<   2014年 04月 ( 3 )   > この月の画像一覧

 

音叉と聴診器で骨折判別?

春学期もいよいよ残すところあと一週間、そして期末試験期間となりました!
私が授業を教えるのは春学期が最後なので(夏の間もいるけど授業は教えないことにしました)、
教師としてはここではこれが最後です。嬉しいんだか悲しいんだか。
最後までがんばろーっと。
b0112009_839268.jpg
さて。
音楽家の皆さんにとっては音叉(tuning fork↑)は楽器を調音するための無くてはならない道具かも知れませんが、同じくらいアスレティックトレーナーにも欠かせないツールのひとつです。我々のSports Medicineカタログにも載ってますし(↓)、AT Facilityにも必ず幾つかは常に置いてあり、遠征バッグにも必ず忍び込ませる一品。
b0112009_525551.jpg
む。
調音をするわけでもないのに何でかって?
b0112009_8554288.png
これ、実は骨折判別の道具として使われるのです。
Tuning Forkをコーンと靴で打って鳴らせて、それで骨折を疑っている骨に触れる。
振動が骨に伝わることで、『痛みが出るか出ないか』で『骨折があるかどうか』を見極めることができるというわけ。骨がintactならば振動こそ感じられても痛みは出ないはずですからね。1

b0112009_9133045.png
これ、AT界では常識といっても良いほど良く使う道具ですが、
実際のところの実用性はどうなのか?例えば、Ottawa Ankle Rulesが陽性だった患者に、
もうひとつの鑑別基準としてTuning Forkを使うという二段階のスクリーニングを試した場合、2
Ottawaのみをシンプルに使用した場合3に比べて、
Specificity及びPositive Likelihood Ratioが格段に改善されるのが見て取れます。
b0112009_1065738.png
ちなみに、Dissmann & Han氏のこの研究2はDistal fibulaの骨折に限ったもので、
面白いのがTuning Forkをどこに置くかでもかなり数字が変わってくる、という点。
ハッキリと優れていたのは、Tuning ForkをTip of the Lateral Malleolus (Figure 1)に置いた時ではなく、最も圧通がある箇所から5-10cm近位(proximal)のdistal mid-shaft (Figure 2)に置いた場合でした。Figure 1だと損傷しているであろう靱帯に近すぎて、False positiveが出やすいのでは?だろうとこのこと。
なるほど、ちょっと骨折箇所から距離を置くぐらいがいいんですね。
b0112009_1010543.png
Dissmann & Han (2006)2より


…で、今回それに加えたいのが、Tuning Forkで痛みの有無を見るだけではなく、
聴診器も用いて、『骨を通じて聞く音の変化』でも骨折が判別できるんじゃないか?
という研究たちです。これは正直言って私も最近までちゃんと読んだことありませんでした。
なかなか面白かったので、是非ここでもお話したいなーと。
ええ、聴診器です。キキマチガイではありませぬ。
b0112009_10222913.png
この件に関して最初に実験を行ったのはBache & Cross氏ら。4
Femoral neckの骨折診断に、
  Tuning Fork - over medial condyle of the femur or patella
  Stethoscope - over pubic symphysis
この(↑)ように道具をそれぞれ置き、骨を伝わってくる振動を聴診器で聞くことで、
『健側と比べて音が小さかったり聞こえない場合』を陽性と判断します。
(ちなみにこの研究では、この方法をBarford Testと名づけています)
結果はSensitivity = 91.1%、Specificity = 81.8%と、なかなかの数字。
触診が難しい箇所であることを考えると、なかなか実用性があると言えそうです。

*ちなみに、私もつい先日、うちの選手や生徒を実験台に、
健康な骨ばかりでしたが片っ端からこれを試してみました。
振動音が、かなりハッキリと遠くでも(i.e.Olecranon ProcessにTuning Forkを置いて、
StethoscopeはScapulaとか)聞こえるのにびっくり!面白いですね。

もうひとつ紹介しましょう。同様に、Misurya氏ら5は50人の患者を対象に、
このBarford Testの正確さを、別の骨折箇所でも検証。
Femoral Neckに加えて、Femoral ShaftとTibiaでも、同じように聴診器と音叉を用いて
音で骨折の判別を試みました。その結果は…
b0112009_10384013.png
ちなみに、それぞれのツールをどう置いたのかと言うと、
  大腿骨に骨折が疑われる場合 (Figure 1↓)
  Stethoscope - over ASIS or pubic symphysis
  (肥満患者の場合はこれは難しく、ASISのほうが簡単だと論文内では記述が)
  Tuning Fork - over patella
*骨折がneckにあるのかshaftなのか区別したい場合は、同じテストをStethoscopeを
Greater trochanterに置いた状態で繰り返す(=shaftならこれも陽性、neckなら陰性になるはず)。

