いわけです)。

さて、それでは一気に結果に飛びましょう。各診断テストと内視鏡検査の結果が以下の表にまとめられています。+LRと-LR値(と、それらの95%CI値)はこの論文では求められていなかったので、私が出して付け加えてみました。統計的に決定的と言えるものには赤い色もつけてみています。
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ひとつひとつ、私見をたっぷり交えて読み解いてみます。Anterior Drawer TestはSpecificityの95%CI底値が80を超えていることから、Rule in (確定)する力に長けていることが分かります。対してSensitivityは、悪くはないんですが95%CI底値が62.53なので「陰性だからってACL損傷が無いとは強く断定できない」ということになりますね。+LR、-LRも同様に「良いんだけど、決定力に欠ける」と言った印象です。
LachmanはSpecificityも+LRもがっつり優秀。Rule in (確定)する力はAnterior Drawerよりも高いです。SensitivityはSpecificityほどではないものの、95%CI最低値が75.81とこれもなかなか。-LRの最大値0.27と合わせてみても、この4つのテストの中ではRule out (除外)する力が最も強いテスト、ということになります。
Pivot Shiftは予想通り、というかなんというか、Rule in (確定)はほぼ確定的、Rule out (除外)はコイントスをして表が出たらACL断裂、というのと変わらないくらいアテにならない、というのが分かりますね。
で、Lever Sign Testはというと全てのpoint valueは優秀なんですけど、95%CIの幅を見るとうむむむむ、という感じですかね。一番いいのはSpecificityの91.11(77.87-97.11)なんですけど、他の3つのテストと比べてみると実は最も低いという結果になっています。Sensitivity (85.71: CI 68.95-95)と-LR (0.16: 95% CI 0.07-0.36)を見る限りではRule out (除外)する力はLachmanに次いで二番目に高いですね。

昔からある3つの診断テストの数値は、依然に発表された文献たちのそれと酷似していると言っていいと思います。特に今までの常識を覆すような発見はないかなと。で、全部をランキングにまとめてみると、
   確定(rule in)力     除外(rule out)力
1位 Pivot Shift       Lachman
2位 Lachman        Lever Sign
3位 Anterior Drawer    Anterior Drawer
4位 Lever Sign       Pivot Shift
こんなところがフェアでしょうか。この研究ではLever SignのSensitivity、Specificityの値と比較して、それぞれのp valueも計算されていて、以下のよう(↓)になっています。赤は統計的有意(はっきりとした違い)を、黄色は統計的傾向(トレンド)を表しています。
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解釈としては、「Lever SignのSensitivityはPivot Shiftのそれよりも著しく(p = 0.000)高い」「Lever SignのSpecificityはPivot Shiftのそれよりもかなり低い傾向にある(p = 0.0625)」「Anterior DrawerとLachmanはSensitivity、Specificity共にLever Signと大差なし(p > 0.05)」ということになるんですが…なんでこれが大事なのかって?つまり、この分析で「Lever Sign TestはどうやらAnterior DrawerとLachmanと等しく優れたテストである」ということが言えるんです。

この論文の穴
1) 80人という人数はPower analysisに基づいたものではないため、これが十分な被験者数という保証はない。もっと被験者が多ければ、95%CIの幅も狭まったはず。
2) やっぱり誰が、どういう順番と条件でそれぞれの診断テストをしたのが記述がない。
3) 受傷から診断までどのくらい時期が経過していたかの情報が全くない。これは、痛みの度合いやGuarding/spasmの有無にも影響してくるため、私にとっては結構重要な情報。特に、Anterior Drawer Testの正確性に関しては急性のACL損傷には低く、慢性のACL損傷には高い報告がされているため、無視するわけにはいかない要素。
4) 男女別や損傷程度別(isolated vs combined)の分析は無し。せっかく情報があったのだからそういう分析も見てみたかった。
5)あと…これは全然関係ないかも知れませんが、この論文、構成ミスが多すぎです。スペースの使い方、大文字小文字の使い分け、参考文献の並べ方…このJournal of Institute of Medicineというジャーナルも聞いたことないですし、Impact Factor低そう。内容は決して悪くないと思うんですけど、こういう細かいところが気を配られてないと、怪しさは増します。

