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アメリカ大学スポーツにおける脳震盪の受傷頻度と傾向。

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脳震盪の話題が前回の論文で上がっていたので、最新(今月発表)の脳震盪Epidemiologyの論文1も読んでみることにしました。

こちらの論文(↑)は、2009年から2014年までの5年間に起きたスポーツ脳震盪の症例数を集計・分析したもの。25のスポーツ全てのデータを合せて、5年間で1670件の脳震盪が起こり、その割合は怪我全体の6.2%を占めていました。全体的には増加していると断言はできなかったものの、アメフト、女子アイスホッケー、男子ラクロスなどの特定のスポーツを筆頭に、他のスポーツでも統計的有意にかなり近づくような増加傾向は確認されたそう。これは、昨日紹介したDick et alの報告2 を裏付けるものですね。
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●練習 vs 試合
イベント別に分けると、試合中が888件(53.2%)と練習中が782件(46.8%)。もちろん試合と練習の絶対数が違うので、それを考慮に入れて分析すると試合中のリスクは練習中の4.99倍 (95%CI 4.53-5.49) という、Dick et al2が男子バスケットボールについて分析して出した練習→試合のリスク増加 (RR = 2.7, 95%CI 2.6-2.8) のおよそ倍という結果に。Exposure毎の分析を見てみても、Dick et al2のまとめた男子バスケに特化した0.12/0.32 per 1000 AEs (練習/試合)と数字と比べて今回の25種目合計はは0.26/1.28 per 1000 AEsと、かなり高くなっていますね。

●スポーツ別のリスク
絶対数を比較すると、最も脳震盪数が多かったトップ3のスポーツは:
  1. Men's Football (36.1%)
  2. Men's Ice Hockey (13.4%)
  3. Women's Soccer (8.1%)
という結果ですが、アメフトは選手数も大学規模だとひとチーム100人くらいいますし、それほど驚く数字でもないかも知れません。少し意外に感じるのは、ひと選手あたりの受傷率に換算して同じデータを見てみると、一番リスクが高いのはMen's Wrestlingという結果です。練習受傷率、試合受傷率、それから合計受傷率を順に比較してみると(単位は全てper 1000 AEs、つまり一人の選手が1000回練習、試合、又は両方に参加して、脳震盪を受傷する確率は…?ということ)、

  Men's Wresting  0.568 (0.392-0.744) 5.546 (3.943-7.148) 1.092 (8.62-13.23)
  Men's Football   0.420 (0.375-0.464) 3.007 (2.643-3.371) 0.671 (0.617-0.724)
  Men's Basketball  0.342 (0.254-0.431) 0.560 (0.345-0.775) 0.389 (0.306-0.472)

  Women's Soccer  0.214 (0.143-0.285) 1.938 (1.560-2.316) 0.631 (0.525-0.737)
  Women's Basketball 0.443 (0.336-0.550) 1.092 (0.789-1.395) 0.595 (0.487-0.704)
  Women's Volleyball 0.269 (0.173-0.365) 0.575 (0.354-0.796) 0.375 (0.264-0.451)


別にこれはトップ3じゃないです。私の好みで並べてみただけ。25のスポーツ全てのデータが見たい方は是非元記事にアクセスしてみてください。でもこういうデータ眺めてると色々面白いですよね。単純なリスク率でいうと、男子バスケの脳震盪率は例えば女子バレーと全然変わらないじゃん!とか、男子と女子バスケの比較すると、女子バスケのほうがリスクが格段 (約2倍) に高いじゃん!とか、試合中のレスリングはホントにやばくない?とか、色々なことが見えてきます。
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●脳震盪の再受傷率
この論文には「脳震盪全体の9.0%が再受傷(recurrent)であった」というもの興味深い一文も含まれています。つまり、起こる脳震盪の11件に一件は再受傷である、と。これをスポーツ別に、脳震盪の再受傷率男女別トップ3を見てみると、
  男子
 Men's Ice Hockey 20.02%
 Men's Basketball 13.1%
 Men's Wrestling 8.1%

  女子
 Women's Field Hockey 13.3%
 Women's Soccer 12.5%
 Women's Basketball 10.3%

ふーむ、面白いんですけどこれはどう解釈すればいいのか…。もうちょっと色々な研究を重ねてみて、「初回脳震盪を起こしやすいスポーツ」と、「脳震盪受賞歴がある人が、とくに再受傷しやすいスポーツ」とか見てみたいですね。そこから生まれる予防法なんかもあるかも。
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●まとめ
…で、やっぱり思うのが、女性のほうが男性と同じスポーツをやっていても脳震盪を起こしやすい、というのはもうずっと前から言われていて、この研究でもはっきりとそれをサポートする結果がでています。女性のほうが競技中の首の振れ具合が大きいとか、サッカーで頭とボールのサイズの率が男性よりも高いからだとか、女性のほうが素直に脳震盪の症状をきちんと医療従事者に報告する傾向にあるからだ、とか色々言われていますが、詳しいことはまだまだ分かりません。恐らくは複数の要素が複雑に絡みあって起きている現象かとは思いますけれど。

ちなみにコレと対になるもうひとつの論文3の結果もさらりとまとめると、脳震盪を受傷した患者は、
1. 平均5.29 ± 2.94個の症状を訴える
2. 中でも多いのは頭痛 (92.2%) と目眩 (68.9%) という訴え
3. そのうち、半数以上 (60.1%) の患者の症状は一週間以内に完全に消えるが、
 少数 (6.2%) の患者は4週間たっても症状が続いたままであった
4. 脳震盪の回復の早さに男女差は見られなかったが、
 男性の脳震盪患者は記憶障害や精神錯乱などの症状の訴えが多かったのに比べ、
 女性は頭痛、倦怠感、吐き気を訴えることのほうが多かった。
5. 再受傷患者のほうが、初受傷患者に比べて、1) より訴える症状の数が多く (5.99±3.43
 vs5.22±2.88, p = .01), 2) その症状が消えるまでに長い時間がかかる可能性が高く
 (14.6% vs 5.4%, p < .001)、 3) 競技復帰までにかかる時間も長かった
 (21.2% vs 7.7%, p < .001) そうな。つまり、再受傷の患者のほうが総じて
 重度が高い
、と。

ここらへんは、私の今までの知識に反するものではないので驚きはありませんが、これから脳震盪関係の論文を書いたりプレゼンをまとめたりする上で、必要不可欠な情報のソースになりそうですね、これらの研究たち!

1. Zuckerman SL, Kerr ZY, Yengo-Kahn A, Wasserman E, Covassin T, Solomon GS. Epidemiology of Sports-Related Concussion in NCAA Athletes From 2009-2010 to 2013-2014: Incidence, Recurrence, and Mechanisms. Am J Sports Med. 2015;43(11):2654-62. doi: 10.1177/0363546515599634.
2. Dick R, Hertel J, Agel J, Grossman J, Marshall SW. Descriptive epidemiology of collegiate men's basketball injuries: National Collegiate Athletic Association Injury Surveillance System, 1988-1989 through 2003-2004. J Athl Train. 2007;42(2):194-201.
3. Wasserman EB, Kerr ZY, Zuckerman SL, Covassin T. Epidemiology of Sports-Related Concussions in National Collegiate Athletic Association Athletes From 2009-2010 to 2013-2014: Symptom Prevalence, Symptom Resolution Time, and Return-to-Play Time. Am J Sports Med. 2015. pii: 0363546515610537.

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  by supersy | 2015-11-30 22:45 | Athletic Training | Comments(0)

アメリカ大学男子バスケットボールにおける怪我の現状と傾向。

再掲になりますが、EBP講習のお申し込みを引き続き受付中です!
以前帰国時に大先輩にあたる日本人ATCの方から、「Evidence-Basedって、どうなの?」と否定的トーン・怪訝な顔で聞かれた時に、まだまだ日本には「エビデンスに基づいた医療 (EBP)」に対して正しい理解が充分に広まっていないのかな、と思ったんですよね。エビデンスに基づく医療は、正しく理解・実践さえできれば臨機応変でウキウキわくわく楽しいもので、全ての臨床家の医療の価値を一段階も二段階も引き上げてくれるものだと私は信じています。英語論文を読んだり解釈したりすることに苦手意識がある方やこれから世に出る学生さんにこそ是非来てもらいたいと思って、今回の講習を作りました。興味のある方は下記のリンクから詳細を御覧ください。お申し込みに関して不明な点がある場合は主催の高橋忠良(tdtakahashi@guardiansatt.com 090-6487-5970)までお願い致します。

12月16日(水) 18:30-21:30pm Evidence-Based Practice 診断編 東京・立川
12月17日(木) 18:30-21:30pm Evidence-Based Practice 治療介入編 東京・立川

12月23日(水) 9:30am-12:30pm Evidence-Based Practice 診断編 大阪
        14:00-17:00pm Evidence-Based Practice 治療介入編 大阪

ちなみに受講料は診断編が8000円、治療介入が9000円です。どちらの講習もBOC EBPカテゴリーで各3.0 CEUs認定されています。ふたつ併せて6.0 EBP CEUs。両方も、どちらかだけでも受講可能です。夏には対象制限を儲けましたが、今回はそれをとっぱらって、年齢経験資格関係なく、どなたでも大歓迎しております。



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さて、決してめちゃめちゃ新しい論文1ってわけではないのですが、読む機会があって面白かったのでまとめておきます。アメリカ大学スポーツ界(NCAA)は様々なスポーツの規模が年々拡大しており、男子バスケはその中でももちろん花形と呼ばれる地位にあります。チーム・選手数も1988年の全米768チーム、12203人から、2004年には997チーム、16028人と3割も上昇。こうなると、この16年間(1988年→2004年)の間でスポーツ中にどんな怪我が起こってきたのか、どういう変化や傾向があるのか気になる所ですよね。
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●練習と試合の受傷率
まず特筆すべきは、練習中の受傷率と比べて、試合中のそれは2.3倍 (98%CI: 2.2-2.4)に跳ね上がるというところでしょうか。
詳しい統計は、"4.3 vs 9.9 injuries per 1000 athlete-exposures (AEs)."
分かりやすく言い換えると、一回の練習で一人の選手が怪我をする可能性が0.43%であるのに比べ、一回の試合で怪我をする確率は0.99%、ということですね。で、一年間を通して選手は平均94の練習と28の試合をこなすというデータ(NCAA D-I)がありますから、これらのデータを併せると、選手がひとり一年間プレーを続けて、練習中にひとつ怪我をする可能性が約40%同様に、年間を通じて試合中にひとつ怪我をする可能性は約28%ということになります。練習と試合の両方を合わせて、ひとつも怪我をしない可能性は3人に一人。なかなか幸運でないといけませんね。Athletic trainer(AT)の観点から、1チーム16人ほどいると考えると一年間でそのうち約11人は怪我をする、と考えるとやはりなかなか大変です。
何故か?を考察するのもまた面白いですよね。最初は「練習中は指導している時間も長いから、運動量で言うとそれほどでもないとか?」と思ったけれど、それを言ったら試合中もクロックは頻繁に止まるので、どっこいどっこいなのではないかなという気もするのです。試合は練習に比べて参加人数が限られているのにそれでも受傷率が高いということは、それだけ試合中には激しく、予測しづらい流動的な運動が求められるということなのかなと。

●ディビジョン別、時期別の受傷率
もっと詳しく見ていくと、NCAA Division I = 10.8, II = 9.9, III = 9.0 injuries per 1000 AEsという、緩やかな競技レベル別の受傷率の傾向も確認できます。ディビジョンがより高いほうが、薄っすらと受傷率も上がるというわけです。
もっと面白い発見は、Pre-season、In-season、Post-seasonの比較ですかね。受傷率はPre-season = 7.5, In-season = 2.8, Post-season = 1.5 per 1000 AEsで、Pre-seasonはIn-seasonの2.7倍 (95% CI: 2.6-2.8)、In-seasonはPost-seasonの1.9倍 (95% CI: 1.5-2.3)、怪我をする確率が高いということが言えます(それぞれp < 0.1)。
これも個人的な考察ですけど、Pre-seasonは選手の身体が出来ていない、あとは、体力付け・根性付けのきっつい追い込み系メニューが多い、というのがあるのかなーなんて。こちらが目を覆いたくなる程酷い"Punishment practice"みたいなのもこの時期が一番多いと経験から感じます。In-seasonになるにつれ徐々に練習の時間も質も変化して、2時間半から1時間半ほどに、そして、技術と戦術の確認が比重を占めてくるという印象です。

●部位別の受傷率と怪我のメカニズム
試合中、練習中に起こりやすい怪我のトップ5は以下の通り。
   試合             練習
 足首の捻挫 26.2%      足首の捻挫 26.8%
 膝関節内の損傷 7.4%    膝関節内の損傷 6.2%
 腿打撲 3.9%        股関節筋・腱損傷 4.4%
 脳震盪 3.6%        膝蓋骨・膝蓋靭帯損傷 3.7%
 膝蓋骨・膝蓋靭帯損傷 2.4%  腰筋・腱損傷 3.6%

足首の捻挫が断トツですねー。怪我の約半数(練習中 43.6%; 試合中 52.3%)が他プレイヤーとの接触によるものでした。部位で言うとやはり、全体で見ても練習・試合に関わらず下肢の怪我が約60%と多いです。脳震盪の受傷率は、練習中に比べて試合中のほうが約3倍も高い (0.12 vs 0.32 per 1000 AEs, RR = 2.7, 95%CI 2.6-2.8)というのも興味深い。この統計を取った16年間で、頭部・顔の怪我が毎年平均6.2%のペースで増え続けているというデータも出てきました。フィジカルなプレーが増えているのと、脳震盪そのものの診断基準がアメリカで確立されつつあるのとの相乗効果でしょうか。選手も細くてひょろりよりもがっしり重く強いタイプが好まれるようになってきていますし。
練習期間が長くなったり、許される練習回数も増えているから下肢の慢性的な怪我も増加傾向にあるのかな?と思ったら、こちらはそうでもないんですね。統計的に優位でない、緩やかな下降傾向が認められました。これは、コーチの技術指導の向上、それから、日常的にATが現場にいて健康管理、指導をしている賜物なのかもしれません。

●他リーグとの比較
練習中の受傷率はカナダの大学男子バスケリーグのもの2と比較しても酷似しているのですが(4.3 vs 4.5 injuries per 1000 AEs)、面白いのは試合での受傷率の違いです。カナダ大学2、アメリカ大学1、NBA3,4を比較すると、6.0 vs 9.9 vs 19.3-21.4 per 1000 AEsという、それぞれ統計的にも臨床的にも有意な差が見て取れます。
つーか、NBAの怪我、多…。
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さて、まとめてみると、
ATも、もちろん練習の日は気を抜いていいというわけでは決してありませんが、試合の日はいつもの2倍気を引き締めて臨むべき、ということが言えますよね。実際の競技者は少ないのに全員の受傷率が2倍にあがるのですから、中でもプレータイムの多い選手が怪我をする可能性は3-5倍とか、もっとあると心しておくべきでしょう。あとは、足首の捻挫が非常に多いことから、再発予防のリハビリプログラム、テーピング・サポーターがこれから確立されるべきであるということ、あとは頭部・顔損傷をこれからどう防いでいくかというところですね。膨大なデータですけど、こうしてまとめてみると面白いです。この研究に含まれているチーム数・選手数がめちゃめちゃ多いため、95%CIの幅が一貫してかなり狭いのもこの研究の長所と言えます。

ここ数年で男女バスケ共に夏にもがっつり練習するようになりましたし、これによってまだ怪我の内訳や受療率がどのように変わっていっているのか是非学んでみたいです。こういった研究は頻繁に発表されるものではないので、次の発表を待つことにします!

1. Dick R, Hertel J, Agel J, Grossman J, Marshall SW. Descriptive epidemiology of collegiate men's basketball injuries: National Collegiate Athletic Association Injury Surveillance System, 1988-1989 through 2003-2004. J Athl Train. 2007;42(2):194-201.
2. Meeuwisse WH, Sellmer R, Hagel BE. Rates and risks of injury during intercollegiate basketball. Am J Sports Med. 2003;31:379–385.
3. Starkey C. Injuries and illnesses in the national basketball association: a 10-year perspective. J Athl Train. 2000;35:161–167.
4. Deitch JR, Starkey C, Walters SL, Moseley JB. Injury risk in professional basketball players: a comparison of women's national basketball association and national basketball association athletes. Am J Sports Med. 2006;34:1077–1083.

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  by supersy | 2015-11-29 16:00 | Athletic Training | Comments(0)

オンラインで受ける医療系質問について思うこと。

こういうことを書くと叩かれそうですけど、思ったことを徒然と書いてみます。
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このブログやSNSなどでたまに面識の無い方から、「こういう怪我があるのだけどどうしたら」「医者にこう言われたけど納得出来ない、どう思うか」などのメッセージを頂くのですが、私の返答はいつも「すみません、ここではお答えできません。適切な医療機関を受診し、医療従事者さんに聞いてみてください」です。

別に面倒くさいとかかったるいからそう答えるわけではなくて、これには大きな理由が2つあるのです。

ひとつは、プロとしての責任です。私が怪我をした選手と話すとき、一言一言選びながら、今、選手の身体で何が起きているのか、治療にはどんな選択肢があるのか、プレーを続ける場合どういうことを気をつけなければいけないか、自分の出来る限り精一杯説明します。選手の表情を見て、性格を考慮に入れながら、不安に思っていないか、不満はないか、分からないことや説明不足なところはないか、何度も確認します。選手にもいっぱい話してもらって、選手の人生で今何が起こっていて、何を大切に思っていて…そういうものに対する理解も深めながら、一緒に最良の選択肢を模索し、決定します。そうして決めた選択肢の責任は全て自分で負うつもりですし、上手く行かなかった時は自分の職や医療ライセンスを失う覚悟もあります。(実際、うちのコーチに「この選手はリハビリを実によくやっています。改善が見られない原因は全て私の力不足です。今日からは治療方針を切り替えて、こういう風に攻めてみたいと思っています」と正直にお話をしたこともあります)

オンラインのやりとりでは、どうしてもこうした顔を合わせたやりとりができません。患者さんの生活や気持ちが見えてきません。共有していただいた情報の中から、あーそれはこうかもね、と一見『答え』に見えるようなものがあったとしてもそれに私は100%の確信を持てませんし、そんな適当なアドバイスだけを投げ返すのも不本意です(極端な例ですけど「リンゴ食べたいです」という人に「じゃあ食べればいいんじゃないですかね」と言って、リンゴを食べたその人が実はリンゴアレルギーで死んでしまうようなことがあったら…?)。それでも質問をしている方からしたら「深く考えないでとにかく知っていることを教えてよ」と思うのかも知れませんが、私は私の言うことやることひとつひとつ「プロによる医療行為」として捉えられる立場にある故、ありとあらゆる可能性を考えるクセがついてしまっていて、無責任なこと、中途半端なことはどうしても言えないのです。貴方のことを既に診た医療従事者さんの発言を否定しかねないことなら、尚更です。

もうひとつは、医療行為が無料サービスであってはいけないという私の個人的な信条です。例えば、私は車についての知識が一切ないので、愛車のメンテナンスは多少高くてもきちんとしたディーラーさんのところでお願いしています。サービスも格別ですし、部品を交換する場合にも正規のパーツが揃ってますし、私の車も長く面倒見てもらっているので「ここは前回やったのでまだいいですね」「そろそろこっちは変えておきますか?」と顔見知りの修理工さんがくれるアドバイスもありがたいです。私には車はでかい金属のカタマリにしか見えませんが、修理工さんの目にはきっと全くベツモノに見えているのでしょう。専門知識というのは実にすごいもんだなーと思うわけです。私の持ち得ない・し得ない知識や労力に「ありがとう」の気持ちを込めて客として素人の私が対価を払うのは、当然だと思っています。
非医療専門家と医療従事者の関係もこうであって欲しいと思います。患者さんが「なんとか健康を取り戻したい」と思っていて、そのための医療知識や行為に価値があると感じるなら、是非正規の医療機関にきちんとかかり、引っかかっていた質問をして、心ゆくまで説明を受け、その上で気持よくその対価を支払ってもらえればと思います。だって貴方が会うそのお医者さん(もしくは理学療法士、アスレティックトレーナー、etc)も、沢山の時間とエネルギー(…と、恐らく沢山のお金)を費やして、その専門知識を得たはずなのです。これからの医療の発展のためにも、それは端折らないでもらえたらなぁというのが私の正直な気持ちです。(特にアメリカのAT界はまだまだ業界そのものがブラックで、待遇は正直今でもひどいです。良い医療を提供している自信があるなら、我々はもっと、提供した医療サービスの対価にきちんとお金を受けとる、ということに対して上手にならなければいけません)
もちろんそれにあぐらをかいて、医療従事者側が「ビジネス」を始めてしまったらダメです。絶対にダメです。回避できる手術を無理に勧めたり、効果の無い高い薬やサプリを買わせたり…。私だって、車の修理工さんに必要のないパーツの買い替えとか強制されたら腹立ちますし、二度とそんなところには行きませんもん。プロが持てる最高のものを提供する。受け手が感謝し、対価を払う。そういう大前提が、相互信頼があってこそ、この構図は成り立つのだと思います。我々医療従事者からしたら、私たちはプロとして背筋を伸ばし、最善の医療サービスを提供できるよう、どんな患者さんにも真摯に向き合うことを心がけなけれないけませんし、患者さんは患者さんで、ロクに質問にも答えてくれない、2時間待たせて3分しか話してくれない医療従事者など価値なし!と見切りをつけて、他に信頼に足るプロを見つけるべきです。そんな理想的な医療従事者などそうそういるものか、なんて言わないで!一般の方が思うより、心から患者を良くしたいと考えている真面目な医療従事者は多いです(私の友人らは、そんな人ばっかりです)。逆に考えると、今のうちにそういう専門家に出会って良い関係を築けたら、これからの長い人生心強いと思いませんか?時間とエネルギー、それなりに費やす価値があることだと思うんです。

別に今まで質問をしてくださった方々にバツの悪い思いをしてほしいわけでも、反省してほしいわけでもないんです。特定に人に書いているつもりもありません(どちらかというと、皆さん勤勉なのだなーととても感心感動しているくらいです)。ただ、私はずーっとこういう風に考えてきたニンゲンなので、本当にここではお力になれなくてすみません、ということ、そしてこれからも、この医療界で働く他のプロを信頼して、「是非専門の医療機関を受診してみてください」と言い続けてしまうであろうこと、お許しくださいませ、と伝えたくて書きました。具体的な症例に関しては役立たずな私ですが、相変わらずコメントや批評はいつでも大歓迎です。とくに、トピックに関しての「こんな文献もあるよー」なんて、涙を流して喜びます。拙いブログですが、気とお時間の合う方はこれからもお気軽にお付き合いくださいませー。
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  by supersy | 2015-11-13 21:00 | Just Thoughts | Comments(0)

Position Statementの穴?熱中症治療についての新エビデンス。

前々回、NATAのExertional Heat Illnessに関する最新版Position Statement1について色々まとめましたが、その中でExertional Heat Stroke (EHS)患者への対応として、

- 選手が(shoulder padや幾層ものユニフォームなど)過度な服を来ていた場合、
 もちろん脱がせたほうがcoolingの効果は上がるのだが、それに時間が取られた故に
 coolingが遅れるほうが致命的なので、これは冷水の中でやること。
 5-10分毎に患者のバイタルを確認することも忘れずに。
 推奨度・B

…という項目がありました。
そうなんですよね、他のスポーツはともかく、アメフトというのはShoulder Pads(写真左)というものごっつい防具に、ポジションによってはRib Protector(写真中央)なんかも胴回りに付けて、その上からジャージを被って、ヘルメット被って、ようやく試合・練習ができるわけです。文字通り、何層にもなる重装備です。逆に言うとこういう重装備をしているからこそEHSになりやすいわけですし(アメフト選手のEHS件数は2003-2011の9年間で30件と、1993-2002の10年間の22件に比べて上昇傾向にあります2)、実際にEHSになってアメフト選手が意識混濁・消失している場合、これらを脱がせるのにも一苦労です。これに手間取っていては、適切な治療の開始が遅れかねません。
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だからこそ、NATAの最新Position Statementでは、「EHS患者がこういう服装をしている場合、まずはCold Water Immersion (CWI)治療を開始してから、冷水の中で余分な装備を外すこと」という順序の指定があったわけですが、これに異議を唱えることになりかねない、面白い論文を見つけました。簡単に紹介してみたいと思います。
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この研究3では、「本当にアメフトのフル装備を着ていると、CWIによる深部体温の低下に悪影響が出るのか?」と、我々がアタリマエと考えてしまっていた部分にメスを入れています。もうひとつ、「ユニフォームを着たままのほうが冷気を保ちやすく、治療後の体温の低下もより長く続くのでは?」という仮説も立て、こちらも検証しています。

18人の男性ボランティア被験者(平均年齢 22±3歳)を使い、検証前に尿検査で脱水していないこと(specific gravity > 1.020)を確認した上で 1) コントロール: Tシャツ、短パンに靴下, もしくは 2) フル装備: コントロールの服装に加え、Shoulder Padsにヘルメット、ゲームパンツにジャージ、そして膝、太腿、尾てい骨にもパッドを装着という出で立ちで、Environmental Chamberという特設の暑い環境を生み出す閉じられた空間で『トレッドミルで3分歩く・2分走る』を深部体温が39.5℃に達するまで交互に継続。その後、首から下まで水温約10℃の冷水に浸かってもらい、体温が38℃に下がるまでの時間を計測。更に、タブから出てもらってその後30分間の深部体温の変化も記録したそうな。

ちなみにこの研究ではCrossoverデザインを採用。全ての被験者が、最低でも3日間の間隔を開けて両方の服装での実験を行い、そのデータを集計・分析しました。

で、面白いことに、結果としては、フル装備のほうが深部体温が早く下がった(下グラフ↓)!んですよね。コントロール・グループが8.49±4.78分かかったのに対して、フル装備グループは6.19±2.02分。これは統計学的に非常に有意で、臨床的にもそこそこ有意(p = 0.03, effect size = 0.48)。2分以上の違いというのはなかなか。CWIのトリートメント修了後の体温の低下はフル装備でもコントロールでも等しく(p = 0.59)30分間低下し続け、服装による差は見られませんでした。
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結論としては…
1. フル装備状態でも、しっかりした体温低下効果が確認できた。→治療中の悪影響は無し。
2. フル装備状態で、CWI後にも極度な体温低下が見られるということはなかった。→治療後にも悪影響はない。
3. つーことは、別にアメフトの装備、外さなくてもいいんじゃない?
…ということでした。

フル装備状態のほうが体温低下が早かった原因として、
1. 深部体温が39.5℃に達した段階で、フル装備被験者の皮膚温が、コントロールのそれより高かったと仮定すると、このより大きい水温と皮膚温の差(temp gradient)が、より大きいheat lossにつながったのでは。
2. 幾層もの服があったほうが、reflexive peripheral vasoconstrctionが起こる度合いが低く、血流を制限しにくいのでは。
3. これはきっちりと計測したわけではないが、実験中、コントロール・グループの被験者には「震え」がよく観察された。震えることで筋肉を収縮させ、これが微々たる体温の上昇につながった可能性がある。フル装備の場合、皮膚のexposureが減るので、それに伴い、「震え」はほとんど確認されなかった。
…などの仮説を、この研究の著者らは上げています。ふむふむ。推測の域は出ませんが、なかなか面白い見方です。

もちろん我々はこの研究結果を総合的に考えるべきで、これだけ読むと、「じゃーEHSの治療には外すメリットないじゃん。外さんで良し」と言いたくなるかも知れませんが、他の治療や評価目的でフットボールのギアを外さなければいけないこともあるでしょう。例えば、可能性は低いとはいえ、CWI治療中に患者の心肺機能が停止した場合、患者をタブから出して直ちにCPR/AEDを始めなければいけませんし、その時になってやっと「あっ、Shoulder Padsつけっぱなしだった!今から外そう!」とやっていたのではそれはそれで問題になります。常に最悪の事態を考えなければいけないATとしては、やはり、NATAのPosition Statement通り、「EHSの診断が確立され次第、ユニフォームのままCWI治療開始。タブの中でユニフォームを外し、coolingを続ける」、そして、「患者に急変があり、心肺蘇生やAEDを始めなければいけない場合は患者を直ちにタブから出し、即座に治療可能なようにしておく」というのが今のところ一番理に適っていますかねー。

1. Casa DJ, DeMartini JK, Bergeron MF, Csillan D, Eichner ER, ...Yeargin SW. National Athletic Trainers' Association Position Statement: Exertional Heat Illnesses. J Athl Train. 2015. [Epub ahead of print]
2. Kucera KL, Klossner D, Colgate B, Cantu RC; for American Football Coaches Association, National Collegiate Athletic Association, National Federation of State High School Association, National Athletic Trainers' Association. Annual Survey of Football Injury Research: 1931-2013. Chapel Hill, NC: American Football Coaches Association, National Collegiate Athletic Association, National Federation of State High School Association, National Athletic Trainers' Association;2014:1-31.
3. Miller KC, Swartz EE, Long BC. Cold-water immersion for hyperthermic humans wearing american football uniforms. J Athl Train. 2015;50(8):792-799. doi: http://dx.doi.org/10.4085/1062-6050-50.6.01

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  by supersy | 2015-11-01 15:00 | Athletic Training | Comments(0)

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