<   2013年 02月 ( 4 )   > この月の画像一覧

 

股関節唇損傷(Acetabular Labral Tear)について。その2・完結編。

さて。前回はGold Standard→Diagnostic Imagingまでreviewしたところでした。
今のところ、
 - Hip ArthroscopyがGold Standard
 - 画像診断はMRA、条件によってはCTやUltrasoundも効果的か
…という感じでしたね。
b0112009_2320153.jpg
それでは初心に戻って、エビデンスに基づいて
HOPSの順でもう一度症状の出方をおさらいしてみると、どんな感じでしょうか。

●History
 - Chief Complaintを再確認しよう!
Anterior groin painはほぼ間違いなくpresent(私が独自に4つの研究結果をまとめたところ、sensitivityは94%1,6-8)だが、acetabular labral tearに限った症状であるとは言えない(specificity 4%7)。Anterior groin painに加えてposterior and/or lateral hip painが出ることもあるが、あくまで『Anterior groin painに加えて』という記述なのにご注意頂きたい。逆に言えば、Anterior groin painが無くてposterior hip painのみがpresentだったりすると、SIかな、という思考になったりしますわな。

Mechanical symptoms、中でもClicking (動きに伴うポキッとかガリッとか、何かが引っかかるような音を聞いたり感じたりすること)は診断に使える症状のひとつということが分かっています(同様に、総合のsensitivityは70%6,7,9,10、specificityは92.1%7,9)。
このとき、intra-articular clickingとextra-articular snappingをしっかりと区別すること!股関節周りには、他にもIT bandやIliopsoasなど、clickingの原因となる可能性のあるextra-articular structureがたくさんあります。Martin et al.11は、"股関節の内旋外旋(IR/ER)で起こるclickingはlabral tearによるもの。股関節伸展状態から屈曲したときに起こる、股関節前方のclickingはIlippsoasがiliopectineal eminanceかfemoral headの上をsnapして起こっているもので、股関節の横(lateral)で起こる屈曲時からの伸展で起こるclickingはITBがGreator trochanter上を動いて起こるもの"という興味深い表記を残しています。経験からくるstatementで強いエビデンスとは言い難いですが、参考にはなるかなと。

●Observation/Palpation
 - Deep structureなので目に見える変化や触診による痛みは特になし
逆に言うと、目に見えて腫れや変色があったり、触診で圧痛があったりすると、
Intra-articular pathologyではない、別のもの、という考え方ができます。

●Special Testing
 - すぺしゃるてすといっぱい
FABER, Resisted SLR, Impingement, Fitzgerald, Hip Quadrant, Hip Scour…
様々なテストが提案されたものの、中でも研究された優れたものを、となると話は別です。
b0112009_0274834.png
Hip ScourとHip Quadrantは未開の地。研究がほぼなされていません。
Hip Scour(↑)のintra-rater reliabilityが0.87ICCというだけ。
偏見かもしれないけど、Hip Scourって使えるんじゃないかと思うの…。誰か研究して下さい。

 - ダメそうなものたち
研究された上で、Acetabular labral tearの診断において実用性の無さそうなものたちは
Resisted SLR Test(患者の患側の足を約30°active SLRさせ、膝上部に手をおいてresist、groin painが出れば陽性↓)とTrendelenburg Sign。Glu Med weaknessが必ずしもAcetabular labral tearとcorrelateしていないというのは私の中ではちょっと面白い発見。だってChronic acetabular labral tearの場合、患者がGlu Medを上手く使えてないとassumeしがちじゃないですか?まぁ、あくまで診断の要素として使えないというだけであって、必ずevalの中には含まれるべきだと思うけれど。
b0112009_0493836.png
b0112009_1325672.png


 - よさそうなものたち
色々研究を読んでみて、ふたつのspecial testが実用性があるかなぁという印象です。
そのふたつは…
b0112009_1112379.png
御存知の通り、このFABER(またはPatrick)TestはSI Joint Dysfunctionにも使われるので、陽性であった場合、「痛みがどこから来ているのか」をexaminerがしっかりとidentifyすることが大事。Posterior hip (over SI)ならばあくまで「SIに陽性」なのであって、Acetabular labral tearの診断を目的としている場合は陰性に等しい結果ということになります。

