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「椎間板ヘルニアには腰椎伸展位が良い」を問い直す。

良い姿勢、ってなんでしょうね?

姿勢は動的に評価してこそ意味があるのではないか、という議論はひとまず置いておいて、今日は静的な面に限った姿勢の話を少ししたいと思います。さて、良い姿勢ってどんなものだろう?と、「Good Posture (良い姿勢)」という言葉で画像検索すると、実に様々な写真が引っ掛かります。
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例えば、とあるウェブサイトで「良い姿勢」の見本としてこんな写真(↑)が使われています。これは私個人に限った経験かもしれませんが、「姿勢が悪いよ、背筋伸ばしなっ」と注意されてこんな風に背筋を「反らす」ヒトって少なくないんじゃないか(↓、こちらも「良い姿勢」で検索)と思うのです。しかし、
私はこれらの姿勢を「良い」とは全く思えないのです。
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腰椎の形状、アラインメントやそのカーブが腰痛や機能不全に与える影響1-5は大きく、中でも椎間板は(様々な定説こそあれ)腰痛の原因となっている可能性は根強く残っています。6 そしてその椎間板にかかる負荷やストレスは、無理矢理外部からの力によって腰椎をへし曲げられているんでもない限りは、他でもない胴回りの筋活動に大きく左右されているのです。7
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ではどういった筋活動、どういった姿勢が椎間板にかかるストレスを増やす・減らすのか?…ということを検証した論文7をひとつ読んだ(↓)のでまとめておきます。
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この論文では腰痛の既往歴の無い18人の健康な被験者(男13人、女5人、平均28.0±6.94歳)を対象に、2種類の姿勢を取らせてそれぞれの脊柱をレントゲン写真に撮り、パソコンに取り込んで特殊なソフトウェアを使って椎間板にかかる力を生体力学的に分析をしています(なるほど、椎間板にかかるストレスってどう可視化、モデル化してるんだろうと思ったらこういうのが一般的なんですね8-10)。

検証対象となる姿勢というのはA: 骨盤を動かさず、しかし胸を前に突き出す姿勢 (Anterior translation of thorax、T1がT12の真上に来るイメージ↓写真A)と、 B: 力を抜いて自然に立ってもらう(↓写真B)の2種類で、実際の脊柱のカーブはこれによってこういう風に変化したそうです(↓写真右)。当たり前ですが、Anterior Postureのほうが脊柱・身体そのものが前方にシフトしており、Center of Mass(COM)もつま先へ前方移動していることは容易に想像できますね。7 前方に移動した体重を何とか後方に引き返そうと脊柱起立筋群が過活動を起こし、腰椎の一部(特にL4-5)を、腰を反るように極端に伸展させているのも見て取れます。さらに特筆すべきは、胸椎もそれに付随するように伸展し、それによって胸椎の前弯が失われて、いわゆる「フラットバック」という状態が生まれていることです(写真右: T4-L3までがほとんど平らです)。その一方で自然に立ってもらったほうの姿勢Bは腰椎は本来のLordotic(前弯)カーブがL1からL5にかけて満遍なく保たれながらも局所的で過度な進展は見られず、胸椎(T1-12)はこれまた全体的にゆるやかに屈曲、つまりKyohotic(後弯)カーブを描いています。加えて、姿勢Bでは脊柱全体が姿勢Aに比べて後方に位置しているため、COMはつま先から踵へ後方移動を起こしていることもわかります。7
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要約すると、Aの姿勢は「腰椎の一部と胸椎全体で過度に伸展/フラットバック」、「つま先体重」と結び付けられる一方で、Bはむしろ「腰椎の全体の滑らかな伸展と胸椎全体のこれまた滑らかな屈曲」、「かかと体重」と深い関係にあることがわかるわけです。これらのVisual findingsは、実験内の統計によっても裏付けられており、1) T1-12の胸椎のポジションは姿勢AとBでは統計学的に有意な差が見られ(p = 0.007); 具体的には、姿勢Aを取ることで、Bと比較して: 2) 胸椎(T1-12)の角度が平均13.1±10.3度失われ(= 胸椎伸展)、3) 腰椎(T12-S1)の角度が平均1.7±12.9度増え(= 腰椎伸展);Ferguson Angle (腰仙角度)は平均9.5±6.7度増えた(= 骨盤前傾)と論文内で報告されています。お、おもしれぇぇぇぇ…!

さて、それではこの姿勢の違いがどんな椎間板へのストレスの差を呼んだかというと、わかりやすいグラフはこちら(↓)。一つ目のグラフがCompressive Stress(圧縮応力)、二つ目がShear Stress(剪断応力)を示しています。
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一目瞭然、という感じではありますが、グラフが示すように、姿勢Aは姿勢Bに比べて、T9-10からL5-S1の椎間板にかけて(Compressive Stress)、そして、ST6-7からL5-S1の椎間板にかけて(Shear Stress)、ハッキリと高い負荷がかかっていることが分かったのです。これらの差は統計的に有意(p < 0.05)で、中でも最大の負荷上昇率が見られたのはCompressiveでL5-S1椎間板の92.2%、Shearに至ってはL3-4椎間板で609%、つまり約6倍ものストレスが確認されました。L5-S1椎間板にかかる負担は、数字にすると400N(= 40弱kg重分の重さ)にもなるのでは、と著者らは予測しています。加えて、それに伴うように脊柱起立筋群の負荷もT7以下では942%も高まっており、「姿勢Aは筋肉がより頑張らなきゃいけない上に、椎間板にかかるストレスも格段に増える、非常に生きていく上で効率の悪い姿勢」ということがわかります。

この論文7は「矢状面での姿勢・脊柱アラインメント異常(Anterior Trunk Translationとそれに伴う胸椎伸展、腰椎伸展、骨盤の前傾)は脊柱起立筋群の過活動を促し、下位胸椎及び腰椎の椎間板にかかるストレスを増やす」という結論を述べていますが、これは従来の「椎間板ヘルニアに屈曲は悪い、伸展してNucleus pulposus(髄核)を押し返せ!」という『伸展推奨』理論の真逆を言っています。見る人が見たら非常に衝撃的な結論かも知れません。ええー!?と気になる方は、ご自分でこの研究の全文を読むことをお勧めします。面白いのでオススメです。
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「椎間板ヘルニアに伸展位はむしろ悪い。屈曲位のほうが良いのでは」という『屈曲推奨』説をサポートする論文はもうひとつあります。こちらの論文(↑)11は最新型のフルオープンMRIを用いれば患者のポジションを様々に変えながらでも画像を撮ることが可能になったので、「同じ患者でも、患部をよりはっきりと写すにはどういったポジションで画像を撮るのが理想的か?」という観点から、色々試し撮りをおこない、その報告をまとめているわけです。こんな論文滅多に出会えないですね、これも面白い…。
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中でも見ていただきたいのが上の比較画像です。これは、実は全く同じ「椎間板ヘルニア」持ちの患者の腰を撮ったもので、左は立位・伸展位(↓左)で、右は立位・屈曲位(↓右)で撮影がおこなわれました。右の画像(↑)はL4-5とL5-S1椎間板にヘルニアがはっきりと見て取れますが、左の画像(↑)を見て「ヘルニアが認められる」と判断する医師や画像技師はいないのではないでしょうか。
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著者らはこの研究で最も意味のある発見のひとつとして「立・伸展位のMRIは、ヘルニアが悪化しより狭窄が顕著に出る一方で、立・屈曲位のMRIではその度合いが小さくなるか、場合によっては完全に狭窄が消失することがある("complete resolution of the same central canal and neural foramen narrowing")」と記しています。



そんなわけで、椎間板ヘルニアの患者を治療するにあたって、カギはいかに「骨盤前傾、胸椎伸展、腰椎伸展のポジションに陥らない」かじゃないかと思うんですよね。先日、ちょうどまさに腰椎間板ヘルニアの選手のコンサルティングをする機会があったのですが、座位でも立位でも伸展しっぱなしのこの選手を伸展位から脱させることに重きを置き、一時間半ほどセッションをしました。癖ですぐに背を反らせてしまうので、いかに屈曲が素晴らしいポジションなのかを分かりやすい言葉で話し、「ここ(伸展位)から出てもいいんだよー」「ここ(屈曲位)にいってもいいんだよー」と、それをまず理解・実感してもらうことにたっぷり時間を費やしました。
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こういうことを書くと、「屈曲って、こういう姿勢がいいって言ってるの?(↑写真左)」と怪訝に思われる方もいるかもしれませんが、そうではありません。左の写真の女のヒト、一見すると「屈曲位」にいるように見えるかもしれませんが、実は彼女がしているのは「伸展位からの屈曲(しているように見せかけているだけ」で、真の屈曲ではないのです。この人は一度も伸展位を出ていないんですよ…線を付けるとよりわかりやすいでしょうか(↓)。
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こんな風に「猫背」に見える人が屈曲の達人かというとそうではなくて、実は進化しただけの伸展の達人ということはよくあります。見た目の脊柱のカーブに捕らわれず、安易に屈曲を悪者にせず、 患者にとっての理想的な姿勢を作り上げていくことって、大事じゃないかなぁと思っていたりします。

1. Colloca CJ, Keller TS, Peterson TK, Seltzer DE. Comparison of dynamic posteroanterior spinal stiffness to plain film radiographic images of
lumbar disk height. J Manipulative Physiol Ther. 2003;26:233–241.
2. Harrison DD, Cailliet R, Janik TJ, Troyanovich SJ, Harrison DE, Holland B. Elliptical modeling of the sagittal lumbar lordosis and segmental rotation angles as a method to discriminate between normal and low back pain subjects. J Spinal Disord. 1998;11:430–439.
3. Jackson RP, McManus AC. Radiographic analysis of sagittal plane alignment and balance in standing volunteers and patients with low back pain matched for age, sex, and size. A prospective controlled clinical study. Spine. 1994;19:1611–1618.
4. Janik TJ, Harrison DD, Cailliet R, Troyanovich SJ, Harrison DE. Can the sagittal lumbar curvature be closely approximated by an ellipse? J Orthop Res. 1998;16:766–770.
5. Troyanovich SJ, Cailliet R, Janik TJ, Harrison DD, Harrison DE. Radiographic mensuration characteristics of the sagittal lumbar spine from a normal population with a method to synthesize prior studies of lordosis. J Spinal Disord. 1997;10:380–386.
6. Harrington JF, Messier AA, Bereiter D, Barnes B, Epstein MH. Herniated lumbar disc material as a source of free glutamate available to affect pain signals through the dorsal root ganglion. Spine. 2000;25(8):929-936.
7. Harrison DE, Colloca CJ, Harrison DD, Janik TJ, Haas JW, Keller TS. Anterior thoracic posture increases thoracolumbar disc loading. Eur Spine J. 2005;14(3):234-242.
8. Keller TS, Nathan M. Height change caused by creep in intervertebral discs: a sagittal plane model. J Spine Discord. 1999;12:313-324.
9. Keller TS, Harrison DE, Colloca CJ, Harrison DD, Janik TJ. Prediction of osteoporotic spinal deformity. Spine. 2003;28:455-462.
10. Nagurka ML, Hayes WC. An interactive graphics package for complex shapes. J Biomech. 1980;13:59-64.
11. Jinkins, JR, Dworkin, JS, Green, CA, et al. Upright, Weight-Bearing, Dynamic-Kinetic MRI of the Spine: pMRI/kMRI. Rivista di Neuroradiologia. 2002;15:333-357.


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  by supersy | 2017-08-09 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

Breathing and Chronic Neck Pain: 慢性頸椎痛と呼吸の関係。

慢性的に首が痛い、というのも決して珍しい主訴ではないと思うんですが、頸部の痛みも呼吸と呼吸障害への密接な関係があります…という論文ふたつ、さくっとレビューです。
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首の痛みが呼吸障害を生むのでは?という論文1は見たことがあったんですけど、これは常々chicken or eggなんじゃないのかなと思っておりました。私個人の意見としては、どちらかというとdriving forceは呼吸なんじゃないかと。それで痛みによって不安に駆られ交感神経優位になり、ますます呼吸が悪化するんじゃないのかな、とか。まー恐らく正解はこの中間の「どちらもchickenでどちらもegg」なんでしょうけれども。

さて。この論文2では45人の慢性頸椎痛患者(男13人、女32人、平均年齢35.9±14.5歳)と同じく45人のmatched-control(男13人、女32人、平均年齢35.4±14.0歳)を対象に、1) 息を吸う・吐く強さ (ICC=0.81~0.83); 2) 首の屈曲筋・伸展筋の強さ (Isometric Strength、ICC=0.90~0.96); 3) Craniocervical Flexion Test (*首の深層屈曲筋群の持久力を見るテスト、ICC=0.91); 4) 頸椎可動域; 5) Forward Head Postureの度合い(craniovertebral angle: C7から耳までの角度を計算、ICC=0.88, 下図参照); 6) VAS; 7) 全5つのPatient-Based Outcome Measures - Neck Disability Index (=痛みによるdisabilityがどれほどあるか), the Baecke Questionnaire of Habitual Physical Activity (普段どれだけ運動をしているか), Hospital Anxiety and Depression Scale, Tampa Scale for Kinesiophobia, Pain Catastrophizing Scale…を計測、記録したそうな。うわー膨大なデータ。これらのOutcome Measureの測定の順番はランダムだったそうで、バイアスやorder effectsがないようにしましたよー、という記述アリです。それぞれの測定法とrationaleをしっかり説明しているところも好感が持てます。
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*知らなかったので調べてみました。テーブルに寝た状態で、バイオフィードバック圧力計を首の下に入れて20 mmHgになるまで膨らませてから(↓写真左、中央)、Chin tuckをして圧を22 mmHg; 24 mmHg; 26 mmHg; 28 mmHg; 30 mmHgまで上げ(↓写真右)それを10秒キープする…というのをそれぞれの圧で3回繰り返すんだそうな。
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で、結果はというと、慢性頸椎痛のある患者は健康なコントロールに比べて…
1. Forward Head Postureと鬱・不安症の症状に関しては大差なし
2. 頸椎伸展筋が著しく弱く(p<005)、屈曲筋群も弱い傾向にある(p-value not reported)。深層屈曲筋群の持久力は著しく低く (p<0.05)、頸椎の可動域も全ての面において制限が大きい(p<0.05)。
3. 吸気/呼気の割合こそ大差が見られなかったものの(p>0.05)、最大吸気圧(13.8%)、最大呼気圧(15.4%)はそれぞれ共に、健康な被験者のそれに比べて著しく低かった(p<0.05、Table 1参照)。
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…で、最大吸気圧と相関性が見られたのは、頸椎屈曲筋(r=0.70, p<0.001)と伸展筋(r=0.62, p<0.001)の強さ、Kinesiophobia(r=-0.43, p<0.01)、とCatastrophizing(r=-0.3, p< 0.05)。最大吸気圧との相関性が認められたのは頸椎屈曲筋(r=0.69, p<0.001)と伸展筋(r=0.66, p<0.001)の強さ、頸椎の痛み (r=0.33, p<0.05)、Neck Disability Index(r=-0.35, p<0.05), Kinesiophobia (r=-0.40, p<0.05)とCatastrophizing (r=-0.36, p<0.05)だったそうで。
つまるところ、ものすごくざっくり言って、首の屈曲・伸展筋群が弱い、首が痛い、機能制限がある、首を動かすことに恐怖心がある…こういった度合が高ければ高いほど呼吸力が下がっている傾向にあるというわけですね。
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この論文は、慢性頸椎痛の患者のアセスメント・リハビリは呼吸の要素を含むべきである、という風に〆られていますが、もっと言うと、呼吸介入を早めにすれば頸椎慢性痛そのものの予防にもつながるかもしれませんね。もちろん、相関関係≒因果関係なので、これは他の研究を持って証明する必要がありますけど。

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同じ研究チームの論文で、こちら3も。
こちらの論文で着目しているのはthe actual gas exchange。冒頭で腰椎などの痛みを抱える患者はHypocapnia(血液中の二酸化炭素が下がり、pHがアルカリ性に傾く現象)に陥りやすいという理論を紹介(これは知らなかった)しており、4,5 この現象が慢性頸椎痛の患者にも認められるかどうか、先の研究と全く同じ被験者(慢性頸椎痛患者45人、Matched Control 45人)を使って検証しています(…というか、上野研究と同時進行で行われていますね、明らかに)。80% Statistical Powerを得るために必要な被験者数は各グループ26人だそうなので、45人はそれを優に超えている、という表記もいいですね。
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手っ取り速く、結果です。動脈内の二酸化炭素は慢性頸椎痛患者のほうが著しく低下しており(34.9±2.9 mmHg vs 37.3±3.5 mmHg、↑上表参照)、35 mmHg未満が一般的に"hypocapnia”と診断のつくカットオフになることを考えれば、平均的な慢性頸椎痛の持ち主はhypocapniaと名前がついて然るべきということが分かりますね。血中二酸化炭素との相関性が見られたのは頸椎屈曲筋(r=0.34)と伸展筋(r=0.35)の強さ、深層屈曲筋群の持久力(r=0.31)、痛みの強さ(r=0.34)、Kinesiophobia(r=0.35)とCatastrophizing(r=0.30; p<0.05)だったそうな。

Substance Pがhyperventilationを生むのか、痛みがあることによって患者の呼吸が浅くなり、self-induced hyperventilationが起こるのか…(過呼吸時は、ちょいとした興奮状態なので、痛みの感覚が鈍るんですよね。6 そのanalgesic effects/鎮痛効果を身体が自然に求めて、浅い呼吸をprogrammingしてしまうのか)。それとも、そもそも呼吸がこの痛みの原因のひとつなのか…。色々と妄想は尽きませんが、「首がずっと痛いんです」と訴えてくる患者の体の中でこれだけ複雑なことが起こっているとしたら、「よし、じゃあ鎮痛剤出しましょう」「ストレッチしましょう」「ホットパック当てましょう」のような対処療法では問題の本質に対して対応しきれないことは明らかですね。患者の主訴に対して原因を見極め、holistic approachを!とはアメリカでもよく謳われますが、最近の様々な研究結果を見ていると、呼吸に介入せずにholisticなアプローチをしているとはもはや言えないだけの科学的なエビデンスは十分にあるように思います。…まぁ、もちろんそう考える私の頭の中は私らしいバイアスでいっぱいなわけですけども。

1. Kapreli E, Vourazanis E, Strimpakos N. Neck pain causes respiratory dysfunction. Medical Hypotheses. 2008;70(5):1009-1013.
2. Dimitriadis Z, Kapreli E, Strimpakos N, Oldham J. Respiratory weakness in patients with chronic neck pain. Man Ther. 2013;18(3):248-253. doi: 10.1016/j.math.2012.10.014.
3. Dimitriadis Z, Kapreli E, Strimpakos N, Oldham J. Hypocapnia in patients with chronic neck pain: association with pain, muscle function, and psychologic states. Am J Phys Med Rehabil. 2013;92(9):746-754. doi: 10.1097/PHM.0b013e31829e74f7.
4. Glynn CJ, Lloyd JW, Folkhard S. Ventilatory response to intractable pain. Pain. 1981;11:201-211.
5. McLaughlin L, Goldsmith CH, Coleman K. Breathing evaluation and retraining as an adjunct to manual therapy. Man Ther. 2011;16:51-52.
6. Chalaye P, Goffaux P, Lafrenaye S, et al. Respiratoryeffects on experimental heat pain and cardiac activity. Pain Med. 2009;10:1334-1340

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  by supersy | 2017-08-06 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

横隔膜呼吸エクササイズでバランス能力が向上する?研究レビュー。

「知識アップデート期」と称して『トピックをひとつ決め、半日~一日かけてデータベース使って関連論文の検索・読み込みに費やす』みたいなことを定期的にするんですが、今日は呼吸関連の論文で最新のもの、読み飛ばしているのがないかどうかと色々と読み漁っていました。面白いものを見つけたのでまとめておきます。

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一番の収穫はこの論文ですかね。今年3月発表の比較的新しいPreliminary clinical trial。1

バランスを取る能力に欠けていると怪我をしやすくなる、2,3 だからバランス能力って大事ですよね、という観点から、コアを鍛えるとバランス能力が上がる4-8→ではコアの要とよく称される横隔膜を鍛えることでバランス能力は上がるのか?という新たな説を検証しています。呼吸エクササイズをやることでバランス能力が向上するか?っていう、その切り口が面白いっすね。

この研究はあくまで「この新説は検証する価値があるのか」を見極めるためのPreliminary clinical trialなんで規模は小さいし、control組もないんですけど、とりあえず詳細を見てみましょう。21歳以上の健康な被験者を募り、inclusion/exclusion criteriaには脳震盪・下肢のケガ・耳の病気など、バランス能力に直接影響が出そうな要素も含まれていて、こういった既往歴のある被験者は丁寧に除外してあります。研究に実際に参加した被験者の数は13人(男7人、女6人、平均年齢33歳)。80%のStatistical powerでlarge effectをdetectできるように統計を設定(=前例が無いので、この研究を通して適切な被験者数を決めようとしている)してますね。規模が小さい以外はここまでは妥当なデザインでしょうか。いーですね

被験者にassignされた呼吸エクササイズは各週2種類。ひとつのエクササイズにつき5分、一日2回ずつ毎日合計20分行ってもらい、それを一週間に少なくとも5日間、計8週間継続してもらったとのこと。呼吸エクササイズは全部で難易度別に5種類あり(↓)、全被験者は最も簡単なもの(難易度☆☆☆☆★)から始め、ぞれぞれの週の終わりの顔合わせ(face-to-face)のセッションでそれを完璧にやりこなせるようになっていれば、翌週からはひとつ難易度の高いエクササイズにレベルアップする…というシステム(完璧にできなければ、同じ難易度をもう一週繰り返す)。各エクササイズの指導動画のリンク(YouTube)が毎週被験者に送られ、必要があれば被験者が何度でも正しいエクササイズを確認できるような環境を整えていたのは評価されるべきですね。
 難易度☆☆☆☆★(1): supine breathing & crocodile breathing
 難易度☆☆☆★★(2): supine breathing w/ Theraband & crocodile breathing w/ Theraband
 難易度☆☆★★★(3): supine breathing w/ belt & crocodile breathing
 難易度☆★★★★(4): seated breathing & 90/90/90 breathing
 難易度★★★★★(5): seated breathing w/ Theraband & 90/90/90 breathing w/ belt
何故これらのエクササイズなのか(過去にどんな研究で使われたものなのか)?どうしてこれらのprogressionが正しいと言えるのか?説明が一切無いのが気になります(個人的にcrocodile breathingの利点はさほど感じません)。あと、face-to-faceセッションは週に一回で、残りの週6日はエクササイズを家で各自やってもらうシステムも、コントロールしていない要素を増やす原因になります。監視していない分、被験者が実際指示通りにエクササイズをやってくれていたかどうかの信憑性は低くなるわけです。研究の最後(8週目の終わり)に被験者は各自8週間分のエクササイズログを提出した、との記述は一応ありますが、そんなのはいくらでも偽造捏造できますからね。実際の被験者のcompliance rateも別にこの研究では報告されていませんし。あと、「少なくとも」5日間の「少なくとも」が個人的に気になってしまいます…。どうして「5日間」と決めず、幅を設けたのでしょう?週5日間やった人と、7日間やった人とでは効果の現れ方が違う可能性も否定できません。一週あたりたった2日間の違いでも、8週積み重ねれば16日分になりますしね。

…ともあれ。

各週に一度face-to-faceセッションがあったわけですが、このセッションでは横隔膜呼吸のエクササイズをする前に毎回以下のテストをおこなったそうです。ちなみにデータを取る側の研究スタッフは一貫性があるように毎回同じscriptを読み上げ、指示に違いが無いように配慮したそうな。
静的テスト: Modified BESS test (SCATに載ってるやつ)…なぜ正規のBESS Testでなく、Modified? Rationale?正規のもののほうが研究されているのは間違いないと思うが?
動的テスト: 目を開けて、そして閉じて、それぞれ40秒間その場で更新してもらい、パワープレートを使ってバランスを計測。右足で荷重していた時間と左足で荷重していた時間の差が少なければ動的バランスが取れているという指針になるらしい。OptoGait protocolsと呼ばれるプロトコルらしいんですが、私はこれを今までに見たことがありません。Reliability, validityの表記無し?
呼吸テスト: 試験者が被験者の脚を90/90/90 positionで支え(↓写真のように股関節、膝、足首を90°に屈曲)、肋骨を内旋位に持っていく。この状態で、試験者は下肢の支えを外し、被験者は自力でこのポジションを保ったまま「下腹部と胸部後方に空気を入れるようなイメージ」で呼吸。被験者が開始ポジション(90/90/90且つ肋骨内旋位)を保ったまま呼吸ができれば最高点の3点、代償が見られれば2点、フォームが崩れれば1点、痛みがあれば0点をつける。これもとある一冊のリハビリの教科書から抜粋されたもののようだけど、rationaleやvalidityは?「ポジションが保たれた」「代償がある」というのは判断する人によっても変わるのでは?どれほどのトレーニングを受けた試験者なら適切な判断ができるのか?
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手っ取り早く結論を言ってしまうと、呼吸テストの点数(p=0.001), Modified BESSの片足スタンス(p =0.001)とタンデム・スタンス(p=0.039)は時間軸を追うごとに著しく改善(Table 2, Figure 1, Figure 2参照)。特に片足バランスのスコアの改善は呼吸テストのスコアの改善と大いに関係あり(Figure 1参照)、と出たそうな。

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個人的には「取ったデータは全部見せやがれ」と思うタイプの私。incompleteなデータが何より嫌いなので、両足バランス時のBESSスコアと動的テストの結果が「Result」セクションで一切触れられていないのが納得いきません。書かれていないということは相関関係も改善もなかったと考えるのが全うだろうけど、もしかしたら悪化が認められたのかも、などとしたくもない詮索をしてしまうではありませんか。後述(「Discussion」セクション)で、両足スタンスはどの計測ポイントで誰もエラーを起こさなかったこと(=スコアは常に最高で、変化は全く見られなかった)、そして動的バランスに関しては計測器具の不備があったかもしれないことや、このOptoGaitプロトコルがやはりどれだけ確立されたものかのエビデンスが欠如していることが改めて挙げられています。…じゃあなんでこれ選んだの?時間の無駄では?Y-Balanceとかもっとシンプルでもっと研究が進んでいる動的バランステストじゃダメだったの?

あとですね、個人的には静的バランス能力に変化が出たのは面白いなぁと思う一方で、動的バランスに変化が(少なくともこの研究では)認められなかったとしたら、それはいったいどれほどのclinical relevanceがあるのかというイジワルな問いを著者らに投げかけたくはなりますね。

考察には、横隔膜呼吸を通して深層腹筋群の活性化が促されたのではとの見解が示されており、私もそれは妥当な推測ではないかと思います。もちろん、単純に8回テストを行ったから、learning effectsによって改善が見られたという可能性も否定できません。これは、次の研究でcontrol組と比較をおこなえば明らかになることでしょう。

考察に書いてあったことで、特筆されるべきと思ったこともメモしておきます。8週間のエクササイズを終えた13人の被験者に、研究の最後に口頭で感想インタビューを行ったらしいのですが(特に聞いた質問の一覧表などはなかったので、informalなものだったんだろうと推測します)、その際の感想として1) 被験者が呼吸エクササイズを総じて楽しんでおこなえたこと、2) 日常の様々な活動でその効果を感じられたこと(例: 趣味のロッククライミングの際により体のバランスが取れていると感じた、ロードバイクに乗っているときに腰痛が起きなかった、オリンピックリフティングをする際により力が入るようになったなど)が出てきたんだそうです。バランス向上のみならず多角的な改善が見られたのは興味深いです、本格的な研究をする際には、こういった声がもっと聞けるようにMixed-studyにしてQualitative analysisも入れてほしいですね!

さて、粗削りではありますし穴も多いですが、楽しく読めた論文でした。近々出るであろう本編の研究も楽しみにしたいと思います!

あ、おまけですがこんな論文9も読みました。こちらは一年ほど前に発表されたもの。
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この論文にはAbdominal hollowingやabdominal bracing maneuversはpelvic floor(骨盤底筋群)の不活性を促す、という内容の結論が書かれており、理想的な横隔膜の活動には協調性のある骨盤底筋活動が欠かせないという他の研究結果10,11と合わせて解釈すれば、abdominal hollowingやabdominal bracing maneuversをおこなっている際、横隔膜を最大限に使った呼吸は実践できていないということになります。abdominal hollowingやbracingそのものができる能力があること、そしてそれを状況に応じて時に選択・実行することには何も問題はないと思うのですが(以前書きましたね、availabilityやvariabilityの話に繋がります)、こういった呼吸がhabitualになったり、こういった呼吸法のみしか選択肢がなくなってしまったら、身体の様々なdysfunctionに繋がるのではないかと危惧させられるような結果です。

1. Stephens RJ, Haas M, Moore WL, Emmil JR, Sipress JA, Williams A. Effects of diaphragmatic breathing patterns on balance: a preliminary clinical trial. J Manipulative Physiol Ther. 2017;40(3):169-175. doi: 10.1016/j.jmpt.2017.01.005.
2. Hrysomallis C, McLaughlin P, Goodman C. Balance and injury in elite Australian footballers. Int J Sports Med. 2007;28(10):
844-847.
3. McGuine TA, Greene JJ, Best T, Leverson G. Balance as a predictor of ankle injuries in high school basketball players. Clin J Sport Med. 2000;10(4):239-244.
4. Sato K, Mokha M. Does core strength training influence running kinetics, lower-extremity stability, and 5000M performance
in runners? J Strength Cond Res. 2009;23(1):133-140.
5. Sekendiz B, Cug M, Korkusuz F. Effects of Swiss-ball core strength training on strength, endurance, flexibility and balance in
sedentary women. J Strength Cond Res. 2010;24(11):3032-3040.
6. Filipa A, Byrnes R, Paterno MV, Myer GD, Hewett TE. Neuromuscular training improves performance on the star
excursion balance test in young female athletes. J Orthop Sports Phys Ther. 2010;40(9):551-558.
7. Zazulak BT, Hewett TE, Reeves NP, Goldberg B, Cholewicki J. Deficits in neuromuscular control of the trunk predict knee
injury risk: A prospective biomechanical-epidemiology study. Am J Sports Med. 2007;35(7):1123-1130.
8. Sandrey MA, Mitzel JG. Improvement in dynamic balance and core endurance after a 6-week core-stability-training program in high school track and field athletes. J Sport Rehabil. 2013;22(4):264-271.
9. Ehsani F, Arab AM, Assadi H, Karimi N, Shanbehzadeh S. Evaluation of pelvic floor muscles activity with and without abdominal maneuvers in subjects with and without low back pain. J Back Musculoskelet Rehabil. 2016;29(2):241-247.
10. Park H, Han D. The effect of the correlation between the contraction of the pelvic floor muscles and diaphragmatic motion during breathing. J Phys Ther Sci. 2015;27(7):2113-2115. doi: 10.1589/jpts.27.2113.
11. Park H, Hwang B, Kim Y. The impact of the pelvic floor muscles on dynamic ventilation maneuvers. J Phys Ther Sci. 2015;27(10):3155-3157. doi: 10.1589/jpts.27.3155.

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  by supersy | 2017-08-06 02:00 | Athletic Training | Comments(0)

船橋EBP講習を終えて、と、「PRICE」から「POLICE」に見る急性障害マネジメント理念の変化。

先週末はおおすか整形・船橋整形さんの合同開催によるクローズドのEBP講習を一日おこなって参りました。

EBPの基礎の話と絡め、今回はAMIや腱障害へのリハビリアプローチなどを「EBP治療介入・臨床応用編」として掘り下げてきました。この内容は、今回いただいたフィードバックを元に改良して、近日中に公式EBP講習の一環として申請しBOC認定を取る予定です。臨床で活躍する皆さんにぜひ役立てていただきたい内容ですので、受講ご希望の方は都内で開催する際にぜひ!
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せっかくリハビリの話もするなら、実践あるのみ!…ということで、(↑)皆でドロップスクワットも!じゅっかいさんせっとぉぉぉ!日曜日に皆で汗じっとりかきました。

多くの皆様、ご参加ありがとうございました。また来年も、きっとお世話になります!
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今回は初めてのコンシンカイもカイサイしました!アメリカの講習会では講師と参加者が飲んでコミュニケーション、という文化はないのでいわば「懇親会デビュー」でした。主催・運営してくださった主要スタッフ(↑)の多くが同年代だったので色々な「同年代話」で盛り上がりました。主にスラムダンクと幽遊白書…。



ついでにというかなんというか。Back to the basic...ということで、今回は怪我の対応の基礎のお話も少しだけ。

「足首の捻挫に、アメリカではギプスをしないんですか?」と聞かれたことがありました。

私はびっくりして「日本ではするんですか?」と逆に聞き返してしまいましたが、そうお尋ねしてくれた方曰く「よくする」んだそうで。骨折はともかく、アメリカで足首の捻挫対応にギプス固定はしたことも見たこともありません。私個人が選ぶアプローチとしては、荷重ができれば松葉杖やウォーキングブーツを併用しながらストレスを調節して歩かせるのが基本。痛みで荷重が一切できなければ、U字コンプレッション・パッドとバンテージで圧迫して(↓)松葉杖2本で非荷重状態を作ります…が、(荷重はまだ不可でもとりあえず)動かせるならクライオ・キネティックスなど早期に導入してなるべく動かせます。
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アメリカでは1970年代後半から2000年初頭にかけてRICE、またはその進化形のPRICEと言われるケガの救急処置のモデルがポピュラーになりましたが、2012年に発表されたこの論文1(↑ ちなみにこの論文は全文無料です)でBleakley氏らは「このモデルはエビデンスを伴わない」「より良いものにアップデートされるべき」と主張。この論文発表から5年たった2017年現在、PRICEまたはRICE「しか知らない」もしくは「に頼りきり」のマトモなクリニシャンはアメリカにはもういないのではないかと思います(状況によってPRICEやRICEのチカラを借りるのが適切なケースももちろんあります。取捨選択をしたうえでのこういった治療を否定するつもりは全くありません、念の為。実際、Grade IIIの足関節の捻挫においては、最長10日の膝下のキャストは有効であるとするシステマティック・レビューもあります2)。

さて、それではどんなモデルが現在より好ましいとされているのか?

この論文のタイトルには「Should we call the POLICE?」つまり、「『警察』を呼びましょうか?」なんて書かれていますが、実はこれ、「(新しいモデルを)『警察』と呼ぶのなんてどうでしょうか?」ともかけられていて、新たなモデルである『POLICE (= 警察)』という新たな略語を推奨したものでもあります。

PRICEは「Protection, Rest, Ice, Compression, Elevation」の略(RICEはそこからProtectionを抜いたもの)ですが、POLICEは「Protection, Optimal Loading, Ice, Compression, Elevation」の略です。大きく変わったのはR = Rest (休息)からOL = Optimal Loading (適切な負荷をかける)という点で、この変更は「受傷直後に少し非荷重・無負荷の時期を短期間設けるのはともかく、不必要に長期のimmobilization/unloadingは有害(harmful)であり、組織の形状や機能に悪影響を及ぼす」ことから、「早期mobilizationとloadingが回復のカギである(↓)」という理念に基づいています。1-3
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患部を甘やかしすぎることなく、早いうちから体重をかけて歩く。早いうちから動かす ― もちろん、これは負荷を早く多くかければかけるほど良いという単純なものではありません。キーワードはExcessive Loading (過度な負荷をかける)ではなく、Optimal Loading (適切な負荷をかける)なのですから、やりすぎず、しかしやらなすぎない、という境界線を見定めなければなりません。回復期にある組織に負荷をかけすぎるようなことがあってはせっかく形成されてきたcollagen cross-linkが破壊され、患部が再出血・腫脹の再発など、ケガそのものが悪化したりすることもあるでしょう。大切なのは患者ではなくプロである医療従事者が「今はここまでの負荷なら適切」と見極め、モニターして継続した回復を促すということなのです。

「休みっぱなし」でなく「動く」、「動いてよい」ということに楽しみを見出すのは患者だけでなく医療従事者もそうなのではと私は思うんですよね。従来の「Rest」に比べて、新たに加わった「Optimal Loading」という言葉は工夫の余地が大いにあって、ちょいとウキウキしませんか?どれくらいが適量かな?どういったloadingを提供しようかな?と考える、新たな知的好奇心の扉が開くというか。
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そういう意味では、近年アメリカで流行っているスクーターや膝に装着するタイプのハンズフリー・クラッチ(↑)は少し疑問なんですよねぇ…。よりselectiveな荷重が可能で確かに移動は楽そうだし、短期的に患者のHRQOLは向上するケースはあるのでしょうけど、アメリカにありがちな「便利さ・手軽さ」のみを追求していて、長い目で見ると身体には悪影響になっていることもあるような…。

(しかしアメリカは肥満人口が多すぎて、松葉杖すら使えない患者が多くいる(= 腕で自重をそもそも支えられない)のも事実ですが。この国の健康問題の根は、また別のところにあるのかも知れませんね…)

ちなみに今回、I = Iceの話は掘り下げませんでしたが、ケガの急性期でのアイシングに関しては私は必ずしも否定派ではありません。以前ブログでも書きましたが、世の中のどんな療法も使いどころさえ間違わなければ体に良い効果をもたらす可能性は十分に含んでいると考えています。アイシングは悪魔でもなければ神でもありません。問題は、ほとんどの場合は使う側の人間にあるんですよね。

1. Bleakley CM, Glasgow P, MacAuley DC. PRICE needs updating, should we call the POLICE? Br J Sports Med. 2012;46(4):220-221. doi: 10.1136/bjsports-2011-090297.
2. Petersen W, Rembitzki IV, Koppenburg AG, et al. Treatment of acute ankle ligament injuries: a systematic review. Arch Orthop Trauma Surg. 2013;133(8):1129-1141. doi:10.1007/s00402-013-1742-5.
3. Jones MH, Amendola AS. Acute treatment of inversion ankle sprains: immobilization versus functional treatment. Clin Orthop Relat Res. 2007;455:169-172.

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  by supersy | 2017-07-05 23:45 | Athletic Training | Comments(4)

東京EBP講習を終えて、と、帝京平成大学訪問。

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先週末は、東京は立川でEBP講習を行ってきました!土曜日の夕方に予防医学編、日曜日の朝に評価編、午後に治療介入編と3つ続けておこない、取りたいものに自由に参加してもらうというシステムにしましたが、蓋を開けてみれば参加者の7割は東京外、南は福岡や宮崎から、北は青森からと本当に日本全国津々浦々、たくさんの方々にご参加いただきました。お付き合いいただいた皆さん、ありがとうございました!

さて、情報過多のこの時代、これからのスポーツの現場、そして医療界は、良質で最新の情報を自分で見つけ、選び、咀嚼し消化し、アウトプットしていく、という今までにないサバイバル能力が問われる社会になっていくのではと思います。もちろん、資本がある方はテーブルに座って「ごはんまだー?」とフォークとスプーンをちゃんかちゃんかと鳴らしていれば美味しい料理がテーブルに運ばれてくる…なんて生活の楽しみ方もあるんでしょうけれど、我々のほとんどは自ら狩りに出て、栄養を多く含む獲物を捕って煮たり焼いたりしてむしゃむしゃ食べ、自らの血や肉へ変えていけるようにならなきゃいけなくなるんじゃないか、と思うのです。
「エビデンス迷子」にならぬよう、「こんな魚の釣り方は誰にでもできてお手軽じゃないかと思いますけど、どうでしょう?」というノウハウをご提案させていだたいているのがこのEBP講習です。釣りって大変だと思ってたけど楽しいなぁ、意外と自分でもおっきい魚釣れるじゃん!と実感して帰っていただけていれば、そしておうちに帰っても釣りの実践を続けられる方が一人でも多くいらっしゃっていれば幸いです。

この夏のEBP基礎3講習はこれで終了しましたけども、冬には新作のEBP臨床・実践編を評価や治療介入の領域でいくつかご提供できればと思っていたりもします。EBPアドバンスト講習も提供するのはひとつの夢なんですが…うーん、あまり同時に複数のプロジェクトに手を出すのは好きではないので、これに着手するにはあと数年かかるかな。しかもアドバンストって名前つけてしまったら、あんまり人が来ないんじゃないかなって気もしてまして…うーむ。ご要望などがありましたらお聞かせください。



さて、話は変わりますが、今日は実家から歩いて20分ほどの中野駅にある大学、帝京平成大学へお邪魔してきました!
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中野北口すぐの「セントラルパーク」を抜けるとそこには大学が集まる敷地があるのですが、その一角が帝京平成大学です。ここらへんは4-5年前にできたばかりで、私自身も地元(?)でありながら、ゆっくり歩いたのは今回が初めてです。パークでは水遊びをする子供たちが駆け回り、その横にはおしゃれなレストランやバー、屋台(?)なども立ち並んでいて学生にもオフィス・ワーカーさんらにも使いやすい場所になっていました。いやー、中野もずいぶん拓けましたねー…。

今回の帰国、「今までお名前は聞いた・オンラインでやりとりをさせていただいたことはあったけどお会いする機会に恵まれなかった」方や「10+年ぶりにお会いする」方などにご挨拶できる機会が続き、いやー、ご縁というのはありがたいものだなと実感しています。業界の先輩方の哲学や職業観、将来に対する予想や展望などのお話を聞くだけでも勉強になりますし、「お前はこういう道を行くといいのではないか」という良い意味で主観たっぷりのアドバイスを頂くのも心から楽しませていただいています。茶化しているわけではなくて、自分では考えもつかなかったような視点を共有していただけるので、こういうのは非常に刺激的で貴重な時間なのです。世界が広がるとはまさにこういうことです。同時に、面白いと思うものや大事だと思っていること、「芯」が似ている先輩に出会うと非常に心強くも感じます。先輩方がつけてくださった道筋をさらにもっと太く、後ろに続く人たちに歩きやすい道にできるように、私もできることがあればいいんですけれども…。

さて、明日からは仕事で仙台に行ってまいります!荷造りを終えたら寝なくては。牛タンたーべーるー。

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  by supersy | 2017-06-22 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

書籍発売 & 熊本・福岡講習を終えて。

突然ですが、書籍が販売になりました!
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本といっても新たに書き下ろしたのではなく、2016年6月から2017年5月までの一年間「月刊トレーニングジャーナル」に掲載した連載記事がまとめて書籍化されたものです。Amazonでも販売していますが、品薄だったり在庫切れになったりしてますので、その場合は出版社であるブックハウスHDさんのウェブサイトから直接注文いただくと良いようです。もしこの夏私の講習会に来てくださる予定のある方は、各講習に数部(多くはないですが)持っていくようにしますので、直接私からご購入していただくことも可能です。事前に連絡いただければ、「予約分」としてお取り置きしておきますので、お気軽にご連絡くださいー。



さて、私事ですが、5月半ばに帰国して、今は日本で仕事をしたり論文を読んだり友人と会ったり家族と時間を過ごしたり少し芸術に触れる機会を設けたりしています。東京は博物館美術館水族館などいっぱいで本当に、英気が養えます…。幸せ…。日本にいる間、専門に関することを教えるほうも勿論なんですが、もっともっと学ぶ側にもなってみたいんですよね。滞在中、講習会や学会などにも参加してみたいなぁと色々調べてみているところです。
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さて、仕事と言えば先週末は、6月3日の土曜日は熊本の九州看護福祉大学(↑写真)にて、4日の日曜日は福岡のゴルフ&トレーニング施設、torqueさん(↓写真)を会場に個人講習を行ってきました。どちらもEvidence-Based Practice = つまり、エビデンスを生かしながら実践するとはどういうことか?という切り口で、しかしひとつは「ACL断裂評価」と「脳震盪」の最新エビデンスについて討論してみたり、もうひとつは「評価全般」と「治療介入全般」という観点から英語論文を読み込み、エビデンスを使う練習をしてみたりと、少し異なった捻りを加えた2講習となりました。
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現役の学生さんから、臨床でバリバリ活躍されている皆様に囲まれて、どちらの講習も和やかに進行しつつも、ずばずばとたくさんの刺激をいただくことができました。特に熊本は今回初めてだったのですが、一日早く前乗りしたのでゆっくり観光をする時間もあり、先輩ATC・井出先生に水前寺公園、阿蘇神社、阿蘇山に連れて行っていただいたり(火山からもくもく煙が出ていました!)、熊本城や熊本県立美術館にふらりと立ち寄ったりと、なんだかもう、仕事しに来たんだかなんだかってくらい羽を伸ばしてしまいました。各地でお世話になった皆様、ありがとうございました!
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熊本城は思った以上に城壁が崩れていました。災害の力の強さを改めて感じます。私は目立ったボランティアなど、立派なことは何もしていませんが、また改めて家族を連れてここへ旅行に来て、温泉を楽しんだり美味しいものを食べたり…そんな形で「復興」へ貢献したいと思います。熊本、とても良いところでしたよ!皆さんもぜひ!
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さて、明日はPRI・マイオキン講習のために広島へ出発!梅雨入りしたばかりの西日本ですが、天気もまぁまぁ良さそうでよかった。こちらもわいわい楽しんで、ロン・ワールド全開で行きたいと思います。

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  by supersy | 2017-06-08 20:00 | Athletic Training | Comments(0)

SCAT5と最新脳震盪コンセンサス・ステイトメント: その2。

前回に引き続きですが、6月4日に福岡で行う講習のご案内もさせていただきます。
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画像はクリックで拡大します。こちらは東京の講習と内容はほとんど一緒なんですが、主催してくださってる団体が違うので、いくつか昨日紹介した講習と異なる点数があります。1) 同じ内容をもう少し時間をかけてゆっくりと、そしてその分多くの文献をレビューします(特に治療編)。2) 主催団体が異なるため、BOC認定CEUはつきません。3) そのぶん、お値段が少し抑えめになっています。

福岡での個人講習は初めてなので、多くの方にお会いできるのを楽しみにしています!エビデンスにもうちょっと強くなりたい、英語文献の苦手意識を減らしたい、という方はぜひー。



さて、昨日の続きです。

7. Refer
成人なら10-14日以上、子供なら4週間以上症状が続く場合を"persistent symptoms"と呼ぶ、と。ひとつ前のリハビリのセクションで話された通り、symptom-limited aerobic exerciseとc-spine, vestibular rehabの使用を推奨する内容になっています。「今のところ、pharmacotherapyに関しては限られたエビデンスしかないが、これらを使用する場合、RTPの際の『無症状』状態は薬を飲んでいない状態での『無症状』であるよう確認すること」とありますが、これはごもっともですね(Amantadineとかのことを言っているのかなー)。

8. Recovery
より回復に長い時間がかかるpredictorとして、意識消失や健忘症など様々な要素が研究されてきていますが、今のところ一番はっきりと分かっているのが、「脳震盪を受傷した一日目の症状が深刻であればあるほど、回復には長い時間を要することが予測できる」ということなんだそう。逆に言うと、「初日の症状が軽ければ軽いほど、その先の見通しも明るい」ということにも。偏頭痛や精神疾患の既往歴がある患者は症状が一ヶ月以上続くリスクが高い一方、ADDやADHDなどの学習障害は脳震盪からの回復には影響が無いようだ、ということも報告されています。

9. Return to Sport
これは百聞は一見に如かず、ということで、第4回と第5回国際スポーツ脳震盪会談のRTPモデルを直接比べてみちゃいましょう!上が第4回から抜粋したもの、1 下が今回のコンセンサス・ステイトメントから抜粋したもの2 です。
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もうステージ1が明確に違いますね。闇雲にただ患者を休ませるのではなく、症状に導かれて(symptom-guided)活動をすることの重要性が改めて強調されています。ここらへんは、整形のケガと同じですよね。昔は足首の捻挫なんかもPRICE (protection, REST, ice, compression, elevation)しろと言われてきたのが、近年はPOLICE (protection, OPTIMAL LOADING, ice, compression, elevation)こそがカギである、3 と言われているのと同様に、脳震盪患者も1-2日しっかり休んで、3日目からは症状が悪化しない範囲で適度な活動をすることが大事、という風に専門家間の価値観が変わってきているのがわかります。

10. Reconsider
「エリート選手であろうがそうでなかろうが、同じマネジメント方法を変えることがあってはならない」というのは納得です。プロスポーツのプレイオフやオリンピックなんかで、あり得ないくらい速い脳震盪からの競技復帰を目にしたことは一度や二度ではありませんから…。

Child (5-12歳)やAdolescent (13-18歳)が脳震盪からの回復により長い時間がかかる(i.e. Childrenの場合は4週間)というのは今更言及するまでもないとは思うのですが、「彼らにまず優先されるべきは完全学業復帰で、その後で競技復帰がなされるべきである」「学校単位でスムーズな学業復帰の指針となるacademic accommodationを設け、サポート体制を整えておくべきである」と書かれているのはいいですね。これはスポーツ医療とは分けて、もう完全に学校側の責任にしてしまってもいいと思うのですが…。もちろん、スポーツと学校側のコミュニケーションと意思疎通は大事だと思うのですが、責任は振り分けたほうがいいとも思うのです…。私だけかな…。

11. Residual Effects and Sequelae (後遺症)
ここではほんの少しだけCTEについて記述されていますが、「繰り返されるhead traumaでCTEが起こる可能性がある」「…が、因果関係はまだ確立されておらず、これからの研究を待つ」という、強い肯定も否定も含まない文章になっています。True prevalenceがまだわからないのですから、この慎重な表現は当然ですよね。私も続報を待っています。

12. Risk Reduction
ヘルメットやマウスガードのエビデンスは限られており、どちらかというと「使用しても脳震盪予防には効果が無い」可能性のほうが高そう。最も確実に脳震盪予防に効果があったのは1) ユースホッケーでのバディーチェッキング禁止ルールの採用; いくばくかのエビデンスがあるのは2) ユースアメフトのコンタクト制限は頭部へのコンタクトを減らす(が、それが脳震盪を減らすかは不明); 3) 大学アメフト選手のビジョン・トレーニングは脳震盪を予防するかもしれない(これについては初めて聞きました…参考文献を読んでみたいけど引用がされていないので知っている方教えてください)だそうで。逆に「予防には無効」だと分かっているのは4) ユースホッケーの「フェアルール」採用; 5) ヘルメット・パッド無しのアメフトのタックル練習 (えー!これ期待していたのになぁ、ダメだったんだ)なんだそうです。ふむふむ。

さぁ、コンセンサス・ステイトメントはここまでなのですが、SCAT54についても手短にまとめておきたいと思います。
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冒頭(p.2前半)に分かりやすく"STEP 1: RED FLAGS"の記述があるのは非常に好感が持てます。なるほど、p.2が"Immediate or On-field Assessment"で、p.3-5が"Office or Off-field Assessment"になってるんですね、患者をいつ動かしていいのか明確で良いと思います。前回SACの後にあったNeck Examinationが今回はCervical Spine Assessmentとしてかなり早い段階で出てくる(p.2の最後)ところも、頸椎損傷をまず除外しようという目的なんでしょうね。しかし、Step 3 Maddocks ScoreとStep 4: Glasgow Coma Scaleは順番が逆なのでは?とどうしても思ってしまうのですが…。うーん、ここだけは少し腑に落ちないなぁ。
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p.4はまるまるSAC…数字も覚える単語もかなりバリエーションが増えていますね。で、p.5でNeurological Screenというのが初登場です。ここにFinger-to-Nose TestにTandem Gaitと、一見消えた風に見せかけられたアイテムたちが隠れています。で、次はそのままmBESS Testで、最後にSACのDelayed Recallやって終わり、と。

つまるところ内容はSCAT3とほぼ一緒。少し順番の入れ替えがあったのと、いつ患者を動かすかのタイミングを明確に表記したところが今回のSCAT5のユニークさでしょうか。"The SCAT5 cannot be performed correctly in less than 10 minutes"と冒頭に明記されていますが、SCAT5そのものは、やはり全てちゃんとやろうと思うと10分以上はどうしてもかかるものです。完全なるサイドラインテストではありません。そういう意味では、「ここまではon-field」「ここらはoff-field」という区別がされることでかなりユーザーフレンドリーにはなったのではと思いますね。個人的に、疑問がないところがないわけではないですが…。

K-D Testみたいな要素も入るのかなと思っていましたが、そういうのはないんですね。やっぱりportability(持ち運びの容易さ)も大事なんだろうし、これだけの小さなスペースに収めるのに無理があるということなんでしょうか。お手軽さ、スピーディーさでいったら大したもんだと思うんだけどなー。

今回のアップデート、Dr. Leddy氏らの研究内容が組み込まれたのはどきどきワクワクで、ある意味パラダイムシフトの始まりと言えそうですが (これを受けてNATA Position Statementも緊急でミニアップデートとかしないのかなー)、それ以外にこれといって目からウロコが落ちるようなびっくりする内容はなかったですね。将来、2020年に発表されるという第6回のコンセンサス・ステイトメントを楽しみに待つことにします。次回はウロコぼろぼろ落としたいです!

1. McCrory P, Meeuwisse WH, Aubry M, et al. Consensus statement on concussion in sport: the 4th International Conference on Concussion in Sport held in Zurich, November 2012. Br J Sports Med. 2013;47(5):250-258. doi: 10.1136/bjsports-2013-092313.
2. McCrory P, Meeuwisse W, Dvorak J, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. Br J Sports Med. 2017;pii:bjsports-2017-097699. doi: 10.1136/bjsports-2017-097699.
3. Bleakley CM, Glasgow P, MacAuley DC. PRICE needs updating, should we call the POLICE? Br J Sports Med. 2012;46(4):220-221. doi: 10.1136/bjsports-2011-090297.
4. Echemendia RJ, Meeuwisse W, McCrory P, et al. The sport concussion assessment tool 5th edition (SCAT5). Br J Sports Med. 2017;pii:bjsports-2017-097506. doi: 10.1136/bjsports-2017-097506.

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  by supersy | 2017-05-12 23:00 | Athletic Training | Comments(0)

SCAT5と最新脳震盪コンセンサス・ステイトメント: その1。

6月17・18日に東京は立川で開催するエビデンスに基づく実践(EBP)講習ですが、引き続き受講申し込み受付中です!

<講習日時>
2017年6月17日(土)
18:15pm-21:30pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで

2017年6月18日(日)
9:15am-12:30pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
12:30pm-13:15pm 昼食(各自)
13:15pm-16:30pm エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで

<会場>
   JR中央線立川駅南口より、徒歩13分
   JR南武線西国立駅より、徒歩7分
   多摩モノレール立川南駅より、立川南通りを直進、徒歩12分

<受講料> 
  一般 1コース 9,000円
     2コース 16,200円 (10% off - 1,800円引き)
     3コース 22,950円 (15% off - 4,050円引き)
  学生 1コース 8,100円 (10% off - 900円引き)
     2コース 14,400円 (20% off - 3,600円引き)
     3コース 20,250円 (25% off - 6,750円引き)
     *現役大学・専門学校生(国内外不問)さん対象。申込後に学生証の提示が必要です

講習の内容など、詳しくは3月30日付の記事をどうぞ!申込はこちらからです。



さて、忙しくてバタバタしていましたが、ようやく春学期が終わりました!明後日の土曜日に卒業式に出席して、日曜日に日本へ帰ります。そんな時期になんですが、つい先日 "Consensus Statement on Concussion in Sport - the 5th International Conference on Concussion in Sport Held in Berlin, October 2016"1と、SCAT5が発表になりましたね!毎度のことですが錚々たる著者陣…名前だけを眺めていてもワクワクどきどきゾクゾクというか…著者の専門分野から内容もそれなりに想像つくところがいいですね。Dr. Leddy氏、がっつり今回は入ってますよ!さすがです。
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それにしても…最初にSCAT5って目にしたときに、「えっ、いつのまにSCAT4が出てたの?それをまさか何年も見逃していた!?教師失格!?」とひやりとしたのですが、なんと「第5回国際脳震盪会談だったのでキリがいいからSCAT4を飛ばしてSCAT5にしました」というオチとは…。かなり焦ったのでやめてほしい…。

では、とりあえず最初から順番に読み進めて、私が気になったことを勝手にどんどん挙げていきます。

1. Preamble (全文)
「『絶対』ではない」―このコンセンサス・ステイトメントは2016年10月現在持てる知識を全て集めて作られたもの。脳震盪をめぐるエビデンスは日々発見され続けているからこそ、このコンセンサス・ステイトメントはその他のsystematic reviewなど一緒に読まれるべきであり、あくまで我々の医療を導く「一般的に作られた」「ガイド」なのであって、「医療ガイドライン」や「法的スタンダードケア」として解釈されるべきではない、という文章が頭に残ります。「2020年12月までにはまた新しい声明出しますので」という記述からもあるように、脳震盪に関しての研究が爆発的に進んでいることから、今回のこの声明を絶対的なガイドラインとして発表することはあまりにリスキーだと踏んだのでしょう。「皆はこれを参考に、現場では個々の判断でやってよね」という含みを持たせたニュアンスです。一見無責任にも聞こえますが、これは現状仕方ないのではと私は思います。

2. Recognize
ConcussionはTBIスペクトラムの一部で、中では軽度であると書いてはいるものの、「脳震盪」という言葉の曖昧さ、不正確さを改めて指摘しているのも印象的です。脳震盪の定義は今までと変わらないのですが、改めて書いておくと…
 ● caused by a direct blow to the head, face, neck or elsewhere on the body with an impulsive force transmitted to the head
  必ずしも頭部に直接衝撃を受けなくても脳震盪は起きますよー、と。
 ● typically results in the rapid onset of short-lived impairment... However, in some cases, signs and symptoms evolve over a number of minutes to hours
  「症状はほとんどの場合すぐに出る」としながら、「しかし、症状が如実に出るまで数分から数時間かかることがある」というのも大いに記しておく価値のある文章です。
 ●頭部にかかる衝撃と脳震盪の関係性はまだまだ解明しきれていない。脳震盪やマウスガードを使った研究も進んではいるが、脳にかかる衝撃を直接計測できるような道具はまだないので、今回の声明ではそういったデータはあまり考慮されていない。
 ●脳震盪の症状は時間の経過と共に変化するので、診断は非常に複雑で難しい。現在、完璧な診断の指標となるテストやマーカーは存在せず、逆に言うと一過性の神経系症状を訴えている患者に対して即座に脳震盪という診断を除外することは不可能である。疑わしき患者は即座にプレー中止させるべきである。
  脳震盪の除外はできない…これ、あんな人やこんな人たちに読んでほしいです…。

3. Remove
脳震盪を受傷した患者は一人きりにするな、という記述は他でも見たことがあるのですが、「症状の悪化が無いか、受傷後数時間に渡って監視されているべきである」という表記は初めてはっきり見たように思います。
それから、一番興味深いのは「Sporting bodies should allow adequate time to conduct this evaluation (= SCAT5などのサイドラインテスト)」というところで、現在のルールで(時間制限や交代制限などで)しっかりとした診断をさせてくれないスポーツのルール変更をはっきりを要求するような文章になっています。

4. Re-evaluate
前回のコンセンサス・ステイトメント2ではNeuropsychological (NP) assessmentは脳震盪マネジメントのコーナーストーンであるとかなり銘打って書かれていましたが、今回ではその重要性を強調しながらも、「ソロで使われるべきではない」「Baseline NP Testを現時点ではmandate(強制)しない…が、取っておくことはお勧めする」と少しマイルドな書き口で〆ています。
バイオマーカーや脳画像診断の可能性は示唆しながら、「決定的なエビデンスはまだない」とも。

5. Rest
受傷後24-48時間の休息は必要であるが、それ以上の休息がリカバリーに有益であるというエビデンスはない。24-48時間後からは、症状が悪化しない範囲でactiveに過ごすべきである、という文章がこういったコンセンサス・ステイトメントレベルではっきりと書かれたのも初めてなんじゃないのでしょうか?「激しい運動は控えるべきだ」「適切な運動量や時間はまだ研究中」としながらも、動ける範囲で動こう、というメッセージはきっとDr. Leddy氏の影響も大きいのでしょう。2020年のアップデートにはもっと詳しいprotocolが載るんじゃないかなーと勝手に期待しています。

6. Rehabilitation
コンセンサス・ステイトメントやガイドライン、ポジション・ステイトメントで正式に脳震盪の「リハビリ」という項目が設けられたのも初めてなのではないでしょうか。今のところ、リハビリというコンセプトは10-14日以内に回復しきらない、いわゆるPCS患者限定ではあるが、psychological, cervical, and vestibular rehabilitationは一定の効果を上げている、とのこと。
それから、来ました、controlled sub-symptom-threshold, submaximal exercise! このプロトコルがはっきりと「safe(安全)」かつ「may be of benefit in facilitating recovery(回復を促進させる効果があるのではないか)」と書かれたのは、脳震盪診断・治療の歴史で大いに意味ある一歩かと思います。

長くなるので、次回に続きます!


1. McCrory P, Meeuwisse W, Dvorak J, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. Br J Sports Med. 2017;pii:bjsports-2017-097699. doi: 10.1136/bjsports-2017-097699.
2. McCrory P, Meeuwisse WH, Aubry M, et al. Consensus statement on concussion in sport: the 4th International Conference on Concussion in Sport held in Zurich, November 2012. Br J Sports Med. 2013;47(5):250-258. doi: 10.1136/bjsports-2013-092313.

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  by supersy | 2017-05-11 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

適切な心肺蘇生は肋・胸骨の骨折を伴う。

何年かに一回、SNSなどで「AEDを女性に使おうとして訴訟されそうになった」「肋骨や胸骨を折ると訴えられるから心臓マッサージはしたくない」という投稿を見かけ、そのたびにもやっとした気持ちになります。色々思うところはあるのですけれど、今回は、サラッと胸骨・肋骨骨折についてだけまとめますね。

さて、成人が意識を失って倒れている場合、まずは1) 真っ先に救急車を呼んで、2) 救急隊を待つ間、患者の脈拍・呼吸が見られなければ一刻も早く胸骨圧迫を開始/AEDを使用する、というのが近年の救急対応スタンダードです。私自身、つい最近、アメリカ赤十字のCPR(心肺蘇生)/AED資格更新講習を受けたんですが、最新のガイドラインでは、成人の胸骨圧迫は最低でも2インチ(=約5cm)、子供は約2インチ(約5cm)、幼児が1.5インチ(約3.8cm)の深さに達しないと十分な効果無しと指導しています。私が初めて救命講習を受けた15年前は成人の胸骨圧迫度合はもっとずっと浅くてよいと教えていたと記憶していますから、「効果的な救命には我々が以前思っていたよりもより深い圧迫が必要」というのが近年の共通理解なんです (*調べてみたら当初は3-4cmと教えられていたのが1960年代に4-5cmに変わり、2010年からは「最低でも5cm」に変更になったようです。スピードも2010年前には「一分間に100回」だったのが、2010年以降は「最低でも一分間に100回」と、時代と共により深く速い圧迫が求められるようになっているのが見て取れます1)。硬い胸郭に守られている心臓をマッサージしようというのだから、それなりの力が必要なのはまぁある意味アタリマエです。
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そんなに深く速く圧迫したら、胸骨や肋骨が折れてしまうんじゃないか?と心配する方もいるかもしれません。そのとおりです。最新のガイドラインに沿えば、以前よりもこういったCPRに起因する胸部の骨折が増えてしまうのも、至極当然なのです。一般の方にはショッキングかもしれませんが、簡単に統計を紹介します。1

●心臓マッサージを受けた全患者の87%(男性: 86%、女性: 90%)が何らかの骨折(胸骨 and/or 肋骨)をする。
●肋骨の骨折は全体の80%の患者に(男性: 77%、女性: 85%)、胸骨の骨折は全体の65.3% (男性: 59.3%、女性: 78.6%)に見られ、胸骨の骨折はかなりの確率で肋骨骨折を伴う。
●胸骨こそ女性のほうが2.3倍ほど骨折しやすいという統計が報告されているが(OR 2.28, 95% CI 1.83-5.18)、骨折全般のリスクそのものは男女差はない。
●骨折の可能性は年齢と共に上昇する傾向にあり、30歳未満の骨折率は41%程であるのに対して、50代では85%、60歳以上だと骨折率は92%にもなる(下のグラフ参照)。
●2010年のガイドライン変更前と後では、骨折率も85%から89%と増加しており、「胸骨圧迫の深さ・速さ」に関する改訂により、骨折のリスクはより高まったと言える。
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心臓マッサージによる年齢別骨折率。 Kraji et al., 20151 Figure 1を元に作成

つまり、まとめると「心臓マッサージに骨折はつきもの」!むしろ骨が折れて当たり前くらいの気持ちでやっていないと、現行のガイドラインの基準を満たすような深く速い胸骨圧迫はできない、ということになります。「折れて当たり前」は救急隊の間ではよく知れた常識であり、救命士資格の講習会でも「骨折は治る、しかし命を失ったらそれまで」と頻繁に謳われます。警察庁、消防庁、教育省、厚生労働省、日本医師会、日本救急医学会、日本赤十字社などが共同で発表している「救急蘇生法の指針」というガイドライン2にも、こんな風に明記されています。

わが国においては民法第698条の「緊急事務管理」の規定により、悪意または重大な過失がない限り善意の救助者が傷病者などから損害賠償責任を問われることはないと考えられています。また、刑法第37条の「緊急避難」の規定では、害が生じても、避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り罰しないとされています。善意に基づいて、注意義務を尽くし救急蘇生を実施した場合には、民事上、刑事上の責任を問われることはないと考えられています。(p.44)

個人的には「責任を問われることはないと考えられています」よりはもう少し語調の強い、「問われることはありません」という断言ができれば安心この上ないと思うのですが(例えばアメリカにはGood Samaritan Law、善きサマリア人法という『救急の場面で、人を救おうという善意で行った行為に対して、失敗するなどして実害が生まれてしまった場合にもその人は責任を問われない』という法律による確固たる保護があります。日本でもこれが制定されるべきかは協議中ということなのですが…)、それでも今までに日本で救命行為を行った人が法律的処罰を受けたケースはないそうです。AED使用時の脱衣行為で訴えられるなど、もってのほか。周囲の一般人が騒ぐことすらあれ、仮に警察などに通報されても、それが救命行為だったと分かれば警察も失笑、一蹴してくれるはずです(なんてったって、警察庁も構成委員を務める指針に「民事上、刑事上の責任を問われるべきではない」とはっきりと書いてあるんですからね)。

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さて、ここからは少しばかり突っ込んだ話をしますので、読みたい方だけ読んでください。私が今回参考にしたこの文献(↑)1は、スロベニアの研究チームによって2015年に発表されたもので、検証対象は「2004年から2013年の間にCPRを受けたにも関わらず助からなかった(= 死亡した)18歳以上の患者2148人」です。これを踏まえて、指摘しておきたい点が2つあります。1) サンプル数としては十分な数が揃っていると言える…が、2) あくまで死亡した患者ということで、解釈には注意が必要。例えば、私はこんな風に考えます。胸骨圧迫の深さが不十分だったから蘇生ができなかった可能性も否定できない→となれば、この研究で報告されている骨折率はむしろ胸骨圧迫を施されて助かった患者のそれよりも低い可能性は十分にあるのでは?私はこの論文に書かれている数字を「最低骨折率」として解釈してもいいのではと思っています。皆さんはどう思いますか?

その逆で、「胸骨圧迫そのものが死を招いた可能性も否定できないだろう」という人もいるかもしれません。しかし、同論文の中に、骨折をした1875人のうち、検死解剖で『胸骨圧迫により、死亡に関わった可能性があるほどの内出血』が認められた患者は30人にしか確認されませんでした(内訳は肝臓破裂 n = 13, 肋骨脱臼・胸骨骨折 n = 11, 脾臓破裂 n = 2, など)。これは全体の1.39%(30/2148)にしかなりません。もっと極端な例で言うと、その場で既に即死していても(= 既に蘇生の可能性がゼロでも)、なんとか蘇生しないかと奇跡を願って30分45分と胸骨圧迫を長時間続け、その結果骨がバキバキに折れてこれだけの内臓損傷を引き起こしてしまっていた可能性も十分にあると思うのです。死亡が先なのか、胸骨圧迫による損傷が先なのか、chicken or egg...どちらにしても、これらの30件全てが「胸骨圧迫によって死亡した」と断定できたわけではないのです。
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さぁ、多く見積もっても胸骨圧迫で患者が死亡する可能性は1.39%。1心肺蘇生を行わずにただただぼうっと救急隊の到着を待っていれば、一分ごとに患者の生存率は10%降下していきます。3 日本の救急隊が現場に到着する全国平均時間は8.6分とのことですから、4 これを悠長に待っていればどちらにせよほぼ確実に患者は命を落とすことになるわけです。一刻も早い「現場での行動」が生存率を少しでも上げるのは間違いのない事実です。

現場でCPRを開始できるのはプロの救急隊ではない、たまたま居合わせた一般の人であることが圧倒的に多いのです。3 頭に浮かぶかもしれない躊躇や不安を振り払ってでも、とにかく胸骨圧迫だけでも開始してもらえれば…と医療従事者のはしくれとして願っています。

ちなみに、もうかなり古くなってしまいましたが、AEDに関する記事を昔書いたことがありますので、こちらも併せてぜひ。


ところで全然関係ないんですけど、このデータもかなり面白かったです(↓)。1 肋骨、胸骨骨折を部位別に骨折確率をまとめたもので、肋骨は第3-5肋骨骨折が最も多いこと、そして胸骨は胸骨体の中心か胸骨角部分の骨折が多いことがわかります。いやー、これだけでも焼酎2杯はいけますね!おもしろい…。
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1. Kralj E, Podbregar M, Kejžar N, Balažic J. Frequency and number of resuscitation related rib and sternum fractures are higher than generally considered. Resuscitation. 2015;93:136-141. doi: 10.1016/j.resuscitation.2015.02.034.
2. 日本救急医療財団心肺蘇生法委員会. 救急蘇生法の指針、市民用、2015. https://www.fdma.go.jp/neuter/topics/kyukyu_sosei/sisin2015.pdf. Published 2015. Accessed on April 28, 2017.
3. Rivera NT, Kumar SL, Bhandari RK, Kumar SD. Disparities in survival with bystander CPR following cardiopulmonary arrest based on neighborhood characteristics. Emerg Med Int. 2016;2016:6983750. doi: 10.1155/2016/6983750.
4. 消防庁. 報道資料:平成27年版 救急・救助の現況. 総務省消防庁website. http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h27/12/271222_houdou_2.pdf. December 22, 2010. Accessed July 10, 2016.

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  by supersy | 2017-04-28 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

Shoulder Impingement Syndrome (SIS)診断について、その3。

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#8 Kelly & Brittle, 2009
この研究ではUSを比較試験として用い、7つのテストの診断的価値を検証しています。US画像診断は最近の技術の進歩でより正確になってきていて…と他の論文(#7)でも書いてあったような文句が導入部に書かれていますが、その際に引用されている文献は#7でも使われていた2004年のものと2000年の論文のみで、もっと新しいはずの#6 (2006年)の論文と決定的に食い違うので、やっぱり個人的に「USをreference testとして使う」ことの正当性は低いのではと思いますが…。

被験者: 該当整形外科病院に肩のUSを撮りに来た34人の患者さん(男性20人、女性14人、中間年齢57歳、中間症状期間2年…なぜにmeanでなくてmedian?)。Inclusion criteriaは年齢が20-70歳で、指示に従う能力があり、no history of traumatic injury to the shoulderというところ(肝心な肩の症状に関する指定は一切なし)で、Exclusion criteriaは1) neurological-type pain or weakness originating from cervical spine もしくは 2) inflammatory joint diseaseがあること、だそうです。我々ATからしたら、US画像にreferされる患者の平均的criteriaが分からないのでこれは設定の甘いIn/exclusion criteriaですね。Sample sizeに関してもPower Analysisは行われておらず、かなり被験者の数は少ないなぁという印象です。

検証方法: US (肩の超音波の専門家であるひとりのradiologistが一貫しておこなう)の直後一人のphysiotherapistが7つのテスト(Neer, Hawkins-Kennedy, Painful Arc, Empty Can, Full Can, Resisted Abduction, Resisted ER)を実施。タイムラグがないのがいいですね。しかも、このPTはUSの結果を知らない(blinded)状態だったそうなので、ここも評価できます。

気になるのは「US画像がfull-thicknessがどうか不明瞭だったり、テスト結果が曖昧(陽性とも陰性ともつけがたい)だった場合は分析から省きました」という記述ですかね。実際の診療では「あれー?このテスト陰性かな、陽性かな?」と迷うような場面があるからといって「分からないから診断しない!」と投げるわけにはいきません。曖昧なケースも含めて診断できるようなツールを開発することこそに意味があるのではと思うので、「不明瞭なものは除外」というのはあまり褒められた研究デザインではありません
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結果: さて、結果は上の表の通りです。例によって-LRや+/-PVがなかったので全部まとめて出してみました。ハッキリ言って有効なものはほとんど確認できません。外転時の痛みが確定に有効なくらいでしょうか。それにしたって、95%CI値が報告されていないので、どれほど安定した数値なのかは残念ながら不明です。被験者の数が少ないので、95%CI幅が報告されていたとしても広いことは間違いないのではと思います。

著者の結論にも「SIS診断にこれらのテストの使用はさほど有効ではない」と書かれています。唯一面白いと思ったのが、それに続く考察で「肩周りは神経支配がリッチであるため、例えばまだまだSIS初期で、USでは変化が見受けられないけど、これらのテストでは痛みが出るという可能性も十分にあるのではないか」つまり、USという比較テストの信憑性そのものにも疑問を掲げているところでしょうか。まぁ、これを言ってしまうとGold StandardであるはずのArthroscopyもその絶対性が怪しくなってきてしまいますけども…。これ(初期の比較的asymptomaticなSISの診断)を考慮しようと思ったら、今度はSISの初期、中期、末期…みたいに患者を状態でわけて、それぞれでテストの診断価値を実証しなければいけなくなりますねぇ。興味深い考え方なんですけど、検証は難しいかな。
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#9 Hegedus, 2012
2006年に俺らreview article出したんだけど、あれから結構経ってoriginal researchもさらに出たし、systematic review/meta-analysisのmethodologyもかなりスタンダード化が進んだし、QUADASが進んでQUADAS-2になったりもしてるんで、もう一回新しくsystematic review/meta-analysisやりなおしますわー、という論文。

Inclusion Criteria: diagnostic accuracy studies; report SN and SP; written in English; examining adults with shoulder pain fur to musculoskeletal pathology
Exclusion Criteria: the use of equipment/devices; subjects tested under anesthesia; cadavers
Databases Used: Medline, CINAHL, EMBASE, Cochrane Library
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2人の研究者が別々にタイトルとabstractを読み、include or excludeを判断。意見が合わないところは話し合いで、それでも解決しなければ第3研究者によって決定。そののち、手元に残った論文の全文を読んでsystematic reviewとしての最終分析に入れるか決定。最終分析に含まれた32の論文のうち、2x2テーブルが抽出可能だった論文はmeta-analysisにも含まれたそうです。同様に、QUADAS-2に関しても2人の研究者がそれぞれindependentlyでこのツールを用いて研究の質を推し測る分析を行ったそうなんですが、QUADAS-2のagreementはk = 0.31 (95%CI 0.10-0.52)とかなりpoor (低い)値に。いやー、講習会などでも私はオリジナルQUADASのほうがまだ良かったのではないかって言ってしまったりするんですけど、そうなんですよね、QUADAS-2のほうが主観的なので、評価者によって意見の食い違いがある、つまり、inter-rater reliabilityが低いと思うんですよ…。まぁ別に今回のこのレビューそのものの悪口を言っているわけではなくて、これはツールそのもののlimitationですよね。ここまでのmethodologyはスタンダードな、いわゆる非常に丁寧に作られた良レビューという印象です。

QUADAS-2の分析から見えてきた「(今回のレビューに含まれた)多くの論文に共通するバイアス」に関する問題点は大きくふたつ。1) Patient Flow - index testとreference testの間が空きすぎ…これは以前に私も指摘した点ですね。それから、2) そもそもgold standardですらないUSをreference testに使う研究が近年増えている(n = 12)、という点も。これも私が書いていたところだ、やっぱりそうだよね!なんでUSがありきになったのか…。

Systematic reviewの部分はそんなに面白くなかったんで(オイ)、もっとワクワクするMeta-analysisの部分に飛んじゃいましょう!これはご飯三杯はいける、楽しい統計群です!下のテーブルは文中のTable 3を私が個人的に一番見やすいように修正したものなんですけど、ひとつだけ疑問があるとすれば「なんでImpingementとSLAPの上半分だけ、SNとSPを小数点以下まで求めていないの…?」という一貫性の無さですかね。数字いじるんだったらそういうところはしっかり合わせてほしかったです。んで。せっかくのmeta-analysisなので、95%CI幅を考慮しても絶対的な統計力がある「優れたテスト」はあるのか?ということで、「決定的統計力」があるものはがっつり赤に太字で、「まぁ使えないことはない」というテストはうっすら赤で、それぞれハイライトしてみました。意外というかやっぱりというか、少ないですね、良いテスト…。
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Impingement: NeerとHawkins-Kennedyは除外にはまぁまぁ、確定にはPainful Arcがまぁまぁ有効。
SLAP: Anteiror SlideとYergasonの確定は決定的。CrankとCompression Rotationは確定にまぁまぁ。除外に有効なものは残念ながらないが、一番マシなのはActive Compression (O'Brien's - 67%, 95%CI 51-80%)といったところか。
Anterior Instability: これはやっぱりAnterior ApprehensionからのRelocation, Surpriseのコンボをやれってことでしょうね。それぞれ確定力は決定的もしくはまぁまぁ。そして、Surpriseは除外力もまぁまぁあり。
Tendinopathy: Hawkins-Kennedyの除外力がまぁまぁ。
Labral Tear: Crankの確定力はまぁまぁ。
障害別にまとめるとこんな感じですかね。LR値は残念ながら総じて良くないです。例えばSpecificityが良くてもSensitivityが乏しいと、いわゆる「トレードオフ」状態になってしまっていて「総合的にLR値が1に近づく」という、まぁ、こういう現象が起こりえます。
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コンビネーションテストも紹介されてはいるんですが、95%CIがないのでここで敢えて言及する価値はないかと思います。結論としては、「使いどころによってはチカラを発揮できるテストはあるが、これさえ使えば完璧!というテストは存在しないし、コンビネーションテストもギリギリ使えるかどうか…という感じ。もっとcomprehensiveな診断方法を開発、検証する必要がある」とまとめられています。これは私も賛成です。

#10 Dinnes et al., 2003
肩の傷害の診断に、1) clinical examination, 2) US, 3) MRI, 4) MRAはどれだけ有効なのか、という大掛かりなレビュー文献。これは…誰かのdissertationでしょ?chapter形式で185ページあるし…。こういうの課題にするかね普通?ぶつぶつ…。
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この論文、長すぎてとてもまとめきれないので、面白いと思ったところだけ書くと…
  • Includeされた研究の多くがprimary care setting (i.e. スポーツの試合中に怪我が起こり、その場でATが診断)ではなく、誰かの手を渡って最終的に整形外科やリューマチ課などにreferされた患者であるからして(self-referもあるかもしれないけど)、これらの研究の結果が(比較的患者がunselectedである)現場でそのまま当てはまるとは限らない。
  • 上記の理由で、障害のprevalenceは高いものが多かった(i.e. RC disorderが平均で61%)。…現場での数字はきっとこれほど高くはないでしょうし、prevalenceは直接SN、SPなどの結果にも関わってくるので、これによって結論が影響を受けた可能性は十分にあり得ます。
  • 個々のSelective Tissue Testで除外に有効なのが1) Arc of Pain (SN 97%; 95-99%)/Impingement Sign (SN 97%; 95-99%); 2) IR Lag Sign (SN 97%; 83-99%, -LR 0.0; 0.0-0.2); 3) Rent Test (SN 96%; 85-99%, -LR 0.0; 0.0-0.2); 4) Neer (SN 89%; 80-94%); 5) Night Pain (SN 88%; 84-91%)。
  • 確定に有効なのは1) ER Lag Sign (SP 100%; 86-100%)/Drop Test (SP 100%; 86-100%)/Lift-Off (SP 100%; 86-100%); 2) Rent Test (SP 97%; 89-99%, +LR 30.1; 7.7-118.0)/Speed (SP 97%; 87-100%); 3) IRRST (SP 96%; 90-99%, +LR 24.8; 8.1-75.9)/IR Lag Sign (SP 96%; 80-00%)。
  • 総合的に優秀なのはRent Test (除外確定、SN、SP、+/-LR全て有効)、次にIR Lag Sign (除外確定、SN、SP、-LRは確定的)、そしてIRRST (確定、SP、+LRが確定的)というところでしょうか。しかし、これはそれぞれ異なる障害を診断するためのものなのでなんというか、わかりにくくなってしまっているまとめです。傷害別にorganizeすればよかったのでは?
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  • テストの組み合わせは臨床的に意味がありそうなものはなし。例えば、このまとめ(↓)によれば、7つのテストをおこなって全てが陽性だったら確定可能…って、あたりまえじゃん!って感じなので。他にも「10 tests + X-ray」なんて、ATにしては現実味がゼロ。
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  • 肩の傷害の診断にUSを使うことに関しては、今までに38の研究が発表されていたらしいのですが「最近使われている周波数は>10MHzが主流なのに、過去の研究では5MHz(6 studies)や7MHz(19 studies)、もしくは5MHzと7MHzのコンボ(6 studies)が使われていること多く、10MHzの研究(3 studies)のほうが圧倒的に少ないほど。バラツキが大きすぎる」とのことで。ふーむ、ここんとこは知らなかった。となると、研究間の比較の正確性がアヤしくなってきますね。
  • 加えて、超音波画像の研究は被験者のdemographicの描写が甘い、不適切なreference testを使っている、診断基準がきちんと定義されていない、USとreference testの間が空きすぎている、なども挙げられており、総合的にこれらの研究の質はかなり悪いと考えてよさそう。特に私が気になるのがretrospective (or unknown, n = 18) studiesの統計のほうがprospective (n = 11) studiesよりもSensitivity (85%; 81-85% vs 70%; 64-75%)とSpecificity (86%; 83-88% vs 81%; 76-85%)の数値がいいってことでしょうか。もうこうなってくるといよいよ過半数の研究にバイアスがあるってことじゃないかと。
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  • USそのもののOverall pooled SN = 80% (95%CI 78-83%)とSP = 85% (95%CI 82-87%)。RCのtear深刻度別にa: any tear; b: full-thickness; c: partial-thickness tearで見てみると(↑、個人的に重要だと思う結果に★を付けてみました)、断裂の度合いを問わず、確定にはいいけと除外はなー、という感じですね。画像診断まで取って損傷を見逃したくないというのが患者・クリニシャン双方の考えかなと思うので、このSensitivityの幅は私としては使い勝手がいいとは言えないのは、という印象です。これはLR値見ていても同じ(↓)ですね。full-thicknessのtearで陽性出たらDORが13にも跳ね上がるのだとか。しかし、陽性は有意義でも陰性はそれほど意味を持たない。
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  • MRIのRC pathologyに対する診断価値を検証した研究は全部で29。Overall pooled SN = 83% (95%CI 79-86%); SP = 86% (95% CI 83-88%)ということで、USよりはほんのわずかばかり優秀。MRIに関して面白いと思ったのが、「患者の年齢が上がるとともに正確性が下がる」というところですかね。加齢に伴う組織の変化をpick upしすぎてしまうのでしょうか?
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  • RCのtear深刻度別にa: any tear; b: full-thickness; c: partial-thickness tearで見てみると(↑、これも確定的だと思うものに★アリ)、MRIはfull-thicknessの診断には確定・除外共にかなり有効(SN 89%; 86-92%, SP 95%; 91-95%)な反面、partial thicknessの除外力は非常に低い(Sn 44%; 36-51%, SP 90%; 87-92%)のがわかります。LR値(↓)もまぁ、この結果を反映していますよね。Full-thicknessの-LR値は完璧とは言いませんが、「陰性の場合はRC断裂の可能性は(pre-test probability 32%から)7%未満まで落ちる」のには十分な数値でもあります。臨床的意味はそこそこあるのではと私は感じています。これに基づき、最終結論では「MRIはfull-thicknessの除外に有効」とのみ書かれているので、「確定は?」と思って、nomogram使って陽性の場合のpost-test probabilityも示してみました(赤線がfull-thickness、緑がany tear、そして青がpartial thicknessです)。うーん、なるほど、確かにpre-test probabilityの32%を考慮しちゃうと、陽性の場合でもfull-thickness tearのpost-test probabilityは82%ほどと、それほど確定的ではなくなってしまうのか。なるほど。
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  • さて、最後はMRA。MRAの診断価値を検証した研究はたった6、ということでこれは比較的コンパクトにデータがまとめられています(↓)。下の総合的な数値を見る限りでは、full-thicknessのtearにはMRAは確定も除外も決定的に有効partial tearに関しては確定が決定的に有効、ですね。MRIよりもそれぞれ数値が少しばかり高い印象です。Prevalence 平均36%を元に考えると、MRAが陽性だった場合full-thickness tearがある可能性は85%に、陰性だった場合その可能性は6%までに低下するという計算。
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  • まとめると、「画像診断ではfull-thicknessのほうがpartial thicknessよりも診断しやすい」というところは間違いなさそうですね。本文には「MRIに比べてUSとMRAのほうが優秀」とあったんですが…うーん?そうかなー?確かにUSとMRAが部分断裂を確定できるのに対して、MRIはその能力が少し劣るところは大きいのか?研究の質としてはUSのそれは低いものが多いかなと思ったんですけどね…。今ネットで調べてみたら、もちろん保険や場所によって差はあると思うのですが、コストはUSが一回平均$225ほど、MRIは$475くらいでMRAが$550くらいとありました。ちなみにarthroscopyは$2500-6000くらい?値段も加味すると、一番コスパが良いのはUSってことになるんでしょうか。お金に糸目はつけないんだったらさっさとMRA撮っちゃいましょ、って感じかな。
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そんなわけで、これでSIS診断の10文献レビュー終わりです!あーこれが終わればやっと読みたかった脳震盪の文献群に取り掛かれそう。楽しみです、ひゃっほうー。

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  by supersy | 2017-04-15 18:00 | Athletic Training | Comments(0)

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