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ACL損傷予防に関する最新NATA Position Statement。

ずっと待ってましたよー、一週間ほど前、1月9日にやっと出ましたね!NATA Position Statement on "Prevention of ACL Injury"1!! 一度著者グループの御一方から直接中間報告のような発表を聞かせてもらう機会があり、 正式発表は今か今かと待っていましたが、そこから3年くらい経ちましたね。それだけ専門家の英知が詰まってるってことだと思います。早速読んでみます!
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このPosition Statementの冒頭では、ACL断裂受傷率が年々増加傾向にあること、ACL断裂が医療費負担の大きな原因になっていること、そして殆どのACL断裂はnon-contactで起こることを指摘。特に、ACL再建手術を受けた選手の82%が競技復帰を果たしているが、うち以前と同じ競技レベルに復帰できるのはたった63%である、という統計はなかなか効果的に危機感を煽ります。予防介入アプローチの可能性と、それらは単独要素にのみ着眼したものよりも、複数の要素をかけ合わせたプログラム(multicomponent training programs)のほうがACL予防に有効かもしれないことなどを述べています。

推奨項目の中で大事だと私が個人的に思うものを列挙していきます。いつも通り、推奨度の強い順に、A (= what we must do)、B (what we should do)、C (what we can do)もつけてまとめておきます。

●予防プログラムとその効果
1. Noncontactとindirect-contact ACL injuryを減らすプログラムには、これさえすれば大丈夫という絶対的なデザインは存在しない。共通する項目をまとめてガイドラインを提唱するとしたなら、("Land softly"や"Keep your knees over your toes"などの)テクニックに関してのフィードバックとstrength, plyometrics, agility, balance, flexibilityのうち最低でも3要素に重きを置いたmulticomponent training programが推奨される(推奨度・B)。これらのプログラム実施による具体的なリスク減少は39-73%(半数近いの研究は>50%のリスク現象を示している)と、非常にencouraging(希望を持たせてくれる)でpromising(確信的)と言える。特に女子の中高生アスリート(12-18歳; この年齢、性別のアスリートは最もACL損傷リスクが高いと言われている)にはこういったプログラムの実施を強く強く推奨する(推奨度・A)。これらのプログラムは、ACL損傷予防はもちろん、膝の他の怪我の予防(RRR = 54$)と下肢一般の障害予防(RRR = 39%)に対しても支持されており(推奨度・A)、下肢のバイオメカニックスと筋活性の向上、ストレングス、パワー、バランスの向上、そして着地時の衝撃減少にもつながる(推奨度・C)のでオイシイことばかりである。

2. 実施のタイミングはプレシーズンとシーズン中で、少なくとも一週間に2-3回の頻度で行う(推奨度・B)。長さは最低でも1セッション15分(15-20分が一般的)、具体的には各カテゴリーから1-3つのエクササイズを選ぶようなイメージ(↓下のテーブル3参照)だが、トレーニング量と強度を上げると予防効果も上がるよう(= inverse dose response)なので、可能であればduration、頻度や強度を上げ、より長期にわたってプログラムを実施したほうが良い。Compliance rateも重要な要素で、こういったプログラムをあまりきちんとやらない(compliance rate 33.3-66.6%)、もしくはほとんどやらない選手(<33.3%)はきちんとこなす(>66.6%)選手と比較してACL損傷の受傷リスクがそれぞれ3.1倍、4.9倍まで上がるという。そのため、選手やコーチ陣への事前教育は必要不可欠である(推奨度・C)。

3. この予防プログラムは毎年繰り返す必要があるが(一年やって終わり、では効果は継続されない)、全く同じことをやり続けるわけではなく、正しいテクニックが実行できるレベルで、徐々に難易度を挙げていくこと。前のダイナミック・ウォームアップとして、もしくはStrength & Conditioningのプログラムの一環として監督する指導者がいる環境で行うのが良い(推奨度・C)。個人的には該当指導者はATかSCになるのかな、と感じています。

4. 特にこういったプログラムに参加すべき対象として、1) ジャンプ、着地、方向の変化(cutting)などを必要とする競技をしている選手(i.e. アメフトやサッカー、バスケットボールなど); 2) 女性アスリート; 3) ACL損傷の既往歴がある選手が挙げられる(推奨度・A)。可能であれば若いうち(中学校や小学校)から始めたほうが理想的である。
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しょ、正直に言います。「知っとるわ!」という内容ばかり…。Lit reviewの部分は面白い内容は確かに沢山あるのですが、推奨事項は今までここでまとめたことがあるような項目がほとんどでしたね。とはいえ、いつもと同様読みやすさを重視してまとめられていて、推奨項目も18と少ないので、ATCの資格を有する方は一度目を通しておかれることをお勧めします。ご存知の通り、NATA Position StatementとJournal of Athletic Trainingに掲載されている論文は全て全文無料なのでsubscriptionは必要ありません。リンクを下に貼っておきますねー。

1. Darin AP, Lindsay JD, Timothy EH, et al. National athletic trainers' association position statement: prevention of anterior cruciate ligament injury.
J Athl Train. 2018;53(1):0-0. doi: 10.4085/1062-6050-99-16.

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  by supersy | 2018-01-15 23:55 | Athletic Training | Comments(0)

呼吸と共に頭蓋は動く。

2日連続で長い記事を書いたので今日は短めで。
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仙腸関節は動かない、という意見の方は一定数いますが、個人的には半分synovial, 半分syndemosisの仙腸関節が動かないわけがないと思っています。だって、遠位脛腓関節は100% syndemosis(繊維でガチガチ)ですが、でもあそこの動きを否定する人はいないでしょ?SIは半分synovialなんですよ。関節包があって滑液がふたつの骨の間に存在するんですよ。造りとしては遠位脛腓関節よりも明らかに動かなければ理に適っていない。SI関節が動かないというなら、経験則(i.e. 「だって動かない気がするから」)でなく動かないという確固たるエビデンスを示してほしい。私は業界ではそんなに論文を読んでいるほうではないかもしれませんが、そういったデータを今まで個人的に見たことがないのです。

でもこういう議論って実は「動かない」派の人たちのほうが圧倒的に不利だとも思うんです。だって、動かないことを証明するのは理論上ほぼ不可能ですから。何かが存在しないというエビデンスを示すのって、それが存在するかもしれない、ということに繋がるエビデンスをひとつひとつ全て否定することですからね。
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一方で、頭蓋が動かない、という意見は、SIよりはまだ理解できます。頭蓋はsuture jointsでできており、syndesmosisと基本同じ、fibrous jointという構造で繊維でガチガチに固められていますからね。でもそれでも言ってしまうと、私は「頭蓋も動く」と考えています。例えsutureであろうともそれが関節である限り、そこに動きはあって然るべきだと思うからです。動きが必要でないならば、ひとつの完璧に結合している骨(one fused bone)で頭蓋をくるっとまるっと造っておけばいい話なんですから。It just doesn't make sense that it's a joint if it's not meant to move、とどうしても感じちゃうんです。

「動く」エビデンスを示すのは「動かない」エビデンスを示すよりも圧倒的に楽である、という不公平さを踏まえて、「動く」エビデンスになる論文1をひとつだけ紹介しておきますね。こちら(↓)です。
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Fluid dynamicsの観点から頭蓋の動きについてまとめた文献は実は結構色々出てるんですよね。2-5 うち、NASAがサポートしている研究も多いですし、ロシア宇宙研究チームによる研究も複数ありますし6-8 …なんでしょう、宇宙空間で無重力になり、CSFに影響が出るとしたらそれによって頭蓋がどんな影響を受けるか解明しなきゃ、みたいな資金投資があったんでしょうか(完全な推測)?動物実験もそうなんですけど、献体9と生体10を使った実験でも頭蓋が動くとは今までに報告はされてるんです。パイロット研究などで少ない被験者ではありますけど、レントゲン10でMRI7,8で頭蓋の動きが確認できるっていう論文も発表されてますしね。これらの頭蓋の動きは心拍や呼吸などの生理的機能に伴うoscillationと深い関係があるんじゃないか、という説があり、これはDr. Sutherlandの提唱したPrimary Respiratory Mechanism (RPM)とも密接な関係があります。Dr. SutherlandはOsteopathyの分野で初めてCranial Approachを系統立てて確立・教育した著名なオステオパシック医師ですね。呼吸と共に頭蓋は屈曲・伸展を繰り返すというアレです(↓参考図 - 屈曲時には横に広がり、前後・上下には狭まる。眼窩が広がって眼球は突出する; 伸展時にはその逆が起こる)。
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で。健康的な成人被験者を使って、RPM伸展・屈曲時に頭部MRIでどれだけ頭蓋の動きが確認できるか検証してみましょうか、というのが今回の論文。1
20人の被験者(男13人、女7人、平均年齢36.7歳)が、頭部を下の図のようにテーブルにがっつり完全固定された状態で(↓Figure 1 & 2)、頭部MRIを撮影。45秒毎にイチ画像撮る、を8回くり返し、合計6分間の撮影を行ったそうです。この6分間、人間は呼吸と生理学的リズム、つまりゆっくりとRPM屈曲と伸展を繰り返しているわけですが、8枚撮れば屈曲時、伸展時の様々な写真が撮れるだろうというわけ。コンピューターを使ってそれら画像を解析し(↓Figure 3 & 4)、各被験者に対して断面積、外周、幅、高さ、Major/Minor軸、フェレ直径の最大値と最小値を産出。その差(= 頭蓋が動いたという数値的データ)を記録・分析したというわけ。
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で、結果です。下のテーブルを見れば一目瞭然かもと思いますが、統計的に有意な差が見られなかったのはPerimeter(外周の長さ)とMinor Axis for the best fit ellipseで(それぞれp = 0.80、p = 0.08)、その他のvalueでは全て著しく大きな変化が見受けられました。やはり頭蓋は外的な力がかかっていなくても、被験者自身の生命のリズムの中で動いている、ということが分かったわけです。自然に呼吸を繰り替えすうちに頭蓋は伸びたり、縮んだり、twistしたり、untwistしたりしている。しかもこの研究では特に呼吸に関して「深呼吸しろ」など研究者が被験者に指導したわけではありませんし、狙って「最大屈曲時に」「最大伸展時に」画像を撮影したわけではありませんから(画像撮影はあくまで「45秒毎、8回」)、この実験で確認できたRPM屈曲・伸展は最大屈曲・最大伸展を反映しているというわけでもなさそうです。つまり、もっともっと動く可能性はある、と。
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頭蓋が形を変えるとして、それがCSFの流れにどんな影響を与えるのか、脳細胞にかかる圧やshear forceが微妙に変化することで、脳機能にもoscillationが起こるのか…この論文を読むと新たな疑問も多く生まれますね。画像の質も年々上がっていますし、これらのclinical questionもいずれ回答されることを楽しみにしています。


1. Crow WT, King HH, Patterson RM, Giuliano V. Assessment of calvarial structure motion by MRI. Osteopath Med Prim Care. 2009;3:8. doi: 10.1186/1750-4732-3-8.
2. Heisey SR, Adams T. Role of cranial bone mobility in cranial compliance. Neurosurgery. 1993;33(5):869-877.
3. Ueno T, Ballard RE, Shuer LM, Yost WT, Cantrell JH, Hargens AR. Intracranial pressure dynamics during simulated microgravity using a new noninvasive ultrasonic technique. J Gravit Physiol. 1998;5(1):39-40.
4. Ueno T, Ballard RE, Shuer LM, Cantrell JH, Yost WT, Hargens AR. Noninvasive measurement of pulsatile intracranial pressure using ultrasound. Acta Neurochir Suppl. 1998;71:66-69.
5. Ueno T, Ballard RE, Macias BR, Yost WT, Hargens AR. Cranial diameter pulsations measured by non-invasive ultrasound decrease with tilt. Aviat Space Environ Med. 2003;74(8):882-885.
6. Moskalenko YE, Cooper R, Crow HJ, Walter G. Variations in blood volume and oxygen availability in the human brain. Nature. 1964;202:159-161.
7. Moskalenko IuE, Kravchenko TI, Gaĭdar BV, et al. The periodic mobility of the cranial bones in man. Fiziol Cheloveka. 1999;25(1):62-70.
8. Moskalenko IuE, Frymann V, Vaĭnshteĭn GB, et al. Slow rhythmic oscillations within the human cranium: phenomenology, origin, informational significance. Fiziol Cheloveka. 2001;27(2):47-55.
9. Sabini RC, Elkowitz DE. Significance of differences in patency among cranial sutures. J Am Osteopath Assoc. 2006 Oct;106(10):600-604.
10. Oleski SL, Smith GH, Crow WT. Radiographic evidence of cranial bone mobility. Cranio. 2002;20(1):34-38.

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  by supersy | 2018-01-14 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

寝る子は育つ?睡眠時間を延長すると、アスレティック・パフォーマンスは向上するか。その2。

続きです。

色々読んでいると、とにかく「エリートアスリートは睡眠の質が低い」ということが一般的に過去の研究で示されているようですね。オリンピック選手は(age- and sex-matched non-athlete controlと比較して)夜目を覚ます頻度が多く、総合的に効率の悪い眠りを取っている1、とか、オーストラリアの様々な協議のプロスポーツ選手(6.8±1.1時間)、中でもAustralian Football League (AFL)の選手ら(6.7±1.2時間)は2、National Sleep Foundationが成人に推奨する睡眠時間(7-9時間)3に満たない、とか。

そんで、6週間の睡眠介入でAFL選手のWell-beingとパフォーマンスはどう変化するか?を検証したのが今回の論文(↓)4です。シーズン真っ只中にこういった検証を行うのは選手が躊躇するかも、という理由で実験はシーズン直前に行われたようなんですが、何を検証したいかではなく、被験者のWilling ness to participateを一番に研究時期を決めるのは最善と言えるのかな…?と個人的には思ったりします。Applicabilityを考えるならシーズン開始直後からやるべきだったんじゃないかなと。とはいえ、十分な被験者が集まらなければ研究になりませんから、ここらへんのバランスは難しいところなんですけどね。

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冒頭にあるんですがまぁやっぱりというかなんというか、この時期の練習はそれほど強度が高くなく、「一週間に3日、一回につき2.5時間の練習が行われている」程度だった模様。うーん、やはり…シーズン中にトレーニング強度やPhysical demandがあがり、それによって睡眠が阻害されるというなら、この実験はシーズン中に行われてこそ意味があるのではと思ってしまうけどなー、くどいけど。

参加したAFL選手はまずSleep physician (って、初めて聞いたけどどんなCredentialとBackgroundを持ってる人なんだろう?)による睡眠教育のセッションを受け("Sleep hygiene, daytime stimulant avoidance and power napsについて一時間、一対一で話した"とは書いてあるけど、具体的にはどんな内容をどのようにプレゼンしたのが記述なし。詳細が分からないと再現のしようがないんだけどなー)、Self-report睡眠記録とActigraphyを6週間毎日記録。それのデータを元に、Research Assistantが毎週emailか携帯メールの形式で選手に「Feedback」を送信していたそう。具体的な内容はこれも不明で、Research Assistantがどんな有資格者なのかも不明。これに対しての被験者の反応義務があるかも不明なので、この「Feedback」の意図が少し…わからないかな。個人的には、これは介入といっていいの?何を目標としているの?という感じ。最低でも一日7時間寝るよう指導しました、とか書いてくれれば少しは意図がはっきりするんだけど、「睡眠の量と質改善のための指導」だと、具体的に何を目指していたのかさっぱりぷー。

研究の真ん中で(3週目の終わりと思われる。これも詳しいタイミングについては記述なし)、2度目となるSleep Physicianによる教育セッション ― ちなみにこれは一対一ではなく、1時間のグループセッションだったそう ― が再度行われたようです。Self-report平均睡眠時間がここまで7時間以下だった選手には特別指導が行われ、希望者には個別質疑応答カウンセリングタイムも設けられたそうですが、一体何人が「特別指導」されたのか、こういった個人セッションの時間を有効活用したのかも不明

実験開始時と、6週目の終わりに行われたアウトカム測定で測られた項目はこんな感じ。これでもかっ、ってくらいのPatient-based Outcome Measuresですね。ちょっとやりすぎ感あります。
ESS (日中の眠気); PSQI (睡眠の質); MEQ (朝型、夜型などのバイオリズムタイプ分類); Perceived Stress Scale (10-item, 不特定のストレス); 19-item Training Stress Scale (トレーニングによるストレス); POMS (ムード); PVT (反応時間)

んで。参加した25人のAFL選手(平均年齢23.7±2.0歳)のデータを分析。しかしね、こんなふわふわした感じの研究なのでね、ほとんど有意な変化がないのもあんまり驚かないですよ。計測してるOutcomeも多いし、百聞は一見に如かずなので、結果はこちらにまとめておきますね(↓)。統計的に有意な差があったのは4項目(下で黄色でハイライトしてます)ですけど、SDも高いし臨床的に有意とは考えにくいです。睡眠時間と睡眠効率の上昇も、Actigraphyもほうでは反映されてませんし、一貫性がないですしね。これが単なるoverestimationならいいんですけど、「やべっ寝てねーとなんか言われるから長めに書いとこ」でこうなったんだったらもう何の意味もないですしね。
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この研究の筆者はこれらの「改善」について考察であれこれ述べていますけど、あまり芯に響くものがありません。最も好意的に解釈すれば、「シーズン前のワークアウトが始まって本来ストレスが溜まってきたり、睡眠が不規則になってきたりするはずだったところがこの介入で未然に防げた(悪化せず現状維持できた)」ということにもなるのかもしれませんが…。うーん、久しぶりにがっかりな論文!

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さー気を取り直してつぎー!こちらはレビュー論文です5

冒頭に紹介されていた論文で書き残しておきたいものがあったのでひとつだけ。「17-19時間寝ていないだけで血中アルコール濃度が0.05%(体重70kgの成人が750mlのビールを飲む程度、飲酒運転で捕まる)と、28時間寝ていないと血中アルコール濃度が0.10%(体重70kgの成人が1.5ℓのビールを飲む程度、もちろん捕まる)なのと同じくらい認知・運動能力が落ちる」というアレ!今まで文章で目にしたことはあったけど、引用があって感動!これ6がその研究なのかー!お初お目にかかりまするー!

本筋に戻って。この論文は1) 睡眠がアスレティック/神経認知パフォーマンスに及ぼす影響; 2) 睡眠と肉体的健康の関連性; 3) 理想的な睡眠とは、という観点からまとめられたNarrative Reviewです。それぞれのセクションで私が面白いと思ったことをまとめると、

1) 徹夜すると同じ時間内に走行できる距離が低下したり、早く疲労感を感じるようになったり、心拍数が上がり、休息時に酸素消費量と二酸化炭素生成量が増え、乳酸血が上がるなど、つまるところスピードと持久力が低下する。リフティングに関しては「一日の徹夜ではそれほど影響がなくても、3日睡眠量が減ると挙げられる重量が低下する?」という少しバラツキのある結果が報告されており、具体的に4-5時間の睡眠ではテニスのサーブの正確性、ダーツの正確性が低下するようである。神経認知の観点からは、注意力、判断力と実行力、学習能力の低下も確認されている…とまぁ、睡眠が短くなると悪影響が出る、という研究は数多くある一方、前述のとおり睡眠時間を増やせば良い影響があるのかについて検証した研究は少ない。ここで昨日紹介した男子バスケ、テニスの研究も紹介されており、加えて「あまり寝られなかった日の翌日に30分の昼寝をすると、しなかった場合に比べてAlertnessとスプリントタイムが向上する」と報告された研究も紹介されている。

2) 不十分な睡眠は怪我と病気のリスクを高める。具体的には「8時間未満の睡眠しか取っていない中・高校生は怪我のリスクが1.7倍(95% CI 1.0-3.0)に高ま」り7、「同じ量の活性風邪ウィルスを鼻から注入されても、7時間に満たない睡眠を取っている人は8時間以上取っている人に比べて2.94倍(95%CI 1.18-7.30)風邪を引きやすく8、睡眠時間が5-6時間や5時間を切った場合、風邪を引くリスクはさらにそれぞれ、4.24倍(95% CI 1.08-16.71)と4.50倍(95% CI1.08-18.69)に跳ね上がる9」んだそうである(後者のふたつ…すごい研究だ)。他にも、短い睡眠時間と食生活・代謝ホルモン分泌の乱れの関連性を認める論文や、結果BMIが高くなる、という報告もある。興味深いのは「痛みへの耐性」で、これは睡眠不足によって著しく減るという研究もあれば、増えるという研究もある。未解明の事柄も多いので、ここらへんはより詳しくこれからの研究で解明してほしいところ。

3) 介入としては、まずは2週間ほど自分の睡眠パターンを記録して現状を知り、そこから30-60分くらい睡眠時間を増やしてみて、例えば短距離走のタイムがどう変わるかを自分の身体を使って実験してみることをお勧めする(これらは実際に検証されたわけでなく、あくまで著者の個人的意見に基づくもののようですけど)。同時に、涼しく、暗く、静かで落ち着ける睡眠環境を確保すること、寝る前のRoutineを決めて実行すること、カフェインやアルコール摂取は避けるなど…まぁ、こういうのは一般常識ですかね。いちいちここに書かなくていいですかね。

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最後はこんな論文を。エリートアスリートには国境とTime Zoneを越えた遠征はつきもの。時差ボケをどう理解し、どのように付き合うか、という論文がこちら10。例えば、「生活リズムを調節するのは、早めるより遅くするほうが簡単」「故に、Time Zoneを超えて移動する場合、西より東に移動したほうが楽である(時差ボケになりにくい)」などと言われますが、これは本当なのか?実際に、アスレティック・パフォーマンスに影響がでるのか?についてはあまり研究されてきませんでした。これを検証しちゃおうというわけです。

ところで私初めて聞いたんですけど、「長距離の移動をすると、グリップストレングスが落ちる」というのは結構よく知れた事実なんですって。11-13 知ってました?ジャンプテストのパフォーマンスが落ちたりもするらしい。14 へー。へー。

また話が逸れた。この研究では10人の大学生アスリート(全員男性、平均年齢20.6±2.7歳)が被験者となり(少ないですね、お金がかかりそうな研究デザインだから仕方ないのかもしれないけど)、あちこちに移動しながら、15分のスタンダード・ウォームアップをしたのち、1) ジャンプテスト; 2) 20m走; 3) YYIR1テスト(持久力とリカバリーを図るテスト、動画参照)のパフォーマンス計測と、時差ボケ自覚症状チェック、そして睡眠状態の計測を行なったんだそうな。

パフォーマンス計測セッションは大別して4回。
#1: 遠征の2週間前に朝9時と夕方5時の一日二回、4日連続ベースラインデータを計測; #2: オーストラリアからカタール(西方向)に移動してからの4日間、*ちなみに時差は8時間、3便の飛行機(エコノミークラス)を乗り継いで、総移動時間は21時間にも及んだそうな; #3: カタールで4日間過ごした後(wash out)、カタールからオーストラリアに戻る(東方向)前の2日間と; #4: 移動してからの4日後。計測の24時間前はカフェイン、アルコールの摂取と極端な運動は禁止。なかなかややこしいですね!大変そう。

で。結果です。
興味深いことに、睡眠時間はベースラインと比較して、西への移動時は変わらなかったものの(06:28±00:48 vs 06:40±0.36)、東移動時は著しく減少(05:46±00:57, p < 0.05)。睡眠効率は、どれも大差なし(88.2±3.1%, 87.0± 4.7% vs 87.4±4.5%)。時差ボケ自覚症状は、西と東どちらに移動した場合もベースラインより悪化したものの(p < 0.05)、東のほうが西よりも著しく時差ボケ自覚症状が見られ、機能の低下、モチベーションの低下ともに東のほうが著しかった。移動の影響は、西方向よりも東のほうが大きく出る。ここまでの結果は、先の説と一致しますね。
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パフォーマンス計測の結果は上にまとめました。ジャンプテストの結果(上左)も同様に、Peak Forceが西・東どちらの計測も移動の影響を受けて悪化(p = 0.04)したものの、より東へ移動した際のほうが西よりも悪化(p = 0.03)。20m走(タイムなのでグラフの上に行けば行くほど悪いパフォーマンス、上中央)はやはり全体的にベースラインと比較しての悪化が確認できたが、中でも計測2日目は東(〇)に移動したときのほうが西(●)より悪化(p = 0.03)していた。YYIR1(これは走行できた距離を示しているので、下に行けば行くほど悪いパフォーマンス、上右)は一日目は西(〇)のほうが東(●)より著しく優れたパフォーマンスを見せたが(p < 0.001)、4日目には東のほうが高いパフォーマンスに(d = 1.00)なるなど、バラツキが見られた。

そんなわけで、多少の一貫性の欠如はあるものの総じて「東方向に移動したときのほうが、西へ移動するときよりも睡眠、時差ボケ、スポーツパフォーマンスへの悪影響が著しく出る」ということが言えそうです。遠征のスケジュールを組む場合、東方向の遠征は数日余裕を持ってつくようにして、リカバリーの時間を十分に設けることなどが具体的な臨床への応用法でしょうか。私の個人的な体感でいうと、逆なんですけどねー…。日本に帰るときのほうが(西)、アメリカに戻ってくる時より(東)時差ボケが思いっきり出て、長いことしんどい。でもこれはn = 1ですし、アメリカに戻ってくるときはいつも「学期が始まるぞっ」っていう緊張感があるからかも。

まぁそんなわけで、睡眠に関する文献をざざっと読みましたがどれも興味深かったです。もちろん、何時間寝たか、という時間量だけではないと思うんですけど(= 睡眠の質をいかに高めるかも充分大事だと思うんですけど)、やはり多くのアスリートにおいては睡眠の絶対量が単純に足りていない、という一般的事実はあるのではないかと思います。ここまで文献を読んで、「アスリートが普段寝ている時間よりも2時間ほど睡眠を延長することによって得られる利益は、思っているよりも多くあるのかもしれない」とは感じます。まぁでも実際問題…9時間睡眠を確保するのは難しいですよね…7時間だってなかなか厳しいのに…。私ももう少し寝たいなー、どうすんべかなー・

1. Leeder J, Glaister M, Pizzoferro K, Dawson J, Pedlar C. Sleep duration and quality in elite athletes measured using wristwatch actigraphy. J Sports Sci. 2012;30(6):541-545. doi: 10.1080/02640414.2012.660188.
2. Lastella M, Roach GD, Halson SL, Sargent C. Sleep/wake behaviours of elite athletes from individual and team sports. Eur J Sport Sci. 2015;15(2):94-100. doi: 10.1080/17461391.2014.932016.
3. Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, et al. National Sleep Foundation's updated sleep duration recommendations: final report. Sleep Health. 2015;1(4):233-243. doi: 10.1016/j.sleh.2015.10.004.
4. Van Ryswyk E, Weeks R, Bandick L, et al. A novel sleep optimisation programme to improve athletes' well-being and performance. Eur J Sport Sci. 2017;17(2):144-151. doi: 10.1080/17461391.2016.1221470.
5. Simpson NS, Gibbs EL, Matheson GO. Optimizing sleep to maximize performance: implications and recommendations for elite athletes. Scand J Med Sci Sports. 2017;27(3):266-274. doi: 10.1111/sms.12703.
6. Williamson AM, Feyer AM. Moderate sleep deprivation produces impairments in cognitive and motor performance equivalent to legally prescribed levels of alcohol intoxication. Occup Environ Med. 2000;57(10):649-655.
7. Milewski MD, Skaggs DL, Bishop GA, Pace JL, Ibrahim DA, Wren TA, Barzdukas A. Chronic lack of sleep is associated with increased sports injuries in adolescent athletes. J Pediatr Orthop. 2014;34(2):129-133. doi: 10.1097/BPO.0000000000000151.
8. Cohen S, Doyle WJ, Alper CM, Janicki-Deverts D, Turner RB. Sleep habits and susceptibility to the common cold. Arch Intern Med. 2009;169(1):62-67. doi: 10.1001/archinternmed.2008.505.
9. Prather AA, Janicki-Deverts D, Hall MH, Cohen S. Behaviorally assessed sleep and susceptibility to the common cold. Sleep. 2015;38(9):1353-1359. doi: 10.5665/sleep.4968.
10. Fowler PM, Knez W, Crowcroft S, et al. Greater effect of east versus west travel on jet lag, sleep, and team sport performance. Med Sci Sports Exerc. 2017;49(12):2548-2561. doi: 10.1249/MSS.0000000000001374.
11. Edwards BJ, Atkinson G, Waterhouse J, Reilly T, Godfrey R, Budgett R. Use of melatonin in recovery from jet-lag following an eastward flight across 10 time-zones.Ergonomics. 2000;43(10):1501-1513.
12. Reilly T, Atkinson G, Budgett R. Effect of low-dose temazepam on physiological variables and performance tests following a westerly flight across five time zones. Int J Sports Med. 2001;22(3):166-174.
13. Lemmer B, Kern RI, Nold G, Lohrer H. Jet lag in athletes after eastward and westward time-zone transition. Chronobiol Int. 2002;19(4):743-764.
14. Chapman DW1, Bullock N, Ross A, Rosemond D, Martin DT. Detrimental effects of west to east transmeridian flight on jump performance. Eur J Appl Physiol. 2012;112(5):1663-1669. doi: 10.1007/s00421-011-2134-6.

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  by supersy | 2018-01-13 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

寝る子は育つ?睡眠時間を延長すると、アスレティック・パフォーマンスは向上するか。その1。

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PRIマイオキネマティック・リストレーション in 横浜、ポスチュラル・レスピレーション in 東京の両講習が年末無事に終わりました!この冬でPRI日本講習の延べ受講者数が1000を超えたらしく(!)、なんと申しますか、感慨無量です。今までは年に夏と冬の二回、まとめて地道におこなっていたPRI日本講習ですが、2018年はもっと少人数での定期開催が可能になると思いますので、今まで時期が合わなかった、申し込みそびれていた方もこの機会に是非ご参加ください。

さて。私はこれらの講習が仕事納めで、年始は少しゆっくりしようと旦那と二人で台湾に旅行にも行ってきました。高雄に台北に夜市に九份に楽しかった!この冬も充実した日本滞在でしたー。5日前にテキサスの自宅に戻ってきたところです。お世話になった皆様ありがとうございます。
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さて、新年の抱負などここにぐだぐだ書いても仕方ないので、2018年もいつも通り読んだ論文のまとめから始めたいと思います。

個人的な話ですが、こうして日本とアメリカを定期的に渡り合ったり、それから元々肝っ玉の大きいほうではないので一日や二日の大掛かりな講習をしたりすると緊張して充分な睡眠が取れなくなることは多いです。若いころはそれでも元気にやれていたけど、年齢を重ねるとなかなか一晩の睡眠不足から回復するにも時間がかかるなぁと実感している最中です。今回は睡眠とヒトとしての機能の繋がり、特にアスリートのパフォーマンスに関する論文を少しまとめて読んでみました。いやー、この分野は興味深い研究が多いですね!全部はとても読めないや。
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まずは有名な「スタンフォード大男子バスケットボールチームの研究」1 から(↑)。研究が開始されたのが1-3月にまたがってある冬学期中だったため、その時期にシーズンを迎えるスポーツ選手をメインに被験者にリクルートしたそうな。チームあたり5人以上の選手から回答があり、現在睡眠障害がなく、健康状態が良好で、現在試合や練習に参加していることを条件に絞り込んだ結果、男子バスケットボールチームに白羽の矢が立ったのだと。被験者は11人(平均19.4±1.4歳)とかなり少なめ

2-4週間に渡る「Baseline Period」では、それぞれの選手が一日当たり6-9時間の睡眠をとっていることを確認したのち、5-7週間を「実験期間(Sleep Extension Period)」とし、普段よりも長い睡眠時間(最低でも10時間)取るように指導したとのこと。もちろん期末試験と重なったり、遠征と重なったりすることもあるので、どうしても不規則になるときはあったようなんですが、その場合は昼寝を推奨という形で補ったそう。

IV: 被験者はDaily Sleep Log/Journalを付け、いつ寝たかを各自記録したのに加え、手首に装着するタイプのアクティビティー・モニター(Actigraphy)も用い、これらのデータをマッチさせながら睡眠・行動時間を計測(データ同士に矛盾があった場合はどうしたのかな?)。これらのActigraphyは「Accepted Methodである」「Validatedされている」という記述はあるものの、そのStatementをサポートする論文として具体的に引用されているのが2003年発表のReview Articleひとつのみ2 なので、論理として確立されているかというと少し薄みを感じます。こういったデバイスが年々性能を上げているのは明らかなのでしょうけれど、この実験が行われた段階(2005-2008年)で使われたそれがどれほどの誤差を含んだものだったのか、個人的には考慮しないわけにはいかないのではと思います。しかし、被験者の主観的なSelf-Reportと、客観的データを提供するActigraphyを併用したのは評価されるべきではないでしょうか
DV: 計測されたOutcomeは大別して5種類。
●Epworth Sleepiness Scale (ESS): 0-24の得点形式で、昼間の眠気の高さを図る。得点が高ければ高いほど眠気も高いと判定される。Baseline時とSleep extension終了時の2回計測。
●Profile of Mood States (POMS): 感情・ムードの変異を推し量る。毎週実施。これらのスケールを選んだ理由は明記されていませんが、個人的には両方とも一般的によく使われる、Well-establishedなツールであると記憶しています
282フィート走のタイム; 10本のフリースローの成功数; 15本のスリーポイント・シュートの成功数: 毎練習後に計測。タイムはストップウォッチで測ったのかな?「同一人物が計測した」という記述はあるけど、blindingがあったとは書いてないし、誤差やバイアスの可能性は否定できない
●毎試合・練習後に、試合・練習中のMental & Physical Well-beingを10段階評価で自己評価したもの: シンプルであるとは思うけど、これがValidated Methodであるという根拠は
●午前中と午後にそれぞれ一回ずつ、一日二回、決まった時間に計測されるPsychomotor Vigilance Task (PVT): 視覚的刺激が現れたらできる限り速くボタンを押し、その反応時間を推し量るもの(動画参照)。こちらもValidationに関する記述なし。私は初耳のテストです。

…で、結果です。
睡眠時間はSleep Journalが470.0±65.9分(約7.8時間)から624.2±68.4分(約10.4時間)、Actigraphyでは400.7±61.8分(約6.7時間)から507.6±78.6分(約8.5時間)へと、どちらも著しく上昇(p < 0.001)。日中の眠気と(9.64±3.8 vs 3.36±1.7, p < 0.001)、疲労や鬱、怒りといったネガティブな感情も著しく減少(13.76±17.17 vs -10.36±9.62, p < 0.001)。PVTによる反応時間も、例えば午前中の平均反応時間が329.64±45.44秒から285.86±34.26秒(p < 0.001)と著しく改善し、282フィート走は16.2±0.61秒から15.5±0.54秒へ(p < 0.001)、フリースロー成功数は10本中7.9±0.99本から8.8±0.97本へ(↑9.0%、p < 0.001)、スリーポイント・シュートは15本中10.2±2.14本から11.6±1.50本へ(↑9.2%、p < 0.001)、そして練習中のWell-beingと試合のそれも6.9±1.41から8.8±1.06へ(p < 0.001)、7.8±1.07から8.8±1.19へ(p < 0.001)、それぞれ著しく上昇しました。

結論としては睡眠時間を習慣となっている長さから2.5時間ほど増やすと、日中の眠気が吹き飛び、気分が高揚し、走るのも速くなり、シュート成功率も上がり、反応も良くなって、より充実した試合や練習時間を過ごせる、というところでしょうか。まぁこれはところどころOver-generalizationかなぁとも思いますけど、結果だけ見るとすごいですね、一石七鳥くらいですね。

今回計測した、282フィート走る、や、フリースローを決める、というのはあくまでControlled Environmentで行われたものなので、これらのパフォーマンス向上が実際の試合での得点や勝利に結びつくかまでは分かっていないということは言及されなければいけませんね。比較対象として、コントロール群も設けられていなかったのも痛かった。たまたまイケイケノリノリのシーズンで、シーズンが進むにつれチーム全体が活気に溢れ、(睡眠時間が原因でなく)パフォーマンスが向上したり、気分が高まったりしたという可能性も否めません。コントロール群を使わないなら、A-B-A-Bデザインを用いても良かったのでは?

