2017年 10月 17日 ( 1 )

 

CAATEのスタンダード改訂に伴うカリキュラム必修項目変更について。

毎年恒例のフロリダはタンパでのCAATE Conferenceに参加してきました。充実していた!の一言です。

このカンファレンスで私が一番聞くのを楽しみにしていたのは、最新版CAATE Professional & Curricular Content Standardsの開示でした。CAATE認定を受けているATプログラムでは、どういった構造で、どういった教育内容を提供しなければいけないという細かな決まりがあるのですが、それが定期的にアップデートされるんですよね。この最新版はもう2年程活発に議論が重ねられており、Public Commentも2回openになっていたのですが、「そろそろ最終決定される」という噂がまことしやかに囁かれていたわけですよ。いったいどんな風に着地するのだろうとわくわく待っておったわけです。

個人的に、驚くことが幾つかありました。感覚が新鮮なうちに感想をまとめておきたいと思います。

*念のため、ですが、これらのスタンダードは草案段階であり、まだ最終決定一歩手前で、変更される可能性は(小さいですが)ゼロではありません。2020年7月1日から施行開始に向けて、あと半年以内に正式発表になるものと思われます。

[新たに改訂版必修項目に含まれる可能性が濃厚なものたち]
・脱臼修復
・止血剤・止血帯(tourniquet)使用
・OD患者に対する救急剤の投与(ナロキソンの静脈注射)
・足底板やキャスティング等の選択又は作成
・関節マニピュレーション
個人的に、最初は「tourniquetの使用はスポーツの現場ではほとんど必要ない。軍隊などの限られたsettingでしっかり教えられればいいのでは?」と思ったのですが、いやいやしかし、ボストン・マラソン爆破事件や最近のラスベガスでの無差別銃撃事件を見ていると、確かに今のアメリカには必要なものなのかもしれない、と思い直しました。Mass casualtyに備えての訓練と捉えればいいのかな、生命にかかわる場面では確かにこれを知らないと話にならないか。
脱臼の修復は学ぶのも教えるのも楽しみです…が、実際の患者で練習するわけにもいかないし、訓練キットの購入が必要になってくるかな。脱臼修復で一番トリッキーなのは指だと思うんですよね、簡単そうで、あれ奥が深いんですよね、意外と。
足底板やキャスティングについては少し含みのある表現になりそうですが、Customized orthoticsの作り方を教えるプログラムも出てくるってことですねー!むー、私が学生の立場なら是非これを教えてくれるプログラムに学びに行きたいもんです!

[必修項目に含まれると思われていたけれど、ぎりぎりで外されそうなものたち]
・血液検査(採血)
・ECG
・縫合
血液検査(採血)、ECGについては「やり方を実際に学ぶか、そうでなければ適切なreferをして、できるヒトにしっかりと繋げられるようにする」という表現に留まりそう。
縫合も確実に入るかと思ったのですが…"wound care and closure"という緩めの表記にこれもなるそうで。つまり、"suture (縫合)"という言葉は明記はされず、例えばsteri-stripsを用いたwound closureでもOKという感じになりそうだとのこと。
ぬぬー。これについては少し残念な気もするのですが…。Public commentからのフィードバックに基づき、こういった幅を持たせた表現が最も適切だと決められたのでしょう。別に認定プログラムが採血、ECG、sutureを教えられないわけじゃない。むしろ教える自由はプログラムに委ねられており、それを躊躇するプログラムにはその自由をdeclineする選択肢がついている、という風に私は捉えています。私の一存で決められるものなら、これらの内容はそりゃーもう、うちの学生には絶対に教えたいです。

それから、この学会で幾度も、CAATEは国境を超えATのグローバリゼーションを推奨していく、海外との提携とも広げていくという表現を耳にしました。既に海外のプログラム2つが認定に向けて準備を進めており、CAATE曰く、「カナダ、イギリス、アイルランド、日本、スペインとの提携を視野に入れている」んだそうです。非常に勝手で個人的な感想ですが、私はここで母国の名前を目にして非常に嬉しく思いました。こんな素晴らしい機会を我々が掴まない手はありません。是非私が生きているうちに日本CAATE認定のプログラム第一号誕生の実現を目にしたいものです。逆に言うと、この波に日本が乗らなければいよいよ日本のATは末期かもという危機感も抱いています。CAATEの教育水準と少なくとも競える内容を教えていなければ、向こうだって興味を無くすでしょうから。変わるなら今です。これらの一押しが日本でのATという(いや別に違う名称だっていいんですけど)医療資格としての確立、教育カリキュラムの統一などに力を入れるきっかけになればと願っています。

