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月刊トレーニングジャーナル2月号発売 & 脳震盪診断指標としての聴覚テスト

とある講習に参加するため、今週末はダラスに来ています!久しぶりにPRIではない講習で、今日一日目が終了したところです。これね、ずっと「機会があれば取ってみたいなー」くらいの興味があった講習なんですが、ちょっと今回ばかりはどうしても見逃せない理由があったのと、近場+学期が始まる直前の余裕が(まだ)ある週末というタイミング諸々の良さも重なったので思い切って今回初めて来てみました。やっぱり新しいことを学ぶのは刺激があっていいですね!これについての詳しい内容は、次回にまとめたいと思います。
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さて、月刊トレーニング・ジャーナル2月号が発売になっています!連載9回目の今回は「スポーツ障害予防」について書いています。この度、日本のEBP講習でも「予防医学編」を追加したばかりですが(自分ではこれ、なかなかの出来だと思っています)、ATの仕事の中でも一番軽視されがち、そしてサボっていてもバレないのが「スポーツ障害の予防」という分野かなと感じます。今回の記事では、どうして予防が重要なのか、そしてどういう風に現場での「予防」実践が可能なのかなどについて提案をしています。興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。



では今回は手短に、本題です。月刊トレーニング・ジャーナルの昨年12月号で「脳震盪の評価・診断」についてまとめたところですが、この分野で新しい論文を見つけたのでさくっとまとめます(ちなみにこの論文もオープンアクセスです)。
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脳震盪の評価は多角的でなければならない、幾つものテストを組み合わせて行わなければならない…というのが現代の常識というかスタンダードですが、それでも「患者の報告(self-report)に頼らなくても良い、且つ『これさえやれば間違いない』という客観的な単独テストはないものか」という研究者のクエストは日々続いています。血液検査やNear Point Convergence (NPC)と呼ばれる視覚検査、dual-taskのバランスや歩行テストなどについてはトレーニング・ジャーナル記事でも言及していたように把握していたのですが、今回の論文1 は聴覚刺激とその処理能力についてです。ひゃー、これは知らんかった。
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「聴く」というのは、考えてみれば想像以上に複雑で高等な行為です。聞かなくていい「ノイズ」は無視され、必要なシグナルだけを意図的に拾い、取り込みながら、入ってくる音の強弱やProsody(韻律)に基づき、社会的な意味付けをし、文脈のある情報にconvertする…。この論文の著者らは、脳震盪の影響でこのプロセスの能力が落ちるのでは、そして、それを推し測ることで脳震盪の診断基準として使えるのでは、と提案しています。英語の原文では "...the auditory system may be sensitive to neurological insults that disrupt microsecond-level temporal resolution (p.2)"ということなんだそうです、ごく微量の情報処理の乱れもキャッチできるかも、ということですね。

さて、この論文で検証されたのはspeech-evoked frequency-following responses (FFRs)というものが脳震盪診断を推し測るのに妥当(valid)、且つ信頼性のある(reliable)バイオマーカーか、 ということ。もう少し細かく書くと、脳震盪と診断された子供の患者20人(男子6人、女子14人、平均年齢13.69歳)と、matched control group(健康な被験者20人、男子6人、女子14人、平均13.64歳)とを比較して、1) ふたつのグループのFFR値に統計学的に有意な違いは見られるか、2) 脳震盪の症状の深刻度(PCSS)とFFR値に関連性は見られるか、3) FFR値を元に、脳震盪の有無が判断可能か、4) 脳震盪から患者が回復すると共にFFR値も回復するか、について調べたそう。FFRというものを聞いたことが無かったので、何ぞや?と調べてみたら、「聴覚的刺激によって脳幹にどれだけの電位反応が見られるか」、つーのを計るものらしくてですね。様々な周波数の、ものすごく短い(40ms)音を聞かせてその反応を計測するそうで、つまるところ、どれだけ速く、正確に健全に聴覚刺激を脳でプロセスできるかという処理能力を数値化したもの、と捉えていいようです。

…で。この論文のすこぶる妙なのはMethodsがResultsの後にあるところ。結果(p.2)をいったん飛ばしてp.7にいくと、やっとMethodsセクションが出てきます。Methodsで気になるのが1) 被験者の特徴(Participants demographics)が非常に限定的にしか触れられていないという点(Table 1参照)、加えて、2) Inclusion criteriaが非常にシンプルで、これを読んだだけだとコントロールグループの被験者に脳震盪既往歴があってもオッケーということになるし、学習障害がある子も被験者に含まれてもいいことになるけれど、もうちょっと制限かけなくてよかったのかな?脳震盪患者は脳震盪を受傷してから平均26.7日経過していたということだけど、それってそこそこの期間ですよね。これは論文の最後にこの研究が行われたのがtertiary-care clinic settingだった、という記述があって少し納得したのですが、そうだとしたらそれはそれで、ほとんどの脳震盪患者は14日で『回復』すると言われていますから(今回の被験者は子供なので、もう少し長くかかるでしょうけれど)、脳震盪は脳震盪でもかなり重症のケースを中心に扱った研究ってことになりますね。こういうのはバイアスの素になりかねません。受傷後6-56日という広いrangeも気になります。これも「受傷から〇日以内」と制限してもよかったのでは、と個人的には感じます。あとは、3) 6人:14人で女子が多い(70%)ね、そしてあくまで子供が被験者だから、大人にこの結果は当てはまらないと考えたほうがいいね(大人と子供では脳震盪からの回復にかなり違いがあることは、もう言うまでもありませんね)、ということと、4) Power-analysisを行ったわけじゃないから、各グループ20人の被験者が適切だったかは分からないよね、しかも95% CI求めていないし、point valueの解釈には注意…ということを念頭に入れてデータを見ていきましょう。

そんなわけで、Methods(p.7)から戻ってきての、p.2の結果(results)です。私が重要だと思うものを偏見たっぷり個人的に抜粋します。

1) 脳震盪患者は、受傷していない被験者と比較して、約35%の聴覚刺激に対する反応の低下が見られ(p< 0.001, Cohen's d = 1.223)、特に反応する音のピッチ幅が著しく狭くなっていた(p = 0.009, Cohen's d = 1.14)。
Cohen's dが1を超えてくるのはすごいですね(= effect sizeがどでかい)。そうなると95% CI領域を見ても決定的なんだろうか、と推測はしたくなりますが、なんにせよ書いてくれていないので推測の域を出ません。

2) 脳震盪患者の中でも特に症状の重い患者は、FFR値は著しく低いという関連性が見られた(R2 = 0.548, p = 0.001)。
Correlationとしてはmoderate(中程度、≒0.6)というとこでしょうか。Outlierがどれくらいあったのか、マッピングされたものが見たいなぁ。

3) 言語刺激への反応開始・終了(onset/offset of sound)のタイミングは脳震盪の影響を受けてなかったにも関わらず(p ≥ 0.183)、脳震盪患者は特定の音に対する処理と反応が遅れる(p = 0.002)、という限定的処理能力低下が見受けられた。
時間にすると0.4msという非常に短いものらしいんですけど、脳神経界ではこれはオオゴトである、と著者は述べています。

4) 平均して脳震盪患者は健康な被験者と比較して聴覚情報のcodingにエラーが多く見られ、正確性が低下する(p = 0.011, Cohen's d = 0.841)。

(1)~(4)を繋げてみると、脳震盪を起こした患者の聴覚刺激に対する反応は、Neuro firing(神経的発火)のタイミングは正常でも、特定の音やピッチの取りこぼしがあり、その後の処理が追い付かず、結果正確性も低下してしまう…という感じでしょうか。取りこぼしがあったらそれを補いながらの「意味付け(make sense out of it)」が余計労力のかかるものになりそうっていうのはイメージが沸きます、ふむふむ、なるほど。

5) さらに、被験者の年齢、神経的バックグラウンドノイズ(聴覚刺激とは無関係な電気アクティビティー)などを考慮に入れてlogistic regressionを組み込むと、FFR値を元にこれが脳震盪患者だったか、健康な被験者だったか、言い当てることが可能
Regression Score = 0.596を閾値とすると、90% sensitivity、95% specificity、94.7% positive predictive value、90.4% negative predictive valueが取れるそうな。これだけ見るとImPACTやSACよりも優秀ですね。95% CIは知らんけど。

6) 20人の脳震盪患者のうち、11人(男子3人、女子8人)が一度目の計測から平均34.9日後にfollow-upに来て、FFR値を再度測定する機会があったそうですが(単純に考えて20人中9人のドロップアウト…45%のdropout rateは容認できるものではありませんが…、理由も不明…)、PSCCの著しい回復(p = 0.002)に比例するようにFFR値も大幅に改善(p = 0.031)、コントロール・グループのそれとほぼ一致するところまで戻ったそう。
つまり、FFR値を継続して計ることで、脳震盪からの回復っぷりを可視化することもできそうですよ、と。

そんなわけで、多少限定的な結果も見られたものの、聴覚の能力を推し測ることで患者の脳震盪の有無、深刻度とその回復をモニターすることができる可能性は大いにあるという結論が導かれていました。私はこの研究は様々なレベルで「統計的にもデザイン的にも問題は多く残る」、「一般化はまだ早い」、「実装までにはまだまだ残された壁は多い」と慎重に判断しますが、それでも脳震盪で聴覚にまで影響が及ぶというのは目から鱗が落ちる思いでした。これからのこの分野の研究にも注目していきたいと思います!


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  by supersy | 2017-01-14 22:45 | Athletic Training | Comments(0)

女性医師 vs 男性医師?「死にたくなければ女医を選べ」は本当なのか

「死にたくなければ女医を選べ」日本人の論文が米で大反響

こんなYahooニュースの記事が目に入ってきたので、思わず元となっている論文(free full-text)を引っ張ってきて読んでしまいました。すごく面白かったので、この論文を読んで思ったことをまとめておきます。

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この論文1の第一著者、Dr. 津川友介はハーバード大学で研究されている日本人の内科医さんなんですね。だから冒頭の「日本人の論文で」、になるわけです。書き出しに、まずこんな内容のことが書かれています。

女性医師と男性医師では、そのアプローチに違いがある、ということは複数の研究で既に実証されていることなんだそうです。例えば、女性のほうがクリニカル・ガイドラインにきちんと沿った治療方針を打ち出したり、2-4 予防的治療に積極的だったり、5-12 patient-centeredなコミュニケーションを実践していたり、13-16 スタンダード化されたテストの実践が上手だったり、17 患者に対して心理社会的カウンセリングを提供したり15 するんですって。知ってました?私は知らなかった!今ままで仕事をしてきた数々のチームドクター達を振り返っても、総じてみると確かに…と頷けるところも多いです。

だがしかーし、こういった男女医師によるアプローチの違いが実際に患者のアウトカムにどういう影響を与えるか、という論文は存在しないことから今回の研究が生まれたそう。この研究チームが検証したのは、acute care hospitalに入院してきた患者の 1) 病院に入院してから30日以内の死亡数(30-day mortality)と、2) 退院した場合、退院してから30日以内に再入院をした件数(30-day readmission)で、それらについて女性内科医と男性内科医が治療を担当した場合における比較を行っています。なぜ30日という制限を設けたかについては言及されてません。なんでだろう?