しかし私はこの研究が、「シーズン中」に行われたこと、そして与えられた指示が「いつもよりなるべく長めに、最低でも10時間くらい寝るように心がけて」という緩いものであったことにこそ意味があるとも思うんです。選手を特定の時間になったら無理矢理寝室に引っ張ったとか、そういう介入ではなく、「なるべく早く就寝して、10時間の睡眠を確保する」「寝足りなければ昼寝をする」という、誰にでもできる「心がけ」程度の介入だったことに実用性があるなと思ったんですよね。完全に被験者の睡眠をコントロールしなかった、そこに我々が実践できる現実味があると言っていいんじゃないかなと。ふーむ、面白い。

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さて、それでは他のスポーツではどうなのかも気になりますよね。こちらの論文3ではテニス選手を対象にした検証を行っています。テニスのサーブは脳の殆どの箇所を活性させなければいけないほど複雑なタスクであるから、睡眠の影響が何らかの形で出るとしたらサーブが影響されないわけはない!という少し強引で、でも斬新で面白い観点から、12人のNCAA D-IIIテニス選手(うち、男5人、女7人、平均年齢20.2歳)を被験者に採用しています。この被験者のn数はやっぱり少ないと思うし、何より被験者のDemographic Dataが全く提供されていないのが個人的に気になるなぁ

b0112009_15522684.png介入は至ってシンプルで、「最初の一週間は普通に過ごし、二週間目は一日あたり9時間睡眠をとるように」という指示を与えたのみ。被験者は毎日自分の睡眠パターン、昼寝を含む睡眠時間を日記に記録して、これを実験期間中の合計14日間続けたそうです。先の研究を違ってActigraphyは使わなかったようなので、睡眠時間のデータは完全に被験者のself-report頼りですね。昼間の眠気を推し量るESSは研究開始時、一週目終了時と二週目終了時に計3回実施、疲労度を測るStanford Sleepiness Scaleは実験期間中毎日実施したそうな。それから、テニスのサーブ計測は実験開始7日目(介入なし)と14日目(睡眠延長時)の2回行われました。5分のウォームアップを各自行ったのち(これはスタンダード化されたわけではなさそう)、50球のサーブを図の★の位置(↑)から打たせ、相手側コートの逆側サービスボックスの外側・深いところ(画像の赤丸)に入ったものを「成功」とし、数を数えたとのこと(Aで25球、Bで25球、合計50球)。天気や風の影響を受けぬよう、室内の施設で計測を行ったところは評価できます。ちなみに、サーブ計測前48時間はカフェインとアルコール摂取は禁止(しかし、指示のみで確認はせず)されていた…というころは、カフェインもしくはアルコールを摂取したら今回の結果は再現できない可能性ありということにもなりますね。

…で。結果です。
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もー一番わかりやすいかなと思って表にまとめてみました。まとめると、睡眠時間は著しく上昇、眠気と疲労が著しく減少し、サーブ成功数も著しく上昇した、と。結果としては、睡眠時間を2時間くらい増やすとテニスのサーブの正確性上がるね、ってことなんですけど、これは単にLearning Effectsってことも考えられるので、やっぱりControl群を採用するか、もしくはA-B-A-Bデザインしてほしかったです(くどい)。あとは、個人のパフォーマンス見てると、ひとりめっちゃ正確性が下がった人もいますね(32%悪化! ↓)。サーブは水物、と言ってしまえばそれまでだけど、そうなると他の選手のパフォーマンス向上もミズモノ、つまりたまたま偶然向上しただけってことになってしまいます。どちらにしても、興味深い結果ではありますが、やはりサンプル数が不十分に思えますし、実際の試合でのパフォーマンス向上に直接的なつながりがあるかは断定できません。
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では、長くなるのでもうひとつだけ。少しマイナーですが、ボート競技ではどうなのか?4
高い強度のトレーニングは睡眠に悪影響を与えるとする過去の研究5-7を紹介し、早朝から高い強度のトレーニングをこなす、55人のジュニアのドイツ代表ボート選手(男30人、女25人、平均年齢17.7±0.6歳)の睡眠について検証してみましたぜ!というのがこの論文。被験者の数が多いけどこりゃ、年齢層が若いなー!個人的には若いころは寝なくても平気で、年齢を重ねるにつれてどんどん「寝ないとダメ」になってきたんだけど、このくらいはどうなんだろう?他の年齢層、成人層にデータを十分にtransferできるのかな

オリンピックのための強化合宿4週間(正確には26日間)を使ったこの検証。選手は基本、21:30には自室に戻り、寝ることこそ強制されないものの、22:00には「静かに」しなければいけない、練習は翌朝6:30に開始…というスケジュールだったそうです。朝の練習(6:30-8:30am)はボートの上で、そこから一時間から一時間半のウェイトトレーニングを挟んで、午後からまたボートの上で練習、場合によってはその後、夜間にさらにウェイトをこなすこともあったのだとか(4部練!)。合宿の前半(Week 1~2)は練習の強度が特に高めで、後半(Week 3~4)は練習が少なめの日が多かったそう。55人は毎朝睡眠記録を付けており、うち、18人(男13人、女5人)はアームバンドタイプのActigraphも装着。Short Recovery and Stress Scaleも毎日計測していたんだそうな。

で、結果なんですけど、特に何も介入していなかったわけなんですが、比較してみるとWeek 1と2の睡眠量は(self-report睡眠記録でそれぞれ408.9±18.5分、419.1±15.5分、Actigraphyで342.9±30.3分、340.4±32.0分)、Week 3と4のそれに比べて(self-report睡眠記録で422.9±17.3分、481.3±18.4分、Actigraphyで357.0±24.6分、368.7±44.8分著しく低かったんですって。これは練習の強度が関係しているのか、それとも「合宿」という新しい環境に身を置いたからかな。その両方かな?

それから興味深いのことに、研究開始6日目にサッカーワールドカップの決勝が夜遅い時間にTV放送されていた関係で(ドイツが決勝に残っていたと予想されます…)、この夜は選手の睡眠時間が平均して1.5時間減(self-reportで347.6±38.4分、p<0.001)。逆に22日目はトレーニングのないオフ日だったので、睡眠時間が2時間弱増加(533.5±38.6分、p<0.001)したそうなんです。睡眠が短かった晩(6日目)の翌朝には多くの選手がその眠りを「less restful (3.1 ± 0.9」と評価、足りない眠りを平均52.8 ± 31.6分の昼寝で補おうとしたのに対して、十分に睡眠の取れた22日目の翌朝は選手が「more restful (1.9 ± 0.7」と感じ、肉体的・精神的な充実感と感情のバランスが十分に取れており、研究期間中最も「回復した」状態にあったそうです。

いやー、Activeな介入があったわけでもないのに関わらず自然とA-B-A-B的なデザインが出来上がっていて興味深いですね!同じ合宿生活を送っていただけに、かなりの要素(i.e. 食事、トレーニング時間・内容)がコントロールできているのもいい。直接的なパフォーマンスの計測がなかったのが残念ですが(合宿中だしコントロール群もないしで、このデザインでは難しいですよね。フツーに考えれば合宿中で技術や体力がアップするのが目的なんだろうし、パフォーマンスが後半にかけて向上していても、それは恐らく睡眠よりもトレーニングそのものの影響である可能性が高い…)、それでもなかなか妄想しがいのある論文でした。

あと数個、睡眠とアスレティック・パフォーマンスに関する論文を見つけたので、これは次回にまとめます!いかんいかん、時差ボケも真っ只中だし、このままでは私の睡眠時間が削られてします。ぐっすり寝ようー。


1. Mah CD, Mah KE, Kezirian EJ, Dement WC. The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep. 2011;34(7):943-950. doi: 10.5665/SLEEP.1132.
2. Littner M, Kushida CA, Anderson WM, et al. Practice parameters for the role of actigraphy in the study of sleep and circadian rhythms: an update for 2002. Sleep. 2003;26(3):337-341.
3. Schwartz J, Simon RD Jr. Sleep extension improves serving accuracy: A study with college varsity tennis players. Physiol Behav. 2015;151:541-544. doi: 10.1016/j.physbeh.2015.08.035.
4. Kölling S, Steinacker JM, Endler S, Ferrauti A, Meyer T, Kellmann M. The longer the better: Sleep-wake patterns during preparation of the World Rowing Junior Championships. Chronobiol Int. 2016;33(1):73-84. doi: 10.3109/07420528.2015.1118384.
5. Taylor SR, Rogers GG, Driver HS. Effects of training volume on sleep, psychological, and selected physiological profiles of elite female swimmers. Med Sci Sports Exerc. 1997;29(5):688-693.
6. Fietze I, Strauch J, Holzhausen M, Glos M, Theobald C, Lehnkering H, Penzel T. Sleep quality in professional ballet dancers. Chronobiol Int. 2009;26(6):1249-1262. doi: 10.3109/07420520903221319.
7. Hausswirth C, Louis J, Aubry A, Bonnet G, Duffield R, LE Meur Y. Evidence of disturbed sleep and increased illness in overreached endurance athletes. Med Sci Sports Exerc. 2014;46(5):1036-1045. doi: 10.1249/MSS.0000000000000177.

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  by supersy | 2018-01-12 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

東京EBP講習を終えて、と、立命館大学訪問。

16日に日本に帰国しましたが、17、20、21日と東京は立川でもはや恒例になっているEBP講習を行ってきました。遠方から(南は熊本、北は岩手や仙台)来てくださった方々も多くいて、本当に感謝しかありません…。夜行バスで来ました!や、飛行機で帰ります!という逞しいお声を頂くたびに、ありがとうございやす!へへー!と頭が下がる思いです。
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今回のEBP治療介入編講習では、従来からの「基礎編」に加えて「臨床応用編・AMI」「臨床応用編・腱障害のリハビリ」という2つの新たな講習を追加しました。個人的にはこれら両講習の準備はとても楽しかったですし、腱障害リハビリ編では参加者さんにもバリバリスクワットをやってもらって後日複数名から「筋肉痛になりました」と報告を受けるほどの実りある(笑)ものになりました。

次回はEBPスポーツ傷害評価編講習を発展させ、「基礎編」に加え、「臨床応用編・前十字靭帯断裂」や「臨床応用編・肩痛鑑別」なども提供できたらいいなーと思っています。これらの2トピックは完全に私の個人的な趣味なんですが、現場で活用できる方は決して少なくないと思うので…。実現には半年か一年かかるかもしれませんが、地道に進めていきたいと思います!



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それから、19日は立命館大学びわこ・くさつキャンパスにお邪魔してきました。ジョージさんに、「うちの学生に、良いAT Studentになるには、みたいな話してよー」と意外とゆるーいご依頼を頂いて、「What I look for in an Athletic Training Student」というタイトルで、講義と呼ぶにはあまりに雑談に近い一時間半ほどのワイワイ談義会をしてきたのです。英語での講義でしたが、英語でバンバン質問を返してくる学生に逞しさを感じました。ATの大先輩、東さんや秀樹さん、ジョージさんにジデンも座っての豪華なひとときでした。キャンパスツアーもしていただいてほくほく!お世話になった皆さん、ありがとうございましたー。
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そんなわけで帰国してからここまで個人講習をどどどどどっとやってきましたが、これで一区切りです!残るはPRI講習x2。個人講習ではない緊張感を楽しみながら、明日から2日間の横浜のマイオキン、それから27・28日の帝京大学でのポスチュラルを思いっきり教えきってこようと思います。それが終われば仕事納めじゃー!気持ちよく年を越すぞー!

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  by supersy | 2017-12-22 14:45 | Athletic Training | Comments(0)

Modified Neer Impingement Testの診断力やいかに。

秋学期が終了しました!やった!今学期も最後までドタバタでした。日本に帰ってまいりました。
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さて、Subacromial Impingement Syndrome (SIS)についてぼけっと考えていたらこんな最新論文1 を見つけたのでまとめておきます。まさに今月発表のものだそうです。

SISは数ある肩の障害でも最も頻繁(肩の障害全般の44-65%)に起こると言われており、2 個人的な意見としてはPrimaryよりもSecondaryのほうが圧倒的にアスリートには多く、長期なリハビリを要する可能性が高いため、早期発見・早期介入がカギになるんじゃないかと思ってます。んで。よく使われる診断テストの中にNeer Impingement Test(下の動画参照)というのがあるんですが…非常に有名なテストである一方で、現場での診断力はというと、なかなか完璧とはいかないんですよね。


既存の論文からのDiagnostic valuesを見てみると(別途まとめるのが面倒くさかったので、私の授業のパワーポイントから失礼します)、Neer Impingement Testはどちらかというと確定力より除外力のほうが高そう?でもなんならもう一つの有名なHawkins-Kennedy Testのほうがまだ使えそう?うーん、どちらにしてもこれだけでSISの診断を確立できるようなものではなさそうです。
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では、このNeer Impingement Testの正確性をより高くするために、こんな風にModifyしてはどうか?と提案しているのが今回の論文なのです。疑問が多く出てきますのでネチネチ指摘していきたいと思います。

1. (Original) Neer Impingement Test
この論文によればNeer Testは「座位の状態の患者の腕を取り、片手で肩甲骨を支持しながらもう片手で受動的に腕を前方に挙上("elevate the effected arm from the ventral direction")。60-120°の外転時に痛みが出れば陽性」とあるのですが、これはちょっと分かりにくい表現ですし(肩を前方に挙上していったら屈曲の動きになると思うんですが、外転と表現されているあたりで混乱してしまいます)、私が知っているNeer Testとは少し異なるのです。Neer氏のオリジナルの描写を読む限りでは、「肩を腕ごと内旋してからの最大屈曲」をさせオーバープレッシャー、痛みが出るかどうか見るもののはずなんです。この論文で紹介されているNeer Testには引用が全くされておらず(これはちょっとまずいでしょう)、筆者らが解釈しているNeer Testが本来のNeer Testからズレがある可能性があります。これは後に大きなバイアスを生む可能性を含んでいます。
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2. Modified Neer Test
Step 1: Figure 1(↑)にあるように、肘を90°に屈曲させ、掌が下を向く状態を取る。ここで痛みがあることを確認する。

写真ではさながらHawkins-Kennedy Testの開始時のような恰好になっていますが、面白いことに「肘が90°、掌は下」という指定があるだけで、肩の状態が全く描写されていないんです。写真では肩が…ええと…90°の屈曲というよりは90°のScaptionをしているように見えるんですけど…実際のところどうなんでしょう?どうしてこの肝心な部分の説明が一切ないのか疑問です。この描写を読んでテストをやってみろと言われても、筆者たちと全く同じテストを再現できる自信が私にはありません

Step 2: Figure 2(↑)のように、肩を少し外転させてから90°外旋、そこからさらに腕を挙上する。これで痛みが軽減したり無くなれば陽性。痛みが増えたり、この状態が撮れなければ陰性。

…ん?外転してから外旋、そしてまた挙上?Arm elevation(腕の挙上)と言う言葉は曖昧なので、shoulder(肩関節の) flexion(屈曲)とかshoulder(肩関節の) abduction(外転)などとはっきり明記されるべきだと個人的には思います。"slightly abducted"だの(slightlyってどのくらいよ?)、"elevate the affected arm again"だの(これもどのくらい?)も、程度がわからない、解釈に苦しむ表現です。…というか、ここまでNeer Testの原型を留めていないなら、なぜModified Neer Testと呼ぶ必要があったのでしょう?全く違う名前でもよかったのでは?

続けます。被験者となったのは15-65歳の肩の痛みを訴えて来院してきた82人の患者(平均年齢不明、男50人、女32人、うち3人は両肩の痛みを訴えていたため、全部で85の肩を検証)で、一人の医師が一貫して患者を診察(Neer TestとModified Neer Testを使用)。その後にX-rayとMRAを行って最終診断を下した、とあるのですが、ここのところも不明瞭な点がいくつかあります。
「最終診断は以下の診断基準を使って下された」と書かれているところで、「SISの主な診断基準は腕の挙上に伴う痛み、インピンジメントサイン(説明がないのでこれが具体的に何を指すのかは不明)、painful arc、上腕骨大粗面の圧痛、肩峰下滑液包リドカイン注射、レントゲン(この二つはprocedureであって発見ではありません、何を意味するのかさっぱり分かりません。レントゲンは全員撮ったんでしょ?)、タイプIIかIIIの肩峰突起 + 硬化と、上腕骨大粗面と肩峰突起骨棘結成など」 と記述されており、これら全てがpresentならSISという判断をするのか、ひとつだけでもいいのか(だとしたら腕を挙げての痛みでSISというのは遅しく浅はかな診断である気もしますが)、何度読んでも測りかねます。「など」、と最後に含みを持たせているところも気になります。これらがどれだけ確実なSIS診断をもたらすのかという具体的な説明はなく、「本当にこの基準を使ってSIS患者を正しくidentifyできるの?」というのは疑問の残るところです。

一方で「Frozen shoulderの主な診断基準は痛みと能動的、受動的両方のROMの全体的な(特に内外旋)低下、レントゲンでは異常が見られず、且つMRIで関節包のthickeningが確認できること」とあります。最初の「痛み」っては少し広すぎかと思いますが、SISの診断基準よりは格段に理解しやすいです…相変わらず根拠は書かれていませんが。もっと言うとFrozen shoulderって正式な医学用語ではないと思うので、適切かつ具体的な診断名をちゃんと表記すべきでは?とも思うのですが…(個人的には「Frozen shoulderってつまるところ、Adhesive capsulitisでしょ?」と思って読んでいたのですが、考察のところで「Frozen shoulder = capsular adhesionという概念はエビデンスによって否定されており、capsular adhesionと言う言葉は使うべきではないという意見もある」と書かれており…これは知らなかった!目からうろこです。どういう「エビデンス」なのか、あとで読んでみなくてはです)。
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結果はどどーんと張っちゃいます。こんな感じです。論文のデータを元に2x2テーブルを作って、そこからLikelihood ratioと、ついでに95%CIも計算してみました(本文中で求められていたのが感度、特異度と+/- Predictive valuesのpoint valueのみだったので)。SIS有の患者数がNeer Testが41人、Modified Neer Testでは40人と、全く同じ被験者グループを検証したはずなのに人数が違っているのは非常に奇妙です。どこか数字にミスがあるのではと思います…。このままの数字を解釈すると、Modified版のほうが除外力を兼ね備えたまま確定力が格段に向上しているような結果に見えます。興味深い記述としては、「Frozen shoulderと診断された14人、15の肩のうち、Neer Testは全員陽性(つまり偽陽性)で、Modified Neer Testは全員陰性(真陰性)だった」、つまり、SISと混同されがちなFrozen shoulderも、Modified Neer Testを使えば正しく鑑別できちゃったぞってことでしょうか。

結論では「Modified Neer TestはSISとFrozen shoulderの鑑別ができる、信頼性と正確性の高い素晴らしいテストである」とまとめられていますが、信頼性は一回も報告されていないのでここも???という感じです。計測できたとしたらintra-rater reliabilityだと思うんですけど(計測者が一名しかいないので)、測ったという記述もなければ、その数字の報告もありません。測っていないものをあるかのように報告している論文は初めてなので、ここ、誰も指摘しなかったのかな?と個人的にハラハラしてしまいます。

うーん、テスト自体は面白いし、外旋を使って痛みがなくなるか見ることで、他の肩の障害と区別をつけられるのではないかっていう発想はいいんですけどねぇ。やっぱり文章の正確性、研究のデザインやエビデンスの引用に穴がありすぎかな。こんなテストもあるんだなーってくらいに頭に留めておいて、続報がでたらまたチェックしてみたいと思います。今、現段階で現場で使うって感じでもないかな。


さて、帰国早々ですが、明日は一日立川で講習です!時差ボケを元気で吹っ飛ばして楽しんできたいと思います。


1. Guosheng Y, Chongxi R, Guoqing C, Junling X, Hailong J. The diagnostic value of a modified Neer test in identifying subacromial impingement syndrome. Eur J Orthop Surg Traumatol. 2017;27(8):1063-1067. doi: 10.1007/s00590-017-1979-8.
2. Bhattacharyya R1Edwards K, Wallace AW. Does arthroscopic sub-acromial decompression really work for sub-acromial impingement syndrome: a cohort study. BMC Musculoskelet Disord. 2014;15:324. doi: 10.1186/1471-2474-15-324.
3. Neer CS. Impingement lesions. Clin Orthop Relat Res. 1983;173:70-77.

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  by supersy | 2017-12-16 21:30 | Athletic Training | Comments(0)

ACL再建手術からの競技復帰は、「最低9ヶ月」かけろ?

秋学期ももう終盤。年末の帰国時期が迫ってきています、やっほうー。と、いうことは帰国翌日から始まるEBP講習までもあと2週間ほどです。新たな講習もあるので今回は特にわくわくです。

<講習日時>
2017年12月17日(日)
9:30am-12:45pm  エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習
12:45pm-14:00pm 昼食(各自)
14:00pm-16:00pm エビデンスに基づく治療アプローチ: AMIと抑制解除療法 (NEW!)
16:20pm-18:20pm エビデンスに基づく治療アプローチ: 腱障害リハビリ (NEW!)

2017年12月20日(水)
18:20pm-21:35pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習

2017年12月21日(木)
18:20pm-21:35pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習

まだ申込受付中ですので興味のある方は是非!詳しくは以前のブログ記事からどうぞー。



先週末の話になるのですが、Thanksgiving Breakはオハイオはクリーブランドにお邪魔していました。中山佑介(ゆっけ)さんの「好きな時にいつでも遊びに来てください」というお誘いを真に受け、遊びに行くならこのタイミングしかないー!と飛んでいったのです。すみません、誘われると私はいちいち本気にします。

11月22-25日の三泊四日の小旅行でしたが、11月22日のvs Nets戦と24日のvs Hornets戦の2試合を観戦させてもらったばかりか、Cleveland Cavaliersの練習施設も見学させていただいたりと非常に充実していました。Thanksgivingに休暇の旅行をしたのは10年ぶりくらい…羽を伸ばすとはこういうことかー!という幸せなひとときでした。
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この業界にいるひとつの楽しみに、友人の働くチームの活躍を心の底から応援できる、つまり、応援できるチームが各リーグにたくさんできる、というのがあります。試合中、コートやフィールドを走り回っている選手を見ながら、この選手一人一人が元気でプレーできている裏に何十、何百、何千時間というメディカルスタッフの尽力、努力、苦労があるのだろうなぁと勝手に妄想を膨らませてしんみりしたり感動したりするのがそれはそれはとても楽しいのです。観戦した2試合ともCavaliersは接戦を制し、7連勝と勢いに乗っていました(その連勝記録を今日までに11に伸ばしているようです)。あー楽しかったー。ゆっけさん、ありがとうございます!この写真は昨年Spurs戦にSan Antonioにいらしたときにゆっけさんと撮ったやつです。
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さて、話は変わりまして。ACL(前十字靭帯)断裂はアスリートにとって脅威ですよね。中でも「ACL再建手術を経験した若年スポーツ選手のうち、その30%程が術後2-3年の間に二度目のACL断裂を経験する」1,2 という統計はかなり深刻で、「どう(理想的に)ACL再建手術から回復していくか」という分野はまだまだ掘り下げる余地がありそうです。
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で。Level I sports (jumping, cutting, pivotingのあるスポーツ、上記の表3 参照)に競技復帰するにあたって、ACL再建手術をした患者の術後2年以内の再受傷率はどのくらいなのか?競技復帰のタイミングや競技復帰時の機能にそれはどのように影響されるのか?を検証した論文がこちら。4 タイトルが興味深いですね、とりあえず読んでみましょー。
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対象となったのは106人のACL再建手術を受けた患者。Inclusion criteriaは1) 3ヶ月以内に片方の膝にACL再建手術を受けていること、2) KT-1000で3mm以下の左右差があり(= 手術成功した、という基準に使っているのかなと解釈)、3) 13-60歳で(ちょっと年齢幅が広い…競技復帰など、この結果がapplicableになる患者層を考えれば13-35歳くらいに限定してもよかったのでは)、4) Level IかIIのスポーツを少なくとも一週間に2回の頻度で受傷前に参加している、ということ(Level Iの競技復帰を検証するのに、どうしてLevel IIのみしかしていない患者を含むのかは疑問)。Exclusion criteriaは1) 膝(健側患側のいずれかも)の怪我受傷の既往歴があること(何故これがダメなんだろう?)、2) 患側の膝にグレード3の靭帯損傷やfull-thicknessの軟骨の損傷が認められること、3) ACL断裂に付随する半月板の損傷が有り、且つそれが受傷3ヶ月後にplyometric exerciseをしていると痛みもしくは腫れが出ること。ここらへんは個人的にはもう少し説明をしてほしいというか、何故グレード2はオッケーでグレード3がダメなのか、「再建手術をここ3ヶ月以内に受けた」の患者が対象で、「受傷から3ヶ月経ってもPlyo最中に痛み・腫れが出る」というタイムラインは合わないのではないか、など疑問が残ります(= 再建手術後3ヶ月以内でplyoが元気にできるケースのほうがレアなのでは?など、理に適っていない部分が多いと感じます)。

患者群は受傷後、5週間のpre-operativeリハビリプログラムを全員一貫して終了したのち、手術をするか保存療法で行くかを決めたという記述があるので、そこで手術をしようと判断された患者がこの研究に流れてきたってことなんでしょうね。しかし、どういう患者が「手術が必要」と判断されたのかという記述はありません。手術の際のグラフトはBPTBかHamstringかの二択があったらしいんですが、これも統一されていない→outcomeに影響を及ぼす可能性は大いにアリで、postoperativeのリハビリに関しても、preoperativeと異なり個々の患者に合ったものが作られたらしいんですが、リハビリの多様性もoutcomeに影響を及ぼすのではと思いますね。ぼややっと「postoperativeのリハビリは全部共通の3 phasesがあり、それぞれのphaseではこういう目標がありました」という概要は明記されているのですが、一体何人のPTがリハビリデザインをし、実践したのか、どれだけの多様性が実際存在したのかなど細かい説明はありません。こういうのは大いにこの実験のInternal validityを脅かす要素だと思いますね。

実験期間中、患者はonline surveyを使って毎月参加したactivityや膝の怪我を報告(self-reportなので真実でない可能性、報告を忘れる可能性、recall biasなどが入る可能性あり)。期間中、再受傷した場合はクリニックに戻って再受診をしたそうな。ふむふむ。

で。結果です。106人中、脱落者が6名おり(一人はwithdrawn、残り5人はonline surveyをやらず)、最終分析に含まれたのは100人(男46人、女54人、 平均24.3±7.3歳)。受傷前にLevel Iスポーツに参加していた患者のうち、74人が競技復帰(89.16%)を果たし、まぁ当然というかなんというか、もともとLevel Iスポーツに参加していなかった患者17人はのうち、Level Iスポーツを手術後するようになった患者はおらず(0/17, 0%)。
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100人中、術後2年間以内に膝の怪我を再受傷した患者は24人(24/100、24%)で、詳しい怪我の内訳は上(Table 2 ↑)通り。このうち、Level Iスポーツに復帰した74人中再受傷したのは22人(29.7%)で、うち、45.5%の怪我は競技復帰してから2ヶ月以内に起こったものだったそう。年齢に関して統計的修正を加えて分析すると、「ACL再建手術の後、Level Iスポーツに競技復帰した患者は、より低いレベルのスポーツに競技復帰した患者に比べて、膝の再受傷リスクが4.32倍(95%CI 1.01-18.40, p = 0.048)上がる」という結果が出たそうな。95%CI幅がちょっと広いなー。ぎりぎり統計的に有意ですね。

復帰のタイミングも大きな要素だったよう。全体としては「競技復帰のタイミングが遅いほうが再受傷のリスクも低い」という結果で、競技復帰を一ヶ月遅らせるごとに再受傷率は51%下がっていくという数字は非常に興味深いです。具体的には、手術後5ヶ月以内に競技復帰した4人のうち4人全員が、競技復帰して2ヶ月以外に再受傷(4/4、100%)したのに対して、9ヶ月未満に復帰した患者 vs 9ヶ月以上かけた患者の再受療率は39.5% (15/38)と19.4% (7/36)。9ヶ月以上遅らせてもadditional benefitはない、つまり、9ヶ月という数字がcutoffになりそうだ、とのことです。へぇー。

やはり最低でもACL再建手術からは9ヶ月競技復帰まで見たほうがいい、というのがこの研究の最終結論です。アメリカではACL再建手術からの復帰は「6ヶ月」というのがスタンダードになっており、一昔前には「Accelerated rehab」という、ACL断裂から4-5ヶ月での競技復帰が称賛されたりしたこともありましたね。日本では、というと、以前知り合いに「日本ではACL再建手術からの復帰に必ず10ヶ月かける」と聞いて、「えー、問答無用で10ヶ月って長くない?もっと短くできるでしょ」と思ったことも正直ありました。でもこういう論文を読んだり、Ligamentizationという体内のプロセスを理解するにつれて、いやいややっぱり結局なんだかんだで一年弱かかるよな、と思うようになったんですよね。日本がまだ「最低10ヶ月」というタイムラインを使っているんだとしたら、それはアメリカの「6ヶ月くらい、なんだったらできる限り短く」とする基準よりも遥かにいいものなのかもしれない、と今は考えています。急げばいいってもんじゃないですもんね。患者の身体に徐々に起こる変化をリスペクトできてこそ、セラピストの役目を果たせるってもんなのかもしれません。

1. Paterno MV, Rauh MJ, Schmitt LC, Ford KR, Hewett TE. Incidence of second ACL injuries 2 years after primary ACL reconstruction and return to sport. Am J Sports Med. 2014;42:1567–1573.
2. Webster KE, Feller JA, Leigh WB, Richmond AK. Younger patients are at increased risk for graft rupture and contralateral injury after anterior cruciate ligament reconstruction. Am J Sports Med. 2014;42:641–647.
3. Hefti F, Müller W, Jakob RP, Stäubli HU. Evaluation of knee ligament injuries with the IKDC form. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 1993;1:226–234.
4. Grindem H, Snyder-Mackler L, Moksnes H, Engebretsen L, Risberg MA. Simple decision rules can reduce reinjury risk by 84% after ACL reconstruction: the Delaware-Oslo ACL cohort study. Br J Sports Med. 2016;50(13):804-808. doi: 10.1136/bjsports-2016-096031.

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  by supersy | 2017-12-03 23:30 | Athletic Training | Comments(4)

「マルチスポーツ選手のほうがNBAで活躍しやすい」論文を読み解く。

ちょうど一年程前にこんな記事を書いたりしておりまして。

ひとつのスポーツに特化する高校生アスリートは怪我をしやすい?: マルチスポーツのすゝめ。(2016年11月16日付)

続きってわけじゃないんですが、こんな論文(↓)1 を発見したので読んでみました。まとめです。
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この論文の冒頭では、様々な組織や団体、協会が「しないほうがいい」と叫んでいるにも関わらず、2,3 近年若いうちからアスリートがsingle-sport specialization (一つのスポーツに特化)する傾向が強まっていること。4-6 そしてタイガー・ウッズやアンドレ・アガシを見て多くの人が「プロとして成功するには早いうちから一つのスポーツに特化していなければいけない」と考えている一方で、その説はエビデンスによっては指示されておらず7,8 (唯一、年齢的ピークが他のスポーツに比べて早いと言われている体操競技に関してはearly specializationが有益かもというデータもあるようですが9)、むしろspecializationは遅いほうが後に活躍しやすいという説が近年支持されてきているようなのです。10 ふーむ。

で、NBA選手に限って言えば、どういう選手が活躍してるの?Single-sportアスリート、それともMulti-sportアスリート?ちょっと調べてみようかしらん、というのがこの研究。2008年から2015年までの全NBAチームのドラフト一巡目に指名された選手237人(一試合でもNBAでプレーしていることが条件)を対象に、インターネットや新聞、雑誌で手に入る情報を使って、それぞれの選手が 1) 高校時代にバスケットボール以外の競技にも参加していたか、2) NBAで怪我をしたか、3) NBAで何試合プレーしたか、4) 現在でもNBAで現役選手として活躍中なのかどうか、について調べ、データをまとめたそう。ここで気になるのが、インターネットや新聞、雑誌など、一般に手に入る情報を元にこれらのデータを収集した、というところですかね。prospective studyでリアルタイムで選手を追っかけているならもう少し信頼性に足るかと思うのですが、こういったretrospectiveなデザインの研究となると、インターネットの情報が間違っていたり、でたらめである可能性も否定できません。情報の信憑性がそもそも確立されていない、というのは大きな問題かもしれません。それから、「ドラフト一巡目指名」というのは「これらの選手は間違いなくエリートだから」というくくりから来ているらしいんですけど、だったら二巡目だろうが三巡目だろうか、リーグに入っているなら十分にエリートじゃありません?ここの理論建ては少し強引だな、もうちょっと丁寧な説明が必要かなと思います。

この論文で使っている言葉の定義がなかなかに独特なのでこれも記載しておきます。
まずは「マルチスポーツ選手」の定義。これは、所属していた高校でバスケットボール以外でのスポーツに参加していたことが確認できれば「マルチスポーツ選手」と見做されるようですが、レクリエーション目的で他のスポーツをやっていたり、小・中学校のみでやっていた場合はカウントしない、というルールが設けられていたよう。例えば、助っ人として高校時代一試合だけ野球の試合に駆り出されて出た場合でも「マルチスポーツ選手」になるということ?これ(= 一試合のみ助っ人)がカウントされて、小・中学校でがっつり野球をやっていた場合は一切カウントされないというのは少しおかしい気もするけれど…。(学校外の)クラブチームでのスポーツ参加に関しては、一切記述がありません。これは全く考慮に入れなかったと解釈すべきなのでしょうか?
それから、2)の「怪我」についてですが、これはNBAレギュラーシーズン中に頸部、腰、胴、鼠径部に足部や膝を含む下肢に起こった、最低でも10試合欠場せざるを得ない規模の怪我のみをカウントしたようで、つまるところ、軽度の10試合未満の欠場にしかならなかった怪我やプレシーズン、プレーオフ中の怪我、そして上肢や顔面の怪我、それから脳震盪などは数に入れなかったそうなんです。後で「慢性的なオーバーユースによる怪我をカウントしたかったから(この設定を選んだ)」という記述があるのですが、どうしてこの定義が「慢性的なオーバーユースによる怪我」に限定するのに十分と言えるのでしょうか?フツーに急性前十字靭帯断裂なんかもこの定義だとカウントされちゃうわけですけど、でもこれって、「慢性的なオーバーユースによる怪我」ではありませんよね?それから説明が一切ないけど、10試合という期間の限定っぷりも、なんでなんで?時間にするとNBAのレギュラーシーズン10試合といえば15日間、つまり2週間強くらいになるのかなと思うんですが、この期間にこだわった理由が知りたいです。それから、便宜上「レギュラーシーズン」に限ってデータ収集を行ったのはやむを得ないというか、全然構わないと思うんですけど、上半身の怪我や脳震盪を考慮に入れなかった点は大いに疑問が残ります。「バスケットボールで上肢の慢性的な怪我はあまりないから」という理由が本文内で少しだけ触れられていましたが、えー、そうですか?subacromial impingement syndromeとか、そこそこあると思うんですけど。こういう物事や用語の定義は非常に大事で、あまりユニークな定義は避けるべき・他の研究とも一貫性を設けるべきです。あちこちちょっと説明足らずで不可解で、ここまではあまり読者に優しい論文じゃないなぁという印象です。

んで。結果です。調査対象となった237人中、「マルチスポーツ選手」と分類されたのは36人(15.19%)で、「シングルスポーツ選手」は201人(84.81%)。やはりというか何というか、決して多くはないですね。しかし、統計のセクションにpower analysisの結果、各グループ最低36人いればよいと判明した、という記述があるので、マルチスポーツ選手組の36人というのがまさにどんぴしゃで見事ですね(…というか、36人になるまで年月を遡ってデータを集計していったと考えるのが自然かな)。統計的なパワーには恵まれていた研究である、ということになります。NBA入り年数別に見てみると、2008年加入者のうちマルチスポーツ選手の割合は全体の3.3%、2009年では23.3%、2010年は3.3%、2011年は6.7%、2012年は23.3%、2013年は26.7%、2014年は16.7%、2015年13.3%と、年によってかなりランダムな差があったそう。論文読みながら、「マルチスポーツ選手が減ってるというなら、マルチスポーツ選手のほうが全体的に年齢が上、キャリアが上となって、怪我している可能性が増えるのでは?」と考えていたりしたんですけど、いらぬ心配だったほうです。その証拠に、マルチスポーツ選手とシングルスポーツ選手では年齢や身長、体重、ポジションに大差は見られませんでした(p > 0.2)
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上の表からは、マルチスポーツ選手のほうがよりレギュラーシーズン全82試合のうち、より多くの試合に出場を果たしており、怪我をしにくく、今でも現役で活躍している可能性が著しく高いことが見て取れます。もう少しわかりやすい数字に直すと、つまるところマルチスポーツ選手のほうがシングルスポーツ選手よりも1シーズンあたり4.4試合多くプレーしてる計算になるんだそうです。結論には「プロのエリート選手は、高校で複数のスポーツに参加していたほうが、より多くの試合に出場でき、怪我をしにくく、より長くキャリアが続くなど、早いうちに一つのスポーツに特化した選手と比較して著しく生産的で健康なキャリアを保てる」と書かれていますが、これは少し言い過ぎというか、一般化しすぎなんじゃないかしらん、と私は感じています。もっと正確に、「NBAドラフト一巡目に指名された選手のうち、高校で複数のスポーツに参加していたアスリートのほうが、早期にバスケットボールに特化したアスリートに比べ、より多くのレギュラーシーズンの試合に出場でき、最低でも10試合の欠場に繋がるような首、腰、胴体と下肢の怪我を起こしにくく、より長く現役選手でいることができる」くらいの限定的な結論に留めておくべきなのではと個人的には思いますね。この研究の結果はあくまで「NBAドラフト一巡目指名選手」に限ったものであり、これが例えばドラフト二巡目指名選手にも当てはまるのかとか、現役NBA選手全員でもこういう結果になるのかとか、そういう根拠や保証は現時点では全くありません。怪我が無く試合に出場できる健康状態を保つことは、プロスポーツ選手である以上「成功」を構成する要素のひとつなんでしょうけども、「生産的で(productive)…」なんて表現を使ってしまうと、より多く得点できるとか、リバウンドがもぎ取れるとか、そういった「試合のスタッツ」の要素も入っているような言い回しで、誤解を招きそうな気もしますね。もっと突っ込んでしまうと「健康」は必ずしも「怪我をしていない」状態とイコールではないですし(肉体的に怪我をしていなくても、健康ではないという状態は十分あり得るでしょう)、逆に怪我を抱えながらも(= 非健康でも)休まずなんとか試合をこなす選手だっているわけですしね。そういう選手をこの研究では測り切れていないものな、とは思うんですよね。

そんなわけで、タイトルに負けないほどの衝撃の内容!というわけではありませんでしたが、しかしそれでも色々と妄想の膨らむ興味深い研究です。スポーツの早期特化という意味では日本はアメリカよりも更に悪い状況にあるかと思いますが、日本の中学校・高校でももっと兼部ができる環境があってもいいのではという気はしますね。そのためには、シーズン制の導入が必要不可欠ですけども…。

1. Rugg C, Kadoor A, Feeley BT, Pandya NK. The effects of playing multiple high school sports on national basketball association players' propensity for injury and athletic performance. Am J Sports Med. 2017:363546517738736. doi: 10.1177/0363546517738736.
2. Lord M. Too much, too soon? Doctors group warns against early specialization. US News World Rep. 2000;129(3):46.
3. Brenner JS. Sports specialization and intensive training in young athletes. Pediatrics. 2016;138(3): e20162148.
4. Bell DR, Post EG, Trigsted SM, Hetzel S, McGuine TA, Brooks MA. Prevalence of sport specialization in high school athletics: a 1-year observational study. Am J Sports Med. 2016;44(6):1469-1474.
5. Hill GM, Simons J. A study of the sport specialization on high school athletics. J Sport Social Issues. 1989;13(1):1-13.
6. Post EG, Thein-Nissenbaum JM, Stiffler MR, et al. High school sport specialization patterns of current division I athletes. Sports Health. 2017;9(2):148-153.
7. Feeley BT, Agel J, LaPrade RF. When is it too early for single sport specialization? Am J Sports Med. 2016;44(1):234-241.
8. Vaeyens R, Gullich A, Warr CR, Philippaerts R. Talent identification and promotion programmes of Olympic athletes. J Sports Sci. 2009;27(13):1367-1380.
9. Hume PA, Hopkins WG, Robinson DM, Robinson SM, Hollings SC. Predictors of attainment in rhythmic sportive gymnastics. J Sports Med Phys Fitness. 1993;33(4):367-377.
10. Moesch K, Elbe AM, Hauge ML, Wikman JM. Late specialization: the key to success in centimeters, grams, or seconds (cgs) sports. Scand J Med Sci Sports. 2011;21(6):e282-e290.

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  by supersy | 2017-11-29 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

ネブラスカ滞在とModified Lateral Scapular Slide Testについて。

ようやく風邪が治ってきた…ような!

もう一か月以上前の話になるのですが、事情があって10月は2週末連続でネブラスカはリンカーンを訪問していました。2回とも大いに実りある滞在だったのですが、二度目のネブラスカ訪問では初めてUniversity of NebraskaのAthletic Performance Labにもお邪魔する機会がありました。施設の現ディレクターさんが元恩師なのです。遊びに行きたいです!と言ったら快諾してもらって感謝感謝。
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University of Nebraskaと言えばStrength & Conditioning発祥の地!Footballチームが使うというWeight Training Roomは40ものWeight Stationのある壮大な施設でした。
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85,000人入るというUNの超巨大フットボール・スタジアムですが、NCAA記録の359試合連続満員御礼を誇っており、私がお邪魔した時点でこの記録はまだ更新中でした。すごい!
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他にもHruska Clinicでシャドーイングをする機会にも恵まれ(しかも幸運なことにRonが患者を診るタイミングでのシャドーイング!)、脳みそトロけそうなひと時も過ごしてきました。た、楽しい…!また来たい…!わー自分はまだまだ何も知らないんだ、と打ちのめされ、圧倒される感覚は一年に数度は味わいたい「ガソリン補給」体験です。これでまたしばらく頑張れます。まぁ後一週間半くらいで、ここにはまた帰ってくるんですけども。


さて、話は変わりますが。
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Lateral Scapular Slide Test (LSST)はもともとKibler氏1が提案した「肩外転0°、45°と90°時に、肩甲骨の位置が左右で比較してどれだけ同じ・異なるのか」というのを肩甲骨の下角とそれに最も近い胸椎の棘突起との距離を測り、左右比較することでassessするテストなんですが、信頼性がマチマチなのでまーどうしたもんか、って感じだったんですよね。
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で、興味深いのがこの論文。2 オリジナルのLSSTが完璧でないならどう修正したらより改善できるだろうか?っつーことで、30人の健康なバスケットボール選手(平均22.53±3.72歳、全員男性)を対象にちょこっと変更を加えた様々なバージョンのLSST(Modified Lateral Scapular Slide Test, MLSST)を行い、どれが一番reliableなのかを見極めようとした、シンプルかつ実用性の高い研究です。明記はされていないんですけど、被験者の年齢幅20-31歳ってことは大学生選手ではないので、プロなのかな?でもだったらProfessional Basketball Playerと書くような…セミプロ?アマチュア?レクリエーショナル?少し疑問が沸くというか、興味がそそられます。

ともあれ、今回検証されたのは以下の7つのテスト・ポジション。
 Position 1) 腕を脇に休めた状態(=外転0°)
 Position 2) 外転90°(腕は内旋="thumb down")
 Position 3) Scaption (肩甲骨面挙上) 90°(腕は内旋="thumb down")
 Position 4) Position #3 + 1kgのダンベル
 Position 5) Position #3 + 2kgのダンベル
 Position 6) Position #3 + 4kgのダンベル
 Position 7) Full Scaption (肩甲骨面挙上) 90°(腕は内旋="thumb down")
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これらの変更の背景としては、純粋な肩外転よりはScaption (肩甲骨面挙上)のほうが機能的でしょ、というのと、自重よりはloadを足したほうがよりkinematic alterationが如実に出るかな?というところみたい。なるほど、理には適っています。
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…で、結果です。一番intra-とinter-rater reliabilityが高いのはP1 (high & good)。P2とP3の比較ではP3のほうがどうやら優秀(high & good)だが、それに1~4kgのダンベルを加えたP4~6(high & fair; high & good; high & fair)もなかなかいいのではないか…ということになっています。ふむふむ。総じて、LSSTより、MLSSTのほうが信頼性が高いじゃん!って感じですかね。
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同じ研究チームが25人の肩の痛みを訴えた患者(平均42±2.7歳、男12人、女13人)と、25人の健康な被験者(平均40±2.1歳、男15人、女10人)を使ってMLSSTを再検証した論文がこちら(↑)。3
この研究では前回の論文でいうところのPosition #4を採用したようで(これが必ずしも最高の信頼性を示したわけではないのに、rationaleは何なのか?説明が無いのが気になります)、つまるところ、従来のPosition #1 (Arms resting by the side); Position #2 (45° abduction, hands on the hips)に、新たなPosition #3 (90° scaption with 1kg, thumbs down)が加わったわけですね(下写真参照↓)。
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で、結果ですが、ひとつ前のもの以上に良いです!Intra-raterは0.83-0.96でgood to high; Inter-raterは0.90-0.97でhigh!えー、かなりのconsistencyじゃないですか。素晴らしい。
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今回は肩の痛みがある患者も対象に含んでいたので、「MLSSTの左右差が1.5cmより大きい場合、陽性とみなす」という判断基準で陽性・陰性を判断した場合、どれほど「肩の痛み」を診断するのに有効なのか?という分析もなされています。sensitivity, specificity, +LRと-LRも計算されてるんですが、それらも見てみると…。
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どうやら確定にはそこそこ有効のようですね。Specificityは80-91%と悪くありません。Sensitivityが低い分、LRがイマイチな数字になってしまっていますけど。研究には「やはりこのテストの診断的価値には制限が多い」という結論は導かれていますが、私はこれはあくまで「現在の痛み」をpredictするかどうかに捕らわれているからじゃないかと思いますけどね。Scapular dyskinesisが上肢の怪我のリスクを高めることは良く知られているのだし、仮に今、現時点で痛みが無くてもプレーを続けていれば痛みが出てくる可能性が高い、というのなら、早めにdetectして介入するに限るでしょう。それなりの診断価値はあるテストだと、個人的には思います。

…そんなわけで、proもconもあるLateral Scapular Slide Testですが、これからやる場合にはPosition #3は従来の90°肩外転、ではなくて、90°のScaption + 1kgの重りで行こうかな!と思っています。ちょっと実験プロトコル変えにゃいかんな。書き直してこよーっと。



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それから、これは完全におまけなんですが、移動時、空港でぽけりと読んでいた文献4 に"organ weight distribution"というフレーズがあっておお!と思いました。人体の胸郭・腹部に位置する臓器についての文章だったのですが、なるほど、左右の臓器の重さのバランスがどこでどっちに偏っているかを考えたことはありませんでした。Upper quadrantsでは、右肺に3つのローブがあり、重さとしては比較的軽いのに比べ(450g程だそうです)、左は左肺のふたつのローブ(400g)と心臓(300g)が座っており、重量があります(右450g vs 左700g)。Lower quadrantsでは逆に、どでかく重たい肝臓が右に陣取っており(1.5kgもあるんだそうです)、upperでの重量差を補うどころか、引っ繰り返したるー、とでも言うかのようにバランスを取っています。つまり、上から下に目線を移行していくにつれ、重心が左から右にシフトする様子が見て取れるというわけです。

私が読んでいた文章は、ここからいかに人体が右足荷重にバイアスがかかるよう作られているのか、という話になっていくのですが、臓器の重さをappreciateし直すことでここらへんのコンセプトが再整理され、スッと頭に入ってきて感動しました。いやー面白かった。

b0112009_13221649.jpgちなみにこの文章はとある教科書の一章(←)なんですが、「PRIのコンセプトと脊柱側弯症」について実によくまとめられています。この冬にもまた日本でポスチュラル・レスピレーション講習会を開催させていただきますが、PRIジャパンが「マイオキン講習の事前履修を強くお勧めします」と言っている一方で、初めてPRI講習取ります!というチャレンジャーな参加者さんがポスチュラル講習に毎回いるのも事実です。今回ももしそういう方がいらっしゃるとしたら、この教科書(オープンアクセスですので、どなたでも無料・自由にダウンロード可能です)を事前に読んでから講習にいらっしゃると理解が早いかもしれません。英語ですけれど、非常に読みやすい文書だと思います。お勧めです!

