2017年 02月 20日 ( 1 )

 

アスレティックトレーニングと環境問題: Sustainabilityという言葉を考える。

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"Go green!"という言葉は英語で「地球に優しく!」という意味でよく使われます。環境問題への取り組みはまだまだ後進国であるのがアメリカの現状ですが(州にもよると思いますが、テキサスではゴミの分別すらしません。リサイクルも大学では一定規模おこなっていますが、地域規模の取り組みはゼロ)、それでも「もっと変わっていかなければいけない」と危機感を持って様々な形でメッセージを発信している人たちもいます。今回からは、数回に渡ってスポーツと医療の現場での環境問題への取り組みについての10の論文をまとめていきたいと思います。

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#1 Dietrich, 2009
Sustainabilityとは文字通りだと"the capacity to maintain processes, function, diversity, and productivity over time"という意味ですが、この論文では"a philosophy that promote habitual behaviors that help create a vibrant economy and an optimal quality of life, while respecting the need to sustain natural resources and to protect the environment"という風に定義づけられています。長いですね。つまるところ、『自然資源と環境を守りつつ、経済的活気と人生の質を保てるように生きていくための生活習慣を根付けていこうという哲学』ということなんだそうです。生活の質を犠牲にして環境を守るのではなく、両方を成立させる方法を模索する、とでもいうんですかね。
もちろん、我々の職務は医療であり、最優先事項は「sanitation=衛生」ですので、例えば一度使った手袋や注射針をそのまままた使うとか、そういう形のリサイクルは絶対に許されるものではありません。しかし、例えばアイスバッグを再利用可能なマテリアルのものにするといったような工夫は十分可能ですよね。「適切な環境下で、持てる全てのresourceを最有効活用する」ことこそがsustainabilityの実践なのです。
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され、アメリカのスポーツというのは「エコ」というところからある意味一番遠いところにいるような気もします。アメリカに現存する至高のエンターテインメントのひとつであり、「無駄」も「贅沢」として楽しまれているからです。大きな試合のtailgateなんかに参加したことのある方ならわかりますよね、そこらへん泥酔のお祭り騒ぎ、食べ残しに飲み残しが散らかって、ゴミがあちこちに溢れていますから。

この論文では、ATが主体となってAthletic Departmentに"Sustainability Committee"を設立することを推奨しています。そして、組織的に「Go Green=環境にやさしく」なるために、やるべきことは3つあると述べられています。

1) Research What Other Schools Are Doing/他の大学がどんな取り組みをしているか調査する。
例えば、University of Colorado at Boulderでは1970年から学生が中心となってEnvironment Centerという組織を形成し、環境問題情報の共有と大規模なリサイクル活動に取り組んでいるそうです。大学のフットボールの試合でも"Zero Waste (無駄ゼロ)"活動を行い、試合で出たゴミの80%(なんと40トン!)をリサイクル、再利用、もしくは堆肥化することに成功。さらに、自転車での来場を推奨する"Free Bike Valet(おまかせ駐輪無料)"サービスも展開し、車での来場者も劇的に減っているそうな。
University of Wisconsinでは、ひとりの学部生が教授らの協力を経て、スポーツの試合、ひと試合で生まれる二酸化炭素などの温室効果ガスの量を測定(carbon footprint、チームや観客などの移動、試合中のエネルギー消費などに基づいて計算)。そして、その(1,170トン)二酸化炭素を相殺するに足るだけの木々を地元や州の農協などと協力して植林し、「保護森林地区」として制定、"carbon-neutral condition"を作り上げました。
Athletic Departmentが主体となって行っている環境キャンペーンには、University of Wisconsinの"Wear Red Think Green"キャンペーンというのが有名です。ゲームデーメディアで積極的に環境問題に関する提言をおこなったり、試合の日に積極的にリサイクルしたり。「3-5年以内にはティッシュは全て100%リサイクル古紙のみを使うようにする」や、「試合の送迎シャトルを増やす」などなど、長期的なプランも含めて腰を据えてじっくりと進んでいるプロジェクトです。加えて、Athletic Departmentのスタンダードモデルを作るべく、現在NCAAとYale大学が提携して"best practice in sustainability for athletes"を形態化しようとしているところなんだとか。ふむ、この論文は数年前のものだけど、形になっているのかな?むくむく興味が出てきます。

2) Initiate a Sustainable Project/環境保護プロジェクトを始める
知った後は、何かを自分でも始めることです。誰もが始めやすいものとして良い例が、Nikeの"靴リサイクルプロジェクト"。もう使わなくなった靴をNikeに送り返すとその靴をリサイクルしてくれるそうで、既に2250万もの靴が集められたとか。コカ・コーラ社とEPA(Environmental Protection Agency、アメリカ環境保護庁)が提携しておこなっているRecycle Mania Competitionという取り組みも。 10週間という時間的括りの中で、どんな環境保護キャンペーンをおこなっているのか、全米各地の大学(参加校は全米400を超えるとか)の取り組みを競争形式でランク付けするんだそうです。

3) Be an Advocate Who Leads by Example/まずは自分が模範役に
大学規模の取り組みは大事ですが、もちろん個人個人のレベルでどんなに小さなことでも始める、続けるということも等しく大事です。私の母校、University of Floridaでは卒業生が自主的に「緑の誓い(Green Graduation Pledge)」を述べる機会が設けられているのだとか。意思表示をしたい卒業生は、卒業式に胸に緑のリボンをつけ、「これからの人生の選択をする際に、環境問題を念頭に置きます。この大学で学んだことを、これから私が学び、働き、生きていくコミュニティーのsustainabilityを増やすために使います」と誓うんですって。私が卒業した年(2009年)にはなかったから、最近の試みなのかしら?面白いですね。
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#2 Dietrich, 2009
Part 2のこの論文では、冒頭で「アメリカ人は人生で平均して成人の体重x600倍のゴミを生み出す」という恐ろしい統計をシェアしています。そこから改めて、医療従事者として、そして多くの若者の確かな情報源としてATはsustainabilityを謳う最適なリーダーであると言及。我々がすること、しないことは多くの人に見えているし、ATが「持っているものを最大限に使う」ことに長けているという点は、個人的にもかなり納得です。

●Reduce, Reuse, Recycle, and Buy Recycle!
できる限りのものを電子化して、paperlessへ。ミーティングの資料もメールやパソコン、プロジェクターで共有し、紙の消費を減らす(reduce)。試合の際、紙コップを使わずにボトルやカウを使用する(reduce)。テーピングの代わりにサポーターを使うのも資源には優しいですね(reduce)。使用した紙コップや空のペットボトル、段ボールなどはリサイクルへ、一定保存期間が過ぎた医療記録もシュレッドしてリサイクル(recycle)。デスクカレンダーは使用した後、小さく切ってメモパッドに、ぷちぷち緩衝材は足のリハビリ器具に(reuse)。あと、結構忘れられがちなのが「リサイクル商品を選んで買う」という努力なんですって。なるほどー。

●Be Smart About Transportation
ゴルフカートなどを乱用せず、必要ない時は歩くとか、あとはガソリンで動くものではなく、太陽電池や電気充電タイプの乗り物を使用するのもいいですね。教育で言うと、オフキャンパスの移動の際になるべくcarpoolをしていくとか、最近ではZipCarという「燃費のいい車の時間毎のレンタルサービス」っていうのもあるんですって。知らなんだ。

●Conserve, Don't Consume
電灯を普通のものからCFL電灯に変えるだけでエネルギー消費が75%削減できるとか、「部屋を出る最後の人が電気を消しましょう」と注意書きをしておく/Motion Detector式の電灯にするとか、パソコンは5分触らなければ画面が消える設定にしておくとか…定期的に不要なメール履歴を削除することでデータ容量が増えたりも(個人的には消しすぎないよう気を付けたほうがいいと思いますが)。手や食器を洗う際に水をこまめに止めたり、手を乾かす際にペーパータオルではなく空気乾燥機にするなどもできますね。

●Teach Sustainability
未来のATにこういったことを教え込むことも重要。Administrationの授業などで教えられるのが最適かも。
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#3 Potteiger et al., 2014
最後はこの論文。環境破壊の影響で増えてきているスポーツ障害の例として、heal illnesses, asthma, respiratory disorders, nutritional deficienciesを挙げ、「2012年の調査によれはATの多くはenvironmental sustainabilityに対しての知識もあるし、積極的な姿勢を見せているものの、プラスチックや水、紙の使用などでまだまだ我々が改善できる点が多くある」と指摘。

●Effects of Heat
地球温暖化が進むにつれ、低外気温が理由での死亡率は減り、郊外気温が原因で起こる死亡率は上がることが予想されます(まぁ当たり前なんですけど)。外気温が上がることで最も影響を受けやすいと言われているのが高齢者と女性。精神疾患患者、子供、暑さの影響を受けやすい職業の人と持病持ちの人も同様にリスクが上がると考えていいでしょう。

●Effects of Air Pollution
空気汚染で悪化が懸念されるのが喘息とアレルギー。中でもメジャーな空気汚染物質の6つのうちの2つ、オゾンと二酸化酸素の増加と喘息とその他呼吸器系の疾患の発生率は密接な関りがあると追われています。特に空気の状態が悪い日や時間帯に、例えば喘息持ちの選手は外での練習を避け、締め切った室内で代わりにトレーニングを行うなどの介入をする必要がこれからは増えてくるかもしれませんね。

ひとつ前の論文同様、こちらでもATが率先して環境問題に取り組む基盤を作っていくことの重要さを強調。既に環境問題担当のCommitteeがあればそちらと提携して、もしないならば組織の上の人間にそういったCommitteeの設立を提言することが大事だと書いてあります。一度基盤ができたら、現在ATスタッフで取り組んでいる環境への取り組みと、これからもっと改善できることを列挙し、何をとにかくすぐに取り組むべきか、どれをもう少し長い目で見ていくべきか…優先順位を付けるとよいそうです。現在のエネルギー消費やコスト、廃棄の量などを把握するために、Facility Managerに連絡を取ったり、企業などにEnergy Audit(施設全体でどのようなエネルギーがどのように消費されているのか分析する)を依頼したりする必要もあるかもしれません。現状のデータがあってこそ、そこから先の取り組みの成果が見えてくるものなので。

a) 施設のACの設定温度を変える、b) パソコンや、モニター、物理療法器具などの電源をこまめに切る、c) 一日の終わりに道具のコンセントを抜く、電気を消す、d) 物理療法器具の定期評価、必要があれば買い替えをする、…などを通じてエネルギー消費削減への取り組みを深めたり、あとはやっぱりMotion Detector式の電灯はいいみたいですね、10-40%のエネルギー削減になるんだとか。必要なもの以外はプリントアウトしない、などもやはりここでも言及されています。こうすることで紙はもちろん、電源やプリンターのカートリッジも長持ちしますしね。パソコンやコピー機も、場合によっては購入せずレンタルしたほうが安かったり、無駄も無かったりするみたいです。

さて、この論文後半ではATデパートメントで環境保護に特化したポリシーの成立をすべきである、そして、他の論文でも述べられているように、reduce, reuse recycleに取り組むべし、と推奨されています。紙コップからボトルに、というのは特に目新しいものではないですけど、他に進言していることとしては、飲み残しの水やスポーツドリンクを氷を足して低い温度に保ち、翌日の練習に使う、や、whirlpoolやcold tubsに使った水は、棄ててしまう代わりに、植物にやる水に再利用する、などもすべきであると書かれています。なるほど、確かに家でもお風呂の残り湯で洗濯したりしますもんね。紙もそうですが、ATクリニックではプラスチックの利用もかなり多いので(plastic bags, plastic wraps)、そちらのリサイクルも取り組むべきであると述べられています

ATで取り組む環境問題…。恥ずかしながら、あんまり考えたことはありませんでした。それに、「アメリカは無駄を何とも思わない国だ」というところを受け入れすぎていたのかも。例えば建物は基本、夜間ずっーーーーーと電機は付けっぱなしとか(防犯のためらしいです、お店なんかもずーっと電気ついたままなので渡米当初はびっくりしました)、クーラーもバカみたいにガンガンとか(アメリカ人のほうが基礎体温が高い、何ていいますけど、本当なんですかね?でも私が凍えていても、けろっとしているのがアメリカ人です)、そういうのがこの国の文化なんだから、部外者の私がやいやい言うことでもないんだろう、と思っていたので…。こうした活動、これからも広まるといいですね。今度はATに限らず、医療従事職の他分野のお仕事についても読んで学んでみようと思いまーす。

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  by supersy | 2017-02-20 23:00 | Athletic Training | Comments(0)

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