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知ってるようで知らない、McMurray's Testのあれこれ。

Evidenceちょっと齧った人が「イマドキMcMurray'sを使うなんて遅れてるぜ!」みたいなこと言っているのを何度か耳にしたことがありますが、これが常々私、ちょっと疑問だったのです。

私が「どんなspecial testを使っても要はその結果をどう最終診断を下す上で使うかが大事であって、このテストを使うのは無駄、ってことは有り得ないのではなかろうか。どんな質のヒントでもヒントはヒント。数が有るに越したことは無い」というスタンスだからbiasがあるのかも知れませんが、統計的に見てもMcMurray's TestのDiagnostic Valueはそんなに低くないと思うんですよね。

…ともあれ、McMurray's Testは非常に難解なテスト。
バリエーションも数多くあるし、恥ずかしながらどれがオリジナルでどれがModificationなのか私自身もはっきりと区別がつけられない状態だったので、これを機に調べてみました。今回の記事はこのSystematic Literature Review1(↓)を元にまとめてみたいと思います。
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Original McMurray's Test by McMurray2
- Posterior segment of (medial/lateral) menisciをテストするためにデザインされた
- Patient lies in the supine position with the knee fully flexed
 (踵が臀部につくくらい)
- Examiner medially rotates the tibia to test the lateral meniscus
- Repeat with lateral rotation to test the medial meniscus
- By altering the position of knee flexion, the whole of the posterior segment of the cartilage
 can be examined  *Note that valgus/varus force is not even mentioned here
- 陽性:A thud or click, which can sometimes be heard but can always be felt
 *Note that pain, clunk, or pop is NOT listed as a positive sign
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オリジナルのMcMurray's Testは驚くほどシンプル。
膝を最大屈曲して脛骨をくるくる回すのみ。それを、様々な角度で繰り返す。
しかしこの「様々な角度」が具体的にどのくらいの屈曲で繰り返すべきなのかは明記されておらず、何回ほどどの程度の屈曲で繰り返せばいいのかはちょっと疑問が残ります。
陽性の定義も、まとめるとPalpable (maybe audible too) thud or clickで、
痛みについては触れられていないのが特徴です。

Original ?? McMurray's Test in Hing et al1
ここから派生したのか、はたまたただの勘違いなのか…。
今回メインに読んだHing et alの記事によれば、こちらが"The (Original) McMurray's Test, as described in Corea et al3"らしいのですが、私このCoreal et alの記事を読んでみてもこんな記述はどこにもなかったんですけどねぇ…。Hingさんたちが読み間違えたんじゃないかな?
ともあれ、彼らが「オリジナル」として説明しているのは、
- Flex patient's knee beyond 90°、fully IR/ER the tibia on femur
 *IR for lateral meniscus, ER for medial meniscus
- Gradually increase degrees of knee flexion while applying full IR/ER
 progressively load more posterior segments of the menisci
- 陽性:A thud or click palpated at the joint line
 *Again, note that pain, clunk, or pop is NOT listed as a positive sign
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ここで特筆すべきは、90°あたりの膝屈曲から始めて、徐々に屈曲度数を増やしていく、
という手順でしょうか(*本家のオリジナルは最大屈曲から減らしていく)。
Joint lineを触診して…という表記も正式に始めてここで入ります。

Original McMurray's Test II by McMurray4
ちょっとここでややこしくなるのが、先ほどの研究から6年後に発表されたMcMurray氏の記事では、Exam methodの"Manipulation"の記述がちょっと変化しているんですよね。
こんな感じです。
- Patient lies in the supine position with the knee fully flexed
 (踵が臀部につくくらい)
- Examiner medially rotates the tibia and extends the knee
 *to test the lateral meniscus
- Repeat with lateral rotation to test the medial meniscus
- 陽性:"Abnormal click which is painful"
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「最大屈曲から回転(IR/ER)を加え、そこからゆっくりと伸展させていく」
という動きが加わったダイナミックなテストになっています。
大学院時代にかなり読み込んだMageeの教科書にも、
現在私が授業で使っているCookの教科書にもこれと同様の記述が使われていました。
陽性の定義も少しばかり変化が見られます。McMurray氏はこの研究で「損傷の無い半月板がただlooseだというだけで痛みを伴わないclickを起こすことがある。これと区別するためにも、abnormal click which is painfulが陽性として認められるべき」という、「click + pain」を新たに陽性の定義として推奨しています。この描写だと「painless clickや痛みのみの場合は陰性」と考えるのが理に適っていそうです。

Modified McMurray's Test: Adding Valgus/Varus by Anderson & Lipscomb5
この研究では、Valgus/varusを加えた場合のdiagnostic valueはシンプルなMcMurray'sと比べてどうなのか、という比較をしており、The Medial-Lateral Grind Testという新たな名前をつけてその信憑性を測っています。
- Palpate the anterior joint line
- A valgus stress is applied as the knee is flexed to 45°(Fig B)
- A varus stress is applied as it is extended (Fig D)
 *This produces a circular motion of the knee (Fig A-D)
- 陽性:A distinct grinding sensation at the joint line
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このテストの陽性はjoint lineにおける"Grinding Sensation"で、
やはりPainは含まれていません。McMurray's Testと言われて多くの人が想像する、
あのクラシックなcircular motionがここで始めて出てきましたね。

Modified McMurray's Test: Adding Valgus/Varus + Axial Load by Kurosaka et al6
これの更に進化系のようなテストが、The Axially Loaded Pivot Shift Test。
Valgus forceに加えて、Axial loadingをしています。正式な手順は、こんな感じ。
- Patient lies in a supine position with the knee extended
- Valgus force is applied to the proximal tibia with maximum internal rotation of tibia
- Axial compression is added and the knee flexed to 30 and 45° of flexion
- Maintain the axial compression while extending knee fully
- 陽性:Pain along the joint line or a click felt by examiner   
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これ、試験者がjoint lineをpalpateしていないので、
陽性のサインである「click felt by the examiner」は必ずしもjoint lineのclickingではなくても良い、ということになるのでしょうか…。解釈が少し難しいです。

Modified McMurray's Test: Weight Bearing by Akseki et al7
どうせAxial loadを加えるなら、Passiveにやらずに立たせちゃえばいいんじゃない?
と、McMurray'sをWeight-bearingでやってしまったのがEge's Test。
- Patient stands with feet 30-40 cm apart and knees in full extension
- Patient maximally externally rotates the legs and slowly squats, then stands up
 * To test medial meniscus
- Patient maximally internally rotates the legs and slowly squats, then stands up
 * To test lateral meniscus
- 陽性:Pain and/or click
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Modified McMurray's Test: Weight Bearing by Karachalios et al8
もうひとつのWeight-bearingのバージョンがThessaly Test。
こちらは比較的有名になってきてますよね…。Ege's testとコンセプトは一緒です。
- Patient stands flatfooted on the floor
- Performed at 5° and 20°of knee flexion
- Patient rotates knee and body, internally and externally,
 3 times, keeping the knee in slight flexion (5°)
- Repeat at 20°
- 陽性:Joint line discomfort or locking, catching
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試験者は患者の目の前に立ち、バランスを失って倒れることのないよう、手を持ってサポートします。Locking/catchingも陽性のサインに入っているという点が、新しいですね。

そんなわけで…とにかく数多くの種類があることが分かりました。
いやー、でも、McMurray's本家はValgus/Varusアリなのかと思ってました。
*事実、それを"McMurray"として載せてしまっている参考書も少なくありません。
オリジナルは非常にシンプルだったのいうのは大発見。
徐々に、様々な研究者によってValgus/Varus force、Axial load、そしてJoint-line painが加えられていったようです。厳しく言うと、これらは本来のMcMurray'sには当てはまらないのですね。

さて、これだけバリエーションがある中で、一体どれにどういった結論付けをすればいいのか?
冒頭のSystematic Literature Reviewをまとめてみると…

1. McMurray's Testのintertester reliabilityは決して高くない。
 これは、オリジナルはともかく、最近行われている変化形のMcMurray'sそのものが
 複雑な造りをしていることから驚くようなことではない。経験を長く積んでる試験者が
 テストを行ったほうががより正確な結果を生みやすい、という研究もあるが、
 総じて経験と正確さの関係は今のところ証明されてはいない。
2. SensitivityよりはSpecificityのほうが高く、false positiveの可能性は低め=good to rule in。
3. Medial meniscusに対してよりsensitiveだが、Lateral meniscusにはよりspecific。
4. 患者がMeniscal tear以外の怪我も伴っている場合(i.e. ACL tear)、
 テストの正確性は下がるという研究者もいる。真偽はまだ不明。
5. 陽性の定義は様々だが、総じて「pain + click」両方を陽性とした研究結果のほうが
 higher diagnostic valueを示した。
6. 今のところModified McMurray's Test (add valgus/varus and/or axial load)のほうが
 Original McMurrayに比べて優秀であるが、やはり単独で使われるべきものではない。
 かける力を増やせば増やす分、administerも難しくなるためこういった
 Modified versionの研究はこれからも続けられていくべき。

詳細を少し省いて、McMurray関連の全ての研究結果を挙げてみると…
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やっぱり、何度見ても、言うほど悪くはないと思うんですよねぇ。
この数字と上の結論とを総合してみて、私は、
- Good to rule inを念頭に置いて使う(陰性はあまり信頼性無し)。
- Clickのみ、Painのみよりも二つ(Click + Pain at joint line)とも在った場合のほうが信憑性高し。
- ReliabilityとSensitivity/Specificityの丁度良いバランスを見つけなければならない。
 個人的にValgus/Varus + Axial loadをするのは複雑すぎるように感じるので、
 Valgus/Varusのみを加えたModified McMurray'sをこれからやっていこうかな。
 これくらいなら患者の体型に関わらず同様に出来る自信が今のところあるし、
 Axial loadはThessaly Testで補えばよし。
…なんていう感じでこれから役立てていければな、と思っています。
上はあくまで、私の個人的な見解です。
皆様、ご自分のスキルと理解に基づき、一番の実践法をそれぞれ考えてみてくださいまし。
Medial meniscal tearのほうがsensitive、lateral meniscal tearがspecific、
というのも面白い結果ですね。頭の隅っこには置いておきたいな。


