2017年 08月 21日 ( 1 )

 

脳震盪関係おもしろ論文レビュー。*個人の感想です

個人の感想と言えばなんでも罷り通ると聞いて。

諸事情あって脳震盪関連の論文をまた洗っています。この分野はどんすか新しい論文が出るっすよね…わりに似たような内容も多く、「そんなに一生懸命最新の論文を読んでなくてもそこまで取り残されない」という妙な油断が生まれやすいので、そんな甘い気持ちじゃいかんぜよとちょっと自分で自分を戒めながらここ一週間ほど山のような文献と睨みっこしておりました。
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中でも面白いなと思った論文について、新旧問わず少しだけ書き残しておきます。
一つ目はこちら(↑)。1

脳震盪患者の大部分が7-10日以内に自然と回復する一方で、2 10-15%の脳震盪患者がPostconcussion Syndrome (PCS, 脳振盪後症候群)と呼ばれる、頭痛や睡眠、記憶障害などの一ヶ月以上続く長期的な後遺症を発症してしまうのはよく知られた事実です。3-5 しかしPCSの定義って未だに曖昧なんですねー。冒頭ではICD-10のPCSの定義とDSM-IVのそれがいかに異なるか、という議論も展開されており、この論文では「3つ以上の症状が最低でも脳震盪受傷後一ヶ月続いている且つMRI/CTなどの画像診断で異常が見られない場合をPCSと呼ぶ」(↓テーブル)という、まぁ確かにリーズナブルそうでしかし根拠の欠ける新たな定義を採用しています(個人的にはこの定義は非常に理に適っていると感じる一方で、こうして各論文で各自が正しいと思う独自の定義を採用し続けたら全く持って世間が役立てにくい・一般化しにくい情報になってしまうなぁ、と少し残念にも感じます)。
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この論文1では1997年から2013年にかけてカナダのとあるneurosurgeonの勤務する医院に来院した284人の脳振盪患者を上の定義を使って振るいにかけ、合計221人の「PCS」基準を満たした患者のプロファイルをretrospectivelyにレビューしました(= retrospectively cohort study)。PCS患者221人のうち、男性127人(57.5%) vs 女性94人(42.4%); 患者の年齢層は10-74歳と実に幅広く、latestの脳震盪受傷時平均年齢は27.0歳; 今までの総脳震盪受傷回数は平均して3.3回(↓左グラフ); 今までに複数回脳震盪を受傷した患者は221人中170人(76.9%); PCSの有病期間は平均が14.7ヶ月、中央値が7ヶ月で、幅はなんと1ヶ月からなんと最長で26年まで(↓右グラフ)。26年間も頭痛が続くなんて、アタマおかしくなりそう…。
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PCS患者が訴える症状のトップ15を記事から抜粋して下にまとめてみました。トップ5は特に過半数(=50%以上の患者が訴える)を超えていますね。頭痛に記憶障害、集中も出来ないとなったら勉学は大変そうです。
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この研究は、どういった要素がPCSになる・ならないを左右するか、ではなく、どういった要素がPCS患者の経験する症状数・有病期間に関係しているかを調査したもので、結論を言うと1) (この怪我が原因となった出来事で)訴訟沙汰に巻き込まれている; 2) extracranial injuriesがある; 3) 記憶障害 and/or LOCが脳震盪受傷時に見られた; 4) 女性である…という要素があると症状数が増える・PCSが長く続きやすいという関連性が発見されたようです。一方で、過去の文献によってPCSのpredictorと発見されている1) 精神疾患 and/or 偏頭痛の既往歴; 2) 受傷の原因 (スポーツか、交通事故か、等); 3) 過去の脳震盪受傷数; 4) 年齢は、PCSの有無そのものはともかく、PCSの症状数・有病期間には関連性は見られなかったそうな。

あと面白かったのは「PCS患者が経験している症状数はPCS有病期間を予測する単体の要素として最もチカラがある」ということですかね。つまり、例えば頭痛・吐き気・いらいら・視覚障害・疲労感という5つの症状を訴える患者は、頭痛・眩暈・記憶障害という3つの症状があるPCS患者よりもより長くPCSの症状が続きやすいというわけ。ひとつ要素が増えるごとに回復する可能性が25%下がるという数字も面白かった…大きな影響力がありそうですね。

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この論文6も面白いです。ざっくり解説すると、「脳震盪患者は頭痛や記憶違い、睡眠障害などの症状が一般的だけれど、これらの症状は脳震盪をしていない、『健康』と言われる一般の人にも決して珍しくないものである」という観点から、「非脳震盪患者の大学生アスリートにどれくらい『concussion-like symptoms』があるか調査をしたら、一体どれくらいの選手が『脳震盪』の診断基準を満たす症状を報告するだろうか?」を調査したものです。そんでたぶんコレ、伏せられていますけど、うちの母校でやった研究っすね。何で隠すんでしょ?

調査された現役大学アスリート738人(男452人、女286人)のうち、前述のICD-10の「脳震盪」の診断基準を満たす症状を報告したのは120人(16.3%)で、中でも女性(21.7%)は男性(12.85%)に比べて1.7倍(OR = 1.67, p = 0.002)その基準を満たしやすいとのこと。それから、Fatigue/Drowsiness (疲労・倦怠感)が中でも一番多い症状で、頭痛も少なくなかったそうです。うーん、無作為に脳震盪をしていない大学生アスリートを捕まえて調査すると、その人が16%の確率で『脳震盪』になってしまうって、やはり診断としてはnot specific enough(特異性に欠ける)ってことですよね。

類似した研究と比較すると…メイン州在住の31,958人の中・高生を対象にした研究7では女子は28.0%と男子は19.3%が、フロリダ州在住の349人の中・高生を対象にした調査8では女子は20.2%と男子は20.4%がICD-10の脳震盪診断基準を満たす症状を報告しています。16-20%超のアスリートは中高大学を問わずにconcussion-like symptomがある、というのは一貫した発見のようですね。中高生のほうが大学生より割合が高いというのは少しびっくりだけど。男女差がある(女性の方が症状を報告することが多い)というのは今のところAsken et al6とIverson et al7に共通する結果というところでしょうか。このふたつの研究の被験者の数(738人+31,958人)からも、かなり確定していそうではないかというのが私の個人的な印象です。

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最後の論文です。9 これは発表したときかなり騒がれたのでご存知の人も多いかも。
Chronic Traumatic Encephalopathy(CTE)はまだまだ症例報告にのみ基づいており、clinical presentationが多様性がありすぎるが故に、確立された疾患として認められるには時期尚早だという厳しい声も専門家から上がっていましたが、10,11 2016年に国立神経疾患・脳卒中研究所(National Institute of Neurological Disorders and Stroke, "NINDS")と国立生物医学画像・生物工学研究所(National Institute of Biomedical Imaging and Bioengineering, "NIBIB")が発表した共同声明では"an accumulation of abnormal hyperphosphorylated tau (p-tau) in neurons and astroglia distributed around small blood vessels at the depths of cortical sulci and in an irregular pattern"と正式にCTEの定義づけがなされ、診断基準も明確に定められるようになりました。12 少しずつではありますが、枠作りは着実に進んでいる印象です。

さて、話が逸れましたが、本論文では死亡後にBrain Bankに脳を提供した202人の脳(死亡年齢47-76歳、中央値66歳)を検証した結果、177人(87.6%)にCTEが認められたと報告されています。9 やはりというかなんというか、非常に高い数字です。最終フットボール歴がpre-schoolだった(= それ以降はフットボールをプレーしていない)人の脳は2人中0人がCTE(= 0%)だったのに比較して、最終フットボール歴が高校、大学、NFLと上がるにつれて14人中3人(21.4%)、48人中53人(90.6%)、111人中110人(99.1%)とCTE率も爆発的に上がっています。

CTEと自殺の関連性も少し興味があって調べていたところだったので書いておくと、mild CTE(Stage I-II)と診断された44人中最も多かった死亡原因は自殺(n = 12, 27.3%)で、severe CTE患者のそれはneurodegerative (133人中61人、46.6%)だったそうな。

最後にひとつだけ書いておくと、このBrain Bank関係の研究の全てにsample biasが含まれる可能性は否定できません。「既に亡くなって」いて「脳を提供する」だけの理由がある人しか研究対象にならないのですから。なので、この研究を読んで「現役NFL選手の99%もこれからCTEを発症するというわけだろう」と結論づけてしまうのは話が飛躍しすぎです。解釈にご注意を。

現在の技術では「検死解剖」が唯一の確実な診断方法ですが、他の画像手段などを用いてタウたんぱく質を可視化する方法や、その他のバイオマーカーの存在の有無など、様々な研究が進んでいます。13 そう遠くない将来、生きたままでも診断する方法が見つかるのではと思っていますが…。


1. Tator CH, Davis HS, Dufort PA, Tartaglia MC, Davis KD, Ebraheem A, Hiploylee C. Postconcussion syndrome: demographics and predictors in 221 patients. J Neurosurg. 2016;125(5):1206-1216.
2. McCrory P, Meeuwisse WH, Aubry M, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 4th international conference on concussion in sport held in Zurich, November 2012. Clin J Sport Med. 2013;23(2):89-117. doi: 10.1097/JSM.0b013e31828b67cf.
3. Jotwani V, Harmon KG. Postconcussion syndrome in athletes. Curr Sports Med Rep. 2010;9:21–26.
4. Prigatano GP, Gale SD. The current status of postconcussion syndrome. Curr Opin Psychiatry. 2011;24:243–250.
5. Shenton ME, Hamoda HM, Schneiderman JS,et al. A review of magnetic resonance imaging and diffusion tensor imaging findings in mild traumatic brain injury. Brain Imaging Behav. 2012;6:137–192.
6. Asken BM, Snyder AR, Clugston JR, Gaynor LS, Sullan MJ, Bauer RM. Concussion-like symptom reporting in non-concussed collegiate athletes. Arch Clin Neuropsychol. 2017:1-9. doi: 10.1093/arclin/acx018.
7. Iverson GL, Silverberg ND, Mannix R, Maxwell BA, Atkins JE, Zafonte R, Berkner PD. Factors associated with concussion-like symptom reporting in high school athletes. JAMA Pediatr. 2015;169(12):1132-1140. doi: 10.1001/jamapediatrics.2015.2374.
8. Asken BM, Snyder AR, Smith MS, Zaremski JL, Bauer RM. Concussion-like symptom reporting in non-concussed adolescent athletes. Clin Neuropsychol. 2017;31(1):138-153. doi: 10.1080/13854046.2016.1246672.
9. Mez J, Daneshvar DH, Kiernan PT, et al. Clinicopathological evaluation of chronic traumatic encephalopathy in players of american football. JAMA. 2017;318(4):360-370. doi: 10.1001/jama.2017.8334.
10. Randolph C. Is chronic traumatic encephalopathy a real disease? Curr Sports Med Rep. 2014;13(1):33-37. doi: 10.1097/OPX.0000000000000170.
11. Bailes JE, Turner RC, Lucke-Wold BP, Patel V, Lee JM. Chronic traumatic encephalopathy: is it real? The relationship between neurotrauma and neurodegeneration. Neurosurgery. 2015;62 Suppl 1:15-24. doi: 10.1227/NEU.0000000000000811.
12. McKee AC, Cairns NJ, Dickson DW, et al. The first NINDS/NIBIB consensus meeting to define neuropathological criteria for the diagnosis of chronic traumatic encephalopathy. Acta Neuropathol. 2016;131(1):75-86. doi: 10.1007/s00401-015-1515-z.
13. Montenigro PH, Corp DT, Stein TD, Cantu RC, Stern RA. Chronic traumatic encephalopathy: historical origins and current perspective. Annu Rev Clin Psychol. 2015;11:309-330. doi: 10.1146/annurev-clinpsy-032814-112814.

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  by supersy | 2017-08-21 18:00 | Athletic Training | Comments(0)

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