2017年 09月 03日 ( 1 )

 

タトゥーはアスリートにとって悪影響か?を科学的に読み解く。

色々ありましたが生きております。事情をご存知の皆様、大変ご心配をおかけしました。街にはまだまだ生々しい傷跡が数々残っていますが、徐々に平穏な日常生活が戻ってきつつあります。明後日には一週間遅れて無事に大学のほうも秋学期が開始する予定です。なんとかここまで漕ぎつけました…が、当然というかなんというか、非常にバタバタしています。今学期はもう、根性で乗り切るしかありません。気合いだー。




タトゥーはサッカー選手に悪影響? パフォーマンスの低下招く可能性

さて、こんな記事を先日見かけました。内容を読んでええー!と思い、元ネタになっているという研究をそれはそれは躍起になって探してみたのですが、どうにもこうにも見つかりません。なんてタイトルなんだろう?Dr. Ingo Froböse氏発表でしょう?どこにあるんだー?ご存知の方がいたらぜひ教えてくださいー。
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で。代わりと言ってはなんなんですが、こんな論文を発見しました(↑)。1 今年7月発表の論文だそうなので、こちらもそこそこ最新と言えると思います。こちらを読んでまとめておきます。

タトゥーの文化は古代からあったそうですが、近代になってそれはますますエスカレートする傾向にあり、現在は4500万人ものアメリカ人が少なくともひとつのタトゥーを有しているのだとか。日本ではまだまだ「ヤクザ」のイメージも強く、欧米のそれほどポピュラーではない印象ですが、それでも増えていますよねー。
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タトゥーは一般的に細い複数の針で肌を突き破り、体内にインクを入れる、という手法を取っています。指された針の数だけpuncture woundができ、真皮層(dermis)は損傷され、炎症反応が起こります。この真皮層には汗腺(sweat glands)も含まれているため、「タトゥーを彫ることによって汗腺の損傷が起こるのでは?」「そしてそれは汗腺の持つ『汗をかく』という機能、そして『押し出された汗から塩化ナトリウムを再吸収して、発汗による塩分のロスを最小限に防ぐ』機能に悪影響を及ぼすのでは?」という疑問を著者らが持つのも当然のことかもしれません。
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で、この研究では身体の片側にタトゥーがある健康な男性被験者を10名(平均21.2±1.0歳)用意し、タトゥーがある側の身体を「実験群」、ない側の身体を「コントロール群」としてそれぞれのsweat rate(発汗率)とそのNa+ concentration(塩化ナトリウム濃度)を計測したそうな。正確には、タトゥーがある側の身体のインク濃度が最も高い部分を「実験群」とし、逆側の全く同じ部位を「コントロール群」としたらしいのですが、この「インク濃度が最も高い部分」 というのはどういう計測によって決められるのでしょう?特殊な機器を使っての測定?それとも目分量?ここの記述は抜けていますね。

私が気になるのはstudy designなんですよ。まず被験者の数は明確に少ないですよね。Statistical powerによれば被験者の数は3-16人必要だった、とのことですから、贅沢を言えばその上限値を越えた20人は用意していればよかったのでは、と思います。それから、どうせだったらこういうグループ分けが見たかった。片側ではなく、ヒトを単体として見た場合の発汗量を、1) タトゥー無しの人; 2) タトゥー軽めの人(定義はよくわからないけど、例えば肌露出の〇〇%未満とか); 3) タトゥーをかなりヘビーに入れてる人…別に計測する、とか。同じ人間の半分を実験組、もう半分をコントロール、という実験は個人的にあまり好きではないのですよ。だって人体の機能って適応できるようにできているから、例えば写真のように左半身がタトゥーでカバーされて発汗作用が下がると、右半身の汗腺が逆に発達して発汗能力が上がり、トータルの発汗量のつじつまを合わせようとする、って可能性があるんじゃないかと思うんですよね。そうなると、左右差がより大きくなる、つまり「コントロール」として使っているはずの側が本来のコントロール以上の能力を持っている可能性もあるんじゃないかなぁと感じたりするんですけどね、どうなんでしょうね。

加えて、発汗率の測定は、19-21℃、湿度50-60%の室内で20分間座った状態でおこなったそうですが、ここも1) なぜ室温、湿度に幅があったのか?(19°で湿度50%の部屋と、21°で湿度60%の部屋とでは体感も変わってくるのでは?); 2) 計測前に運動禁止とか、サウナ禁止とか、cold whirlpoolやアイシングは禁止などの指定を設けなかったのはなぜか?; 3) もっというと被験者のexclusion criteriaに発汗に影響しそうな要素…例えば火傷とかmetabolic disordersなどを一切言及しなかったのかなぜか?という疑問も残ります。加えて、座ったままの発汗量は、スポーツ中の体温が上がった状態での発汗量とはまた違うものかも知れません。なので、この研究の結果がそのまま「屋外で運動中のスポーツ選手」にも当てはまるかは甚だ疑問が残ります。

あとは発汗能力はHeat Acclimatization (熱順化)の程度によっても大きく変化するはずですよね。2,3 つまり、10人の被験者の基礎発汗能力には個人差がそもそもある可能性が高いわけです。そうなればそのままのraw dataを平均化することにそもそも無理があるのでは…何らかの形で数値をnormalizeしなければならなかったのでは?と私は思ってしまうのですが…。どちらにしてもsample biasはかなり強そうです。
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され、それでは結果です。実験群とコントロール群との比較では、タトゥーがあった側の発汗量(↑左)は、無い場合と比べて格段に低かった(0.18±0.15 vs 0.35±0.25mg/cm/min, p = 0.001)、とのことで、その平均の差は-0.17±0.11mg/cm/min (Cohen's d = -0.79)だそうで。おお。随分ありますね。これを発汗率に直すと、「タトゥーがある側の身体はない側と比較して、発汗率がおよそ53±12%、つまり泊半分にまで低下していた」ということが言えるようです。うおおおお半分!

塩化ナトリウム濃度もタトゥーありとなしではある方が著しく高く(69.1±28.9 vs 42.6±15.2 mmol/L, p = 0.02)、その平均の差は26.5±29.7 mmol/L (Cohen's d = 1.01)だそう。これもかなり大きな差。比に直すと「タトゥーがある側の身体はない側と比較して、塩化ナトリウム濃度がおよそ1.73±0.83倍高い」ということが言えます。おおおおお。

まとめると、タトゥーをするとその個所の発汗性及び塩化ナトリウムの再吸収の能力は著しく低下する、ということですね。汗をかかないわりに、塩化ナトリウムを失う量は激しい、という効率の悪い発汗が起きる、と言い換えてもよいのでしょうか。タトゥーを入れてからの期間と、これらの能力低下に関連性は見られなかったことから、結論ではこれは(タトゥー施術による)汗腺の(一時的ではなく)恒久的変性そのものの結果である可能性が高い、と書かれています。

デザインの穴は致命的と言えるほど大きいかとも思う反面、結果はかーなーりー面白いです。発汗率が半分はアツいです。因果関係を証明できるような研究デザインではないので、この実験からはこれが実際にパフォーマンスにどのような影響を及ぼすのか、トレーニングでそれなりに克服可能なのか、そしてHeat illnessなどのスポーツ障害の危険性を上げることもあるのか…こういったことは全く分かりません。新たに出てくる疑問も非常に多いです…が、しかしそれは色々と想像力を掻き立てられるような興味深い研究だってことでもあるんですよね。いやー、後続の研究に期待です!

1. Luetkemeier MJ, Hanisko JM, Aho KM. Skin tattoos alter sweat rate and na+ concentration. Med Sci Sports Exerc. 2017;49(7):1432-1436. doi: 10.1249/MSS.0000000000001244.
2. Lorenzo S, Halliwill JR, Sawka MN, Minson CT. Heat acclimation improves exercise performance. J Appl Physiol. 2010;109(4):1140–1147.
3. Sawka MN, Leon LR, Montain SJ, Sonna LA. Integrated physiological mechanisms of exercise performance, adaptation, and maladaptation to heat stress. Compr Physiol. 2011;1(4):1883–1928.

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  by supersy | 2017-09-03 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

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