1. Kibler WB. The role of the scapula in athletic shoulder function. Am J Sport Med. 1998;26,2:325.
2. Shadmehr A, Azarsa MH, Jalaie S. Inter- and intrarater reliability of modified lateral scapular slide test in healthy athletic men. Biomed Res Int. 2014;2014:384149. doi: 10.1155/2014/384149.
3. Shadmehr A, Sarafraz H, Heidari Blooki M, Jalaie SH, Morais N. Reliability, agreement, and diagnostic accuracy of the Modified Lateral Scapular Slide test. Man Ther. 2016;24:18-24. doi: 10.1016/j.math.2016.04.004.
4. Henning S, Mangino LC, Massé J. Postural restoration: a tri-planar asymmetrical framework for understanding, assessing, and treating scoliosis and other spinal dysfunctions. In: Bettany-Saltikov J, Schreiber S,eds. Innovations in Spinal Deformities and Postural Disorders. London, UK: InTech; 2017.

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  by supersy | 2017-11-26 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

ビタミンCに風邪の予防効果・回復効果はあるのか。

風邪がっ!治らないんですよっ!ズルズルズルズル治りきらないまま、かかり始めからもう一か月以上経ちますわ。睡眠に気を付けたり、休める時はスパっと休んだりしてるつもりなんですけど、なんででしょ?もう歳ってことかな。ちょっとしたかすり傷も痕が残るようになっちゃったし、免疫機能、回復機能が落ちてるのは残念ながら近年身に染みて実感しております。
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ところで、風邪にはビタミンC!とよく言われたりしますね。免疫機能を助けると。実際風邪の引き始めにビタミンCサプリメントをせっせと飲んでる人を見かけるのも珍しいことではありませんし。…しかしながら私はサプリメントや薬の類がもともとあまり好きではなく、積極的にわさわさ取る方ではないので(少し補足すると、folic acidやomega-3など、取っておきたいと感じるサプリはいくつかあるのですが、アメリカではサプリメントは全くFDA規制が及ばない、どれに何が入っているか全くわからない闇鍋業界なのです)、今まではどちらかというとそういう人を冷ややかな目で見ていました。効くわけないじゃん(むしろ腎臓に負担かけてるだけじゃん)、と思っていたわけですね。しかし、よく考えたらそういう分野の論文をちゃんと読んだわけでもないので、「ビタミンCのサプリメントが風邪の予防・回復には効かない」というのは私の偏見でしかありません。一度くらいはちゃんとエビデンスを見てみないといけないな、ということで、ちょっとレビューしてみました。
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手始めに全体像を掴むため、最新(2013年)のCochrane Libraryによるメタ分析論文1を読んでみました。合わせて29(総患者数11,306人)の研究をレビューし、RRを計算した結果のまとめでは、1) 一般の人がビタミンCを摂取することによって起こる風邪の予防効果はRR 0.97 (95%CI 0.94-1.00)でほぼ全く効果なし; 2) マラソンランナーやスキーヤー、兵士など普段から身体を酷使する人らがビタミンCを摂取した場合の風邪予防効果はRR 0.48 (95%CI 0.35-0.64)で大いに効果あり; 3) 前もってビタミンC摂取をしておくと、風邪を引いている期間が成人では8% (95%CI 3-12%)、子供の場合は14% (95%CI 7-21%)短くなる傾向にあり、特に子供が多めのビタミンCを摂取した場合(一日当たり1-2g)、その効果はより大きくなる(18%); 4) 風邪の深刻度(severity - 仕事や学校を休まなければいけなかった日数や、symptom severity scaleなどによって推し量られる)も、普段からビタミンCを摂取している患者のほうがより軽い風邪にかかるのみで済んだ…などの報告がなされています。ほうほうほう。面白い。しかし、5) Therapeutic Vitamin C、つまり風邪の症状が出始めてからのビタミンC摂取に関してはまだまだ研究の数も少なく、結果にもバラつきがあって一貫性ある効果は今のところ認められていない…と言う感じなんだそうです。

副作用はないのか?というのも気になるところなんですけど、2490人のhigh-dose (≧1g/day)のビタミンCを取った被験者と2066人のプラシーボ薬を取った被験者を比較すると、「副作用発症」率は5.8% vs 6.0%と大差なし。つまり「気のせい」の範囲内ってことですね。深刻な副作用は全く報告されていないそうです。

…となると、日常的なビタミンCサプリメントの摂取は、1) 風邪予防には普段から身体を酷使していなければ効果はないが、2) 風邪の期間や深度を下げてくれる効果はそれなりに期待できる、且つ3) 深刻な副作用はない、ということが言えそうです。ほぉー!
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もうちょっと新しいオリジナル研究論文はないかな?と調べていて見つけたのがこちら(↑)。2 2014年発表のrandomized, double-blind, placebo-controlled study。サクッとまとめちゃいますね。

30人の健康で喫煙歴のない、年齢幅18-35歳の男性を対象に行われたこの実験。これらの被験者は現在ビタミンCサプリメントを摂取していない、且つ普段食事で取っているビタミンC量が“marginal (決して多くない、基準値ギリギリくらい)”であることが条件で、血液検査でビタミンC濃度が45 μmol/Lであることを確認した上で実験を行ったそう(血液中のビタミン濃度ってどれくらいのスパンで変化するものなのだろう…食べたものや飲んだものの影響をモロに受けやすいなら、これは『普段からビタミンCをあまり摂取していない』という事実を確認するのに十分なテストなのか?という疑問は浮かびます。どちらにせよ私自身あまり詳しくない分野なので、どうして45 μmol/Lを閾値としたのかなど、個人的にはもう少し説明してほしかったです)。

んで。ランダムにビタミンC組(n = 15, 平均23.0±3.1歳)とプラシーボ組(n = 15, 平均23.2±4.3歳)に分け、風邪が流行りやすい1-4月の期間に、各被験者が「ビタミンC (500mg x 2 tablets/day)もしくはプラシーボ錠剤 (ビタミンCサプリメントと見た目は全く同じ)のサプリメントを朝と夕方の一日二錠摂取を毎日8週間続ける、というデザインで、被験者は1) 実験期間中フルーツジュースを飲むことは禁止され (self-reportのみ?どうやって確認を取っていたのかの記述はなし。果物の摂取そのものについては記述が無かったので、これについては制限は無かったと思われる)ていたほか、2) Wisconsin Upper Respiratory System Survey-21(5点以上が複数日続いたら『風邪』と判断)を毎日、3) Godin Leisure-Time Exercise Questionnaireとshort food frequency measureを毎週記録していました。実験開始から4週間と8週間(実験終了時点)にビタミンCとヒスタミンの血中濃度も計測されていたとのこと。

プラシーボ組15人のうち2人(13.3%)が途中drop out(1人は指示通りに錠剤を飲まないnon-compliantな被験者、もう一人は実験開始直後に回復に24日かかる酷い風邪を引いたため)したので、最終分析に含まれたのはビタミンC組15人とプラシーボ組13人(元々サンプル数が少ないうえに13.3%のdrop out rateは少し高いかと。どうしてITT分析にしなかったのだろう?)。

んで結果です。ビタミンC組では4週間(41.3±10.9 vs 30.8±11.4 μmol/L; p = 0.02)と8週間(41.2±10.4 vs 33.9±10.9 μmol/L)時点でプラシーボ組よりも著しく高い血中ビタミンC血中濃度が確認された、というところはまぁ驚くことはないかと思います。食事ログによればグループ間での食事の質、食事によるビタミンC摂取量に大差はなかったそうですが、こういったログのcompletion rateが何パーセントなのか、それから錠剤をどれほどきちんと指示通りに飲んでいたのか、というcompliant rateなどについては全く記述がありません。ここらへんが雑だとせっかくのrandomized, double-blind, placebo-controlっぷりが台無しになってしまうと思うんですけどねー…。
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実験期間中の被験者の平均運動量については「ビタミンC組のほうが少しばかり活発に運動できた!」ということが書かれているんですが、p値が最小でも0.10ですし、そもそもbaselineでのMET数値がグループ間で著しく違った(57±24 vs 38±22でビタミンC組のほうがそもそも活動レベルが多い人たちが集まっていた; p = 0.03)ので、実験期間中の比較自体が成立しなくなります。Treatment effectsが週数を増すごとに増えているのも見受けられるんですが、95%CIは0をまたいでおり、統計的に決定的ではないことがわかります。ここは、筆者が強調しているほど重要ではない、trivialなfindingであると私は判断します。
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風邪を引いた人数、回数、深刻度や日数なんですが、これも上の表にあるように、統計的に有意な差が見られたのは「各グループ内で風邪を引いた人数(7 vs 11人; p = 0.04)」のみ。RRは0.55 (95%CI 0.33-0.94)と、うーん、イマイチピンとこないというか、ギリギリ効果があるんだかないんだかって結果というか…。風邪を引いてしまったあとの発症期間の比較は統計的にmarginalな違いがある、といってもいいとは思うんですが(2.2±1.4 vs 5.4±4.5日; p = 0.06)、そしてこれは平均してビタミンCを日常的に摂取しているヒトは、摂取していないヒトに比べて、風邪を引いても約3.2日回復が早い(p = 0.06)という風にも言い換えられるんですが、うーん、他の計測値で特筆すべきことはありませんね。

結論としては、「普段十分にビタミンCを摂取できていない若年男性にはビタミンCのサプリメント摂取は活動レベルを上げ、風邪にかかっている期間を短縮させる効果がある」と言い切る形で述べられているんですが、個人的にはタイトルや結論で言われているほど、飛び上がって興奮するような効果ではないと感じます。marginalって感じですよね。より大きいサンプルサイズで、しっかりサプリメント摂取ログも提出させ、compliance rateも推し測った上でもう一度検証を行ってほしいなぁと思いますね…もちろん、女性を被験者とした研究も見てみたいです。

…そんなわけで、今回こうして複数の研究を読んで、「なるほど、確かにビタミンCの日常的摂取は副作用も無いし、風邪をもしかしたら薄っすら予防、そして発症しても軽度に抑える効果はあるのかも」という風に認識しなおせるいい機会にはなったんですけど、よーーーく考えたらエビデンスで実証されつつあるのはそもそも「風邪を引く前からビタミンCサプリメントの摂取している人達」に対する効果であって、「風邪を引いてからのサプリメント摂取開始 (= therapeutic supplementation)」に関してはほとんどエビデンスがないのが盲点でしたっ!もうすでに風邪をひいてしまっている私にはあてはまらない内容だったので、そこは反省して、とりあえずアパートの部屋を気合い入れて今週末に徹底的に掃除してやろうと思います。今週中には治したるー!

1. Hemilä H, Chalker E. Vitamin C for preventing and treating the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(1):CD000980. doi: 10.1002/14651858.CD000980.pub4.
2. Johnston CS, Barkyoumb GM, Schumacher SS. Vitamin C supplementation slightly improves physical activity levels and reduces cold incidence in men with marginal vitamin C status: a randomized controlled trial. Nutrients. 2014;6(7):2572-2583. doi: 10.3390/nu6072572.

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  by supersy | 2017-11-16 21:00 | Athletic Training | Comments(0)

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