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地味な「レベル上げ」をする楽しみ。

2014年5月に博士課程を始めてから、4学期目であったSummer 2015が無事に終了。
卒業まであと2年あるのですが、最後の一年は博士論文に費やすことになっているので、
こうしてがっつり授業を取って学ぶのはあと4学期を残すのみ。
そう考えると、博士課程の『授業』は半分が終わったことになります。

いやー、この夏学期は
AT 640 Connective Tissue and Injury Repair: An Evidence-based Approach
HS 732 Biostatistics 2
HS 760 Technology and Informatics
…という濃ゆい9単位の授業達と戯れていました。

●エビデンスに基づいた結合組織と治癒
今回ブログで軟骨の話とか、半月板切除vs修復とか、膝蓋腱傷害のリハビリとかACL修復手術がどうとか喫煙と治癒がどうとか、治りが悪い骨折がどうのとか…
ああいうのはこの授業の課題の一部として取り扱ったテーマだったりします。
とにかく何百という文献を読んで読んで読みまくりました!50くらいの文献をCATしました!自分では決して見つけない、見つけても読まないかもしれないような題材のものを読まされるのは有難いです。見聞が広がります。

●テクノロジーと情報科学
この授業は最後にやった最終課題が楽しかったなぁー。
いくつかのオプションの中から、私は「自分の興味のあるトピックを選び、ブログもしくはウェブサイトをひとつ立ち上げる」というものを選択して、『指導者、選手、保護者向けの脳震盪の情報ウェブサイト』というのを造ることにしました(ブログはもう10年やってるしね…)。

"What You Need to Know about Concussion"
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指定された、最低でも…
 - 有益なメインコンテンツ最大文字数300字
 - 1つのオリジナル動画(4分ほどの短いもの)
 - 1つの適切に引用された画像
 - 2つの外部リンク
…を含む、などの条件を満たすように、
それでも一般の人に読みやすいように考えながらさっぱり目にまとめてみました。
意外と、こういうフリーのウェブサイトって専門知識がなくても簡単に作れるものなんだなぁ、とびっくりしたのと、あと、こういうの日本語で作っても需要はありそうだよなー、と思ったりもしました。脳震盪とか熱中症とか、ちゃんとプロが見ても納得できるように文献引用もしつつ、最新の正しい情報を、予備知識が無い人にも分かりやすく。是非是非誰が作ってみてください(まるなげ)。

●生物統計学、という学問
先学期Biostatistics I(生物統計学 I)が必修だったのですが、今学期は選択で生物統計学 IIを取ることにしてました。元々そんなに理系頭脳でもない私は(どちらかというと文系なんじゃないかなぁ、私)、この生物統計学の授業はすごく恐ろしいものでしたが、今回一番有益なクラスだったと感じました。私が博士課程にどうしても行きたかったのは、自分で文献を読むだけではなく、フォーマルな授業という形でアメリカでも超一流の先生から学びたかったこと、そして、その中身はまさにこういうような、自分では勉強し得ない、でも、これから自分が文献を読み、エビデンスを理解していく中で絶対に知っておかなければならない基礎知識の土台を広げることでした。
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生物統計学って何やるの?と思う方も多いかも知れませんが、例えば、『被験者を3つのグループに分け、傷の回復程度を1) 傷口の大きさ、2) 痛みの程度、3) 機能の3つの観点からどの治療法が最も良かったか、統計学的且つ臨床学的に分析して結論を出せ。その際、被験者の年齢をアウトカムに影響を与えうる要素として考慮すること』みたいな、医学と統計学を混ぜあわせ、適切な統計学的分析を用いて数字を解析、臨床学的意味を見出す方法を学び、実践する、というような内容です。

難しいですが、これを私が理解しないことには、エビデンスの消費者としてこういう文献を読む立場に立った時に「何故この研究でindependent t-testではなくMann-Whitney U testが使われたのか」「p valueが0.051だがPartial Eta2が0.82でObserved Powerが1.000だった場合、統計学的、そして臨床学的にどう解釈すべきなのか」というひとつ深い目で見た『結果・結論の掘り下げ』ができないのです。逆にこれらが分かれば、文献の著者が敢えて書かなかったような統計の穴も見破れる。それ(統計学的な穴)を理解した上で出す結論と、著者の結論をそのまま鵜呑みにするのとでは、大違いかなぁと思いますし。
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やはりというか、当然というか、ものすごく噛みごたえのある授業でしたが、思いっ切り学ぶことが出来ました。同じ文献を読んでも違うところに目が行くようになって楽しいです。まさにこれを学びに来た!という授業に出会えてシアワセ…。色々勉強しながら、気持ちとしてはPRGの「レベル上げ」をしている気分。根気強く、気を長く。土台を広げて、根っこを広げて。はぐれたメタルさんを探しては、毒針でちまちま倒してたあの日の自分とそう変わらないですね。アメリカで仕事をしながらの博士課程に興味のある方、もし貴方もこういうものを求めているのなら、うちのプログラムは本気でオススメです。修士の時より、遥かに楽しみながら学べている私です。

さてー、すぐに始まる秋学期に向けて、学生としても教師としても準備し始めますかね。
教師としては、未知の授業をひとつ担当することになっているし、
学生としては、ひとつの授業に教科書が4冊(!)という恐ろしいものがあるようなので、読めるものは今のうちに読んでおきます。また忙しくなるぞー。体力つけてガンバロウ。

あっそういえば、今年NATAの奨学金を頂けることになったのですが、
名前がNATAニュースに載ってたよー、と友人に教えられました。
さて、私はどこでしょう?あ、いた!
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この奨学金、学部生時代にも頂いたものなので9年ぶりですね。
一度貰えるだけでも名誉なことなのに、2回も!
有りがたく授業料の支払いに充てさせて頂きますー。ははー。ぺこり。
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  by supersy | 2015-08-13 19:30 | Athletic Training | Comments(0)

NATA最新の『アスリートの脊髄損傷に対する適切な搬送前措置』改正案とその修正についてまとめ。

さて、がっつり真面目な話でも。
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ATCの皆さんなら"Acute Management of the Cervical Spine-Injured Athlete"のPosition Statementは幾度と無く読んだことがある重要書類かと思うのですが、これ、実は発表されたのは2009年と古く、現在、アメリカでは全米規模で様々な専門家を集めたTask Force(特別チーム)が編成されていて、特に、Spine-Injured Athleteのprehospital management (病院搬送前の適切な措置)についての改正案を製作中です。近々(…といってもあと数年かかるでしょうが) 新たなConsensus Statementが発表予定になっています。発表されれば恐らく、NATAやNCAA、USOCのみでなく全米各専門医師協会なんかからもendorseされる、どでかいConsensus Statementになりそうです。

で、提案される予定の修正案は大きく14の項目に分類されます。
これらは6月に発表されているのですが、意訳して書くと:
1. (高校・大学・プロを問わず)チームはローカルの救急隊(EMS)と提携してEmergency Action Plan (EAP)を作るべきである
 - 確かに、チーム側が立派なEAPを用意していてもEMS側がそれについての知識が
  無かったり、共有が十分にされてないことによって救急措置が遅れる、
  もしくは正しい対処ができないという話はよく聞きます。EMSさんたちに
  EAPを作る際に一緒に座ってもらい、話し合いながら決める、という行為は
  選手の命を救うことにつながるでしょう。

2. スポーツ医療チームは、シーズン開始前にきちんと時間を設けてEAPを復習し、緊急時の人手や用具の確保、可能性を確立させておく

3. 脊髄損傷が確認されたら、その深刻度に基づき、適切なEAPのアクティベーションが素早く行われるべきである

4. その際、
選手が着用している防具は病院搬送前に速やかに外すべきである

5.
防具を外す際、最低でも3人の訓練を積んだ人物がいることが絶対条件である。もし人数が足りない場合は、十分な人数が到着するのを待って迅速に行う

 - これら二項目が恐らく最も重要で、最も議論を引き起こしている修正箇所です。
 - 以前(2009)のPosition Statementでは、「搬送前には防具は外さない、
  搬送後に病院で外すべき」と表記されていました。これを「搬送前に外すべし」
  とは、180度の方向転換です。この大きな変更の理由として、
  タスクフォースは1) 防具そのもののデザインが向上し、取り外しがしやすく
  なっていること、2) 最も訓練を積んだプロによって防具の着脱が行われるべき
  ならば、それは現場で最も場数を踏んでいるATによって行われるべきであり、
  病院の救急病棟スタッフより適任である、3) 防具を外すタイミングを早めることで、
  患者が適切な治療をより迅速に受けられるようになる…などの利点を挙げています。

しかし!6月に「こういう改正案を提案予定ですー」とタスクフォースが発表して以来、この改正部分に多大な懸念が寄せられました。それを受けて、タスクフォースはつい先日、8月5日付けで改正案の修正を発表。その中で、
 - 『防具は搬送前に取り外されるべき(should)』という表現を
  『適切だと判断された場合、搬送前に防具を取り外してもよい(may)』
  というより柔らかい表現に変更する、という方針を発表しました。
全米各地でEMSや病院の救命病棟スタッフの資格に差があること、地域や高校・大学・プロなどのレベルによって人事的・物資的な資源に制限があるかも知れないことを挙げ、それぞれの状況に応じて判断ができるよう含みを持たせた表現をするに留まるみたいです。しかし、
 - 『6月の発表を受けて防具除去の訓練に取り組み始めた団体を我々は支持する』
という一文も取り込んでおり、立場としてはやっぱり迅速な現場での防具除去が望ましいと思っているという態度は明らかです。状況が許すかぎり、『防具はその場で外す』が最善の医療であるとほぼ確立したと言っても良いでしょう。我々はその為の準備を日々欠かしてはなりません。

6. スポーツによって様々な防具が存在し、同じスポーツでもその道具に多様なスタイルがある。スポーツ医療チームはそれらを熟知し、取り外しの練習を積む必要がある

7. (防具の除去後)硬い素材のCervical collarで頚椎を搬送前に固定すること

8. 搬送中、患者の脊髄は硬い素材の装具を用いて固定されていること

 - これ、ちょっとまだ私よく分かってないのですが、『スパインボードの固定は真のSpinal Motion Restriction (SMR)」には不十分』とか『スパインボードに長時間固定されていると実害も』という表記があるので、もしかしたら大幅な道具の変更があるのかな(これからは全身バキューム系の固定法が主流になるとか)?と思いきや、でも『今のところはスパインボードの使用を推奨します』と書いてあったりで、まだ代案になるような、取って代わる道具が確立されてないのかなという印象です。

9. 搬送前の固定の際は、脊髄の動きを最低限に抑えるようなテクニックを用いる
 - 状況に応じた6+ liftとかlog rollとかですね

10. 搬送のプランは練習・試合開始前に前もって立てておく

11. 脊髄損傷患者は、それに特化した治療・対処のできる特定の病院に搬送されるべき

12. 医療チーム、コーチ、選手とで脊髄損傷予防に取り組む

13. 医療チームは最新の研究、それから全米・各州の法律などの知識を常にアップデートしておく

14. これからもSMRを確保するのに最も効率の良い技術を確立するために研究を重ねていく


そんなわけで、元々のアグレッシブさは半減されそうですが、防具の取り外しがこれからどんどん行われるようになること、そして、我々ATもそれに向けての知識を蓄え、訓練を積む必要があるよー、というまとめでした。時代はどんどん移り変わりますね。6年前にはダメだと言われていたことがひっくり返るのだから医療の世界は本当に興味深いです。日々、最善の医療の為に心とアタマと腕を磨かねば、です!

原文を読みたい方はこちら。8月5日の修正案も含まれたやつです。
"Executive Summary of Appropriate Care of the Spine Injured Athlete Inter-Association Consensus Statement"
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  by supersy | 2015-08-11 14:00 | Athletic Training | Comments(0)

Patellar Tendinopathyのリハビリテーション・アプローチ その2。

さて、前回はEccentric Exercise (EE)がどうやら効果があるらしいというのは分かったけど、それがチカラを発揮するには、その他の運動・トレーニングを中止しなければいけない?
…というところまでお話しました。
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●Is Withdrawal from Sports Participation Necessary?
実はこれに関しては、別途でSystematic Reviewが発表されています(↑)。1
このReviewでは過去に発表された7つのRCTを検証しているのですが、その結果は:
 - 選手を実際「トレーニング禁止」(その期間は6週間から12週間と様々だが)にさせた
  3つの研究のうち、3つ全て(100%)がEEによる良い効果が得られた、とされている。
 - 選手に「(通常通りの)トレーニング許可」をしたままEEを実践した4つの研究で、
  そのうち3つはEEの効果が同様に確認された。確認できなかったのは、前回言及した
  シーズン中のバレーボール選手を検証したVisnes et al2の研究のみ。
このVisnes et al2の研究には、ちょっと内容に問題があったのでは?という疑問も拭えず。例えば他の研究に比べてcompliance rateが58%と低いことや(他は92, 72, 89%)、エクササイズ前の機能スコア(VISA score)も71とかなり高かった(他は53, 61と機能低め=そもそもVisnes et al2の被験者は研究の始めからPatellar tendinopathyが他に比べて軽度だったのでは?)こともあって、必ずしも「トレーニング継続」していたことが「EEの効果が見られなかった」ことに直接結びつくとは言えそうもないんですよね。
「トレーニング禁止」で実践された研究でも、総合的には「効果アリ」となったものの、個人個人で見てみると効果が出なかった被験者もいた。トレーニングを一切禁止してもEEの効果は100%保証されたものではないということになります。加えて、選手やチーム関係者にとって「トレーニング禁止」というのはかなり重い言葉。精神的(i.e. 鬱や不安の原因になったり、self-esteemが下がったり)、運動生理学的(i.e. deconditioning)、そして経済的にも多大な悪影響を及ぼしかねません。…であれば、Visnes et al2の発表のみに基いて「絶対トレーニング禁止!!」と断言してしまうよりは、出来る限り通常のトレーニングも混ぜながら、選手の痛みや機能制限の程度と相談しながら臨機応変に、というほうが現実的じゃないかと思うんですよね。実際、このReviewを書いたSaithma et al1も「不必要なトレーニング禁止を強制すると、利益よりも不利益のほうが上回る」と結論付けています。

●膝の屈曲角度
あともうひとつ掘り下げると面白いのが、エクササイズ時の膝の屈曲角度です。
Stanish & CurwinとAlfredson、どちらのモデルも膝を90°程まで曲げる、という風に元々描写されていましたが、「もうちょっと浅くてもいいのでは」という声もあります。3
…というのも、膝の屈曲度が60-90°まで達すると、Posterior fibers(後方繊維)により負荷がかかる。そもそも腱症・腱炎が最も頻繁に起こりやすいのはこのPosterior fibersであるから、ここにより多くの負担を掛けてのエクササイズとなると危険が伴う。なので、現在は
 - 90°のままでいい
 - 最大屈曲を60-70°に制限する
 - 最大屈曲を60°以下に設定しておいて、機能回復と共に徐々に90°近くまで増やす
という、大きくわけて3つの派閥に分かれているように見えます。まぁ、派閥なんてそんな大層なもんじゃないですけども。(ちなみに私がAlfredsonをやってみたらChondromalacia Patellaeがあるので屈曲を上げると共に「みしみし」という膝蓋軟骨が大腿骨に潰されているイヤな音がします。これを同時発症している患者さんには角度は減らし気味のほうがいいかも)
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さて、ここで変化球です!
比較的最近proposeされた、もうひとつのエクササイズ案をご紹介します。
その名も…
●Heavy Slow Resistance Training (HSR)
これらはたったふたつの研究でしか検証されていませんが、4,5そのどちらもかなり「high quality」と評されているのでその存在を無視できないんですよ。
これがどういうエクササイズかというと、見ての通り。Leg Press、Squat、Hack Squatをそれぞれ4セット、週に3回こなす、というもの。回数・重量は、
 Week 1: 15RM
 Week 2-3: 12 RM
 Week 4-5: 10 RM
 Week 6-8: 8 RM
 Week 9-12: 6RM
という風に週別に徐々に重たくなるように決まっています。両足をしっかり荷重して、エクササイズはとにかくゆっくり膝を屈曲していき、90°まで達したところで元に戻るというもの。"Light discomfort"くらいはOKだけど痛みという痛みまではいかない感じです。
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●3つのモデルを比較すると?6
Strong Evidence:
 - HSRをするとneuromuscular functionが向上する

Moderate Evidence:
 - 機能的な向上はHSRもEEも等しいが、患者の満足度はHSRの方がEEに比べて高い
  これは、週に3回運動すればイイvs毎日、一日2回という運動頻度が関わっている
  のかも知れないし、もしかしたら「痛みはほとんど無い状態で」というHSRと、
  「痛みが出るまで引き上げてやるぜ」というEE(the Alfredson Model)の
  Pain levelの違いからくるものやも知れません。
 - Cross-sectional area(つまるところ腱肥大)の増加はEEのほうが著しく見られる
  ものの、HSRのほうがcollagen turnoverの上昇と腱繊維の正常化を促進する
  効果が見られる
 
Limited Evidence:
 - これは前回も書きましたが、EEの中ではAlfredson ModelのほうがStanish & Curwin
  Modelよりちょっとばかり効果が高いかも知れない、そして、
 - 痛み、そしてRTPを早めるためにはStanish & Curwin Modelのほうが
  isotonic exercises(leg curl, leg ext)よりも効果アリ、
ということがlow-qualityの研究によって分かっています。

●Evidence-Based Conclusion
結論として、我々はどういう理解をするべきか?
たった2つの研究しか発表されていないとはいえ、HSRがかなり効果がある6のは認めざるを得ないところかなと。
 Function: HSR ≒ EE
 Tendon Adaptation: HSR > EE
 Patient Satisfaction: HSR > EE
なので、全部混ぜるとこんな感じですかね。
 HSR > Alfredson Model > Stanish & Curwin Model

それに「トレーニング継続の是非」「膝の屈曲角度」という要素の結論も加えると、
 - 「トレーニング禁止」を推奨する充分なエビデンスが存在しない以上、
  「症状にもよるが、出来る限り通常通りのトレーニングを継続させながら
   エクササイズをやらせる
」という結論が最も現実的
 - 膝の屈曲度は、「リハビリ初期は60-70°までに制限し、回復とともに、
  症状の悪化が見られなければ90°まで増加
」という風に臨機応変に
というのが、色々読んだ私の中の現在のオトシドコロです。
あと、改めて強調されるべきだと思ったのが、
 - こういったタイプのリハビリで、正しくエクササイズをやった結果伴う痛みを
  容認することはあるが「痛くなるまでやる!」「痛くないとダメ!」のように
  痛み自体がリハビリの目的になってしまわないよう注意6
…という文章でした。Deep tissueの徒手療法やIASTM系のテクニックを使う施術師さんで、「痛みこそ神!」みたいに突っ走って患者をグリグリグリグリ痛めつけて恍惚感を得るタイプの方を数名見たことがありますが、あくまで我々の目的は患者さんの機能向上であり、痛みを生むこと、ましてや我々セラピストが満足感を得ることではありません。きちんと患者さんひとりひとりと向かいあいたいですねー。

以上、Patellar Tendinopathyのリハビリ勉強記録でした。

1. Saithna A, Gogna R, Baraza N, Modi C, Spencer S. Eccentric exercise protocols for patella tendinopathy: should we really be withdrawing athletes from sport? A systematic review. Open Orthop J. 2012;6:553-557. doi: 10.2174/1874325001206010553.
2. Loppini M, Maffulli N. Conservative management of tendinopathy: an evidence-based approach. Muscles Ligaments Tendons J. 2012;1(4):134-137.
3. Pearson SJ, Hussain SR. Region-specific tendon properties and patellar tendinopathy: a wider understanding. Sports Med. 2014;44(8):1101-1112. doi: 10.1007/s40279-014-0201-y.
4. Kongsgaard M, Kovanen V, Aagaard P, Doessing S, Hansen P, Laursen AH, Kaldau NC, Kjaer M, Magnusson SP. Corticosteroid injections, eccentric decline squat training and heavy slow resistance training in patellar tendinopathy. Scand J Med Sci Sports. 2009;19(6):790-802. doi: 10.1111/j.1600-0838.2009.00949.x.
5. Kongsgaard M, Qvortrup K, Larsen J, Aagaard P, Doessing S, Hansen P, Kjaer M, Magnusson SP. Fibril morphology and tendon mechanical properties in patellar tendinopathy: effects of heavy slow resistance training. Am J Sports Med. 2010;38(4):749-756. doi: 10.1177/0363546509350915.
6. Malliaras P, Barton CJ, Reeves ND, Langberg H. Achilles and patellar tendinopathy loading programmes : a systematic review comparing clinical outcomes and identifying potential mechanisms for effectiveness. Sports Med. 2013;43(4):267-286. doi: 10.1007/s40279-013-0019-z.

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  by supersy | 2015-08-05 11:00 | Athletic Training | Comments(0)

Patellar Tendinopathyのリハビリテーション・アプローチ その1。

さて、アメリカに帰ってきて5日あまりですが、
時差ボケ+課題が溜まって睡眠不足で、日本滞在最後に引いた風邪が治りませぬ。うぬー。
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さて、提出する課題のひとつにタイトルにある「Patellar Tendinopathy(膝蓋腱傷害)のリハビリ・アプローチ」を題材にして色々調べてみました。

●Patellar Tendinopathyとは
膝蓋腱の痛みはジャンプを多用するバスケットボール、バレーボール等の競技でよく見られることから、「ジャンパーズニー」と呼ばれることもあります。…が、この非医学的名称だとQuadriceps Tendinopathy(大腿四頭筋腱傷害)やPFPS/Anterior Knee Painも含まれてしまうこともあるので、膝蓋腱に起因する痛みは総称として「膝蓋腱傷害」と呼ばれるのが好ましい、というのが最近のトレンドです。1b0112009_09894.jpg

 - Paratentinitis (Tenosynovitis)
 - Tendinitis
 - Tendinosis

腱傷害は大まかに腱膜炎、腱炎、腱症の3つに分類され、中でも腱組織には血流が充分にない部位が多い→炎症を起こす能力に欠けている為(血流がなければ炎症は起きません)、2 炎症を起こさずに腱の変質・退化が起きるケース(= Tendinosis)が腱炎に比べて非常に多いことがここ10年程で医学界に浸透しつつあります。TendinitisとTendinosisを同時発症することもあるんですけどね。

これらの腱傷害は長期に及ぶ痛み、機能低下、そしてアスリートのパフォーマンス低下に繋がり、1,3,4 中でも膝蓋腱傷害が原因で引退を強いられるアスリートもかなり多い(53%という報告も4)のだそう。

で、Patellar Tendinopathyについて色々掘り下げて文献読んでたら結構面白くって。中でも、Patellar Tendinopathyはregion specificだ、という意見があって、腱障害が起こるのはほぼ「posterior proximal tendon at its insertion of the patella(腱の膝蓋骨付着部、後方近位部位)」に集中しているということでした。3 なんでも腱後方の繊維は前方の繊維に比べてtensile strengthが劣るので、同じ負荷がかかっても先に悲鳴を上げるのは後方なのでは…ということ、それから目から鱗だったのが「もっと言うと、前方繊維は構造的に腱のそれに酷似しているのに対して、後方繊維はどちらかというと靭帯に近い組織で作られている。これは、前方繊維は大腿四頭筋から伸びている大腿四頭筋腱の延長である(筋肉⇔骨=腱)のに対し、後方繊維は膝蓋骨と脛骨を繋ぐのみ(骨⇔骨=靭帯)である、という解剖学的違いから考えても納得がいく」(意訳ですけど)というPearson & Hussain3の言葉ですねぇ。機能別に、Anterior Tendon UnitとPosterior Ligament Unitとわけて考えてもいいのでは?ということでした。なるほどねぇ。へえええええ。

●リハビリテーション・アプローチ
さて、ひと度腱組織が病変を起こし:3,5,6
1. Decrease stiffness
2. Decrease Young's modulus
3. Increases proximal tendon cross-sectional area (CSA)
といった組織的変化の影響を受けると、load時の変形がより如実/チカラを生み出す妨げになり、7,8最悪更なる怪我に繋がる8…という結果が考えられます。腱繊維もType Iが減少、Type IIIが増加してウェーブ状に変質し、小規模の断裂が各所で起こるそうな。12

●救世主参上!?
さてそこで現れたのがEccentric Exercise!
TendinopathyにはEccentric Exerciseセヨ、というのはもう、世のAT/PTには常識なのでは?と言ってもいいくらい、ここ7年くらいで「ゴールドスタンダード」として定着しつつあります。

このEccentric Exerciseというコンセプトは元々1984年にStanish & Curwin10が提唱したもので、後にAlfredson11によって1998年に修正されています。これらのエクササイズの目的は、
 - Promote collagen fiber cross-linkage formation10,13
 - Facilitate tissue remodeling10,13
 - Decrease pain mediators in tendinopathic tendon14
 - Decrease neovascularization15
…というのが上げられます。

●Stanish & Curwin Model10b0112009_258859.jpg
ではさっそくオリジナルのエクササイズの紹介を。
1984年にStanish & Curwinが提唱したモデルはEccentric Drop Squatsというもので、
 - 両足で平らな地面に立つ
 - 腰を落とすように急激に落下(Rapid deceleration)させ、
  大腿四頭筋を使って丁度太腿が地面に
  並行になる直前に減速して止める
 - 10-20回を3セット、一日に1回行う
 - minimal pain allowed: 痛みはほとんど無く行う
  (3セット目の終わりに軽い痛みを覚える程度ならOk)
 - 20回3セットが簡単に行えるようになったら、スピードを上げる
 - その後で、loadを増やして荷重を上げる

●Alfredson Model11
一方で、Alfredson Modelは
 - 片足で、25°のDecline boardの上に立つ
 - そこからゆっくりと膝を屈曲し(Slow deceleration)、膝関節が90°になるまで曲げる
 - 怪我をしていない方の足を使ってStarting positionに戻る
  (=運動自体はpurely eccentric)
 - 15回を3セット、一日に2回行う
 - この運動は多少の痛み(some pain)と共に行うべきものである。そのため、痛み無く
  できるようになったら背中にリュックを背負う形で荷重し、loadを増やす。
特に、このエクササイズを始めて1-2週間はかなりsoreになるのが『アタリマエ』なんだそう。
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似ているように見えて、両足vs片足、平面vs斜面、速いvs遅い、痛み無しvs有り、スピードを上げるvs荷重を上げる、一日1回vs2回…細かく見ていくとかなり色々違いが有りますね。

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●どっちがいいのさ?
…で、色々文献を掘り返して見てみました結果をまとめます。
4-5ほどのSystematic Reviewを読んでみました。

結論としては、
Limited Evidence*: Eccentric Exercise works for both short- and long-term
 - 膝の機能、痛みが大きく改善する可能性が50-70%アリ1,12,15,16
 - 手術と比較したRCTでは、「手術するのと同じだけの結果が出る」という結論に12
 - 患者の満足度・競技復帰にも大いに効果アリ1
 - adverse effectsは報告されず
副作用が無いことからも、ここまで見ただけでも手術するより先にEccentric Exerciseを試すべき、ということは言えそうですね。
*数はそこそこあるが、low-qualityな研究によるエビデンスである

あとは、具体的にStanish & Curwin vs Alfredsonを個別に考慮すると、
 - Stanish & Curwin vs Alfredsonを比較した研究は…ちょっとどちらのエクササイズも
  オリジナルなものから逸脱してしまっており(i.e. 両方のエクササイズを片足で
  やってしまっていたり、Alfredson Modelの膝の屈曲度を90°から60°に変更して
  いたり…)、『どちらのモデルも等しく効果的』という結果が出ているものの、
  これらの要素が影響している可能性があり、
  どこまで信用していいものかは定かではありません。12
 - 研究としてはAlfredson Modelのほうが遥かに研究されていて、
  concentric on a decline board vs eccentric on a decline board
  eccentric on a flat surface vs eccentric on a decline board
  などの比較研究から言えることは、効果的なのはeccentric on a decline board
  の特殊なコンビネーションのみということです。12
あとは、
 - Pulsed USやFriction massageよりもAlfredson Modelが効果的12
 - Static stretchとAlfredson Modelを組み合わせると相乗効果有り17
…なんてのもありました。

あと、もうひとつ面白い論点が、
Visnes et al12はその結論に「エクササイズをしている間、特に最初の6-8週間はエクササイズ以外のスポーツアクティビティは控えるべき」と論じています。その根拠として…
 - Visnes et al18の研究によれば、合計29人のバレーボール選手を対象にシーズン中に
  通常のトレーニング(i.e. 練習、ウェイト, etc)を行ったコントロール・グループと、
  通常のトレーニング+一日2回のAlfredson Modelをしたトリートメント・グループを
  比較した場合、12週間後にこれらのグループ間の差は見られなかったとの報告が。
  結論: シーズン中のAlfredson Modelの採用は効果無し。
 - Young et al19らは17人のバレーボール選手をAlfredson vs Stanish & Curwin Model
  の2グループに別け、シーズンが始まる前の早い段階から毎日実践。
  シーズンを終えたあと比較してみると、Alfredson Modelのほうがより優れていは
  いたものの、どちらのグループも著しく膝の機能改善が見られたとのこと。
  結論: 同じエクササイズをしても、シーズン前は効果が出る。

ということが上げられます。ふぅむ、シーズン中に選手がこなしている練習量+Eccentric Exerciseを足してしまうと、腱がオーバーロードされるだけで治癒や機能改善にはつながらないのか?練習や試合を諦めてでも、絶対にこちらのエクササイズに集中させたほうが得策なのか?でもそれって、我々にとって、選手にとって、現実的なんでしょうか?

明日に続きます。

1. Woodley BL, Newsham-West RJ, Baxter GD. Chronic tendinopathy: effectiveness of eccentric exercise. Br J Sports Med. 2007;41(4):188-198; discussion 199.
2. Yepes H, Tang M, Geddes C, Glazebrook M, Morris SF, Stanish WD. Digital vascular mapping of the integument about the Achilles tendon. J Bone Joint Surg Am. 2010;92(5):1215-1220. doi: 10.2106/JBJS.I.00743.
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  by supersy | 2015-08-03 15:00 | Athletic Training | Comments(0)

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