1. Hing W, et al. Validity of the McMurray's test and modified versions of the test: a systematic literature review. J Man Manip Ther. 2009;17(1):22-35.
2. McMurray TP. The semilunar cartilages. Br J Surg. 1942;29:407-414.
3. Corea JR, Moussa M, Al Othman A. McMurray's test tested. Knee Surg Sports Traumatol Arthroscopy. 1994;2:70-72.
4. McMurray TP. Internal derangements of the knee joint: lecture delivered at the Royal College of Surgeons of England on 15th July, 1948. Ann R Coll Surg Engl. 1948;3(4):210-219.
5. Anderson AF, Lipscomb AB. Clinical diagnosis of meniscal tears: description of a new manipulative test. Am J Sports Med. 1986;14(4):291-293.
6. Kurosaka M, et al. Efficacy of the axially loaded pivot shift test for the diagnosis of a meniscal tear. Int Orthop. 1999;23:271-274.
7. Akseki D, et al. A new weight-bearing meniscal test and a comparison with McMurray's test and joint line tenderness. Arthroscopy. 2004;20:951-958.
8. Karachalios T, et al. Diagnostic accuracy of a new clkinical test (the Thessaly Test) for early detection of meniscal tears. J Bone Joint Surg. 2005;87:955-962.

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  by supersy | 2013-04-23 19:30 | Athletic Training | Comments(2)

Scapular Dyskinesisを診断・理解する。

さて。忘れないうちに書いておきたかったのに、すっかり間があいてしまいました。
2月の後半にうちの学生を対象にしたworkshopを開催したのですが、
そのときに話した、Scapular Dyskinesisについてまとめておこうと思います。
(あっ、ちなみにScapular Dyskinesisを日本語で何と言うかご存知の方います?
調べたのですが分かりませんでした…)
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実際に使用したパワーポイントのスライドも挟みつつ、
講義の内容を要点を絞って振り返ってみたいと思います。
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●Scapulaは動く
Scapula(肩甲骨)と聞くと、皆さん肋骨にどっしり座って動かないもの、
なんていう印象があるかも知れませんが、それは大間違い!肩甲骨って、かなり動くのです。
さて、それでは実際肩甲骨はどのように動くのでしょうか。
胸郭(Rib cage)に対してタテやヨコに滑るようにスライドする、という観点から、
まずは動きを4つに分類できます。
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挙上(Elevation)、下制(Depression)、後退もしくは内転(Retraction or Adduction)、前進もしくは外転(Protraction or Abduction)です。それぞれ、肩を耳につけるように持ち上げる、肩をまっすぐすとんと落とす、肩甲骨同士で紙切れを挟むイメージでくっつける、大きいものを抱えるように腕を前方に突き出す、といった動きです。

●Scapulaはまだまだ動く
シンプルなスライドだけではありません。
肩甲骨は、3つの異なる軸に対して、3つの異なる面で回転をするのです。
ぐるぐる。ぐーるぐる。ああ、目が回る。
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まずは、上方回旋と下方回旋(Upward Rotation and Downward Rotation)。肩甲骨の真ん中を前後に貫くように軸を置き、Frontal plane上で起こる回転です。ん、どっちが上方でどっちが下方なのかって?Glenoidの位置が元になりますので、回転が終わってGlenoidが上向きになっていれば上方、下を向いていれば下方と判断していただいて大丈夫です(↓)。
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で、この上方・下方回旋。肩の屈曲中にどういったタイミングでどの程度起こるか、というのを表したグラフがこちら(↓)です。とりあえず点線は無視して、実線のみご注目下さい。腕を脇に休めている開始位置(Resting position)ではもともと肩甲骨は左右に偏ることなく直立した状態で(2°±5°)、腕を上げるにつれ、その屈曲に比例してほぼまっすぐ直線的に上方回旋(UR)が起こっているのが分かります。屈曲が最大に達するときには上方回旋も最大の約50°に。下降時も同様で、最大屈曲から伸展へ持っていくと、ゆるやかに継続的に下方回旋(DR)が起こります。
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で、次は外旋と内旋です(↑)。英語だとExternal & Internal Rotation of the Scapula。
地面に垂直な軸を中心にTransverse plane上を手のひらをひらひらと返すように回ります。ご存知のように、肩甲骨はそもそもScapular planeと呼ばれる独自の面に位置しており、Restingの状態でおよそ30-45°ほど内旋しています。FrontalとSagittal Planeの中間に斜めに位置している感じですかね。
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この外旋(ER)・内旋(IR)が肩関節の屈曲と共にどのように変化していくのか?
動きの量に関するグラフはこちら(↓)。IRした状態から、最初にぐぐっとさらにIRして、
90°の屈曲を越えたあたりから一気にERしていくのが分かります。最大ER時にも相対的にはまだIR状態にあり(27°ほどでしょうか)、そこから腕を下降させるにつれ、今度はすとーんとIRが起こり、その角度は最大45°まで、そして最後にまたslight ERが起こると言う、グラフで見ると「W」の字のような形になっています。
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ちなみにIRの度合いが過ぎるとmedial borderが胸郭から浮き上がってしまってScapular Wingingになるわけですが、これについては以前まとめたので、興味のある方はこちらをどうぞ。

さて、最後の回転は肩甲骨の前傾・後傾(Anterior and Posterior Tilt)です。
文字通り、肩甲骨が前に傾いたり後ろに仰け反ったりするような動きです(↓)。
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同様に、屈曲時の前傾(AT)・後傾(PT)の変化を見てみましょう。
グラフ(↓)を見ると、屈曲が増えるにつれ後継が3段階で起こっているのが分かるかと思います。
    0-60°の屈曲時:比較的速いペースで後傾
    60-120°:ゆるやかに後傾
    120°-max:急激に後傾
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色を入れるとこんな感じ(↓)
    0-60°の屈曲時:比較的速いペースで後傾
    60-120°:ゆるやかに後傾
    120°-max:急激に後傾
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腕を軽く上げたり回したりするだけでも、肩甲骨は胸郭に対して複雑に、multi-planeで動いていることが分かります。アスレティックトレーナーとして、肩甲骨がどの軸に対してどういうタイミングで動くのが「普通」なのかを知っておくことは非常に大切です。特に3つの回転: 規則性のあるUR、「W」で起こるER、そして三段階に変化するPT。
慣れるまで様々な人の肩関節&肩甲骨の動きを見て、目を鍛えましょう。

で。

ようやくここで本題です。
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●Scapular Dyskinesis
Scapular Dyskinesisの定義から入ると、b0112009_23572241.jpg
"The term given to visible alternations in scapular position and motion patterns, which have been associated with shoulder injury - such as instability, rotator cuff (RC) tears, impingement syndrome etc"
ここで注目すべきは"visible(目に見える)"肩甲骨のポジション・動きの逸脱だ、ということ。例えば右の少年は右肩をabductしようとしているわけですが、URが十分に行われずに恐らくsubacromial spaceがどんどん狭くなり、棘上筋腱を圧迫。それを補おうと肩甲骨そのものを挙上してしまっているのが如実に確認できます。

こういったcompensationを日々の動きの中、
もしくはスポーツのパフォーマンス中に繰り返していれば、肩甲骨周りのどこかに少しずつ、unusualなストレスが蓄積されることになり、結果、怪我につながることは十分に考えられるわけです。
GHにinstabilityがある、Subacromial impingement syndromeがみられる、
というと、ATの学生は肩関節の評価・治療ばかりに走りがちですが、
問題の根本は肩関節の「足場」である肩甲骨が理想通りに動けていないからだ、という可能性は十分にあります。「足場」が足場としての機能を果たせておらず、ぐらぐらふらふらしているから、GHたちがそれを補うために頑張りすぎてしまっている、と。こういった場合、GHをいくら頑張って治療・リハビリしたって見られる改善には限界があることでしょう。しっかり「根本」の問題をrecognizeし、それに向かってアプローチすることがとってもとっても大事です。
ここんとこ、undergradレベルの学生だとちゃんと教えてもらえなかったりします。

●Clinical Exam
Scapular Dyskinesisを正しく診断するために、
幾つもの手段が提案されてきました。b0112009_0235426.png
一番原始的な方法は、「目を使って見る!」
いわゆる、visual observationというやつです。

<Postural Observation>
まず単純なのが、患者をなるべく普通に立たせて、その姿勢を見る。
例えば、右の写真(→)はForward head postureですが、首を前に突き出す動作に伴い、肩甲骨が通常(左→)に比べて更に前傾、内転、そして前進してしまっているのが良く分かります。
ScapulaのResting positionがそもそもズレてしまっていると、そこから始まるMotion Patternも正常なわけがありません。

<Static Measurement - Lateral Scapular Slide test>
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こちらはテープメジャーを使って、「Inferior angleから同レベルのSpinous processまでの距離を測る」という単純明快なテスト。Resting position(肩をリラックスさせ、腕を両脇に下ろした状態)と、45°(手を腰に当てた状態)、それから90°(腕を床に水平になるまで上げる)でそれぞれ測り、左右差が大きければ陽性になります。
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テープさえあれば特殊な技術が無くても可能な、簡単なテストです。…が、信憑性はどうでしょう。陽性と考えられるには1cmから1.5cmの左右差があった場合ですが、どちらの数字も統計的には思わしくありません。原因として、
  1) 左右に同じ程度の異常があった場合、「左右差」が出ない可能性が。
  2) Scapular Dyskinesisというのはmulti-planeで起こる、3-Dの異常。
   平面(2-D)で測るには限界がある。
などの要素が考えられます。特に(2)に関しては、肩甲骨の異常は動いているとき、特に腕を下げる際に顕著になりやすいので、こういったStaticなテストでは正確に測りたいものを測れているかには疑問が残ります。

<Scapular Dyskinesis Test>
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それじゃあもっとDynamicな動きを見てみようぜ!と考えられたのがこのテスト、その名もそのまんま、Scapular Dyskinesis Test。患者に重りを手に持たせ(1-5 lbsのごく軽いもの。これは体重に比例したほうが良いという研究者もアリ)…
 1. 親指を上にしてダンベルを持ち、3秒間数えながら出来る限り高く両肩関節を屈曲する。
 2. 同様に、3秒数えながら腕を下げる。
 3. これを5回繰り返す。
Examinerは患者の後ろに立ち、肩甲骨の動きを肉眼で観察します。
ビデオ撮影をした上で肉眼で確認してもオーケーです。
 Positive Test: Abnormal motion (scapular winging) or dysrhythmia
Wingingはもちろん、Premasure、excessive、stutteringな動きが上下運動と同時に起これば陽性とみなされ、Scapular Dyskinesisあり、という結論になります。上の動画なんか、まさに陽性ですね。これ、一番最初に提唱したKibler氏は、「観察に基づいて患者のscapular dyskinesisをサブカテゴリーに分類すべし」なんてやっていたんですが、、、詳しくは省きますがそのsubtypeというのがちょっと複雑で、confusing以外のナニモノでもなかったんです。これではinter-rater reliabilityが低い、ということで、後にMcClure氏とUhl氏が「単純に、yes, it's abnormalか、no, it's not abnormalでいいんじゃね」とシンプルバージョンに変更して、現在に至ります。この変更のお陰で、inter-rater agreementは79%に上昇しました。
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さて、じゃあその動きが「異常であるか否か」という判断は何に基づいてすればいいのか?
  1) 理想(Ideal)と比べる(i.e. 前述した3種類の回転が正しいタイミングで起こっているか)
  2) 健側と比べ、非対称であるかどうかで決める
  3) 何度か回数をやらせることで、inconsistencyを見つける
   (i.e. 特に筋肉が疲れてくるとリズムが崩れ易い)
研究4によれば、Scapular Dyskinesis患者(点線)と健康な被験者(実線)との違いが最も顕著に出るのはUpward rotation (↑右グラフ)。そもそもResting Positionが9°ほどDownward rotationをしたところから始まっていて、その差は120°あたりまで解消されないまま(そこからMaxに持っていく最中に不思議と"catch up"し、最終的な辻褄は合うのですが)。
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少し冒頭でも触りましたが、十分なUpward rotationが欠けているとSubacromial impingement syndromeの原因に特になりやすいんです。そして、あれあれ、よく考えてみるとImpingementの痛みの典型は"Painful Arc"―棘上筋腱が構造上最も肩峰突起に近づく、60~120°の間(↑の赤部分と←写真)での痛み。丁度これは、SD患者が"catch up"する前にあたり、まだまだUpward rotationが十分に出来ていない箇所と一致します。もしかして、これが多くの患者の痛みの原因となっているのでしょうか。
 
●Asymptomatic Scapular Dyskinesis is a common finding
しかし、Scapular Dyskinesisは偏平足等と似ていて、持っているから悪!というわけでは必ずしもありません。肩甲骨の動きが鈍いからって、痛みが必ず出るわけではないからです。
こうなると、仮にScapular Dyskinesisを患者に見つけても、
以下のことを考えなければいけなくなってきます。
 1. 患者がScapular Dyskinesisをexhibitしているが、
  今のところ特に大問題ではなさそうだし、それを治療する必要・メリットはあるのか?
 2. 患者がScapular Dyskinesisをexhibitしていて、実際に痛みもあるが、
  「Scapular Dyskinesisとこの痛みは直結しており、これを治せば痛みも治る」
  とどうしたら断言できるのか?
という次の課題が出てくるわけです。
さて、これらをクリアするにはどうしたら良いのでしょう?

●Manual Correction
で、ここで注目すべきはちょっとnatureの異なるSpecial Test、
Manual correctionのテクニックです。

<Scapular Assistance Test>
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Upward rotationが十分に起きないなら無理矢理起こさしてしまえばいいじゃないか!
という大胆な試みのこのテスト。ExaminerがInferior angleとSuperior angleの両方を手で包むように抱え、患者の自発的arm elevationと同時に肩甲骨を手を使ってPosterior tile & Upward rotateをアシスト、促進してやる、というテストです。つまり、Examinerの手がSerratus anteriorとLower trapeziusの役割を果たすわけですね。これらの動きを「手伝って」やることでSubacromial spaceがrestoreされますから、痛みがなくなれば陽性。まさに痛みの原因はlack of UR & PTだったんだね、リハビリではそこを重視していこう!という考え方ができます。

<Scapular Retraction / Reposition Test>
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こちらも非常に似たコンセプトですが、ちょっと違うことを行う二つのテスト。まずは、Scapular Retraction Test(↑スライド右の写真ふたつ)から。このテストは「Protracted ScapulaではRCのactivationが23%ほど下降する」という研究結果に基づき、Examinerの手を使って肩甲骨のmedial borderをそのまま丸々がっつり固定して、Retracted positionで動かないようにしちゃおうぜ!というもの。こうすることでRCの筋力がよりoptimizeされ、屈曲中に患者が自力でGHをstablizeすることが可能になる→痛みも和らぐのでは、というのが狙いです。
Scapular Reposition Test(↑スライド写真左)は、「別に思いっきりRetractした状態で固定しなくてもいいんじゃね?どっちかっていうPosterior tiltとExternal Rotationを促進させようや」という少し異なるコンセプト。両手でぎゅぎゅっと固定するのではなく、指先をAC jointにひっかけるイメージで、Inferior angleに向けて手のひらと前腕を斜めに置きましょう。この時、前腕や手のひらではそれほど圧迫をせず、どちらかというとこれらが「mainly a proprioceptive reminder for maintaining the scapular position」として働くように軽めに文字通り「置く」イメージで。患者が屈曲を行うときに、AC jointを後方に引っ張ってPosterior tiltとExternal rotationをサポート。これで痛みが軽減されたかチェックします。

これらのテスト全て、「痛みや症状が軽減されれば、Scapular Dyskinesisがそれらの症状の原因だったと結論付けられる」「なので、治療・リハビリではそこを重点的に」という根拠付けが出来ます。盲目的に痛みのみを治療するのではなく、この結果に基づきOveractiveになっている筋肉をrelease・inhibitしたり、弱くなっている筋肉をactivateしたり、というより直接的で限定的なアプローチができるというわけです。
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最後に、面白いと思ったのでこれも。
Scapular Reposition Testが非常に効果があり、且つ常にmanual facilitationがないと身体がすぐにそれを忘れてしまい、自発的にその姿勢を保つのが難しい、なんていう患者さんはテーピングやブレースを試してみるのもいいかも知れません。ここらへんはもうちょっと研究が必要な分野ですが、テーピングやブレースが前述のSpecial Testの「Examinerの手」の役割を果たし、実際に症状を和らげたという報告が最近発表されたりしています。

…という、まぁ非常に基本的な内容だったのですが、うちの学生らが上肢評価の授業でこれらを一切習わなかったようだったので、こんな感じでカバーしてみました。
Scapular Assistance/Retraction/Reposition Testの統計は今のところ発表されているものはありません…が、実際にActive Shoulder Flexionで痛みのある学生なんかを実験台に試させたりすると、痛みが嘘のように消えたりして面白いもんです。筋力が上がった、という実験結果もあります。

個人的に私はここからさらに一歩二歩踏み込んで、
横隔膜・胸郭(Rib cage)のpositioningが原因で肩甲骨が胸郭にしっくり座れていないことがあるのではないか→先に診るべきはむしろこっちかな、という考え方になってきていますが、ね。
いやはや、Kinetic Chainを追っていくと、キリがないです。
でもこれでうちの学生たちがもうちょっと広い目を持って怪我の評価をしてくれるようになれば幸いです。事件は必ずしも現場では起きていなかったりするのでね。

1. Kibler WB, Uhl TL, Maddux JW, et al. Qualitative clinical evaluation of scapular dysfunction: a reliability study. J Shoulder Elbow Surg. 2002;11:550-6.
2. McClure P, Tate AR, Kareha S, et al. A clinical method for identifying scapular dyskinesis, part 1: reliability. J Athl Training. 2009;44(2):160-4.
3. Uhl TL, Kibler B, Gecewich B, et al. Evaluation of clinical assessment methods for scapular dyskinesis. Arthrosco: J Arthroscopic Related Surg. 2009;25(11):1240-8.
4. Tate AR, McClure P, Kareha S, et al. A clinical method for identifying scapular dyskinesis, part 2: validity. J Athl Training. 2009;44(2):165-73.
5. Kibler B, McMullen J. Scapular dyskinesis and its relation to shoulder pain. J Am Acad Orthop Sur. 2003;11(2);142-51.
6. McClure P, Greenberg E, Kareha S. Review article: evaluation and management of scapular dysfunction. Sports Med Arthrosc Rev. 2012;20(1):39-48.
7. Seitz AL, McClure PW, Lynch SS, et al. Effects of scapular dyskinesis and scapular assistance test on subacromial space during static arm elevation. J Shoulder Elbow Surg. 2012;21:631-640.
8. Rabin A, Irrgang JJ, Fitzgernals GK, et al. The intertester reliability of the scapular assistance test. J Orthop Sports Phys Ther. 2008;38:653-60.
9. Kibler WB, Sciascia A, Dome D. Evaluation of apparent and absolute supraspinatus strength in patients with shoulder injury using the scapular retraction test. Am J Sports Med. 2006;19-125-58.
10. Tate AR, McClure P, Kareha S, et al. Effect of the scapula reposition test on shoulder impingement symptoms and elevation strength in overhead athletes. J Orthop Sports Phys Ther. 2008;38(1):4-11.
11. Lewis JS, Wright C, Green A. Subacromial impingement syndroms: the effect of changing posture on shoulder range of movement. J Orthop Sports Phys Ther. 2005;35:72-87
12. Greig AM, Bennell KL, Briggs AM, et al. Postural taping decreases thoracic hyphosis but does not influence trunk muscle electromyographic activity or balance in women with osteoporosis. Man Ther. 2007;13:249-57.

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  by supersy | 2013-04-04 17:30 | Athletic Training | Comments(0)

不測の事態を予測する。

アメリカにいる方なら知らないってことはないと思うんですが。
一昨日の大学男子バスケットボールElite EightのDuke vs Louisvilleの試合で、
とんでもない怪我が起きましたね。全米のベスト4を決める重要な試合だっただけに、
恐らく皆テレビに首付けで観ていたのでしょう。怪我をリアルタイムで目撃した方も多いはず。
それから一日たって週明けの昨日、AT facilityはその話題で持ちきりでした。
学生が、「Sy!Sy!アレ見た?」興奮して聞いてくるので、「もちろん。今日の授業でも話すよ」と答えたら、「やったー!Syのことだから絶対授業でもやると思ったんだ。楽しみ!」とわくわくしておりました。つくづく私ら、変な人種だわ。

え?何の話かさっぱり分からないって?
そういう方は、下の動画を見てください。
Graphicなので、苦手な方はご遠慮願います(この下にも写真が出ますので注意)。
でも医療関係の方は、是非見ておいたほうがいいと思います。










授業でもまずこの動画を見て、ひとしきり学生をギャーギャー騒がせたあと、
「さて、何が起きたかひとつひとつ振り返ってみようか」ということに。

「まず、3ポイントシュートをcontestしようとして、この選手が変な感じで着地をしたね。足がぐにゃっと曲がったように見えるけれど、この怪我は、パッと見で、何だろう?」
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口をそろえて、「Open tib-fib fracture(脛・腓骨開放骨折)」と答える学生たち。
「その通り。初期のメディアの発表ではOpen Tibial Compound fxということだったけど、後でTibiaが二箇所で折れていた、に訂正されたから、compound fxというわけではなかったみたいだね。fibulaも入っていたかどうか私は正式な発表を聞いていないんだけど、足がこの角度で曲がっていることを考えると、fibulaもintactとは考えにくい」
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*追記:後に発表された彼の足のレントゲンを見る限りでは、
Tibiaが二箇所で、Fibulaが一箇所で
やはり骨折を起こしていたようです。
(写真はクリックで拡大)


「着地だけで、あんなことになるもんなんですか?」と質問する学生。
「良い着眼点だね、確かに、こういうタイプの怪我はアメフトならともかく、バスケットボールではまずなかなか起きない。プレイヤー同士の接触があったわけでもないしね。若くて健康な大学バスケットボール選手がこんなに簡単に骨を折るとは考えにくい。たまたま最高の力が最高のタイミングでかかってしまった、という可能性ももちろんあるけれど、疲労骨折がもともとあったとか、osteopeniaやmetabolic系の疾患、栄養のバランスの問題や喫煙等の何かしらの"predisposing factor"があったのかなと思ってしまうね」

「さて、怪我の直後の周りの人の反応はどうだったかな?チームメイトは?」
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「皆気分悪くなってた」 「ばたばた倒れてたね」「泣いてる人も、吐いてる人もいた」
「自分のチームメイトがあんなことになったら、そりゃびっくりを超えているよね。ショックすぎて、とても立っていられなくなるチームメイトが多かったようだ。コーチも相手チームも、観客でさえも」

「さて、ここで現れた彼を救いにやってきたヒーローは誰かな?」
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「Athletic trainer!!!」
「右の人はLouisvilleのAthletic Trainer、Fred Hina。左の人は実はよくわからないんだけど、ATCかな、Physicianかな。彼らが最初に何をしたか分かる?」
「タオルで足を隠してた」
「そうだね。想像してもごらんよ。自分の足が明後日の方向を向いているのをまじまじと見たら、誰だってパニックになるよね。全米規模でテレビ放送されているのはメディカルスタッフももちろん知っていただろうし、観客の目もある。事を必要以上に大きくする必要はない、選手を落ち着かせるためにも、これは賢い判断だったと言えるね」
「開放骨折ですよね、タオルなんか被せて、感染症を起こす危険はないのでしょうか?」
「これまた良い質問だね!その通り、開放骨折ではバイキンが入って感染を引き起こすことが最も怖い。それを防ぐためにできる限りの努力をするのが現場の責任でもある。でも、この場合、怪我が起きたのは比較的キレイなバスケットボールコート。泥まみれのアメフトやサッカー・野球のフィールドとは違う。感染症の可能性はぐっと低いと考えて大丈夫。タオルも数が十分に用意されていただろうし、中でもキレイなものを選べば問題ないはずだよ。選手がすでに使用した、汗でぐちゃぐちゃのものだったら考え直したほうがいいけれど」

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「このあと、画面では分かりづらいけど、アスレティックトレーナーは血流の有無を確認して、骨折箇所をre-alignし、膝を軽く曲げた状態でsplint。ストレッチャーで選手を病院に運び、二時間の緊急手術を受けた。こういう怪我だとNeurovascular関係のcomplication(合併症)がとても心配だけれど、幸運なことにそういうこともなかったようだ。今朝の報道では、もう松葉杖を使って自力で動いていたというよ。復帰には約一年かかるらしいけれど、根気強くがんばって欲しいね」
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「さて、ここで本題に入ろう。このLouisvilleのAthletic Trainerさんだけど、彼はこの日、『よーし今日はElite Eightの試合だ、そしてうちの選手が派手な開放骨折をしてくれるぜ!』と思っていたと思うかい?」
「えー、絶対思ってないよ!こんなことになるなんて思ってもいなかったよ」
「それじゃあ、彼のとった対応に問題はあったかい?怪我にきちんと対処できていたかい?」
「全部ちゃんとしていたと思うよ」
「なるほど、じゃあ、彼は準備はできていたわけだ。予期はしていなかったかも知れないけど、準備はばっちりできていた。そういうことだね?」
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「それじゃあ聞くけど、もし皆がこの現場にいたとして、彼の立場で対応しなければいけないとしたら、皆はその準備ができているかい?彼のように迅速で的確な対応ができるかい?」
 真剣な顔で頷く生徒、「いや、できないと思う…」と苦笑いをする生徒も。
「もうひとつ聞こう。この授業を履修しているほとんどの子が、インターンなりclinical experiencesなり、何らかの現場の経験を積んでいる真っ最中だと思うけれど、君たちは現場で毎日『今日、大怪我が起こるかも!』とexpectしているかい?」
 今度は揃って首を横に振る生徒たち。
「また今日も実習かー、なんて思ってしまっていないかい?」
 頷く学生。

「あのね、君たちはまだ学生だし、理由があるから学生なんだ。だから、『まだ準備できてない』と答えた子は、それでいいんだよ、何の問題もない。今のところはね」
「でも、君たちがプロとして世に出るのはあと2-3年だ。2-3年も、じゃない。2-3年しか、だ。思ったよりもあっという間に過ぎるよ」
「じゃあ、いつ"準備が出来ていれ"ばいいのかな。卒業のときかな?卒業式で、舞台の上を歩いているその間に、ちゃきーんと突然readyになるのかな?なれるのかな?」
 なれません、とまた首を振る生徒たち。
「そうだよね、じゃあ、"準備できた状態になる"というのは、長いプロセスだ。分かるよね、一瞬では起こらない。技術や知識はもちろん、日々の心構えの積み重ねからできるものだ」
「ここで自分自身に尋ねてみてほしい。あなたは、日々着々と準備を進められているかな?」
「何も考えずにふらーと実習に毎日行ってしまっていて、それでいいのかな?」

「これは私自身が学生のとき、上司に言われた言葉なんだけども。医療界で働く学生は、他の学生と要求されていることがちょっと違う。不公平といってもいいくらい、違う。私たちは卒業してライセンスを取って、プロとして働き始めるその日から、人の命に関わっていかなければいけないんだ。失敗が許されない世界なんだ。だからこそ、学生からプロへの変身を、非常に短期間で求められる」

「卒業してから変身しよう、では遅い。学生のうちに徐々にプロになっていかなければいけないんだ。責任を養っていかなければいけないんだ。卒業式のステージを歩くときには、もうその変身を終えていないといけない」

「いつまでも学生気分ではいられないんだ。始めるのは今なんだよ。君たちの日々の現場に臨む態度から始まる。まずは、自分があの場にいることを想像することから始めてごらん。自分だったら、どうするか」

「それから、日々の実習に行くとき、『今日何かが起こるかも』と考えてごらん。何が起こりえるかな?患者が急に気を失って倒れるかも。PCL断裂の直後にACL断裂が、2件立て続けに起こるかも。脊髄の怪我が起こって、患者をスパインボードしなきゃいけないかも」

「ありえない、なんて言えないよ。これ全部、私の身に過去に起こったことだからね」

「"Your day" will come sooner than you think. And you'd better be READY!わかるね、『不測の事態』と一般の人が呼びたくなるようなことをきちんと予期しておくのも、私たちの立派な仕事だ。技術、知識はもちろん、プロとして心を日々鍛えるんだよ。」

学生たちは珍しく、神妙な面持ちで聞いていました。何か、感じてくれたかなー。
「ただの学生」であるAT志望の自分自身と、「テレビで見たプロのAT」が、まずつながっているんだと実感する。感じた上で、どうしたら自分がそこにいけるのか模索する。そこにつくまでに、具体的に自分にどういうものが欠けていて、どうしたらそれが手に入るのかを考える。私たちはその傍で彼らをガイドする。
心構えは教えるのが難しい。でも、難しいからって私たちプロが「背中を見て学べ」というのは間違っていると思う。ちゃんと時間をとって、教えなきゃいけないことだと思う。
直接現場で看ている学生には口うるさくいっている。「EXPECT some blood today(今日派手な出血があるかもよ)」、「EXPECT something big to happen today(今日は大き目の怪我が起こるかも)」そして二言目には「Will you be ready?」始まったばかりのころは私にそんなことを言われてから慌てて手袋の補給に走る学生もいた(常に応急処置の必要最低限のものは皆ポケットに入れておく)。最近は、「Ready?」と聞くと、ポケットを叩いて「大丈夫!持ってるし」と答える。うちの下級生たちも、頼もしくなってきた。

今の現場のローテーションも残りあと4週間ほど。
あとどれだけ成長させてあげられるかな。私から全て吸収して、次に行ってもらいたいもんです。
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  by supersy | 2013-04-02 09:00 | Athletic Training | Comments(9)

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