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2017年 02月 01日 ( 1 )

 

Globe Luxation - 目ん玉が飛び出たら、どうするか。

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先日、バスケットボールの試合中に選手の眼球が飛び出すというとんでもない怪我があり、話題になりましたね。そんな怪我どうやったら起こるの?動画を見たい、という方はこちらをどうぞ。見たくない方は再生しないでくださいね。
*今回、この動画以外にグロテスクな画像はこのブログに含まれていません。苦手な方も安心してお読みください。


この件に関して、学生やスタッフらとも、「目が飛び出したら…どうしたらいいんだと思う?」という議論になり、私を含め誰も正解を知らなかったので調べてみました。少しまとめてみます。

とにかく複数の文献で共通して言われているのが「滅多に起こる怪我じゃない」ということ。眼科医が長いキャリアで一度出会うか出会わないかくらいの発症率1らしく、今まで英語文献で発表された症例がたった34件しかないそうです。2 34件のデータを検証してみると、
 - 患者の男女比は4.7: 1
 - 原因は交通事故 52.9%, 転倒・落下 8.8%, 衝突 5.9%, 暴力・乱暴 5.9%, その他 26.5%
 - Traumaticな症例は若い患者に多く、多くは眼窩骨折を伴う(67.6%)
 - ほとんどが前方突出であるが、paranasal sinusesに向かって脱臼することもある
 - Unilateralのケースほうがbilateralよりも多い(全体の97%)
 - 最悪の合併症は視神経の断裂(=視力完全喪失, 全体の38.2%のケースで見られる)
 - 38.2%のケースでは視神経(optic nerve)に損傷が見られず、視力は回復している
 - 眼球そのものが無傷である場合、まずはreposition(修復、後で記述します)を試みたケースがほとんど(73.5%)で、機能、見た目、心理的な観点からこれが最も安定したアウトカムを生んでいる
 - 痛みが原因、もしくは患者の要望などで眼球摘出を行ったケースは5.9%
…だそうです。このsystematic review2 はなかなか面白かったので興味がある方にはおすすめします。視神経の断裂もですが、 外眼筋の裂傷を伴うことも、伴わないこともあるそうで。1それらの損傷の有無により、長期障害が出るか出ないかもケースバイケースになるわけですね。

受傷メカニズムの種類は大まかにわけて3つあり、1,3
Traumatic: スポーツなどで眼球に衝撃がかかるか、自転車・バイクでの転倒事故や交通事故などの急な減速によって起こる
Spontaneous: 生まれつき眼窩の造りが浅い人やFloppy eyelid syndrome(慢性乳頭結膜炎により上眼瞼が伸びきったゴムのように緩まり、少しの力で外翻・べろんと引っ繰り返すことができるようになっている状態。肥満体系の男性によくみられる)など、特定の疾患を持った患者はnon-traumatic, spontaneous(外からの力が加わることなく自発的・自然)に脱臼が起こり得る
Voluntary: oedipismという精神疾患の患者さんは自分の意志で自分の目を穿り出したりもするそうですぎゃーーーーーやめてーー。
Spontaneousなケースでいうと、瞼をつまんで動かしていた、力んでいた(valsalva maneuver)、麻酔下だった、4 コンタクトレンズを入れようとしていた5…などが今までの症例報告から浮かび上がる「脱臼を引き起こしやすい動作・要因」なんだそうで。

修復は「至ってシンプル」。患者に下を見るよう指導して、上瞼を掴んで持ち上げながら、人差し指で眼球上部を押し下げるように修復するんだそうで。6 うーん、いや、まあ、シンプルっていいますけど、そして修復は早いほうがいいようですけど、我々ATがやるのにはscopeを超えている、というか、訓練を積んでいる事柄ではないので、私はやっぱりこれはできないかな。眼球を乾かさないように何かで覆って、EMSが最も妥当かなぁと思います。