以前某書でアメリカのATは思春期を迎えた中学二年生の子供のようなものである、と書きましたが、今回の学会で、いよいよ今中学三年生に進学し、卒業・高校進学を視野に入れてめきめき成長を遂げていっているなぁ、という印象を強くしました。なんだか気が付けば顔も大人びてきて、一気に頼もしくなってきているではありませんか(何様だ、という感想ですけども、いやほんとに客観的に見て)。高校での3年間は濃密で、心も体も一気に成長する時期です。一度高校に入れば、アメリカのATは爆発的な成長を遂げるでしょう。これからどういう風にこのProfessionが舵を切り、方向を定めて成長していくのか楽しみでなりません!

一方で、これらの必修項目改訂を目にして、なんだこれは、知らないものばかりだと少しそわそわと落ち着かない気分になるATの方もいるかもしれません。その気持ちを是非大腕を広げてギュッと受け止めてやってください。貴方の中に湧き上がるそのdiscomfortこそが、他でもない、この職業が進化し続けているという揺るがない証拠なのです。ATCというcredentialを持って活動している以上、我々は最新の知識を得、新たに需要が生まれてくる臨床スキルを習得する責任と義務があります。資格を取って、BOC合格してオワリ、ではないことは覚悟してみなこの業界に入ってきたはずです。これから様々な学会や勉強会で今回のブログに書いたような(i.e. 脱臼の整復、静脈注射、マニピュレーション)分野の技術・知識を学ぶ機会が皆さんの目の前に現れることでしょう。是非その機会を活用してください。自分が知らないこと、苦手だと思うこと、どんどん積極的に勉強していってください。時代のニーズに合ったAT像を、我々個人がしっかり追い求めなければ、我々はあっという間に用無しと言われる対象になってしまいます。
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変わることを恐れていては、ロクなことがないんです。アメリカAT界は、今までに2回恐怖感から身体をすくませ、それが原因で重要な機会を逃がしています。一回目は、もう何十年も前。全米規模で高校でAT雇用を強制化しようという法案が生まれたのですが、実はそれを採決手前で取り消したのは他でもないATら自身でした。「そんなに膨大な数のATを全米規模ではとても輩出しきれない」と恐れ、二の足を踏んだことが原因だったそうです。もし、その法案が可決していたら、今日のアメリカスポーツ医療界にはどんな景色が広がっていたでしょうか。
二度目は、インターンシップ制度を廃止し、カリキュラム制度のみに切り替えるその決断時期でした。まだ要るんじゃないか?もう少し続けようか?皆嫌がるかな?と無くすことを恐れた結果、インターンシップ制度廃止をするタイミングを逸し、長く続けすぎてしまったのです。フレームワークの無い職業育成はクリニシャンの幅を上へも下へも際限なく広げ、結果、この業界そのものの成長を妨げる原因になってしまった。これらの「足踏み」を後悔している熟練ATの懺悔を何度も耳にする機会がありました。
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さぁ、我々は3度目の大きな試練を迎えています。Health Care Teamの一員として、我々は初めて他の「オトナ」の座るディナーテーブルへの招待券を得たのです。私たちはしっかりと身嗜みを整え、正しいテーブル・マナーで、他の職種の人たちと同じ言葉を喋り、ウィットの効かせた会話を広げながら、お食事を楽しめるようでなければなりません。

こんなところにカーキにポロシャツで来てはあまりに場違いですし、エビデンスのエの字も知らないようでは我々は会話に混ぜてもらうことすらできないでしょう。言いたいことは分かりますよね。このテーブルでチーム医療の一端を担うメンバーとして適切に振る舞うことができなければ、「やっぱりまだ早かったみたいだね」とオトナたちに苦笑されるのは目に見えています。そうなれば、我々が次にこのテーブルに招待してもらうまでもう10年はかかることでしょう。慣れない「オトナ」のテーブルに座るのは少し居心地が悪い、でもせっかくの機会を怖がっていてはいけないのです。3度同じ過ちを繰り返すことが無いよう、躊躇することのないよう、息を吐いて帯を締めて、勇気をもって一歩を踏み出しましょう。できないんじゃないか?という恐れに身を任せ、歩みを止めることが最大の悪。知らないことを知らないと認める潔さと、変わることを恐れない勇気さえあれば、我々はもっともっとどこまでも進んでいけるはずなのです。

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  by supersy | 2017-10-17 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

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