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足首と横隔膜のつながり: CAI患者の左横隔膜は呼吸筋としての機能が低下している?

ちょっとこれは書かずにはいられねえ!ってんで、こんなブログをアップします。
私の古い友人であり、このブログにもたびたびコメントを書いてくれたりもしていた寺田君がつい最近 (一週間前くらいです、ほんとに)論文を発表しました。彼は慢性足関節不安定症 (Chronic Ankle Instability, 以下CAI)の専門家で、彼自身もう数々の研究を世に送り出しているわけなんですが、なんと今回の内容はCAIの患者にどういった横隔膜の変化が見られるか、という視点からぶった切ってます。PRIとは何の関わりもないところからこんな研究が出てくると思わなかったので (今までの彼の研究とはちょっと路線が違う印象…)、きゃーきゃー言いながらこの論文を読んでました。内容をまとめます!

一応断っておくと、今回は知人の論文であるばかりか、まさかその内容ががっつりどっぷりPRIに深く関わるものでもあり、私自身冷静に判断しきれていない可能性が十分にあります。このまとめは話半分に読んでみて、気になる方はぜひご自分でfull textを読んでみてください。



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この論文1のイントロで寺田氏らは足関節捻挫がCNSに与える影響を指摘。捻挫から二次的に起こる筋制御および姿勢制御の変化など、CAIという怪我が足首だけでなく全身に広がることを踏まえ、「横隔膜は呼吸だけでなく姿勢制御にも関わる重要な筋肉。もしかしたらCAI患者は横隔膜の機能が低下しているのでは(=姿勢制御力の低下もこれで説明可能?)」と仮説をたて、それを検証しています。

被験者となったのは「日頃から運動している」というCAI患者27人 (男性4名、女性23名、平均22.58±3.33才、但し最も最近の足関節の捻挫から最低でも3ヶ月経過済み)と足首に障害を抱えない健康な28人 (男性9名、女性19名、平均21.04±1.88才)。ちなみに誰がCAIという診断カテゴリーに当てはまるかは既に国際足関節協会(International Ankle Consortium)が推奨しているガイドラインがあり、2 この研究でもそのガイドラインを用いて客観的・主観的の両観点から総合的に定義しています。ふむふむ。ここまでで気になるのは女性被験者の全体的な多さ(76.4%)とグループ間の男女差くらいですかね(CAIグループ女性率: 23/27 = 85.2% vs コントロールグループ: 19/28 = 67.9%)。

実験の手順は至ってシンプル。被験者に仰向けでテーブルに寝てもらい、静かに呼吸を繰り返してもらう(quiet breathing)。その間、息を吐き切ったとき、吸い切ったときのそれぞれの横隔膜の筋の厚みを超音波画像を使って測定するというものです。見え方で言うとこんな感じになるみたい(↓)。…で、横隔膜は呼気でリラックス→薄くなり、吸気で収縮→厚みが増すわけですから、筋肉の厚みの増減を見れば一呼吸によってどれだけ収縮したか、というcontractility(収縮性)が測れますよね、というわけです。
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結果は…
 左横隔膜
   CAI:    0.14±0.04から0.16±0.05cmへ 収縮率21.62±11.76%
   コントロール: 0.14±0.04から0.19±0.05cmへ 収縮率29.07±12.32%
   グループ間の収縮率の差: p = 0.03, Cohen's d = -0.62 (95%CI -1.14 to -0.07)

 右横隔膜
   CAI:    0.15±0.04から0.18±0.05cmへ 収縮率22.93±14.66%
   コントロール: 0.14±0.04から0.18±0.05cmへ 収縮率27.43±17.78%
   グループ間の収縮率の差: p = 0.31, Cohen's d = -0.28 (95%CI -0.80 to 0.26)

…というわけで、CAI患者にコントロールと比較して著しい(p = 0.03)収縮率の低下が左横隔膜でのみ確認できました。Effect sizeはmoderate (0.40≦d<0.80)のカテゴリーに入り、しかも95%CIがゼロを挟んでいないため、統計的だけでなく臨床的にも有意な発見、ということになります。

考察で寺田氏らは1) CAIによるsensory inputの変化がneuromusularレベルでのmaladaptationを引き起こし(=本来『通常』でないaltered sensationを『通常』と認識するようになる)、それが慢性的に患者の身体で続いた結果、左横隔膜の収縮率の低下として我々の目に見えるようになるのか、それとも 2) 受傷によって起こされる精神的なストレスが交感神経を優位にし、その結果、呼吸が変わって左横隔膜に病理が出るのか…というふたつの説を挙げています。

ここらは論文から直接の引用になりますが、
"Incorporating diaphragmatic breathing exercises might have beneficial effects in patients with CAI."
慢性足関節不安定症のある患者は、横隔膜を使った呼吸エクササイズで症状の改善が見られるかもしれない

"[Therefore,] altered diaphragm contractility could be a potential source for clinical deficiencies within patients with CAI."
慢性足関節不安定症の患者に生じている臨床的欠陥は、変わってしまった横隔膜の収縮性によるものなのでは

"Because of neural and mechanical differences between right and left hemi-diaphragms, an alteration only in the left hemi-diaphragm may strengthen asymmetrical patterns by relying more on the right side, possibly leading to the loss of the ability to work the right and left hemi-diaphragms together."
左右の横隔膜は神経的、物理的にそもそも異なる。故に、(今回の研究で実証されたような)左だけの横隔膜に見られる変化は「(呼吸を)右横隔膜に頼りがち」という横隔膜の左右非対称性を更に強めるものとなり、結果として右・左横隔膜の協調性は加速をつけて失われてゆく

…まさかこういう言葉や表現がPRIの教育を全く受けていない人間から出るとは…!という感じで、私自身感動に近い感情を覚えています。もちろん、この研究は完璧完全ではありません。例えば、この研究では患者を仰向けに寝かせた状態で横隔膜の活動を見ていますが、これは実際に我々がupright(抗重力)の姿勢を保っているときの呼吸と等しいと言えるのか (これは著者自身も研究で「limitation」として挙げています)?「ゆっくり」「普通に」呼吸をして、と言われて、各被験者が全く同じレベルでの呼吸を実現できたのか (これも著者ら自身、spirometerなどで実際の呼吸量を計測する方法もあったと本文内で述べています)?CAIは右・左足関節のどちらに多く確認されて、それは横隔膜の左右差と関連性は見られたのか?これらの患者に実際diaphragmatic breathingの治療介入をして、左横隔膜の収縮率がどれだけ上がるのか?…まだまだこれからの研究で確認されなければいけないことは多々ありますが、とりあえず「足首に問題のある患者さんの横隔膜、左があまり呼吸筋として活発に動いてないっすわ!」という結果が出たというだけでも私には十分面白いものです。

ちなみに寺田君は今年の4月から日本に完全帰国して立命館大学で教授として活躍中です。日本にはマジでこういう宝がごろごろいるんですから、一人でも多くの方にそのbenefitが行くようにしてほしいです!「ブログに書いてもいい?」と聞いてすぐに「いいよ!」と言ってくれるその瞬発性、ありがとう!これからも私のような非・研究者に色々教えてください。

1. Terada M, Kosik KB, McCann RS, Gribble PA. Diaphragm contractility in individuals with chronic ankle instability [published online May 26 2016]. Med Sci Sports Exerc.. 2016. doi: 10.1249/MSS.0000000000000994.

2. Gribble PA, Delahunt E, Bleakley CM, et al. Selection criteria for patients with chronic ankle instability in controlled research: a position statement of the International Ankle Consortium. J Athl Train. 2014;49(1):121-127. doi: 10.4085/1062-6050-49.1.14.

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  by supersy | 2016-06-02 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

月刊トレーニングジャーナル6月号発売。

春学期も無事に終わって、いよいよ明日帰国です!今日はうちの学生らの卒業式に出てきました。
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今日は来賓のおじさんの挨拶が長すぎてどうなることかと思いましたが(苦笑)、無事に式も修了。BOC試験に一発合格した10人の優秀なうちのシニア達。これから世に出て羽ばたいていくわけですね。いやー、感無量!




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さて、月刊トレーニングジャーナル6月号が本日発売なのですが、実はこの回より連載を開始させていただくことになりました。アメリカでアスレティックトレーナーという職業が今何を見据えていて、どこへ向かっているのか…、日本が学ぶところがあるとすればどういうところか…、毎回少し違う角度からお話しできればと思っています。連載一回目の6月号は、アメリカのアスレティックトレーニングの必須学位が学士から修士に引き上げられることになった背景や意図、それらがもたらす将来への影響などについて書きました。一度まとめておきたいなーと思いつつなかなか手を付けられなかった分野なので、個人的にこういう機会を頂いて非常にありがたく思っています。興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。



それからそれから。最終告知になりますが、今月末・6月アタマに以下の日程で、Evidence-Based Practice (EBP)講習を、東京は立川で行います。こちらのほうも興味のある方はぜひ、リンクから詳細を確認してみてください。

5月25日(水) 18:30-21:30pm
  「エビデンスに基づいたスポーツ傷害診断: 基本から応用まで」
  会場: たましんRISURUホール 第6,7会議室   参加費: 8000円

6月1日(水) 18:30-21:30pm
  「エビデンスに基づいた治療介入: 基本から応用まで」
  会場: たましんRISURUホール 第1会議室    参加費: 9000円

お申し込みはリンク下のカレンダーから個別にどうぞ。両方でも、片方だけでも。受講の順番とか、受講資格とか、指定は特にありません。多くの皆様に会えるのを楽しみにしています。初めての方も、リピーターの方も、学生さんも大歓迎です。エビデンス苦手、論文は得意じゃない、英語読むの苦手という皆様、是非!

