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ひとつのスポーツに特化する高校生アスリートは怪我をしやすい?: マルチスポーツのすゝめ。

アメリカの高校スポーツが面白いのは、シーズン制を採用しているところなんですよね。例えば9月から11月くらいまではアメリカンフットボールとバレーボール、11月から2月までがバスケットボールにサッカー、2月から5月までが野球にソフトボール…という感じで、終わりと始まりがはっきりと決まっているので、ひとりの選手が複数の競技に参加することが可能なのです。私が高校で働いていた頃も、運動神経のいい子はアメフトからバスケットボール、野球へと移行し、ついでに陸上も…、といったように、あちこちにひっぱりだこでなんでも活躍しちゃうマルチな子がたくさんいました。
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一方で、近年アメリカで問題になっているのが、高校のチームのみでなくクラブチームにも所属して、ひとつのスポーツに特化し一年中そのスポーツをプレーし続ける選手が増えていることです。これに関しては、IOC1やAMSSM2などの複数の団体がポジションステートメントを介して「若いうちは複数のスポーツをするほうが良い」と進言しているにも関わらず、それを無視する形で現状は悪化しているようです。3「プロになるには早いうちから専門性を高めなければ」と選手も親御さんも思うのでしょうけれども…、運動能力という意味でも、燃え尽き症候群を防ぐためにも、様々なスポーツを経験しておいたほうがいいのでは、と危惧する声が上がっています。
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もうひとつ、ATとして知っておきたいのが怪我のリスクです。ひとつのスポーツに特化したほうが怪我をしやすいのか、それとも複数するほうが怪我のリスクが高いのか?今回レビューするこの論文(↑)3では、1) どのくらいの高校生アスリートが「特化」しているか、 2) 「特化」するアスリートに、性別、学年、高校の生徒数など、特徴はあるのか、そして 3) 「特化」しているアスリートとマルチスポーツアスリートとで、下肢に起こる慢性傷害の頻度に差はあるか、を検証しています。

研究対象になったのはウィスコンシン州にあるふたつの高校で、ひとつは生徒数が2000を超えるジャイアント校、もうひとつは生徒数が600余りと規模の小さ目の学校。13-18歳のサッカー、バスケットボール、テニスとバレーボール選手302人を対象に、1) 特化かマルチ、自分のスポーツ歴をどのように評価するかと 2) 今までに下肢(股関節、大腿、膝、脹脛、足首、足部)に怪我をしたことがあるかをアスリートにアンケート形式で答えてもらい、結果を分析しました。

ここまでで私がうっかりがっかりした要素を上げておきますね。まずは、あらかじめスポーツの特化を調べてからそれぞれの選手を1シーズン追い、起こる怪我をその都度ATが研究者に報告するようなprospectiveの研究ではなく、後出しで「貴方のスポーツの特化具合はどうなの?あ、ちなみに今までどんな怪我をした?」という尋ねているタイプのretrospectiveな研究であるということ。Retrospectiveは選手の記憶が全てなので、例えば彼らがウソをついたり、わからなくて適当に答えたり、もしくは記憶違い (=recall bias) があればそれだけでデータがskewしてしまいます。
加えて、たったふたつの学校、それにスポーツもたった4競技というのはサンプルとしてどうなのでしょうか。あまりgeneralizabilityがないように思います(=この研究結果を「アメリカ在住の全高校生アスリート」という大きな対象に広げて解釈することはできません)。だってね、これだけサンプルに偏りがあると、コーチによる影響の比率が大きすぎるのではないかと思うんですよね。例えば、その高校のバレーボールコーチがクラブチームのコーチも兼ねていて、高校のチームに所属している子はクラブチームにも入るのが暗黙の了解になってしまっている場合なんか見たこともありますし、逆に高校のコーチが「勝手に変な癖をつけてほしくない」などの理由で、逆にクラブチームの参加に反対だとかという可能性もないことはないと思うんです。そんなコーチが一人でもいれば、かなりこの研究のデータも引っ張られてくるでしょうね。
それから、研究対象になった怪我が「慢性的な下肢傷害」に限定されている理由が明記されていないのが気になります。たぶん、高校スポーツで起きる怪我の半数以上が下肢の怪我だから、そして急性のコンタクトによる怪我はスポーツの特化性とあまり関りがないと判断したからなのでしょうが、それらを文献を引用して説明するのとしないのとではだいぶ印象が変わってきますね。
ここらへんは私は読みながら頭に「??」とクエスチョンマークが浮かぶあたりです。ここらを念頭に置きながら読み進めます。本題に戻ります。

で、結果なのですが。突っ込みどころはここでも多いんですけど、それをなるべく置いておいて、私が面白いと思った結果を中心にまとめますね。

● 規模の大きい高校のほうが、選手がスポーツに特化している傾向にある (↓下グラフ)。
これは理に適っているように感じますね。大きい学校のほうが人材が豊富にある分、それぞれの部活のニーズを満たすのに十分な選手数がそれぞれのチームで確保できる。ロスターに残る競争率も高い分、よりレベルが高くなければチームに所属すらできないということもあるでしょう。あとね、これは、組織の意識による影響も少なからずあるんじゃないかと思うんです。小さい高校ではコーチも複数のスポーツコーチを兼任にしていることも多く、「兼任」が当たり前という雰囲気がある一方で、大きな高校でコーチと環境がそれぞれのスポーツに「特化」していると、「あのーすみません、他のチームの練習があるんで抜けてもいいですかね?」とは選手は言い出しにくいですよね。大きい高校のほうが兼任が許されない雰囲気ができるかなと。
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ちなみにこのグラフの"High" "Moderate" "Low"というのは「どれだけ他のスポーツを排除し、一年を通じて特定のスポーツのトレーニングをしているか」の度合いを示したもので、「ひとつのスポーツに集中するために他のスポーツを辞めたことがあるか」「一年のうち8ヶ月以上をひとつのスポーツのトレーニングに費やしているか」「他のスポーツよりも『重要だ』と感じる特定のスポーツがあるか」という3つの項目に対する「Yes」の数を数えたものです。「Yes」が3つあれば「High Specialization」、2つなら「Moderate」、0-1なら「Low」という風に分類されます。
 
この3-point scaleが研究で使われたのには「スポーツの特化はyes/noの白黒ではなく、白が徐々に黒になるようなスペクトラム状のもののはずだ」という理念を著者らが持っているからなのですが(そしてそこは私も賛成です。例えば、普段はずっとバスケットボールばっかりやっていて、陸上部員として大会の日だけぶっつけ本番で競技に出る、みたいな選手がいた場合、この選手がシングルスポーツかマルチか、と言われれば所属上マルチと分類せざるを得ませんよね。でも、この選手は陸上競技に費やしているトレーニングは実質ゼロなので、事実上シングルに限りなく近いと思うんです。少なくとも、この選手が「陸上とバスケの練習、一日おきに交互に出ています」という選手と全く同じ「マルチ」組に分類されるようではあかんと思うのです。どのスポーツをどのくらいやっているか、もっと可視化して細かく分類する必要があります)、この論文中で述べられているように、3-point scaleによる「スポーツの特化度」の計測が正確で非常に有効である、と断定するのに十分な根拠は乏しいのではと私は感じます。なぜかというと、この計測法も結局選手の自己判断・自己報告に頼っているからです。集計が面倒くさくても、例えばもっと客観的に、各競技のトレーニングに費やしている時間を計測し、記録するべきなのでは?と私は考えます。それぞれの練習ボリュームをvariableにすべきではないかなと。…あ、また話が逸れてしまった。

"High Specialization"のカテゴリーに入った選手は、"Low"の選手らに比べ、膝関節の慢性傷害を経験している可能性が著しく高い(p = 0.048)。
これはなんでORが報告されていないんでしょう?個人的にはp値で言われてもちょっと…という感じ。

「一年のうち8ヶ月以上をひとつのスポーツのトレーニングに費やしているか」の項目に"Yes"と答えた選手は膝関節 (overall knee injury OR 2.32; 95% CI 1.22-4.44; p = 0.009, overuse knee injury OR 2.93; 95% CI 1.16-7.36; p = 0.018) と股関節 (OR 2.74; 95% CI 1.09-6.86; p = 0.026)の怪我の既往歴があることが多い。
なるほど。こうなると「そうか!やっぱりマルチスポーツしてるほうが怪我をしにくいんですね?」と言いたくなるところですが、correlationとcausationは異なる、ということはやっぱり指摘しておかなければなりません。これらの怪我がいつ起こったか分からない以上 (それこそ10年前の怪我だって数に入っちゃうわけですから)、シングルスポーツが怪我のリスクを上げるとは断定できません。もしかしたら、怪我をした選手が泣く泣くマルチを諦め、ひとつのスポーツを選択せざるを得なくなったという真逆の可能性だって考えられますもんね。因果関係をもっとはっきりさせたければ、やはり選手を予めシングル組・マルチ組に分類したあとで、1シーズンの怪我を現在進行形で追う、prospectiveタイプの研究をやらなければダメでしょう。

逆に非常に面白いなぁと思ったのは8ヶ月という数字ですかね。実は「ひとつのスポーツを一年のうち8ヶ月以上プレーすべきでない、年間を通じて休息時間を設けるべきだ」という提案は他の論文でもこれまでにいくつかされているんです。4-6 今回の研究もこれ(=8ヶ月)が結局のところ一番の怪我のpredictorということで、「8ヶ月」という時間軸がマジックナンバーである?という説を支持する結果になっています。こうなってくると本当に8ヶ月が適切なcutofffなのか、さらに検証する必要がありそうですね。例えばひとつのスポーツを6ヶ月やっている選手たち、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月…なとどグループ分けして怪我の頻度を追えば、どの期間が境界線として最も相応しいかデータ化が可能です。他にも「ユースの選手は自分の年齢以上の時間を一週間に練習に費やしてはいけない」なんていう提案も以前にされてましたけど(i.e. 15歳なら一週間練習も15時間以内)、5 これも併せてぜひ検証していただきたいものです。こうすることで怪我のリスクを下げられるのか、気になります。

色々書きましたが、この論文をまとめると「どうやらマルチスポーツをしたほうが怪我のリスクは総じて低そう?」ということは抜き出せるかと思います。この研究の質は決して高いものではないですが、マルチスポーツをすることに関する不利益は今のところなさそうですし…どちらがより安全?と聞かれたらマルチ、と答えたくなるのが私の脳内の現状です。早期特化派のママさんなんかからは「でもそんなに呑気に色々なスポーツに手を出していたら遅れを取ってしまう、うちの息子がスポーツ推薦もらっていい大学にいけなくなってしまうわ!」と言われそうですが、実はそれを否定するエビデンスはあるんですよ。NCAA Division Iの選手のほとんどは、実は高校を通じてひとつのスポーツに特化せず、マルチスポーツ選手として活躍している場合が多かった、7というのがね。もしかしたら「複数のスポーツをプレーできる環境」というのは、怪我のリスクを下げるだけでなく、燃え尽き症候群を防ぎ、しかも高い運動能力を兼ね備えられる、やはり優れたモデルなのかもしれない、という気がしてきますね。日本でもこういう機会、若い子が持てればいいのですが…。

1. Bergeron MF, Mountjoy M, Armstrong N, et al. International Olympic Committee consensus statement on youth athletic development. Br J Sports Med. 2015;49(13):843-851.
2. DiFiori JP, Benjamin HJ, Brenner JS, et al. Overuse injuries and burnout in youth sports: a position statement from the American Medical Society for Sports Medicine. Br J Sports Med. 2014;48(4):287-288.
3. Bell DR, Post EG, Trigsted SM, Hetzel S, McGuine TA, Brooks MA. Prevalence of sport specialization in high school athletics: a 1-year observational study. Am J Sports Med. 2016;44(6):1469-1474. doi: 10.1177/0363546516629943.
4. Brenner JS, American Academy of Pediatrics Council on Sports Medicine and Fitness. Overuse injuries, overtraining, and burnout in child and adlescent athletes. Pediatrics. 2007;119(6):1242-1245.
5. Jayanthi NA, LeBella CR, Fischer D, Pasulka J, Dugas LR. Sports specialized intensive training and the risk of injury in young athletes: a clinical case-control study. Am J Sports Med. 2015;43(4):794-801.
6. Valovich McLeod TC, Decoster LC, Loud KJ, et al. National athletic trainers' association position statement: prevention of pediatric overuse injuries. J Athl Train. 2011;46(2):206-220.
7. Post EG, Thein-Nissenbaum JM, Stiffler MR, et al. High school sport specialization patterns of current division I athletes [published online on November 2, 2016]. Sports Health. 2016;pii:1941738116675455.

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  by supersy | 2016-11-16 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

月刊トレーニングジャーナル12月号発売 &「脳震盪予防」最新エビデンスを考える。

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月刊トレーニング・ジャーナル12月号が発売になっています!12月かー…、もう師走近いんですね!
連載7回目の今回は「脳震盪シリーズ」の第二弾です。今回は脳震盪診断について、スポーツ医療の現場で働く医療従事者が知っていなければいけない基本中の基本から、最新のエビデンスに基づいた最先端の診断法まで幅広く言及しています。興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。

ついでといっては何ですが、MUSTER(マスター)というスポーツ関係の専門家が交互に執筆し合うウェブサイトで脳震盪に関する記事も書かせていただいたので、興味のある方はこちらもどうぞ。こちらの記事は選手、指導者や親御さんなど、一般の方に「脳震盪」についてもっと知っていただきたくて書いたものなので、このブログほど濃厚ではないというか、しつこくはありません(笑)。さっぱり味です。



別に脳震盪の記事を立て続けに書いていたからってわけじゃないのですが、最近こんな論文(↓)1を目にしたのでまとめておきます。脳震盪診断や治療に関しての進歩は日々目まぐるしいですが、脳震盪予防という分野は実はまだまだ未開の地なんですよねぇ。
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このSystematic Reviewでは条件を満たした15件の脳震盪予防に関するProspective論文をレビュー、うち、Meta-analysisに含まれたのは8件。Systematic reviewと呼ぶにはPubMedとEBSCOのデータベースしか使っていないというのは少しどーなのかと思いますけどね。あと、15件の論文の平均のPEDroが3.5っつーのは低いですね。猛烈に低いですね。まぁconcealとかしにくいかもしれない分野かなぁとは思いますけど。

15件の論文の内容に関する内訳は以下の通り。
 - 7件: ヘルメット・ヘッドギアの有効性
 - 8件: マウスガードの有効性
 - 1件: アメフトのタックル法指導プログラムの有効性

スポーツ別カテゴリー分けは、以下の通り。
 - 6件: ラグビー
 - 6件: アメリカンフットボール
 - 2件: アイスホッケー
 - 1件: バスケットボール
 - 1件: サイクリング

で、結論に飛んじゃいますと…
●ヘルメット・ヘッドギア・マウスガード・フェイスシールドの使用が脳震盪予防にもたらす効果
 RR = 0.82, 95% CI 0.56-1.20, p = 0.30
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統計的に有意な予防効果があった3つの論文だけ抜き出して掘り下げてみると…
 Collins et al 2006 (PEDro 3/10) - 実験組308人 vs コントロール組306人、
   アメリカンフットボール選手対象
   レボリューションヘルメットと一般的なヘルメットの比較
 Thompson et al 1996 (PEDro 3/10) - 実験組1718人 vs コントロール組1672人、
   サイクリング選手対象、ヘルメット有りと無しの比較
 Winters & DeMont 2014 (PEDro 3/10) - 実験組220人 vs コントロール組192人、
   アメリカンフットボール選手対象
   カスタムマウスガードと一般的なマウスガードの比較

Systematic reviewの結果(上グラフ)とMeta-analysisによる統計を見る限りでは、サイクリングという比較的特殊なノンコンタクトスポーツ以外は、ヘルメットやマウスガードは脳震盪予防に特筆するような効果は見られない、というのが結論ですかね。Point valueはともかく、95%CIの最大値が1を超えていますし、p値も>0.05です。

この分野で難しいのがブランドや種類の特定ですよね。何しろ選択肢が多いですから…。個々の研究結果のみを見てみると、マウスガードはカスタムのほうがそうでない商用のものより脳震盪予防効果が高いのではないか、そしてアメフト用ヘルメットは、Riddelのレボリューション型のほうが他のものより優れているのではないか、ということが言えそうです。レボリューションに関しては、もうひとつのRetrospective研究でも他のヘルメットより脳震盪予防効果が高いと報告されていたりもしますね (RR 0.46, 95% CI 0.28-0.76)。2 ヘルメットはね、もうどんどん新しいのが出ちゃうから研究が追い付いていない印象ですよ。最近だともっと柔らかい衝撃吸収型なんか出始めていて(↓)、硬いものよりこっちのほうが脳震盪予防にいいんじゃないか、なんて説もあり…。個人的にはこの柔らかタイプのヘルメットの予防効果が今一番気になるところなんですけどねぇ。これはさすがにまだ論文が出ていないなぁ。

あとね、これ、面白いのが単純に「ヘルメットやヘッドギアは総じて脳震盪予防に無効」というわけでなく、もしかしたら「ヘルメット・ヘッドギアをつける選手は、その安心感から、よりラフなプレーをするようになり、せっかくの予防効果も相殺される」という可能性が論文内でも言及されているところですね。ヘルメット無しの練習を敢えて取り入れるほうが、怪我をしにくくなる、なんて以前ブログにも少しだけ書きましたけど。個人的にはこの要因が非常に影響し得そうに思うので、Helmetless Tackling Trainingと特殊なヘルメットを併用したfactorial ANOVAとか見てみたいです。

●教育プログラムが脳震盪予防にもたらす効果
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 Kerr et al 2015 (PEDro 4/10) - 実験組人2108人 vs コントロール組704人、
   アメリカンフットボール選手対象
   Heads Up Football/Pop Warner教育プログラム有りと無しの比較

正しいタックル法や、練習時間の制限などのスポーツ指導者を対象にした教育プログラムの予防効果を検証したKerr氏らの研究から、(Heads Up Football/Pop Warnerによる)テクニック指導と練習時間に制限を設けることは、脳震盪予防に効果がありそうである(RR = 0.52, 95% CI 0.30-0.93)ということが言えますね。被験者の数も多く、PEDroも4/10と低いながら、今回の平均と比較するとまだ高いほうかもしれません。既存のプログラムなので、duplicateも簡単そうです。どうやら、「教育」はヘルメットやヘッドギアの使用よりはまだ効果が高そう…こうなると余計に、先ほど書いたように、教育と防具の併用で相乗効果があるのか、そこらへんを是非検証した論文を見てみたいです。

●ヘルメット・ヘッドギア・マウスガード・フェイスシールドの使用が頭部表面的損傷(lacerations, abrasions, contusions)予防にもたらす効果
 RR = 0.41, 95% CI 0.31-0.56, p < 0.0001
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これに関してはほぼ満場一致で効果ありとして良いでしょう。95% CI最大値も優秀です。先ほど脳震盪予防にはイマイチ決定打が欠ける、と言われていたこれらの防具ですが、頭皮からの出血や頭部(表面)の打撲などの軽度の損傷のリスクを半分近くにまで下げる効果があるようです。

そんなわけで全てをまとめると…
- 防具に関しては、(裂傷や打撲など)頭部表面の損傷の危険性を半分に減少させる効果はあるものの、総じて脳震盪予防効果は無し。レボリューションヘルメット、カスタムマウスガードはもしかしたら脳震盪予防効果あり?
- 指導者を対象にしたテクニックや練習時間に関する教育プログラムも脳震盪予防に一役を買うようであるが、これだけでは不十分でもある。
…という感じでしょうか。いやー、特に世界観がひっくりかえるような新しい結果っつーのは無かったですけど、面白いですね!研究の本質上、RCTってわけにはいかないと思うんで、もっと質の高いProspective studiesがこれからも増えてくれると嬉しいです。せめてPEDro平均値5か6くらいで!くどいですけど、ヘルメット無しの練習をした子たちがレボリューションやその他最新のヘルメットつけた場合の予防効果がめちゃめちゃ気になります。もう2年くらい待ってからまた戻ってきたいトピックです。

1. Schneider DK, Grandhi RK, Bansal P, Kuntz GE, Webster KE, Logan K, Barber Foss KD, Myer GD. Current state of concussion prevention strategies: a systematic review and meta-analysis of prospective, controlled studies [published online on June 1, 2016]. Br J Sports Med. 2016;pii: bjsports-2015-095645. doi: 10.1136/bjsports-2015-095645.
2. Rowson S, Duma SM, Greenwald RM, et al. Can helmet design reduce the risk of concussion in football [published online on January 31, 2014]? J Neurosurg. 2014;120(4):919-922. doi: 10.3171/2014.1.JNS13916.

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  by supersy | 2016-11-13 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

クリスマス(12/25)にEBP講習を東京で開催します!

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この告知ができるのを個人的に楽しみにしていました。この度、BOCに申請をしていた三つ目のEBP講習が正式に認定を受け、この12月にひとつの目標としていた「EBP基礎3コース」が開講できる運びとなりました!わーいわーい。今回追加されるのは、要望も多かった「予防医学」についてです。例えば、前十字靭帯断裂の予防エクササイズプログラム、なんてよく聞きますけど、実際にあれに参加することで、怪我がいったいどれだけ予防できるんでしょう?前半一時間半を使い、Odds Ratio (OR), Risk Ratio (RR), Number Needed to Treat (NNT)などというややこしい単語と統計とを学びながら「リスク」というコンセプトを紐解いていきます。さらに、後半では論文を読みながら脳震盪の有効な予防手段は?足首のテーピング・サポーターは本当に捻挫のリスクを減らせるの?怪我をしやすい選手を見極めるために実用的なスクリーニングやテストは存在するの?などなど、知識を応用しながら現場でも活かせる内容について議論し、考えていきます。

(追記ですが、このEBP講習の焦点は文献からいかに必要なエビデンスを抜き出し、理解するか、そしてその上でどう現場に活かしていくかの練習をするところにあります。診断編はシステマティックレビューやメタ分析論文を中心に『いかに英語を読まずに情報を抜き取るか』を、治療介入編はRCTを『読みながらいかに効率よく、単語を選んで情報を抜き出していくか』、そして予防編はその両方を混ぜながらスポーツ現場で活かせるトピックを読み解きます)

これで評価、治療、予防と医療の3本柱が立ちました…、感無量です。いつも手続きなど細やかな仕事をしてくださる高橋さんに改めて感謝です!ありがとうございます…。

それからそれから。これもずっとやりたいと思っていたことなんですけど、BOCの規則が緩やかになってついに実装できました!今回から、セット割引学生割引を開始します。3つのうち2コースを同日に受講する場合は10% off、3つ全てを同日受講する場合は15% offに。そして現役大学・専門学校生(国内外不問)の方は更に追加で10% off(つまり、2コース受講で20% off、3コース受講で25% off)いたします(申込後に学生証の提示が必要です、詳しくはリンク先の説明をお読みください)。学生さんにはより気軽に来てほしいと思っていたので、実現できてうれしいです。これも高橋さんのご協力に感謝です。

お申し込みはGuardians Athletic Training & Therapyのウェブサイト上のこちらから。

<講習日時>
2016年12月25日
9:30am-12:30pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
12:30pm-13:30pm 昼食(各自)
13:30pm-16:30pm エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
16:45pm-19:45pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで

…の、3部構成でお送りします。参加はお好きなコースひとつだけでも、2つでも3つ全てでも可能です(複数講習参加する場合は、お手数ですがリンク先から各イベントひとつずつお申し込みください)。以前と同じで、参加資格の指定は何もありません。学んだるでェ―という気持ちだけ持ってきてくだされば。ATCのクレデンシャルをお持ちの方には、各コースEBP CEUが3つきます。3つ全て受講すれば3 x 3 = 9 EBP CEUsです。

<会場> 連合会館 402会議室 東京都千代田区神田駿河台3-2-11
こちらもご要望にお応えして、今回は都心のアクセスしやすい会場をご用意しました。
 東京メトロ千代田線  新御茶ノ水駅 B3出口すぐ
 東京メトロ丸ノ内線  淡路町駅 B3出口すぐ(B3出口まで地下道徒歩5分)
 都営地下鉄新宿線  小川町駅 B3出口すぐ(B3出口まで地下道徒歩3分)
 JR中央線・総武線  御茶ノ水駅 聖橋口徒歩5分

<定員> 70名

<受講料> 
  一般 1コース 9,000円
     2コース 16,200円 (10% off - 1,800円引き)
     3コース 22,950円 (15% off - 4,050円引き)
  学生 1コース 8,100円 (10% off - 900円引き)
     2コース 14,400円 (20% off - 3,600円引き)
     3コース 20,250円 (25% off - 6,750円引き)

より多くの皆様にお会いできるのを楽しみにしております!セミナーの内容に関して質問があればここのコメントか私に直接ご連絡ください。会場、参加費など運営に関しての質問は高橋まで(tdtakahashi@guardiansatt.com)お願いいたします。

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  by supersy | 2016-10-23 06:30 | Athletic Training | Comments(0)

月刊トレーニングジャーナル11月号発売 & 半月板損傷に対するMulligan Concept "Squeeze" Techniqueアプローチ。

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月刊トレーニング・ジャーナル11月号が発売になっています!
連載6回目からは3回に渡って「脳震盪」というテーマで書かせてもらっています。一回目は脳震盪って結局なんなのさ?という基本的な背景から、最新のエビデンスから見るSIS・CTEの実態など、幅広いトピックをカバーしておりますので、興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。

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膝の半月板損傷がMRIや内視鏡などで認められた場合、よく取られる措置がpartial meniscectomy(部分切除)です。 これは、症状の軽減やOAの発症を防いだり遅らせたりする目的で行われる手術ですが、近年になって患者の機能回復があまり見られない、OAは結局早期に起こってしまう、そして半月板損傷再発も起こり得ることなどから、「meniscectomyに代わるもっといい手段はないものかしら」とクリニシャンの間で疑問の声が上がっています(以前に縫合vs切除のまとめも書いたことがありましたね)。今回は、そんな流れで面白かった記事(↓)1をひとつ。
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●治療適正検証
高校や大学でスポーツをしている『半月板損傷らしい症状を訴えてきた』患者5人(平均19.6 ± 3.2歳、男性4人、女性1人)を対象に、Mulligan Concept "Squeeze" Techniqueのみを用いて症状が回復するまで治療を続け、そのアウトカムを追ったというcase seriesです。
最初に引っかかるのが『半月板損傷らしい症状を訴えてきた』という表記ですが、これは文中に定義がしてあって、以下の項目のうち最低でも3つが当てはまる患者が対象になるそうな。
  1. Positive McMurray’s test
  2. Pain with terminal knee flexion
  3. Pain with terminal knee extension
  4. Joint line tenderness
  5. History of clicking and/or popping
こんなまだるっこしいことしてないで、MRI撮ればいいじゃん、と思うかもしれませんが、この組み合わせは実はMRIよりも正確だという研究が出ていたりも2するのです。まあClinical Prediction Ruleのようなものだと思っていただければ(それでも研究なんだから何かしらの画像診断を合わせてもいいのでは、と個人的には思いますが、コスト削減のためなのでしょうか?現場での実用性を意識しているのかな、確かにduplicateが簡単な基準ではあるけども)。加えて、Thessary Test (20°)かApley's Compression and Distraction Testの少なくともどちらかが陽性で、且つLachman Testが陰性の場合(ACL損傷も伴っていると、とたんに半月板損傷用のスペシャルテストの精度が落ちるため)、患者を「資格あり」と見做したそうな。ここらへんは過去のエビデンスとも合う、理にかなった良いチョイスだと思います。

●アウトカム
この研究では「回復の指針」として4つのPatient-reported outcomes (PRO)を追っています。
1. Patient Specific Functional Scale (PSFS): 患者自身が「怪我のせいでこれができない」と思う日常のアクティビティーを一つ選択。それについての制限の程度を 0-10で評価(0が「できない」、10が「全く制限がない」状態)するもの。 MDC=2.5 points、MCID=3.2 (“medium change”), and 4.3 points (“large change”)
2. Numeric Pain Rating Scale (NRS) score: 0-10で患者が自分で感じる痛みの程度を評価。MCID=2 points or 33%。
3. Disablement in the Physically Active (DPA) Scale: 16項目の質問を、1-5点で評価(1は問題なし、5はとても大きな問題がある)、その合計点から16を引いた0-64満点で採点。3 MCID=9 points (for an acute injury) and 6 points (for a chronic injury)。
4. Knee injury and Osteoarthritis Outcomes Score(KOOS): 質問項目数も43と多く、計算もカテゴリー別にかなりややこしいPRO。ざっくり解説すると痛み、症状、ADL、スポーツ、QOLの5カテゴリーに分かれていて、それぞれの平均値をパーセンテージで出すイメージ。MCID=8-10 points for each category。

これだけ見ると、ちょっとredundantというか、くどい印象。こんなにいっぱいPROを計る必要があったのかな、overlapも多いのでは?と個人的には考えてしまいます。Objectiveなアウトカムもひとつくらいは見たい…。

●治療
この研究に用いられたのはMulligan Concept "Squeeze" Techniqueのみ。患者の膝を90°屈曲させた状態で、最も圧痛が高いJoint lineの一点に親指を重ね、ぐぐっとsqueezeしてから(写真左)、患者に自動的に膝関節を最大伸展(写真中央)、それから最大屈曲へ(写真右)と持っていってもらうというもの(最大屈曲時には患者が自らの手を使ってまでぐぐぐと引っ張り上げます)。クリニシャンは、伸展時には軽く親指での圧を緩め、屈曲時により強く押すのがポイントです。
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患者はこれ以外の治療や特別なリハビリは、この研究では一切受けていないそうです。日常生活は普通にそのまま、そしてスポーツに関しては「できる範囲で」やり続けても良い、という指導のもと。ただ、肝心のこの治療をどれだけのdosageやったのかという記述はありません。いち治療あたり何セット?週に何回?基準がないと、我々がduplicateするのは難しいですね。

●結果
患者は平均5 ±1.73回の治療、時期にして14.2 ± 5.68日間という治療期間でdischargeにたどり着けたそうな。この数字からすると、2.84日毎に治療一回のペースですかね。ちなみにdischargeの基準はPSFSが10(アクティビティー制限全くなし)、NRSが≦1(痛みほとんどなし)、そしてDPAは<23なんだそうで。これらの数字の根拠も明記はされていません。特にDPAは…、34点が一般的にnormal, healthyとされることが多いのだけど、なぜそれよりも低い23なんでしょう?どこから来たのかな?
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この結果のテーブルを見ているとたしかに短期間で急激に回復したことが確認できますね。p value, Cohen's d共に力のある数字です。文句のつけどころも…あまりないけど、あえて言うならDPAの95%CI幅の広さでしょうか?MCID=9 points (for an acute injury) and 6 points (for a chronic injury)ということを考えれば、最小値が4.96というのは唯一いちゃもんをつけようと思えばつけられる数値ですね。でも他のものは最小値もMCID超えてきているので、なかなかあっぱれです。

考察では、5人中2人が治療一回目が終わった時点で、NWBからWBができるまでに回復し、治療3回目を終える頃には機能が最大まで回復した、と書かれています。期間としては一週間ほどですね。手術よりもステロイド注射よりも即効性のある高い効果に、「これは手術の前にまず最初の手段として試してみたい」と考えたくなりますね。そんなにめちゃめちゃ難しい、複雑なテクニックというわけでもありませんし…。

もちろんこれはcase seriesですし、解釈は気を付けなければなりません。著者らが自分に都合のいい症例のみを取り上げて書いた可能性もあります。あとは、MRIや内視鏡で診断を確認したわけではないので、たまたまこの5人が実は半月板を損傷していなくて、どっちにしてもあっという間に回復するんだった、なんていう場合もね。次はこのテクニックを、最低でもMRIで確認の取れた半月板損傷患者を被験者に絞って、RCTで検証してみて欲しいものですね。MC "Squeeze" GroupとPartial Meniscectomy Groupでの比較とか。アウトカムにはROM、それから50mのスプリントタイムとかT test、vertical jumpとかのperformance measureを入れてみるっていうのもどうでしょう。long term follow upも知りたいですね。一年後、二年後の状態の差とか。うわ、そんな研究、めっちゃ需要がありそうじゃないですか。どなたかぜひ、やってみてくださいー。

1. Hudson R, Richmond A, Sanchez B, et al. An alternative approach to the treatment of meniscal pathologies: a case series analysis of the mulligan concept "squeeze" technique. Int J Sports Phys Ther. 2016;11(4):564-574.
2. Lowery D, Farley T, Wing D, et al. A clinical composite score accurately detects meniscal pathology. Arthroscopy. 2006;22(11):1174-1179.
3. Vela LI, Denegar C. Transient disablement in the physically active with musculoskeletal injuries, part I: a descriptive model. J Athl Train. 2010;45(6):615-629. doi: 10.4085/1062-6050-45.6.615.

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  by supersy | 2016-10-11 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

プロとしての責任を果たす。責任を負う。

アメリカでBOC試験に合格し、Certified/Licensed Athletic Trainerとして働く…というのは若かった頃の私自身も含め、たくさんの人の「夢」であると思うのですが、それは決して華々しいことばかりではありません。医療ライセンスを手にするということは、それを持って下した医療判断の結果が良かった場合も悪かった場合も、全ての責任が自分に返ってくる、ということでもあります。判断ミスをして患者を危険に晒すようなことはあってはなりませんし、深刻な場合はライセンスを剥奪され、二度とこの国でATとして働けなくなることも当然ありえます。

「プロとして働くに足る十分な知識や技術を有している」ことと、「プロとしての責任を常に意識した思考方法を熟知し、自分自身の見せ方を知っている」ということは、ふたつの異なる次元の出来事である、と私は考えます。しかし、プロとしての「責任」を意識しながら働く、というのはなかなかどうして、もはや現場に出ていない身としては学生に教えにくい議題です。女子バスケでバリバリと働いていたころは学生に私がどういう意図をもって選手やコーチとコミュニケーションを行っているか、という「文化」や「哲学」を日常的に共有することができましたが、現在の私の肩書はフルタイムの臨床教授。各授業には「この授業で教えなければいけないこと」の長い項目リストが存在し、「プロとしての心構え」に言及できる頻度にも限界があって「文化」として確立しきれないもどかしさが何となく自分の中に残っています。しかし、それでも、これを教えないわけにはいきません。

「責任を取ります("I take full responsibility")というのは簡単だけど」3年生の診断の授業でも強調します、「どう責任を取るの?結局被害を被るのは患者さんの手に肩に肘に膝に足首でしょ?君はそれらと残りの人生を共にしないんでしょ?じゃあ責任を取るってどういうことなの?」

「じゃあすみあせん、ライセンス返します、と言う?罰金を払う?確かに法的には正しい責任の取り方で、それらは君の人生に大いに影響を与えることかもしれないけど、患者さんからしたら『だからなに?』かも知れないよね。残ってしまった障害には何の影響も与えないもの」
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「これは私の個人的な考えも多く含むので、もしかしたら全員が全員賛同するわけじゃないとも思うんだけど」と前置きして(ここらへんは本当、各プロの哲学というのがあると思うので)、「私は責任を取るということは、先回りして『悪い可能性』を考えられて、それを予め潰す行為のことを言うんじゃないかと思ってる。ついでにいうと、こういった行為はごくごく小さくて、ほとんどの場合そんなに目立たないものだとも思う。例えば、バスケットボールの練習中に水休憩が入り、選手が水を飲んでいるとしよう。君の目の前の選手が少し水をこぼして、コートを濡らした。君はごく自然にタオルを手に取り、その水をきれいに拭き取るかもしれない。なぜ?その水滴が君とって『怪我の危険因子』だったからでしょう?そんなに深く考えずとも、君はATとして練習現場を少しでも安全な環境にする責任がある、と理解していて、床を拭くというごくごく単純な行為でその責任を果たしたんだ。能力的には誰にでもできることかもしれないけど、そういう考え方を持っていない人にはできない行為でもある。これを『プロと呼ぶにふさわしい行為』以外に何と呼ぶ?」

●Know Your "Scope of Practice"
「私が若いころにした失敗の話をするね。まだGAだった頃にね、私はとある高校で唯一のATとして働いていたわけだけど、肩関節唇後方断裂疑いが濃厚だった選手に『これはMRIが要るから、お医者さんのところへ行こうね』と言ったことがある。数日してその選手と親御さんが怒って帰ってきてね、『医者がMRIを撮ってくれなかった』というんだ。話を聞くと、医者は肩関節唇断裂ではないと判断し、『2-3週間して良くならなかったらまた来てください』と言ったという。頼んでも、MRIは『現段階では要らないでしょう』と撮ってくれなかったと。医師のほうへ電話を入れてみると、医者も怒っていて『困るんだよね、君が余計なことを言うから』と言うんだ。ここで私が犯したミスはなんだろう?」
「ATは画像診断をオーダーできないので…さゆりが言ったことはATが法的に責任を取れる範疇を超えていた("beyond the scope of practice")?」と答える学生。「その通り!画像診断無しで診断できるところまでするのがATの仕事であり、どの画像診断が適切で、どれを実際に行ってということを決められるのは医師だ。後日談で結局2週間待っても良くならなかったこの患者が最終的にMRIを撮ったところ肩関節唇断裂が確認されて、その後手術をしたことは私の個人的なエゴのために追記しておきたいけど(笑)、この話で重要なのはそこじゃない。私の判断が正しかったことは問題じゃないんだ。ここで責められるべきは、私が法的責任を取りきれないことを軽々しく言ったこと。私が医者がすべき判断を勝手にしようとして、お医者さんの爪先を踏んづけてしまったこと。プロにあるまじき行為だ。はっきりと私が悪い。じゃあ、どういう風に伝えればよかったんだろう?」
「うーん、とにかく医者に診てもらおうと、それだけ言うとか?MRIのことは全く言わないで…」
「それもひとつの手だね。思っていることを全てそのまんま患者さんに言わなくてもいい。敢えてぼかす、というのは非常に大変なコミュニケーションのテクニックだ。でも、あまりに情報を制限してしまうと、逆に患者さんの不安が小さくなることもないかな、と思ったりもするんだよね。私がよくするのは、『伝えられる範囲でウソ無くなるべくしっかりと伝える』ことで『こういう理由で、こういう怪我の可能性が否定しきれない。まずは、これじゃないということをしっかりと確認する必要があると思うんだ(=発見の共有と説明、比較的深刻な怪我の可能性を排除する重要性を伝える)』『だから、お医者さんに診てもらおう(=次のプランの提示)』『この怪我をしているかどうか確認するのによく撮られる画像診断はMRIだけど、とりあえず骨の状態を見てみよう、と思ったら安くて早いレントゲンをまず撮っちゃうこともあるし、もしかしたら画像は一切必要ないかもしれない。まずはお医者さんの判断を仰いで、何がベストか決めよう(=いくつかの可能性があることを示唆。最終的決定権は医師にあることを明示するが、患者に精神的に準備をしてもらい、質問などを用意しやすくする)』…とかね」

「私は幸運なことに、その後私の判断を100%信頼してくれるチームドクターと仕事をさせてもらったことが何度かある。私が『これまじMRI要るっす』と直接連絡を入れると『よっしゃ、患者いますぐこっち送ってこい、撮ったる』と言ってくれるような人とね。でもそれはその医師らが我々の知識と、状況の切迫性を理解してくれる本当に例外的な方々だったからで、普通の医師なら「まずオフィスに送ってください、こちらで診察・判断します」というのが当たり前だ。彼らも彼らのライセンスをかけて日々仕事しているんだから、それはこちらも尊重しなければいけない。『例外的な幸運』を期待してはダメだ。立場をわきまえて仕事をする、自分ひとりでできないことを軽々しく口にしない…という当たり前のことを、若いころの私はできなかったんだよ。皆は私の失敗から学んで、他人の土俵で武器を振り回すような真似をしない医療従事者になってほしいな」

●Share Prognosis, What to Expect/NOT to Expect
「君たちは賢い子たちだ、医療の知識がある。患者の99%は、君たちのようではない。それをはっきりと自覚したほうがいい」
「例えば、急性の膝半月板損傷疑いが濃厚な患者を(診断を終えて)家に帰すとしよう。今のところ受傷から一時間、目立つ腫れは無い。私が何を考えているかというとね、今はそうでなくても、今夜この子の膝が寝ている間に腫れて、朝に気が付いて、ギャー膝ぱんぱん!パニック!なんてことがあるかもなぁと思っているんだ。目に浮かぶんだよね、そういう光景が。予想できちゃうから、こう伝えるよ。『半月板損傷があった場合に、腫れが遅れて出るってことが結構あってね。なるべく最小限に抑えるために、今夜はこういうことをして寝てほしいんだけど(=elevation, compressionなど)、それでも明日の朝起きて腫れてた!ってなってもあんまりびっくりしないでほしいんだ。あ、さゆりが言ってた腫れってこれか、って思ってくれれば。そういうのは珍しいことじゃないからね。でもあんまり腫れてて心配だったら、確認のためにこんななんだけどって写メ撮って送ってくれてもいいよ、明日の朝』という風にね。一時的な症状の悪化が既に予測できてるんだったら、先に伝えちゃおうよ。まあそれは普通の範囲内だよって教えよう。患者さんの不安も、いたずらに大きくならなくて済む」
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「脳震盪なんかだと、睡眠障害もこれにあたる。異様に眠くなっちゃう(過眠症)場合ならともかく、逆(不眠症)ということもある。眠りたいのに眠れないというのは本当にしんどいんだよね。『眠れぬ夜』を過ごしたことある子はよくわかるんじゃないかな?睡眠の質というのは患者さんのHRQOLには多大な影響を与えるんじゃないかと私は予測する。だからこれも家に帰す前に伝えちゃおう。『今夜、なかなか寝付けなかったり、眠りが浅かったりすることがあるかもしれない。これも脳震盪の場合はよくあることでね。思うように寝られなかったら不安になったりするかもしれないけど、そういうときはイライラせず、とりあえず目をつぶって、ゆっくり呼吸して、横になるだけでいい。その状態でも体はちゃんと休めているからね。無理に寝なきゃ寝なきゃと思わなくていいよ。できる範囲で休もう』と。…あとはね、『これが起こったら異常であり、急変なので、救急(ER)行かないとダメっす』という、いわゆる医療的なレッドフラッグってあるよね?それもはっきり伝えよう。脳震盪なら、どんなのがある?」
「意識レベルの低下、激しいもしくは悪化する頭痛、一度じゃなく、繰り返される嘔吐…」
「そうだね、その場合は硬膜下・外血腫などの疑いが強まる。これは『これも脳震盪だったら普通なのかな?明日さゆりに会うまで待ってみよう』と悠長に構えてほしくない、緊急を要する事態だ。すぐに行動を起こさなきゃいけない。赤は赤とはっきり伝えよう。何が『普通』で何が『普通の範囲を超えている』のか、明確にコミュニケーションする必要があるね。これもしっかりとしたプロとしての責任だ」

●Set Up the Next Appointment Before Letting Them Go
「本当に軽いものだったら『良くならなかったらまた来て("F/U PRN" = follow up as needed)』でいいときもあるけど、特にATの仕事環境でこういう指示を出すのは非常に稀だと思う。やっぱり多くの怪我は要経過観察だよね。私だったら99%の確率で何もしなくても良くなると確信が持てる場合(i.e. 筋肉痛や軽度の打撲)には『気になったらまた来て』というけど、そうじゃなければ他の言い方をするよ。さて、目の前にちょっと気になる肘の違和感を訴えるジョン君がいる。今のところ大したことなさそうだけど、これから経過を観察していきたい場合、何を言えばいいだろう」
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「『気になったら』じゃなくて…『また来て』?」
「そうだね、また絶対来てほしい。またってでも、いつ?」
「『また明日来て』?」
「おっ、いいね、『明日』!ちょっと限定的になったね。じゃあちょっと想像してほしい。ジョン君に『また明日来て』と言った翌日、私はジョン君を一度も見かけなかった。それから数日、私も忙しくてバタバタしていてすっかりジョン君のことを忘れてしまって、あれ、そういえば良くなってるってことなのかな、なんて思っていた2週間後、徐々に肘の痛みが悪化していたジョン君はついにUCLを断裂してしまいました。責められるべきは、誰だ?誰の『責任』だい?」
「ジョン君でしょ?」
「ジョン君に『どうしてもっと早く来なかったの』と聞いてみたら『次の日会いに行ったけどさゆりいなかったもん』と答えました。聞いてみたら私がたまたまスタッフミーティングをしていた時間だったようで、すれ違ってしまったようです。さあ、誰の『責任』?」
「それでも…ジョン君…だと思うけど…」
「これが裁判沙汰になったら向こうはそうは言ってくれないよ。私がジョン君に出した指示は『また明日来て』が全てで、彼はその責任を果たした。この場合、曖昧な指示を出した私が悪い。要経過観察患者と分かっていながら観察義務を怠ったのだから、私が責任を取らなきゃいけないだろうな」
「えー?肘の悪化を感じていたのはジョン君なのに?」
「そうだよ、私の曖昧な指示が全てだ。『また明日来て』ではただの口約束。もっとちゃんとしたアポイントメントを作ればこんなことにはならなかったかもしれないね。例えば、『明日、授業何時にある?』と彼の予定を聞いて、『じゃあ明日の朝9時にここで再評価をしよう。約束ね。あ、今のうちに、自分の携帯のカレンダーに入れちゃってよ。私もそうするから』と、正式な『約束』を取り付けることができたはずだ。そうすればすれ違うこともなかっただろうし、万が一彼がその時間にこなかったらそれはアポイントメントをすっぽかした彼の責任であることは明確だ。もっとも、そうなるためには私がもうひとつだけ何かをする必要があるけれど。…何かわかる?」
「書類に残しておくこと(document it)?」
「大当たり!いつもいうけど、書かれていないことは存在しないのと一緒だからね("if you don't document it, it didn't happen")。SOAP noteの最後、プランのところに、こう書くよ」

"Pt. was instructed to F/U w/ AT @9am Sept 26, 2016 at Island Hall AT Center."

「これで場所も時間も明確だ。ボールは彼のコートにある。もし次の日彼が来なかったらNS (= no show、すっぽかし)もしっかり記録しておかないとね。 私はここに座って彼を待っていたんだから。法的責任の所在云々ももちろんそうなんだけど、大事なのはミスコミュニケ―ションを起こすような要素を先回りして取り除いておくことなんだよ。ジョン君に目の前でカレンダー入力してもらったのもそのためだ。どんな相手でも間違えようがない明確さで我々は仕事をする責任がある。『また明日』ではその責任を果たせているとはいえないんだ。『明日の練習前に来るから』なんてよく聞くフレーズではあるけれど、私はその曖昧さが嫌だな。『練習前っていつ?じゃあ10時半に来られる?』と具体的な時間を聞くよ。だって練習開始5分前に来られたって何もできないからね」

●「この責任は、私にあります」と言えますか
「最初の話に戻るけど、私はこういう日々の小さい行為の積み重ねが『プロとしての責任を取る』ことだと思っている。何かあったときにすんませんでした、これが私のライセンスです、罰金です、さあ持っていってください、と言うんじゃなくて、何も起こらないよう最大限の努力を前もって積み重ねるということなんだ」
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「これを踏まえて改めて言う。それでも何かが起こることはある。そしてそのときは、『私の責任です』とはっきりと手を挙げて認めるべきだと、私は思う」

「最後に、私が失敗を成功に変えられた話をするね、私も失敗してばかりじゃないんだよ(笑)。さて、私はNCAA Division Iのとあるチーム担当で、その年は新しいヘッドコーチが就任した。ATからしたらヘッドコーチが変わるってのはそれはそれは一大イベントなんだ…彼の好き嫌いや性格を把握するのは本当に大事でね、最初の一年なんかはお互い探り探りやるんだけど…その年は慎重にコミュニケーション取りながらゆーっくりと信頼関係を築いていたつもりだったんだ」

「そんなときにこんなことが起こった。とある怪我をした選手の経過が思わしくなくてね。シーズン中だったのでちょっと試合でのプレーを制限しながらリハビリ・治療を毎日していたんだけど、一週間半ほど経っても思ったような改善が見られないんだ。Division Iの奨学金を貰っている選手が、一週間半も試合でプレーできていないという状況は思わしいものじゃない。こっちも焦るよ」

「これが例えば選手がリハビリをすっぽかしています、というならそれは私はコーチに正直に伝えるんだけどね。でもこの場合はそうじゃなかった。この選手はとてもよくやっていて、毎日毎日全力でリハビリに取り組んでくれていた。私もエビデンスに基づいて最善のプログラムを積んでいたつもりだった。それでも、なかなか良くならなかったんだ」

「ここで、私の選択肢はいくつかある。患者の回復など、神でも何でもない私は到底コントロールできるものじゃない。『全力は尽くしてますが仕方ありません、こういう怪我、こういうケースなんです、諦めてください』ということもできるし、正直言いたくなるときだってある。でも私は自分のライセンスをかけて、患者を改善させるためにお金をもらっているわけだからね、言い訳するわけにもいかないと思った。正直、こっちだって泣きたいほど悔しいよ、これでも全力でやっていたんだからね。それで練習前にコーチに会いにいって、言ったんだ。『選手は毎日これ以上ないくらいの努力と態度で取り組んでくれています。彼女が改善しないのは私の責任です("I take full responsibility of the situation")。そこで提案です("But here's the new plan")。今までのリハビリはこういうことを重視していましたが、今日の練習後のセッションから方向を少し変え、こういったものに重きを置いていきたいと思います。今週金曜日までにここを目標にしようと思っています。何か質問などはありますでしょうか』と。そしたらコーチはにっこり笑って『わかった、ありがとう』というシンプルな返事をくれた。文句を言われると思っていたのに、あまりに短かったので拍子抜けでね、心の中ではね、『ああ、これで信頼が一気に崩れただろうな』と思った。覚悟はしたよ」

「でもね、そのあと向かった練習で、練習前にコーチがチームを集めてね。『僕はこのリーグで30年間コーチをしてきたから、優秀なATがチームにいてくれることがどれだけ重要で貴重か知っている。うちのチームのATは間違いなく世界一だ。さゆりの言うことを尊敬し、従っていれば健康面では僕たちは何の心配もない。さあ、今日も思いっきり練習をしよう』と言ってくれたんだ。これは予想だにしていなかったから、チームがハドルを組んでいる間、私は目を真ん丸にして立ち尽くしてしまったよ。まさかあの会話で評価を上げてくれるとは思わなかったから。それから彼とは数年一緒に仕事をしたのだけれど、これは本当にお互い本当に夢のようだった(あ、この選手も新しい方針のリハビリでぐんぐん改善してね、ほどなく競技復帰できたよ)。コーチが私の医療判断に疑問を呈することは一度もなかったし、大きな怪我もチームで一丸となって乗り越えた。ああいう素敵なコーチと最後に仕事できたのは本当に幸運だったよ」

「失敗は成功の基、というけれど、苦しい状況にどう行動するかでその人のプロとしての本質が問われるのだと思う。もし私があの日の会話に用意していた文章が"I take full responsibility of the situation"で終わって、それで一人悦に入ってプロとしての責任を取ったような気になっていたとしたら、コーチはそれこそ私に腹を立てたと思うし、我々の関係も終わっていたかもしれない。彼が最も評価してくれたのは、"but here's the new plan"―次のプランを用意していったことだったんじゃないかなと思うよ。言い訳をすることやあきらめることは責任を投げることと一緒だ。責任を取る、ということは自分ができることをどんな苦境でも見極めて、まだまだ!としつこくやり続けることだと思う。そんなことを思ったよ」


プロとしての責任を取ることはReactive(後手に回り、事後に行うもの)ではなくてProactive(予測し、先手を打ちに行く)な行為であり、そしてどんなに何かが上手くいかなくても、引き出し引っ繰り返して手持ちカード全部広げて「まだまだ!あれもこれもまだ使ってねー!」と手を変え品を変え挑戦し続けること。言葉にすればアタリマエですが、私はそういった哲学を教室で教わる機会がなく、自分で失敗を繰り返しながら(まだまだ他にもいっぱいありますよ、失敗談なんか)育てていったので、これを共有することでうちの学生がもっと早く大きく彼らなりの「プロ意識」を育てていってくれればと思います。Clinical Practiceを構成する要素は、意外にもこの知識・技術ではないプロとしての思考プロセスが占めることが多いと思うので…。

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  by supersy | 2016-09-25 13:30 | Athletic Training | Comments(0)

脳震盪の鑑別診断。

今週はふたつの異なる授業で「脳震盪の診断」について話す機会がありました。ひとつはAT学生3年生の上肢評価の授業(頭部外傷の章)で、もうひとつはAT学生4年生の一般医療の授業(神経疾患の章)で、です。異なるレベルの学生が相手でしたが、脳震盪の基礎知識を共有したあとでこんな質問をぶつけてみました。
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「脳震盪で起こり得る諸症状、挙げてみて?」

意識障害、記憶障害、睡眠障害、人格障害、視覚障害、頭痛、眩暈やふらつき、吐き気、光や騒音に対する過敏性、耳鳴り、集中力や反応時間の低下、倦怠感、混乱、イライラ、落ち着きがない、理由もなく悲しい…さすがにこの辺りは生徒を指していくと次々と出ます。これらを全てボードに書き上げます。
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「脳震盪とヒトクチに言っても症状は実に多岐に渡るよね。それじゃあ、この中でも特によく見られるものって何か知ってる?」

色々と推測を飛ばす学生。「頭痛?」と言う子がいたので、「大当たり!頭痛は脳震盪の9割超…数字にすると93%だったかな、94%くらいだったかな、それくらいのほとんどの場合に見られるという統計が出てる。1 これが第一位。じゃー第二位は?」
「吐き気?」という声が聞こえるも「これは思ったより少なくてね、3割くらいと言われてる。二位は実は…」「眩暈?」「その通り!眩暈とかふらつきなんだよね、これは全体の75%くらいかな。それでね、3位が集中力の低下。これは60%いかないくらいだったと思うよ1

「じゃあ記憶障害とか、意識障害は?どのくらいの頻度で見られるものだと思う?」

あんまりないと思う、と答える学生たち。「そうなんだよね、脳震盪といえば『ココハドコワタシハダレ』みたいな印象がある一般の人って少なくないんだけどさ、健忘症(Amnesia)は全体の25%以下くらいにしか見られないと言われていて、それから意識消失(LOC)に至っては10%以下…5%以下という統計もあるね。1 まあ、意識消失も例えば5秒以下とかの極短期のものだったらそもそも我々ですら確認が取れない可能性が高いわな。駆けつける頃にはもう意識取り戻してるかもしれないから。あんまりこればっかりに頼るのもよくないけど、脳震盪の諸症状の中でもどれがより一般的で、どれが珍しめなのかは何となく知っておくといいよ」

「じゃあ、ちょっと違う視点からこれを見てみよう。これらの症状を引き起こすような、脳震盪以外の障害や病気…つまり、鑑別診断(DDx)には何があるかな?」

うーん?と首を捻る学生たち。

「言い方を変えるね。『頭が痛い』『眩暈がする』…ここに書き上げたような主訴で来た患者さんに、君たちは他にどんな可能性を考える?脳震盪じゃないとしたら?」

ここは面白いくらい学年差が出ました。3年生は頑張って「労作性熱中症・熱疲労、脱水症、低血糖症、脳卒中、硬膜外・下血腫、頭蓋・顔面骨折、睡眠不足や不規則な生活による過労、一般的な風邪 (URI)、偏頭痛、軽度の頭部打撲」くらいでしたが、4年生はこれに加えて「アブサンス発作やfocal seizureなども含む広い意味でのseizure、内耳炎などの耳の障害、糖尿病合併症、カフェインの過剰摂取/離脱症、ドラッグやアルコール乱用/離脱症、鬱・パニック障害や過呼吸などの精神疾患、貧血などによる慢性疲労、労作性低ナトリウム血症」なんかも出てきます。なかなか厚みのある、いいリストです。これも全部「脳震盪の諸症状」の横に書き上げます。

「うわー、いっぱい挙がったね。じゃあ、患者さんが『頭が痛いです』『なんだかだるくてしんどいです』とやってきました。これだけの可能性があります。どうやって絞る?問診するなら、何を聞きたい?○○を除外するために△△と聞きたいです、ってな感じで教えてよ」

これにも色々な回答が飛び交います。「えーと、脱水とか不規則な食生活をしてないか見るために、『今日のお昼ご飯食べた』とか?」という学生いるので、「そうだね、でも決して適切な食事でなくても本人がそれすら認識できてなければ『一応腹に何かは入れた』ってことで『うん』と答えられてしまう場合があるし、単純に食べてなくても怒られたくなくて『うん』とウソをつく可能性もないわけじゃない。もうちょっと別の、もう少し工夫した聞き方ないかしら?こう、もっともっと答えを引き出すような?」と尋ねると「『お昼ご飯に何を食べた、飲んだ?』ですか?」という学生。「そうだね、質問をopen-endedにして、具体的なメニューを言わせた方がいいよね。お昼ご飯だけじゃなくて、今日の食事を朝から全部言ってもらったっていい。ついでにカフェインの摂取についても聞けるし、これで健忘症の検査も同時にできちゃうね(笑)。しかし、脱水についてはもうちょっと聞きたいな…水分をどれだけ取ったか以外に、体の脱水状態を見られるような指針になるものあるかな?」「尿の色?」
b0112009_13203058.png「おおいいね!私だったら『最後にトイレに行ったのいつ?そのとき尿の色はどんなだった?』と聞きたいね。トイレに行ったのが2時間以内だとなお良い。ちなみに、どんな色が適切なんだっけ?」学生は揃って「clear」と声を上げますが「clearじゃ選手はイメージしにくいかもしれないな、透明ってこと?水みたいな?」とさらにつっこむと、「そうじゃなくてー、ちょっと黄色くてー」というふわふわした返事。「選手でもわかりやすい例えを使ってくれると助かるな。選手は君たちのようにこの尿のカラーチャートを記憶してるわけじゃないからさ。同じ色をイメージしてることを確認したいじゃない。例えば、レモネード色はどう?」「レモネード色はOK!」「だね、ピンクレモネードじゃない限りはね。じゃあアップルジュール色は?」「それはダメ!」「脱水状態だね。茶色でどす黒かったりなんかだったりしたらもっとダメだ、そんなんだったら横紋筋融解症かもしらん。こういう風に、選手が反応しやすい言葉を選んで質問するのもテクニックのひとつだね」

「偏頭痛とか糖尿病合併症かどうかの可能性を探るのには何を聞く?」「既往歴を聞けば…既に診断された病歴や、以前に同じような経験をしたことがあるかどうかとか…」「そうそう、ここは深く考えず聞いちゃえばいい。とくに偏頭痛なんか、『偏頭痛持ちなの?普段の頭痛と比べてどう?』ってね」「外傷(trauma)かそうでないか(nontraumatic)を判断するのに、MOIというか…どう症状が始まったかも聞く必要がありますよね?」「もちろん!このとき、『頭をぶつけなかった?』と質問するのはどうかな、良い?悪い?」「頭部をぶつけなくても脳震盪が起こることを考えればいいとは言えないのかと…」「そうだね、別にこう聞いても悪くないけど、『いいえ』と返答されたときに、『それじゃあ首や肩、胸や腰にタックルを受けたり?』と他の部位にも質問を広げる必要もあるね。あとはね、本当に脳震盪だったらどう始まったなんて覚えてない可能性もあるよね?珍しいとはいえ、健忘症があったらさ?『よくわからない、覚えてない…』と言われる覚悟も持っておくようにね。高校アメフト選手に呆れたように、『さゆり…タックルなんて毎プレー受けてるからそんなの分からないよ』と言われたこともあったな。この手の質問は答えがYesなら外傷疑いが強まるけど、No/I don't knowだからといって除外はできないことを肝に銘じておいてね」

「あとは脳震盪よりももっと深刻なものもまず除外しなきゃいけないね。この中で命に関わり得る外傷は?」「脳卒中、硬膜下・外血腫と頭蓋・顔面骨折」「正解!脳卒中も年齢を考えればゼロじゃない、若年層の脳卒中の原因一位は頭部外傷による二次的なものだから。脳卒中だったら、どんな症状が他に見られる?」「顔がdroopしたり、しゃべりがもたついたり、片腕が下がってきたり(バレー徴候)…」「そうだね、そこらへんは検査方法を君たちはもう知っているね。硬膜下・外血腫の話も前回した…これらは症状の出方に特徴があるんだったよね。前者は静脈からの出血で下手すると数日・数週間かけてじわじわ悪化、後者は動脈からの出血でより進行が早く、lucid intervalを挟んで一気に悪化。CNテストも異常が見られる可能性が高い。そいじゃあ、頭蓋や顔面の骨折は?何か見つけられるようなサインなんかある?」「触診による圧痛や、crepitusが確認できるかも…」「そうだね、あと、見てわかるサインなんかは?」「Battle's signにRaccoon Eye」「いいねいいね!あと何かが漏れちゃったりとか?」「Halo sign!」「そのとおり!ということはどういうことかわかる?君たちが積極的に耳や耳の裏、鼻なんかを見にいく必要があるってことだよ。Halo signが天から降ってくるのを待ってちゃダメだ、見に行くのは君たちだからね、能動的にね!」
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こんな風に鑑別診断のひとつひとつの可能性のつぶし方を話し合い、検討し、その上で「じゃーこの中から何かひとつ選んで、シナリオを作り上げて!どういう症状で、どういう既往歴で、どういうcomplaintで…ちょっと練りこんで考えてみて。それから、人格もつくりあげてportraitの仕方を考えて!プレーしたくてたまらないアメフト選手(ウソつきがちかも?)とか、とにかく倦怠感で受け答えがゆっくりな患者さんとか…。できた?できたら、パートナー組んで、評価の練習!」…ということで、あとはひたすら練習です。どういう目的をもち、何を聞き、何を探し、何を引き出し、それらをどう並べ、意味を持たせるのか。ここまでいけば練習を繰り返すしかありません。シナリオを作り上げるのも、勉強の一環になる…と私は願っています。そんなわけで、今週はこんな練習ばっかりしてました。演技派の学生もいっぱいいて、見ていて楽しいです(笑)。

各授業の最後に学生に強調したのは…「脳震盪だと分かった前提ありきの脳震盪診断なんて誰だってできる。問題は脳震盪だかなんだか分からない怪しい主訴の患者さんが来た時に、このDDxのリストを頭にぱぱっと並べてさ、効率よく除外していけるのかっていうのが本当に難しいところだし、醍醐味かななんて思うんだよね」
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「あとね、もうひとつ最後のカーブボールを投げるよ。脳震盪患者の主訴がいつも脳震盪関連の症状だとは限らない。本当に難しいのは他に見た目に明らかな怪我がある場合だ。例えば顎関節脱臼の患者さんが脳震盪も受傷していたとか、眼底骨折の患者さんが脳震盪を…とか、歯の脱臼の患者さんが…とか…。こういう風に見た目が派手な怪我は、こっちも「あっ」となって注意力を全部そっちに持っていかれちゃうことも珍しくない。だから私いつも言うでしょ?"Do you have any pain anywhere else (主訴以外のどこか身体の他の部位に痛みはありませんか)?"って絶対聞けって。こういう目を奪われる鮮やかな怪我があるときにこそ、『もしかしたら脳震盪受傷しているのでは?』と考え、しっかり除外(もしくはもちろんしっかりと確定)できる能力を持つことが大事だよ」

「さゆりはDDxにうるさい」とは今ではすっかり学生の間では知られたことですが、私は「他の可能性」を考えられる能力、そしてそれらの可能性を潰すのが上手いかどうかがかなり現場での実力に繋がると思っています。最終診断は△△です!と学生がつけた名前が仮に正しくても、「○○の可能性は考えた?」の答えがNoだったら、私の立場からすればそれは完璧な診断ではないと思うからです。最短で最長の遠回りを。ここらへんがOrthopaedic injuryの診断の奥が深いところですかね…。

1. Meeham MP, d’Hemecourt P, Comstock RD. High school concussions in the 2008-2009 academic year: mechanism, symptoms, and management. Am J Sports Med. 2010;38(12):2405-2409.

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  by supersy | 2016-09-21 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

「脳震盪受傷後に休息しても意味はない」論を考える。

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月刊トレーニング・ジャーナル10月号が発売になっています!
連載5回目の今回は「医療最前線だからこそ求められる救急力」という前回からのテーマを引き継ぎ、『急性頚椎損傷疑い』を米国ではATがどう判断しどう処置を施すのかという具体的な手順と手法に焦点を置いています。最新のPosition Statementに書いてあることはもちろん、未来のそれに含まれるであろう変更点についてもまとめました。いつもは難産ですが、これは筆の走りが良かった回です(笑)。興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。



さて。
キレイなもの、美しいもの、好ましいものを見せられて「素晴らしい!」というのは簡単ですが、見たくないものを目の前に出された時にヒトの本性が出るんじゃないかななんて思うんですよね。貴方はそれを直視し、冷静に見定められますか?こっそりと見なかったことにしますか?それとも感情的になって「こんなものはデタラメだ、嘘っぱちだ、認めない」と叫びますか?
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研究や論文の世界…つまりエビデンスの世界でもひとつのことに対してふたつの食い違う見解が出てくることはよくあります。例えば前回は「脳震盪受傷直後に、いかに速やかに運動を中止し、休息することが大事か」という論文を紹介しましたが、そしてそれを読んだ多くの人がその結論を「好ましい」と感じ、900を超えるFacebookの "Share"や "Like"をしてくださった訳ですが、今回は前回同様最新の、しかしこんなタイトルの論文を紹介したいと思います。1「脳震盪後、急性期の精神的・肉体的休息は回復を早めないかもしれない」―つまり、前回の論文と真逆の響きです。

この研究は脳震盪受傷後翌日丸一日(24時間)に、「徹底的な肉体的・精神的休息」を強制させた患者("Rest"組)25人と、そうでない患者("No Rest"組)25人の回復を調べたもの。症状が完全消失までにかかった日数、神経認知テスト (CNT)、バランステスト (BESS)、SACがBaseline値に戻るまでの日数、と競技復帰に向けた運動開始までにかかった日数を比較すると、CNT、BESS、SAC値回復と運動開始までの日数はグループ間に差は無かったものの(p > 0.183)、症状消失までにかかった日数はなんとRest組のほうが悪いという結果に(5.2 ± 2.9 vs 3.9 ± 1.9日, p = 0.047)。

この研究では「Rest組の患者は(受傷当日と翌日の合計で)平均約40時間ほど休息をしていたわけであるが、この比較から、急性期の肉体的・精神的休息は脳震盪の回復を早めないどころか、症状の消失を1.3日ほど遅らせる可能性があると言える」…という結論が出されています。休息が悪影響を及ぼす?一つ前のブログ記事とは完全に矛盾する内容のように思えます。では、我々はこの結果をどう受け止めればいいのでしょう。
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この結果を鵜呑みにすることも、拒絶することもできます…が、私が思うに、真のクリニシャンがすべきはそのどちらでもありません。真のEvidence-Based Practitionerが持つべきは「Be open-minded and skeptical (受け入れろ、しかし疑え)」というマインドセット。「真実」に近づくためには、より多角的にモノを見つめる必要があります(上図: 「これは丸だ」「いや四角だ」と、一見食い違うように見える意見も、本当はどちらもその角度から見たものとしては正しくて、複数の意見を合わせた「円柱」こそが真実なのかもしれません。どちらかの意見に捕らわれすぎていては永遠に真実は見えてきません)。受け入れろ、しかし疑え―今回もするべきは同じだと私は考えます。「ふむふむ、キミの見方、考え方は面白いねぇ」とその切り口に敬意を払い、感謝をしつつ、「でもじゃあまぁ、キミの疑わしいところをまず洗ってみようか」と冷静にざっくりと見定める必要があるということです。ではこの研究の「疑わしいところ」とはなんでしょう?

●Odd Study Design and Potential Selection Bias
この研究のデザインは実に妙です。分類するならRetrospective (後ろ向き)とProspective (前向き) study(研究)の合いの子といったところでしょうか。というのも、これは論文冒頭にも書かれている通り、事前に計画されたわけではなく、偶発的に生まれた研究だからなのです。元々何らかの脳震盪研究をしていた真っ最中に、たまたま脳震盪からの競技復帰(RTP)に対するポリシーの変更が決定し、「じゃあ、前後で回復の早さを比べちゃえ」ともうひとつエクストラの研究(今回の論文)をひねり出したわけ。なので、ポリシー変更前の脳震盪患者25人が「No Rest組」でどちらかというとRetrospective(=取っておいたデータを急きょこの論文を書くのに使うことにした)のに対して、変更後の25人が「Rest組」でProspective(=この研究をすると分かった状態で新たにデータを取った)なんですよ。グループ分けがランダムではなく時間軸で分けられており、加えてよく読むと「consecutive(連続した)」という表記もないので、「RTPポリシー変更直前に脳震盪受傷した連続した25人と直後に受傷した連続25人(下図、例1)」ではなく、「RTPポリシーを変更する前に脳震盪受傷した25人と変更後に受傷した25人(下図、例2)」を使った可能性が高いです。ニュアンスの違いがわかりますか?後者は格段に研究者が使用するデータを作為的に選んだ可能性が高まります。使用するデータを研究者が作為的に選んだのだとしたら、この研究結果には研究者のバイアスが色濃く残っているかもしれません。
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●"History" Effect
加えて、RTPポリシー変更が採用された2012年7月という時期も引っかかります。アメリカでは各メディアの報道や各州での脳震盪法令の制定に伴って、脳震盪に関する世間の知識と意識はここ数年で劇的に変化しつつあります(今では「CTE」という言葉を理解するアメリカの一般の方も多いんじゃないでしょうか)。この「意識改革」の真っ只中にいたであろう被験者たちが、たまたま2012年7月より前には脳震盪の影響を軽視して復帰したいがために「もう症状はない」とウソをついていた可能性 、そして2012年7月以降は脳震盪の深刻さを実感する被験者が増え、「実はまだ頭が痛む」などとより正直に報告するようになった可能性というのは十分にあります。研究者の意図しないところで、時代そのものの変化の影響を受けた可能性があるわけです。これはちなみにHistory Effectと呼ばれ、研究の妥当性を下げる要素としてよく知られています。
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●グループ間のDemographicの差
これは論文内のTable 1で性別、年齢、身長・体重や過去の脳震盪受傷数などに関して「グループ間の差は無かった、p > 0.05でした」という報告がありますが、私個人としてはきちんとp valueをそれぞれの項目に対して見せてほしいです。例えば、p = 0.055だったら統計学的に有意な差まではいかなくても十分に影響を与えうるトレンドがあった可能性もあります。少なくとも、男女差はかなりあるように見えるので(Rest組は男18/女7、No Rest組は男13/女12)、実際に数値を表記してくれないなんて、何か後ろめたいことでもあるの?と意地の悪い私なんかは疑りたくなってしまうわけです。

●実際のRest組とNo-Rest組のアクティビティー
もうちょっと詳しく解説したいのが両グループのアクティビティー制限です。
1) Rest組: 受傷当日はもちろん、翌日丸々、コーチと連絡を取り、一切のチーム・個人練習や筋トレ、他の怪我の治療も禁止。Student Disability Service Officeの協力も得て授業には参加させないのはもちろん、チームミーティング、スタディーホール、課題やテスト勉強も禁止するという徹底っぷり。テレビやパソコン、携帯電話の使用も「やりすぎないよう」患者に直接指導したそう。しかし、この24時間研究者が実際に監視を行っていたわけではなく、患者がこの「指導」に従ったかどうかは直接患者に「実際のところはどうだったの」とself-reportする形でのみ確認を取っています。患者がウソをついた可能性が十分に考えられるのと、それよりももっと大きな問題なのはこれをデータ化して結果として報告してないことですかね。もし患者が「いやー、休めとは言われたけど一日中ゲームしてましたわ」とか「結局宿題ちょっとやっちゃいました」とか正直に報告していたとしても我々読者はそれを知る余地もないのですから。
2) No Rest組: 2012年7月以前の25人は学業に関する制限はなく、むしろ授業はなるべく休まないように指導していた("absence is strongly discouraged")という記述が確認できます。肉体面は、チームとの運動は症状がなくなるまで再会してはいけないという制限は当時もあった一方で、私生活での運動やADLには特に制限を設けなかったそう。なるほど。これもRest組との「指導」の違いは理解できますが、こちらのほうがより不明瞭なアドバイスで、「学校にはなるべく行くように」と「指導」されていた患者が実際に学校をサボって一日休んでいた可能性も確認できませんよね。self-reportで確認もしなかったわけですから、選手が実際受傷翌日に何をしていたかのデータは一切存在しません。「体調と相談して」と言われたら休みたくなり、「絶対に学校に行ってはダメ」と言われたら行きたくなるのが、人間の性じゃありませんか?私だけ?
そんなわけで、グループ・アサインメントが実際のアクティビティー・レベルを示唆していない可能性がまだまだ強く残っている以上、この研究の結果は慎重に読み取るべきだと私は考えます。第三者の監視役にActivity Logをつけてもらうとか、最近ではAccelerometer(加速度計)やPedometers(歩数計)、Activity-Tracking Phone Appsなど様々なテクノロジーがあるわけですから、こういったものも併用しながらより客観的に患者のCompliance Rateを表記するべきだと思います。

●Statistical Analysis
あとは私が個人的に数字のデータが好きなので、95%CIの報告がない、Effect Sizeの報告がないことは評価を下げざるを得ませんね。被験者の数が各グループに25人というこのグループサイズもPower Analysisで定められた最低数に基づくものではないようですし、この研究で出たPoint valueはPoint valueでともかくとして、統計的に十分なパワーがあったのかなかったのか分からない状態ではどんな結論も出せません。

さて、それでは私がこの研究を受け入れ、疑った結果は「上記したような問題点が改善された研究を見てみないと最終的な結論は出せない。が、他に急性期の休息が効果がなかったとする論文(こちらは受傷後5日間のStrict Rest)2が出ていることも考慮すれば、やはり『休めばいいというものではない』という最近のトレンドを支持する研究は増えてきている6-8」という結論です。現時点で私は「受傷翌日の休息は有害である」というのはOverstatementだと思わざるを得ませんし、各団体のPosition Statement/Consensus Statement3-5がまだ受傷後24-48時間ほどの急性期の休息を推奨している以上、この研究結果だけを受けて急性期対応を変えるわけにもいきません。…が、しかし、脳震盪のリハビリとして運動が効果があるのではないかと言う声が徐々に大きくなってきているように、「やりすぎず、やらなすぎない」絶妙にコントロールされた肉体的・精神的ストレスはむしろ回復を早めるのではというエビデンスも次から次へと出てきています。私の勝手な見立てでは、この「程よいストレス」という理念が現在の「休息」一辺倒のガイドラインをいずれ取って代わるでしょう。これからも目を離せない分野です。

卑怯な言い方かもしれませんが、この記事が前回と比べていくつくらいのFacebookの "Share"や"Like"がつくのか個人的に興味があります…。恐らくタイトルがそれでも好ましくないという理由で、前回の1/9もいかない(つまり100以下)だろうというのが私の勝手な予想です。

1. Buckley TA, Munkasy BA, Clouse BP. Acute cognitive and physical rest may not improve concussion recovery time. J Head Trauma Rehabil. 2016;31(4):233-241. doi: 10.1097/HTR.0000000000000165.
2. Thomas DG, Apps JN, Hoffmann RG, McCrea M, Hammeke T. Benefits of strict rest after acute concussion: a randomized controlled trial. Pediatrics. 2015;135(2):213-223. doi: 10.1542/peds.2014-0966.
3. Giza CC, Kutcher JS, Ashwal S, et al. Summary of evidence-based guideline update: evaluation and management of concussion in sports. Report of the guideline development subcommittee of the american academy of neurology. Neurology. 2013;80(24):2250-2257. doi: 10.1212/WNL.0b013e31828d57dd.NATA.
4. Broglio SP, Cantu RC, Gioia GA, et al. National athletic trainers’ association position statement: management of sport concussion. J Athl Train. 2014;49(2):245-265. doi:10.4085/1062-6050-49.1.07.
5. McCrory P, Meeuwisse W, Aubry M, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 4th international conference on concussion in sport held in Zurich, November 2012. Clin J Sport Med. 2013;23(2):89-117. doi:10.1097/JSM.0b013e31828b67cf.
6. Gibson S, Nigrovic LE, O'Brien M, Meehan WP. The effect of recommending cognitive rest on recovery from sport-related concussion. Brain Inj. 2013;27(7-8):839-842. doi: 10.3109/02699052.2013.775494.
7. Majerske CW, Mihalik JP, Ren D, et al. Concussion in sports: postconcussive activity levels, symptoms, and neurocognitive performance. J Athl Train. 2008;43(3):265-74. doi:10.4085/1062-6050-43.3.265.6.
8. Silverberg ND, Iverson GL. Is rest after concussion "the best medicine?": recommendations for activity resumption following concussion in athletes, civilians, and military service members. J Head Trauma Rehabil. 2013;28:250-259.

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  by supersy | 2016-09-11 21:00 | Athletic Training | Comments(0)

脳震盪受傷にすぐ競技中止をしなければいけない理由。

SNSで見かけて、面白そうだったので読んでみました。ほんの3日前に発表になった論文です。忙しくてあまり時間がないので、簡潔にまとめます。
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脳震盪受傷疑いがある場合は直ちにスポーツをやめ、専門のトレーニングを積んだ医療従事者の指示を仰ぐこと…とは様々なガイドラインや米国の州法律で謳われていることですが、1-3 選手自身がその深刻さに気が付いていても4 やはりその3割程はまだ報告義務を怠り、5 なんとかプレーを続けようとする傾向も根強く見られます。
「もうちょっとだけならいいんじゃないか…」「この試合終わってから報告するから…」という甘い考えを改めさせられるのがこの記事。6 脳震盪を受傷したならSecond Impact Syndrome/Diffused Cerebral Swellingの危険性を回避するために即刻プレー中止すべきである、というのももちろんですが、この論文6 によれば脳震盪を受傷後にプレーを続けた患者は即座にプレーを中止した患者に比べて脳震盪からの回復が倍以上もかかったというのだから驚きです。69人の脳震盪患者(年齢12-19歳)に「受傷後プレーをすぐ辞めたか、続けたか」を聞き、その回復を追った、というこの研究では、「受傷後もプレーを続けた」と回答したPlayed組(n = 34, 49.3%)が、「すぐに中止した」と答えたRemoved組(n = 35, 50.7%)と比較して、来院時の言語記憶、視覚記憶、情報処理能力、反応速度の全てにおいて著しく劣っており(p ≦ 0.002)、完全競技復帰までにかかった時間も44.4 ± 36.0日 vs 22.0 ± 18.7日 (d = 0.80, p = 0.003)と格段に長くなっている様子が報告されています。脳震盪界では21日以上かかっても回復しない患者を時折「Protracted recovery (長引いている)」とカテゴリー分けしたりしますが、この研究の統計によれば受傷後プレーを続けた場合、回復が「長引く(≧21日)」可能性が8.8倍高くなるそうです。

この実験の被験者が総じて若いことは特筆されるべきかと思いますが(子供の脳震盪からの回復は成人より遅いことが知られています。故に、この結果がそのまま成人に当てはまるかは少し疑問が残ります。同様の研究を是非プロや大学選手でもやってほしい)、「このプレーだけやらせて!そしたら引っ込むから!」などとbargainしようとする選手に「『あとワンプレー』で回復にかかる時間が倍になるんだよ。2-3週間をフイにするほどの価値が本当にある?」と返せる、切り札になる非常に重要な研究だなと思います。あとはこの研究と「回復が『長引いている』脳震盪患者には運動」というコンセプトを組み合わせれば、「脳震盪受傷後にプレーを続けた選手は来院時点で『high risk』患者と認定し、直ちにExercise Protocolを始める」みたいな新しいガイドラインも生まれそうな気もしてます。続報を待ちます…。わくわく…。

1. Broglio SP, Cantu RC, Gioia GA, et al. National athletic trainers’ association position statement: management of sport concussion. J Athl Train. 2014;49(2):245-265. doi:10.4085/1062-6050-49.1.07.
2. McCrory P, Meeuwisse W, Aubry M, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 4th international conference on concussion in sport held in Zurich, November 2012. Clin J Sport Med. 2013;23(2)89-117. doi:10.1097/JSM.0b013e31828b67cf.
3. Giza CC, Kutcher JS, Ashwal S, et al. Summary of evidence-based guideline update: evaluation and management of concussion in sports. Report of the guideline development subcommittee of the American Academy of Neurology. Neurology. 2013;80(24):2250-2257. doi: 10.1212/WNL.0b013e31828d57dd.
4. Chrisman SP, Quitiquit C, Rivara FP. Qualitative study of barriers to concussive symptom reporting in high school athletics. J Adolesc Health. 2013;52(3):330-335.e3. doi: 10.1016/j.jadohealth.2012.10.271.
5. LaRoche AA, Nelson LD, Connelly PK, Walter KD, McCrea MA. Sport-related concussion reporting and state legislative effects. Clin J Sport Med. 2016;26(1):33-39. doi: 10.1097/JSM.0000000000000192.
6. Elbin RJ, Sufrinko A, Schatz P, et al. Removal from play after concussion and recovery time [published online August 29, 2016]. Pediatrics. 2016. pii: e20160910.

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  by supersy | 2016-09-01 07:00 | Athletic Training | Comments(0)

不要な筋抑制を取り除け!最新エビデンスの示す最も有効なAMI治療、Disinhibitory Interventionとは?

AMIの知識をアップデートしようと思って下のSystematic Review1を読んでました。面白かったのでめもめも。ちなみにこの記事は無料公開されているので誰でも全文読めます。下の参考文献にリンクをぺたりと貼っておきますので興味のある方はどうぞ。
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1965年から2012年までに発表された大腿四頭筋の活性化に関する論文をまとめたこのReview、条件を満たした10件の論文を最終的にincludeしていますが、実験対象は健康な被験者からKnee OA、膝の人工関節手術後にPFPS、Meniscusまで様々です。比較対象(control)としてAMI患者との対比目的で健康な被験者を使っているならともかく、AMIのない健康な被験者のみを使った研究も含まれているのは個人的には少し納得が行きません。あくまで大腿四頭筋に抑制がかかっていることを前提とした研究のみをreviewすべきと思うのですが(じゃないとdisinhibitoryという言葉そのものが成り立たなくなりやしませんか?)…私がこのReviewを行ったわけではないので、まあここは仕方ないですね。

さて、読み進めてみると知らないことがいっぱいだったので驚きました!私の知識は2002年発表のHopkins氏らの論文2あたりで止まっていたようで、今日の今日まで1) AMIに最適な物理療法はCryotherapy。20分のアイシングでdisinhibitory効果が40分は持続する。2) 30分のTENSも同様のdisinhibitory効果が見られるが、電流を流し終えたとたんにその効果も消えてしまう。TENSをしたまま運動をさせることは現実的に考えて簡単ではなく、故にDisinhibitory InterventionとしてのTENSは実用性に欠ける…と理解していました。前回ブログにまとめた内容そのままですね。しかしよくこのReviewと、それからReviewに含まれる個々の論文も読んでみると、どうやらこの論文(↓Pietrosimone et al, 20093)あたりで「TENSのほうがCryotherapyよりも効果が高いのではないか」という研究結果が出始めて、結論がひっくり返った様子ですね。知らんかった!
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Pietrosimone氏らのこの研究2では33人の膝OA患者をランダムに 1) 20分間座っているだけ(Control); 2) 20分間の膝周りのアイシング (Cryotherapy); 3) 45分間のTENS治療 (TENS)の3組に分け、それぞれの治療を施した後に大腿四頭筋の活性度を検証。結果だけざっと紹介してしまうと、こんな感じ(↓)。
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この研究で大腿四頭筋の活性度を示すのに使われたのがCentral Activation Ratio (CAR)というコンセプトですが、このCARのベースラインからの変化をパーセンテージで表したものが上のグラフです(+の変化が改善、-が悪化を意味します)。見ての通り、より+の、高い数値をたたき出したのはTENS。著者らの「CryotherapyのほうがTENSよりも効果が高いだろう」という仮説に反して、「Disinhibitory効果はTENSのほうがより長く強く続いた」という結果が出たのです。Controlと比較して、TENSは20、30、45分後全てのタイムポイントで、Cryotherapyは20分後のみに統計的に有意な差が認められました。Effect sizeはTENSは3つ全てのタイムポイントで"strong"だったのに対し、Cryotherapyは20分後と45分後が"strong," で30分後は"moderate"。つまるところ、膝OA患者により程度の高い大腿四頭筋の活性化を促したいならば何もしないよりも、アイシングを20分するよりも、TENSを45分使った方が効果が高い、という結論が出たわけです。

これを踏まえて一番最初のSystematic Review1に戻りますが、こちらでも最終的な結論は:

●20分間のCryotherapyをしたのちのdisinhibitory効果は最低でも45分間は持続するようである。Effect sizeは時間と共に増加する傾向にあり、30分後でCohen d=0.46 (moderate)ほどなのが45分後にはCohen d=0.76 (large), 95%CI -0.13 ~ 1.59まで上がる。しかし、見ての通り95%CI幅は広くゼロを挟んでいる

●45分間のTENSは、治療後20分後は小さな(small)効果しか認められないが(Cohen d=0.38, 95%CI -0.52 ~ 1.25)、30分後には"moderate"(0.63, 95%CI -0.30 ~ 1.50)、45分後には"large" (1.03, 95%CI 0.06 ~ 1.92)になり、最終的に95%はゼロを挟まない生の数のみになる。つまり、統計的に良い効果が保証される。

●Lumbopelvic manipulationやPROM、Active Releaseなどの徒手療法は総じてイマイチ。治療直後は効果が少し見られるものの(Cohen d=0.38, 95%CI -0.35 ~ 1.09)、時間と共に効果は薄れ、60分後には消えている(0.18, 95%CI -0.54 ~ 0.89)。95%CI幅はやはり広くゼロを挟んでいる

●4-5人を対象にしたCase Seriesによれば、4 NMESは長期的に使えばそこそこ効果があるようである。 3週間継続して使えばCohen d=1.66 (95%CI 0.10-2.90)、6週間で1.65 (95%CI 0.09-2.89)、3ヶ月で1.71 (95%CI 0.13-2.96)に6ヶ月で1.87 (95%CI 0.24-3.13)とどのタイムポイントでも非常に大きく、決定的な効果が得られるという報告がされている4一方で、効果が無いどころか悪影響(5週間NMES使用で -0.25, 95%CI -0.94 ~ 0.45; 16週間使用で -0.50, 95%CI -1.19 ~ 0.22)があったというRCT研究もあり、矛盾が見られる。長期に渡って使用した場合のみの数字であることを踏まえ、さらにエビデンスのレベルとして信用すべきはRCTのほうと判断すれば、現場で使う臨床的価値には今のところ欠けるか。


…といった感じで、Systematic Review1 の結論としては "The current literature finds TENS to be the most effective intervention in increasing voluntary quadriceps activation because it produced positive homogeneous findings and CIs that did not cross zero (p.418)" ということになるようです。ふぅむー、まだまだ研究が足りないのは考慮するにしても、現時点でのこの結論は納得です。Cryotherapyより今はTENS、なんですね!

しかしこの結果は真摯に受け止めた上で、私はそれでも個人的にCryotherapyをこれからもAMI治療目的で使う可能性は大いに残しておきたいと思います。なぜか?CI幅が広いのはまだ研究が少ないのでこれから狭めていくとして、Cryotherapyのdisinhibitory効果を否定するエビデンスは現時点で存在しないこと、そして今まで出ている研究結果は総じて「効果アリ」であるから、ということと、あとはやっぱり効果の早さですかね。20分のアイシングで得られる効果 vs 45分のTENSで得られる効果、となると、Cryotherapy < TENSだったとしても、その20分という足の速さが魅力的に思える現場の症例も多くあるんじゃないかと思うからです。例えば、患者がリハビリできる時間が45分しかない場合、その45分全てをTENSに使うだけで終わらせてしまうのか、20分Cryotherapy使って、残り25分思いっきり運動させるのかではだいぶ、こう、なんというか、実用性が異なると思いませんか?逆に時間が無限にある場合、Cryotherapyを45分使ったとして、もしかしたらTENS45分を凌ぐほどのDisinhibitory効果が出る可能性もあるのでは?そっちの研究も是非見てみたい…という欲求もムクムク沸いてきますね。TENSが必ず45分でなければいけないのか(もっと短くても同様の効果は認められないのか?)という疑問も生まれます。現時点ではどうやらTENSがベスト、ということを学べたのはとても良かったですが、理想のprotocolを是非これからも皆様に突き詰めて研究し続けていってほしいです。私は数年したらまたこのトピックに戻ってくることにしましょうー。

1. Harkey MS, Gribble PA, Pietrosimone BG. Disinhibitory interventions and voluntary quadriceps activation: a systematic review. J Athl Train. 2014;49(3):411-421. doi: 10.4085/1062-6050-49.1.04.
2. Hopkins J, Ingersoll CD, Edwards J, Klootwyk TE. Cryotherapy and transcutaneous electric neuromuscular stimulation decrease arthrogenic muscle inhibition of the vastus medialis after knee joint effusion. J Athl Train. 2002;37(1):25-31.
3. Pietrosimone BG, Hart JM, Saliba SA, Hertel J, Ingersoll CD. Immediate effects of transcutaneous electrical nerve stimulation and focal knee joint cooling on quadriceps activation. Med Sci Sports Exerc. 2009;41(6):1175-1181. doi: 10.1249/MSS.0b013e3181982557.
4. Stevens JE, Mizner RL, Snyder-Mackler L. Neuromuscular electrical stimulation for quadriceps muscle strengthening after bilateral total knee arthroplasty: a case series. J Orthop Sports Phys Ther. 2004;34(1):21-29.
5. Palmieri-Smith RM, Thomas AC, Karvonen-Gutierrez C, Sowers M. A clinical trial of neuromuscular electrical stimulation in improving quadriceps muscle strength and activation among women with mild and moderate osteoarthritis. Phys Ther. 2010;90(10):1441-1452. doi: 10.2522/ptj.20090330.

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  by supersy | 2016-08-30 21:30 | Athletic Training | Comments(0)

電気治療 (TENS): 「鎮痛効果」のみを狙った対処療法に意味はあるのか? と、ネブラスカ出張。

Electrical Stimulation (通称E-stimもしくはStim、電気治療)と言えば、多くの治療家に「意味がない物理療法」の代名詞として使われることが多いように感じます。英語でも「あの人はIce & Stimしかしないからね」という表現は「症状を一時的にマスクする対処療法をするくらいしか能のない、Old Schoolなセラピスト」という意味でよく使われますしね。

私はIce & E-stimのコンビネーションにこそ意味がないとは思いますが、痛みそのものを治療対象にすることに関しては全く否定的ではありません。個人的な話ですが先学期いわゆる重度の「寝違え」を起こしてしまい、ふとした拍子に左を向こうとすると、そのたびに気が遠のくほどの電流のような激痛が左腕を駆け抜ける、という、ひどく不快で、しんどい思いをした日が2日ほどありました。その痛みたるや仕事にならないほどで、同僚に「この痛みを何とかしてくれるならなんでもする」と泣きついたくらいです。痛みは人から機能を奪い、感情をロックアップさせます。ですから(もちろんcontextによりますが)、痛みそのものを取り除こうという施術者側の努力は、決して周りから嘲笑されるようなものではないと思うのです。以前も書きましたが、there's time and place for everything -鎮痛治療が求められる場面で、適切で最も効果的なそれを選択・deliverできる力はATとして必須だと私は思います。
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さて、話を戻すと数ある電気治療の中でもとくにPain controlに使われることが多いのがいわゆるTENS (transcutaneous electrical nerve stimulation)というモードですが、これに関して読んだ研究を忘れないうちにまとめておきたいと思います。まず一番のお勧めはこの論文―TENSを使って鎮痛効果を狙う場合、どういうパラメーターが最も効果的なのか?というところをエビデンスを通じて振り返り、要約しているのが2008年発表のClaydon & Chesterton1 のSystematic Review(↓)です。
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Claydon & Chesterton1 がこの論文で強調しているのは「High intensity TENS」がどうやら最も効果がありそうだということ。Low-intensity(微弱電流)ではなく、がっつりビリビリくるようなそれなりに強いものがいい、ということなんです。もっと細かく言うと、「high frequency, high intensity, local application ‘intense’ TENS」か「low frequency, high intensity, remote ‘acupuncture-like’ TENS」がよさそうである、と。 他の論文も見てみましょう。Chen氏らのSystematic Review2 によれば、Pulse Durationの長短とそれに反比例するPulse Frequencyはどうやら鎮痛効果の程度に影響がないのでは、という指摘もあるのです。特に様々なPulse Frequencyを使った研究結果を比べてみても鎮痛の程度に大差がなかったことから、1) どのPulse Frequenciesでも等しく効果的である; 2) どのPulse Frequenciesも等しく効果的でない; もしくは 3) 研究のデザインが甘く、Pulse Frequency間の違いを認められるような造りではなかった…という3つの可能性が今のところ考えられますが、鎮痛効果を高める上で、今のところPulse Frequencyを気にしすぎる必要はないようです。

私がTENSをPain Control目的で使う場合、個人的なルーティーンはいつもこうでした。1) Motor level intensity, 2) Low frequency (≤10 Hz), 3) Longer pulse duration. セオリーでいうと、このパラメーターが上脊髄性疼痛抑制 (by releasing endogenous opioid peptides and serotonin)を促し、また脊髄内で上がってくる痛みのシグナルをブロックすることで鎮痛効果が高いと、つまり下行性 (descending) & 上行性(ascending)疼痛抑制の併用が可能だと認識していたもので…、High frequency (≥50 Hz) TENSだと後者のみですからね。3 一般的に疼痛抑制は上脊髄性 (supra-spinal)のメカニズムのほうが効果が長く続くとも言われていますし。でもこうしてエビデンスを読み返してみると、どうやら「Frequencyは治療アウトカムに影響を与えない2、むしろ「大事なのはIntensity1,4なようですね。 “Strong but not painful (ビリビリと強く感じるけど痛くはない程度)” で “sensory” レベルのTENSは"sub-sensory"かプラシーボより格段に鎮痛効果が高い、というのはわりかしはっきりとしたエビデンスのようです。4 なので、これらのエビデンスを加味した上で、これから私が患者にTENSを使うというのであれば、私が新たなルーティーンにすべきば… 1) 患者にhigh- と low-frequency TENSの両方をそれぞれ異なる治療セッション中に試し、どちらが好みか選んでもらい、そちらの周波数を使う。どうせ違いがないというならば、患者が好きだという方を選んでもらった方が不快さは減るかもしれない。2) Intensityは最低でもSensory Levelで。もし患者がもっと強いのが好みなら(Motor Levelが好きな選手も今まで結構出会ったので…ちなみに私もMotor Levelは結構好き)、私はここも好みに応じて上げてしまってもいいと考えます。論文では総じて「最低でもSensory」という表現が使われていたので、「Motorになるとダメ」というわけでもなさそうなので。私が考えていたよりもTENSのパラメーターはもうちょっとフレキシブルなものなのかなー、というのが率直な印象です。これからは患者にももっと多くの選択肢を与えられ、色々試してもらったうえで、その人好みの治療をtailorしていくことが可能かも!

例えば術後の痛み(postoperative pain)とか、どうしても数日間患者の感じる痛みのレベルが上がらさるを得ない場合にも、TENSを使うことで痛み止め薬の服用量が抑えられ、痛み止め薬の副作用というリスクを負わなくてもよくなる、5-9 というのはTENSの二次的な隠れたbenefitであると私は考えています。また、TENSはCryotherapyに並ぶdisinhibitory modalitiesとしても有効な物理療法であり、AMIの治療には欠かせないツールでもあると思うのです。10,11 最近のSystematic Review11 にはTENSのほうがCryotherapyよりも "より強い、一貫性のある効果をもたらす" と報告されており、"現存する最善のdisinhibotory interventionである” ともまとめられています。これは私の個人的な見解ですが、例えば膝の術後の『鎮痛効果』の一部には、もしかしたらdisinhibitoryメカニズムによる鎮痛もいくらか入っているのかもしれませんよね。例えば、効果的にdishinibitionできたから、大腿四頭筋の機能回復が迅速に起こり、それによって膝が安定性を再獲得したことによって歩行時の痛みが減少した、とか…。



さて、話は全く変わりますが、今週末はネブラスカ、リンカーンにあるPRI本部へ行ってきました!8ヶ月ぶりくらいです。詳しいことは諸事情があって書けないのが残念ですが、今年4月にオープンした新しいPRI本部の建物(↓)をたっぷり満喫させてもらい、それからRonやMikeにたくさん質問をぶつける機会があり、本当に充実した2日間を過ごすことができました。なんとカンザスからケニーも片道3.5時間の道のりを運転してきてくれて、夜には12月の日本講習に向けての打ち合わせもがっつりすることができました。遠いところをありがとう、友よ…!
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こんな書き方も自分でどうかと思いますが、今更改めてPRIにドはまりしています。最近楽しくて楽しくて…。やっと少しわかってきた、ような気がする…(数か月後には「やっぱり全然わからない」とか泣いてるかもしれないけど)。Ronの言葉を聞いていると、徐々に「宇宙に飛ばされる」回数よりも「核の部分が見えてきた」感覚のほうが多くなってきてそれが楽しいです。前回の彼の「上腕三頭筋は周波数だ」のコメントじゃないけど、徐々に私が彼の「周波数」に合わせられるようになってきたのかも!昨年12月のRonの「右に脊柱側弯症があるならば、左にも曲げればいいじゃない」というマリー・アントワネットばりの言い回しにわかったつもりになって笑っていましたが、今になってその言葉の本当の意味がわかるようになってきました。彼の言葉をいかにそのまま(でもわかりやすく)日本で伝えるか、まだまだ試行錯誤の日々です!

1. Claydon LS, Chesterton LS. Does transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) produce ‘dose-responses’? A review of systematic reviews on chronic pain. Phys Ther Reviews. 2008;13(6):450-463.
2. Chen CC, Tabasam G, Johnson MI. Does the pulse frequency of transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) influence hypoalgesia? A systematic review of studies using experimental pain and healthy human participants. Physiother. 2008;94:11-20.
3. Resende MA, Sabino GG, Cândido CR, Pereira LS, Francischi JN. Local transcutaneous electrical stimulation (TENS) effects in experimental inflammatory edema and pain. Eur J Pharmacol. 2004;504:217–222.
4. Moran F, Leonard T, Hawthorne S, Hughes CM, McCrum-Gardner E, Johnson MI, Rakel BA, Sluka KA, Walsh DM. Hypoalgesia in response to transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) depends on stimulation intensity. J Pain. 2011;12(8):929-935. doi: 10.1016/j.jpain.2011.02.352.
5. Bjordal JM, Johnson MI, Ljunggreen AE. Transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) can reduce postoperative analgesic consumption. A meta-analysis with assessment of optimal treatment parameters for postoperative pain. Eur J Pain. 2003;7(2):181-188.
6. Unterrainer A, Friedrich C, Krenn MH, Piotrowski WP, Golaszewski SM, Hitzl W. Postoperative and preincisional electrical nerve stimulation TENS reduce postoperative opioid requirement after major spinal surgery. J Neurosurg Anesthesiol. 2010;22(1):1-5. doi: 10.1097/ANA.0b013e3181b7fef5.
7. Kara B, Baskurt F, Acar S, et al. The effect of TENS on pain, function, depression, and analgesic consumption in the early postoperative period with spinal surgery patients. Turk Neurosurg. 2011;21(4):618-624. doi: 10.5137/1019-5149.JTN .4985-11.0.
8. Unterrainer AF, Uebleis FX, Gross FA, Werner GG, Krombholz MA, Hitzl W. TENS compared to opioids in postoperative analgesic therapy after major spinal surgery with regard to cognitive function. Middle East J Anaesthesiol. 2012;21(6):815-821.
9. Eidy M, Fazel MR, Janzamini M, Haji Rezaei M, Moravveji AR. Preemptive analgesic effects of transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) on postoperative pain: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Iran Red Crescent Med J. 2016;18(4):e35050. doi: 10.5812/ircmj.35050.
10. Gabler CM, Lepley AS, Uhl TL, Mattacola CG. Comparison of transcutaneous electrical nerve stimulation and cryotherapy for increasing quadriceps activation in patients with knee pathologies [published online Jan 5 2015]. J Sport Rehabil. 2015.
11. Harkey MS, Gribble PA, Pietrosimone BG. Disinhibitory interventions and voluntary quadriceps activation: a systematic review. J Athl Train. 2014;49(3):411-421. doi: 10.4085/1062-6050-49.1.04.

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  by supersy | 2016-08-21 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

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