この論文の良いところ
1) Inclusion Criteriaが明確で、あくまで膝の異常を訴えてきた全患者が対象だったこと。「ACL損傷でなかった患者も被験者に含まれていた(人数にして55人)」のは大きいですね。前回のDr. Lelli氏の論文は「ACL断裂していることが既にMRIで確認された患者のみ」でしたから、今回の論文のほうがより我々の現場環境(『どうやら膝を怪我した、でもどんな怪我かまだ未確定』)に各段に近いと言えます。
2) 診断のゴールドスタンダードである、内視鏡検査が全患者に使われている。これはMRIよりも絶対的です。
3) 95% CIを計算している。…+LRと-LRは出しておいてくれなかったですけどね。

さて、個人的な最終意見をまとめると、診断統計的にLachmanが総合的にやはり一番使える診断テストと言えそうだけど、その次くらいにLever Sign Testはありかなと。Lachman、Anterior Drawerとcomparableでありながら、そのアホみたいなシンプルさはやっぱり捨てがたい。その他3つの診断テストのlimitations (Lachman: 試験者の手の大きさと患者の腿の大きさの不一致、Anterior Drawer: 90°の膝屈曲が不可欠、ハムストリングの緊張や内側半月板後方の損傷が 偽陰性の要因になる、急性損傷の診断力の欠如、Pivot Shift: MCLとIT Bandがintactでなければいけない、患者に意識がある場合の不快感とguardingの高さ)がはっきりと文献で指摘されているのに対して、Lever Signがそういった要素にどうやら影響されにくそうなのは大きな利点です。はっきりと影響がないと証明されるにはまだまだ研究が必要ですし、もしかしたらLever Sign Test特有のLimitationというのも将来見つかる可能性は否定できませんが。個人的には子供にも使用可能なのか(拳のサイズに対して足が小さくなるので)、他の組織の損傷があった場合で正確性がどう変わるのかなどは興味があります。
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今、目の前で膝を怪我した患者がいて、私が使うのは骨折や脱臼をRule outしたあとではまず現時点ではLachmanでしょうけれども(長年使ってますし、100kgくらいまでの選手ならmanipできるような気がします)、次はLever Signですかね。私は急性の患者にAnterior Drawerはできればラッキー、陽性なら考慮に入れるくらいで、陰性を除外の根拠にすることはありません。Pivot shiftに関しては恐らくattemptすらしないと思います。うーむ、Lever Sign Test、確実にスタメンには入ってくる感じですね。これからの研究にも期待してます。面白い!

1. Thapa SS, Lamichhane AP, Mahara DP. Accuracy of Lelli test for anterior cruciate ligament tear. J Inst Med. 2015;37(2):91-94.
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  by supersy | 2016-03-18 15:00 | Athletic Training | Comments(0)

Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその1。

私的な告知ですみません。以下の日程で、Evidence-Based Practice (EBP)講習を、東京は立川で行います!興味のある方はぜひ、リンクから詳細を確認してみてください。

5月25日(水) 18:30-21:30pm
  「エビデンスに基づいたスポーツ傷害診断: 基本から応用まで」
  会場: たましんRISURUホール 第6,7会議室   参加費: 8000円
6月1日(水) 18:30-21:30pm
  「エビデンスに基づいた治療介入: 基本から応用まで」
  会場: たましんRISURUホール 第1会議室    参加費: 9000円

お申し込みはリンク下のカレンダーから個別にどうぞ。両方でも、片方だけでも。多くの皆様に会えるのを楽しみにしています。初めての方も、リピーターの方も、学生さんも大歓迎です。エビデンス苦手、英語読むの苦手という皆様、是非!
それでは、この講習のプレビューというわけじゃないですけど、この講習でやるのと非常に似たようなことを今日このブログに書いてみますね。これを楽しいと思ってくださる方は、きっとEBPの勉強をするのに向いていますよ。エビデンスに飲まれず、どうそれを利用していかにより良いクリニシャンになったるか?というところ、ちょっと一緒に考察してみましょう。



Lelli Testについてまとめたのはもう2年も前なんですね!このときに「いずれ文献でも見かけることがあるかもしれません」と書いてシメましたが、その文献が出てきたのでここにまとめておきます。
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今回reviewしたいのはこのビデオ公開から数ヵ月後、Dr. Lelli自身が2014年12月に発表した論文です。1 彼は以前自らの名前を取ってLelli Testと呼んでいたこのテストを、この論文では『Lever Sign Test』(つまり、テコの原理を使ったテスト)という風にさらりと改名して(たぶん欧米診断界のトレンドが、診断テストに個人名をなるべく使うなという風になっていることがあるかと)、その上でこのテストが部分断裂・完全断裂に関係なくACL損傷を発見するのに有効なテストである、と冒頭で述べています。
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せっかくなのでDr. Lelliによるこのテストの描写をこの論文から抜粋しておさらいしてみますね。以前、ビデオでしていた説明と少し異なる部分もあるので。