いくつか症例報告を読んだんですけど、中でも興味深かったものを。
1) 27才の男性、自転車から落ちて左眼球を前方脱臼。1 その一日後、激しい痛みと左の視力喪失で来院(つーか、なんで一日待つん?)。描写を読んでぐぇっとなったのが「眼球後方が閉じた瞼に挟まっている状態で」というやつで、記事には写真もついてるんですけど、この画像では眼球がかなりはっきりくっきり飛び出ています(後で読んで分かったのですが、眼球が前に飛び出すと、orbicularis・眼輪筋が反射的に収縮して結果、眼球をさらに前方突出させてしまうんだそう。で、瞼が後ろで閉まってしまって戻れなくなる、と)。緊急手術で顔面麻酔をして上記のように上瞼を前方に引っ張りながら、眼球を押して脱臼修復。千切れた眼筋を探すも、腫れが邪魔して見つけられず。一週間たって痛みは改善されたものの視力回復は望ましくなく、眼球の動きにも制限あり(abd以外はほとんと動かず)。CTスキャンで確認すると視神経の断裂が確認でき、筋肉の損傷も激しかったことから、視力と眼球運動の回復は見込めないことを患者に伝えた…と。

2) 46才のCOPD患者が病院に入院中、両眼球を脱臼。3 聞けば以前(過去4-5年)にも脱臼をしたことが数回あり、決まってCOPDの症状が悪化しているときに起きるのだという。上記と同じく、上瞼を引っ張り上げながら押し下げて修復。しかし、ICUに入院中、2時間に一回という割合でその後も脱臼を起こし続けたのだとか。5-6回目くらいにこりゃかわなんと、やむなく瞼板縫合を行ったが、その後患者はCOPDの合併症で入院から3日後に亡くなったそう。2時間毎って…壮絶だ。著者は「(COPDの影響で)上がっていた胸郭内のプレッシャーが眼窩内のプレッシャーも押し上げる形になり、さらにこの患者の場合は既に弛緩していた眼筋・靭帯もあってこれだけ脱臼を起こし成すくなっていたのだろう」と考察しています。

3) 5歳の子供がバイクと接触する交通事故で病院へ。2 左の眼球脱臼と目の周りに激しい裂傷あり、視力喪失。CTにより視神経のavulsionと眼窩の外側壁・上壁の骨折が認められる。手術によって骨折部と裂傷、脱臼の修復が行われる。一か月後、目のわずかな突出あり、視力喪失、眼球運動も制限あり。3ヶ月たっても痛みが取れなかったのと、患者のコスメティックな希望により、眼球摘出の手術を行い義眼を入れた。

などなど…他を書いてもきりがないのでこれくらいにしておきますが、いやー、見ているだけで、こう…。しんどい記事ばっかりでした。調べてみたのですが、スポーツの現場でこの怪我が起きた場合にはこう対処すべし!というガイドラインは見つけられませんでした。やっぱり症例数が少ないですもんね。修復方は確かにそれほど複雑には聞こえません。しかし、くどいですが我々はその専門訓練を積んでいませんし、骨折、筋肉や視神経の断裂などの複雑なcomplicationが起こっている可能性があることも考えれば、我々が安易に修復を試みるより、眼球を保護して救急車、という対処法が一番真っ当ではないかと思います。もし他の救急対応をご存知の方がいましたら、ぜひ教えてくださいー。

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さて、冒頭の選手ですが、上のツイートにあるように幸運にも視神経の損傷はなく、視力にはどうやら問題はなさそうです。筋肉も無事で、眼球運動も問題ありませんように!もう二度とこんな怪我をしなくてすむよう回復することを祈っております。

1. Kumari E, Chakraborty S, Ray B. Traumatic globe luxation: A case report. Indian J Ophthalmol. 2015;63(8):682-684. doi: 10.4103/0301-4738.169795.
2. Amaral MB, Carvalho MF, Ferreira AB, Mesquita RA. Traumatic globe luxation associated with orbital fracture in a child: a case report and literature review. J Maxillofac Oral Surg. 2015;14(Suppl 1):323-330. doi: 10.1007/s12663-013-0539-y.
3. Kumar MA, Srikanth K, Pandurangan R. Spontaneous globe luxation associated with chronic obstructive pulmonary disease. Indian J Ophthalmol. 2012;60(4):324-325. doi: 10.4103/0301-4738.98720.
4. Clendenen SR, Kostick DA. Ocular globe luxation under general anesthesia. Anesth Analg. 2008;107(5):1630-1631. doi: 10.1213/ane.0b013e3181839262.
5. Kunesh JC, Katz SE. Spontaneous globe luxation associated with contact lens placement. CLAO J. 2002;28(1):2-4.
6. Tse DT. A simple maneuver to reposit a subluxed globe. Arch Ophthalmol. 2000;118(3):410-411.

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  by supersy | 2017-02-01 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

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