  脛骨に骨折が疑われる場合(Figure 2↓)
  Stethoscope - over tibial tuberosity
  Tuning Fork - over medial malleolus
b0112009_510653.png
クォリティーが悪いですが、Misurya et al 19875からの抜粋

Misurya氏ら曰く、128Hzの周波数が理想的―聞き取りやすく長く続く。それ以上だとkinetic energyが強く、多少の骨のダメージも乗り越えてfalse negativeにつながりやすいんだそうな。
とても簡単に、手軽に行えて正確さもあり、仮に患者が痛みを表現できない状態でも(意識を消失していたりuncooperativeでも)使えるテストで、実用性は高い、と結論付けています。

b0112009_10515880.png
…で、最後。
Moore氏6による、
下肢に限らず、様々な骨折患者を対象にした研究(下の表参照)なんですが、
ツールを置く箇所のルールとして彼が設けたのが、
1) Tuning Forkは骨折の疑いのある骨の遠位に、Stethoscopeは同じ骨の近位に置く(↓図A)。
2) 大きな腫れ(substantial swelling)が見られる場合Tuning forkを骨の近位に、
  Stethoscope腫れの上に置くものとする(↓図B)。
…というものでした。面白いですね。
b0112009_441296.png
*この研究では、骨折を受傷して7日以上が経過してしまうと、治癒が始まってしまい、骨折で生まれたギャップが閉じ始めてしまう、という推測から被験者を受傷7日未満の患者に限っています。

結果はこちら。全体的なAccuracyは81%となかなかな数字です(↓)。
b0112009_114279.png
更に、置き方ルール#1を用いた場合と#2を用いた場合(適切な場合に限り、ですが)を比べると、
Moore氏が考案したModified placementのほうが格段に診断価値が上がっていることが分かります。考察では、『Transverse fractureには最も有効で、AvulsionやBuckleのようなタイプだと繋がっている部分が振動を伝えられてしまうため、診断には向かない』ということも書かれていました。うーむ、面白い!
b0112009_11102795.png
そんなわけで、骨折判別のための道具として、Tuning Forkは痛みを生む診断ツールとしても、また、聴診器と組み合わせて音の変化を生み出す診断ツールとしても、二重の可能性があるんじゃないかな、というお話でした。
ちなみに個人的な意見ですが、weightのあるTuning Forkでないと使い勝手が悪すぎる。振動がすぐに止んでしまうので、多少お高くても(…といっても$2-3の違いですが)weight付きのものが絶対におススメです!

1. Kazemi M. Tuning fork test utilization in detection of fractures: a review of the literature. J Can Chiropr Assoc. 1999;43(2):120-124.
2. Dissmann PD, Han KH. The tuning fork test - a useful tool for improving specificity in "Ottawa positive" patients after ankle inversion injury. Emerg Med. 2006;23:788-790.
3. Bachmann LM, Kolb E, Koller MT, et al. Accuracy of Ottawa ankle rules to exclude fractures of the ankle and mid-foot: systematic review. Br Med J. 2003;326:417-419.
4. Bache JB, Cross AB. The barford test: useful diagnostic sign in fractures of the femoral neck. Practitioner. 1984;228(1839):305-308.
5. Misurya RK, Khare A, Mallick A, et al. Use of tuning fork in diagnostic auscultation of fractures. Injury. 1987;18(1):63-64.
6. Moore MB. The use of a tuning fork and stethoscope to identify fracture. J Athl Train. 2009;44(3):272-274.