1. 患者を仰向けに寝かせ、膝を最大伸展させる。
2. 試験者は患者の下腿近位1/3に握ったこぶしを入れ、膝が少し屈曲するようにする。
3. もう片方の手で、大腿四頭筋の遠位1/3を軽く下に押す(apply moderate downward force)。
4. これをすることで、拳を支点にテコの原理が働き、重力に逆らって踵がテーブルから浮くはず(=陰性)であるが、テコが働かず重力が勝って踵が浮かなかった場合、これを陽性とする。これは、前十字靭帯がもはや大腿と下腿に力を伝える機能を果たせていないためである。

近位と遠位の1/3という描写は以前はなかったのではと思いますね。で、Dr. Lelliはさらに「(LachmanやAnterior Drawerなどと比較して)突然不意の力をかけることがない分、患者の痛みやguardingの軽減につながるのでは」とも書いています。ふむふむ。

で、肝心の実験なんですが、これはProspective designを採用して、400人(女=119, 男=281, 平均年齢= 26.4∓14.9歳)のMRIによってACL損傷が確認された患者を対象に行っています。被験者の数が多いのは評価されるべきところかと思います。

で、400人の患者は、それぞれの条件(MRIの結果と受傷からの期間)によって4つのグループ(↓)にカテゴリー分けされているわけです。というか、順番でいうと逆ですね、これらのグループにそれぞれ100人該当患者が現れるまで研究を続けた、という表現のほうが正しいですね。ちなみにこの100人という人数は、実験前のPower analysisで『各グループに最低97人いれば有意なデータが取れる』という結果が出たからです。Power analysisしている点もポイント高いです。注意深くこの研究をデザインしようとしている感じは見て取れます。

  Group A: 急性 完全断裂
  Group B: 慢性 完全断裂
  Group C: 急性 部分断裂
  Group D: 慢性 部分断裂

ちなみに、急性とは受傷20日以内、慢性は20日以上を指すそうです。そんでもって、半月板や関節面軟骨、他の靭帯の損傷なども伴っている患者はここでは対象外になっています。あとは、以前に同側膝に再建手術を受けたことがある患者も除外されてます。

で、グループ分けをした後に、一人の試験者が4つのSpecial Test (Lachman Test; Anterior Drawer Test; Pivot Shift Test; Lever Sign Test)を用いて、患側の膝が陽性か陰性か検査、で、結果を記録。加えて、健側 (コントロール代わり)にも同様にLever Sign Testを使ってデータ集計したそうですよ。論文には、この唯一の試験者はMRIの結果を知らないまま ("blinded to the MRI findings")これらのテストを行ったと表記されています。これもバイアスを軽減するために有効な研究デザインのちょっとしたテクニックです。評価できます。
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で、陽性が出た患者の割合を表した結果は上の通り。これを全て合わせると、
Lachman: Sensitivity 62%
Anterior Drawer: Sensitivity 72%
Pivot Shift: Sensitivity 47%
Lever Sign Test: Sensitivity 100% (95% CI 99.08-100%), Specificity 100% (95% CI 99.08-100%), +LR 無限大, -LR 0)
…というですね、Lever Sign Test無敵じゃん!みたいな結果になっています(っつーか、なんでこの記事で95%CI求めてないんだ。私が計算してしまったやんけ)。おおっ、それじゃあ、このテストはそんなに完璧なの?部分断裂 vs 完全断裂、急性 vs 慢性問わず、前十字靭帯損傷をこれほどまでに正確に感知できるの?

ここが論文を読み解く上で怖いところです。実際、この論文の結論には「一般には診断が難しいと言われる急性ACL損傷をここまで正確に診断できるなんてこれは他のどれより優れた素晴らしいテストだ」と書かれていたりします。それを「ほえー」と鵜呑みにするのは、私の考えるEvidence-Based Practiceとは異なります。ではここで、私が思うこの研究の穴をできる限り挙げていきたいと思います。

1) 比較対象となっている試験がMRI
MRIは前十字靭帯損傷診断にかなり有効ではありますが、ゴールドスタンダードとは言えません (内視鏡がそうですよね)。故に、MRIを「基準」としているところは完璧とは言えない、と。…まぁ、ここは私はそんなに大きな穴だとは思っていませんけれど。まあ、小指くらいの穴ですかね。

2) 他の損傷(半月板、内側側副靭帯etc)もあった場合の診断的価値は不明
これは再建手術済みの患者も然り。こういう患者はこの研究では「対象外」になってますからね。なので、あくまでこの結果はisolated ACL injury onlyの有効性であると認識しなければダメ、ということになります。これは、実用性というところからいくと、そうですね、片手分くらいの穴にはなるかな。だってコンタクトでACL損傷すると、かなりの確率で他の組織も損傷するでしょ?「他の組織の損傷が除外できていない」段階でのLever Sign Testの結果の解釈は我々はどうしていいかわからない、ということになるもの。現実味がなぁ。

3) 被験者に対するバイアス
この研究で調査対象になったのは、あくまで『膝の怪我で医療機関を受診した患者』のみです。逆に言うと、『膝がなんか違和感があるけど、医療機関にかかるほどじゃないかな?』という、極稀にいるACL断裂したのにも関わらず異様に自覚症状のない患者にも同様に有効かというとそこまでは分かりません。『医療機関にかかろうと思うほどしっかりとした自覚症状のある患者である』というのが、この研究では隠れたinclusion criteriaになってしまっているわけです。どんな自覚症状でも、とにかく怪我をした選手を診るようなATからすると、ちょっとpatient populationに微妙にズレが生じてきます。これは、片足くらいの穴かなと思います。

4) 『唯一の試験者』が誰か、どれだけの経験を積んだ人間なのか明記がない
これは非常に大きな懸念材料です。普通こういうのは誰がやったかわかるようにPrimary investigatorのSAが…とか、イニシャルくらいは記載したりとか、「整形外科診断歴20年のベテラン医師が…」とか、多少説明があるものですが、この論文ではそれが全く明記されていません。この一文を加えるのはそんなに労力がかかることではないのに、何故?変な思いを巡らせざるを得ません。
例えばですよ、この人がLever Sign Testだけアホみたいに上手に一貫性を持ってapplyできるような技術があって、他のテストがてんでヘタクソだったとしたらそれは公平に4つのテストを行っていると言えませんよね?Lever Sign Testは比較的シンプルに見えるテストとは言え、拳の位置如何で結果がかなり変わってくるのでは、とか、拳の大きさもひとつの要因になるのでは、とか、そういうことはまだ一切どんな論文でも議論されていないのです。Intra- やInter-rater reliabilityが確立されていないテストでこの制限は怖いです。私が行うLever Sign Testが、この研究者が行ったLever Sign Testと同じかどうかの保証がまだ無いのです。

5) Blindingは意味があったのか?
MRIの詳細結果(完全か部分断裂か)を知らないとはいえ、被験者の全員が前十字靭帯を損傷しているのは分かり切った事実。試験者が、どんな患者が来てもLever Sign Testのみ「ようせーです」と言ってしまうことは簡単にできるのでは?健側に対するテストもまた然りです。健側と分かった状態でテストしているのだから、純粋な結果とは言えません。「いんせーでしたー」と言っちゃえばいいんですから。せっかく文章中で強調されていたblindingですが、私はこれはあってないものと一緒、と解釈しています。

6) 4つのテスト、どのような順番で行ったのかの詳細が不明
これもね、ちょっと上に繋がるんですよ。例えば、Lachman→Anterior Drawer→Pivot Shift→Lever Sign Testの順番でテストをしたとして、LachmanやAnterior Drawer、Pivot Shiftの一つでも派手に陽性が出たとしたら、そのあとのLever Sign Testが「あれ、なんか陰性っぽい?…でも、他のも陽性だったし…これも陽性って言っちゃえ!」という心理的バイアスが作用してくる可能性は否定できません。先に使ったテストの結果が、後に使うテストの結果に影響を与える可能性があるわけです。

7) なぜ他の3つのテストも健側に行わなかったのか
健側にもLever Sign Testをやって、「コントロールとして試しましたー」と言っていますが、これも上と同様です。もともとACL損傷が起きていないと分かっている膝をテストして、「ようせいー!」というおバカさんが、果たしているでしょうか。コントロールとして機能は十分にしていないと思います。他の3つのテストを何故同様に健側に行わなかったのか、という疑問もあります。4つのテストを比較するというなら、 これも同様に実施すべきでした。

