2018年 01月 14日 ( 1 )

 

呼吸と共に頭蓋は動く。

2日連続で長い記事を書いたので今日は短めで。
b0112009_18513787.png
仙腸関節は動かない、という意見の方は一定数いますが、個人的には半分synovial, 半分syndemosisの仙腸関節が動かないわけがないと思っています。だって、遠位脛腓関節は100% syndemosis(繊維でガチガチ)ですが、でもあそこの動きを否定する人はいないでしょ?SIは半分synovialなんですよ。関節包があって滑液がふたつの骨の間に存在するんですよ。造りとしては遠位脛腓関節よりも明らかに動かなければ理に適っていない。SI関節が動かないというなら、経験則(i.e. 「だって動かない気がするから」)でなく動かないという確固たるエビデンスを示してほしい。私は業界ではそんなに論文を読んでいるほうではないかもしれませんが、そういったデータを今まで個人的に見たことがないのです。

でもこういう議論って実は「動かない」派の人たちのほうが圧倒的に不利だとも思うんです。だって、動かないことを証明するのは理論上ほぼ不可能ですから。何かが存在しないというエビデンスを示すのって、それが存在するかもしれない、ということに繋がるエビデンスをひとつひとつ全て否定することですからね。
b0112009_18561826.png
一方で、頭蓋が動かない、という意見は、SIよりはまだ理解できます。頭蓋はsuture jointsでできており、syndesmosisと基本同じ、fibrous jointという構造で繊維でガチガチに固められていますからね。でもそれでも言ってしまうと、私は「頭蓋も動く」と考えています。例えsutureであろうともそれが関節である限り、そこに動きはあって然るべきだと思うからです。動きが必要でないならば、ひとつの完璧に結合している骨(one fused bone)で頭蓋をくるっとまるっと造っておけばいい話なんですから。It just doesn't make sense that it's a joint if it's not meant to move、とどうしても感じちゃうんです。

「動く」エビデンスを示すのは「動かない」エビデンスを示すよりも圧倒的に楽である、という不公平さを踏まえて、「動く」エビデンスになる論文1をひとつだけ紹介しておきますね。こちら(↓)です。
b0112009_19040615.png
Fluid dynamicsの観点から頭蓋の動きについてまとめた文献は実は結構色々出てるんですよね。2-5 うち、NASAがサポートしている研究も多いですし、ロシア宇宙研究チームによる研究も複数ありますし6-8 …なんでしょう、宇宙空間で無重力になり、CSFに影響が出るとしたらそれによって頭蓋がどんな影響を受けるか解明しなきゃ、みたいな資金投資があったんでしょうか(完全な推測)?動物実験もそうなんですけど、献体9と生体10を使った実験でも頭蓋が動くとは今までに報告はされてるんです。パイロット研究などで少ない被験者ではありますけど、レントゲン10でMRI7,8で頭蓋の動きが確認できるっていう論文も発表されてますしね。これらの頭蓋の動きは心拍や呼吸などの生理的機能に伴うoscillationと深い関係があるんじゃないか、という説があり、これはDr. Sutherlandの提唱したPrimary Respiratory Mechanism (RPM)とも密接な関係があります。Dr. SutherlandはOsteopathyの分野で初めてCranial Approachを系統立てて確立・教育した著名なオステオパシック医師ですね。呼吸と共に頭蓋は屈曲・伸展を繰り返すというアレです(↓参考図 - 屈曲時には横に広がり、前後・上下には狭まる。眼窩が広がって眼球は突出する; 伸展時にはその逆が起こる)。
b0112009_16001197.png
で。健康的な成人被験者を使って、RPM伸展・屈曲時に頭部MRIでどれだけ頭蓋の動きが確認できるか検証してみましょうか、というのが今回の論文。1
20人の被験者(男13人、女7人、平均年齢36.7歳)が、頭部を下の図のようにテーブルにがっつり完全固定された状態で(↓Figure 1 & 2)、頭部MRIを撮影。45秒毎にイチ画像撮る、を8回くり返し、合計6分間の撮影を行ったそうです。この6分間、人間は呼吸と生理学的リズム、つまりゆっくりとRPM屈曲と伸展を繰り返しているわけですが、8枚撮れば屈曲時、伸展時の様々な写真が撮れるだろうというわけ。コンピューターを使ってそれら画像を解析し(↓Figure 3 & 4)、各被験者に対して断面積、外周、幅、高さ、Major/Minor軸、フェレ直径の最大値と最小値を産出。その差(= 頭蓋が動いたという数値的データ)を記録・分析したというわけ。
b0112009_14374605.png
で、結果です。下のテーブルを見れば一目瞭然かもと思いますが、統計的に有意な差が見られなかったのはPerimeter(外周の長さ)とMinor Axis for the best fit ellipseで(それぞれp = 0.80、p = 0.08)、その他のvalueでは全て著しく大きな変化が見受けられました。やはり頭蓋は外的な力がかかっていなくても、被験者自身の生命のリズムの中で動いている、ということが分かったわけです。自然に呼吸を繰り替えすうちに頭蓋は伸びたり、縮んだり、twistしたり、untwistしたりしている。しかもこの研究では特に呼吸に関して「深呼吸しろ」など研究者が被験者に指導したわけではありませんし、狙って「最大屈曲時に」「最大伸展時に」画像を撮影したわけではありませんから(画像撮影はあくまで「45秒毎、8回」)、この実験で確認できたRPM屈曲・伸展は最大屈曲・最大伸展を反映しているというわけでもなさそうです。つまり、もっともっと動く可能性はある、と。
b0112009_15264797.png
頭蓋が形を変えるとして、それがCSFの流れにどんな影響を与えるのか、脳細胞にかかる圧やshear forceが微妙に変化することで、脳機能にもoscillationが起こるのか…この論文を読むと新たな疑問も多く生まれますね。画像の質も年々上がっていますし、これらのclinical questionもいずれ回答されることを楽しみにしています。