[PR]

  by supersy | 2014-04-30 21:30 | Athletic Training | Comments(6)

アイシングは本当に悪なのか?Disinhibitory modalityとしてのCryotherapy

最近、Facebookで「アイシングは悪だ」という記事をよく見かけます。正直に申しまして、「そうだそうだ!」と賛成するATが多いことに私は非常に驚いています。あなた方は今までどんな意図でアイシングを使っていたのですか?と尋ねたい。
4年ほど前の記事でも少し触れたことがあるように、「アイシングは悪だ、使われるべきではない」という提言は決して新しいものではありません。「炎症反応は身体に必要なものなのにそれを制限しては治癒が遅れる」と叫ぶセラピストはもう5年も、10年も前からいました。アンチアイシングは、昔からある説なのです。最近では、(腫れの予防をするのに対して)もう起きてしまった腫れを引かせるのにも効果が無いことはもう事実として広く受け入れられているように、「あれ?アイシングって言ってたような効果は無いんじゃない?」という意見は広まりつつあります。

それならお前はどう思うのかって?
アイシングが『一般的に、必要以上にoveruseされてきたのではないか?』と聞かれればyesと答えざるを得ませんが、『あなたは使うんですか?』と聞かれれば当然yesです。はい、使っています。アイシングが使えるか使えないかは、他の物理療法と一緒、「時と場合、目的による」と考えています。Modalityが悪になるも善になるも、セラピストの技量と判断次第です。我々が、我々が使えうるエビデンスを全て投じて、場合場合で判断していくべきです。アイシングだから、電気治療だからそれが変わるわけではない。違いますか?

せっかくですので、私がアイシングを用いるひとつの大きな例として、AMIについて少しだけ紹介したいと思います。これは、私が毎年教えるTherapeutic Modalities(物理療法)の授業で、特別に一コマ丸々とってしっかり教える分野です。パワーポイントと言う特殊なソフトウェアを用いて、授業と同じように説明したいと思います。
-----------------------------------
b0112009_55448100.png


b0112009_5555964.png
●AMIとは?
まずは、用語の説明から。
AMIは、Arthrogenic Muscle Inhibitionの略。
Arthro = Joint (関節)、 Genic = Creation (生まれる)という意味から、関節を起源とする筋肉の抑制であることが分かります。
筋肉が抑制されるとどうなるか?脳と筋肉が上手くコミュニケーションできなくなり、筋肉を上手く使えなくなる→使われなくなった筋肉は、筋萎縮を起こす、という流れになるのが典型的。例えばこの(↑)写真の左足のように、右足に比べて明らかに筋肉が小さくなったりします。こうなると、一目瞭然ですね。

b0112009_634298.png
このAMIというコンディション、非常によく見られる症状なのにも関わらず、実はこの存在を知っているクリニシャンは少ないのです。この症状を認識し、この症状そのものを他の何よりも正しく治療できる知識がないと、同じ怪我の他のaspectをどんなに頑張って治療してみても患者さんが思うように回復していかないことが多くあります。「どうしてこの患者さん全然良くならないんだろ?」とアナタが首をかしげるようなことがある場合には、もしかしたらAMIを見落としていた、なんてケースが今までにあったのかも…。

b0112009_68627.png
もう一度、改めてAMIが何なのか解説したいと思います。
私のクラスでは、学生全員にこの論文(↓)を前もって宿題として読んでもらい、それを振り返りながら「もう一度定義を確認してみよう」という流れにするのですが、Pietrosimone氏ら1の用いた言葉をそのまま引用させてもらうと、"neural inhibition of uninjured musculature surrounding an injured joint."…となっています。
b0112009_611595.png
この定義には、キーワードが三つ出てきますね。
 -Neural…つまり、筋肉を支配する神経が、この抑制を生み出している張本人
 -Uninjured musculature…影響される筋肉そのものに損傷が見られるわけではない
 -Injured joint…損傷が起きているのは関節(関節包や軟骨、靭帯など)

分かりやすいように実際の例を挙げてみましょう。
例えば、前十字靱帯を単独断裂した患者がいるとします。怪我が実際に起こっている箇所は、前十字靱帯ですから、膝関節内。なのに、神経は「関節に起きた怪我」をきっかけに、周りの筋肉に「静まれっ!」と抑制のシグナルを送り始めます。繰り返すと、筋肉そのものには一切損傷が起こっていません。筋繊維はぴんぴんしております。しかし、その筋肉を支配している神経が「動いちゃダメ!」というシグナルを出すので、活動が抑制されてしまうのです。その結果、皆さんがよく患者でも見るような筋萎縮が大腿四頭筋に見られたりします。
b0112009_6213570.png
もう一度言います。大腿四頭筋そのものが損傷したわけではない、なのに、前十字靱帯の損傷で、最終的に影響を受けてしまうのはそこなのです。皆さんも知っての通り、筋萎縮というのは一度起こってしまうとリハビリでかなりの時間を費やして回復させなければいけない厄介なもの。予防できればそれが一番。ですよね?

*ちなみに、膝の怪我では大腿四頭筋、とくにVMOが。足首の怪我では腓骨筋が、真っ先に影響を受けると考えられています。

b0112009_6313057.png
●AMIの影響
さて、少し解剖学的な話になるのですが、筋肉を支配する神経細胞であるmotor neuron pool (運動ニューロン集団)は、全部が全部あなたの思い通りに使えるわけではありません。例えば、とある筋肉に対して、100(C = Potential)のニューロンが存在したとする。そのうち、あなたが『思いっきり全力でその筋肉を収縮した』時に、60 (B = Reality)のニューロンしか仕事をせず、40程は抑制されたまま、全く働いていない、なんてことはザラです。つまり、あなたの全力(B)は本当の全力(C)にはまだまだ遠かったりする。筋肉が更に抑制された状態だと、100あるうちのほんの40くらい(A = Inhibited)のニューロンしかあなたの言うことを聞いてくれないかも知れません。残りの60は眠ったような状態。これでは、当然収縮も弱くなり、場合によってはスポーツパフォーマンスや日常生活に支障を生むやもしれません。

b0112009_64552100.png
なんでそんなことが分かるのかって?そういう研究をした人がいるからです。
例えば、あなたを特殊な機械に座らせ、足をくくった状態で「思いっきり膝を伸ばそうとしてみて下さい」とお願いする。そして、大腿四頭筋における電気活動を計測してみるのです。あなたが顔を真っ赤にして「ふぬぬぬぬー!」とやっているところへ、電気をバチーンと流して文字通り無理矢理全ての運動ニューロンをfireさせる。この時に観測できたギャップ(↑赤い矢印)が抑制されていて、あなたが使える可能性があるにも関わらず現時点では自由に使えない、使い方を知らない運動ニューロン、ということになります。

この、『抑制されて自分の意思では使えない運動ニューロン』というのは、誰にでもあります。どんな健康な人でも、一流のアスリートでも、本来筋肉が持っている100%のポテンシャルを活用できる、というのはなかなかないものです。やはり、どこか一部は抑制されてしまっていて、使えなくなっているんですよね。
しかし、その『程度』というのは改善可能。例えば、運動をほとんどまともにやったことない子供が、中学校に入って部活動を始めて、毎日身体を動かし、トレーニングを積むことによって筋肉と神経のコミュニケーションが円滑に行えるようになり、抑制が徐々に少なくなってより力強く筋肉を動かせるようになる―こういうのはよくあります。例えば抑制:興奮の割合が、50:50(=本来の力の半分しか発揮できない)から30:70(=7割は思い通り)に成長したり、ということですね。

つまり、AMIというのは、『関節の怪我が原因で抑制の度合いが一気に上がってしまい、運動ニューロンの多くとあなたとのコミュニケーションの手段が断たれてしまった』状況だと考えて下さい。くどいようですが、筋肉自体に損傷が起きているわけではない。ただ、コミュニケーションが取れない状況に陥ってしまった、というわけです。
これが、一時的なもので数分で元に戻るなら良い。でも、数日、数週間、数ヶ月続いてしまったら、それは患者に「筋萎縮」という深刻な二次災害をもたらすことになります。

b0112009_701313.png
●AMIのトリガーとなるもの
さて、さっきからくどいように『怪我をしているのは関節』『関節が原因』と繰り返していますが、それでは本当のAMIの原因とは何なのでしょう?
まずは怪我が起きた直後に起こる、『炎症(inflammation)』という反応の5 cardinal signsを振り返ってみませんか?
Heat? = 患部の温度が上がったから運動ニューロンが抑制される?
いやいや、これが原因なら、天気の良い夏の日には様々な筋障害が生まれそうですよね。
Redness? = まさか色が原因、ってこともないでしょう。
Pain? = 痛みの条件反射として抑制が?惜しい!これはありそうですが、実は違うのです。
Swelling? = ビンゴ!これが実は大正解。
Rice氏ら2の研究によれば、被験者の膝にブドウ糖生理食塩水を17-100ml程注入し、50 mmHgの圧を作り出すと、その圧力によって関節周りに位置する機械的受容器(mechanoreceptor)が「ぬぬっ、怪我が起きている!筋肉共よ、静まれー!」と抑制シグナルを送り出す…ということが確認されています。怪我による腫れでなくても、人工的な腫れでも確認できたことから、AMIを作り出す大きなきっかけは『Presence of Swelling (腫れ)』であることははっきりと分かっています。

*これは、自らを守るためでもあるのです。怪我をする→その部位を無理に使わないよう、部位周りの筋肉を抑制して、回復に専念させよう、というProtective Mechanismであると取れます。

●AMIを無視してトレーニングすると…
一番左上の図(↓)に注目してみましょう。これを、筋繊維の断面図だと思って下さい。
左の"Normal"と書かれた筋肉が、通常の筋肉。多少グレーの'"inhibited"な繊維が見られるものの、ほとんどが赤"Available"で、『使おうと思えば使える』状態であることがわかります。比べると、右の"Inhibited"のほうの筋肉は、グレーが多く、40%程の筋繊維が思い通りに働いてくれないことが確認できます。
b0112009_951336.png
このそれぞれの筋肉に、極簡単な運動を(例えば、余計な負荷をかけない単純な膝の伸展とか)してもらうとしましょう。膝の進展は単純な動作ですから、fireするのは一部の筋繊維で十分。右上のRep 1を見てみると、水色の筋繊維たちがその運動をするために今まさに働いてくれている繊維たち、というのが分かりますか?
では、ゆっくりもう一度上げてみます。Rep 2です。ついさっき仕事をした筋繊維たちは少し休まないと働けないので、紫の『お休みモード』に入っています。それでも、まだまだ"Available"な繊維は十分にありますから、この仕事をするのには十分な水色の繊維たちを確保できます。
それでは、Rep 3は?健康(Normal)な筋肉はまだ余力があるのに比べて、抑制された筋肉(Inhibited)のほうはかなり限界に近づいています。これはなんとか出来ても、もう次の余裕がありません。Rep 4にまで差し掛かると、健康な筋肉は十分に水色の繊維を確保でき、尚且つ次の収縮に間に合うよう筋繊維の回復がほぼ済んだ(黄色の"Almost Ready")状態なのに対し、抑制があるほうはもう全ての筋繊維を使い切ってしまい、水色の繊維が絶対的に不足。故に、Failure = 4回目の収縮が不可能、ということになります。

b0112009_7461861.png
もっとキツい負荷をかけるとその違いが顕著に。バーベルを持ってスクワットをしてみましょう。
Rep 1(↑)でかなりの筋繊維がリクルート(= 水色の筋繊維)され、抑制されているほうの筋肉は既に黄信号なのが分かります。Rep 2ではもう水色の繊維が十分に確保できず、たった2回すらもスクワットできずに筋肉がFailureに達してしまいました。
これを見て「もう疲れたとか出来ないとか言ってる!真面目にやっていない」とクリニシャンが考えてしまうのは怖い落とし穴です。患者さんは精一杯頑張っているのかも知れない。でも、筋肉に抑制がかかっているから、努力が足りないんでなく、精神論云々でもなく、単純にneuromuscularly impossible!なのです。

b0112009_853076.png
これはあくまで例ですが、ここから言えるのは、
怪我と共にAMIを併発している患者は、患部を運動させてもstrength/enduranceを向上させるのに十分なrepetitionすらこなせない。故に、運動療法から得られる利益が極端に限られてくる、ということなのです。
つまり、我々がまず真っ先にやるべきことは、『抑制を取り除くこと(= disinhibit the inhibition)』ということになります。抑制を外した上でトレーニングするなら、十分なrepetitionも出来る、ってことになりますもんね!

これを踏まえて、先のPietrosimone氏ら1とHopkins氏ら3の研究で分かっていることをまとめると、以下のグラフに集約できるかと思います。
b0112009_8173832.png
pre = 通常の状態でのVastus Medialis(VM)の筋収縮力。
post = 注射をして、膝関節に人工的腫れを起こさせた直後のVMの筋収縮力
そこから、被験者に1) Cryotherapy, 2) TENS, 3)何もしないを各30分(グラフ水色の部分)、さらに治療を終えてからも30分観察を続けた結果です。15分毎(注射から15, 30, 45, 60分後)に被験者にVMを最大限まで収縮してもらい、測定された数値を表に示しました。

何も物理療法を使用しないと筋力があっという間にAMIによって低下するのが見られる一方(Control)で、TENSを受けた被験者はTENSを受けている間はその筋力が保てるものの、TENSを取り除いてしまうとすぐにAMIが戻ってしまう、という結果に。最も効果があったのはCryotherapy抑制を取り除き、しかもその効果が治療終了30分後にもまだ継続しているのが分かります。よって…

b0112009_827669.png
AMIを併発している患者を相手に筋力を上げる運動をさせる時には、
1) 事前にCryotherapyをし、その直後に運動をさせる、 もしくは
2) TENSをつけた状態で、同時に運動をさせる、
のどちらか(もしくは両方)が有効だと言えます。個人的には、電極を付けたままスクワットだジャンプださせるわけにはいかないので、Cryotherapyを前もって、が一番理に適ってるかなと。
Pietrosimone氏らの論文によれば、これら(↑)が最もEvidence-Basedな治療の指針。膝の前後にアイスバッグを20分前もって当てておき、そのあと40分間の間にする運動は効果アリ。TENSの場合、運動に干渉しない範囲で高い電流を(strong sensory)流しながら同時に運動をする。
これらの治療(CryotherapyにせよTENSにせよ)は関節をターゲットすること!あくまで原因になっているのは関節周りのMechanoreceptorなわけですから、氷でそれらを冷やして/TENSでノイズを作り出して抑制シグナルをかき消す。その上で、運動をすると。

*NMESは?と思う方も多いかも知れませんが、研究によればNMESは"muscle atrophyを予防するのには有効だけど、disinhibitory modalityとしての効果は無い"ということが分かっています。

そんなわけで、例えば貴方のところにpost-opで膝を腫れ上がらせた患者が来た場合、
RussianでQuads Activationをするその前に、20分ほど膝を氷で冷やし、
AMIを一時的に取り除いた状態で同じ運動をしたほうが、真の効果が得られる、というわけです。単純なステップをひとつ加えるだけで、患者さんの経過も一気に改善が見られるようになるかも知れません。

…どうでしょう?

*ちなみにこの記事の内容に関しては最新エビデンスのレビューを2016年8月30日に再度おこなっています。

-----------------------------------
厳しいことを書くと、多くのATは知識の絶対量が足りません。
今のAT学生はこのレベルの内容をUndergradで学んでいるのです。今、彼らが受けている教育は本当にレベルが高い。プロになって長いAT達は(私自身も含めて)彼らより知識量が圧倒的に足りない分野が多々あります。気を引き締めて、学生らに追いつく真摯さと覚悟でもっともっと勉強する必要があると思います。
前述した「アイシングが悪」という記事に「そうなのか!」とフラフラ流されたり、「今まで何となくアイシングを使っていた、特に理由を考えたことはなかった」というATがいるなら心から反省、猛勉強すべきだと思います。

もっと言うと、私のこの記事を読んで「そうなのか!」と鵜呑みにするのも怖いもんです。
私が嘘をついている可能性も、それから私が私の論に都合の良い論文ばかり集めて紹介している可能性もありますよね?他人から聞いたから、授業でそう習ったからという責任転嫁をせず、自分の力と目でエビデンスを掘り下げ、患者さんと向き合った上で、プロのクリニシャンとして最善の判断をする癖をつけましょう。AMIにしたって、アイシングの効果のほんの一部です。急性の怪我はどうなのか?慢性的な怪我はどうか?色々な角度から、皆さん自身が掘り下げてみて下さい。…って、本当に同じようなことを4年前にもシメに書いてますね。

改めて言います。私はアイシングを毒だとも、万能だとも思わない。
場合によっては逆効果を招くこともあるでしょうし、目的によっては、非常に効果的なmodalityになり得るとも思います。そういう意味では、Thermotherapyも、E-stimも、Ultrasoundも、LASERも、Manual therapyも、全て一緒です。

私の理想のAT像はバランスの取れたTherapeutic interventionの出来る人間。Passiveな治療ばかりもいけないし、かといって全てactiveにして運動だけすればいいというものでもないと思う。機械に頼った治療ばかりもおかしいし、全部徒手療法で、というのもデメリットが大きすぎる。患者を触らなきゃいけない、とは思わないし、患者を触ってはダメ!とも思わない。これ、極端だけどどちらもこの業界ではたまに聞く言葉。現場を回し、且つ最大限のoutcomeを出そうと思うのなら、結局、バランスでしょ。私達は運動療法士でもマッサージ師でもない、Athletic Trainerなんだから。

1. Pietrosimone BG, Hopkins JT, Ingersoll CD. The role of disinhibitory modalities in joint injury rehabilitation. Athl Ther Today. 2008;13(6):2-5.
2. Rice D, McNair PJ, Dalbeth N. Effects of cryotherapy on arthrogenic muscle inhibition using an experimental model of knee swelling. Arthritis Rheum. 2009;61(1):78-83.
3. Hopkins JT, et al. Cryotherapy and TENS decrease arthrogenic muscle inhibition of the vastus medialis following knee joint effusion. J Athl Train. 2001;37:25-31.

[PR]

  by supersy | 2014-04-10 18:30 | Athletic Training | Comments(11)

救急医療の知識とスキル、磨いてますか?

私が医師でも看護師でも理学療法士でもなく、Athletic Trainerという職業に恋に落ちたのは、
ATが唯一健康なpopulationも見られる職業だったから、ということ。
元気に飛び回り、走り回る選手と毎日を共にする。…ということは、怪我に繋がる危険因子や、
怪我になる前の予兆を見つけて早めに取り除ければ、怪我を予防することができる。
痛みが出てから、何か出来なくなってから会いに行く存在、なのではなく、
毎日顔を合わせる存在。変化に気づける存在であること。
患者が患者になる前から時を共にできること。
そんなユニークな医療従事者、他にあまりいませんよね。
だからこそ、ATの『怪我の予防』という分野に於けるポテンシャルったらないぜ!
と思ったわけです。

予防って、本当に素晴らしい。
予防できた怪我や病気は、評価・治療・リハビリすらする必要がないんですもの。
最も効率の良い医療と言えます。
b0112009_2354185.jpg
しかし、ATがスポーツ医療の現場に必要な、最も重要な理由はこれ以外にあります。
それは、突発的な大怪我や救急の迅速な対応。
最近だと、プロ野球で選手同士の衝突により阪神・西岡選手が意識を失うケースがあったり
(日刊スポーツ記事―後に脳震盪・肋骨骨折・肩鎖関節脱臼・鼻骨骨折と診断)、
サッカーではキーパーと衝突、膝を顔面に受けたウクライナの選手が倒れ、意識不明になるという症例があったり(日刊スポーツ記事―後に脳震盪・歯牙破折・顎関節打撲と発表)しました。
こういう場面、もちろんプロスポーツでなくても(高校や大学、アマチュアetc)十分に起こりえます。そんなとき、医療のプロが現場にいるのといないのでは大違い。そう思いませんか?我々ATの究極の仕事は、(時に観客、オフィシャル、コーチ等も含めて)その場にいる全員が安全にスポーツを楽しめる環境を作ること。そして、そこから状況が逸脱するようなことがあれば、即座に対応すること、なのです。つまり、我々は選手の命と人生(QOL)を守るためにいるのです。

**ちなみに、一応プロとして言及しておくと、選手が意識を失ったからと言って
口に手を突っ込んで舌を引っ張り出すのは正しい対処法ではありません。
確かに、意識を失うと舌が緩み、落ちて気道をふさぐ恐れはあります。
しかし、患者の口に手を突っ込むことはまず我々はしません。道具さえあればNPA/OPAなどの補助器具を使って気道を確保するか、もしくはシンプルにHead-tilt/Chin-lift(最も一般的)かJaw Thrust(頚椎・脊髄の損傷が疑われる場合)を使うのが正解です。患者さんの口に手を入れるのは、吐しゃ物があって、それを取り除かなければいけない場合に限ります。しかもそれも、小指でかき出す程度。
即座に対応したカンカバ選手の迅速さと気持ちは素晴らしいですが、餅は餅屋。間違ったテクニックを美談にせず、「やはり現場にはATを!」と皆さんには感じてもらえたら嬉しいです。


b0112009_0255970.jpg
もう時効だから書きますが、
今年、とある試合会場で練習のために会場入りしたら、廊下にその施設の職員さんが意識を失って倒れていて、私と学生が救急対応をした、なんていうこともありました。倒れた時に口の中を切ったみたいで、口から血が出ていたので一瞬吐血を疑ったり、患者さんの病歴が分からないので、心臓発作?脳卒中?癲癇?と数秒間で様々な可能性を考えなければならなかった。自発呼吸と脈拍があり、朦朧としていたものの意識が戻り、最終的には事なきを得たのですが、私達がたまたまあの時間にあの場を歩かなかったら、と考えると怖い気もします。
b0112009_0284563.jpg
(写真はイメージです)


「患者が痛みに叫び声を挙げて転がりまわっているならまだいい」
授業でも現場でも何度も強調します。
「叫んで動けりゃ意識がある。脈がある。自発呼吸がある。少なくともこの3点は既に確認が出来ていることになるからね。本当に深刻な患者は叫ばない、動かない。救急の知識と技術だけは日々磨くことを忘れないように」

b0112009_8561271.jpg
Athletic Trainers are the first line of defense!
スポーツ最前線で仕事するATは、カリキュラムに則って救急医療は授業でもイヤってほど習いますし、心肺蘇生・AEDの資格を常に保持していなければいけなせん。
それで、十分?いいえ、とんでもありません。
やはり、一年に数回は学生はもちろん、プロの医療ライセンスを持つスタッフもフォーマルな『訓練』な場を設け、シュミレーションすることが重要です。どんなに知っているつもりでも、反復を繰り返さなくてはやはりどうしても精度が落ちてしまう。救急医療においては、素早く的確な判断ができるかどうかが全て。自らの知識・技術の精度と現場での緊張感を常に高く保っておく必要があります。

…そんなわけで、今年もやってきました、Emergency Care Workshop!
うちのATプログラムでは、毎年この時期に学生を主体とした救急医療の全員参加ワークショップを行っています。プログラム最上級生の4年生が組織して企画を担当(これも彼らの授業の一環になっています)。講義も実習も全て彼らが下級生に教えます。今年は4時間みっちり使った、充実したワークショップに。とても質が高かったので、私もプログラムディレクターの上司もほとんど口を挟まず、にこにこ眺めていたり一緒に練習したりして無事に終わりました。4年生、とても頑張った!

最初の二時間は、
 ● Wound Care & Splinting
 ● Sudden Death in Athletes
 ● Management & Evaluation of Sport Concussions
の3つのステーションに分かれて、それぞれ講義と軽い実技を。
骨折が疑われる場合はどう患部を固定するか、血のついたグローブをどう安全に外すか…。中でもトマトを使ったsteri-strippingの練習のアイデアは素晴らしかったなぁ。よく思いつくなぁこんなの。使用したトマトはスタッフが後で美味しく…頂けなかったのは申し訳ないですけども。
(粘着剤を使ってしまったので…)
b0112009_84556.png
残りの二時間は
 ● Spine-boarding
 ● Equipment Removal
について、これまた講義とがっつり実技。
b0112009_811889.jpg
NATAが推進するテクニックやエビデンスを振り返りながら、
「患者がうつぶせの場合は?」「仰向けの場合は?」
「(スパインボードに協力する)人数が多い場合は?少ない場合は?」
と様々なシナリオ設定に基づいて実践、練習。
スパインボードでは、頭を持つ人が「現場責任者」となるため、その人物が周りにいかに明確な指示を出せるか、統率を取って患者を安全にスパインボードに固定できるかがカギになります(i.e. "On the count of three, we will lift the patient up by 6 inches as a unit and hold, and XXX, please push and slide the spineboard up to the patient's head till I say "stop." Ready? One, two, three!" どういうキューで何をするのか、混乱する余地の無いくらい明確に、明確に。細かいテクニックについては以前にまとめた別記事をどうぞ)。
うちと提携している高校にあったらしい、Scoopingタイプのスパインボード(写真中央)でも練習。
皆口々に「これキライ!」と言ってましたけど。
b0112009_8164142.png
患者をうつ伏せから仰向けに移動させる際に頚椎がズズッと動いてしまって
「あーー!!!もう一回!」となったり(いいのです、その為の練習です)、
一年生がもう立派に頭を持って、テキパキと指示を出していたり。
それらを監督・指導する四年生もなかなか大人びた顔つきになっていて、
すっかりこのプログラムも成長したなぁと実感しました。

4時間と言う長丁場にも誰も文句言わず、皆真剣に取り組んでくれました。
最後は、皆で集まって集合写真。はいチーズ、で皆ピースをするようになったのは、すぐに「Syバージョンも撮ろう!」と日本人の真似をしたがるうちの子らならでは??
愛されてんだかバカにされてんだか、もう(苦笑)。
b0112009_8491469.jpg

[PR]

  by supersy | 2014-04-04 23:59 | Athletic Training | Comments(2)

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX