2017年 09月 06日 ( 1 )

 

脳を活性したければ、鼻から空気を吸え!呼吸のルートとフェーズに呼応した、脳内ニューロン活性のエビデンス。

友人が面白いと教えてくれた論文1 読みまーす。
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冒頭の英語がうっとりしますね。"The act of breathing results in a cyclical flow of air through the nose, providing an entry point for respiratory entrainment of neural activity" (p.12448). 鼻から空気が入ってくるとolfactory bulb (嗅球)とpiriform cortex (梨状皮質)…つまり嗅覚を司るlimbic system (大脳辺縁系)と呼ばれる脳の部位が活性化されるのですが、2-4 これは例えば口呼吸をするなどして、「鼻腔内の空気の渦流」を減少、または制限してしまうと、この部位の脳の活動もまた低下するのではと言われています。5
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● Limbic systemは感情、記憶、行動を調整する役割も持つ (特定の匂いを嗅いだりすると強烈に過去の記憶が蘇ったりする所以ですね)
● 鼻腔内で起こる空気の流れは、匂い物質の流れを作り、嗅覚を司るLimbic systemを活性化する

ここまでわかっているこういった知識の欠片を並べ、眺めてみると、色々つながりそうなところが見えてきます。例えば、ストレスを感じたり、不安になったり、知らないところに探検に出かけてみたりするときには、我々の呼吸は自然と浅く、早くなったりしますよね。特定の感情や行動によって呼吸の深さや早さが変化する(脳活動の変化→呼吸の変化)のは皆さん自身も体感したことがあるかと思うのですが、ということは、順番をひっくり返せば「呼吸の仕方を変えることで、感情や思考、行動が変わることもあるのでは?(= 呼吸の変化→脳活動の変化→それによる認知機能の変化)」という説の道筋も見えてくるんじゃないかと思うんですよ。ここらへんを掘り下げているのが今回の論文なわけです。

具体的には、1) intracranial EEG(iEEG, 頭蓋内脳波↓)を用いて鼻腔内の空気の渦流はPiriform cortex (梨状皮質)の活性を生むのか?Amygdala (扁桃体)やHippocampus (海馬)の活動はどうか?; そして 2) 呼吸は(偏桃体や海馬機能と深く関わりのある)実際の認知的タスクにも影響を与えるのか?などについて検証しています。
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iEEGを用いた実験は頭蓋を開け、脳に直接電極を埋め込むというこれ以上ないinvasiveな計測法(↑)であるが故、健康な人を被験者にするわけにもいきませんから(IRBの許可が下りませんよね)、被験者は7人のtemporal lobe epilepsy (側頭葉てんかん)持ち患者(平均42.4±10.4歳、男4人、女3人)に限って行われたそう。投薬治療が経過が思わしくなく、頭蓋を開放しての手術が必要な患者に絞り、その手術をする際にこの実験も…という形だったようです。ここでは、被験者に鼻呼吸をさせた場合と口呼吸をさせた場合とで、脳の活性がどのように異なるのかを計測、記録しています。
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呼吸と認知タスクの関係性を計った実験では、健康な被験者を用いて、彼らを(口を物理的に塞いだ強制)鼻呼吸 vs (鼻を物理的に塞いだ強制)口呼吸 vs (物理的には何も塞がず、口を開けたままで鼻呼吸をするという)コントロールの3グループに分け、それぞれに1) Emotional Recognition Taskと、2) Visual Object Memory Taskをしてもらいました。1) Emotional Recognition Task(62人、18-30歳)のほうでは、それぞれassignされた呼吸をしながら、驚いた顔と恐怖心に溢れている顔の写真をランダムに被験者に見せ(ひとつの写真につき100msという、限られた認識時間)、できる限り早くどちらの表情か見分けてもらう(=ボタンを押して判別)というタスクを、そして、2) Visual Object Memory Task(33人、18-30歳)では建物や果物、楽器などの写真を180枚見てもらったのちに、見たことのある("old")写真180枚と見たことのない("new")写真180枚をランダムに見せ、これを見たことがある("old")かない("new")か見分けてもらう、というタスクをおこなったそうな。ちなみにこれらの認知タスクをおこなっている際の脳の活性を計測するために、一人だけtemporal lobe epilepsy患者にも、iEEGを付けた状態でEmotional Recognition Taskをやってもらったそうであります。

被験者の選抜やグループ分けに明確なルールを設けたり、それぞれの判断にjustificationを添えていないため (i.e. なぜEmotion Recognition Taskは驚いた表情と恐怖心に溢れた表情のふたつに限定したのか?)、ちょっと好き勝手自由感はありますが、なかなか興味深いデザインですね。この研究、幾層にも実験が重ねられていてかなり濃密なので複数の論文に分けて発表しても良かったくらいなのでは…。ここまでは、epilepsy患者が頭蓋を開けた状態でおこなっているこの研究結果が、健康で頭蓋が完全に閉まった状態の成人の脳の活動をどれほど再現すると言えるのか?と、鼻を物理的に塞いで、口のみからしか空気が通らないようにしておこなった口呼吸は我々が自然におこなうそれとどれほどsimilar/differentなのか?というapplicabilityに関する疑問が浮かびますね。

では結果に飛びます。長くしたくないのでbullet pointsで。
 - 鼻 vs 口呼吸: iEEGの分析によれば、鼻腔内の空気の渦流とpiriform cortex(梨状皮質)のニューロン活性には統計学的に有意なcorrelationが見られたが、amygdalaとhippocampusでは同様の現象は確認できなかった。 口呼吸をおこなった場合、これらの脳の部位に目立った活動は見られず、Limbic systemは活性されなかった。
 - 呼吸のフェーズ - 吸気 vs 呼気: 脳の活動のパターンは、吸気を始める際にamygdalaとhippocampusの活動が、そして吸気全体を通じてpiriform cortexの活動の振れ幅が上昇し、吸気に下がるという呼吸フェーズとのsynchronization(同調性)が確認された
 - Emotional Recognition Taskは、「恐怖に満ちた表情」は吸気のほうが素早く認識された一方驚いた顔に関しては呼気・吸気の差は無し。口呼吸をしていた被験者は総じて鼻呼吸によりも認識が著しく遅れた。「口呼吸被験者のほうのパフォーマンスが低かったのは、口を開けていなきゃいけない、という意識が邪魔をして、タスクに集中できなかったのでは」というバイアスを取り除くために採用した、(口を開けた状態で鼻呼吸の)コントロールグループの結果を見てみると、やはり(鼻を物理的に塞いで)口呼吸をしていた被験者よりも認識が格段に速かったので、総合すると「鼻呼吸をしているほうが、口呼吸に比べて相手の感情を素早く的確に読み取りやすい」ということが言える。
 - 「この写真を見たかどうか」思い出す記憶力のタスクでは、鼻呼吸 vs 口呼吸で統計学的に有意な差は見られなかったものの、鼻呼吸組の被験者間では空気を吸いながら覚えようとした場合と、空気を吸いながら思い出そうとした場合は、同様の動作を空気を吐きながら行った場合よりも正確性が上がることが分かった。

えーなにこれめっちゃ面白くないですか。まとめるとこういうことですかね。
ヒトのpiriform cortex(梨状皮質)の活動は、呼吸と呼応している。鼻から空気を吸う際にはこの部位は活性され、呼気と共に活動が下がる。この呼吸と対応した波のような活動は、amygdala(扁桃体)とhippocampus(海馬)でも見られ、これらの影響により、他人の表情(特に恐怖の表情)の判別は、鼻から空気を吸っている際が最も素早く正確におこなえるし、記憶の入力・取り出しもより正確になる。

つまり、脳を活性させたければ鼻から空気を吸え!逆に休めたければ口から息を吐け!ってことですかね。感情や状況に呼応して呼吸が変化するだけでなく、呼吸を通じて脳の状態を変えることができる…一方通行でなく、two-way streetなんだというのは非常に意味のある発見です。久しぶりにかなり読み応えのある…というか、難解といってもいいレベルの文献でしたが(久々にundergradに戻って論文と格闘しているような気分になった、2日かけて読みました)、すんごいワクワクしました。読みたいという方はぜひ!全文無料ですよー。

1. Zelano C, Jiang H, Zhou G, Arora N, Schuele S, Rosenow J, Gottfried JA. Nasal respiration entrains human limbic oscillations and modulates cognitive function. J Neurosci. 2016;36(49):12448-12467.
2. Adrian ED. Olfactory reactions in the brain of the hedgehog. J Physiol. 1942;100:459–473. doi: 10.1113/jphysiol.1942.sp003955.
3. Kay LM, Freeman WJ. Bidirectional processing in the olfactory-limbic axis during olfactory behavior. Behav Neurosci. 1998;112:541–553. doi: 10.1037/0735-7044.112.3.541.
4. Fontanini A, Spano P, Bower JM. Ketamine-xylazine-induced slow (<1.5 Hz) oscillations in the rat piriform (olfactory) cortex are functionally correlated with respiration. J Neurosci. 2003;23:7993–8001.

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  by supersy | 2017-09-06 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

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