2017年 02月 26日 ( 1 )

 

医療と環境問題: Sustainabilityという言葉を考えてみて一区切り。

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環境問題の話も今回で一区切りにします。今回は最後の3つの文献をレビュー。
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#8 Overcash 2012
素晴らしいLast nameですね。これはアメリカの文献。

さて、手術時にガウンや患部以外の部位を隠すdrape(perioperative gowns and drape)などが使われたりしますが、これは手術で使う織物類の総重量30%くらいを占めるんだそうです。これらを一度使ってぽいっと捨ててしまうか、再利用するかで出るゴミの量もだいぶ変わってきそうですね。様々な観点から、reusable(再使用可能ガウン)とdisposable (一度使い切り、使い捨てガウン)を比較してみよう!というのがこの論文です。

さぁ、複数回使える vs 使い切りのガウンやdrapeを「どちらがより良いのか」という視点から比較しようとしたときに、1) 患者と職員に適切な保護を提供できるか、2) 着心地、使い心地が良いか、3) 経済的か、4) 環境への配慮、5) 関連する業界・職の可能性や未来性…などが判定基準のカギになってきます。「繊維素材もどんどん変わり、ガウンの安全基準の試験法も変化しているから、廃止された素材・試験法を検証した古い研究はちょっといったん忘れようぜ!経済的な時代背景も今とは違うしな!現在使われている新しい素材・基準のみに絞ってちょっと文献調べてみたぜ!あ、あんまり数がなかったんで、qual中心にまとめてみたわ!」というのが、まーこのnarrative reviewのざっくりとした主旨です。

1. Protection of Health Care Workers and Patients
もともとあくまでgowns & drapeはく複数ある感染予防要素のひとつでしかなく、且つ文献も限られているので論じにくい分野ではあるかと思うのですが…。最新のスタンダードでは、liquid & viral protection penetration testに合格したものがLevel 4 (最高の安全性)で、そこから液体が染み込みやすくなっていく順にLevel 3, 2, 1…と下がっていくようなランキングになっているそうで、この同じ基準を一貫して使ってreusable vs disposableを比較していないと比べようがないですよね、というのは至極真っ当な意見。つまるところ、そういう研究はまだないみたいです。ざっくりとしたデータで「reusableもdisposableでも、gown/drape共に感染予防に目立った差はありません」というCDCその他の報告があるくらいだそうで。
ただ、現存するデータでは「使い切りのほうが安全」という考えはエビデンスに基づいてはいない、ということにもなります。ここらへんの誤解は、徐々に解かれていく必要がありそうです。それと同時に、何回ガウンを使ったのかきちんと記録を付けるようなシステム、定期的なガウンの防護力のテストなど、新たに取り組まなければいけない事柄も出てきそうですね。ここらへんは、続報を期待です。

2. Comfort
ここもデータとしてあまりないそうなんですが、敢えて計測できそうな要素を挙げるならbreathability (通気性)でしょうか。他にももちろん「フィット感」「ゴワゴワ感」「音」なども着心地という言葉に含まれるとは思うのですが、そういうのはもう、ほんとに、研究されていないところなので(むずかしいことじゃないから、だれか研究しちゃえばいいのに、と思うけど)。Thermal manikinを使って行われたreusable vs disposableガウンの「着心地」比較実験では、どちらの種類も同様に3時間以上の手術でも体温をcomfortレベルに保てたという報告があり、他にも水分の蒸発率も大差なしという研究、そして最後に実際に執刀医らに着せ、軽めの手術から重ため、長めの手術まで119件の手術を行ってもらい、実際に「どーでした?」と尋ねてみた、という研究では、「reusableのほうが着心地がよかった」と答えた人が多かったそうです。

3. Economics
今までに発表された論文は1) トルコ: reusable gownsのコストはdisposableの25%だった ($8 per surgical package vs $33); 2) アルゼンチン: reusableのほうが78%ほど割高だった ($16 vs $9 per surgical package); 3) カナダ: reusableのほうが4%ほど割安だった…が、これは誤差の範囲内かもしれない、という値段に関しては一貫性のない結果が出ているそう。Reusable gownsを使う病院の99%は、その殺菌消毒を外注しているらしいので、そこらへんも考慮するとなると、実際のコストはほとんど同じくらいで、出てきている「違い」は外注業者との交渉次第ってことになるんでしょうか。

4. Environmental Life Cycle Analysis
これは製品の制作、使用、廃棄に至るまでの全ての段階でのCO2発生、人間への毒性や水質汚染などを総合的に推し測り、(reusableがその一生を終えるくらいの)複数回使った場合の影響をlife cycle inventoryとして査定するという分野なんだそう。1998年に立てられたCDCの仮説では、(再利用するために必要な洗濯や消毒を考慮すれば)reusableもdisposableも環境にかかる負担は結果的には同じだろう、だったそうなんですが、それ以降発表された6件のlife cycle studiesでは一貫してreusable gownsのほうが環境への悪影響は圧倒的に少ないと結論づけられています。Reusablesの代わりにDisposablesを使うとエネルギー消費、温室効果ガスが200-300%増え、水消費量は250-330%増加(reusableは洗濯いっぱいしなきゃいけないのに?と疑問だったんですが、disposableを作る際に必要な水の量はreusableの洗濯で使う水消費量よりもはるかに多いようです)、廃棄物は1000ガウン当たり38-320kg出て、これはreusableの750%増にもなるのだと。うわ、すごい数字。これはreusableの圧勝で、議論の余地なし。

5. Related Job Market
Reusableの使用が増えれば、洗濯、消毒、そしてtransportation関係の職種は活気づきそうですね。Localなレベルで。しかし、比較labor studyなどがあるわけではないので、この分野はまだまだ研究が必要です。

さて、5つの基準に基づいて改めてこのふたつを比較してみると、reusableとdisposableはどちらも必要なProtection Standardを満たし、着心地は同じか少しreusableがいいくらいで、コストはほぼ同じ、しかし環境に圧倒的に優しいのはreusable…となれば、どちらがsustainabilityにとってより必要かはもう明確ではないかと思います。筆者は「どちらかを完全に排除すべき、というわけではなくて、恐らく正解はmix、適切な時にreusableを、適切な時にdisposableを使えるという充実した選択肢だ」とも述べています。なるほど、適材適所で上手く選べるようになるってことね。これはなかなか、繰り返しも多いけど読み応えのある、興味深い論文でした。
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#9 Sattler & Hall, 2008
家、学校、職場などでどんな製品をどう使うかが環境に大きな影響を与えることはよく知られていますが、医療施設ももちろん例外ではありません。「健康」を促進する我々は、「環境に配慮した、健康で安全な場所を作る」模範的立場にいなければいけないのに、まだまだ程遠いというのが現実。医療施設は医療サービスの提供の場であるだけでなく、大きな買い物も行われている場所でもあるわけですよね…例えば、食べ物、医療器具、紙、オフィス用品、電池、リネン、建築製品などなど…。そういった製品がどう作られ、使われ、廃棄されるかという一生(life cycle)を理解した上で、何を買って何を買わないか決める、つまり、環境に配慮した製品選びをすること=「Environmentally preferable purchasing (EPP)」について、この論文の前半で説明がなされています。

例えば、ほんの10年前まで(この論文が出たのが9年前なので、今でいうと19年前ですけども)、水銀の入った体温計や水銀灯の使用は非常に一般的でした。しかし、今ではデジタル式体温計や蛍光灯の使用が当たり前で、さらにそれらを再使用、リサイクルしたりもしていますね。代用品が出始めた当時は「水銀体温計交換運動」なども地域でかなり積極的に行われたようです(これは知らなかった)。その甲斐あって、今では医療器具が原因で起こる水銀汚染は劇的に減ったと言ってよいでしょう。印刷紙も大量に買いますよね、その際には塩素漂白された(→そのプロセスでも、焼却廃棄する際にも両方でダイオキシンが発生する)新しい紙を使うのではなく、漂泊のされていない再生紙を買うほうが環境への配慮が大きいと言えます。これらがEPPの実践例です。

Environmentally Conscious Waste Management(環境に配慮した廃棄マネジメント)も、Purchasing Decision同様に重要です。
  ● Reduce
  ● Reuse
  ● Recycle
この3つのRに関してはもう散々書いているので今更説明はいいですよね。医療廃棄物に関して歴史を少し振り返ってみると、そもそもなんでこんなに慎重になるようになったかというと、1980年代のHIV/AIDSの流行がきっかけだったんですって。その時は何を介して感染するのか分かっておらず、病院で生まれる医療廃棄物は「容疑者」だったわけで、とにかくなんでも赤いバイオハザード袋に隔離して、デカデカとした危険印貼って…と仰々しく廃棄していたわけです(恐怖というのは時に非常に大きなモチベーションになりますね、良くも悪くも)。病気感染経路についてより知識が広まった現代では「なんでも」ではなくて、体液の付いたものに限ってこういった「隔離」廃棄が行われているわけです。
リサイクルに関して、紙やプラスチックはまだ一般的かもしれませんが、忘れられがちなのが電池のリサイクルです。アメリカでは電池も分別せずに捨て、そのまま焼却されて環境汚染の原因になることは珍しくありませんが、これを病院規模でリサイクルしよう!と活動を始め、それが大きな歴史的ムーブメントになった…なんて看護師さんも過去にいるそうです。電池のリサイクルは病院に限らず、うちの大学でも是非積極的にやってほしいなぁー…。リサイクルという選択肢が住んでいる場所に無いというのは正直非常に困る…。
その他、焼却処理してはいけないものの典型として、水銀(airborneとなり、そのうち水に溶け込んで、魚などを汚染、最終的に人体へ入ってくる)やプラスチック(焼却時にダイオキシン発生→植物や水を介して肉や魚を汚染→人間へ。脂溶性のため、母乳などに溶け、幼児の身体にも入る)があります。育児では母乳はなるべく推奨されるべきもの、という前提を守るためには、病院では特にダイオキシンの発生の多いPVCというタイプのプラスチック製品の使用を減らすようなPolicyを打ち立てる必要があると筆者は述べています。