あれっ、告知ばかりになってしまった。ま、いいや。それでは、日本で会う方は日本でお会いしましょう!お世話になる方々よろしくお願いいたしますー。
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  by supersy | 2016-05-14 18:20 | Athletic Training | Comments(0)

脳震盪から復帰した選手は、下肢の怪我を起こしやすい?最新エビデンスまとめ。

帰国の日程がこっそり迫っています!にほんにほん!早く帰りたくてそわそわ!もちろん今学期をしっかり締めくくってからですけどもー。気持ちがうわついてー。

さて、最近は怪我の影響が全身の筋肉のfiring pattern脳そのものに影響を及ぼすことをつらつらと考えていて、実に何をもって患者が怪我から「完全回復した」と見なすべきなのかは難しいものだなぁなんて考えています。…というか、何と表現すべきなんでしょうね、人の身体はイキモノなので、きっと刻一刻と変わり続けているのです。だからこそ、pre-injuryの状態に身体が「戻る」ことなどきっとないのでしょう。環境に一番辻褄が合うように変化・適応しつづけるものだから。我々はセラピストとして、正しいinputを身体に送り、我々の狙うoutputを紡ぎ出すことが私の考える『治療』の形にひょっとしたら近いのでは…という気もしています。って、よくわかんないですかね。

脳の影響を考えるなら、忘れてはならないのは「脳震盪からの回復、競技復帰」というトピックです。脳震盪そのものについてはこのブログでも何度も書いてきましたが、実はちゃんとまとめていなかった題材に、「脳震盪から競技完全復帰後の脳震盪以外の怪我のリスクの上昇」というものがあります。今回まとめる論文は2015年12月と2016年3月に発表されたものなのでどちらも最新といっていいかと思います。
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まずはこちら1から。脳震盪を受傷するとバランス能力が落ちることはよく知られていて、加えて脳の機能低下によって集中力やリアクションタイムも落ちることから、セオリーとしては「脳震盪からの早まった復帰は怪我のリスクを高める」と言われてきました。そんなだから我々も脳震盪の疑いがある・受傷した患者に対して様々なバランス能力や記憶、判断力等の検査をするわけですが。

だからこそ脳震盪を受傷した患者には、厳しいRTPプロトコルが設けられているのだろうって?その通りです。各協会からの声明に、各州で制定された法律…今やアメリカでは脳震盪の恐ろしさは一般の人も広く知るところとなっており、完全に症状が消失しないうちの競技復帰はもはや「世間が許さない」と言っても過言ではないでしょう(例外もまだもちろんありますが)。「早まった復帰」そのものが減少傾向にあると言っていいと思うんですよね。

しかし、先の話に戻りますが、症状の消失=脳震盪から完全に回復と言ってしまっていいものなのか?9割近い脳震盪患者が7~10日で症状が消える、という統計がありますが、その時点で彼らの身体は、脳は本当に競技復帰の準備ができているのか?例えば、一度脳震盪を起こした選手は、二度目の脳震盪を起こす確率が3倍に跳ね上がる、なんて統計もありますが、2我々が思う「満を持して」の復帰が実は「時期尚早」であり、目に見えにくいだけで「怪我リスクの上昇」の餌食になってしまっている患者はもしかしたら今でもいるのでは?ここらへんに一石を投じているのが上の論文なのです。

ざっくりと解説します。この研究は約3年間に渡る比較的長い時間スパンで行われており、脳震盪を受傷したNCAA Division-Iの大学生アスリート83人のうち44人をランダムに選択。これらの選手は1) 大学在学中に脳震盪歴は無し、2) 画像診断が行われた場合、異常は見られなかった、3) 大学のスポーツ医療スタッフにより「脳震盪」と診断された、という条件を満たしており、性別・スポーツ・試合におけるプレー時間・年齢・身長体重がマッチしたアスリートをコントロールとしてidentify、比較対象として分析しています。「脳震盪患者ひとりあたり2人のmatched controlを用意したくて頑張ったけど、条件が厳しくて2人見つからないケースもあって、最終的にはコントロールグループには58人集めたよ」だそうで、グループサイズとしては44人 vs 58人ですね。面白いデザイン…なかなかよく考えてあります (唯一疑問が残るのは、なぜinclusion criteriaを満たした83人全員を分析しなかったのかということ。「そこからランダムに44人」選んだjustificationは、はて?)。

で、1) 脳震盪の前後90日、2) 脳震盪の前後180日、3) 脳震盪の前後365日、という3つの異なる期間で下肢に起こったmusculoskeletal injuryを記録してそのリスクを分析。ちなみに筋骨格損傷(musculoskeletal injury)とは、この研究では選手の自己申請ではなく、certified AT、もしくはチームドクターによって正式に診断されたもののみを指します。
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…で、これ(↑)が結果なんですが…見応えがありますね。左の「Group with Concussion」の1000アスリートあたりの脳震盪のincidence、RRを見てみると、脳震盪前後90日ではmarginally statistical difference (RR 2.10, 95%CI 0.91-4.81, p=0.07)、180日と365日ではそれぞれ統計的に有意なリスクの上昇が確認されています(180d RR 2.02, 95%CI 1.08-3.78, p=0.02; 365d RR 1.97, 95%CI 1.19-3.28, p=0.01)。前後一年間を比べてもこれだけハッキリとリスクの差が出るとは!うぅむ!ちなみに右の「Control Group」は、同じ時期に練習していた比較対象の選手は特に怪我のリスクの上昇は確認できなかった、という内容です。だから、たまたま急に練習のintensityが変わったとか、雨降りが多かったとか気温が上がったとか…そういう脳震盪以外の要素の影響は除外できるわけですね。脳震盪組とコントロール組の直接比較は下の表(↓)です。
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脳震盪前は下肢の筋骨格損傷のリスクに両グループの差は無く、脳震盪受傷後はRRが1.47~1.64へと上昇。統計的に有意な差が確認されたのは365dでの比較(RR 1.64, 95%CI 1.07-2.51, p=0.02)でした。ちなみに、脳震盪受傷前に両グループの違いが見られないことから、『脳震盪を起こす奴は単に怪我全般を起こしやすい(injury-prone)んだろ』という説を論破しています。これも頭のスミに置いておくと面白い。

これをまとめると、「脳震盪受傷後、現存のプロトコルを用いて『異常なし』と協議復帰を認められた選手でも、そこから少なくとも一年間、下肢のmusculoskeletal injuryを起こす可能性は、脳震盪を起こす前に比べて約2倍に上がる(95%CI 1.19-3.28, p=0.01)」ということが言えます。考えるとゾッとするのが、「では、これらの選手を競技復帰させたのは果たして正解だったのか?」というところ。「患者の自覚と、我々の診断力では見つけがたい『異常』が患者の身体のどこかに残ってしまっている」と考えざるを得ません。更に、「もっと何か、下肢の怪我のリスクが下がるようなリハビリや治療も脳震盪からの競技復帰のプロトコルに入れなければならないのか?」 「だとしたらどんなものを?歩行トレーニング?バランストレーニング?それとも脳のneuroplasticityをターゲットにした治療法?」…などなど、疑問と将来の研究の可能性が無限に広がってきます。

もうひとつ、非常に似た研究ですが、こちらも。3
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研究としてはこちらのほうがシンプルですかね。脳震盪から競技復帰後、90日間の下肢のmusculoskeletal injury受傷率を、matched controlと比較。対象は前の研究と同様NCAA Dividion-Iの大学生アスリートで、脳震盪組には87人の患者をincludeしており、研究の規模は前回のものよりも大きいと言えます。
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で、Resultはこちら。90日以内に脳震盪組の17.2%(87人中15人)の選手が下肢の怪我を受傷したのに比べて、コントロール組は9.3%(182人中17人)。ORにして2.48 (95%CI 1.04-5.91, p=0.04)と、Lynall氏らの研究1と似た結果が出ています。

もしかしたら、「これは脳震盪の後遺症というよりは、脳震盪によって運動ができなくて、選手がdeconditionしちゃっただけなんじゃないの?」と分析する方もいるかもしれません。しかしBrooks氏らの研究3によれば、「脳震盪組もコントロール組も、下肢の怪我を受傷したのが90日間の観測を始めてからそれぞれ平均32日目、33日目と酷似しており、deconditioningの要素は極めて低い」と報告されております。むむむ…これも面白い。確かに、脳震盪組が復帰直後ばかりに怪我してるなら、筋力低下とか心肺力の低下とか、他の要因もありそうですけどね、30日以上も動いた後となると…。
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なので、こちらも研究でも結論は「脳震盪から回復したように見えても、motor dysfunctionは続いている」。これらを感知できるような新たなテスト、評価法がこれからactiveに研究されるのではないかと期待しています。これは完全に私の個人的な願望…のようなものですが、脳震盪の新たな治療アプローチとして注目されつつあるSubsymptom Threshold Exerciseもひょっとしたら脳機能の回復に一役買うのでは…と考えたりもしてます。

1. Lynall RC, Mauntel TC, Padua DA, Mihalik JP. Acute lower extremity injury rates increase after concussion in college athletes. Med Sci Sports Exerc. 2015;47(12):2487-2492. doi: 10.1249/MSS.0000000000000716.
2. Cantu RC. Recurrent athletic head injury: risks and when to retire. Clin Sports Med. 2003;22:593-603.
3. Brooks MA, Peterson K, Biese K, Sanfilippo J, Heiderscheit BC, Bell DR. Concussion increases odds of sustaining a lower extremity musculoskeletal injury after return to play among collegiate athletes. Am J Sports Med. 2016;44(3):742-747. doi: 10.1177/0363546515622387.

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  by supersy | 2016-04-26 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

アキレス腱障害(Achilles Tendinopathy)のリハビリまとめ。

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以前、Patellar Tendinopathy (膝蓋腱障害)のリハビリについてまとめたこと(12)がありますが、Achilles Tendinopathy (アキレス腱障害)についてもさらりとまとめたいと思います。
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古い論文(↑1998年発表)ではありますが、Alfredson Model1 はやっぱり先駆けでしたよね。この研究では、1) 走るとアキレス腱に痛みが出、既に従来の治療法(休息、抗炎症剤、リハビリ)を試したけど効かなかったという15人の患者(平均44.3±7.01才、男12人、女3人、症状が出始めてから平均18.3ヵ月)を12週間のEccentric Trainingプログラムに、2) 15人の全く同じ症状・状況の患者(平均39.6±7.9才、男11人、女4人、症状が出始めてから平均33.5ヵ月)を手術に、とそれぞれ違うアプローチを施し、Eccentric Training Groupは12ヵ月後に、手術組は24ヵ月後に、痛み(VAS)と筋力(concentric & eccentric Pflex)を計測。ちなみにEccentric Training組は下の写真のような階段のような段差を利用して、怪我をした片足で立ち、最大底屈した状態から3秒かけてゆっくりと最大背屈…というのを一日に2回(朝と夕)、12週間毎日繰り返すというプログラム内容。エクササイズは2種類、膝をまっすぐ(写真A&B: gastroc)と、曲げた状態(写真C: soleus)で、それぞれ15回3セット。最初の1-2週間は痛みが多少増えても「それは想定の範囲内」と被験者には伝えていたそう。
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で、やり方でちょっと注目してほしいのが、「あくまで主役はeccentric contraction」ということですね。踵を上げた状態から、患側の足を3秒かけてゆっくり下ろす。一番下まで降りたら、健側の足に体重を移行し、そちらの足を使ってまたスタートポジションまで上がるというのが面白い点です。徹底して、患側ではconcentric contractionを行わない。で、「とても続けられない、というほどの痛みではなく、痛いけど運動は可能、くらいの痛みを感じているのが理想的なintensity」であり、逆に患者が全く痛みを感じない場合、その運動は「簡単すぎる」と判断され、重りを入れたリュックサックを背負って負荷を増やす(←)必要があります。


結果を言ってしまうと、Eccentric Training組が12ヵ月のトレーニングで痛み・筋力共に怪我をする以前の状態までに回復したのに比べ、手術組は24ヵ月かかって同様の状態まで回復。全員が最終的に痛み無くランニングを再開できるまでに。つまり、「Eccentric Trainingによって手術しかないと思われていた患者が手術したのと同様のレベルまで、より短期間で回復=手術を回避できる」というのがこの論文の結論でした。adverse effectは何も報告されず、dropoutが一人も出ていないというのは評価すべきところですね。比較的エクササイズもシンプルで、特別な道具がなくても家でできるというのもありがたいです。

突っ込みどころとしては、1) intervention前の両グループを比べた時に、年齢・男女比はともかく、「症状が出始めてからの期間」平均が18.3ヵ月vs33.5ヵ月ってのは差がありすぎでは?(p valueが報告されていないけど、まずp<0.05ではなかろうか) 2) 両グループそれぞれ15人ってのはpower analysisの結果でもないし、少ないのでは? 3) bilateral symptomsの患者は除外されているので、そういう患者はEccentric Trainingが使えないということ?(concentric returnができないから、この運動そのものが全くできなくなってしまう?) 4) 患者は各自家でこのトレーニングをやるように口頭指導されていたわけだけど、本当にやっているかどうかの確認は一体どうやってされていたの?そこんとこの記述無し。 というところがありますかねー。blindingなども報告されていないし。まあ古い研究だから作りが少し甘いですよね。

…で、読み比べると面白いのがこちらの比較的最近の研究。2
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Patellar Tendinopathy同様、「Eccentric Trainingじゃなくて、Heavy Slow Resistance (HSR) Trainingはどうよ?」とこちらでも声が上がって、それを直接比較したRCTですね。2015年発表です。

この研究では58人の慢性アキレス腱障害(>3ヵ月)患者をランダムに1) Eccentric Training組と 2) HSR Training組に分け、それぞれ12週間のリハビリを実施。ちなみにEccentric組は上記のプロトコル通りなんですが(前述したAlfredson Modelを採用)、HSR Trainingっていったい何をするのかというと、週3回、両足をついた状態でのエクササイズ3つを徐々に段階を上げながら行うという感じ。下の写真にあるように、A: 座位で膝を屈曲した状態でのヒールレイズ、B: 膝を伸展した状態でバーベルを肩に担ぎ、つま先でプレートの上に立って、そこからヒールレイズ、C: レッグプレスマシーンを使い、膝を伸展位でヒールレイズ…というヒールレイズのオンパレードになっています。それぞれのエクササイズはEccentric phaseもConcentric phaseも等しく重視されるため、踵を上げるときも下げるときもそれぞれに3秒ずつ、つまり、一度上がって下がるのに合計6秒というゆっくりさで、全可動域を使いながら行います。セット数は3-4回、セット間の休憩は2-3分、エクササイズとエクササイズの間の休憩は5分という指定はずっと変わらないのですが、rep数は週を重ねるごとに徐々に減り、逆に負荷はどんどん上がります。指定のプロトコルは以下の通り。
  Week 1: 15RMを3回    Week 2-3: 12RMを3回
  Week 4-5: 10RMを4回   Week 6-8: 8RMを4回
  Week 9-12: 6RMを4回
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で、両プロトコルの更に面白い比較が、「一週間当たり、それぞれのプロトコルを実施するのにどれだけの時間がかかったか」ということ。Eccentricが一週間当たり308分かかったのに比べ(時間にすると5時間ですね)、HSRはその約1/3の107分(2時間未満)。しかもこの数字は一番rep数の多い一週間目の時間であり、Week 2, 3, 4…と進んでいくとその時間はより短くなるわけなので…。ふーむふむ。

…で、結果としては、ランニング中の痛み(VAS)、ヒールレイズ中の痛み(VAS)、機能(VISA-A)、A-P tendon thickness(US)、neovascularizationの程度(Color Doppler)とActivity Levelは両方のグループで等しく、著しく改善。トレーニング前(Week 0)、トレーニング完了直後(Week 12)、トレーニング修了から10ヵ月後(Week 52)の三つの時間軸で、どれもしっかりとした回復傾向が確認されました。EccentricとHSRの効果の大きさは大差なーし。

さて、ここだけなら「どっちやってもよさそうでした」で終わるところですが、ひとつ考えるべきはトレーニングにかかる時間と労力です。同じ効果が得られるなら、貴方は一日に2回、朝夕にやらなければいけない痛みを伴うトレーニングと、週に3回で済むトレーニングと、どちらが好ましいと感じますか?貴方だって仕事もあるし生活もあるし、時間が無限にあるわけじゃない。患者の立場になると、答えは比較的明確になってきますね。これが数値として出たのが患者のCompliance rate (78% vs 92%, p<0.005)と満足度(80%の患者が満足と回答 vs 100%, p=0.052)。予想通りというかなんというか、HSR組の鮮やかな勝利。「同じ結果を出すなら、より手間がかからず、痛くないほうが良い」というのは、患者側の至極真っ当な感想ですよねぇ。

で、結論としては「どちらも長期的に確かな効果があるが、HSRのほうが手軽で満足度・コンプライアンス度共に高い」「そんなに意固地にconcentricを避けなくてもいいのでは?」に要約できるかなと思います。この研究の優れている点としては、pre-interventionのPatient Characteristicsに大差ないことを事前に確認してからの実感開始であるということ、アキレス腱障害の診断はPhysical examのみでなく、超音波画像を使って確認もしているというところ、Power analysisをし、各グループ18人集めればいい、と分析したうえで、それを上回る25人に人数目標を設定し、十分な人数を確保した点。それから11人いたdropoutも(結構多いですね)何故研究からwithdrawしたのか理由が提示してあり、intention-to-treatアプローチが使われたところも評価できます。エクササイズをしっかりやったかどうかは相変わらず患者のself-report頼りではありますが、Training Diaryを提出させたりと、Alfredsonの研究に比べてそれでもなんとか書面で確認しようという努力は見られます。でも、やっぱりセラピストがきちんと毎回目で確認したわけではないからなー。

EccentricがHSRに勝っている部分がひとつあるとしたら、「家で十分誰もができる」手軽さですかね。HSRはジムのような施設にアクセスがある人でないと、出来ませんよね。ここ、何故か論文では触れられていませんが、結構一般の方には大きな問題かと思うんですが。

ちなみにどちら1,2 も患者のアキレス腱の痛みは「真ん中へん(midportion)」にあるケースのみで、踵に近い「insertional tendinopathy」はまた勝手が違うみたい。3 Midportion Achilles Tendinopathyでも、「本当にAlfredson modelみたいなすごい数のrepetitionをする必要あるの?もっと少なくても同じ結果出るけど?」という研究結果も出ており、4 総合すると、「Alfredson Modelがどうやら効果をもたらすのは事実のようではあるけれども、一日に2回、毎日、痛みを伴うエクササイズをしろ、というのが患者の目にどう映るかというのは甚だ疑問であり、このプロトコルが最善と決まったわけでもない」 という感じで、私は個人的には、ジム施設が身近にあるのならHSRのほうがアリなのでは、と勝手に今のところ思っています。まだまだ研究が出てきそうな分野なので、楽しみに待つことにしますー。

1. Alfredson H, Pietilä T, Jonsson P, Lorentzon R. Heavy-load eccentric calf muscle training for the treatment of chronic Achilles tendinosis. Am J Sports Med. 1998;26(3):360-366.
2. Beyer R, Kongsgaard M, Hougs Kjær B, Øhlenschlæger T, Kjær M, Magnusson SP. Heavy slow resistance versus eccentric training as treatment for Achilles tendinopathy: a randomized controlled trial. Am J Sports Med. 2015;43(7):1704-1711. doi: 10.1177/0363546515584760.
3. Kedia M, Williams M, Jain L, Barron M, Bird N, Blackwell B, Richardson DR, Ishikawa S, Murphy GA. The effects of conventional physical therapy and eccentric strengthening for insertional achilles tendinopathy. Int J Sports Phys Ther. 2014;9(4):488-497.
4. Stevens M, Tan CW. Effectiveness of the Alfredson protocol compared with a lower repetition-volume protocol for midportion Achilles tendinopathy: a randomized controlled trial. J Orthop Sports Phys Ther. 2014;44(2):59-67. doi: 10.2519/jospt.2014.4720.

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  by supersy | 2016-04-25 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

Clinical Prediction Rules Aren't Prefect: 落とし穴を理解する。

ハヤリものを叩いて楽しむ、という風習は好きではありませんし、そういうつもりもないのですが、面白い論文を見かけたのでまとめておきます。注意喚起と言う意味でも医療界の誰もが心に留めておいて損はない内容かなと思いますし。こういうハナシもいつかEBPのAdvanced courseをできるようになったら掘り下げて話してみたいなぁー。
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さて、Clinical Prediction Rule (CPR)が最近エビデンス界で大ハヤリですよね!有名なものでは恐らく誰もが知っているOttawa Ankle Rules1 なんかがあります。このルールは「足部の怪我をしたときにいつレントゲンを撮るべきか」という的確な診断のプロセスの一部として使うのに有効ですし、他に有名な例として挙げられるWells’ Score2 は「こういう条件がより多く当てはまればよりDeep Vein Thrombosisの可能性が濃くなるぜ!」と言う風に、こちらも診断の手助けに使えます。あとはですね、例えば貴方が腰痛を持っていたとして、
  1)現在の痛みレベルが10段階評価で7以下
  2)この腰痛が始まったのは5日以内である
  3)腰痛の病歴は今までに一回以下である
この3つの条件全てが貴方に当てはまれば、特に治療をせずともこの腰痛が1週間以内に自然に改善する可能性は60%、12週間以内に改善する可能性は95%…という風にprognostic information (予後診断)として使えたりするのもあります。3 まぁこのCPRがどれだけ実用性があるかはともかくとして(個人的には12週間何もせずにただただ改善を待つくらいなら、何かして早く治したい)、様々な用途のCPRがドンドン医療系ジャーナルで発表されていて、CPRはEvidence-Based Practice (EBP)の流行のど真ん中、最先端と言えますね。
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さて、今回ご紹介したいのはこの論文(↑)。4 この記事の著者らは、特に治療に特化したCPRに対して、「イヤイヤ待った!もうちょっと解釈には気をつけないといけないんじゃないの?」と問題提起しています。