ここまで読んで私が危惧したのは、『単純に結論づけられない、第3や第4の要素の影響が強いんじゃないかしら…。女性医師の数が増えてきたのはより近年と考えれば、男性医師のほうが総じて年齢も高く、経験もあるためにより難しい患者を任されることが多い、故に死亡率も必然的に高くなってしまうのでは?』ということだったのですが、そこはだてにハーバード大の名前を背負っていません。幾つもの観点から修正を加えた複数の分析を行うことで、こういったバイアスを極力減らしています。Module 1) 患者のcharacteristics(i.e. 年齢や人種など)に基づいた修正を加えた分析、Module 2) (1)に加え、同一の病院の女性医師、男性医師同士を比較した分析(病院によってはより重病の患者が集まりやすいなど、これもバイアスの元になることがあるため)、Module 3) (1)と(2)に加え、性別以外の医師のcharacteristics (i.e. 勤務年数など)に基づいて修正を加えた分析…という風に。さらに、最も臨床でよく見られるという8つの疾患(sepsis, pneumonia, congestive heart failure, COPD, UTI, chronic obstructive pulmonary disease, acute renal failure, arrhythmia, GI bleeding)に絞って行った分析と、各病気の重症度(illness severity)別に行った分析もあります。Methodを読んだところまででは、mass dataを上手に使った、丁寧にデザインされた研究だなぁという印象です。うーむ、いいですね。

さて、ではここから結果に飛びます。全Medicare(アメリカにある65歳以上の老人医療保険)患者からその20%を無作為に選んだ結果、1,615,855人の患者が内科系疾患で入院を余儀なくされ、58344人の内科医師(うち18,751人、32.1%が女性、39,593人、67.9%が男性)がその担当を担ったそうなんですが、このときの患者群の死亡率、再入院率はこんな感じ。
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このテーブル上部が「死亡率」なのですが、女性医師担当の場合の全体の死亡率は10.82% (95% CI 10.71-10.93%)だったのに対して男性医師が治療した患者の死亡率は11.49% (95% CI 11.42-11.56%)…統計学的に有意な(p < 0.001)差が認められました。再入院率(テーブル下部)に関しても同様です。15.01% (14.89-15.14%)と15.57%(15.49-15.65%)で、95%CIの幅を考慮しても決定的に女性医師が診た患者のほうが再入院率が低い(p < 0.001)という結果になっています。これは、Module 2、Module 3とより多くの要素を考慮に入れた分析でも変わりません(all p < 0.001)。

8大疾患別の分析も、女性医師が治療した場合のほうが死亡率、再入院率共に低いという結果は動きませんでした。ただ、統計学的に有意ではない結果も複数あったようです(↓下参照)。特に、sepsis (敗血症)、pneumonia (肺炎)、acute renal failure (急性腎不全)、arrhythmia (不整脈)患者は、女性医師に治療を担当してもらった場合、男性医師に比べてその死亡率が著しく減ったようです。興味深い…。
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これは、病気の重症度でも同様(↓)。ほとんど全てのカテゴリーで、女性医師のほうが死亡率、再入院率共に低い結果に。
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さて、では、結論としてどういうことが言えるか?
冒頭の「死にたくないなら女医を選べ」は少しばかりoverstatementですが、とりあえずこの研究からはこういう結論が導き出せそうです。
貴方がMedicare保険を持つ65歳以上の患者で、内科系疾患で入院を余儀なくされた場合、男性医師よりも女性医師を担当医に選んだ方が30日以内に死亡する確率は減り、退院から30日以内に再入院するリスクも減る…つまり、貴方がより快方へ向かう可能性は高まる、と。

どのくらいリスクが減るのか?文中にこんな表現がありました。
"Patients treated by female physicians had 0.95 times the odds of death (95% CI, 0.93-0.97; p < 0.001) and 0.96 times the odds of readmission (95% CI, 0.95-0.97; p < 0.001) compared with patients cared for by male physicians (E6)."
患者の抱える疾患、その重症度、患者の年齢や性別、人種、医師の経験年数などに関わらず、女性医師に治療してもらったほうが男性医師に診てもらうよりも死亡オッズが約5%(3-7%)、再入院オッズが4%程(3-5%)低くなるようです。これは、統計学的に有意なだけではく、臨床的にも大いに意味のある数字といってもいいのではないでしょうか。

さらに、こんな表記も。
"...we estimate that approximately 32,000 fewer patients would die if male physicians could achieve the same outcomes as female physicians every year (E7)."
つまり、男性医師が女性医師と同じだけのアウトカムが生産できるようになれば、年間あたり32,000人の患者の命が救える、ということまでも書かれています。この論文ではあくまで30日間の死亡率のみ扱っているので、このstatementは少しばかりストレッチかもしれませんが、「男性医師、もちょっとがんばりたまえよ!」と注意喚起するには面白い論議です。

いやー、実に面白い研究でした。これって、他の医療従事者、例えばATとかPT、OTにも当てはまるのかな…とか、色々妄想させられてしまいますね。Medicare患者に限定した結果であり、あくまで30日間のアウトカムを追ったもの、というlimitationを考慮しても余りある、噛みごたえのある統計群です。あえて疑問を上げるならば、やはり最初の「なんで30日縛り?」というところと、あとTable 1のPhysician and Patient Characteristics, by Physician Sexというところ、「どうしてp valueを計算して書いておかなかったのかな?」というところです。男女の医師の特徴の違い、そしてそれぞれの医師が見た患者の特徴の違いは数値化して比較していてほしかったです。

この研究はあくまでobservational studyであり、実際にどういったアプローチの違いが決定的となってこのアウトカムの差を生むのかという因果関係についてはまだわかっていません。しかし男女問わずお互いのアプローチの違いから学び合い、良いところは認め合い、盗み合いながら、患者のアウトカムをより上げていけるような治療を進めていきたいものですね。くどいですが、この研究はfree full-textですので興味のある方はぜひご自身でも読んでみてください。

1. Tsugawa Y, Jena AB, Figueroa JF, Orav EJ, Blumenthal DM, Jha AK. Comparison of hospital mortality and readmission rates for medicare patients treated by male vs female physicians [published online December 19, 2016]. JAMA Intern Med. 2016. doi: 10.1001/jamainternmed.2016.7875.
2. Kim C, McEwen LN, Gerzoff RB, et al. Is physician gender associated with the quality of diabetes care? Diabetes Care. 2005;28(7):1594-1598.
3. Berthold HK, Gouni-Berthold I, Bestehorn KP, Böhm M, KroneW. Physician gender is associated with the quality of type 2 diabetes care. J Intern Med. 2008;264(4):340-350.
4. Baumhäkel M, Müller U, Böhm M. Influence of gender of physicians and patients on guideline-recommended treatment of chronic heart failure in a cross-sectional study. Eur J Heart Fail. 2009;11(3):299-303.
5. Andersen MR, Urban N. Physician gender and screening: do patient differences account for differences in mammography use?Women Health. 1997;26(1):29-39.
6. Frank E, Dresner Y, Shani M, Vinker S. The association between physicians’ and patients’ preventive health practices. CMAJ. 2013;185(8):649-653.
7. Frank E, Harvey LK. Prevention advice rates of women and men physicians. Arch Fam Med. 1996;5(4):215-219.
8. Franks P, Bertakis KD. Physician gender, patient gender, and primary care. J Womens Health (Larchmt). 2003;12(1):73-80.
9. Franks P, Clancy CM. Physician gender bias in clinical decisionmaking: screening for cancer in primary care. Med Care. 1993;31(3):213-218.
10. Kruger J, Shaw L, Kahende J, Frank E. Health care providers’ advice to quit smoking, National Health Interview Survey, 2000, 2005, and 2010. Prev Chronic Dis. 2012;9:E130.
11. Lurie N, Slater J, McGovern P, Ekstrum J, Quam L, Margolis K. Preventive care for women: does the sex of the physician matter? N Engl J Med. 1993;329(7):478-482.
12. Smith AW, Borowski LA, Liu B, et al. US primary care physicians’ diet-, physical activity-, and weight-related care of adult patients. Am J Prev Med. 2011;41(1):33-42.
13. Bertakis KD, Helms LJ, Callahan EJ, Azari R, Robbins JA. The influence of gender on physician practice style. Med Care. 1995;33(4):407-416.
14. Krupat E, Rosenkranz SL, Yeager CM, Barnard K, Putnam SM, Inui TS. The practice orientations of physicians and patients: the effect of doctor-patient congruence on satisfaction. Patient Educ Couns. 2000;39(1):49-59.
15. Roter DL, Hall JA, Aoki Y. Physician gender effects in medical communication: ameta-analytic review. JAMA. 2002;288(6):756-764.
16. Roter DL, Hall JA. Physician gender and patient-centered communication: a critical review of empirical research. Annu Rev Public Health. 2004;25:497-519.
17. Ferguson E, James D, Madeley L. Factors associated with success in medical school: systematic review of the literature. BMJ. 2002;324(7343):952-957.

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  by supersy | 2017-01-13 15:00 | Athletic Training | Comments(0)

EBP東京講習終了!

一昨日の12月25日、クリスマスには神田の連合会館でEvidence-Based Practice (エビデンスに基づく実践)講習をしてまいりました!連合会館にお邪魔するのは初めてだったんですけれど、実は父の職場から徒歩3分という、妙な身内スポット…。交通の便もよく、分かりやすく、使いやすく綺麗でユーザーフレンドリーな施設でした。
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講習のほうは朝3時間が「評価編」、昼3時間が「治療介入編」、そして夕方3時間が「予防医学編」で、参加者さんは好きな講習を好きに受講可能、というスタイルにしてみました。全部で50名弱の参加者さんが入れ代わり立ち代わりでしたが、うち30名ほどは「全講習参加」というツワモノさんたちでした。しかし、我ながら9時間は長かったですね(笑)。ワークシートを使った実践などはあるものの、立ち上がって実技ー、という講習ではないので、座学9時間は構成として長かったかな。次回はもうちょっとうまいことわけわけしたほうがいいかなぁ。
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ちなみに予防医学編は今回BOC認定が下りて初めてお送りしましたが、Prevalence (有病率), Incidence (発生率), Injury Rate (受傷率)といったEpidemiologyの基本用語から、予防介入のエビデンス解釈には欠かせないControlled/Experimental Event Rate (対照群・治療群イベンド発生率)、Relative Risk (相対危険度)、Absolute Risk Reduction (絶対危険減少)、Relative Risk Reduction (相対危険減少)、Number Needed to Treat (治療必要数)というコンセプトの理解、それから実際に文献を引っ張り出してこういった統計を計算して、臨床的に解釈してみる、という練習もしました。脳震盪リスクが最も高い大学スポーツは?ACL予防にエクササイズプログラムは有効なのか?ハムストリング肉離れ予防にノルディック・ハムストリング・エクササイズはあり、なし?シンスプリント予防には何をすれば?結局のところテーピングやサポーターって足関節捻挫予防に効果はあるの?そんなトピックをがっつり3時間exploreしました。準備していても非常に楽しかった内容なので、参加者の皆様にも楽しんでいただけていれば幸いです!

南は熊本、宮崎、福岡、そして岡山、兵庫、大阪、愛知に滋賀、北からは福島と、遠方からも多くの方にお越しいただきました。参加者の皆様、そして運営をしてくださった高橋さん、あゆみちゃん、本当にありがとうございました!

さて、講習が終わった後はATC7名とDC1名が集い、講習会場から徒歩2分くらいのGreen Tea Restaurant 1899というお食事処で大人の茶会をしておりました。「茶を食す」というコンセプトの和食ダイニングだけあって、出てくるものすべてに「お茶」のツイストが入っています。写真は抹茶ビール(左)、抹茶とろろのかかった出汁巻き玉子(中央)、ほうじ茶黒ビール(右)…特にほうじ茶黒ビール、ほうじ茶の香りが芳醇でお勧めです!楽しかったー!これもコーディネートしてくれたあゆみちゃんありがとうー。
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一日明けた昨日、12月26日はぽっこりあいたオフ日だったので、フロリダ組の友人ら2人と旦那との4人で新宿で昼から忘年会してました。お昼の12時から夕方6時までまったりお酒を飲むなんて初めてで贅沢!こちらも楽しかったー。日本は楽しいことばかりー。

さぁ、また仕事です。これから大阪に行ってきます。2016年最後の仕事、集中して臨みたいと思います!

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  by supersy | 2016-12-27 10:30 | Athletic Training | Comments(0)

月刊トレーニングジャーナル1月号発売 & Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその3。

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月刊トレーニング・ジャーナル1月号が発売になっています!連載8回目の今回は「脳震盪シリーズ」第三弾です。今回は脳震盪からの回復、というところに焦点を置き、現行のガイドラインで推奨されている「休息」について掘り下げたのち、最新エビデンスに基づく「休息」とは逆の発想の治療法についても言及しています。私はものすごく近い将来こっちがスタンダードになると思っているのですが…。興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。これで脳震盪シリーズは一区切りで、次回からはまた別のトピックに移ります。



思いっきり私事ですが、2016年秋学期が無事に終了いたしました!学生としても、教授としても、です。明日、日本に帰ります。EBP、PRI、EBP、PRIと講習が立て続けにあるので楽しみです!もう一仕事して12月を無事に終えたら、少し年始はゆっくりしたいなぁと思っちょります。

さて。今回のブログは本当に脈絡がないのですが、以前に何度か書いたことのあるLever Sign Testについて、新しい論文を見つけたのでまとめておきます。なので、最新エビデンスまとめその3ということにしておきますね。以前の記事へのリンクも下に貼っておきます。

Lelli's Test―ACL断裂のための新しいスペシャルテスト!?
Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその1。
Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその2。

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2015年12月発表らしいこの論文1…どうして前回のまとめのとき(2016年3月)に見つけなかったんだろう。見落としていたのかな?ちなみにこれはPMCなので、誰でもフリーアクセスで読めますよ。興味のある方はこちらから。

今回のこの研究で評価できるのは1) 麻酔有りと無しの場合を比較したのち、2) 被験者全員がDiagnostic Gold StandardであるArthroscopy(内視鏡)をしてACL断裂の有無を確認している、というところですね。例えばDr. Lelliの以前の研究2なんかは診断基準としては甘いMRIを使ってましたからね。

ただ、inclusion criteriaはちょっと不可解です。「内視鏡によってACL断裂が認められた患者117人 (男96人、女21人、平均25.8 ± 5.9歳)」ということなんですけど、もし前述の「実験の手順」の記述が正しいとしたら、この実験で検証された患者が被験者になれる資格(eligibility)があったかどうかは一番最後に判明したことになります。被験者になれるかどうかわからないまま、とりあえず実験に参加させて最後にふるい落とす…そういう実験デザインは聞いたことがありません。そういう意味ではこれはRetrospective Studyってことになるのでは?Prospectiveでそんな後付けのinclusion criteriaってありますか?どうしてinclusion criteriaを「Physical Examの結果、(Lachman、Anterior Drawer、Pivot Shiftのいずれかが陽性などで)ACL断裂の疑いが濃厚な患者」にしなかったのか?それで診断研究の一環として最後に内視鏡をして、実際にACL断裂の有無で2x2 Tableを作ればよかったのに…。 「ACL断裂があるかないかわからない」患者を使うからSensitivityもSpecificityも実際の臨床状況に近い数値が出るんです。「ACL断裂があることがもうわかっている」患者しか使わなければ、Sensitivity(除外力)しか求めることができませんし、Specificity(確定力)は未知のままです。確定力と除外力のバランスが取れていることが確認できなければ、「触れただけで全ての者にぼこぼこ陽性を出してしまうようなやたら敏感なだけのテスト」ではないという保証がないではありませんか。これは比較的致命的なデザインミスかも。

まぁとりあえず読み進めます。2人の"臨床家"が、手術前の患者の麻酔が無い時とあるときに健側と患側の両膝にLever Sign、Lachman、Anterior Drawer、Pivot Shift Testを使って結果を記録。この際、2名の臨床家はお互い、もうひとりの臨床家がどういう判断を下したのかを知らない状態(=independently assessed, blinded to the other clinician's results)で陽性・陰性の判断を行います。しかし、この臨床家(clinician)という緩い表現もあまり文献では見かけませんね、整形外科の医師なんでしょうか?PA?AT?臨床経験はどのくらい?Lever Sign Testのトレーニングをどのくらい積んでいるの?これもここらへんが分からなければ、再現性の高さが保証されませんね。
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で、結果です(↑)。麻酔前と後での数字を比べると、1) Pivot Shift TestとAnterior Drawerは患者が意識がある状態では除外力に限界がある。そして、2) Lachman TestとLever Sign Testは麻酔の影響が比較的少ない、つまり、意識がある患者に行っても有効、ということが言えそうです。Muscle spasmやGuardingの影響を最も受けにくい、と言い換えてもいいですね。4つ全て比較しても、Lever Sign Testが一番優秀ですね!94%、98%とは非常に高い数値。前回紹介したThapa氏らの研究3の85.71%より高いです。

ちなみに2人の臨床家のテスト結果を比較したInter-rater Reliabilityも計算されているんですけど、ICCがLever Sign Testで0.89と0.96、Lachman Testで0.85と0.91、Pivot Shift Testで0.82と0.88に、Anterior Drawer Testで0.84と0.93と、いずれもかなり優秀でした。これも4つ比較するとLever Sign Testが一番高いんですね。Lever Sign TestのReliabilityが報告されたのはこれが初めてじゃないかな?「どんな経験を持つ臨床家がテストしたのか明記されていないので、再現性は保証されない」ということはくどいくらいに強調しておきたいですが、それ以外はencouragingな結果です。

さて、著者らはLever Sign Testのシンプルさと実用性の高さ、そしてACL断裂という傷害の解剖学的な観点から「tibiaではなくfemurをmanipulateすることは理に適っている」と論じています。その上で、他の一般的なACLテストよりもLever Sign Testのほうがsensitivityとreliabilityの高い、有効なテストである、というのがこの論文の結論です。私は個人的に、以前にも論じたようにLever Sign Testのそういった利点を踏まえたうえで、
1. 95%CIは分析含まれておらず、決定性のある統計かは不明
2. この研究の前述したinclusion criteriaでは、研究に多大なバイアスが生じている可能性がある
3. Exclusion criteriaに、medial meniscus posterior root tear, bilateral ACL tear, multiple ligament injuries or previous arthroscopic surgeryが含まれていることから、こういった患者に対するLever Sign Testの有効性は全く分かっていない
4. 試験者の素性(といういい方もアレですけど)もわからないので、私のするLever Sign Testと彼らのするそれがどれだけ一致するか不明…
という大きな制限がこの研究には存在するのだ、ということも噛みしめておきたいと思います。この論文も読めてよかったけれど、研究の質や読みごたえとしてはThapa氏らの研究3のほうが面白かったなぁ。

個人的には、次は被験者対象をもっと拡大して、半月板損傷付随やACL再断裂の患者にどれほどLever Sign Testが有効なのかということについて学んでみたいです。そんな研究出ないですかね、楽しみにしてます。しかし、これだけ名実ともに大きくなってくると、いよいよ下肢の傷害診断の授業でLever Sign Testも教えなきゃいかんな。来学期、少し膝のところ内容を入れ替えてみるか…。

1. Deveci A, Cankaya D, Yilmaz S, Özdemir G, Arslantaş E, Bozkurt M. The arthroscopical and radiological corelation of lever sign test for the diagnosis of anterior cruciate ligament rupture. Springerplus. 2015;4:830. doi: 10.1186/s40064-015-1628-9.
2. Lelli A, Di Turi RP, Spenciner DB, Dòmini M. The "Lever Sign": a new clinical test for the diagnosis of anterior cruciate ligament rupture. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2014. doi:10.1007/s00167-014-3490-7.
3. Thapa SS, Lamichhane AP, Mahara DP. Accuracy of Lelli test for anterior cruciate ligament tear. J Inst Med. 2015;37(2):91-94.

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  by supersy | 2016-12-14 21:00 | Athletic Training | Comments(0)

息を「吐く」重要性: 横隔膜への徒手療法で頸椎・腰椎・股関節の可動域が改善する?

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ついさっきですが、スカイプ経由で第二回スポーツ救急サミットにて発表させていただいておりました(日本時間では昼、私には夜10時過ぎでした)。途中コネクショントラブルで会話が切れてご迷惑をおかけしましたが、私の発表後もそのまま繋いでいただいたので思いがけず他の先生の講義を聞く貴重な機会もあり、日本でのスポーツ救急対応にかける皆様の熱意が伝わってきてこちらにもとても良い刺激になりました。山本先生、太田先生を始めとするお世話になった関係者の皆様、ありがとうございます。

それから、引き続き12月25日開催のEBP講習のお申し込みも受け付けております!クリスマスにも関わらず、都内や関東圏はもちろん大阪、滋賀、福岡、熊本に福島など、様々なところからお申込みいただいていて、とても有難い・嬉しいです。楽しい一日にしましょう!広い会場を抑えたのでまだ残席ありますよぉー。

<講習日時>
2016年12月25日
 9:30am-12:30pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
 12:30pm-13:30pm 昼食(各自)
 13:30pm-16:30pm エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
 16:45pm-19:45pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで

参加はお好きなコースひとつだけでも、2つでも3つ全てでも可能です(複数講習参加する場合は、お手数ですがこちらから各イベントひとつずつお申し込みください)。参加資格の指定はありません、エビデンスという言葉が苦手な方や学生さん大歓迎です。ATCのクレデンシャルをお持ちの方には、各コースEBP CEUが3つきます。3つ全て受講すれば3 x 3 = 9 EBP CEUsです。

<会場> 連合会館 402会議室 東京都千代田区神田駿河台3-2-11
 東京メトロ千代田線  新御茶ノ水駅 B3出口すぐ
 東京メトロ丸ノ内線  淡路町駅 B3出口すぐ(B3出口まで地下道徒歩5分)
 都営地下鉄新宿線  小川町駅 B3出口すぐ(B3出口まで地下道徒歩3分)
 JR中央線・総武線  御茶ノ水駅 聖橋口徒歩5分

<定員> 70名

<受講料>セット割引、学割あります! 
  一般 1コース 9,000円
     2コース 16,200円 (10% off - 1,800円引き)
     3コース 22,950円 (15% off - 4,050円引き)
  学生 1コース 8,100円 (10% off - 900円引き)
     2コース 14,400円 (20% off - 3,600円引き)
     3コース 20,250円 (25% off - 6,750円引き)



さて、本題です。今回は読んだ論文のレビューを忘れないうちに書き留めておこうと思います。横隔膜系の論文を読むのは完全に趣味なので、これも個人コレクションに加えなきゃなりませんから…。んで。今回紹介するのはふたつの論文ではありますが、同一の研究チームによるものなので造りは非常に似ています。まずはこちら(↓)1から。
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この論文ではハムストリングの柔軟性が欠けているとバランスやスポーツパフォーマンスの低下が見られる、且つそのままにしておくと可動域の制限、姿勢異常、痛みや怪我のリスクにつながることから、2 早めの介入の必要性を呼び掛けており、特にShort-Hamstring Syndromeの患者が特定の腰椎異常も持っていることが多い3,4のであれば、腰椎に付着した横隔膜への介入も有効なのでは?というのがバックグラウンドです。ここまでは私もよく見聞き知っている理論ですが、正直なところここまでのLit reviewの引用と文献を用いての論理展開は雑な印象です。あまりそそられません。つーかShort-Hamstring Syndromeの学術的な定義ってなに?伸張位にあるから「張り」を感じるんであって、実際短くなってるわけじゃないでしょ?色々とつっこみたいけれども、まぁでもここはぐっと堪えて最後まで読むです。
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で、この研究では60人の"Short-Hamstring Syndrome (PAT >15°且つFFD >5cm、上図参照)"の被験者をランダムに1) Diaphragm Technique Groupか2) Placebo Groupにわけ、Diaphragm Technique Groupの患者には下の写真のような、「施術者が徒手療法を使って胸郭を下げ、横隔膜をリラックスさせ、呼気を強調することでそのドーム型をrestoreする」ことを目的とした5-7分間の治療が施され、その前後に計測したoutcome measureを比較しました。長期的な治療を追っかけたものではなくごく短期の、single-session studyですね。データコレクターがグループアサインメントを知らない、ということでsingle-blinded studyというカテゴリー分けになっています。
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"Doming of the diaphragm is a technique designed to relax the resting state of the diaphragm, enhancing its contraction and relaxation functions (p.344)." 原文より。このテクニックはイギリスのオステオパス医師、Leon Chaitow氏が提案・推奨した横隔膜不全/過呼吸患者へのアプローチテクニックですね。患者は胸椎屈曲位を取り、息を吐いている間に施術者が肋骨を下へ導く、という徒手療法で、肋骨を引き下ろしたらこの位置を5-7分キープするのだそう(吐き切った肋骨の位置を保つことにより、横隔膜が休まった位置をキープできる。これは横隔膜のストレッチと呼ばれたりもしているそうだけど、横隔膜を引っ張って伸ばしているわけでじゃなく、弛ませて休ませているわけだから、個人的にストレッチという名称はどうかと思います。誤解を招きそうかなぁと)。著者らはスペインの大学に勤務する研究者のようですが、これはスペインでよく使われているテクニックなんでしょうか?私は個人的にこれは見聞きしたことがあるだけでfamiliarではないので、一回施術風景を見てみたいです。

で、結果は以下の通り。Placebo組が全てのoutcome measureにおいて治療前後で何も変化がなかったのに比べ(p > 0.05)、Diaphragm組はハムストリングの柔軟性、腰椎と頸椎の可動性の全てが著しく改善。Power Analysisをした上で、最低限必要な被験者の数以上(各グループ28人のところ30人)用意したことは評価されるべきで、95%CIのLower End Valueを見てもこれは統計的に決定的な結果と言うべきでしょう。
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そんなわけで、呼気を強調し、ドーム型を修復する横隔膜へのアプローチで、頸椎・腰椎の可動域が上がり、ハムストリングの柔軟性が向上する、つまり"Short-Hamstring Syndrome"に有効な治療法である…というのがこの論文の結論です。一回のセッションで得られた効果がどれだけ持続するかはこの研究では検証していませんが、横隔膜へのアプローチでハムストリングの柔軟性が回復するのなら、組織の拘縮はどうやら起こっていないのではないか、日々ストレッチをして軟部組織を「伸ばす」必要はどうやらなさそうではないか、ということも言えるかもしれません。ここんとこは、私の個人的な考察です。

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もうひとつの研究はこちら(↑)。5
こっちの論文のほうが冒頭の文章がさっきのものより格段に好みなんだけど、やっぱり文献引用がめちゃめちゃ甘い気がするんだけどなー。そんなことないのかなー。とりあえずこちらの論文ではですね、Short-Hamstring Syndromeは置いといて、健康な被験者に対しての横隔膜へのアプローチが脊椎の動きにもたらす影響について掘り下げています。

担当統計学者が研究目的やデザインを知らないままデータ分析を行った/データコレクション担当者もグループアサインメントは知らないままだった(=single blinded)、というところと、被験者はランダムに1) Diaphragm Technique Groupと2) Placebo Groupに分けられたのは先の研究と同じ。検証されたテクニック(横隔膜徒手療法)も上記と同じもの。で、計測されたOutcomeは頸椎のROM、腰椎のROMとFinger-to-Floor Test (FFT - 前回のFFD Testとほぼ同じ)の他に”Abdominal and rib cage excursion"、つまりテープメジャーによる胸囲の計測(2nd intercostal space, xiphoid process, midpoint between the xiphoid and umbilicusの計3箇所)を入れています。明記はされていないのですが、恐らく呼気と吸気の胸部の広がりをcmで記録したものと思われます(数値が高い=胸郭の開閉度が大きい、ということなんじゃないかな)。このMeasurement、私は初めて聞くのですがintra-rater reliabilityとinter-rater reliabilityはそれぞれ0.96-0.98、0.84-0.87だそうです。6 それぞれ問題のない、優秀な数字です。

で、結果は以下の通り。横隔膜のアプローチは頸椎・腰椎の可動域とPosterior Chain Muscleの柔軟性に対する改善が著しかったのに比較して、Placebo Groupは変化なし。これは前回の研究と同様の結果と言えますね。それから、Diaphragm Technique Groupは横隔膜の位置するXiphoid levelでの胸郭の開閉度も平均約2.6cmと大幅に改善。比べて、Placebo Groupは腹部のExcursionのみ1cm程増加…これは、お腹を休めるような恰好を7分間取っていたからでは、というのが著者の考察です。
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そんなわけで、こちらの研究5でも横隔膜へのアプローチで頸椎・腰椎の可動域が改善、Posterior Chainの筋緊張が取れ、ひと呼吸において胸部がより深く閉じた状態からより大きく、効果的に開けるようになる…というのが結論です。どちらの研究でも、徒手療法て触れてすらいない股関節や頸椎の可動域に影響が出ているのが非常に面白いと思います。使っているテクニックこそ違えど、テクニックの意図とコンセプトは私が勉強しているものと全く同じなので、こういう研究に出会えるのは楽しいですね。この冬に教えるPostural Respirationにも繋がってきそうな内容なので、講習参加予定の方はぜひ今回の論文ふたつ読んでみてほしいです!

1. Valenza MC, Cabrera-Martos I, Torres-Sánchez I, Garcés-García A, Mateos-Toset S, Valenza-Demet G. The effects of doming of the diaphragm in subjects with short-hamstring syndrome: a randomized controlled trial. J Sport Rehabil. 2015;24(4):342-348. doi: 10-1123/jsr.2014-0190.
2. Forman J, Geertsen L, Michael E, Rogers ME. Effect of deep stripping massage alone or with eccentric resistance on hamstring length and strength. J Bodyw Mov Ther. 2014;18(1):139-144. doi: 10.1016/j.jbmt.2013.04.005.
3. Raftry SM, Marshall PW. Does a 'tight' hamstring predict low back pain reporting during prolonged standing? J Electromyogr Kinesiol. 2012;22(3):407-411. doi: 10.1016/j.jelekin.2012.02.008.
4. Biering-Sorensen F. Physical measurements as risk indicators for low-back trouble over a one-year period. Spine. 1984;9:106-119.
5. González-Álvarez FJ, Valenza MC, Torres-Sánchez I, Cabrera-Martos I, Rodríguez-Torres J, Castellote-Caballero Y. Effects of diaphragm stretching on posterior chain muscle kinematics and rib cage and abdominal excursion: a randomized controlled trial. Braz J Phys Ther. 2016;20(5):405-411. doi: 10.1590/bjpt-rbf.2014.0169.
6. Cahalin LP, Braga M, Matsuo Y, Hernandez ED. Efficacy of diaphragmatic breathing in persons with chronic obstructive pulmonary disease: a review of the literature. J Cardiopulm Rehabil. 2002;22(1):7-21.

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  by supersy | 2016-11-26 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

ひとつのスポーツに特化する高校生アスリートは怪我をしやすい?: マルチスポーツのすゝめ。

アメリカの高校スポーツが面白いのは、シーズン制を採用しているところなんですよね。例えば9月から11月くらいまではアメリカンフットボールとバレーボール、11月から2月までがバスケットボールにサッカー、2月から5月までが野球にソフトボール…という感じで、終わりと始まりがはっきりと決まっているので、ひとりの選手が複数の競技に参加することが可能なのです。私が高校で働いていた頃も、運動神経のいい子はアメフトからバスケットボール、野球へと移行し、ついでに陸上も…、といったように、あちこちにひっぱりだこでなんでも活躍しちゃうマルチな子がたくさんいました。
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一方で、近年アメリカで問題になっているのが、高校のチームのみでなくクラブチームにも所属して、ひとつのスポーツに特化し一年中そのスポーツをプレーし続ける選手が増えていることです。これに関しては、IOC1やAMSSM2などの複数の団体がポジションステートメントを介して「若いうちは複数のスポーツをするほうが良い」と進言しているにも関わらず、それを無視する形で現状は悪化しているようです。3「プロになるには早いうちから専門性を高めなければ」と選手も親御さんも思うのでしょうけれども…、運動能力という意味でも、燃え尽き症候群を防ぐためにも、様々なスポーツを経験しておいたほうがいいのでは、と危惧する声が上がっています。
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もうひとつ、ATとして知っておきたいのが怪我のリスクです。ひとつのスポーツに特化したほうが怪我をしやすいのか、それとも複数するほうが怪我のリスクが高いのか?今回レビューするこの論文(↑)3では、1) どのくらいの高校生アスリートが「特化」しているか、 2) 「特化」するアスリートに、性別、学年、高校の生徒数など、特徴はあるのか、そして 3) 「特化」しているアスリートとマルチスポーツアスリートとで、下肢に起こる慢性傷害の頻度に差はあるか、を検証しています。

研究対象になったのはウィスコンシン州にあるふたつの高校で、ひとつは生徒数が2000を超えるジャイアント校、もうひとつは生徒数が600余りと規模の小さ目の学校。13-18歳のサッカー、バスケットボール、テニスとバレーボール選手302人を対象に、1) 特化かマルチ、自分のスポーツ歴をどのように評価するかと 2) 今までに下肢(股関節、大腿、膝、脹脛、足首、足部)に怪我をしたことがあるかをアスリートにアンケート形式で答えてもらい、結果を分析しました。

ここまでで私がうっかりがっかりした要素を上げておきますね。まずは、あらかじめスポーツの特化を調べてからそれぞれの選手を1シーズン追い、起こる怪我をその都度ATが研究者に報告するようなprospectiveの研究ではなく、後出しで「貴方のスポーツの特化具合はどうなの?あ、ちなみに今までどんな怪我をした?」という尋ねているタイプのretrospectiveな研究であるということ。Retrospectiveは選手の記憶が全てなので、例えば彼らがウソをついたり、わからなくて適当に答えたり、もしくは記憶違い (=recall bias) があればそれだけでデータがskewしてしまいます。
加えて、たったふたつの学校、それにスポーツもたった4競技というのはサンプルとしてどうなのでしょうか。あまりgeneralizabilityがないように思います(=この研究結果を「アメリカ在住の全高校生アスリート」という大きな対象に広げて解釈することはできません)。だってね、これだけサンプルに偏りがあると、コーチによる影響の比率が大きすぎるのではないかと思うんですよね。例えば、その高校のバレーボールコーチがクラブチームのコーチも兼ねていて、高校のチームに所属している子はクラブチームにも入るのが暗黙の了解になってしまっている場合なんか見たこともありますし、逆に高校のコーチが「勝手に変な癖をつけてほしくない」などの理由で、逆にクラブチームの参加に反対だとかという可能性もないことはないと思うんです。そんなコーチが一人でもいれば、かなりこの研究のデータも引っ張られてくるでしょうね。
それから、研究対象になった怪我が「慢性的な下肢傷害」に限定されている理由が明記されていないのが気になります。たぶん、高校スポーツで起きる怪我の半数以上が下肢の怪我だから、そして急性のコンタクトによる怪我はスポーツの特化性とあまり関りがないと判断したからなのでしょうが、それらを文献を引用して説明するのとしないのとではだいぶ印象が変わってきますね。
ここらへんは私は読みながら頭に「??」とクエスチョンマークが浮かぶあたりです。ここらを念頭に置きながら読み進めます。本題に戻ります。

で、結果なのですが。突っ込みどころはここでも多いんですけど、それをなるべく置いておいて、私が面白いと思った結果を中心にまとめますね。

● 規模の大きい高校のほうが、選手がスポーツに特化している傾向にある (↓下グラフ)。
これは理に適っているように感じますね。大きい学校のほうが人材が豊富にある分、それぞれの部活のニーズを満たすのに十分な選手数がそれぞれのチームで確保できる。ロスターに残る競争率も高い分、よりレベルが高くなければチームに所属すらできないということもあるでしょう。あとね、これは、組織の意識による影響も少なからずあるんじゃないかと思うんです。小さい高校ではコーチも複数のスポーツコーチを兼任にしていることも多く、「兼任」が当たり前という雰囲気がある一方で、大きな高校でコーチと環境がそれぞれのスポーツに「特化」していると、「あのーすみません、他のチームの練習があるんで抜けてもいいですかね?」とは選手は言い出しにくいですよね。大きい高校のほうが兼任が許されない雰囲気ができるかなと。
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ちなみにこのグラフの"High" "Moderate" "Low"というのは「どれだけ他のスポーツを排除し、一年を通じて特定のスポーツのトレーニングをしているか」の度合いを示したもので、「ひとつのスポーツに集中するために他のスポーツを辞めたことがあるか」「一年のうち8ヶ月以上をひとつのスポーツのトレーニングに費やしているか」「他のスポーツよりも『重要だ』と感じる特定のスポーツがあるか」という3つの項目に対する「Yes」の数を数えたものです。「Yes」が3つあれば「High Specialization」、2つなら「Moderate」、0-1なら「Low」という風に分類されます。
 
この3-point scaleが研究で使われたのには「スポーツの特化はyes/noの白黒ではなく、白が徐々に黒になるようなスペクトラム状のもののはずだ」という理念を著者らが持っているからなのですが(そしてそこは私も賛成です。例えば、普段はずっとバスケットボールばっかりやっていて、陸上部員として大会の日だけぶっつけ本番で競技に出る、みたいな選手がいた場合、この選手がシングルスポーツかマルチか、と言われれば所属上マルチと分類せざるを得ませんよね。でも、この選手は陸上競技に費やしているトレーニングは実質ゼロなので、事実上シングルに限りなく近いと思うんです。少なくとも、この選手が「陸上とバスケの練習、一日おきに交互に出ています」という選手と全く同じ「マルチ」組に分類されるようではあかんと思うのです。どのスポーツをどのくらいやっているか、もっと可視化して細かく分類する必要があります)、この論文中で述べられているように、3-point scaleによる「スポーツの特化度」の計測が正確で非常に有効である、と断定するのに十分な根拠は乏しいのではと私は感じます。なぜかというと、この計測法も結局選手の自己判断・自己報告に頼っているからです。集計が面倒くさくても、例えばもっと客観的に、各競技のトレーニングに費やしている時間を計測し、記録するべきなのでは?と私は考えます。それぞれの練習ボリュームをvariableにすべきではないかなと。…あ、また話が逸れてしまった。

"High Specialization"のカテゴリーに入った選手は、"Low"の選手らに比べ、膝関節の慢性傷害を経験している可能性が著しく高い(p = 0.048)。
これはなんでORが報告されていないんでしょう?個人的にはp値で言われてもちょっと…という感じ。

「一年のうち8ヶ月以上をひとつのスポーツのトレーニングに費やしているか」の項目に"Yes"と答えた選手は膝関節 (overall knee injury OR 2.32; 95% CI 1.22-4.44; p = 0.009, overuse knee injury OR 2.93; 95% CI 1.16-7.36; p = 0.018) と股関節 (OR 2.74; 95% CI 1.09-6.86; p = 0.026)の怪我の既往歴があることが多い。
なるほど。こうなると「そうか!やっぱりマルチスポーツしてるほうが怪我をしにくいんですね?」と言いたくなるところですが、correlationとcausationは異なる、ということはやっぱり指摘しておかなければなりません。これらの怪我がいつ起こったか分からない以上 (それこそ10年前の怪我だって数に入っちゃうわけですから)、シングルスポーツが怪我のリスクを上げるとは断定できません。もしかしたら、怪我をした選手が泣く泣くマルチを諦め、ひとつのスポーツを選択せざるを得なくなったという真逆の可能性だって考えられますもんね。因果関係をもっとはっきりさせたければ、やはり選手を予めシングル組・マルチ組に分類したあとで、1シーズンの怪我を現在進行形で追う、prospectiveタイプの研究をやらなければダメでしょう。

逆に非常に面白いなぁと思ったのは8ヶ月という数字ですかね。実は「ひとつのスポーツを一年のうち8ヶ月以上プレーすべきでない、年間を通じて休息時間を設けるべきだ」という提案は他の論文でもこれまでにいくつかされているんです。4-6 今回の研究もこれ(=8ヶ月)が結局のところ一番の怪我のpredictorということで、「8ヶ月」という時間軸がマジックナンバーである?という説を支持する結果になっています。こうなってくると本当に8ヶ月が適切なcutofffなのか、さらに検証する必要がありそうですね。例えばひとつのスポーツを6ヶ月やっている選手たち、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月…なとどグループ分けして怪我の頻度を追えば、どの期間が境界線として最も相応しいかデータ化が可能です。他にも「ユースの選手は自分の年齢以上の時間を一週間に練習に費やしてはいけない」なんていう提案も以前にされてましたけど(i.e. 15歳なら一週間練習も15時間以内)、5 これも併せてぜひ検証していただきたいものです。こうすることで怪我のリスクを下げられるのか、気になります。

色々書きましたが、この論文をまとめると「どうやらマルチスポーツをしたほうが怪我のリスクは総じて低そう?」ということは抜き出せるかと思います。この研究の質は決して高いものではないですが、マルチスポーツをすることに関する不利益は今のところなさそうですし…どちらがより安全?と聞かれたらマルチ、と答えたくなるのが私の脳内の現状です。早期特化派のママさんなんかからは「でもそんなに呑気に色々なスポーツに手を出していたら遅れを取ってしまう、うちの息子がスポーツ推薦もらっていい大学にいけなくなってしまうわ!」と言われそうですが、実はそれを否定するエビデンスはあるんですよ。NCAA Division Iの選手のほとんどは、実は高校を通じてひとつのスポーツに特化せず、マルチスポーツ選手として活躍している場合が多かった、7というのがね。もしかしたら「複数のスポーツをプレーできる環境」というのは、怪我のリスクを下げるだけでなく、燃え尽き症候群を防ぎ、しかも高い運動能力を兼ね備えられる、やはり優れたモデルなのかもしれない、という気がしてきますね。日本でもこういう機会、若い子が持てればいいのですが…。

1. Bergeron MF, Mountjoy M, Armstrong N, et al. International Olympic Committee consensus statement on youth athletic development. Br J Sports Med. 2015;49(13):843-851.
2. DiFiori JP, Benjamin HJ, Brenner JS, et al. Overuse injuries and burnout in youth sports: a position statement from the American Medical Society for Sports Medicine. Br J Sports Med. 2014;48(4):287-288.
3. Bell DR, Post EG, Trigsted SM, Hetzel S, McGuine TA, Brooks MA. Prevalence of sport specialization in high school athletics: a 1-year observational study. Am J Sports Med. 2016;44(6):1469-1474. doi: 10.1177/0363546516629943.
4. Brenner JS, American Academy of Pediatrics Council on Sports Medicine and Fitness. Overuse injuries, overtraining, and burnout in child and adlescent athletes. Pediatrics. 2007;119(6):1242-1245.
5. Jayanthi NA, LeBella CR, Fischer D, Pasulka J, Dugas LR. Sports specialized intensive training and the risk of injury in young athletes: a clinical case-control study. Am J Sports Med. 2015;43(4):794-801.
6. Valovich McLeod TC, Decoster LC, Loud KJ, et al. National athletic trainers' association position statement: prevention of pediatric overuse injuries. J Athl Train. 2011;46(2):206-220.
7. Post EG, Thein-Nissenbaum JM, Stiffler MR, et al. High school sport specialization patterns of current division I athletes [published online on November 2, 2016]. Sports Health. 2016;pii:1941738116675455.

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  by supersy | 2016-11-16 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

月刊トレーニングジャーナル12月号発売 &「脳震盪予防」最新エビデンスを考える。

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月刊トレーニング・ジャーナル12月号が発売になっています!12月かー…、もう師走近いんですね!
連載7回目の今回は「脳震盪シリーズ」の第二弾です。今回は脳震盪診断について、スポーツ医療の現場で働く医療従事者が知っていなければいけない基本中の基本から、最新のエビデンスに基づいた最先端の診断法まで幅広く言及しています。興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。

ついでといっては何ですが、MUSTER(マスター)というスポーツ関係の専門家が交互に執筆し合うウェブサイトで脳震盪に関する記事も書かせていただいたので、興味のある方はこちらもどうぞ。こちらの記事は選手、指導者や親御さんなど、一般の方に「脳震盪」についてもっと知っていただきたくて書いたものなので、このブログほど濃厚ではないというか、しつこくはありません(笑)。さっぱり味です。



別に脳震盪の記事を立て続けに書いていたからってわけじゃないのですが、最近こんな論文(↓)1を目にしたのでまとめておきます。脳震盪診断や治療に関しての進歩は日々目まぐるしいですが、脳震盪予防という分野は実はまだまだ未開の地なんですよねぇ。
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このSystematic Reviewでは条件を満たした15件の脳震盪予防に関するProspective論文をレビュー、うち、Meta-analysisに含まれたのは8件。Systematic reviewと呼ぶにはPubMedとEBSCOのデータベースしか使っていないというのは少しどーなのかと思いますけどね。あと、15件の論文の平均のPEDroが3.5っつーのは低いですね。猛烈に低いですね。まぁconcealとかしにくいかもしれない分野かなぁとは思いますけど。

15件の論文の内容に関する内訳は以下の通り。
 - 7件: ヘルメット・ヘッドギアの有効性
 - 8件: マウスガードの有効性
 - 1件: アメフトのタックル法指導プログラムの有効性

スポーツ別カテゴリー分けは、以下の通り。
 - 6件: ラグビー
 - 6件: アメリカンフットボール
 - 2件: アイスホッケー
 - 1件: バスケットボール
 - 1件: サイクリング

で、結論に飛んじゃいますと…
●ヘルメット・ヘッドギア・マウスガード・フェイスシールドの使用が脳震盪予防にもたらす効果
 RR = 0.82, 95% CI 0.56-1.20, p = 0.30
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統計的に有意な予防効果があった3つの論文だけ抜き出して掘り下げてみると…
 Collins et al 2006 (PEDro 3/10) - 実験組308人 vs コントロール組306人、
   アメリカンフットボール選手対象
   レボリューションヘルメットと一般的なヘルメットの比較
 Thompson et al 1996 (PEDro 3/10) - 実験組1718人 vs コントロール組1672人、
   サイクリング選手対象、ヘルメット有りと無しの比較
 Winters & DeMont 2014 (PEDro 3/10) - 実験組220人 vs コントロール組192人、
   アメリカンフットボール選手対象
   カスタムマウスガードと一般的なマウスガードの比較

Systematic reviewの結果(上グラフ)とMeta-analysisによる統計を見る限りでは、サイクリングという比較的特殊なノンコンタクトスポーツ以外は、ヘルメットやマウスガードは脳震盪予防に特筆するような効果は見られない、というのが結論ですかね。Point valueはともかく、95%CIの最大値が1を超えていますし、p値も>0.05です。

この分野で難しいのがブランドや種類の特定ですよね。何しろ選択肢が多いですから…。個々の研究結果のみを見てみると、マウスガードはカスタムのほうがそうでない商用のものより脳震盪予防効果が高いのではないか、そしてアメフト用ヘルメットは、Riddelのレボリューション型のほうが他のものより優れているのではないか、ということが言えそうです。レボリューションに関しては、もうひとつのRetrospective研究でも他のヘルメットより脳震盪予防効果が高いと報告されていたりもしますね (RR 0.46, 95% CI 0.28-0.76)。2 ヘルメットはね、もうどんどん新しいのが出ちゃうから研究が追い付いていない印象ですよ。最近だともっと柔らかい衝撃吸収型なんか出始めていて(↓)、硬いものよりこっちのほうが脳震盪予防にいいんじゃないか、なんて説もあり…。個人的にはこの柔らかタイプのヘルメットの予防効果が今一番気になるところなんですけどねぇ。これはさすがにまだ論文が出ていないなぁ。

あとね、これ、面白いのが単純に「ヘルメットやヘッドギアは総じて脳震盪予防に無効」というわけでなく、もしかしたら「ヘルメット・ヘッドギアをつける選手は、その安心感から、よりラフなプレーをするようになり、せっかくの予防効果も相殺される」という可能性が論文内でも言及されているところですね。ヘルメット無しの練習を敢えて取り入れるほうが、怪我をしにくくなる、なんて以前ブログにも少しだけ書きましたけど。個人的にはこの要因が非常に影響し得そうに思うので、Helmetless Tackling Trainingと特殊なヘルメットを併用したfactorial ANOVAとか見てみたいです。

●教育プログラムが脳震盪予防にもたらす効果
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 Kerr et al 2015 (PEDro 4/10) - 実験組人2108人 vs コントロール組704人、
   アメリカンフットボール選手対象
   Heads Up Football/Pop Warner教育プログラム有りと無しの比較

正しいタックル法や、練習時間の制限などのスポーツ指導者を対象にした教育プログラムの予防効果を検証したKerr氏らの研究から、(Heads Up Football/Pop Warnerによる)テクニック指導と練習時間に制限を設けることは、脳震盪予防に効果がありそうである(RR = 0.52, 95% CI 0.30-0.93)ということが言えますね。被験者の数も多く、PEDroも4/10と低いながら、今回の平均と比較するとまだ高いほうかもしれません。既存のプログラムなので、duplicateも簡単そうです。どうやら、「教育」はヘルメットやヘッドギアの使用よりはまだ効果が高そう…こうなると余計に、先ほど書いたように、教育と防具の併用で相乗効果があるのか、そこらへんを是非検証した論文を見てみたいです。

●ヘルメット・ヘッドギア・マウスガード・フェイスシールドの使用が頭部表面的損傷(lacerations, abrasions, contusions)予防にもたらす効果
 RR = 0.41, 95% CI 0.31-0.56, p < 0.0001
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これに関してはほぼ満場一致で効果ありとして良いでしょう。95% CI最大値も優秀です。先ほど脳震盪予防にはイマイチ決定打が欠ける、と言われていたこれらの防具ですが、頭皮からの出血や頭部(表面)の打撲などの軽度の損傷のリスクを半分近くにまで下げる効果があるようです。

そんなわけで全てをまとめると…
- 防具に関しては、(裂傷や打撲など)頭部表面の損傷の危険性を半分に減少させる効果はあるものの、総じて脳震盪予防効果は無し。レボリューションヘルメット、カスタムマウスガードはもしかしたら脳震盪予防効果あり?
- 指導者を対象にしたテクニックや練習時間に関する教育プログラムも脳震盪予防に一役を買うようであるが、これだけでは不十分でもある。
…という感じでしょうか。いやー、特に世界観がひっくりかえるような新しい結果っつーのは無かったですけど、面白いですね!研究の本質上、RCTってわけにはいかないと思うんで、もっと質の高いProspective studiesがこれからも増えてくれると嬉しいです。せめてPEDro平均値5か6くらいで!くどいですけど、ヘルメット無しの練習をした子たちがレボリューションやその他最新のヘルメットつけた場合の予防効果がめちゃめちゃ気になります。もう2年くらい待ってからまた戻ってきたいトピックです。

1. Schneider DK, Grandhi RK, Bansal P, Kuntz GE, Webster KE, Logan K, Barber Foss KD, Myer GD. Current state of concussion prevention strategies: a systematic review and meta-analysis of prospective, controlled studies [published online on June 1, 2016]. Br J Sports Med. 2016;pii: bjsports-2015-095645. doi: 10.1136/bjsports-2015-095645.
2. Rowson S, Duma SM, Greenwald RM, et al. Can helmet design reduce the risk of concussion in football [published online on January 31, 2014]? J Neurosurg. 2014;120(4):919-922. doi: 10.3171/2014.1.JNS13916.

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  by supersy | 2016-11-13 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

クリスマス(12/25)にEBP講習を東京で開催します!

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この告知ができるのを個人的に楽しみにしていました。この度、BOCに申請をしていた三つ目のEBP講習が正式に認定を受け、この12月にひとつの目標としていた「EBP基礎3コース」が開講できる運びとなりました!わーいわーい。今回追加されるのは、要望も多かった「予防医学」についてです。例えば、前十字靭帯断裂の予防エクササイズプログラム、なんてよく聞きますけど、実際にあれに参加することで、怪我がいったいどれだけ予防できるんでしょう?前半一時間半を使い、Odds Ratio (OR), Risk Ratio (RR), Number Needed to Treat (NNT)などというややこしい単語と統計とを学びながら「リスク」というコンセプトを紐解いていきます。さらに、後半では論文を読みながら脳震盪の有効な予防手段は?足首のテーピング・サポーターは本当に捻挫のリスクを減らせるの?怪我をしやすい選手を見極めるために実用的なスクリーニングやテストは存在するの?などなど、知識を応用しながら現場でも活かせる内容について議論し、考えていきます。

(追記ですが、このEBP講習の焦点は文献からいかに必要なエビデンスを抜き出し、理解するか、そしてその上でどう現場に活かしていくかの練習をするところにあります。診断編はシステマティックレビューやメタ分析論文を中心に『いかに英語を読まずに情報を抜き取るか』を、治療介入編はRCTを『読みながらいかに効率よく、単語を選んで情報を抜き出していくか』、そして予防編はその両方を混ぜながらスポーツ現場で活かせるトピックを読み解きます)

これで評価、治療、予防と医療の3本柱が立ちました…、感無量です。いつも手続きなど細やかな仕事をしてくださる高橋さんに改めて感謝です!ありがとうございます…。

それからそれから。これもずっとやりたいと思っていたことなんですけど、BOCの規則が緩やかになってついに実装できました!今回から、セット割引学生割引を開始します。3つのうち2コースを同日に受講する場合は10% off、3つ全てを同日受講する場合は15% offに。そして現役大学・専門学校生(国内外不問)の方は更に追加で10% off(つまり、2コース受講で20% off、3コース受講で25% off)いたします(申込後に学生証の提示が必要です、詳しくはリンク先の説明をお読みください)。学生さんにはより気軽に来てほしいと思っていたので、実現できてうれしいです。これも高橋さんのご協力に感謝です。

お申し込みはGuardians Athletic Training & Therapyのウェブサイト上のこちらから。

<講習日時>
2016年12月25日
9:30am-12:30pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
12:30pm-13:30pm 昼食(各自)
13:30pm-16:30pm エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
16:45pm-19:45pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで

…の、3部構成でお送りします。参加はお好きなコースひとつだけでも、2つでも3つ全てでも可能です(複数講習参加する場合は、お手数ですがリンク先から各イベントひとつずつお申し込みください)。以前と同じで、参加資格の指定は何もありません。学んだるでェ―という気持ちだけ持ってきてくだされば。ATCのクレデンシャルをお持ちの方には、各コースEBP CEUが3つきます。3つ全て受講すれば3 x 3 = 9 EBP CEUsです。

<会場> 連合会館 402会議室 東京都千代田区神田駿河台3-2-11
こちらもご要望にお応えして、今回は都心のアクセスしやすい会場をご用意しました。
 東京メトロ千代田線  新御茶ノ水駅 B3出口すぐ
 東京メトロ丸ノ内線  淡路町駅 B3出口すぐ(B3出口まで地下道徒歩5分)
 都営地下鉄新宿線  小川町駅 B3出口すぐ(B3出口まで地下道徒歩3分)
 JR中央線・総武線  御茶ノ水駅 聖橋口徒歩5分

<定員> 70名

<受講料> 
  一般 1コース 9,000円
     2コース 16,200円 (10% off - 1,800円引き)
     3コース 22,950円 (15% off - 4,050円引き)
  学生 1コース 8,100円 (10% off - 900円引き)
     2コース 14,400円 (20% off - 3,600円引き)
     3コース 20,250円 (25% off - 6,750円引き)

より多くの皆様にお会いできるのを楽しみにしております!セミナーの内容に関して質問があればここのコメントか私に直接ご連絡ください。会場、参加費など運営に関しての質問は高橋まで(tdtakahashi@guardiansatt.com)お願いいたします。

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  by supersy | 2016-10-23 06:30 | Athletic Training | Comments(0)

月刊トレーニングジャーナル11月号発売 & 半月板損傷に対するMulligan Concept "Squeeze" Techniqueアプローチ。

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月刊トレーニング・ジャーナル11月号が発売になっています!
連載6回目からは3回に渡って「脳震盪」というテーマで書かせてもらっています。一回目は脳震盪って結局なんなのさ?という基本的な背景から、最新のエビデンスから見るSIS・CTEの実態など、幅広いトピックをカバーしておりますので、興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。

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膝の半月板損傷がMRIや内視鏡などで認められた場合、よく取られる措置がpartial meniscectomy(部分切除)です。 これは、症状の軽減やOAの発症を防いだり遅らせたりする目的で行われる手術ですが、近年になって患者の機能回復があまり見られない、OAは結局早期に起こってしまう、そして半月板損傷再発も起こり得ることなどから、「meniscectomyに代わるもっといい手段はないものかしら」とクリニシャンの間で疑問の声が上がっています(以前に縫合vs切除のまとめも書いたことがありましたね)。今回は、そんな流れで面白かった記事(↓)1をひとつ。
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●治療適正検証
高校や大学でスポーツをしている『半月板損傷らしい症状を訴えてきた』患者5人(平均19.6 ± 3.2歳、男性4人、女性1人)を対象に、Mulligan Concept "Squeeze" Techniqueのみを用いて症状が回復するまで治療を続け、そのアウトカムを追ったというcase seriesです。
最初に引っかかるのが『半月板損傷らしい症状を訴えてきた』という表記ですが、これは文中に定義がしてあって、以下の項目のうち最低でも3つが当てはまる患者が対象になるそうな。
  1. Positive McMurray’s test
  2. Pain with terminal knee flexion
  3. Pain with terminal knee extension
  4. Joint line tenderness
  5. History of clicking and/or popping
こんなまだるっこしいことしてないで、MRI撮ればいいじゃん、と思うかもしれませんが、この組み合わせは実はMRIよりも正確だという研究が出ていたりも2するのです。まあClinical Prediction Ruleのようなものだと思っていただければ(それでも研究なんだから何かしらの画像診断を合わせてもいいのでは、と個人的には思いますが、コスト削減のためなのでしょうか?現場での実用性を意識しているのかな、確かにduplicateが簡単な基準ではあるけども)。加えて、Thessary Test (20°)かApley's Compression and Distraction Testの少なくともどちらかが陽性で、且つLachman Testが陰性の場合(ACL損傷も伴っていると、とたんに半月板損傷用のスペシャルテストの精度が落ちるため)、患者を「資格あり」と見做したそうな。ここらへんは過去のエビデンスとも合う、理にかなった良いチョイスだと思います。

●アウトカム
この研究では「回復の指針」として4つのPatient-reported outcomes (PRO)を追っています。
1. Patient Specific Functional Scale (PSFS): 患者自身が「怪我のせいでこれができない」と思う日常のアクティビティーを一つ選択。それについての制限の程度を 0-10で評価(0が「できない」、10が「全く制限がない」状態)するもの。 MDC=2.5 points、MCID=3.2 (“medium change”), and 4.3 points (“large change”)
2. Numeric Pain Rating Scale (NRS) score: 0-10で患者が自分で感じる痛みの程度を評価。MCID=2 points or 33%。
3. Disablement in the Physically Active (DPA) Scale: 16項目の質問を、1-5点で評価(1は問題なし、5はとても大きな問題がある)、その合計点から16を引いた0-64満点で採点。3 MCID=9 points (for an acute injury) and 6 points (for a chronic injury)。
4. Knee injury and Osteoarthritis Outcomes Score(KOOS): 質問項目数も43と多く、計算もカテゴリー別にかなりややこしいPRO。ざっくり解説すると痛み、症状、ADL、スポーツ、QOLの5カテゴリーに分かれていて、それぞれの平均値をパーセンテージで出すイメージ。MCID=8-10 points for each category。

これだけ見ると、ちょっとredundantというか、くどい印象。こんなにいっぱいPROを計る必要があったのかな、overlapも多いのでは?と個人的には考えてしまいます。Objectiveなアウトカムもひとつくらいは見たい…。

●治療
この研究に用いられたのはMulligan Concept "Squeeze" Techniqueのみ。患者の膝を90°屈曲させた状態で、最も圧痛が高いJoint lineの一点に親指を重ね、ぐぐっとsqueezeしてから(写真左)、患者に自動的に膝関節を最大伸展(写真中央)、それから最大屈曲へ(写真右)と持っていってもらうというもの(最大屈曲時には患者が自らの手を使ってまでぐぐぐと引っ張り上げます)。クリニシャンは、伸展時には軽く親指での圧を緩め、屈曲時により強く押すのがポイントです。
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患者はこれ以外の治療や特別なリハビリは、この研究では一切受けていないそうです。日常生活は普通にそのまま、そしてスポーツに関しては「できる範囲で」やり続けても良い、という指導のもと。ただ、肝心のこの治療をどれだけのdosageやったのかという記述はありません。いち治療あたり何セット?週に何回?基準がないと、我々がduplicateするのは難しいですね。

●結果
患者は平均5 ±1.73回の治療、時期にして14.2 ± 5.68日間という治療期間でdischargeにたどり着けたそうな。この数字からすると、2.84日毎に治療一回のペースですかね。ちなみにdischargeの基準はPSFSが10(アクティビティー制限全くなし)、NRSが≦1(痛みほとんどなし)、そしてDPAは<23なんだそうで。これらの数字の根拠も明記はされていません。特にDPAは…、34点が一般的にnormal, healthyとされることが多いのだけど、なぜそれよりも低い23なんでしょう?どこから来たのかな?
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この結果のテーブルを見ているとたしかに短期間で急激に回復したことが確認できますね。p value, Cohen's d共に力のある数字です。文句のつけどころも…あまりないけど、あえて言うならDPAの95%CI幅の広さでしょうか?MCID=9 points (for an acute injury) and 6 points (for a chronic injury)ということを考えれば、最小値が4.96というのは唯一いちゃもんをつけようと思えばつけられる数値ですね。でも他のものは最小値もMCID超えてきているので、なかなかあっぱれです。

考察では、5人中2人が治療一回目が終わった時点で、NWBからWBができるまでに回復し、治療3回目を終える頃には機能が最大まで回復した、と書かれています。期間としては一週間ほどですね。手術よりもステロイド注射よりも即効性のある高い効果に、「これは手術の前にまず最初の手段として試してみたい」と考えたくなりますね。そんなにめちゃめちゃ難しい、複雑なテクニックというわけでもありませんし…。

もちろんこれはcase seriesですし、解釈は気を付けなければなりません。著者らが自分に都合のいい症例のみを取り上げて書いた可能性もあります。あとは、MRIや内視鏡で診断を確認したわけではないので、たまたまこの5人が実は半月板を損傷していなくて、どっちにしてもあっという間に回復するんだった、なんていう場合もね。次はこのテクニックを、最低でもMRIで確認の取れた半月板損傷患者を被験者に絞って、RCTで検証してみて欲しいものですね。MC "Squeeze" GroupとPartial Meniscectomy Groupでの比較とか。アウトカムにはROM、それから50mのスプリントタイムとかT test、vertical jumpとかのperformance measureを入れてみるっていうのもどうでしょう。long term follow upも知りたいですね。一年後、二年後の状態の差とか。うわ、そんな研究、めっちゃ需要がありそうじゃないですか。どなたかぜひ、やってみてくださいー。

1. Hudson R, Richmond A, Sanchez B, et al. An alternative approach to the treatment of meniscal pathologies: a case series analysis of the mulligan concept "squeeze" technique. Int J Sports Phys Ther. 2016;11(4):564-574.
2. Lowery D, Farley T, Wing D, et al. A clinical composite score accurately detects meniscal pathology. Arthroscopy. 2006;22(11):1174-1179.
3. Vela LI, Denegar C. Transient disablement in the physically active with musculoskeletal injuries, part I: a descriptive model. J Athl Train. 2010;45(6):615-629. doi: 10.4085/1062-6050-45.6.615.

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  by supersy | 2016-10-11 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

プロとしての責任を果たす。責任を負う。

アメリカでBOC試験に合格し、Certified/Licensed Athletic Trainerとして働く…というのは若かった頃の私自身も含め、たくさんの人の「夢」であると思うのですが、それは決して華々しいことばかりではありません。医療ライセンスを手にするということは、それを持って下した医療判断の結果が良かった場合も悪かった場合も、全ての責任が自分に返ってくる、ということでもあります。判断ミスをして患者を危険に晒すようなことはあってはなりませんし、深刻な場合はライセンスを剥奪され、二度とこの国でATとして働けなくなることも当然ありえます。

「プロとして働くに足る十分な知識や技術を有している」ことと、「プロとしての責任を常に意識した思考方法を熟知し、自分自身の見せ方を知っている」ということは、ふたつの異なる次元の出来事である、と私は考えます。しかし、プロとしての「責任」を意識しながら働く、というのはなかなかどうして、もはや現場に出ていない身としては学生に教えにくい議題です。女子バスケでバリバリと働いていたころは学生に私がどういう意図をもって選手やコーチとコミュニケーションを行っているか、という「文化」や「哲学」を日常的に共有することができましたが、現在の私の肩書はフルタイムの臨床教授。各授業には「この授業で教えなければいけないこと」の長い項目リストが存在し、「プロとしての心構え」に言及できる頻度にも限界があって「文化」として確立しきれないもどかしさが何となく自分の中に残っています。しかし、それでも、これを教えないわけにはいきません。

「責任を取ります("I take full responsibility")というのは簡単だけど」3年生の診断の授業でも強調します、「どう責任を取るの?結局被害を被るのは患者さんの手に肩に肘に膝に足首でしょ?君はそれらと残りの人生を共にしないんでしょ?じゃあ責任を取るってどういうことなの?」

「じゃあすみあせん、ライセンス返します、と言う?罰金を払う?確かに法的には正しい責任の取り方で、それらは君の人生に大いに影響を与えることかもしれないけど、患者さんからしたら『だからなに?』かも知れないよね。残ってしまった障害には何の影響も与えないもの」
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「これは私の個人的な考えも多く含むので、もしかしたら全員が全員賛同するわけじゃないとも思うんだけど」と前置きして(ここらへんは本当、各プロの哲学というのがあると思うので)、「私は責任を取るということは、先回りして『悪い可能性』を考えられて、それを予め潰す行為のことを言うんじゃないかと思ってる。ついでにいうと、こういった行為はごくごく小さくて、ほとんどの場合そんなに目立たないものだとも思う。例えば、バスケットボールの練習中に水休憩が入り、選手が水を飲んでいるとしよう。君の目の前の選手が少し水をこぼして、コートを濡らした。君はごく自然にタオルを手に取り、その水をきれいに拭き取るかもしれない。なぜ?その水滴が君とって『怪我の危険因子』だったからでしょう?そんなに深く考えずとも、君はATとして練習現場を少しでも安全な環境にする責任がある、と理解していて、床を拭くというごくごく単純な行為でその責任を果たしたんだ。能力的には誰にでもできることかもしれないけど、そういう考え方を持っていない人にはできない行為でもある。これを『プロと呼ぶにふさわしい行為』以外に何と呼ぶ?」

●Know Your "Scope of Practice"
「私が若いころにした失敗の話をするね。まだGAだった頃にね、私はとある高校で唯一のATとして働いていたわけだけど、肩関節唇後方断裂疑いが濃厚だった選手に『これはMRIが要るから、お医者さんのところへ行こうね』と言ったことがある。数日してその選手と親御さんが怒って帰ってきてね、『医者がMRIを撮ってくれなかった』というんだ。話を聞くと、医者は肩関節唇断裂ではないと判断し、『2-3週間して良くならなかったらまた来てください』と言ったという。頼んでも、MRIは『現段階では要らないでしょう』と撮ってくれなかったと。医師のほうへ電話を入れてみると、医者も怒っていて『困るんだよね、君が余計なことを言うから』と言うんだ。ここで私が犯したミスはなんだろう?」
「ATは画像診断をオーダーできないので…さゆりが言ったことはATが法的に責任を取れる範疇を超えていた("beyond the scope of practice")?」と答える学生。「その通り!画像診断無しで診断できるところまでするのがATの仕事であり、どの画像診断が適切で、どれを実際に行ってということを決められるのは医師だ。後日談で結局2週間待っても良くならなかったこの患者が最終的にMRIを撮ったところ肩関節唇断裂が確認されて、その後手術をしたことは私の個人的なエゴのために追記しておきたいけど(笑)、この話で重要なのはそこじゃない。私の判断が正しかったことは問題じゃないんだ。ここで責められるべきは、私が法的責任を取りきれないことを軽々しく言ったこと。私が医者がすべき判断を勝手にしようとして、お医者さんの爪先を踏んづけてしまったこと。プロにあるまじき行為だ。はっきりと私が悪い。じゃあ、どういう風に伝えればよかったんだろう?」
「うーん、とにかく医者に診てもらおうと、それだけ言うとか?MRIのことは全く言わないで…」
「それもひとつの手だね。思っていることを全てそのまんま患者さんに言わなくてもいい。敢えてぼかす、というのは非常に大変なコミュニケーションのテクニックだ。でも、あまりに情報を制限してしまうと、逆に患者さんの不安が小さくなることもないかな、と思ったりもするんだよね。私がよくするのは、『伝えられる範囲でウソ無くなるべくしっかりと伝える』ことで『こういう理由で、こういう怪我の可能性が否定しきれない。まずは、これじゃないということをしっかりと確認する必要があると思うんだ(=発見の共有と説明、比較的深刻な怪我の可能性を排除する重要性を伝える)』『だから、お医者さんに診てもらおう(=次のプランの提示)』『この怪我をしているかどうか確認するのによく撮られる画像診断はMRIだけど、とりあえず骨の状態を見てみよう、と思ったら安くて早いレントゲンをまず撮っちゃうこともあるし、もしかしたら画像は一切必要ないかもしれない。まずはお医者さんの判断を仰いで、何がベストか決めよう(=いくつかの可能性があることを示唆。最終的決定権は医師にあることを明示するが、患者に精神的に準備をしてもらい、質問などを用意しやすくする)』…とかね」

「私は幸運なことに、その後私の判断を100%信頼してくれるチームドクターと仕事をさせてもらったことが何度かある。私が『これまじMRI要るっす』と直接連絡を入れると『よっしゃ、患者いますぐこっち送ってこい、撮ったる』と言ってくれるような人とね。でもそれはその医師らが我々の知識と、状況の切迫性を理解してくれる本当に例外的な方々だったからで、普通の医師なら「まずオフィスに送ってください、こちらで診察・判断します」というのが当たり前だ。彼らも彼らのライセンスをかけて日々仕事しているんだから、それはこちらも尊重しなければいけない。『例外的な幸運』を期待してはダメだ。立場をわきまえて仕事をする、自分ひとりでできないことを軽々しく口にしない…という当たり前のことを、若いころの私はできなかったんだよ。皆は私の失敗から学んで、他人の土俵で武器を振り回すような真似をしない医療従事者になってほしいな」

●Share Prognosis, What to Expect/NOT to Expect
「君たちは賢い子たちだ、医療の知識がある。患者の99%は、君たちのようではない。それをはっきりと自覚したほうがいい」
「例えば、急性の膝半月板損傷疑いが濃厚な患者を(診断を終えて)家に帰すとしよう。今のところ受傷から一時間、目立つ腫れは無い。私が何を考えているかというとね、今はそうでなくても、今夜この子の膝が寝ている間に腫れて、朝に気が付いて、ギャー膝ぱんぱん!パニック!なんてことがあるかもなぁと思っているんだ。目に浮かぶんだよね、そういう光景が。予想できちゃうから、こう伝えるよ。『半月板損傷があった場合に、腫れが遅れて出るってことが結構あってね。なるべく最小限に抑えるために、今夜はこういうことをして寝てほしいんだけど(=elevation, compressionなど)、それでも明日の朝起きて腫れてた!ってなってもあんまりびっくりしないでほしいんだ。あ、さゆりが言ってた腫れってこれか、って思ってくれれば。そういうのは珍しいことじゃないからね。でもあんまり腫れてて心配だったら、確認のためにこんななんだけどって写メ撮って送ってくれてもいいよ、明日の朝』という風にね。一時的な症状の悪化が既に予測できてるんだったら、先に伝えちゃおうよ。まあそれは普通の範囲内だよって教えよう。患者さんの不安も、いたずらに大きくならなくて済む」
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「脳震盪なんかだと、睡眠障害もこれにあたる。異様に眠くなっちゃう(過眠症)場合ならともかく、逆(不眠症)ということもある。眠りたいのに眠れないというのは本当にしんどいんだよね。『眠れぬ夜』を過ごしたことある子はよくわかるんじゃないかな?睡眠の質というのは患者さんのHRQOLには多大な影響を与えるんじゃないかと私は予測する。だからこれも家に帰す前に伝えちゃおう。『今夜、なかなか寝付けなかったり、眠りが浅かったりすることがあるかもしれない。これも脳震盪の場合はよくあることでね。思うように寝られなかったら不安になったりするかもしれないけど、そういうときはイライラせず、とりあえず目をつぶって、ゆっくり呼吸して、横になるだけでいい。その状態でも体はちゃんと休めているからね。無理に寝なきゃ寝なきゃと思わなくていいよ。できる範囲で休もう』と。…あとはね、『これが起こったら異常であり、急変なので、救急(ER)行かないとダメっす』という、いわゆる医療的なレッドフラッグってあるよね?それもはっきり伝えよう。脳震盪なら、どんなのがある?」
「意識レベルの低下、激しいもしくは悪化する頭痛、一度じゃなく、繰り返される嘔吐…」
「そうだね、その場合は硬膜下・外血腫などの疑いが強まる。これは『これも脳震盪だったら普通なのかな?明日さゆりに会うまで待ってみよう』と悠長に構えてほしくない、緊急を要する事態だ。すぐに行動を起こさなきゃいけない。赤は赤とはっきり伝えよう。何が『普通』で何が『普通の範囲を超えている』のか、明確にコミュニケーションする必要があるね。これもしっかりとしたプロとしての責任だ」

●Set Up the Next Appointment Before Letting Them Go
「本当に軽いものだったら『良くならなかったらまた来て("F/U PRN" = follow up as needed)』でいいときもあるけど、特にATの仕事環境でこういう指示を出すのは非常に稀だと思う。やっぱり多くの怪我は要経過観察だよね。私だったら99%の確率で何もしなくても良くなると確信が持てる場合(i.e. 筋肉痛や軽度の打撲)には『気になったらまた来て』というけど、そうじゃなければ他の言い方をするよ。さて、目の前にちょっと気になる肘の違和感を訴えるジョン君がいる。今のところ大したことなさそうだけど、これから経過を観察していきたい場合、何を言えばいいだろう」
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「『気になったら』じゃなくて…『また来て』?」
「そうだね、また絶対来てほしい。またってでも、いつ?」
「『また明日来て』?」
「おっ、いいね、『明日』!ちょっと限定的になったね。じゃあちょっと想像してほしい。ジョン君に『また明日来て』と言った翌日、私はジョン君を一度も見かけなかった。それから数日、私も忙しくてバタバタしていてすっかりジョン君のことを忘れてしまって、あれ、そういえば良くなってるってことなのかな、なんて思っていた2週間後、徐々に肘の痛みが悪化していたジョン君はついにUCLを断裂してしまいました。責められるべきは、誰だ?誰の『責任』だい?」
「ジョン君でしょ?」
「ジョン君に『どうしてもっと早く来なかったの』と聞いてみたら『次の日会いに行ったけどさゆりいなかったもん』と答えました。聞いてみたら私がたまたまスタッフミーティングをしていた時間だったようで、すれ違ってしまったようです。さあ、誰の『責任』?」
「それでも…ジョン君…だと思うけど…」
「これが裁判沙汰になったら向こうはそうは言ってくれないよ。私がジョン君に出した指示は『また明日来て』が全てで、彼はその責任を果たした。この場合、曖昧な指示を出した私が悪い。要経過観察患者と分かっていながら観察義務を怠ったのだから、私が責任を取らなきゃいけないだろうな」
「えー?肘の悪化を感じていたのはジョン君なのに?」
「そうだよ、私の曖昧な指示が全てだ。『また明日来て』ではただの口約束。もっとちゃんとしたアポイントメントを作ればこんなことにはならなかったかもしれないね。例えば、『明日、授業何時にある?』と彼の予定を聞いて、『じゃあ明日の朝9時にここで再評価をしよう。約束ね。あ、今のうちに、自分の携帯のカレンダーに入れちゃってよ。私もそうするから』と、正式な『約束』を取り付けることができたはずだ。そうすればすれ違うこともなかっただろうし、万が一彼がその時間にこなかったらそれはアポイントメントをすっぽかした彼の責任であることは明確だ。もっとも、そうなるためには私がもうひとつだけ何かをする必要があるけれど。…何かわかる?」
「書類に残しておくこと(document it)?」
「大当たり!いつもいうけど、書かれていないことは存在しないのと一緒だからね("if you don't document it, it didn't happen")。SOAP noteの最後、プランのところに、こう書くよ」

"Pt. was instructed to F/U w/ AT @9am Sept 26, 2016 at Island Hall AT Center."

「これで場所も時間も明確だ。ボールは彼のコートにある。もし次の日彼が来なかったらNS (= no show、すっぽかし)もしっかり記録しておかないとね。 私はここに座って彼を待っていたんだから。法的責任の所在云々ももちろんそうなんだけど、大事なのはミスコミュニケ―ションを起こすような要素を先回りして取り除いておくことなんだよ。ジョン君に目の前でカレンダー入力してもらったのもそのためだ。どんな相手でも間違えようがない明確さで我々は仕事をする責任がある。『また明日』ではその責任を果たせているとはいえないんだ。『明日の練習前に来るから』なんてよく聞くフレーズではあるけれど、私はその曖昧さが嫌だな。『練習前っていつ?じゃあ10時半に来られる?』と具体的な時間を聞くよ。だって練習開始5分前に来られたって何もできないからね」

●「この責任は、私にあります」と言えますか
「最初の話に戻るけど、私はこういう日々の小さい行為の積み重ねが『プロとしての責任を取る』ことだと思っている。何かあったときにすんませんでした、これが私のライセンスです、罰金です、さあ持っていってください、と言うんじゃなくて、何も起こらないよう最大限の努力を前もって積み重ねるということなんだ」
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「これを踏まえて改めて言う。それでも何かが起こることはある。そしてそのときは、『私の責任です』とはっきりと手を挙げて認めるべきだと、私は思う」

「最後に、私が失敗を成功に変えられた話をするね、私も失敗してばかりじゃないんだよ(笑)。さて、私はNCAA Division Iのとあるチーム担当で、その年は新しいヘッドコーチが就任した。ATからしたらヘッドコーチが変わるってのはそれはそれは一大イベントなんだ…彼の好き嫌いや性格を把握するのは本当に大事でね、最初の一年なんかはお互い探り探りやるんだけど…その年は慎重にコミュニケーション取りながらゆーっくりと信頼関係を築いていたつもりだったんだ」

「そんなときにこんなことが起こった。とある怪我をした選手の経過が思わしくなくてね。シーズン中だったのでちょっと試合でのプレーを制限しながらリハビリ・治療を毎日していたんだけど、一週間半ほど経っても思ったような改善が見られないんだ。Division Iの奨学金を貰っている選手が、一週間半も試合でプレーできていないという状況は思わしいものじゃない。こっちも焦るよ」

「これが例えば選手がリハビリをすっぽかしています、というならそれは私はコーチに正直に伝えるんだけどね。でもこの場合はそうじゃなかった。この選手はとてもよくやっていて、毎日毎日全力でリハビリに取り組んでくれていた。私もエビデンスに基づいて最善のプログラムを積んでいたつもりだった。それでも、なかなか良くならなかったんだ」

「ここで、私の選択肢はいくつかある。患者の回復など、神でも何でもない私は到底コントロールできるものじゃない。『全力は尽くしてますが仕方ありません、こういう怪我、こういうケースなんです、諦めてください』ということもできるし、正直言いたくなるときだってある。でも私は自分のライセンスをかけて、患者を改善させるためにお金をもらっているわけだからね、言い訳するわけにもいかないと思った。正直、こっちだって泣きたいほど悔しいよ、これでも全力でやっていたんだからね。それで練習前にコーチに会いにいって、言ったんだ。『選手は毎日これ以上ないくらいの努力と態度で取り組んでくれています。彼女が改善しないのは私の責任です("I take full responsibility of the situation")。そこで提案です("But here's the new plan")。今までのリハビリはこういうことを重視していましたが、今日の練習後のセッションから方向を少し変え、こういったものに重きを置いていきたいと思います。今週金曜日までにここを目標にしようと思っています。何か質問などはありますでしょうか』と。そしたらコーチはにっこり笑って『わかった、ありがとう』というシンプルな返事をくれた。文句を言われると思っていたのに、あまりに短かったので拍子抜けでね、心の中ではね、『ああ、これで信頼が一気に崩れただろうな』と思った。覚悟はしたよ」

「でもね、そのあと向かった練習で、練習前にコーチがチームを集めてね。『僕はこのリーグで30年間コーチをしてきたから、優秀なATがチームにいてくれることがどれだけ重要で貴重か知っている。うちのチームのATは間違いなく世界一だ。さゆりの言うことを尊敬し、従っていれば健康面では僕たちは何の心配もない。さあ、今日も思いっきり練習をしよう』と言ってくれたんだ。これは予想だにしていなかったから、チームがハドルを組んでいる間、私は目を真ん丸にして立ち尽くしてしまったよ。まさかあの会話で評価を上げてくれるとは思わなかったから。それから彼とは数年一緒に仕事をしたのだけれど、これは本当にお互い本当に夢のようだった(あ、この選手も新しい方針のリハビリでぐんぐん改善してね、ほどなく競技復帰できたよ)。コーチが私の医療判断に疑問を呈することは一度もなかったし、大きな怪我もチームで一丸となって乗り越えた。ああいう素敵なコーチと最後に仕事できたのは本当に幸運だったよ」

「失敗は成功の基、というけれど、苦しい状況にどう行動するかでその人のプロとしての本質が問われるのだと思う。もし私があの日の会話に用意していた文章が"I take full responsibility of the situation"で終わって、それで一人悦に入ってプロとしての責任を取ったような気になっていたとしたら、コーチはそれこそ私に腹を立てたと思うし、我々の関係も終わっていたかもしれない。彼が最も評価してくれたのは、"but here's the new plan"―次のプランを用意していったことだったんじゃないかなと思うよ。言い訳をすることやあきらめることは責任を投げることと一緒だ。責任を取る、ということは自分ができることをどんな苦境でも見極めて、まだまだ!としつこくやり続けることだと思う。そんなことを思ったよ」


プロとしての責任を取ることはReactive(後手に回り、事後に行うもの)ではなくてProactive(予測し、先手を打ちに行く)な行為であり、そしてどんなに何かが上手くいかなくても、引き出し引っ繰り返して手持ちカード全部広げて「まだまだ!あれもこれもまだ使ってねー!」と手を変え品を変え挑戦し続けること。言葉にすればアタリマエですが、私はそういった哲学を教室で教わる機会がなく、自分で失敗を繰り返しながら(まだまだ他にもいっぱいありますよ、失敗談なんか)育てていったので、これを共有することでうちの学生がもっと早く大きく彼らなりの「プロ意識」を育てていってくれればと思います。Clinical Practiceを構成する要素は、意外にもこの知識・技術ではないプロとしての思考プロセスが占めることが多いと思うので…。

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  by supersy | 2016-09-25 13:30 | Athletic Training | Comments(0)

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