空気汚染も考慮しなければいけません。特に分解されにくく、長期的に渡って私たちの健康を脅かす存在なのがPersistent Organic Pollutants (POPs)という化学物質類で、これらは殺虫剤や産業廃棄煙によく含まれています。この論文では、病院での殺虫剤の使用を減らすため、Integrated Pest Managementという方法も提案されています。この手法では、まずは1) 虫の食べ物、2) 飲み水、3) 巣へのアクセスを発ち、そして4) 入口(建物のヒビなど)と防ぐ、という物理的な方法を試したうえで、非毒性の虫よけを使う(もしくは、使うならば非拡散系のゴキブリホイホイ系のものに限る)んだそうです。あと、POPsに限らず、病院で頻繁に使われるものの中にはAsthmagensやAsthma triggerになるものって結構多いんですって。消毒剤とかラテックスとか。DEHPというプラスチックを柔らかくするために使われる化学物質は男性生殖器官の機能低下(不妊や新生児の先天性欠損症)ともその関係性が報告され、今では医療器具にDEHPの使用しないよう、FDAから通達が出ているんだそうな。

それから、病院で提供する食事(患者はもちろん、職員やその他見舞いなどの来院者用も)はなるべくローカルな農家や業者が卸しているもの、オーガニック野菜や、合成ホルモン・抗生物質を使っていない牛乳や肉を使うなどが大事である、と筆者は述べていて、他にもsustainable food practiceとして、自販機でより健康的な食べ物を売る(ものすごくざっくりとした書かれ方ですが、アメリカの自販機で売っているものって基本的に恐ろしいものばかりなので私は個人的に頷けます)、食べ残しはcomposerへ、Farmers Marketsなどをホストする…などの面白い提案を挙げています。

病院で実践できる細かい提案を多く含んだ、これも面白い論文でした。実際にこういう取り組みをおこなっている病院に、時間があれば是非見学に行ってみたいなぁー。AT施設でこれからsustainable practiceを実践するためのいいお手本、いい学びになると思うんだけど。私もこういうところ、これからもっと積極的に学びにいかないと教えられないよ。
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#10 Verderber et al., 2008
最後の論文です。こちらは、Health Administration(i.e. 病院管理職)の観点からSustainabilityを考えています。論文冒頭では医療産業の爆発的な拡大、そしてそれに環境管理が追い付いていないことを指摘。環境保護が盛んに訴えられるようになっても、医療団体の多くは「コストがかかりすぎる」とGreen化に否定的だとも注意喚起しています。

1990年代に建設物のエネルギーパフォーマンスを総合的に評価するランク付けシステム、Leadership in Energy Efficient Environmental Design (LEED) rating systemが完成。一定の基準を用いポイント形式で評価、優秀な建物には銀、金、プラチナ認定が贈られるといった仕組みを採用し、環境保護を視野に入れた建物を表彰する取り組みを始めました。 2006年までに30,000を超える団地がLEED認定を受けており、LEEDは史上最も成功したプログラムのひとつとして一般に広く認知されています。多くの都市や政府レベルの建物は最低でも「銀」レベルのLEED認定を受けることが義務化されているそう。そんな建物の中に病院などの医療施設はさぞかしたくさんあるんだろうかと思えば、全くそんなことはないというのだからびっくり。最初に認定が下りた病院はBoulder Community Hospital Foothills Campus in Coloradoで、これは2005年とかなり最近の話みたいです。
2003年にLEEDと並行する形でThe Green Guide for Health Careというプログラムも開始。Green GuideではLEEDとは少し異なるポイントシステムを採用し、より「まだまだ始まったばかり」の医療界の環境への取り組みに寛大な姿勢を示した、医療に特化した環境保護建設プロトコルとして、こちらも広がっているそうです。こういったシステムについて、Health Adminの教育プログラムでしっかりと教育がおこなわれるようになるのが理想的である、文化を植え付けることができる、と筆者は述べています。

Sustainability関連で起こり得そうなジレンマ、そしてその解決策について教育プログラムで話し合う機会を設けることで、将来のHealth AdministratorsがLEED/Green Guideというシステムにより詳しくなったり、interdisciplinary curriculumを通じて「様々な職種のプロ(i.e. architect, interior designer, landscape architect, urban planner, etc) と手を貸し合って問題解決をする」ことの習慣づけなどをしてはどうか、とこれも教育に関してクリエイティブな提案をしています。私はHealth Adminのカリキュラムについて全く詳しくないので、ふーん、というのが正直な感想ですが、この論文で紹介されている「10のジレンマ例」のシナリオはなかなか面白かったです。様々なプロと協力しあいながら、色々な視点で物事を分析できる能力は、確かにHealth Adminさんたちには必要な能力だと思うので、願わくば、彼らのmultidisciplinary educationの一環に我々ATが含まれているといいなぁーなんて思いながら読んでいました。

さて、Sustainabilityは、不慣れながらも興味深いトピックでした。しかし、私の専門分野ではないので、これらの文献を読むのは思いのほか骨が折れました…。次は、また別のトピックで文献10レビューします。ひー、全然終わらないよ。

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  by supersy | 2017-02-26 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

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