8) 部分断裂と完全断裂を区別せずに、まとめて陽性というのは…
急性に対する診断力があるのは評価できるところかもしれないし、素晴らしい。でも部分断裂か完全断裂を区別することなく「陽性」とまとめることに価値は果たしてあるのか。例えば、LachmanやAnterior Drawerはそのtranslationの程度とか、end-feelからGrade I, II, IIIの区別がある程度は可能ですよね。対して、Lever Sign Testは踵が浮くか浮かないか、陽性か陰性かの選択肢がなく、この研究結果を鵜呑みにするとしても、「部分断裂と完全断裂の区別は全くつかない」というテストになります。私が現場の人間だったらreferする基準にLever Sign Test陽性を使うのはいいかもしれないけど、不安になる患者を安心させるためにも、もうちょっと損傷の程度に関する情報がほしいところです。

…というわけで、全てまとめて、皆さん改めてこのLever Sign Testをどう思いますか?個人的にはこの研究には大きな穴がぼっこぼこ開いており、「うさんくさっ!」という感想が率直なところです。Sensitivity 100% Specificity 100%というのは恐らく正確な数字ではないでしょう。
では、Lever Sign Testは現場で使うべきではない?それも違うと思います。Lever Sign Testが、他のテストに比べて技術力を要しない(Lachmanとか、初心者には難しいです。あと、太腿のでっかい体の大きな選手とか)、痛みやGuardingを起こさせるような大きな負担を患者にかけにくい、というのは事実ですし、このテストを行うのに必要な可動域も最小限で済む。例えばこんなシナリオはどうですか?1) 受傷直後、患者が痛みで膝を20-30°程度しか屈曲できない、そして2) 患者がアメフトのラインマンで、太腿が貴方の手と比べてかなり大きい。足を掴んで効果的に動かすことはできないかも…。この場合、Anterior DrawerやPivot Shiftは使えませんし、Lachmanを試してみるのはいいですが、陰性をどこまで信用すべきか怪しいですよね。こういう環境下では、Lever Sign Testしかまともに使えない場合もありますし、思いがけず力を発揮してくれるかもしれません。

エビデンスに基づく医療とは、エビデンスを鵜呑みにするわけでもなければ、エビデンスがないものを完全否定するわけでもない。エビデンスと現場での実用性、そして患者の状態や気持ちを加味して、その状況状況でベストな医療を提供するような判断ができることを言います。こういう一見「ダメダメ」な論文でも、掘り下げてみると面白いし、Lever Sign Testの隠れた現場力も見えてきたりするでしょ?

され、前述したように、私のEBP講習ではこういう論文や統計の解釈を現場レベルで掘り下げて、参加者さんとわいわい討論することが一番の目標です。頭でっかちにならず、エビデンスの使い手となって皆さんが帰ってくだされば幸いです。初心者で苦手意識のほうがまだまだ強いという方にこそ学びやすい講義をと思って作ったものです。お気軽に参加くださいませ。



さて、Lever Sign Testについてですが、実はもうひとつ紹介したい論文があります…が、長くなってしまったので今日はここまで!近々その2を更新します!

1. Lelli A, Di Turi RP, Spenciner DB, Dòmini M. The "Lever Sign": a new clinical test for the diagnosis of anterior cruciate ligament rupture. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2014. DOI:10.1007/s00167-014-3490-7
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  by supersy | 2016-03-16 23:00 | Athletic Training | Comments(2)

大腿に新しい筋肉が見つかった?Tensor of Vastus Intermedialis。

膝に新しい靭帯が発見された!なんてここで書いたのはもう2年半くらい前ですね。
今度はどうやら、大腿に新しい筋肉が発見された1っていうんですよ。そんなことってあります?
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振り返るまでもないかも知れませんが、元々大腿前面は大腿四頭筋というその名の通り、4つの筋肉によって構成されていると教えられてきました。Rectus Femoris (RF: 大腿直筋), Vastus Medialis (VM: 内側広筋), Vastus Lateralis (VL: 外側広筋)にVastus Intermedialis (VI: 中間広筋)…。しかしなんと今回、外側広筋と中間広筋の間に新しいthe Tensor of the Vastus Intermedialis (Tensor VI: 中間広張筋?)という名前の筋肉が発見されたというのです。場所で言うと、下の青い円のあたりなんだそうな(↓)。
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歴史を辿ってみると、1986年2 と1990年3 にそれぞれ一度同じ研究グループから、「なんだか3割位のヒトに、VLとVIの間に小さな筋繊維と薄い板状の腱みたいなものがあるっすよ?」と報告がされていたのですが、「こういう変わった大腿直筋・外側広筋のヒトもいるのかな?」程度の認識で埋もれてしまった様子。あまり手術で開ける部位でもないので、医師らがここをまじまじと観察する機会も決して多くなかったのでしょうね。今回の論文では、1 新しく見つかったこのTensor VIという筋肉は、「遠位の腱膜が酷似していることから、外側広筋ではなく中間広筋から派生したものと考える」ということになっています。

この論文自体は「解剖報告論文」みたいなことになっています(そんなカテゴリーあるのか)。著者らは16(男性9体、女性7体、下肢計26本)の献体を解剖し、その全て(100%)にTensor VIが見つかったと報告しています。この筋肉には他の大腿四頭筋とは区別される独立した神経支配(femoral nerve)が確認されたとのこと。26本の下肢のうち22本(約85%)でTensor VIの近位筋繊維部分が他の筋肉とハッキリ区別できる状態で、残り4本では完全には引き剥がせない状態で発見されたように、多少のvariationはあるみたい。遠位も、Tensor VIとVIの腱膜(aponeurosis)が混ざって走っている場合と(VI-type 23%)、VLと混ざる場合と(VL-type 19%)、完全に独立している場合と(Independent type 42%)とか、色々あるようで…。個人差はもちろん、一人のヒトでも右と左で違う場合もあるようです。層構造の観点からすると、順番はどうやらいつもVL, Tensor VI, VI(表面⇔深部)という並びのようなんですけどもね。論文には様々な写真が掲載されていますが、一番全体像が見やすいのはこれ(↓)ですかね。写真右から1→2→3と追っていくとTensor VIの全貌が見えてきます。ふむー。
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機能としては、かなり外側から膝蓋骨に切り込んでくる感じになるので、1) VMに対抗する、非常に重要なpatellar motion controlの役割が多いではないのか、ということと、2) この筋肉の緊張がVIの腱膜の緊張に直結していることから、VIの収縮を助ける役割があるのでは、と考察しています。ちょっと本文の、"medialize the action of VI (p.262)"という表現は私の中でしっくりこないのだけど…どういうことだろ?lateralizeじゃなくて?

まとめると、
Prox Insertion: Greater trochanter, gluteus minimus, lateral lip of linea aspera
Distal Insertion: Medial aspect of base of patella
Innervation: Femoral n.
Vascular Supply: Lateral Circumflex Femoral a.
Action: Knee extension (tibial external rotation in OKC/femoral internal rotation in CKC)
…ということになるのではないかと、ちょっと個人的な推測も含めて思います。改めて、「この筋肉は大腿四頭筋群の仲間でありながら、他の筋肉とは区別されるべき、独立した筋肉である」というのがこの論文の大きな結論です。…というか、これを認めるならもはや「大腿四頭筋」という名前すら正しくなくなるので、なんだろ、Quinqueceps (大腿五頭筋)?とか呼ばなきゃいけなくなっちゃう?
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自分でイメージしてみたくてこんな絵を描いてみたんですが、正確かどうか責任は取れません。参考程度に見てください。小殿筋とつながってる…というのだから、こんな感じかなーと。なんだか、アレですね、小さいbellyに長い腱膜…Plantarisに似てる?これからこの筋肉のMMTがあるとしたらどんなかしら、とか、この筋肉の過活動や抑制が人体にどう影響を与えるのか、とか、色々考えてみたいと思います!解剖って、まだまだワカラナイことばっかりですね。人体って不思議…。

1. Grob K, Ackland T, Kuster MS, Manestar M, Filgueira L. A newly discovered muscle: The tensor of the vastus intermedius. Clin Anat. 2016;29(2):256-263. doi: 10.1002/ca.22680.
2. Golland JA, Mahon M, Willan PL. Anatomical variations in human quadriceps femoris muscles. J Anat. 1986:263-264.
3. Willan PL, Mahon M, Golland JA. Morphological variations of the human vastus lateralis muscle. J Anat. 1990;168:235-239.

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  by supersy | 2016-03-06 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

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