この論文のタイトルに書いてあるprescriptive CPRというのはCPR for interventionと同義で、「こういう患者にはこういう治療法が効くぜ!」という治療方針を決めるのに役立つもののことです。例えば、「こういう肩の傷みのある患者には鎖骨・肋骨・胸郭のマニピュレーションが効くぜ!」5 とか、「こういう膝の痛みのある患者には足底板が実は効果を発揮するぜ!」6 とか、なかなか面白い切り口のCPRがあったりするのです。長く現場にいる方は分かるかと思いますが、患者の体は一人ひとり違うもの。同じ怪我をした患者2人でも、こっちの患者に効いた治療があちらの患者には全く効果が出ないとか、色々なことがありますよね(だからこそ私はATは道具箱に色々一通りの治療アプローチは入れておくのが理想的、と思っていますし教えているのですが、まぁこれはまた別の機会に…)。よって、最善の治療を見つけるプロセスは必然的にtrial & errorの繰り返しになるわけですが、場合によっては「これもダメか…」「あれも効かないか…」と、理想の治療にたどり着くまでにかなりの時間やお金がかかることもあるわけです。だからこそ、「この患者にこれは効くであろう」「これはダメだろう」と実際に治療を試さずとも事前に予期できるようなルールがあればこんなに有り難いことはありません。

しかし、この論文でHaskins & Cook氏ら4 が述べているのは、治療系CPRの信憑性や実用性は以下の要素に大きく左右される、ということです。中でも大きな論点3つは、
1)比較対象になった治療は何なのか―あくまでそれと比較しての効果しか論じていないということを理解すべし
2)何を持って治療成功と定義していたのか―本当にその『成功』で貴方の患者さんは満足する?
3)サンプルサイズが不十分で、統計的にunderpoweredであり、95% CIの幅が広いことが多い。―Point valueに騙されるな!
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この3つの角度から、例の「膝の痛みと足底板」のCPR(↑)6 をちょっとreviewしてみましょうか。この論文では…
1)あくまで足底板治療のみを試した人達を被験者対象にしており、効果があった人たちと無かった人たちをグループ分け・比較をしている。つまり、他の治療アプローチ(例えばリハビリとかテーピングとか)と比べて足底板がより優れた効果がある、という結論は出せるものではない。
2)[著しく改善した、少し改善した、変化なし、少し悪化した、著しく悪化した]の5段階評価で患者に自らの状態を評価してもらい、「著しく改善した」を選んだ患者を「成功」とする。これは、患者のself-reportのみとはいえ、まぁまぁハッキリとして良い基準なのではと思いますね。
3)統計、見てみましょうか。下の表は記事から抜粋した、1)患者の年齢が25歳より上; 2) 身長が165cm未満; 3) 一番痛いときで痛みレベルが100mm VASで53.25mm未満; 4) 中足幅がFWB vs NWBで10.96mm以上差が出る、という4条件の3つを患者が満たしていた場合、患者が足底板を12週間使って「著しく回復する」可能性を示しています。結果は…
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95%CIも含めて唯一優秀なのはSpecificityの96% (95% CI 78-99%)ですね。Sensitivityは問題外で低すぎ、+LRは8.8 (95%CI 1.2-66.9)なので、下限値が5.0を割ってしまっている以上、これは決定的な数値とは言えません。例え8.8がそこそこ優秀な値でも、下限値が1.2という低さだと、Haskins & Cook氏らの言うとおり、これは”Underpowered study”と言わざるを得ないかと。

あと、Haskins & Cook氏はこの論文4では触れていませんが、患者のinclusion / exclusion criteriaも注意深く読むべきですよねぇ。膝の痛みと足底板の研究に更に言及するならば、「過去に膝の手術をしたことがある、膝蓋大腿周辺組織の弛緩がある、膝に腫れがある、オスグッド・シュラッター病やシンディングラルセン病の病歴あり、股関節や腰椎の痛みがある、過去一年にリハビリをした、以前に足底板を使ったことがある、抗炎症剤を使っている…」のいずれかに当てはまる患者は被験者対象から外れていたので、貴方の目の前の膝の痛みを訴えている患者さんがこの条件にひとつでも当てはまった場合、このCPRはそもそも全くアテにならない、使うべきではない、ということにもなります。

(もっと現実的なところでひとつ突っ込むと、12週間も足底板のみを使って改善するかしないかという治療アプローチは、多くのスポーツの現場では現実的ではないでしょう。時間軸が長すぎるのと、やはり他の治療法、例えばリハビリなんかも併用してもいいものなのか?効果が相殺しあったりはしてしまわないか?というところまで調べていただけないと…。あとは、年齢が25歳より上で、身長が165cm未満のアスリートって、アメリカにはほとんどいない、という単純なトコロも…)

そんなわけで、私もHaskins & Cook氏4が最後に述べているように、CPRには大きな可能性があり、我々の臨床を大いに助けるものに成り得ると信じてはいるものの、それらの研究の解釈には最善の注意を払うべきだとも思っています。つまるところ、やっぱり面倒くさくてもちゃんと論文をフルテキストで手に入れて、一字一句きちんと読んで内容を深く理解する必要がある、ということです。

(先の膝の痛みと足底板の研究も、結論だけ読んで鵜呑みにしてしまうと、「そうか、年齢が25歳より上で、身長が165cm未満、痛いって言っても「そこそこ痛む」ぐらいのレベルの患者で、立った時に舟状骨がスコンと落ちるタイプの人には足底板使えばいいのね!と思ってしまうかもしれない。そこまでgeneralizedできる研究結果ではないのにも関わらず、です)

それでもどうしても論文が手に入らない、もしくは全文を読んでいる暇がどうしてもない、という方にはこの本(↓)7 がおススメです。この本は医療界で世に出ているCPRを診断・予後・治療のカテゴリーに分けて、ひとつひとつの研究をなかなかに詳しく紹介しています。スマホのアプリ版もあるみたいですよ、こちらは使ったことがないので使い心地は保証できませんが。論文まるごとを読むに優ることは決してありませんが、next best thing, かもしれません。
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1. Stiell IG, McKnight RD, Greenberg GH, McDowell I, Nair RC, Wells GA, Johns C, Worthington JR. Implementation of the Ottawa ankle rules. JAMA. 1994;271(11):827-832.
2. Miron MJ, Perrier A, Bounameaux H. Clinical assessment of suspected deep vein thrombosis: comparison between a score and empirical assessment. J Intern Med. 2000;247(2):249-254.
3. Hancock MJ, Maher CG, Latimer J, Herbert RD, McAuley JH. Can rate of recovery be predicted in patients with acute low back pain? Development of a clinical prediction rule. Eur J Pain. 2009;13(1):51-55. doi: 10.1016/j.ejpain.2008.03.007.
4. Haskins R, Cook C. Enthusiasm for prescriptive clinical prediction rules (eg, back pain and more): a quick word of caution. Br J Sports Med. 2016. pii: bjsports-2015-095688. doi: 10.1136/bjsports-2015-095688.
5. Mintken PE, Cleland JA, Carpenter KJ, Bieniek ML, Keirns M, Whitman JM. Some factors predict successful short-term outcomes in individuals with shoulder pain receiving cervicothoracic manipulation: a single-arm trial. Phys Ther. 2010;90(1):26-42. doi: 10.2522/ptj.20090095.
6. Vicenzino B, Collins N, Cleland J, McPoil T. A clinical prediction rule for identifying patients with patellofemoral pain who are likely to benefit from foot orthoses: a preliminary determination. Br J Sports Med. 2010;44(12):862-866. doi: 10.1136/bjsm.2008.052613.
7. Glynn PE, Weisbach PC. Clinical prediction rules: a physical therapy reference manual. Sudbury, MA: Jones & Barlett Learning;2011.

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  by supersy | 2016-04-05 19:00 | Athletic Training | Comments(0)

Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその2。

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もうひとつ紹介したかったのはこの論文です。1 これはネパールの研究者によるものですね、珍しい。2015年8月と、比較的最近発表されています。

膝の痛み、グラつき感や引っかかり感などを訴えてスポーツクリニックを受診した20-45歳の患者を対象に、Anterior Drawer Test, Lachman Test, Pivot Shift TestとLelli Test (以下Lever Sign Testと表記します。原文ままだとLelliなんですけど)を実施。のちにArthroscopeを全員に行い、ACL断裂の有無を確認した、という研究です。

ちなみに実際にこの研究に参加した被験者内訳は男性50人、女性30人の合計80人(平均年齢32.12歳)。内視鏡検査の結果、ACL断裂が確認されたのは35人で、そのうち13人がisolated ACL tear、22人が半月板損傷を伴うACL tearだったそうです。ACL tear全体のうち約63%が単独でなかったということは特筆すべきかもしれません(前回の記事で述べた穴の二番目がこれで大きくなりましたね。前十字靭帯断裂時の6割以上は他組織の損傷を伴っている。つまり、前記事の結果が当てはまらない場合のほうが多いわけです)。

さて、それでは一気に結果に飛びましょう。各診断テストと内視鏡検査の結果が以下の表にまとめられています。+LRと-LR値(と、それらの95%CI値)はこの論文では求められていなかったので、私が出して付け加えてみました。統計的に決定的と言えるものには赤い色もつけてみています。
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ひとつひとつ、私見をたっぷり交えて読み解いてみます。Anterior Drawer TestはSpecificityの95%CI底値が80を超えていることから、Rule in (確定)する力に長けていることが分かります。対してSensitivityは、悪くはないんですが95%CI底値が62.53なので「陰性だからってACL損傷が無いとは強く断定できない」ということになりますね。+LR、-LRも同様に「良いんだけど、決定力に欠ける」と言った印象です。
LachmanはSpecificityも+LRもがっつり優秀。Rule in (確定)する力はAnterior Drawerよりも高いです。SensitivityはSpecificityほどではないものの、95%CI最低値が75.81とこれもなかなか。-LRの最大値0.27と合わせてみても、この4つのテストの中ではRule out (除外)する力が最も強いテスト、ということになります。
Pivot Shiftは予想通り、というかなんというか、Rule in (確定)はほぼ確定的、Rule out (除外)はコイントスをして表が出たらACL断裂、というのと変わらないくらいアテにならない、というのが分かりますね。
で、Lever Sign Testはというと全てのpoint valueは優秀なんですけど、95%CIの幅を見るとうむむむむ、という感じですかね。一番いいのはSpecificityの91.11(77.87-97.11)なんですけど、他の3つのテストと比べてみると実は最も低いという結果になっています。Sensitivity (85.71: CI 68.95-95)と-LR (0.16: 95% CI 0.07-0.36)を見る限りではRule out (除外)する力はLachmanに次いで二番目に高いですね。

昔からある3つの診断テストの数値は、依然に発表された文献たちのそれと酷似していると言っていいと思います。特に今までの常識を覆すような発見はないかなと。で、全部をランキングにまとめてみると、
   確定(rule in)力     除外(rule out)力
1位 Pivot Shift       Lachman
2位 Lachman        Lever Sign
3位 Anterior Drawer    Anterior Drawer
4位 Lever Sign       Pivot Shift
こんなところがフェアでしょうか。この研究ではLever SignのSensitivity、Specificityの値と比較して、それぞれのp valueも計算されていて、以下のよう(↓)になっています。赤は統計的有意(はっきりとした違い)を、黄色は統計的傾向(トレンド)を表しています。
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解釈としては、「Lever SignのSensitivityはPivot Shiftのそれよりも著しく(p = 0.000)高い」「Lever SignのSpecificityはPivot Shiftのそれよりもかなり低い傾向にある(p = 0.0625)」「Anterior DrawerとLachmanはSensitivity、Specificity共にLever Signと大差なし(p > 0.05)」ということになるんですが…なんでこれが大事なのかって?つまり、この分析で「Lever Sign TestはどうやらAnterior DrawerとLachmanと等しく優れたテストである」ということが言えるんです。

この論文の穴
1) 80人という人数はPower analysisに基づいたものではないため、これが十分な被験者数という保証はない。もっと被験者が多ければ、95%CIの幅も狭まったはず。
2) やっぱり誰が、どういう順番と条件でそれぞれの診断テストをしたのが記述がない。
3) 受傷から診断までどのくらい時期が経過していたかの情報が全くない。これは、痛みの度合いやGuarding/spasmの有無にも影響してくるため、私にとっては結構重要な情報。特に、Anterior Drawer Testの正確性に関しては急性のACL損傷には低く、慢性のACL損傷には高い報告がされているため、無視するわけにはいかない要素。
4) 男女別や損傷程度別(isolated vs combined)の分析は無し。せっかく情報があったのだからそういう分析も見てみたかった。
5)あと…これは全然関係ないかも知れませんが、この論文、構成ミスが多すぎです。スペースの使い方、大文字小文字の使い分け、参考文献の並べ方…このJournal of Institute of Medicineというジャーナルも聞いたことないですし、Impact Factor低そう。内容は決して悪くないと思うんですけど、こういう細かいところが気を配られてないと、怪しさは増します。

この論文の良いところ
1) Inclusion Criteriaが明確で、あくまで膝の異常を訴えてきた全患者が対象だったこと。「ACL損傷でなかった患者も被験者に含まれていた(人数にして55人)」のは大きいですね。前回のDr. Lelli氏の論文は「ACL断裂していることが既にMRIで確認された患者のみ」でしたから、今回の論文のほうがより我々の現場環境(『どうやら膝を怪我した、でもどんな怪我かまだ未確定』)に各段に近いと言えます。
2) 診断のゴールドスタンダードである、内視鏡検査が全患者に使われている。これはMRIよりも絶対的です。
3) 95% CIを計算している。…+LRと-LRは出しておいてくれなかったですけどね。

さて、個人的な最終意見をまとめると、診断統計的にLachmanが総合的にやはり一番使える診断テストと言えそうだけど、その次くらいにLever Sign Testはありかなと。Lachman、Anterior Drawerとcomparableでありながら、そのアホみたいなシンプルさはやっぱり捨てがたい。その他3つの診断テストのlimitations (Lachman: 試験者の手の大きさと患者の腿の大きさの不一致、Anterior Drawer: 90°の膝屈曲が不可欠、ハムストリングの緊張や内側半月板後方の損傷が 偽陰性の要因になる、急性損傷の診断力の欠如、Pivot Shift: MCLとIT Bandがintactでなければいけない、患者に意識がある場合の不快感とguardingの高さ)がはっきりと文献で指摘されているのに対して、Lever Signがそういった要素にどうやら影響されにくそうなのは大きな利点です。はっきりと影響がないと証明されるにはまだまだ研究が必要ですし、もしかしたらLever Sign Test特有のLimitationというのも将来見つかる可能性は否定できませんが。個人的には子供にも使用可能なのか(拳のサイズに対して足が小さくなるので)、他の組織の損傷があった場合で正確性がどう変わるのかなどは興味があります。
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今、目の前で膝を怪我した患者がいて、私が使うのは骨折や脱臼をRule outしたあとではまず現時点ではLachmanでしょうけれども(長年使ってますし、100kgくらいまでの選手ならmanipできるような気がします)、次はLever Signですかね。私は急性の患者にAnterior Drawerはできればラッキー、陽性なら考慮に入れるくらいで、陰性を除外の根拠にすることはありません。Pivot shiftに関しては恐らくattemptすらしないと思います。うーむ、Lever Sign Test、確実にスタメンには入ってくる感じですね。これからの研究にも期待してます。面白い!

1. Thapa SS, Lamichhane AP, Mahara DP. Accuracy of Lelli test for anterior cruciate ligament tear. J Inst Med. 2015;37(2):91-94.
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  by supersy | 2016-03-18 15:00 | Athletic Training | Comments(0)

Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその1。

私的な告知ですみません。以下の日程で、Evidence-Based Practice (EBP)講習を、東京は立川で行います!興味のある方はぜひ、リンクから詳細を確認してみてください。

5月25日(水) 18:30-21:30pm
  「エビデンスに基づいたスポーツ傷害診断: 基本から応用まで」
  会場: たましんRISURUホール 第6,7会議室   参加費: 8000円
6月1日(水) 18:30-21:30pm
  「エビデンスに基づいた治療介入: 基本から応用まで」
  会場: たましんRISURUホール 第1会議室    参加費: 9000円

お申し込みはリンク下のカレンダーから個別にどうぞ。両方でも、片方だけでも。多くの皆様に会えるのを楽しみにしています。初めての方も、リピーターの方も、学生さんも大歓迎です。エビデンス苦手、英語読むの苦手という皆様、是非!
それでは、この講習のプレビューというわけじゃないですけど、この講習でやるのと非常に似たようなことを今日このブログに書いてみますね。これを楽しいと思ってくださる方は、きっとEBPの勉強をするのに向いていますよ。エビデンスに飲まれず、どうそれを利用していかにより良いクリニシャンになったるか?というところ、ちょっと一緒に考察してみましょう。



Lelli Testについてまとめたのはもう2年も前なんですね!このときに「いずれ文献でも見かけることがあるかもしれません」と書いてシメましたが、その文献が出てきたのでここにまとめておきます。
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今回reviewしたいのはこのビデオ公開から数ヵ月後、Dr. Lelli自身が2014年12月に発表した論文です。1 彼は以前自らの名前を取ってLelli Testと呼んでいたこのテストを、この論文では『Lever Sign Test』(つまり、テコの原理を使ったテスト)という風にさらりと改名して(たぶん欧米診断界のトレンドが、診断テストに個人名をなるべく使うなという風になっていることがあるかと)、その上でこのテストが部分断裂・完全断裂に関係なくACL損傷を発見するのに有効なテストである、と冒頭で述べています。
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せっかくなのでDr. Lelliによるこのテストの描写をこの論文から抜粋しておさらいしてみますね。以前、ビデオでしていた説明と少し異なる部分もあるので。

1. 患者を仰向けに寝かせ、膝を最大伸展させる。
2. 試験者は患者の下腿近位1/3に握ったこぶしを入れ、膝が少し屈曲するようにする。
3. もう片方の手で、大腿四頭筋の遠位1/3を軽く下に押す(apply moderate downward force)。
4. これをすることで、拳を支点にテコの原理が働き、重力に逆らって踵がテーブルから浮くはず(=陰性)であるが、テコが働かず重力が勝って踵が浮かなかった場合、これを陽性とする。これは、前十字靭帯がもはや大腿と下腿に力を伝える機能を果たせていないためである。

近位と遠位の1/3という描写は以前はなかったのではと思いますね。で、Dr. Lelliはさらに「(LachmanやAnterior Drawerなどと比較して)突然不意の力をかけることがない分、患者の痛みやguardingの軽減につながるのでは」とも書いています。ふむふむ。

で、肝心の実験なんですが、これはProspective designを採用して、400人(女=119, 男=281, 平均年齢= 26.4∓14.9歳)のMRIによってACL損傷が確認された患者を対象に行っています。被験者の数が多いのは評価されるべきところかと思います。

で、400人の患者は、それぞれの条件(MRIの結果と受傷からの期間)によって4つのグループ(↓)にカテゴリー分けされているわけです。というか、順番でいうと逆ですね、これらのグループにそれぞれ100人該当患者が現れるまで研究を続けた、という表現のほうが正しいですね。ちなみにこの100人という人数は、実験前のPower analysisで『各グループに最低97人いれば有意なデータが取れる』という結果が出たからです。Power analysisしている点もポイント高いです。注意深くこの研究をデザインしようとしている感じは見て取れます。

  Group A: 急性 完全断裂
  Group B: 慢性 完全断裂
  Group C: 急性 部分断裂
  Group D: 慢性 部分断裂

ちなみに、急性とは受傷20日以内、慢性は20日以上を指すそうです。そんでもって、半月板や関節面軟骨、他の靭帯の損傷なども伴っている患者はここでは対象外になっています。あとは、以前に同側膝に再建手術を受けたことがある患者も除外されてます。

で、グループ分けをした後に、一人の試験者が4つのSpecial Test (Lachman Test; Anterior Drawer Test; Pivot Shift Test; Lever Sign Test)を用いて、患側の膝が陽性か陰性か検査、で、結果を記録。加えて、健側 (コントロール代わり)にも同様にLever Sign Testを使ってデータ集計したそうですよ。論文には、この唯一の試験者はMRIの結果を知らないまま ("blinded to the MRI findings")これらのテストを行ったと表記されています。これもバイアスを軽減するために有効な研究デザインのちょっとしたテクニックです。評価できます。
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で、陽性が出た患者の割合を表した結果は上の通り。これを全て合わせると、
Lachman: Sensitivity 62%
Anterior Drawer: Sensitivity 72%
Pivot Shift: Sensitivity 47%
Lever Sign Test: Sensitivity 100% (95% CI 99.08-100%), Specificity 100% (95% CI 99.08-100%), +LR 無限大, -LR 0)
…というですね、Lever Sign Test無敵じゃん!みたいな結果になっています(っつーか、なんでこの記事で95%CI求めてないんだ。私が計算してしまったやんけ)。おおっ、それじゃあ、このテストはそんなに完璧なの?部分断裂 vs 完全断裂、急性 vs 慢性問わず、前十字靭帯損傷をこれほどまでに正確に感知できるの?

ここが論文を読み解く上で怖いところです。実際、この論文の結論には「一般には診断が難しいと言われる急性ACL損傷をここまで正確に診断できるなんてこれは他のどれより優れた素晴らしいテストだ」と書かれていたりします。それを「ほえー」と鵜呑みにするのは、私の考えるEvidence-Based Practiceとは異なります。ではここで、私が思うこの研究の穴をできる限り挙げていきたいと思います。

1) 比較対象となっている試験がMRI
MRIは前十字靭帯損傷診断にかなり有効ではありますが、ゴールドスタンダードとは言えません (内視鏡がそうですよね)。故に、MRIを「基準」としているところは完璧とは言えない、と。…まぁ、ここは私はそんなに大きな穴だとは思っていませんけれど。まあ、小指くらいの穴ですかね。

2) 他の損傷(半月板、内側側副靭帯etc)もあった場合の診断的価値は不明
これは再建手術済みの患者も然り。こういう患者はこの研究では「対象外」になってますからね。なので、あくまでこの結果はisolated ACL injury onlyの有効性であると認識しなければダメ、ということになります。これは、実用性というところからいくと、そうですね、片手分くらいの穴にはなるかな。だってコンタクトでACL損傷すると、かなりの確率で他の組織も損傷するでしょ?「他の組織の損傷が除外できていない」段階でのLever Sign Testの結果の解釈は我々はどうしていいかわからない、ということになるもの。現実味がなぁ。

3) 被験者に対するバイアス
この研究で調査対象になったのは、あくまで『膝の怪我で医療機関を受診した患者』のみです。逆に言うと、『膝がなんか違和感があるけど、医療機関にかかるほどじゃないかな?』という、極稀にいるACL断裂したのにも関わらず異様に自覚症状のない患者にも同様に有効かというとそこまでは分かりません。『医療機関にかかろうと思うほどしっかりとした自覚症状のある患者である』というのが、この研究では隠れたinclusion criteriaになってしまっているわけです。どんな自覚症状でも、とにかく怪我をした選手を診るようなATからすると、ちょっとpatient populationに微妙にズレが生じてきます。これは、片足くらいの穴かなと思います。

4) 『唯一の試験者』が誰か、どれだけの経験を積んだ人間なのか明記がない
これは非常に大きな懸念材料です。普通こういうのは誰がやったかわかるようにPrimary investigatorのSAが…とか、イニシャルくらいは記載したりとか、「整形外科診断歴20年のベテラン医師が…」とか、多少説明があるものですが、この論文ではそれが全く明記されていません。この一文を加えるのはそんなに労力がかかることではないのに、何故?変な思いを巡らせざるを得ません。
例えばですよ、この人がLever Sign Testだけアホみたいに上手に一貫性を持ってapplyできるような技術があって、他のテストがてんでヘタクソだったとしたらそれは公平に4つのテストを行っていると言えませんよね?Lever Sign Testは比較的シンプルに見えるテストとは言え、拳の位置如何で結果がかなり変わってくるのでは、とか、拳の大きさもひとつの要因になるのでは、とか、そういうことはまだ一切どんな論文でも議論されていないのです。Intra- やInter-rater reliabilityが確立されていないテストでこの制限は怖いです。私が行うLever Sign Testが、この研究者が行ったLever Sign Testと同じかどうかの保証がまだ無いのです。

5) Blindingは意味があったのか?
MRIの詳細結果(完全か部分断裂か)を知らないとはいえ、被験者の全員が前十字靭帯を損傷しているのは分かり切った事実。試験者が、どんな患者が来てもLever Sign Testのみ「ようせーです」と言ってしまうことは簡単にできるのでは?健側に対するテストもまた然りです。健側と分かった状態でテストしているのだから、純粋な結果とは言えません。「いんせーでしたー」と言っちゃえばいいんですから。せっかく文章中で強調されていたblindingですが、私はこれはあってないものと一緒、と解釈しています。

6) 4つのテスト、どのような順番で行ったのかの詳細が不明
これもね、ちょっと上に繋がるんですよ。例えば、Lachman→Anterior Drawer→Pivot Shift→Lever Sign Testの順番でテストをしたとして、LachmanやAnterior Drawer、Pivot Shiftの一つでも派手に陽性が出たとしたら、そのあとのLever Sign Testが「あれ、なんか陰性っぽい?…でも、他のも陽性だったし…これも陽性って言っちゃえ!」という心理的バイアスが作用してくる可能性は否定できません。先に使ったテストの結果が、後に使うテストの結果に影響を与える可能性があるわけです。

7) なぜ他の3つのテストも健側に行わなかったのか
健側にもLever Sign Testをやって、「コントロールとして試しましたー」と言っていますが、これも上と同様です。もともとACL損傷が起きていないと分かっている膝をテストして、「ようせいー!」というおバカさんが、果たしているでしょうか。コントロールとして機能は十分にしていないと思います。他の3つのテストを何故同様に健側に行わなかったのか、という疑問もあります。4つのテストを比較するというなら、 これも同様に実施すべきでした。

8) 部分断裂と完全断裂を区別せずに、まとめて陽性というのは…
急性に対する診断力があるのは評価できるところかもしれないし、素晴らしい。でも部分断裂か完全断裂を区別することなく「陽性」とまとめることに価値は果たしてあるのか。例えば、LachmanやAnterior Drawerはそのtranslationの程度とか、end-feelからGrade I, II, IIIの区別がある程度は可能ですよね。対して、Lever Sign Testは踵が浮くか浮かないか、陽性か陰性かの選択肢がなく、この研究結果を鵜呑みにするとしても、「部分断裂と完全断裂の区別は全くつかない」というテストになります。私が現場の人間だったらreferする基準にLever Sign Test陽性を使うのはいいかもしれないけど、不安になる患者を安心させるためにも、もうちょっと損傷の程度に関する情報がほしいところです。

…というわけで、全てまとめて、皆さん改めてこのLever Sign Testをどう思いますか?個人的にはこの研究には大きな穴がぼっこぼこ開いており、「うさんくさっ!」という感想が率直なところです。Sensitivity 100% Specificity 100%というのは恐らく正確な数字ではないでしょう。
では、Lever Sign Testは現場で使うべきではない?それも違うと思います。Lever Sign Testが、他のテストに比べて技術力を要しない(Lachmanとか、初心者には難しいです。あと、太腿のでっかい体の大きな選手とか)、痛みやGuardingを起こさせるような大きな負担を患者にかけにくい、というのは事実ですし、このテストを行うのに必要な可動域も最小限で済む。例えばこんなシナリオはどうですか?1) 受傷直後、患者が痛みで膝を20-30°程度しか屈曲できない、そして2) 患者がアメフトのラインマンで、太腿が貴方の手と比べてかなり大きい。足を掴んで効果的に動かすことはできないかも…。この場合、Anterior DrawerやPivot Shiftは使えませんし、Lachmanを試してみるのはいいですが、陰性をどこまで信用すべきか怪しいですよね。こういう環境下では、Lever Sign Testしかまともに使えない場合もありますし、思いがけず力を発揮してくれるかもしれません。

エビデンスに基づく医療とは、エビデンスを鵜呑みにするわけでもなければ、エビデンスがないものを完全否定するわけでもない。エビデンスと現場での実用性、そして患者の状態や気持ちを加味して、その状況状況でベストな医療を提供するような判断ができることを言います。こういう一見「ダメダメ」な論文でも、掘り下げてみると面白いし、Lever Sign Testの隠れた現場力も見えてきたりするでしょ?

され、前述したように、私のEBP講習ではこういう論文や統計の解釈を現場レベルで掘り下げて、参加者さんとわいわい討論することが一番の目標です。頭でっかちにならず、エビデンスの使い手となって皆さんが帰ってくだされば幸いです。初心者で苦手意識のほうがまだまだ強いという方にこそ学びやすい講義をと思って作ったものです。お気軽に参加くださいませ。



さて、Lever Sign Testについてですが、実はもうひとつ紹介したい論文があります…が、長くなってしまったので今日はここまで!近々その2を更新します!

1. Lelli A, Di Turi RP, Spenciner DB, Dòmini M. The "Lever Sign": a new clinical test for the diagnosis of anterior cruciate ligament rupture. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2014. DOI:10.1007/s00167-014-3490-7
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  by supersy | 2016-03-16 23:00 | Athletic Training | Comments(2)

大腿に新しい筋肉が見つかった?Tensor of Vastus Intermedialis。

膝に新しい靭帯が発見された!なんてここで書いたのはもう2年半くらい前ですね。
今度はどうやら、大腿に新しい筋肉が発見された1っていうんですよ。そんなことってあります?
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振り返るまでもないかも知れませんが、元々大腿前面は大腿四頭筋というその名の通り、4つの筋肉によって構成されていると教えられてきました。Rectus Femoris (RF: 大腿直筋), Vastus Medialis (VM: 内側広筋), Vastus Lateralis (VL: 外側広筋)にVastus Intermedialis (VI: 中間広筋)…。しかしなんと今回、外側広筋と中間広筋の間に新しいthe Tensor of the Vastus Intermedialis (Tensor VI: 中間広張筋?)という名前の筋肉が発見されたというのです。場所で言うと、下の青い円のあたりなんだそうな(↓)。
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歴史を辿ってみると、1986年2 と1990年3 にそれぞれ一度同じ研究グループから、「なんだか3割位のヒトに、VLとVIの間に小さな筋繊維と薄い板状の腱みたいなものがあるっすよ?」と報告がされていたのですが、「こういう変わった大腿直筋・外側広筋のヒトもいるのかな?」程度の認識で埋もれてしまった様子。あまり手術で開ける部位でもないので、医師らがここをまじまじと観察する機会も決して多くなかったのでしょうね。今回の論文では、1 新しく見つかったこのTensor VIという筋肉は、「遠位の腱膜が酷似していることから、外側広筋ではなく中間広筋から派生したものと考える」ということになっています。

この論文自体は「解剖報告論文」みたいなことになっています(そんなカテゴリーあるのか)。著者らは16(男性9体、女性7体、下肢計26本)の献体を解剖し、その全て(100%)にTensor VIが見つかったと報告しています。この筋肉には他の大腿四頭筋とは区別される独立した神経支配(femoral nerve)が確認されたとのこと。26本の下肢のうち22本(約85%)でTensor VIの近位筋繊維部分が他の筋肉とハッキリ区別できる状態で、残り4本では完全には引き剥がせない状態で発見されたように、多少のvariationはあるみたい。遠位も、Tensor VIとVIの腱膜(aponeurosis)が混ざって走っている場合と(VI-type 23%)、VLと混ざる場合と(VL-type 19%)、完全に独立している場合と(Independent type 42%)とか、色々あるようで…。個人差はもちろん、一人のヒトでも右と左で違う場合もあるようです。層構造の観点からすると、順番はどうやらいつもVL, Tensor VI, VI(表面⇔深部)という並びのようなんですけどもね。論文には様々な写真が掲載されていますが、一番全体像が見やすいのはこれ(↓)ですかね。写真右から1→2→3と追っていくとTensor VIの全貌が見えてきます。ふむー。
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機能としては、かなり外側から膝蓋骨に切り込んでくる感じになるので、1) VMに対抗する、非常に重要なpatellar motion controlの役割が多いではないのか、ということと、2) この筋肉の緊張がVIの腱膜の緊張に直結していることから、VIの収縮を助ける役割があるのでは、と考察しています。ちょっと本文の、"medialize the action of VI (p.262)"という表現は私の中でしっくりこないのだけど…どういうことだろ?lateralizeじゃなくて?

まとめると、
Prox Insertion: Greater trochanter, gluteus minimus, lateral lip of linea aspera
Distal Insertion: Medial aspect of base of patella
Innervation: Femoral n.
Vascular Supply: Lateral Circumflex Femoral a.
Action: Knee extension (tibial external rotation in OKC/femoral internal rotation in CKC)
…ということになるのではないかと、ちょっと個人的な推測も含めて思います。改めて、「この筋肉は大腿四頭筋群の仲間でありながら、他の筋肉とは区別されるべき、独立した筋肉である」というのがこの論文の大きな結論です。…というか、これを認めるならもはや「大腿四頭筋」という名前すら正しくなくなるので、なんだろ、Quinqueceps (大腿五頭筋)?とか呼ばなきゃいけなくなっちゃう?
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自分でイメージしてみたくてこんな絵を描いてみたんですが、正確かどうか責任は取れません。参考程度に見てください。小殿筋とつながってる…というのだから、こんな感じかなーと。なんだか、アレですね、小さいbellyに長い腱膜…Plantarisに似てる?これからこの筋肉のMMTがあるとしたらどんなかしら、とか、この筋肉の過活動や抑制が人体にどう影響を与えるのか、とか、色々考えてみたいと思います!解剖って、まだまだワカラナイことばっかりですね。人体って不思議…。

1. Grob K, Ackland T, Kuster MS, Manestar M, Filgueira L. A newly discovered muscle: The tensor of the vastus intermedius. Clin Anat. 2016;29(2):256-263. doi: 10.1002/ca.22680.
2. Golland JA, Mahon M, Willan PL. Anatomical variations in human quadriceps femoris muscles. J Anat. 1986:263-264.
3. Willan PL, Mahon M, Golland JA. Morphological variations of the human vastus lateralis muscle. J Anat. 1990;168:235-239.

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  by supersy | 2016-03-06 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

痛みがあると動きが変わる。

まずはPRI Japanからのお知らせです!

5月14-15日 東海医療科学専門学校(名古屋市) 石井 健太郎 席数 40
5月21-22日 帝京大学八王子キャンパス(東京都八王子市) 阿部&石井 席数 50
5月28-29日 福岡リゾート&スポーツ専門学校(福岡市博多区) 阿部 さゆり 席数 40

今年5月に名古屋・東京・福岡で開催する予定のマイオキネマティック・リストレーション講習について、詳しい日程(上記)と申し込み開始日時(3月14日・月曜 日本時間午前8時)が正式決定いたしました。興味のある方はPRI Japan公式のウェブサイトから詳細をご覧になってください。

私は東京と福岡を担当させていただきます。九州上陸は初めて…どきどきわくわく!
(お酒が美味しいと聞いています!)



さて。前回は怪我があると脳にどういう影響が出るか、と言う話を書きましたが、今は痛みと動きの係わり合いについて学んでいたりします。
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『痛み』は我々の身に迫る脅威を知覚するための重要なシグナルであり、痛みが感じられなかったらそれはそれは大変なことになるのですが(実際に無痛症という先天的に痛みを感じる受容体が無い病気もこの世に存在します)、痛みや痛みの影響が身体に留まり続けてしまうと言うのもこれまた厄介です。
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ヒトは、痛みがあるときと無いときとでは、動き方が変わってきます。頭痛がするとき、おなかが痛いとき、足首を怪我しているとき…。そんなに大げさにしていないつもりでも、普段の貴方の動きに痛みの影響が出始めるのです。これは動かぬ事実ですし、皆さん自身もきっと経験があることでしょう。例えば、上の写真を見てください。アキレス腱の痛みを抱えながらそれでもなんとかレースを走りきろうとするこの選手ですが、この写真からだけでも直接関係のある下肢のみでなく、僧帽筋周りにチカラが入っている感じ、そして歯も食いしばって眉を上げて表情筋にまで緊張が掛かっているのが見て取れます。身体のたった一箇所の痛みが、全身の筋の使い方に影響を及ぼすのが分かる、興味深い写真です。
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痛みがどう運動制御に影響を及ぼすかは諸説ありますが、初期のものだと、
1. Vicious Cycle:1 痛みが周辺の筋緊張(spasm)を生み、
  それによってできたischemic stateが更に痛みを呼び、
  悪循環を生む(= pain-spasm-pain cycle)
2. Pain Adaptation Theory:2 痛みがあると筋緊張は逆に下がる
  (antagonistの活動は上がり、agonistの活動は抑制される)
…あたりが代表的かと思うのですが、どちらも型にはまりすぎており、この説にはそぐわない研究結果も幾つも発表されています。これに台頭する形で提唱されたのがHodges & Tucker氏が新たに2011年に発表したNew Pain Theory。3 上の記事はあまりに有名ですよね。ここで彼らは、「痛みによって筋肉がどのように反応するかは、その筋肉によっても違うし、何をしているかによっても変わる」という、muscle- and task-specificな様々なレベルでの神経回路のパターンの変化を強調しています。痛みに対する身体の反応は、いつでも活性ばかりとか、抑制ばかりってことはない、きっともっとなかなかに複雑ですよ、と説いたわけです。

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これと併せて読むと面白いのがKiesel氏らのこの論文。4 17人の大学生くらいの年齢で、腰痛を一度も経験したことがない被験者に対して生理食塩水を腰椎に注入。人工的に腰痛を作り出した状態で、1) 体重の前方移動と、2) 肩関節の0°から90°までの屈曲、3) 90°から0°までの伸展とのそれぞれのタスクの間にmultifidus muscle (多裂筋)がどう活動を起こしているか測定した、という研究です。腰痛を起こす前、起こした時、無くなってからの3測定を比較した結果は、
 - 1) 体重移行の間は、腰痛アリのほうがナシよりもmultifidusの活動が低く
 - 2) 腕を挙げる時は活動が上がり
 - 3) 腕を下げる動作に変化は見られなかった
…という、同じ筋肉でも動作によって異なる、まさにtask-dependentなものになりました。何がこの変化の直接的な原因なのかは断定しづらいところだとは思いますが(i.e. learning effectは?体内に埋め込んだelectrodeのせいで、そもそも全ての計測が影響されていた可能性は?食塩水による痛みでなく注射そのものが原因で変化が出た可能性は?Sham injection groupを作るべきだったのでは?)、動作の直前に腰椎を安定させる重要なanticipatory muscleであるべきmultifidusに、痛みが無いかどうか、そして何をしているかでここまで活性値に変化が出るという結果は、「ここから発展しうる悪影響は、はて…?」と考えをめぐらせるのにはなかなか面白いです。

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Cholewicki氏らのこの研究5も着眼点が良いです。腰痛歴が過去に一度だけあったが、もう6ヶ月以上自覚症状はない状態の大学生アスリート17人と、腰痛歴が過去に無い以外は年齢・体格・性別が似通った(=matched) 17人の被験者グループとを比較したこの研究では、「胴体に突然かかる力に対してどのように筋肉を使うか」を計測、分析しました。被験者を膝立ちにさせたような状態で機械に固定し、胴体をケーブルを使って一方向に引っ張ります。被験者は自分の胴体をまっすぐに保つために、身体を逆に引っ張る筋肉を使わざるを得ないわけです(例えば下左の写真では、ケーブルによって胴体が伸展位に引っ張られるので、屈曲筋群を使って姿勢を保たなければいけないわけです( = low grade isometric trunk flexion)。
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で、このケーブルが突然リリースされるのですが、その時に胴体の身体をいかに使って「おっと!」とバランスを調整するか調べたというわけです。結果は右上のグラフを見ると分かりやすいかなと思います。EMGの上(A)が「腰痛ナシ」の被験者のもの、下(B)が「腰痛暦アリ」のもの。このPostural perturbationの調整には、いかにagonist (例では胴体屈曲筋)にいち早く抑制をかけ、同時にantagonist(胴体伸展筋)を活性化させるかが大事なわけですが、腰痛暦ナシの被験者はこのon/offのスイッチの切り替えが一瞬でできる(= 効率良く姿勢の調整が可能) のに対して、腰痛歴があった被験者は1) agonistの抑制までかかった時間が長く、2) 抑制された筋肉も数が少なかった。つまり、必要ない筋肉のスイッチを切る能力が鈍っているのが分かります。この影響で、身体には一瞬agonistとantagonist両方のスイッチが入ってしまう瞬間が生まれました。これらはco-activation(= 二つの対になる筋肉が両方緊張している状態) と呼ばれ、身体の安定性を生むメカニズムとしては非常に原始的で好ましくないものとされています。

●Short-term benefits vs Long-term problems
これら3つの研究を併せて、面白いというか怖いなぁと思うのは、こういった代償の神経系メカニズムは一時的な痛みのある部位の固定とか、運動への需要を下げるためには有効でも、長期的に見ると問題の方が多いところですかね。例えば最後の研究なんかで言えば、腰痛暦アリの被験者はあくまで「一回だけの腰痛歴」があっただけで、既に自覚症状は見られず、恐らくセラピストも患者自身も「完治した」とみなす状態だったと思うのです。それでも、研究によって明らかになった「代償的筋肉の活性・抑制のパターン異常」は根強く身体に残ってしまっていた。本当の意味の機能回復は、しきれていなかったわけです。

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よく聞く、「足関節の捻挫のあとは股関節外転筋(Gluteus Mediusが代表的)が弱くなる」というのもひょっとしたら痛みが原因かも知れません。Friel氏らの研究6 では捻挫を2度以上受傷したことがあり、既に「機能は回復した」と自覚している23人の被験者にもやはり同側の股関節外転筋群に筋力出力低下が見られたと報告。1) 自覚症状がなくなっても根強く残る隠れた神経出力の問題と、2) これらを考慮に入れたリハビリのデザインの重要性を訴えていますが、しかし、だからといって単純に中臀筋を鍛えればいいってもんなんでしょうか…。痛みを長期的に感じることで、脳の形態・構造が変わってくる、という報告7や、それが特に幼いうちに起こると痛みそのもののプロセスの仕方が変わってくる、8という研究もあるので、やはり個人的にはリハビリの中には真の回復を目標とした神経的なアプローチが必須かと思います。
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1. Roland M. A critical review of the evidence for a pain–spasm–pain cycle in spinal disorders. Clin Biomech. 1986;1:102–109.
2. Lund JP, Donga R, Widmer CG, Stohler CS. The pain-adaptation model: a
discussion of the relationship between chronic musculoskeletal pain and
motor activity. Can J Physiol Pharmacol. 1991;69:683–694.
3. Hodges PW, Tucker K. Moving differently in pain: a new theory to explain the adaptation to pain. Pain. 2011;152(3 Suppl):S90-98. doi: 10.1016/j.pain.2010.10.020.
4. Kiesel KB, Butler RJ, Duckworth A, Halaby T, Lannan K, Phifer C, DeLeal C, Underwood FB. Experimentally induced pain alters the EMG activity of the lumbar multifidus in asymptomatic subjects. Man Ther. 2012;17(3):236-240. doi: 10.1016/j.math.2012.01.008.
5. Cholewicki J, Greene HS, Polzhofer GK, Galloway MT, Shah RA, Radebold A. Neuromuscular function in athletes following recovery from a recent acute low back injury. J Orthop Sports Phys Ther. 2002;32(11):568-575.
6. Friel K, McLean N, Myers C, Caceres M. Ipsilateral hip abductor weakness after inversion ankle sprain. J Athl Train. 2006;41(1):74-78.
7. Baliki MN, Schnitzer TJ, Bauer WR, Apkarian AV. Brain morphological signatures for chronic pain. PLoS One. 2011;6(10):e26010. doi: 10.1371/journal.pone.0026010.
8. Schwaller F, Fitzgerald M. The consequences of pain in early life: injury-induced plasticity in developing pain pathways. Eur J Neurosci. 2014;39(3):344-352. doi: 10.1111/ejn.12414.

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  by supersy | 2016-02-05 16:30 | Athletic Training | Comments(3)

Injury-Induced Neuroplastic Changes: 膝の怪我が脳に与える影響?

ちょっと書きなぐりになってまいますが、面白い学びの機会があったので忘れないうちにまとめておきます。

以前Neuroplasticityについて少し書いたことがありましたが、そんであの後、脳梗塞患者さんのリハビリとかについての研究を幾つか読んだりしていたのですが、今回はもっと我々Athletic Trainerにとって身近な、Injury-Induced Neuroplastic Changeというところについて学ぶ機会がありました。
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●いつでも、どこでも
さて、Neutoplasticity (脳の可塑性)という言葉ももうだいぶ知られるようになりましたが、多くの皆さんもご存知のように「脳の機能は我々が思うほど固定されておらず、臨機応変に変化していける能力がある」というこのコンセプトの初期の研究はStroke patient (脳梗塞患者)を対象にしたものが殆どでした。全身不随になり、もう寝たきりにならざるを得ない、と医者に言われた患者が歩けるようになったりとか…。…ですが、脳機能の変化は、何も脳に直接損傷が起こった時に限って見られる現象というわけではありません。私達の脳に病理がなく、完璧に健康だったとしても脳の機能は常に競い合っていて、最も求められ、繰り返し使われる者たちがどんどんその立場を大きくしていくのです(= "what's fired together will be wired together")。極端に言えば、今貴方に縄跳びを渡して「100回前飛びをしてください」とお願いしたとして、縄跳びをする前の脳とした後の脳を比べれば、貴方の脳の中でもその機能に僅かながら、でも確実な変化が見られるはずなのです。こういった変化を生み出すキーワードは「短期集中」。患者が積極的に何度も獲得したい機能のoutputを短期間内に繰り返すことで脳に新しい情報処理回路が生まれ、脳が己をreorganize, remapしていくのです。
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●外傷によっても起こる脳の変化
…で、本題に入ると、膝の障害、例えばACL断裂した患者の脳にもやはり受傷後変化が見られるようです。これを、Injury-induced (怪我に起因する) neuroplastic changeと呼びます。この半年ほど前に発表されたGrooms氏らの論文(↓)1、commentaryではありますがよくまとめられていてオススメです…で、この中でACL断裂を経験した患者が組織の物理的損傷とそれに付随する痛みと腫れ等によってafferentのsomatosensory feedbackが乱れ、それを元に作られるmotor output、そしてmovement planningの要であるfeedforwardまでもが影響を受けること、加えて、その影響でgamma motor neuron functionとperturbation reflexesの低下が患者に見られる、と書かれています。1
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●目で補う
入力がずれ、出力もずれてくる、feedbackとfeedforwardのループが途切れてしまう…その結果、機械受容器が頼れないならば、と、患者は目から入ってくる情報に重きを起き始めるのです。今自分がどこにいて、身体がどういう状況に置かれているのかを解釈するのにVisual feedbackに頼るという、神経学的な情報処理の代償が起きてしまうというわけ。
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この考えはBaumeister et al2,3の行った脳波検査によっても指示されています。ACLの再建手術を受けた患者は健康な被験者と比較して、筋肉の出力2や関節の状態3を感じたり微調整したりする作業中、脳の感覚と注意力を司る部分の活性化がより顕著に見られたのだそう。にも関わらず、パフォーマンスの精度は総じて悪かった。加えて、fMRIを用いたKapreli et al4の研究でもACL断裂した患者が膝の屈曲・伸展を行う間、健康なヒトと比べて1) 次の動きのプランニングをするpresupplementary motor area, 2) 痛みの刺激のやりくりをするposterior secondary somatosensory area、そして 3) 視覚的な情報をプロセスするposterior inferior temporal gyrusに過活動が見られたことが報告されています。言い換えれば、ACL断裂した患者の脳は同じタスクをこなすときに普通のヒトよりもかなり一生懸命に働いているにも関わらず、生産性は悪い (= have to work harder to produce less)。効率の悪い状態に陥っていることが分かるわけです。
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●怪我のリスク
この状況は、言わば脳のメモリの無駄遣い。そうでなくてもアスリートは、例えばバスケットボール選手なんかは、プレー中、意識を払わなければならないことが沢山あるわけです。今ボールはどこにあるのか、周りの選手はどこにいて、どう動いているのか、今コールされたフォーメーションプレーは何なのか…。常に環境が移り変わるコート上で、この「メモリの無駄遣い」が既に起こってしまっているとしたら、本来集中すべきことに使いたいメモリが足りなくなってしまい、結果として他のプレーヤーと衝突してしまったりなど怪我のリスクが高まってしまうことも充分に考えられます(怪我をしないにしても、その状態でのパフォーマンスが最大限まで引き出されることはまずないでしょう)。

●脳も一緒にリハビリする
では、競技復帰を目指す中で、どのようにこの脳の変化もリハビリしていけば良いのか?単純なタスクはメモリ不足の状態でもやりくり出来てしまう。かといって複雑なタスクをそのままやらせては、Neuroplastic change (視覚ばかりに頼る傾向)がどんどん色濃くなってしまう。この状況を脱するには、複雑なタスクを視覚的情報に頼らずにする練習を取り入れるべき、とGrooms氏らは提唱します。1 Disrupted Visual Feedbackと呼ばれるこの手法は、目を閉じさせたり目隠しをしたりするような方法でも従来リハビリに取り込まれていたものではありますが、完全に視界を遮ってしまうと単純な片足バランス以上の難易度のエクササイズをすることはなかなか難しいですよね。もっとダイナミックで複雑なタスクをさせようと思ったら、視界を全て奪うこと無く、部分的に制限をかけることが重要になってきます。1
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Grooms氏ら1Stroboscopic eyewear(↑)というデバイスの使用をオススメしています。市場に出回っているものにはいくつかの種類があるようですが(Nikeとか、カナダの会社日本、京都市にある会社も製造しているようです)、超高速で視界が『通常』⇔『暗くて見難い』に切り替わるのが共通した特徴です。Grooms氏は、患者がこれを着用した状態で、例えば1) 片足ジャンプからの着地→そこにバスケットボールを投げ、片足でバランスを保ったままキャッチ、とか、2) 両足で大きく前方にホップ→空中に投げ上げられたボールの方角から、着地と同時にカットしてボールをキャッチ、などの視覚的刺激に反応するタイプの高度な運動をすべきだと提唱。1 視覚情報をneuromuscular controlの名目でなく、(本来使うべき)ボールや選手の判断に使うことで、neuromuscular controlはちゃんとpririoceptive inputsから作り出しましょうよ、という、メカニズムを原点に戻すことを促すのが目的なわけです。1
こういったリハビリ法がどういったneuroplasticな変化をもたらすのかはこれからの研究が示すところではありますが、ストロボメガネというものを使ったリハビリを私は見たことがなかったので斬新で興味深いです!これから色々と論文が出そうな分野なので要チェックやー。

ちなみに下はYouTubeで見つけたStrobe glassesの動画たちです。特に私が個人的にどの会社のどの製品をサポートしているというつもりはありませんが、面白いかなと思ったので貼っつけておきます。興味がある方は是非!私も試してみたいなー。こちらは無声動画


日本語の動画です

1. Grooms D, Appelbaum G, Onate J. Neuroplasticity following anterior cruciate ligament injury: a framework for visual-motor training approaches in rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(5):381-393. doi: 10.2519/jospt.2015.5549.
2. Baumeister J, Reinecke K, Schubert M, Weiss M. Altered electrocortical brain activity after ACL reconstruction during force control. J Orthop Res. 2011;29(9):1383-1389. doi: 10.1002/jor.21380.
3. Baumeister J, Reinecke K, Weiss M. Changed cortical activity after anterior cruciate ligament reconstruction in a joint position paradigm: an EEG study. Scand J Med Sci Sports. 2008;18(4):473-484.
4. Kapreli E, Athanasopoulos S, Gliatis J, Papathanasiou M, Peeters R, Strimpakos N, Van Hecke P, Gouliamos A, Sunaert S. Anterior cruciate ligament deficiency causes brain plasticity: a functional MRI study. Am J Sports Med. 2009;37(12):2419-2426. doi: 10.1177/0363546509343201.

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  by supersy | 2016-01-31 16:20 | Athletic Training | Comments(0)

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