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ACL断裂と月経周期の関連性はあるのか?完結編。

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●ACL断裂と月経周期
この関係性を学ぶのに、一番手っ取り早いのはsystematic review読むことでしょ!
…ということで、似たようなのは2006年1と2007年2にもそれぞれ発表されていますが、どうせ読むなら最新のものを。2013年に発表されたSystematic review(↑)3にまとめられているのは、1998年から2011年までに発表された論文で、Hewett et alのSystematic review2に含まれていない13の論文。これらをまとめてみるとこんな感じ。
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一番右のMSS…Modified Sackett Scoreの高い順、つまりデザインに優れた、質の高い研究順に並べてみたんですけど(満点は38点)、メインでassessしてるoutcomeがACL損傷の場合と、ACLのLaxityとで二種類あるのでご注意下さい(左から二番目、『outcome』参照)。13の研究の内5つ(青)が「月経周期のいつでも特に統計的に有意な差は見られず」という結論だったのに大して、7つ(赤)が「Ovulatory期に統計的に有意なレベルのLaxityの悪化・Injury頻度の増加が見られた」という結果に。どちらかというとこの7つのほうが(有意な差無しとした)5つに比べて研究の規模が大きめなのも気になります。
Belanger et al3は「まだまだ質の高い研究は足らず、矛盾も多い」としながらも、「大多数の研究がACLのLaxityと損傷リスクが最大になるのはOvulatory期という発見をしている。この時期の怪我には特に気をつけるべきだ」と述べています(気をつけろってのはまた、ずいぶんぼんやりした結論ですが…)。

このreviewの『Hewett et al2で使われた文献は省いて』という表現が気になったので(何故合せないで省いたんでしょう?)、Hewett et al2のほうも引っ張り出してきて、読んでみました。
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こちらのreviewでは、ACL損傷頻度と月経周期を比較、検証した7つの研究についてまとめています。下の表(↓)は私が独自にまとめ直したもので、実際Hewettらが論文に掲載している数字と少し違うのですが、それはOral Contraceptives (OC)を使用していた患者をこの表では全て省いたためです。OC、いわゆるピルを飲んでいると、ホルモンがそれによって大きく影響を受けてしまう可能性があるので。私はあくまでピルを飲んでいない、ふつーの状態の女性アスリートのACLへの影響が知りたいのです。(ちなみに一番最初のWojtys et alの研究はOCを使用している患者もしていない患者もごっちゃにした統計しか言及しておらず、28人中5人いたらしいOC患者を省くことができませんでした。…というか、この研究はBelanger et al3の方にも含まれてるんですが…どうなってるの?)
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結果はというとなかなかどうして、バラつきがあるんですよね。一番の問題はどう『月経周期』を確認するか。上のテーブルで**がついている研究は月経周期を確認するのに、尿検査や唾液、血液検査をしたのではなく、「怪我したとき生理来てました?」的な、あくまで質問形式で決定した『月経周期』なので、本当に正確な報告か分からない、recall biasなどあるかも、という信憑性のあやふやさが気になります。

ともあれこの7つの研究全てを合せてみると、
Follicular期に85件のACL損傷、Ovulatory期に55件Luteal期に77件
という数字になります。Ovulatory期が一番少ないじゃん!と思われるかも知れませんが、Follicular期は9日間、Ovulatory期が5日間、Luteal期が14日間であることを考えれば、そのまま比べるのもどうかと思うんですよね。なので、一日あたりの平均値に換算してみると、Follicular期は9.44、Ovulatory期が11.0、Luteal期が5.5と、かなり数字に変化が見られるのがわかります。Ovulatoryが決定的に高いかと言われるとそうではありませんが、Follicular + OvulatoryはLuteal期に比べて格段に高いことは分かります。

そんななので当然というか何と言うか、Hewett et al2の結論もPre-ovulatory (Follicular + Ovulatory、つまり前半14日間)のACL損傷頻度はPost-ovulatory (= Luteal、後半14日間)よりも高い、というものでした。

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もうひとつ見つけた最新のOriginal Article(↑)4では、172人のACL断裂患者(レクリエーショナル・スキーヤー)の月経周期を検証。結果としては、Follicular期の損傷が58件(33.72%)、Ovulatory期が63件(36.63%)、そしてLuteal期が51件(29.65%)。OCの使用・不使用に関わらず(これは過去の研究と食い違うところですね。OC使用に関しては、リスクが上がるという報告も)、pre-ovulatory期の損傷はpost-ovulatory期に比べて2-4倍多いと言って良い、という結論でした。
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まとめると、今のところ、Pre-ovulatory phase (follicular + ovulatory)にACL損傷のリスクはPost-ovulatory phaseの2-4倍に跳ね上がる、というのはもうconsensusに達したと言っても良いのではないでしょうか。で、もうちょっと詳しく見ると、follicularとovulatoryを比べた場合、ovulatoryのほうが多い傾向にはあるけれど、これを決定的と言うにはもっとhigh qualityの研究がまだまだ必要、という感じですかね。
ただ、これをどう現場で活かすかがなかなか難しい。Pre-ovulatory phaseは28日周期中14日間もあるわけだし、ACL損傷予防のためだけにその14日間練習を制限する(例: cuttingを減らすとか、contact drillを減らすとか?)というのはかなり非現実的。例えovulatory phaseの5日間のみ練習内容を変更するといっても、実際問題しんどいですよね。特にチームスポーツの場合、選手一人一人異なる月経周期に振り回されていては、なかなかproductiveな練習も出来ないかもしれません。どーしたもんっすかねー。

こうなってくるとそれこそOC等で怪我のリスクが減らせるのか、はたまた増えるのか…ということにもなってくるんですけど、それまで書きはじめちゃうとキリがないので今回はやめておきます。ただ、サラッと見た限りでは、OCに関しては「怪我が増える」派と「影響なし」派がいるみたいですね。「減る」派は今のところ見かけていません。

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●Neuromuscular Factorとの相乗効果も?
最後にもうひとつ…。ホルモンの変化は、直接靭帯のpropertyに影響を及ぼすだけではなく、もしかしたらNeuromuscular controlにも変化をもたらすのでは?という説もあるのです。つまり、月経周期の特定の期間、エストロゲンレベルの上昇によってACLのlaxityが上がる→それによってmuscular responseも変化、dynamic activity時のカラダの使い方にも変化が→それによって更にリスク増加?という相乗効果みたいなもんもあるんではないか、と。
この著者ら(↑)は「着地時のsagittal-plane motionの減少、そしてfrontal- and rotational-plane motionが増加することで↑ACL loading = 着地時に膝・股関節を屈曲させてチカラを吸収する代わりに、屈曲度を浅くしたまま、膝が横にブレたり股関節の回旋などの代償運動で前十字靭帯にかかる負担が上がる」とした上で、「過去の研究5では月経周期による動作変化は見られないという結果が出たが、これは、ホルモンの影響を大きく受ける人、受けない人との個人差から来ているのかもしれない」、「我々は『ホルモンの影響を受けやすい女性』としてACL損傷歴がある患者のみを対象に同様の実験を行った」…としています。これは、「一度ACLを損傷した患者は、逆膝のACLも断裂することが多い(25%という報告も)。こういった怪我を負う患者の88%は女性であることからも、ホルモンが危険因子として関わっているのか調査する必要がある」のだそうです。へぇぇ。

被験者の規模は20人(19.6 ± 1.3 y/o)と少なめですが、結果としては、ovulatory phaseの最中の被験者の着地時に、統計学的に有意な膝valgus momentの上昇(p = 0.01, Cohen d = 0.9)と股関節の内旋度(p = 0.047, Cohen d = 0.4)が見られた、そうで。この動作は前回も書きましたけどモロにACL損傷のメカニズムと一致することもあり、「仮説通り、oculatory期に代償動作によるACLへの負担が増加することが確認できた」と結論づけています。生理学的観点からだけではなく、バイオメカニクスの観点からも、ホルモンの影響によって怪我のリスクが上がることもある…みたいですね。

ホルモンの影響は直接修正できないこともありますが、
ホルモンの作用で二次的に起こるbiomechanical changesは修正可能かも知れません。
もっとコレに関しては論文読みたいですね!もちろん、ovulatory phaseのみ、超短期間で怪我予防エクササイズをやらせる、では無意味かと思うのですが、特にovulatory phaseにreminderとして繰り返すといいエクササイズとか、verbal cueとか、そういうのはいくらでも工夫できそう…。我々は神ではないので出来ることにもちろん限りはありますが、怪我の予防に日々尽力、工夫を重ねながら臨むのも大切な仕事のひとつです。

1. Zazulak BT, Paterno M, Myer GD, Romani WA, Hewett TE. The effects of the menstrual cycle on anterior knee laxity: a systematic review. Sports Med. 2006;36(10):847-862.
2. Hewett TE, Zazulak BT, Myer GD. Effects of the menstrual cycle on anterior cruciate ligament injury risk: a systematic review. Am J Sports Med. 2007;35(4):659-668.
3. Belanger L, Burt D, Callaghan J, Clifton S, Gleberzon BJ. Anterior cruciate ligament laxity related to the menstrual cycle: an updated systematic review of the literature. J Can Chiropr Assoc. 2013;57(1):76-86.
4. Lefevre N, Bohu Y, Klouche S, Lecocq J, Herman S. Anterior cruciate ligament tear during the menstrual cycle in female recreational skiers. Orthop Traumatol Surg Res. 2013;99(5):571-575. doi: 10.1016/j.otsr.2013.02.005.
5. Chaudhari AM, Lindenfeld TN, Andriacchi TP, Hewett TE, Riccobene J, Myer GD, Noyes FR. Knee and hip loading patterns at different phases in the menstrual cycle: implications for the gender difference in anterior cruciate ligament injury rates. Am J Sports Med. 2007;35(5):793-800.
6. Bell DR, Blackburn JT, Hackney AC, Marshall SW, Beutler AI, Padua DA. Jump-landing biomechanics and knee-laxity change across the menstrual cycle in women with anterior cruciate ligament reconstruction. J Athl Train. 2014;49(2):154-162. doi: 10.4085/1062-6050-49.2.01.

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  by supersy | 2015-09-19 15:30 | Athletic Training | Comments(0)

ACL断裂と月経周期の関連性はあるのか?

いきなりですけどお知らせです!
お待たせ致しました、12月のPRIマイオキネマティック・リストレーション講習の開催詳細が正式決定しました!詳細はPRI Japanのウェブサイトから。前回、あっという間に席が埋まって批判の声を多く頂きましたので、今回は事前に参加申し込み開始日を予告した上での募集、という形を取っています。日本時間の10月5日、朝の8時にPRI日本語版ウェブサイトを通じてのお申込一斉受付を開始しますので、ご希望の方はお早めに。

 12月19-20日(土・日) 東京 新宿区 人間総合科学大学鍼灸医療専門学校
 12月26-27日(土・日) 大阪 大阪市 大阪リゾート&スポーツ専門学校

多くの方々に会えるのを楽しみにしています。12月は個人でも講習会を東京・大阪でやろうかと計画中で、そちらも決まったらまたお知らせしますねー。

――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、本題です。
前十字靭帯(ACL)断裂といえば、復帰まで6ヶ月はかかる、アスリートにとっての大怪我。長いリハビリをしたにも関わらず機能が完全に回復せず引退を余儀なくされるケースや、再断裂、引いてはOAなどで日常生活にまで支障が出てしまうこともどうしてもあります。
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この怪我、一般的に男性より女性の受傷率が高く、女性の受傷頻度は男性の4-6倍と言われていますが、1,2 meta-analysis3による、もっと細かいスポーツ別の統計を見てみると、レスリング4.05倍、バスケットボール3.5倍、インドアサッカー2.77倍、アウトドアサッカー2.67倍、ラグビー1.94倍…と、いずれもなかなか高い数字です。

●何故「女子」に多いのか?
ACL断裂の危険因子はかなり研究されている分野ではありますが、「これ!というひとつの絶対的な要素があるわけではなく、様々な要素が複雑に絡みあっている」という考えが広く受け入れられており、危険因子は大きく別けて1) Anatomical、2) Neuromuscular, そして3) Hormonalなどと分類、議論されることが多いです。例えば、解剖学的なものなんかで言うと、2011年に発表されたLiterature review4 ではfemoral notch (大腿顆間窩) geometryは唯一ハッキリと「かなり確信の持てる危険因子」と結論付けられていますね。この幅が狭ければ狭いほどACL損傷の危険が上がり、加えて一般的に女性のほうが男性よりもここんとこの幅が狭い場合が多いというわけ。だから、女性のACL断裂が多いのでは、と。
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残念ながらanatomicalな危険因子はnon-modifiable(修正のしようがない)と言われることが多いですが(骨を無理矢理削ってnotchを広げるわけにもいかないですもんね)、その逆で「modifiable = 修正可能」、つまりは「これを取り除いたり、最小限に抑えられれば、怪我の予防にもつながる」と言われることの多いのが、4,5 neuromuscularに分類される危険因子。Dynamic knee valgus、もしくはvalgus knee collapseが中でも非常に代表的ですが、これらは様々な予防プログラムでもスクワットや着地の動作訓練で「これはやったらアカン!」と強調されることの多い動作のひとつです。6 膝がカクっと中に入っちゃう…こういう膝の使い方、やはり女子に多いんですよね。まさにACL断裂の怪我のメカニズムですからね、Valgus + Femoral IRって。
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●では、ホルモンは?
じゃあ、ホルモン的危険因子ってどういうこと?実は、ヒトのACLにはエストロゲン受容体がある7 というのはもう20年くらい前から分かっていて、更に、エストロゲンがコラーゲン生産の低下を招く8 ということを繋げて考えれば、エストロゲン分泌の多い女性のほうが男性よりも前十字靭帯が弱い状態にある→損傷も起きやすい?という説はとりあえず筋が通っているように聞こえます。

それだけではありません。
ヒトクチに女性といっても、女性の体内のエストロゲン分泌は常に一定なわけではありません。そのホルモンレベルは月経周期と密接な関係があるんですよね。
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例えばこの上の表(↑)。個人差はあるとは言え、基本月経周期(平均28日間)中の各ホルモンの分泌を目で見て分かりやすくまとめたものです。これによれば、エストロゲンの分泌はovulatory phase(10-14日目、所謂『危険日』のあたりですね)中に急上昇するので、先の説に則れば、この時に女性アスリートは最もACLの靭帯繊維が弱くなる→損傷する可能性が高くなると言えるのでは?9 果たしてこの仮説は、エビデンスによって実証されているのでしょうか?次回に続きます!

.1. Hewett T, Zazulak B, Myer G. Effects of the menstrual cycle on anterior cruciate ligament injury risk: a systemic review. Am J Sports Med. 2007;35(4):659-668.
2. Hewett T, Myer G, Ford K. Anterior cruciate ligament injuries in female athletes: Part, mechanics and risk factors. Am J Sports Med. 2006;34(2):299-311.
3. Prodromos CC, Han Y, Rogowski J, Joyce B, Shi K. A meta-analysis of the incidence of anterior cruciate ligament tears as a function of gender, sport, and a knee injury-reduction regimen. Arthroscopy. 2007;23(12):1320-1325.e6.
4. Posthumus M, Collins M, September AV, Schwellnus MP. The intrinsic risk factors for ACL ruptures: an evidence-based review. Phys Sportsmed. 2011;39(1):62-73. doi: 10.3810/psm.2011.02.1863.
5. Utturkar GM, Irribarra LA, Taylor KA, Spritzer CE, Taylor DC, Garrett WE, Defrate LE. The effects of a valgus collapse knee position on in vivo ACL elongation. Ann Biomed Eng. 2013;41(1):123-30. doi: 10.1007/s10439-012-0629-x.
6. Myer GD, Sugimoto D, Thomas S, Hewett TE. The influence of age on the effectiveness of neuromuscular training to reduce anterior cruciate ligament injury in female athletes: a meta-analysis. Am J Sports Med. 2013;41(1):203-215. doi:10.1177/0363546512460637.
7. Liu SH, al-Shaikh R, Panossian V, Yang RS, Nelson SD, Soleiman N, Finerman GA, Lane JM. Primary immunolocalization of estrogen and progesterone target cells in the human anterior cruciate ligament. J Orthop Res. 1996;14(4):526-533.
8. Liu SH, Al-Shaikh RA, Panossian V, Finerman GA, Lane JM. Estrogen affects the cellular metabolism of the anterior cruciate ligament. A potential explanation for female athletic injury. Am J Sports Med. 1997;25(5):704-709.
9. Wojtys EM, Huston LJ, Boynton MD, Spindler KP, Lindenfeld TN. The effect of the menstrual cycle on anterior cruciate ligament injuries in women as determined by hormone levels. Am J Sports Med. 2002;30(2):182-188.

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  by supersy | 2015-09-17 23:45 | Athletic Training | Comments(0)

Epidemiology Basic: Q-angleは怪我と関係性があるのか?

この研究、1 よく書かれていて、発見も面白かったのでまとめておきます。
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b0112009_7574458.png題材はQ-angleとRunning Injuryの関係性はあるのか?という、まぁよくありそうなテーマなんですけど、著者らは
 - 今までの研究結果はバラバラ
  (怪我との関連性があったりなかったり)
 - この原因は、1) Q-angleの計測ポジションが一貫性が
  ない (背臥位vs立位)、2) Q-angleのNormal/Abnormal
  valueの定義も文献によってマチマチ、そして、3) 片方
  のみ測定して、『その人の値』としていることも多く、
  左右差がある場合を考慮していないことも…という
  design flawに起因するのでは
…と指摘した上で、
 - 393人(222 male and 171 female)の高校生
  長距離ランナー(Cross Country Runner)を対称に、
  シーズン前に左右のQ-angle(左右それぞれ)を測定
 - シーズンを通して起こった怪我をコーチに毎週報告
  してもらい、その数とその怪我によって
  「何日競技に参加できなかったか」を集計
…で、統計学的分析を行った、という内容です。

よく出来てるなぁ、と思うのは、
 - 被験者の多さ (但しpower analysisは無し)
 - Q-angle計測は独りの『経験のある』研究者によって行われた
 - intra-rater reliabilityはpilot studyにてICC 0.89 (SEM 1.3°)と
  establish済み
 - 計測は一環して靴無し、立位で。これは背臥位よりrelevantであるということと、
  更に、立位Q-angleのほうが背臥位より大きくなる、という研究結果にも基づく。2-51
 - コーチの『毎週怪我報告』はDaily Injury Report (DIR)というシステムを採用。
  事前に個々のコーチに記入の仕方を指導しており、
  1回の記入に5分以下くらいしかかからない。
  報告内容は1) 競技中に起き、且つ2) 競技参加に影響の出た怪我の部位と、
  競技に参加できなかった/競技参加に制限があった日数。
 - 95% CIも報告されている。

…で、結果なんですが
女子のQ-angleのほうが、左右ともに男子よりも数値が高い(p < 0.001)
 右平均 女子 15.8 ± 4.1°   男子 12.7 ± 3.7°
 左平均 女子 15.0 ± 3.8°   男子 12.1 ± 3.5°
 まぁこれは、いいですよね。女性のほうが骨盤が広いためと一般的に言われますが、
 原因はエビデンスではっきりと特定できているわけではありません。
 でもま、女子のほうがQ-angleは一般的に高めですよ、と。

Q-angleの値と怪我(Injury Incidence)
これは結果を数値で見たほうが早いので、コレを(↓)。
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総合すると、Q-angleの値が20°以上の場合、怪我のリスクが1.7倍に増す
ということが言えそうです。男子はそもそものQ-angle平均値が低めなので、
20°と言わず、15°以上でも怪我のリスクは1.5倍に増すようです。

Q-angleの左右差と怪我(Injury Incidence)
これも結果を。
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右と左の左右差を比較した場合、その差が4°以上の場合に怪我のリスクが
1.8倍に上昇する
という結果が。こちらは、比較的男女間での差は見られません。

部位別では?
では次に、1) Q-angleの値が高かった(≧20°)場合、2) 左右差が大きかった(≧4°)場合、どの部位の怪我に最も繋がりやすいのか?
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まずは1) Q-angleの値が高かった(≧20°)場合から。ハッキリとリスクの上昇が見られたのは膝の怪我で、全体の倍率は5.7倍。男女で少し差があって、女子は≧20°だと怪我のリスクが5倍に高まるのに対して、男子は15°以上20°未満だと3.2倍、≧20°だと7.6倍と、怪我のリスク上昇ウィンドウが女子に比べて広いというのが興味深いです。
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2) 左右差が大きかった(≧4°)場合 は、女子は脛やふくらはぎの怪我が2.4倍だったのに比べ、男子は足首・足のリスクが3.7倍と、異なる結果に!面白いですね。

…なわけで、さっくりまとめると、1) Q-angleの絶対値が≧20°の場合、怪我のリスクは上昇、特に膝の怪我を受傷する可能性が上がる。男子は平均値が女子より低いこともあり、≧15°からでもリスク上昇。2) Q-angleの左右差が≧4°の場合も怪我のリスクが上がる。女子は脛やふくらはぎ、男子は足首・足部の怪我の可能性が上昇する。
…ということが言えます。

もちろん、この研究が完璧なわけではなくて、例えば怪我の報告はあくまて素人が行ったものなので、underreport/overreportしているのでは?コーチに選手が痛みを訴えなかったら?など、limitationがないわけではありませんが、『左右差が怪我のリスクを高める(= 計測時には毎回左右別々に測る必要がある)』というstatementと、絶対値が多いことvs左右差で、怪我の出る部位が異なることを指摘した、という意味ではなかなか重みのある研究かなと思います。
この研究ではあくまで『傾向』に留まりましたが、Q-angleが低い場合はどのような影響が見られるのか、他の研究も見てみたいですね。あとは、もうちょっと上の年齢層でも同じような結果が出るのかとか。

そんなわけでさっぱり系まとめでしたー。さて、宿題に戻ります。

1. Rauh MJ, Koepsell TD, Rivara FP, Rice SG, Margherita AJ. Quadriceps angle and risk of injury among high school cross-country runners. J Orthop Sports Phys Ther. 2007;37(12):725-733. doi: 10.2519/jospt.2007.2453.
2. Di Brezzo R, Fort IL, Hall K. Q angle: the relationship with selected dynamic performance variables in women. Clin Kines. 1996;50:66-70.
3. Guerra JP, Arnold MJ, Gajdosik RL. Q angle: effects of isometric quadriceps contraction and body position. J Orthop Sports Phys Ther. 1994;19:200-204.
4. Shultz SJ, Nguyen AD, Windley TC, Kulas AS, Botic TL, Beynnon BD. Intratester and intertester reliability of clinical measures of lower extremity anatomic characteristics: implications for multicenter studies. Clin J Sport Med. 2006;16:155-161.
5. Woodland LH, Francis RS. Parameters and comparisons of the quadriceps angle of college-aged men and women in the supine and standing positions. Am J Sports Med. 1992;20:208-211.

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  by supersy | 2015-09-12 18:00 | Athletic Training | Comments(0)

iPhoneユーザーの皆様: メディカルIDの機能を上手く活用しよう!

今回は全然濃い内容ではないのですが、どうしても書いておきたくて…。
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例えば貴方が独りでふらりと出掛けた先で突然倒れて意識を消失するようなことがあったとして、周りの人が救急車を読んでくれたとしても、救急隊医院や搬送先の病院のお医者さんが貴方の医療情報を全く把握できていない、もっと言うと貴方の名前も、緊急連絡先も分からない、なんてことは充分に有り得るわけです。日本は、アメリカと違って運転免許や州発行の写真付きIDを持ち歩く習慣も限られていますしね。

医者としては、患者さんに意識さえあれば、どんな病歴か、アレルギーはあるのか、など、いち早く適切な診断と治療にたどり着くのに欠かせない情報を直接問診を通して得られるわけですが、意識消失している患者さんだとそうはいかない。現場で歯痒い思いをしている医師や看護師さんも多いと聞きます。

そこで便利なのがiPhoneのヘルスケア(英語版では"Health")のアプリ!
私も今までほとんど使ったことが無かったのですが、ここから"メディカルID"に飛ぶと…
貴方の名前(写真も追加可)、生年月日、持病や受傷歴、アレルギーの有無や身長体重、血液型、臓器提供の意思表示など、様々な情報を登録することができます。もちろん全項目を入力する必要は無く、自分が適切と思うものだけで充分です。個人的には持病(例: 糖尿病、喘息、高血圧など)、アレルギー(例: ピーナッツ、蜂、ペニシリン)、長期的に摂取している薬などは記入しておくことをオススメします。アレルギーが無い場合は、何も記入しないのではなく、『無い』と明記しましょう。医療関係者間では、"NKA" (No Known Allergies = 把握しているアレルギーは無し)もしくは"NKDA" (No Known Drug Allergies = 把握している薬物アレルギーは無し)という略語も一般的に使われるので、そう記入してもいいと思います。
それから、登録してある電話帳の連絡先から、『緊急連絡先』を選ぶことができます。例えば配偶者の携帯番号や、家族、知人など、複数人追加可能です。既に保存してある連絡先を選び、関係(父・母など)を選ぶだけなので、これも2タッチですむようにものすごくシンプルにできています。
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  ヘルスケア(右下)を選び          メディカルIDを選択        自分の医療情報を入力
*この時、『ロック時に表示』をONにしておく

これを設定しておけば、もし貴方以外の第三者が緊急時に貴方のロックされた状態の携帯を触れることがあったとして、左下の『緊急』ボタンを押した時に、『メディカルID』という選択肢が出るはずです。これを開けば、先ほど入力した情報が全てと、『いつ更新したか』の日時が出ます(これは医療従事者にとっては大事な情報になります。最近更新した情報ならかなり信頼できるし、古いものならば、『これを入力してからどういう持病の悪化が考えられるだろう?』と色々想像が出来る)。
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備えあれば憂いなし!
万が一の時に医療のプロが適切な対応ができる、その手助けになることは元気なうちにしておきましょう。私はiPhoneの回し者でも何でもありませんが(これは製品の宣伝目的でも、アップルからお金をもらってるわけでもありません、念の為)、医療従事者の端くれとして皆さんが活用できそうな情報はどんどん発信していきたいと思っています。iPhoneをお持ちの皆様、是非こんな機能も確認してみてくださいませ!
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  by supersy | 2015-09-09 23:30 | Just Thoughts | Comments(0)

筋障害の新名称はスタンダードとして定着するのか?

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この論文(↑)1、読んだことある方も多いかと思うのですが、今日はコレについてちょっと書きますね。

秋学期が始まって一週間半。
まだまだ色々あってバタバタしていますが、今学期教えている授業のひとつにEvaluation of Upper Extremity Injuriesがあります。上肢におこる怪我の評価の授業です。
で、この授業ではもうずっとChad Starkey氏の"Evaluation of Orthopedic & Athletic Injuries"を使わせてもらっていますが、今学期からこの教科書は第三版(左↓)から第四版(右↓)へアップデートされ、内容が少し改定されています。
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改版ものって、ほとんど内容が変わってないこともあるのですが、今回はかなりStarkey氏、アグレッシブに変えてきたな、という感じです。例えば、私が以前書いたこともある、Second Impact Syndromeと呼ぶのか、Diffused Cerebral Swellingと呼ぶべきか、という問題についても触れていて、どちらかというと最新エビデンス寄り(この場合はDCS寄り)の立場を取っています。これについては私も賛成です。

ただ、個人的に「え、コレ入れちゃう?」と驚く内容もありまして。例えば筋傷害の名称。今までは筋・腱の損傷は一般的にStrain (肉離れ)と呼ばれ、その重度をGrade I (筋繊維の過伸展、マイクロテア), Grade II (部分断裂), Grade III (完全断裂)で分けるのがもう長いこと一般的でしたが、この最新版教科書では2013年にコンセンサス・ステイトメントとして発表された新たな分類法を採用しています。この基になったのがまぁ、先の論文なわけです。内容を簡単に解説すると…

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 - 筋障害を描写するのにStrainという用語が最も頻繁に使われてはいるが、
  定義が曖昧で種類も複数存在する *代表的な4種類は、上記Table 1参照(↑クリックで拡大)
 - 新しい筋障害の名称を確立し、新たなスタンダードとして発表しよう
 - 手始めに、世界各国からの30人のスポーツ医学専門家にアンケート送信。
  筋損傷の用語を自分たちなりに定義してもらったり、
  更に様々な質問に選択肢方式でも答えてもらうことで現状把握
 - 更に15人の専門家がこの結果を分析。ミーティングによる話し合いで、
  新たに推奨されるべき用語・分類法を決定
  その内容をConsensus Statementとしてこの論文で発表している

…という感じです。で、話し合いの結果、決まったのが
●Functional Disorder vs Structural Injury
まず筋障害は、大別して直接的なものと間接的なものに分けられる。
直接的なものは、直接external forceが筋組織に掛かって起こるような怪我で、
例えば物がぶつかって起こる打撲や、鋭い刃状のもので起こる裂傷などがそうである。

間接的な筋障害はFunctional DisorderStructural Injuryのふたつに分類できる。
Functional Muscle Disorder: 急性で、MRIや超音波画像等で認められる損傷のない、間接的な筋肉の機能障害のこと(例: 筋肉のトーンが上がって「張った」状態などのこと)。
Structural Muscle Injury: 急性、且つ間接的で画像で確認できるハッキリとした筋繊維の損傷があるもののことを指す。

ここらへんまではまだいいですよねぇ。
ここから、更にこのFunctional vs Structuralをサブカテゴリー分けしていきます。

Functional Disorderのサブカテゴリー
Overexertional: 筋疲労に起因する筋障害だったり、DOMS(いわゆる筋肉痛)のこと
Neuromuscular: 脊髄(CNS)に起因するような神経性の筋障害(Spondylolysisなど)や、筋繊維とその神経支配(PNS)との問題による筋障害のこと

Structural Injuryのサブカテゴリー
Partial Tear: 部分断裂の中でもMinorとModerateに二分され、その判断基準はmuscle fascicleよりも損傷が大きいか小さいか(↓下図参照、参考文献 Figure 2より)。Minor tearは瘢痕組織なしに治癒することが多く、Moderateは頻繁に瘢痕組織を伴って治癒する。
Total Tear: 筋繊維が完全に断裂、もしくは起始・停止部のTendinous Avulsionも含む。
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…で、総合すると、こういうことになるんですよ。
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最終的な診断は、Contusion, Laceration, Type 1A, Type 1B, Type 2A, Type 2B, Type 3A, Type 3B, Type 4 Complete Tear, Type 4 Tendinous Avulsionの10個の分類のうちのどこかにカテゴライズされる、と。追記事項として、
 - Strain, pulled-muscle, hardening and hypertonusと言ったような言葉は
  専門家の回答を見ても認識・定義があまりに一貫性に欠ける。
  故に、医療従事者が使う用語として好ましくない。構造的に筋繊維の断裂が
  見られる場合は、『strain』ではなく、これからはあくまで『tear』と言う。
と明記されています。


…さて、単刀直入に聞きます。
この分類法、皆さんの現場で使いたいですか?

私がこの論文を2年前に読んだ感想としては、『やりたいことは分かるけど、こりゃー無理でしょ』でした。元々Strain - Grade I, II, IIIというごくごく単純であったものを、Type 1Aとか3Bとかややこしい名前を付けてしまって、これは『現場を助ける』というよりは『混乱させる』以外の何者でもないかと。なので、私も学生とシェアするか当時迷いましたが、実用性の低さから授業で触れることすらありませんでした。正直、陽の目をみないかな、と思ったんです。私が特に大きい問題点と感じたところは…

 - 30人の専門家に送られたアンケートのうち、返信があったのは19人(63.33%)
  →そもそも「基にしている専門家の意見」がものすごく偏っているのでは?
 - 15人の国際的専門家が集まったミーティングはたった一日で行われた。
  →まともにやればかなりの量のやり取りのはず。一日でやらなきゃ、という焦りから
  話し合いがおざなりになった可能性は?または、一日ずっと話し合いを続けて、
  疲労が溜まって討論の質が落ちた可能性は?
 - 文中に、"The presented muscle injury classification is based on an extensive,
  long-term experience and has been used successfully in the daily management
  of athletic muscle injuries (p.5)"ともあるように、この分類法はあくまで
  『経験』に基づいたもので、『エビデンス』には基いていない。
  エビデンスレベルでいうと最低のLevel V (Expert Opinion)でしかない
 - Muscle-related Neuromuscular Muscle Disordersの説明が殆ど無いので混乱中。
  例えばどういうものを指すの?AMIとか、Muscle spasmとか?
 - これらの診断に至るまでの「推奨する診断アプローチ」の中に
  『受傷から2-48時間以内に超音波による画像診断でfunctionalかstructuralに分ける』
  や、『Structural injuryの疑いのある全ての障害にはMRIを撮る』など、
  ちょっと現実味に欠ける描写が多い。逆に言うと、そういうことでもしないと、
  例えばType 3Aと3Bの違いなどはClinical Evaluationからは区別を付けられない
  ので、過剰な画像診断使用があることが大前提。私は、我々が現場で
  判断できる範囲で無駄な画像診断を減らすことも重要な仕事だと思っている
  ので、仕事の哲学には反するなぁとも感じる。

私が知る限り、このConsensus StatementをEndorseしている団体はIOCとUEFA…でしょうか?どちらかというとヨーロッパ寄りの印象ですし、NATAがこれをATのスタンダードとして積極的に取り入れようとしているという話も聞いたことがありません(もし間違っていたらどなたか教えて下さい)。これを教科書に入れちゃうのは、Starkey殿、少し時期尚早だったのではないでしょうか?

なので、学生には『最新版の教科書では新しい筋障害の分類法が書かれている。…ただ、私が不安に思うのは、今キミ達がそれを習って使い始めても現場の人間とコミュニケーションが取れないと思うんだよ(Type 2Aと言って、今誰に通じます?)。これが、これからポピュラーになって我々医療従事者のスタンダードになるかどうか私は判断しかねる。個人的な印象としては限りなく怪しい。もし皆が知りたいというのなら授業で時間を取って教えるけれど、どうする?』と正直に聞いてみたら、『Syがイケてないと思うなら私たちもいらなーい!』という恐ろしい返事が返ってきました(ちょっとは勉強しろ)。なので、授業ではこの論文を「読みたい学生が読む」くらいにしておくことにして、相変わらずStrainという言葉を使っています。まぁ、「Strainという言葉では不十分という人たちも結構いるんだよ」くらい、とりあえず頭に入れておいてくれればいいかなと…。新しい言葉を造るということは、新しいコンセプトを生み出すということ。これが医療界のエスペラント語となってしまうのか、本当に新しいスタンダードに取って代わっていくのか…。とりあえず、私はこれを本格的に教えるようになるまでに、もうちょっと周りの動向を見守ってみたいと思っています。もしアメリカ教育界の方がいたら、是非どうしてるか意見を聞かせてください。参考にしたいです…。


1. Mueller-Wohlfahrt HW, Haensel L, Mithoefer K, Ekstrand J, English B, McNally S, et al. Terminology and classification of muscle injuries in sport: the Munich consensus statement. Br J Sports Med. 2013;47(6):342-350. doi: 10.1136/bjsports-2012-091448.
ちなみにこの論文、どなたでもフルテキストにアクセスできますよー。

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  by supersy | 2015-09-07 18:00 | Athletic Training | Comments(0)

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