1. Crow WT, King HH, Patterson RM, Giuliano V. Assessment of calvarial structure motion by MRI. Osteopath Med Prim Care. 2009;3:8. doi: 10.1186/1750-4732-3-8.
2. Heisey SR, Adams T. Role of cranial bone mobility in cranial compliance. Neurosurgery. 1993;33(5):869-877.
3. Ueno T, Ballard RE, Shuer LM, Yost WT, Cantrell JH, Hargens AR. Intracranial pressure dynamics during simulated microgravity using a new noninvasive ultrasonic technique. J Gravit Physiol. 1998;5(1):39-40.
4. Ueno T, Ballard RE, Shuer LM, Cantrell JH, Yost WT, Hargens AR. Noninvasive measurement of pulsatile intracranial pressure using ultrasound. Acta Neurochir Suppl. 1998;71:66-69.
5. Ueno T, Ballard RE, Macias BR, Yost WT, Hargens AR. Cranial diameter pulsations measured by non-invasive ultrasound decrease with tilt. Aviat Space Environ Med. 2003;74(8):882-885.
6. Moskalenko YE, Cooper R, Crow HJ, Walter G. Variations in blood volume and oxygen availability in the human brain. Nature. 1964;202:159-161.
7. Moskalenko IuE, Kravchenko TI, Gaĭdar BV, et al. The periodic mobility of the cranial bones in man. Fiziol Cheloveka. 1999;25(1):62-70.
8. Moskalenko IuE, Frymann V, Vaĭnshteĭn GB, et al. Slow rhythmic oscillations within the human cranium: phenomenology, origin, informational significance. Fiziol Cheloveka. 2001;27(2):47-55.
9. Sabini RC, Elkowitz DE. Significance of differences in patency among cranial sutures. J Am Osteopath Assoc. 2006 Oct;106(10):600-604.
10. Oleski SL, Smith GH, Crow WT. Radiographic evidence of cranial bone mobility. Cranio. 2002;20(1):34-38.

[PR]

  by supersy | 2018-01-14 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX