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Neuroplasticityについて考える。

●CTEについて。
CTEについて初めて学会で講義を聞く機会があったのが一昨年の夏。
それから大分経って、『CTE』という言葉もアメリカになかなか浸透してきたのかな、という印象です。今ではESPNのニュース等でも、CTEというフレーズが使われていますからね。
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アメリカに於いて、今改めてこの話題が再燃しているのは、元NFL選手のJunior Seauという選手が去年の5月に自殺をしたからなんですね。で、約半年に渡る解剖の結果、今月になってCTEが認められた、と正式発表されました。Junior Seauの遺族がNFLとヘルメット会社を相手取り、訴訟を起こすという報道がつい最近されたばかりです。これに対してNFLがこれからどういうアプローチをするのか興味があります。

日本は脳震盪然り、こういった分野の理解がまだまだだと聞きます。
以前にまとめた記事のリンクを張っておきますので、
  - NATA Convention in New Orleans その2。(2011年6月21日)
  - CTEについて追記。と、色々。(2011年7月13日)
この機会に「Chronic Traumatic Encephalopathyって何か聞いたことがない・よくわからない」という方は是非読んでみてもらえたらと思います。

私が思うCTEの怖いところは、「脳震盪と一度も診断されたことがない選手もCTEを発症していた」という事実ですかね。選手が脳震盪を過去に起こしつつも隠していた、という可能性も否定はできないけれど、やっぱりsub-concussive forceの蓄積でもCTEが起こり得る、というところは私達がスポーツ医学の専門家として改めて認識しなければいけないし、それをいかに一般市民にも知らせるか、知らせた上で、本当にこのスポーツ(特にアメフト等)をやりたいのかを確認する必要があると思います。今回の件も訴訟沙汰になっていますし、これからはNFL選手が全員「CTEになっても訴訟しません」という誓約書にサインさせられる可能性は十分にあるでしょうね。

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さて。脳みそつながりでこんな話でも。
今週はというと、遠征でNew Orleansに来ています。

シーズン中は飛行機での移動も多く、その時間を少しでも有効に使おうと
今年は「仕事に直結しないようで直結する」というテーマで色々と本を読むことにしています。
…で、最近読み終わったのがこの本!
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この夏、DNSの授業を取るのですが、その基本理念を理解するのに非常に良い本だと聞いて購入したのが去年の秋。そこから遠征の移動時間にじっくりゆっくりでしたが読み進めて、つい先日読破致しました!感想を言うと、とても面白かった!
ATCさんたちには是非読んでみてもらいたい一冊です。
内容をざっくりを説明すると…
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↑つい10年くらい前までは、「脳みそには特定の場所に特定の機能がある」「脳や神経が万が一損傷を起こせば、その機能は失われ、もう一生治ることはない」というlocalizationismにどっぷり浸かった考えが一般的でした。Broca's area(motor speech center)や、Wernick's area (auditory word center)なんかが良い例ですね。例えばBroca's areaを損傷してしまった患者さんは、言語を耳で聞き、理解する能力はあるのですが、自分の思ったことを喉や唇、下を動かして言葉にして言う、という作業が出来なくなってしまう、という皆さんが聞いたことがあるであろうアレです。

しかし、最近の研究で、"Our brain is plastic = 脳は私達が思うよりも自己形成力に長けており、常に自分自身を環境に適用するように変化させ続けている"ということが分かってきているのです。この「神経が自身を再形成させる能力がある」ことを、Neuroplasticityと言います。
(Neuro ="neuron," Plastic = "changeable, malleable, modifiable") 日本語では可塑性(かそせい)というみたいです。

例えば、患者が脳卒中で倒れ、身体が麻痺したり、まともに喋ったり食事を取れなくなったりするケースがあります。これは、脳の一部に血流が届かず、壊死することで起こるわけですが、この時に死んだ脳の機能回復はほぼ見込めないとされてきました。最近の理学療法では「患者がERにいるうちに、受傷後なるべく早く始めればそこそこの効果が挙げられる」とされ、患者がまだ意識を取り戻さないうちからのリハビリも広まりつつありますが…。この本には脳卒中後、何十年と経った後でも、このPlasticityを利用した特殊なやり方で、医者も匙を投げられた患者たちが次々に機能回復していくエピソードが描かれていたりします。

その他にも、薬の副作用で三半規管がやられ、バランス感覚を全く失ってしまった女性が、舌に取り付けた装置を装着して徐々にバランス感覚を取り戻し、最終的に装置無しで全く普通に生活できるようになった話や、言語障害、Autism(自閉症)、OCD(脅迫障害)の患者もトレーニング次第で治ったという逸話が次々と紹介されていて、時間さえあればずっと読んでいられるような、どんどん引き込まれる内容です。患者さん自身の努力もそうだけど、やっぱりクリニシャンのアプローチが斬新で面白い!

まぁ、脳卒中の患者を私が看ることは今のsettingで働く限り無いかと思うのですが、
この神経系、中でもCNSに働きかける整形外科のリハビリ、というのを
ここ数年私も色々と模索しているところでした。色々ヒントを頂きました。
怪我そのものや、怪我の原因が脳そのもののシグナル伝達にあるとしたら、
筋肉や靭帯をいくら治療してもそれは一時的な効果しかありませんよね。
この本を読んで、たくさんたくさん目からウロコでした。
中でも"Plasticity is competitive"
"Neurons that fire together wire together"というre-wireのシステムを、
これから私がいかにアタマに入れて仕事ができるか…というところ、
自分でも特に意識していきたいなぁ。
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脳というのは、ほんの数分のトレーニングでもneuron自体や、
neuron同士のコネクション・伝達の速さが多少変化するもの。
CNSに働きかけるリハビリを20-30分もすれば、患者がリハビリを終えて帰る頃には、
その身体に何らかの変化が起こっているはずなんです。
刻々と、人間の身体は、脳は、与えられる刺激に対応して変化しているのです。
「この患者が来たからまた今日も昨日と同じこのメニューを」ではなく、
「今日はどんな変化をターゲットし、また患者をそれにどれだけengageさせられるか」
というアプローチで行きたいなぁ。
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  by supersy | 2013-01-24 23:30 | Athletic Training | Comments(3)

DVTのClinical Diagnosis: 良くないものは、淘汰される?

Deep Vein Thrombosisについては以前にまとめたことがあるのですが、
この時は、「意外とマイナーな下肢の怪我の後でも起こるんだよ」
「Pulmonary embolismを起こして生死に関わることがあるよ」という話をしただけだったので、
今回は、ではいざDVTの可能性がある患者を目の前にしたときに、
ATCがどのように評価ができるのかという話をしたいと思います。

ATCが、と限定したのには訳があって。
例えば手段を問わなければ、現在ではDVTの診断におけるGold Standardはvenographyとどの文献でも明言されているのですが、かと言って「可能性がある」患者を片っ端から医者に送りつけても仕方ないし、医療システムの最前線で戦う我らATCだからこそ、refer/not referを決める、non-invasiveで手早いスクリーニング方法が必要になってくると思うのです。

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●Homans' Sign
恐らく、DVTを診断する上で世に最も知られ、受け入れられているであろうこのテスト。
患者の足首をPassiveにDorsiflexするだけ、という、至ってシンプルなもので、
この動きによって患者がPopliteal regionや、ふくらはぎの痛みを訴えれば陽性。

…しかしその一方で、そのDiagnostic valueはというと…
Cranley氏1の研究によれば、統計は以下の通り。
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Diagnostic valueは残念ながらほとんど無いと言っても良いでしょう。

ここでちょっと補足…。そもそも私が今回文献を調べてみてびっくりした点は、
Dr. John Homans自身はこのサインをHomans' Signとも名付けていないし、
素晴らしく正確なテストであるとも全く述べていないという事実です。
彼自身は「(このサインは)The dorsiflexion signと呼んで頂きたい」と明言しており、テスト自体の「DVT患者の一部にしかpositiveは確認されなかった」というその正確性の欠如も認めていたり、陽性の定義は必ずしもふくらはぎの痛みでなく、「あくまで逆と比べての違和感のみでいい」のだ、と言っていたり…とにかく、私達が現在Homans' signとして認識しているものは、彼が元々提唱したものとは姿形がだいぶ変わってしまっているようです。2
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ちなみにこのHomans' Signに関してはいくつかのバリエーションがあり(↑)、
「足首をDorsiflexする」点はどれも共通なものの、「膝は完全に伸展したまま」というものと、「膝は軽く屈曲させる」というものと、二種類あります。「膝を曲げる」派の主張としては、腓腹筋の緊張を取り除くというのと、(炎症を起こしているであろう)Posterior Tibial Veinが膝を屈曲することで引っ張られ、痛みを生む、と考えられているからだそうで(何故膝を曲げることでPosterior Tibial VeinにTraction forceがかかるのか、という肝心な説明は誰もしてくれていないのですが)。Dr. Homans自身はどのようにやっていたのかとOriginalの文献を見てみたら、「足首をDorsiflexさせる段階で、患者自身が自然に膝を軽く曲げるようであればそれは許容して構わない」という、以外にもユルい描写をしております。3 Examiner自身が無理に伸ばす必要も曲げる必要も無いみたい。

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●Calf Swelling
前述したCranley氏1の研究で、最も数字が良かったのは何と意外にも「単純にふくらはぎの腫れの具合をテープメジャーで測る」というCalf Swellingの計測。
患者を仰向けに寝かせ(写真はちょっと異なりますが)、膝を少し屈曲させた状態で、ふくらはぎのCircumferenceを測る。健側と比べて、男性なら15mm以上、女性なら12mm以上の違いがあれば陽性…ということみたいです。ここを測りなさい!という場所の指定は特に記述に無いので、とりあえず同じLandmarkを使っていれば良いのでしょうか。
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統計を見ると、かなり優秀。Rule inもoutも出来る数字ですね。

●(Original) Wells Score and Modified Wells Score
その他に、特定のSymptomsやHistoryの有無を調べ、幾つ当てはまるかでConditionの存在している危険性を測る、Clinical Prediction Ruleがあります。有名なものはWells Score。
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Original Wells Scoreでは、「患者に現在進行・治療中の癌があるか」等の8項目の質問と(それぞれ当てはまれば一点加算されます)、最後に「DVTと同等かそれ以上のalternative diagnosisが有り得る」という項目が当てはまればマイナス二点。八点満点で採点されます。Modified Wells Scoreもこれとほぼ同様の手順で、最後にもうひとつ「以前にDVTと診断されたことがある」という項目を加えたのみ。つまり、九点満点になるわけですね。
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…で、この八点もしくは九点満点のうち、0点ならばLow Risk、1-2点ならばIntermediate Risk、そして3点以上ならばHigh Risk、と患者をカテゴリー分けすることができるわけです。こうして患者をスクリーンすることで、誰がfurther eval procedureが必要かをふるい分けできるということに。

…で、このTestの統計はというと…
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Rule inするのに十分な数値です。Engelberger et al4による約300人と対象にした大規模な研究結果でも、「Wells ScoreもModified Wells Scoreも同様にDVTの診断に役立つ」という結論付けがなされています。「特にproximal DVTとoutpatients(外来患者)の場合は」という条件付き。逆に、Isolated distal DVTの場合とinpatient(入院患者)の場合の数値はあまり良くなく、決してusefulとは言えない、という面白い記述も。

他にもCalf tenderness (ふくらはぎの張りと痛みの有無を聞く、指でふくらはぎを押すのもアリ)というテストや、Popkin's signなど、スペシャルテストは数々ありますが、きちんと研究されていないか、数値はまぁまぁ、という感じのものがほとんど。私が文献を調べた結果としては、

  1) Homans' Signはもはや使わない、使えない
  2) Calf swelling, Wells Score (Original & Modified共に)のほうが診断における
   実用性ははるかに高く、これからの教育ではClinical Signs & Symptomsと
   Its Courseと共に、重点を置かれるべきもの

…であるということが言えるかな、と思っています。
そういうわけで、今学期(明後日からいよいよ始まります)の下肢評価の授業では、
Homans' Signは触るだけにして(昔はこんなテストがあったけれども…と)、
Wells ScoreとCalf Swellingのテストの重要性を強調していかなければ。
教育界って難しい。数年前まで当たり前に教わっていたことが、もう間違いだったりする。
EBPを押している今だからこそ、EBPに沿った教育をしなければ、と思うけれど、
だからこそ、私自身も積極的に文献に触れていかなければ!と思うけれど、
まだまだ変革の真っ只中だから、例えばBOCやState Licensure ExamにHomans' signが出題される可能性だってある。…いや、BOC Examではもう出ないかも知れないけど、TexasのState Examでは十分有り得ると思う。残念ながら。教師として、どちらの可能性も考えながら、どちらにも学生が対応できるように教育していかなければいけないのだ。Evidenceによって「実用性無し」と判断されるものはこれからどんどん淘汰されていくのだろうけれど、完全に移行を終了し、全ATCにEBPが浸透するまでに時間はかかるわけで。いや、全ATCには永遠に完全には浸透しないかもしれない。この流れに乗り切れない、強く抵抗を続ける人たちも出てくるでしょう。
そういうものも淘汰されて、真のEBPなのかな、と。

Evidenceが将来的に数多くのセオリーや仮説を否定していくであろうように、
考えが古く、向上心の無いATCたちもこれから居場所を失い、いなくなっていくのかも。
そうして、ATCという職業が根本的に改革されていくのかな、という気もしています。

   "When you are finished changing, you are finished."
ベンジャミン・フランクリンの有名な言葉ですが、プロのATCとしても、人間としても、
これからもBe Open-Minded & Skeptical!をモットーに生きていきたいと思います。


1. Cranley JJ, CAnos AJ, Sull WJ. The diagnosis of deep venous thrombosis: fallibility of clinical symptoms and signs. Arch Surg. 1976;111:34-6.
2. Sternbach G. John homans: the dorsiflexion sign. J Emerg Med. 1989;7:287-90.
3. Homans J. Thombosis of the deep veins of the lower leg, causing pulmonary embolism. N Engl J Med. 1934;211:993-7.
4. Engelberger RP, et al. Comparison of the diagnostic performance of the original and modified wells score in inpatients and outpatients with suspected deep vein thrombosis. Thromb Res. 2011;127:535-9.
5. Wells PS, et al. Accuracy of clinical assessment of deep-vein thrombosis. Lancet. 1995;345(8961):1326-30.

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  by supersy | 2013-01-21 21:30 | Athletic Training | Comments(0)

In Lake Charles, LA~Beaumont, TX

今週は水曜日から土曜日(…というか日付が変わるだろうから日曜日?)までの
長い遠征です。うちのカンファレンスが毎週木・土曜に試合ということになっているので、
どちらもAwayだとこんなスケジュールになっちゃいます。
こんな4-5日間の遠征がシーズン中あと3つか。ふー、しんどい。
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…とはいえ、楽しめることもあります。
D-Iバスケチームのいいところは、他のスポーツに比べて待遇が上!
(大学界ではFootball > Basketball > Others って感じですかねぇ)
今回はL'Auberge Resort & Casinoという世大豪華リゾートホテルに2泊滞在(↑)。
7時間バスに揺られて疲れきって到着したのがこんなところだったのでびっくりしちゃいました。
当方ギャンブルはしないので(今年の夏のNATAまでギャンブルデビューを取っておこうかと)、カジノ自体は比較的どうでもよくて、歩いて眺めてるだけで十分楽しいのですが、知る人ぞ知るこういうカジノの素敵なところは、レストランがとっても豪華で美味しいこと!
ビュッフェスタイルの食事を毎食存分に堪能させて頂きました。
(そこらじゅう葉巻臭いのと、Fitness Centerが有料なのとで五分五分ではあるけども)
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↑写真左と中央はカジノの入り口と中。右はホテルの部屋にあった、ドアにかける「ハウスキーピングいりません」の様々なバージョン。"Recharging for the next party (次のパーティーまで休ませて)"とか"I'm living the life(人生満喫中)"とか洒落がきいてますな。

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金曜日には二戦目の会場校のあるBeaumontのElegante Hotelというところに宿泊。
ここも年季はあるけれども名前の通りエレガントな空気漂うホテル(↑)でした。
アメリカの色んな町並みを見て、色々なホテルに泊まれたりするのもこういうsettingで働いている今くらいかなぁと思うので、肉体的・精神的に疲れたり、教師業・CEC業が思うようにできず両立に苦しむこともあるけれど、出来る限り楽しむことにしています。

…とはいえ、今は接戦を落としてチャーターバスでの帰路の真っ最中。
家につくまであと残り移動時間は4時間くらいかな。早く自分のベッドで眠りたいよう。
アメリカでバスケシーズンを戦う同志の皆様。本当にお疲れ様です。
後二ヶ月頑張りましょ!
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  by supersy | 2013-01-12 20:00 | Athletic Training | Comments(0)

Ligamentization(靭帯化)という現象を理解する。

ところであけましておめでとうございます…って、もう、1月も8日ですが。
(前回は1月3日の更新だったのにそれらしい挨拶無しでしたね)
大学バスケで働く宿命か、休みらしい休みは一日もないまま秋学期終了→冬休み突入で、
大晦日も元旦も仕事でした。大晦日には選手が練習中に意識を失い倒れて、
病院に付き添い&待ち時間4時間という素敵なエピソード付き。
うちの選手たち、私に毎年学ぶ機会をくれるのはこちらも成長できて有難いけれど、
何も大晦日にやってくれなくってもいいのよ、おほほほほ。
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今年も選手の安全と生徒の良き学び場作りに尽力していきたいと思います。
そしてそれを利用(?)しつつ自分も学び、試し、成長していけたらと。
今年は色々と自分の中で隠れプロジェクト等があるのですよ。楽しみです。
今年はところでナニドシにあたるんでしょうか。
もはやそんなことも分からなくなっています。
今年で自分が三十路になることはかろうじて把握しています…実感は沸かないけど。

せっかくなので、2012年に書いた全投稿の中から、
最も反響の多かったベスト5をまとまめてみたいと思います。
1. Second Impact Syndromeは本当に存在するのか(6月24日)
2. 足首を捻ったら、治療すべきは本当に靱帯?―Distal Tibfib Joint Mobilizationsについて考える(11月6日)
3. 「AT離れ」が進む現状と向き合う(5月9日)
4. 痛み止め薬の代償(12月19日)
5. これって足首の捻挫?骨折?―The Ottawa Ankle Rules(1月13日)

ちなみに、私のブログで反響の多かった歴代1位は
AEDを知っていますか、という2011年8月4日のエントリーです。
TwitterやFacebookがあると、具体的に数になって見えるので良いですね。

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さて。
結構有名なコンセプトだと思っていたのですが、周りに知らない人が意外と多かったので、
今日は上のArticleを中心に「Ligamentizationとは」というお話をしたいと思います。

●靭帯と腱の違い
靭帯を伸ばした、腱を痛めた…こんな表現はよく使われますが、
医学用語の観点からいうと、靭帯(ligament)と腱(tendon)は似て全く非なるものです。
Ligamentは骨と骨を、Tendonは骨と筋肉をつなげるもの、という、
所謂解剖学的教科書情報ももちろんですが、細胞学的にもその構成がかなり違うのです。
(詳しく言うと、腱にはhydroxy-lysinonorleucine (HLNL)というコラーゲンのcross linkが多く含まれ、dihydroxy-lysinonorleucine (DHLNL)は少量しか含まれていません。靭帯は逆にDHLNLが多く含まれ、HLNLは少ない。まぁこんな知識は無くても良いと思うのですが)
まぁ、機能が違うのですから当たり前ですよね。
靭帯は関節における(過度な)動きを制限するもの。腱は(適度な)動きを促進するもの。
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●再建手術において…
靭帯と腱が違うのなんか当たり前じゃん、知ってるよ!
と思う方もいるでしょう。でもそうなるとですよ、例えば、ACLの再建手術なんかで、
断裂してしまった前十字靭帯(ACL)の代わりに膝蓋腱(Patellar tendon = BPTB ↑写真上)や半腱様筋腱&薄股筋腱(Semitendinosus & Gracilis tendon = StG)を使ったりしますよね。
断裂した靭帯の代わりに、を使っているわけです。
これって、よくよく考えてみれば、まずくありませんか?

みかんがダメになったからリンゴを使えばいいってもんじゃないでしょ?
そもそもが違うんだから。
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●リンゴが、みかんになる
しかし、人体というのは本当に神秘的で、よくできています。
「腱」を「新しい靭帯」として身体に入れると、人体は徐々に「む、どうやらこれが新しい靭帯ってことなのかな?」ということに気がつき始めます。そして移植組織は徐々に靭帯化していくのです。いうなれば、リンゴがみかんに変わっていくのです。
これを、英語でLigamentizationと言います。
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"Ligamentization = transition of the biochemical and histologic parameters of the graft from tendinous to ligamentous in appearance."

※しかし、一方でこういった記述もあります。
"....the strength and stiffness of the grafted tissues never reach those of the native ACL."
"In other words, although morphologically resembling normal ligaments, the grafts may not function exactly alike."
なので、元々のACLほどの強度はどうしても出ず、完全に機能回復するわけではないということはご了承下さい。

この研究では、ACLの再建手術が成功した50人の患者を対象に、
(内訳は30人がBPTB、20人がStG…ちょっとSelectにバイアスがありますが)
術後のgraftの細胞・コラーゲンの変化を追ったものです。
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下の結果だけ見てみても、コラーゲンの全体の率は術後半年ではまだ従来のACLレベルまでは回復しないものの、BPTB・StG Graft患者共に一年経つと83%を軽く超え92~95%にまで上昇(Table 1)。更にDHLNL/HLNL率も同様に術後徐々に上がっていき、最終的には一年後にNative ACLの3.11を超えて3.43~3.59にまで上昇します(Table 3)。
この変化は顕微鏡で見ても明らか。下の写真で細胞の構造を比べてみても、A(StGの患者のGraft、術後5ヶ月)よりもB(同様の患者、術後12ヶ月)のほうがC(Native ACL)に近いですよね。Collagen matrixが徐々に平行にalignしていき、bifroblast nuclearの全体数が低下していく様子がはっきりと捉えられています。
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そんなわけで、この研究では、
「術後約一年でGraftにはLigamentizationが起こる」という結論がなされています。
この研究のみでBPTBとStGのどちらがより優れているか、という比較はなされていませんし、
Ligamentizationが一年間で完了(complete)するのかどうかも分かりませんが、
(まだまだ続くのかも?この研究の考察でも、コラーゲンの合成はここから徐々に低下して、最終的にはNative ACLの数値よりも低くなるのかもしれない、という仮説が立てられています)
手術に使われた腱が徐々に靭帯化してゆく、という事実が面白いと思いませんか?
人体がGraftと「新しい靭帯」と認識し、その機能に合った構造に変化していく、
というその神秘がすごいなぁと思うんですよねぇ。
どういう器官がどういう命令を出してるんでしょう。

その他の研究では、Platelet-rich Plasma Preparation Rich in Growth Factors (PRGF)を用いたほうがLigamentizationが早まる・効果的に起こる、という結果も出ています。1 また、Aggressive rehabは再建したACLを徐々にdegenerationさせてしまう、つまりLigamentizationが効果的に起こらない、という研究結果もあるそうです。
…のでこういったAdditional procedureや、どういったリハビリがLigamentizationをoptimizeするのか、というのはこれからATCやPTも理解を深めて行かなければいけないところかも知れません。

1. Sanchez M, et al. Ligamentization of tendon grafts treated with an endogenous preparation rich in growth factors: gross morphology and histology. Arthrosco: J Arthroscopic Related Surg. 2010;26(4):470-80.
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  by supersy | 2013-01-08 22:00 | Athletic Training | Comments(2)

足首のテーピングとサポーター、どっちがいいの?

って、よく聞かれるんですよね、うちも選手にも。

D-Iのバスケチームだとよくある話ですが、うちのコーチ達が選手全員に、
「練習・試合時には必ず足首のテーピングもしくはサポーターをするように」とお達しをしているため、選手はどちらか選ばなければいけないのです。3-4年生にもなれば好みが確立しているので「私はテーピング」「私はサポーター」というのがハッキリしているのですが、どちらもそれほど経験したことのない1年生なんかは、「どっちがいいの?」となるわけです。
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足首の捻挫はクセになりやすく、再発を防ぐために何かしよう!
…という気持ちは立派だと思うのですが、実は何故捻挫がクセになりやすいのか、
一度目の捻挫後に、足首にどういう変化が起こって「クセ」になってしまうのか、
という肝心なところは実はまだ明らかになっていません。

しかしながら、ひとつの仮説として、
"Proprioception is impaired following the first ankle sprain"という考え方があります。
Proprioceptionという概念は日本語では固有感覚とか自己受容とか呼ばれるみたいですが、
ざっくりと説明すると、体の一部(この場合は足首)が空間に於いて現在どのあたりに位置しており、どの方向を向いていて、どのくらいの速度で動いていて…という静的動的位置情報を感じ取り解釈する能力のことを意味します。例えばBOSU ballやDynaDisc等の不安定なsurfaceに立った状態で、バランスを保つ時にもこの能力は必要不可欠で、足からの「こっちに傾きすぎてるよ!このまま行くとバランス崩して倒れるよ!」という情報があるからこそ私たちは姿勢や体重をシフトしてadjustできているわけです。
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足首が初めての捻挫をsustainした際に、靭帯そのものだけでなく、
関節包、そしてその内外に位置するmechanoreceptor(機械受容器)にも損傷が起こります。mechanoreceptorこそが、今身体の一部にどのくらいの緊張や圧迫がかかっているか、といった「感覚」を感じ取る情報屋さんたち。彼らは適切なproprioceptionの主要な構成員と言えます。
これらが損傷し、幾つかのmechanoreceptorが機能しなくなることで
afferent informationは不正確・不十分なものとなり、
結果としてproprioception能力が落ちるわけです。
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Proprioception能力が低下すると、どんな影響が出るのか?
前述のようにこの能力はバランスを保ち、関節の位置を微調整するのに非常に重要な役割を果たしています。これが十分に機能していないと感覚がニブくなり、「足首がおかしな格好になっていて、もうちょっと行き過ぎると怪我をしてしまう」といった大事な情報が効果的に入ってこず、結果、反射や微調整ができないまままた怪我をしてしまう、ということになりかねません。

つまり、捻挫を一回してしまうと靭帯がゆるゆるになって、また怪我をしやすくなる、
というよりも、捻挫を一回してしまうと足首周りの機械受容器が損傷を受けて鈍くなり、
上手く情報の伝達が出来ず次の捻挫に繋がってしまうのではないか、
というコンセプトのほうが今の所一般的であるのです。
前者も全くないとは言えませんが、後者のほうが影響力があるんじゃないかってことですね。

では、捻挫を予防するために足首のテーピングやサポーターをすると、
具体的には足首にどのような変化が起こるのでしょう?

ぶっちゃけて言ってしまうと、あんなテープの切れ端や布(中には合成樹脂を使ったサポーターもありますが、それにしたって)そのものが靭帯の損傷を起こすほどのチカラに毎回対抗できるわけがありません。ガチガチに固めて動かないようにしたって、耐久性はたかが知れています。捻挫が起きるときは起こります。
専門家によれば、狙いはそこ(= providing mechanical support)ではないんです。

テープやサポーターを足首に「巻く」ことによって、皮下のmechanoreceptorが刺激され、
普段よりも活発に働くようになることで、損傷を起こした分のmechanoreceptorの働きを補えるのでは。そして、低下していたproprioceptionが通常のレベルに戻ることによって、捻挫の予防が可能になるのではないか、というのが実は真の仮説の訴えるところであり、狙いであるわけです。

なるほど、論は理にかなっているように思えます。
…しかし、本当にこれは仮説通りに実現されているのでしょうか?
本当にテーピングとサポーターは効果があるのでしょうか?
順位をつけるとしたら、どちらのほうがより効果的と言えるのでしょうか?
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最近目にした記事で、こんなもの(↑)がありました。
足首のテーピングとサポーター(英語ではsupporterと言わずbraceと言いますが)proprioceptionにどういった変化・影響を及ぼすのかという過去の研究を全てまとめたsystematic review & meta-analysisです。

結論に先に飛んでしまうと、一番面白かったのは、
1. 個々の研究を見てみると、Reviewされた32の比較のうち、
 - 19は「テーピング・サポーターをしてもしなくても大きな変化なし」
 - 10は「テーピング・サポーターをしたほうがproprioceptionに改善が見られた」
 - 3は「したほうが悪化した」
 という結論に達した。
 興味深いことに、「悪化した」と結論付けた研究の全てはテーピングのみ
 によるもので、悪化したのは「movement detection」の能力だった。
 (さらに限定すると、in/eversion planeのみで悪化が確認された。plantar/dorsiflexionではヘ変化無し)
 「改善した」という結果になったのはテーピングもサポーターも両方含む研究だったが、
 計測に使われたのは「joint position sense」の能力だった。
 =どちらか、と言えばサポーターのほうがまだ良いと言えるのかも。
 =joint position senseは高まるけどmovement detection能力は落ちる、という可能性が。


2. 全ての結果を総合し、ひとつの統計としてまとめると、
 テーピングをしてもサポーターをしてもproprioceptionには効果は無し!ということになる。

3. しかしながら、テーピング・サポーターをすることで足首の捻挫のリスクが低下することは
 統計として証明されているところであり、この結果が出たからと言ってテーピング・サポーター
 の使用がdiscouragedされるべきものではない。リスク低下の原因がproprioceptionとは
 直接私達が思っていたよりも結びついていないのかも、というだけだ。
 (文献にもよりますが、テーピング・サポーター共に、何もしないに比べて約70%ほど
 足首の捻挫の確率が下がるという研究が出ています1)

という点でした。
この記事内でも指摘されているのですが、テーピングのタイプが統一されていないとか、
多少なりとも今までの研究に問題はあり、完璧な結論とは言えないですが、
それでも今の所、Proprioceptionに限って言えばテーピングもサポーターも
効果がそれほどないということになります。
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さて、これらを踏まえて。
冒頭の「どっちがいいの?」という質問に戻るのですが、
「コストパフォーマンスと時間的手間、それから持続性(テープは動き出すとどうしても緩くなる為)を考えるとサポーターの方がオススメかな、という感じだけれど、研究によれば効果はどちらも同じか、ちょっとサポーターがいいかな、くらい。でもテーピングの方は個々に合うように微調整が可能だし、どちらにも良し悪しはあると思うよ。もしよかったら、どっちも一回ずつ試してみて、気に入った方にしてみる?」
と私は答えるようにしています。
今現在では、14人いるactiveな選手のうち、テーピングをするのが7人。Braceが7人。
ちょうど半々ですね。個人的には皆がサポーターしてくれたほうが楽は楽ですけども(笑)。
学生ともこのトピックでは毎年必ずディスカッションをするようにして、
「で、おまいらは将来この質問に何て答える?」と問題提起してます。
こういう単純な質問こそ、正しく答えるのが意外と難しい。
misleadingにならないよう、必要な情報を与えつつ選手自身に選ばせる、
というのが私の信条。皆さんはどのように答えますか?

1. Dizon JMR, Reyes JJB. A systematic review on the effectiveness of external ankle supports in prevention of inversion ankle sprains among elite and recreational players. J Science Med Sport. 2010;13:309-17.
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  by supersy | 2013-01-03 16:30 | Athletic Training | Comments(0)

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