2017年 11月 26日 ( 1 )

 

ネブラスカ滞在とModified Lateral Scapular Slide Testについて。

ようやく風邪が治ってきた…ような!

もう一か月以上前の話になるのですが、事情があって10月は2週末連続でネブラスカはリンカーンを訪問していました。2回とも大いに実りある滞在だったのですが、二度目のネブラスカ訪問では初めてUniversity of NebraskaのAthletic Performance Labにもお邪魔する機会がありました。施設の現ディレクターさんが元恩師なのです。遊びに行きたいです!と言ったら快諾してもらって感謝感謝。
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University of Nebraskaと言えばStrength & Conditioning発祥の地!Footballチームが使うというWeight Training Roomは40ものWeight Stationのある壮大な施設でした。
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85,000人入るというUNの超巨大フットボール・スタジアムですが、NCAA記録の359試合連続満員御礼を誇っており、私がお邪魔した時点でこの記録はまだ更新中でした。すごい!
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他にもHruska Clinicでシャドーイングをする機会にも恵まれ(しかも幸運なことにRonが患者を診るタイミングでのシャドーイング!)、脳みそトロけそうなひと時も過ごしてきました。た、楽しい…!また来たい…!わー自分はまだまだ何も知らないんだ、と打ちのめされ、圧倒される感覚は一年に数度は味わいたい「ガソリン補給」体験です。これでまたしばらく頑張れます。まぁ後一週間半くらいで、ここにはまた帰ってくるんですけども。


さて、話は変わりますが。
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Lateral Scapular Slide Test (LSST)はもともとKibler氏1が提案した「肩外転0°、45°と90°時に、肩甲骨の位置が左右で比較してどれだけ同じ・異なるのか」というのを肩甲骨の下角とそれに最も近い胸椎の棘突起との距離を測り、左右比較することでassessするテストなんですが、信頼性がマチマチなのでまーどうしたもんか、って感じだったんですよね。
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で、興味深いのがこの論文。2 オリジナルのLSSTが完璧でないならどう修正したらより改善できるだろうか?っつーことで、30人の健康なバスケットボール選手(平均22.53±3.72歳、全員男性)を対象にちょこっと変更を加えた様々なバージョンのLSST(Modified Lateral Scapular Slide Test, MLSST)を行い、どれが一番reliableなのかを見極めようとした、シンプルかつ実用性の高い研究です。明記はされていないんですけど、被験者の年齢幅20-31歳ってことは大学生選手ではないので、プロなのかな?でもだったらProfessional Basketball Playerと書くような…セミプロ?アマチュア?レクリエーショナル?少し疑問が沸くというか、興味がそそられます。

ともあれ、今回検証されたのは以下の7つのテスト・ポジション。
 Position 1) 腕を脇に休めた状態(=外転0°)
 Position 2) 外転90°(腕は内旋="thumb down")
 Position 3) Scaption (肩甲骨面挙上) 90°(腕は内旋="thumb down")
 Position 4) Position #3 + 1kgのダンベル
 Position 5) Position #3 + 2kgのダンベル
 Position 6) Position #3 + 4kgのダンベル
 Position 7) Full Scaption (肩甲骨面挙上) 90°(腕は内旋="thumb down")
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これらの変更の背景としては、純粋な肩外転よりはScaption (肩甲骨面挙上)のほうが機能的でしょ、というのと、自重よりはloadを足したほうがよりkinematic alterationが如実に出るかな?というところみたい。なるほど、理には適っています。
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…で、結果です。一番intra-とinter-rater reliabilityが高いのはP1 (high & good)。P2とP3の比較ではP3のほうがどうやら優秀(high & good)だが、それに1~4kgのダンベルを加えたP4~6(high & fair; high & good; high & fair)もなかなかいいのではないか…ということになっています。ふむふむ。総じて、LSSTより、MLSSTのほうが信頼性が高いじゃん!って感じですかね。
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同じ研究チームが25人の肩の痛みを訴えた患者(平均42±2.7歳、男12人、女13人)と、25人の健康な被験者(平均40±2.1歳、男15人、女10人)を使ってMLSSTを再検証した論文がこちら(↑)。3
この研究では前回の論文でいうところのPosition #4を採用したようで(これが必ずしも最高の信頼性を示したわけではないのに、rationaleは何なのか?説明が無いのが気になります)、つまるところ、従来のPosition #1 (Arms resting by the side); Position #2 (45° abduction, hands on the hips)に、新たなPosition #3 (90° scaption with 1kg, thumbs down)が加わったわけですね(下写真参照↓)。
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で、結果ですが、ひとつ前のもの以上に良いです!Intra-raterは0.83-0.96でgood to high; Inter-raterは0.90-0.97でhigh!えー、かなりのconsistencyじゃないですか。素晴らしい。
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今回は肩の痛みがある患者も対象に含んでいたので、「MLSSTの左右差が1.5cmより大きい場合、陽性とみなす」という判断基準で陽性・陰性を判断した場合、どれほど「肩の痛み」を診断するのに有効なのか?という分析もなされています。sensitivity, specificity, +LRと-LRも計算されてるんですが、それらも見てみると…。
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どうやら確定にはそこそこ有効のようですね。Specificityは80-91%と悪くありません。Sensitivityが低い分、LRがイマイチな数字になってしまっていますけど。研究には「やはりこのテストの診断的価値には制限が多い」という結論は導かれていますが、私はこれはあくまで「現在の痛み」をpredictするかどうかに捕らわれているからじゃないかと思いますけどね。Scapular dyskinesisが上肢の怪我のリスクを高めることは良く知られているのだし、仮に今、現時点で痛みが無くてもプレーを続けていれば痛みが出てくる可能性が高い、というのなら、早めにdetectして介入するに限るでしょう。それなりの診断価値はあるテストだと、個人的には思います。

…そんなわけで、proもconもあるLateral Scapular Slide Testですが、これからやる場合にはPosition #3は従来の90°肩外転、ではなくて、90°のScaption + 1kgの重りで行こうかな!と思っています。ちょっと実験プロトコル変えにゃいかんな。書き直してこよーっと。



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それから、これは完全におまけなんですが、移動時、空港でぽけりと読んでいた文献4 に"organ weight distribution"というフレーズがあっておお!と思いました。人体の胸郭・腹部に位置する臓器についての文章だったのですが、なるほど、左右の臓器の重さのバランスがどこでどっちに偏っているかを考えたことはありませんでした。Upper quadrantsでは、右肺に3つのローブがあり、重さとしては比較的軽いのに比べ(450g程だそうです)、左は左肺のふたつのローブ(400g)と心臓(300g)が座っており、重量があります(右450g vs 左700g)。Lower quadrantsでは逆に、どでかく重たい肝臓が右に陣取っており(1.5kgもあるんだそうです)、upperでの重量差を補うどころか、引っ繰り返したるー、とでも言うかのようにバランスを取っています。つまり、上から下に目線を移行していくにつれ、重心が左から右にシフトする様子が見て取れるというわけです。

私が読んでいた文章は、ここからいかに人体が右足荷重にバイアスがかかるよう作られているのか、という話になっていくのですが、臓器の重さをappreciateし直すことでここらへんのコンセプトが再整理され、スッと頭に入ってきて感動しました。いやー面白かった。

b0112009_13221649.jpgちなみにこの文章はとある教科書の一章(←)なんですが、「PRIのコンセプトと脊柱側弯症」について実によくまとめられています。この冬にもまた日本でポスチュラル・レスピレーション講習会を開催させていただきますが、PRIジャパンが「マイオキン講習の事前履修を強くお勧めします」と言っている一方で、初めてPRI講習取ります!というチャレンジャーな参加者さんがポスチュラル講習に毎回いるのも事実です。今回ももしそういう方がいらっしゃるとしたら、この教科書(オープンアクセスですので、どなたでも無料・自由にダウンロード可能です)を事前に読んでから講習にいらっしゃると理解が早いかもしれません。英語ですけれど、非常に読みやすい文書だと思います。お勧めです!

1. Kibler WB. The role of the scapula in athletic shoulder function. Am J Sport Med. 1998;26,2:325.
2. Shadmehr A, Azarsa MH, Jalaie S. Inter- and intrarater reliability of modified lateral scapular slide test in healthy athletic men. Biomed Res Int. 2014;2014:384149. doi: 10.1155/2014/384149.
3. Shadmehr A, Sarafraz H, Heidari Blooki M, Jalaie SH, Morais N. Reliability, agreement, and diagnostic accuracy of the Modified Lateral Scapular Slide test. Man Ther. 2016;24:18-24. doi: 10.1016/j.math.2016.04.004.
4. Henning S, Mangino LC, Massé J. Postural restoration: a tri-planar asymmetrical framework for understanding, assessing, and treating scoliosis and other spinal dysfunctions. In: Bettany-Saltikov J, Schreiber S,eds. Innovations in Spinal Deformities and Postural Disorders. London, UK: InTech; 2017.

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  by supersy | 2017-11-26 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

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