もうひとつは…
b0112009_12430100.png
このテスト、あまり有名ではないと思うのですが(私は実際大学でも大学院でもこれを習っていません)、Impingement Testがもっとも研究されていて、且つ最も実績を上げているというテストになります。テスト自体は至ってシンプル。Examinerがpassiveに股関節をflexion (90°)、internal rotation、そしてadductionに持っていく。つまるところ、femoral head-neck junctionの辺りをanterior superior labrum(最もtearが起きやすい箇所)/acetabular rimに押し付けるイメージです。そして、groin painが起これば陽性。(個人的にちょっと不思議に思ったのですが、clickingのみだと陰性だそうです。ふむ)
このふたつのspecial testの統計はこんな感じ(↓)。
b0112009_1323638.png
完璧とは言えませんし、まだまだ研究は必要ですが、他のものに比べればdiagnostic valueがあり、他の要素と組み合わせて十分effectiveな診断が可能なのでは、という数値です。

そんなわけで、要約すると、
 - Anterior groin painがある。
 - Intra-articular clickingがある(特に内旋・外旋時)。
 - Observation, Palpationでは特に何もremarkableなものがない。
 - FABER test、Impingement testが陽性である可能性が高い。

という診断内容であれば、患者を専門家にreferしたほうが良いでしょう。
その際の画像診断はMRAが好ましく、諸事情で無理ならCTかUltrasoundで代用。
そして最終的にはHip Arthroscopyで確認…という流れでしょうか。

しかしこの題材、久しぶりに苦労しました。
やっぱりこういうタイプの怪我で、クオリティーの高い研究を見つけるのは難しい!
subjectを集めるのも大変だろうし、(arthroscopyするとなれば)お金も技術者も要るし、
中にはMRAをGold standardとして使っている研究も多く、
デザインがconvenience寄りになってしまいがちで、どの数値に信頼性があるやら。
なので、上はあくまで私が様々な研究を見たまとめですが、他のATC/PTで
「いや、そうではない」と思われるベテランの方がいらっしゃる可能性もあります。

ここまで読んでくださった方の中でも、
珍しい怪我だしこれくらい知っておけば今は十分かな、と考えられる方もいるでしょうし、
ちょっと興味が湧いたから自分でももっと調べてみよう、でもいいかも知れません。
私が今回ここに挙げなかったspecial testもまだまだ他にもいっぱいあるのです。
サッカーやダンス・パフォーミングアーツ等に特化されているATCの方は、
それらにもっと精通している必要があるかも知れませんね!

しかし、これのどちらも「珍しい怪我なら知らなくていいや」という態度とは全く違うものです。
珍しい=知らなくて良いでは困ります。PTやMDならば「特定の怪我を持つ患者が専門家であるアナタを選んで会いに来る」ということが可能ですが、ATCは全ての怪我にそれなりに精通していなければならない。何故なら、あなたは特定の患者を抱えているのだし、患者は怪我を選べないからです。

そんなわけで、股関節周りだけでなく、「腰痛の診断が苦手」「肩がちょっとよく分からないなぁ」という苦手分野を抱えているATC、もしくはATSの皆さん。その自覚があるのは幸いなこと!今のうちに自分でEvidenceを調べ、自分なりの診断基準を作って準備しておきましょう。いざ患者と面と向かって診断となれば、用意しておいたプランどおりにはいかないかも知れない(i.e. pain levelが高すぎるetc)。でも準備をしている、ということが大切なのです。

1. Burnett RSJ, Rocca GJD, Prather H, et al. Clinical presentation of patients with tears of the acetabular labrum. J Bone Joint Surg Am. 2006;88(7):1448-57.
4. Troelsen A, Mechlenburg I, Gelineck J, et al. What is the role of clinical tests and ultrasound in acetabular labral tear diagnostics? Acta Orthopaedica. 2009;80(3):314-8.
6. Fitzgerald R. Acetabular labrum tears: diagnosis and treatment. Clin Orthop Relat Res. 1995;311:60-8.
7. McCarthy J, Busconi B. The role of hip arthroscopy in the dianosis and treatment of hip disease. Can J Surg. 1995;38:S13-7.
8. O'Leary J, Berend M, Parker T. The relationship between diagnosis and outcome in arthroscopy of the hip. Arthroscopy. 2001;17(2):181-8.
9. Narvani AA, Tsiridis E, Kendall S, et al. A preliminary report on prevalence of acetabular labrum tears in sports patients with groin pain. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2003;11:403-8.
10. Farjo L, Glick J, Sampson T. Hip arthroscopy for acetabular labral tears. Arthroscopy. 1999;15:132-7.
11. Martin RL, Enseki KR, Draovitch P, et al. Acetabular labral tears of the hip: examination and diagnostic challenges. J Orthop Sports Phys Ther. 2006;36(7):503-15.
12. Beck M, Leunig M, Parvizi J, et al. Anterior femoroacetabular impingement: part II. Mid-term results of surgical treatment. Clin Srthrop Relat Res. 2004;67-73.
13. Ito K, Leunig M, Ganz R. Histopatholigic features of the acetabular labrum in femoroacetabular impingement. Clin Orthop Relat Res. 2004;262-71.
14. Mitchell B, McCrory P, Brukner O, et al. Hip joint pathology: clinical presentation and correlation between magnetic resonance arthrography, ultrasound, and arthroscopic findings in 25 consecutive cases. Clin J Sport Med. 2005;13:152-6.

[PR]

  by supersy | 2013-02-20 18:00 | Athletic Training | Comments(0)

In Conway, AR ~ Tulsa, OK。股関節唇損傷について。

さて。
つい一昨日、ピッペンの出身校であるUniversity of Central Arkansasでの試合を終え、
昨日、朝6時のフライトでオクラホマはタルサ入り。さむいです。
シーズンも架橋、といった感じですが、チームはというと、今日こそ前半の差が響いて負けてしまいましたが、そこまでのここ2戦、1-2点差の接戦での勝利をモノにし、二連勝!
毎試合成長してる、というのをこの時期に実感できるのは嬉しいことです。
レギュラーシーズンも残すところあと5試合。頑張ります!
b0112009_7212131.jpg

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
…で。今回はちょっと珍しい股関節の怪我の話をしたいと思います。
自分のスポーツではなかったのですが、最近見る機会のあった、比較的珍しい怪我。
股関節唇損傷、英語ではAcetabular labral tearという怪我です。
最近だと、ダウンタウンの松本人志氏なんかがコレで手術されてましたよね。
報道されたとき、(あまりに珍しい怪我だったので)何で彼が??と思ったのを覚えています。
FAI持ちだったのかしらん?
b0112009_7253858.jpg
簡単に言うと、股関節の臼状関節部の凹部にある軟骨が、何らかのチカラがかかって損傷(↑)を起こしてしまい、手術で縫い付けるか切り取ってしまうかしかない、というまぁ扱いの難しい怪我。これがどうしてそんなに珍しいかというと、股関節というのがそもそも身体の中で一番、と言って良いほど安定性があり、強靭に作られている部位なので、変なチカラがかかった場合、足首とか膝とかSIとか、他の部位がまず損傷を起こすことが多い。股関節を怪我する、というのはよっぽどです。サッカー選手で股関節をよほど酷使しているか、先天的構造の問題があるか(i.e. FAI)、あるいはよほど運が悪いんでもない限りはね。
b0112009_1247577.jpg
●診断への道のり
まず強調しておきたいのは、股関節周りの怪我の診断は本当に難しい、ということ。
Acetabular labral tearは特にspecific MOIなしに「気がついたら」痛みが始まるケースが多く、その痛みも、ここがピンポイントで痛い、というよりは、太ももの辺りや内股、臀部等が「うずくように痛い」場合がほとんど。英語ではこれらをreferred painと言いますが、ぼやっとした痛み(↓)であることが多いんですよね。だからこそ、痛みがどこから来ているか判断しにくい。
b0112009_7255078.jpg
特にspecific forceが掛かったわけでもない、痛みは、腿周りにぼんやりと出る。
こういった症状を伴う怪我の可能性はあまりにも広く、例えば股関節のOA、Sciatica, Lumbar spine pathology, ITB pathology, Femoral stress fracture, SI joint dysfunctionなども同じようなsigns & symptomsを起こすんですよね。長い「possible injuries」のリストがあって、そこからひとつひとつrule outしていくしかない。
実際、Burnett et al1の研究でも、
「股関節唇損傷の患者が正しい診断に辿り着けるまでに平均3.3人の医療従事者の手を渡り、平均21ヶ月という時間がかかる」という統計が出ています。21ヶ月、約2年間というのはひどい数字です。医者にかかっても「soft tissue injuryですかね」と言われ、数ヶ月様子をみるも改善が見られず、別な医者にかかり、そこでもまた誤診され…の繰り返し。あまりにお粗末です。この分野でのHealth care provider達の知識や技術の向上が必要不可欠性が浮き彫りになってきます。
では、効率よく診断するにはどうすればいいのか?

b0112009_12411998.png
●Diagnostic Gold Standard
手っ取り早いのは、内視鏡突っ込んで損傷が無いか確認しちゃう(↑)ことですよね。
Acetabuler labral tearのGold StandardがHip Arthroscopyであるのはもはや常識ですが、
 1.Invasive
 2.時間がかかる
 3.お値段が高い
 4.そもそも技術者の数が絶対的に少ない
という観点から、疑わしき患者全てにこれをするのは非現実的です。

●Diagnostic Imaging (画像診断)
では、画像なんてどうでしょう?
画像診断の統計を、表にまとめてみました(↓)。2-4
b0112009_7421126.png
MRIはSensitivity 8-97%, Specificity 33-100%, Accuracy 21-95%
MRAはSensitivity 24-100%, Specificity 44-100%, Accuracy 46-94%
と、データに幅はあるものの総じてMRAの方が優れているというのは間違い無さそうです。
Ziegert et al5によればoblique viewの画像がいいそうな。ただ、数字のバラつきから見て、
MRAがGold Standardに迫る勢い、と言う表現はあまりに誇張が過ぎるかと。
使えるけど完璧でない、という感じかな。
(↓左:Normal Hip MRI, 中央 & 右:Hip MRA showing Acetabular Labral Tear)
b0112009_1259162.png
他には、CTUltrasoundも、限りある研究ではあるけれどもなかなかの結果。
MRAができない患者の場合(i.e. metal implantのある患者や、閉所恐怖症等)は、
こういうものを選択肢として持っておくのもいいかも。お値段も安いし、手早いし。
(↓左:Hip CT Arthrography、右:Hip Ultrasound Imaging, both showing a labral tear)
b0112009_1333761.png



さて。まとめたいことはまだあるのですが、
長くなりそう&そろそろ就寝せねばなので、続きはまた今度!

1. Burnett RSJ, Rocca GJD, Prather H, et al. Clinical presentation of patients with tears of the acetabular labrum. J Bone Joint Surg Am. 2006;88(7):1448-57.
2. Burgess RM, Rushton A, Wright C, et al. The validity and accuracy of clinical diagnostic tests used to detect labral pathology of the hip: a systematic review. Man Ther. 2011;16:318-26.
3. Gustaaf R, Sebastiaan JPL, Jasper BM, et al. Reliability and validity of diagnostic acetabular labral lesions with magnetic resonance arthrography. J Bone Joint Surg Am. 2012;94(18):1643-8.
4. Troelsen A, Mechlenburg I, Gelineck J, et al. What is the role of clinical tests and ultrasound in acetabular labral tear diagnostics? Acta Orthopaedica. 2009;80(3):314-8.
5. Ziegert A, Blankenbaker D, De Smet A, et al. Comparison of the standard hip MR Arthrographic imaging planes and sequances for detection of arthroscopically proven labral tears. Am J Roentgenol. 2009;192:1397-400.

[PR]

  by supersy | 2013-02-16 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

Spondylolisthesis(脊椎すべり症)と向き合う。

Spondylitis
Spondylosis
Spondylolysis
Spondylolisthesis
これ、全てspondy (= vertebra)に起こりうる異なる症状を指します。
初めて習ったときは冗談かと思ったものです。
これらのSpondy一家(Spondylopathy)はどれも名前が似たり寄ったりで、
スペルも発音も複雑だし、学生の頃はテスト前に泣きそうになって覚えたっけ。

一応簡単にそれぞれを定義しておくと、
Spondylitis = inflammation of the vertebra
Spondylosis = degeneration of the vertebra
Spondylolysis = defect (stress fx) of the vertebra in pars interarticularis
Spondylolisthesis = anterior slippage of the vertebra due to bilateral spondylolysis
という感じでしょうか。
最も深刻であるSpondylolisthesis(スポンディローリスシーシス、と読みます)は、
日本語では脊椎すべり症と呼ばれているそうで。
b0112009_8132113.jpg
Spondylolisthesisにも幾つかの分類があるのですが、最もアスリート間で多いのはisthmic spondylolisthesis。私自身も高校で働いていた時に目にした経験があります。

さて、このIsthmic Spondylolisthesis。
Young Athletes(成人前の若い選手)のPersistent LBPの原因第一位であると言われています。
ただ、同時に、かなりの割合がasymptomatic (無症状)であるという統計もあり、
診断が非常に難しいというやっかいな怪我でもあります。

今のところ、研究によれば絶対的Diagnostic Gold StandardはBone scintigraphy with single photon emission computed tomography (SPECT)であり、その適切な診断力はMRIをも上回ります。
(MRIのsensitivityはSPECTのそれと比べて80%と低く、false negativeが有り得ることに。
Masci et al1の研究でも50件の脊椎すべり症患者のうち中10件を見逃すという結果が出ています)
b0112009_824498.png
しかし、この方法には1) 画像撮影前に放射性指示剤を静脈注射で注入しなければならない、そして、2) その身体を電離放射線にさらさなければならない、という二つの大きなマイナス面があり、全ての患者にこれをする前に、適切なスクリーニングを実施して、画像が本当に必要な患者のみに絞れれば、という現場の切実な願いがあります。
さて、それではクリニシャンは画像診断の必要性の有無を決めるために、
一体どういった診断方法が可能なのでしょう?
b0112009_8521935.png
●Static Palpation of "Step Deformity"
単純に触診してみる、というのはどうでしょうか。
Bryk and Rosenkranz2 がSpondylolisthesisの患者のレントゲン写真には"Spinous process sign"という棘突起の階段状変形(↑上の写真に見られるような、脊椎が前方にすべった結果生まれる、階段の段差のような凸・凹みを意味する。一般的によくStep Deformityと呼ばれます)が見られる、と発表したことから、これを触診でdetectすることができるのでは、という考えが広まり、Spondylolisthesisの診断の一環として、「Spinous processを順番に触診していく」という方法が教えられるようになりました。

これが本当に信憑性のあるものなのかという研究を行ったのがCollaer et al3
3人の異なる理学療法士が30-44人の患者を対象に触診を行った結果、
Step Deformityの有無のみでSpondylolisthesisが診断できるか、という統計は以下の通り。
b0112009_943640.png
Inter-rater reliabilityは63-76%で、ぎりぎりfairくらい。その他の統計は…rule inには使えなくもない感じですが、sensitivityの低さが目立ちます。Collaer氏も考察には「触診は単独で診断材料に使われるべきではない…が、clinical prediction ruleが将来作られるのであれば、是非触診は含まれるべきだ」という結論を下しています。
b0112009_923338.png
●Special Testは…
SpondyのSpecial Testと言うと、私はこれ(↑)くらいしか知りません。
Single-Leg/One-Legged Hyperextension Test、またの名をStork Standing Test。
患者は片足で立ち、後ろに仰け反るように腰を過伸展する。これによって腰部に痛みが出るようであれば、陽性。Spondylolysis/Spondylolisthesisの可能性高し。
Starkey et al4によれば"Iliopsoasに引っ張られ、腰椎が前方に動くことでPars Interarticularisにshear forceがかかり、痛みが起こる"のだそう。

このテスト、非常に有名なのに研究している文献はひとつだけ見つけました。
探すのに苦労しました…見つけたときは一人小躍りしてしまった。
Masci et al1によれば、このスペシャルテストの統計は:
b0112009_9323439.png
意外にも、diagnostic valueは触診のそれよりもはるかに低いことが明らかに。
"This study suggests that the one-legged hyperextension test is a poor predictor of active spondylolysis and therefore does not assist doctors in detecting this condition"と、Masci氏自身も厳しい結論を出しています。

●Clinical Prediction Ruleの必要性
触診のみ、もしくはスペシャルテストひとつのみが効果的でないなら、
いくつかを組み合わせるよりありません。所謂、Clinical Prediction Ruleってやつです。
前々回紹介した、Wells Scoreみたいなもんですね。Ottawa Ankle Rulesとか。

なかなか面白かったのがKalpakcioglu et al5による記事。
SpondylolisthesisによるLBP患者と、non-spondylolisthesis LBP患者を別グループにわけ、
それぞれの症状の出方の違いを見てみよう、と調べた結果…
b0112009_957149.png
p-valueが<0.01の場合を"significant"とすると、キーとなるfindingは、
優秀なもの
- Weak and drooping abdominal wall (99% vs 60%)
- Sign of slipping (palpation) (88% vs 0%)
- Absence of pain with Lumbar flexion (痛みアリが19% vs 96.7%)
- Pain with Lumbar extension (79% vs 33.3%)
- flexionでは痛みがないがextensionではある、という限定の仕方をしたら面白いかも?
- Pain with double leg raising (87% vs 23.3%)
そこそこ優秀なもの
- Paravertebral muscle hypertrophy (65% vs 30%)
- Increased lumbar lordosis (58% vs 36.7%)
- Sign of slipping (inspection0 (21% vs 0%)
- Hamstring spasm (27% vs 3.3%)
- Lumbar lateral flexion (46% vs 16.7%)
ということになりそうです。例えば、この9項目のうち5つ当てはまったら、
みたいなルールを作ったら面白そうですね。

今回主に読んでみた文献と個人的な偏見を総まとめすると、
b0112009_10212683.png
1. 青年期のアスリートたちには、Spondylolysis/Spondylolithesisが非常に起こりやすい
2. よって、この年齢の患者が腰の痛みを訴えた場合の診断に、
 a. 触診によるStep Deformityの確認は行ったほうが良い(rule-inのため価値はアリ)
 b. One-legged hyperextension testは行わなくても同じかも
 c. 幾つかの症状を組み合わせたPrediction Ruleの製作が今後必要になってくる。
  その項目の候補としては:
  - 触診によるStep Deformityが確認できる
  - Lumbar lordosisが確認できる
  - Paraspinal muslceがhypertrophyだが、Abdominal wallにatrophyが見られる
  - Hamstring Spasmがある
  - Lumbar flexionでは痛みがないが、extensionで痛みがでる
     …のうち、3つが当てはまればとりあえずx-rayを(←数字は適当だけど)。
     そしてそれがpositive/inconclusiveならばSPECTをという流れはどうだろうか。
     もちろん新しいルールを作るとなれば更に研究が必要だけれども、
     とりあえずこういった項目が現在のevidenceによればパワフルかと。
3. 疑わしきは診断画像を。X-rayをまず撮るべし。
 SpondylolisthesisがYoung AthleteにおけるPersistent LBPの原因No.1ということを忘れずに。
 Gold StandardはBone Scintigarphy with SPECT。これは最終診断に。

…みたいな感じになるかなぁ、と思います。
多少、最後の仮想・Prediction Ruleの項目は私の偏見を含んでいますが。
もし、他にも面白い記事や使えるspecial testをご存知の方がいましたら、
是非教えてください!

1. Masci L, Pike J, Malara F, et al. Use of the one-legged hyperextension test and magnetic resonance imaging in the diagnosis of active spondylolysis. Br J Sports Med. 2006;40:940-6.
2. Bryk D, ROsenkranz W. True spondylolisthesis and pseudospondylolisthesis: the spine process sign. Can Assoc Radiol J. 1969;20:53-6.
3. Collaer JW, McKeough DM, Bossionnault WG. Lumbar isthmic spondylolisthesis detection with palpation: interrater reliability and concurrent criterion-related validity. J Man Manip Ther. 2006;14(1):22-9.
4. Starkey C, Brown SD, Ryan J. Examination of orthopardic and athletic injuries. 3rd ed. Philadelphia, PA: F.A Davis Company; 2010.
5. Kalpakcioglu B, Altinbilek T, Senel K. Determination of spondylolisthesis in low back pain by clinical evaluation. J Back Musc Rehabil. 2009;22:27-32.
[PR]

  by supersy | 2013-02-06 19:30 | Athletic Training | Comments(0)

キツツキは何故脳震盪にならないのか、フクロウの頸動脈は何故切れないのか。

…って、もはやAthletic Trainingには関係ないですね。
某ゆっけ氏が(もはや隠れていない)Facebookに載せていた記事を見て、
動物特集もたまにはいいなかぁと思い立ったので、つらつらとまとめてみます。
b0112009_712939.jpg
まずはキツツキ。
一応、元日本野鳥の会・会員として言わせていただくと、『実はキツツキという名前の鳥はいない』というのご存知でしたか?キツツキ科キツツキ目という分類名はあるものの、固有種名はアカゲラ、クマゲラ、コゲラなど、「~ゲラ」で終わるものがほとんどです。木を突く習性のある鳥を総じてキツツキと緩く総称しているだけで、キツツキという名前の鳥は実は存在しないのです。意外に知らない人が多いので、豆知識まで。

さて、このキツツキですが、一秒間に20回という速さでクチバシで木を叩き、穴を掘ることで知られています。衝撃も…身体がこのサイズにしては、かなりだと思いませんか?これほどの速さでアタマを着に打ち付けた場合、頭部にかかるチカラは重力の1000倍を超えると言われています。生身の人間が耐えられるチカラは平均46Gだと言いますから、まーとんでもない自殺行為です。どうしてこんな状況を生き延びられるのでしょう?
b0112009_7591178.png
●目玉が飛び出さないために
これだけのチカラがかかるとなると、アニメのようですが本当に「目玉が飛び出す」という現象が可能になってしまいます。それを防ぐために、extra protectionが必要になってくるのです。だって、打ち付ける度に目玉拾いに行ってたら…大変でしょ?実際に、交通事故の被害者なども、眼球にかかる衝撃で目の周りで血管の損傷が起こったり、神経が損傷を起こしたり、ということは珍しくないと聞きます。
実はキツツキには、上瞼と下瞼に加えて、隠された3枚目のマブタ(nictitating membrane)があるそうです。木を突く瞬間に、木のクズが目に入らないようキツツキは目を瞑るのですが、そのときにこの内側の分厚い3枚目のマブタが、眼球に対してシートベルトの役割を果たすそう。そうでもしないと、加速力で網膜剥離は間違いないというのだから、命がけの進化です。
詳しく知りたい方はこちら

b0112009_962244.png
●ムチ打ちにならないために
ニンゲンは、交通事故の衝撃で首が大きく振れ、首周りの筋肉がspasmを起こしてムチ打ちになってしまうこともよくあります。キツツキだって同じハズ。どうしてムチ打ちにならないの?
キツツキの首の筋肉はニンゲンとは比べ物にならないほど強靭に発達しており、そのムキムキもりもりの筋肉を木と接触する瞬間に緊張させることで衝撃を吸収しているのだそう。

b0112009_923184.png
●脳震盪を起こさないために
どうして脳震盪を起こさないのか?その答えは、頭部の構造にあります。
脳そのものがニンゲンに比べて小さいというのももちろんですが、
キツツキは上クチバシが下よりも1.2mmほど短くできていて、可動性があるそう。
更に、Hyoid bone (舌骨)の造りも独自に発達しており(↑上写真の部分)、クチバシから頭蓋骨上方にまでくるりと丸まって伸びており、文字通りシートベルトのような構造をしています。この上下の構造の違いと可動性の効果で、衝撃が加わった瞬間、脳を回避・直接衝撃をかけずに頭蓋骨の後底部にチカラを受け流すという離れ業ができるのだとか。
b0112009_9273996.png
そもそも脳のOrientation(向き)がニンゲンと違うということも一役買っているよう。
ニンゲンのように「横向き半月」よりも、キツツキの「縦向き半月」状態のほうが、前後の衝撃に強いそうです。頭蓋骨内に脳がぶつかっても表面積が多いのでチカラが逃げやすいですよね。
衝撃の短さももうひとつの要因です。NFLの調べによれば、フットボールで脳震盪が起こる場合の衝撃はおよそ15ミリ秒ほど(ほんの一瞬)らしいのですが、キツツキが木を突くその衝撃がかかるのは0.5~1.0ミリ秒とその更に15~30分の一の短さです。CSFも少なめで、ニンゲンほど遊びがない→きつきつに詰められている→脳が頭蓋骨内で回転を起こしにくく、より安定するという一面も。頭蓋骨そのものも硬く出来ているというより、スポンジ状のスカスカ骨(↓)で、まるで梱包材で包んでいるよう。
b0112009_9384023.png
こういったキツツキの特殊構造を、フットボールのヘルメットに採用することで
脳震盪予防を更に高められないか、と考える専門家もいる
ようです。
もちろん、出来ることと出来ないことが出てきますけどね。

参考文献:Gibson LJ. Woodpecker pecking: how woodpeckers avoid brain injury. J Zoo. 2006;270(3):462-5.


b0112009_9411876.jpg
さて、お次はフクロウ。
こちらは短めに。

フクロウは首をぐるりと270度回せることで有名です。
首周りのAmatomyはとてもデリケートです。ニンゲンがそんな極端に首をぐるぐる回したりしたら、神経に損傷が起こったり、大事な大事な頸動脈たちが切れてしまうかもしれません。頸動脈は御存知の通り、脳に血液を送る大切な役目を果たしており、これに損傷が起こるようなことがあれば、脳に血液が行かなくなる→4-6分で脳が壊死を始めると言われています。直接命に関わる恐れがあるため、ATは首周りの怪我の評価や治療には特に慎重になるくらいです。

しかし、フクロウが、「首を回しすぎて血管損傷して死んだ」とか、
「首を回しすぎて血管が挟まれ、脳への血流が遮られてしまい、死んだ」などというマヌケな報告は、今までに聞いたことがありません。これは、どうしてなのでしょう?

実は、フクロウの首周りの血管なんですが、Mobilityを上げるために、
 1. 血管が全てのVertebraをsupplyしていない
 2. 血管の通る穴がニンゲンに比べてとても大きい→故に、挟んだり損傷したりが起きにくい
という「血管そのものにtensionがかかりすぎないよう、ゆったりとした構造がされている」という特色があるほか、血管の染色と解剖の結果、とんでもないことが分かったそうな。

b0112009_1133880.jpg
これは百聞は一見にしかずなので、上の絵を御覧ください。フクロウの頭蓋骨のすぐ下で、血管が少し膨らんで血が溜まっているのが分かりますか(↑絵の中央と右上)?これは、言うなれば血の貯蔵庫。万が一首の過多な動きによって血流が遮られるようなことがあっても、この「予備」の血を脳に送れる余裕があるというわけ。フクロウが首を回すといっても、extreme ROMの状態で10分も20分も動かないわけではないから、数分くらいならばこの予備の血液で事足りるというわけ。まさに、フクロウならではの独自の進化です。

この絵は「フクロウの知られざる解剖学をよく描写している」ということで、これを描いた研究者・de Kok-Mercado氏はthe National Science Foundation's annual contest for visualizing sciencesの2012年イラスト部門第一位という賞を獲得したそうな。


ずっと前に馬の話を書いたこともありましたが(わ、もう7年も前だ)、
たまには人間以外のモノについて考えてみるのも面白いですね!
獣医さんはこんな様々な種類の、様々な解剖学を満遍なく知っていなければいけないのか…
何て大変な職業なんだ!こちとら、ニンゲンだけで手一杯!
[PR]

  by supersy | 2013-02-02 20:30 | Athletic Training | Comments(0)

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX