初めてのJersey Finger。

金曜日のFootballの試合中でのこと。うちのATSが、“選手が指曲げられないって言ってる”
と、言うので、ほいほい、私が見ますよと取って代わりました。
ざわ、と嫌な予感。このテの予感はここ一年大体当たる。
選手の顔を見て、まず思ったのは、彼はちょっとしたことで大騒ぎするタイプではない。
痛みに顔をしかめているわけではない→恐らく骨折や脱臼の類ではない。この条件下で
“指が曲げられない”というのがchief complaintとなってくると、うーむ、アレだろうか。

Evalの結果、この予測が嬉しいやら悲しいやら見事的中。
痛みこそ全く無いものの、薬指のDIPが曲がらない
そうですアレです。FDP断裂。俗に言う“Jersey Finger(↓)”ってやつです。
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指を全部曲げようとしてもこう(↑)とかこう(↑)とかにしかならないんですよね。
実物を見たのは初めてだったけれど、あまりに教科書通りなのですぽーんと分かりました。
ぬおぉぉぉ、と思ってTeam Physicianに相談して、“あー、だね”と、ひと目で彼女も納得。

jerseyとはジャージのこと。というのも、一番のcommon mechanismが、
“フットボールでタックル時に相手のジャージを掴み、そのまま指を取られて腱が切れる”
だから、Jersey Finger。今回のMOIもまさにコレ。ジャージ掴んで、ばちーん。
Arnheimには“ほとんどのケースは薬指”と書いていますが、これもその通り。
薄利骨折を伴う場合もありますが、幸い今回これだけは免れました。ふぅ。

簡単に解剖学の視点からこの怪我を見てみたいと思います。
ヒトは生活をしていく中で、モノを掴んだり離したり、様々なコトをしますよね。
チカラ加減も動かし具合も絶妙なコントロールができてこそ、それらが実現可能なわけです。
この正確なfine movementを生み出すために、手の中には腱たちが沢山走っているのです。
中でも注目なのが、Flexor Digitorum Profundus(FDP)とFlexor Digitorum Superficialis(FDS)。
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FDP(左上)もFDS(右上)も、“親指以外の四本の指を曲げる”という機能を担っています。
一見ほとんど同じように見えるこの筋肉、
実はdistalの腱になっている部分をよーく辿って見てみると…。
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FDPの腱はDIP joint(遠位指節間関節、所謂指の“第一関節”)まで降りているのに対し、FDSはPIP joint(近位指節間関節、同じく“第二関節”)で止まっているのがお分かりでしょうか?
つまり、FDPが筋収縮を起こしたときに、動きが生まれるのはDIP joint。
第一関節を曲げる、のです。同様に、FDSは第二関節のみを曲げることになります。
同じ“指を曲げる”機能でも、曲げている関節が違うんです。

さて、これをふまえて。このJersey Fingerという怪我は、FDPの断裂です。
一番上の写真にあったように、PIPは曲げられるけどDIPが曲げられないという症状が出ます。
ここまで読んでくれた皆さんならもうお分かりのように、FDSはintactだからPIPが動かせて、
FDPがdetachしてしまっているからDIPが全く動かない、という状況なわけです。
意外とシンプルでしょう?

※この記事を書きながら、“何でFDSではなくFDPの断裂が圧倒的に多いのだろう?”とか、
 “何でほとんどの場合は4th finger(薬指)なんだろう?”とか、疑問は幾つか
 出てきたのですが、恐らくその答えはbiomechanics的なものだったりするんだろうなと
 妙に納得していたりして、つまるところそこまで調べ上げる元気はないので
 ドツボにハマる前にやめておきます。

さて、問題はこの処置です。
とりあえず痛みが全くなかったのが不幸中の幸い。body tapeをして試合を続けたものの…。
MRI取らないといけないよなぁ。医者に見せる必要のある、ちょっと大きな怪我です。
怪我が起こってしまったのは金曜日の夜だから、アポを取るにしても月曜日の朝イチ。
(個人的に、だから金曜日の夜に試合のある高校のフットボールは嫌いです)
私はこのタイプの怪我は手術をする、というのがthe only treatment planだと思っていましたから、この先どうするんだろうと週末ずっと悩んでいました。彼はSenior。恐らく大学からも声がかかるであろうプレイヤー。このシーズン丸々を棒に振ってはそれもナシになってしまう…。指が一本曲げられない、という症状以外支障はないのだし(これも十分支障はあるけれど、Linemanとしては致命的なダメージとは思えない)、シーズンをプレーするだけしてその後手術、みたいに待つこともできるんだろうか…。うーむ、でも千切れた腱はそのままになってしまうわけだしそこらへんはどうしたら…。
ああ、プレーを続けたせいでtorn tendonがより落ちてしまった可能性もあったりして…。
ううぅむむむ…。
と、悶々と考えていたわけなんですけれど。
悩んでもここは専門家に任せるしかない。餅は餅屋、手の怪我は手のスペシャリストへ。

アポ取りはスムーズに行き、無事に月曜の朝にHand specialistのお医者さんへ診せに
行くことが出来て、夕方の練習前に彼がATRへ来てくれたので結果を聞いてみました。

“お医者さんなんて?”
“Syの言ったとおりだった、FDPとかの断裂って”
“Flexor Digitorum Profundusだね”
“そう、なんかそんな感じの”

やっぱりそうかー。いや、そうだと思っていたけど、そうじゃないといいななんて思っていて。

“お医者さん手術とか言ってた?”
“手術はしない、だって手術するとなると…”
“12週間くらいかかるよねぇ”
“うん、10-12週間って言われた。シーズン棒に振ることになるから…それはしない”
やはり、彼も親御さんも、大学のAthletic Scholarshipがかかっているから
このままプレーを続けるという決断をしたそうです。

“ただこの指が一生曲げられないってだけでさ、別に平気だよ”
と、彼は言ってみせたけど、その言葉尻がどこか哀しいような気がして、
そうだよなぁ、そんなに大きなことじゃなくても、何か“一生出来なくなる”ってちょっと辛いよなぁ、とこっちもちょっとやるせない気持ちになりました。でも、これがきっと彼にとって一番な道。
大学フットボールにかけられる高校最後の一年は、今しかない。
大学でプレーしてたらどんなだったかなぁと、オトナになってから後悔させるよりこっちのほうが
きっと良いと思うのです。自分も昔スポーツに人生をかけてきた身なのでそう思います。

よし、じゃあ、出来る限りの治療をして、この手と付き合って頑張っていこう!
と励まして、とりあえずsoreはiceで治療、それからGrip strengthを強くすること、
を目標にやっていくことにしました。

調べてみたら、手術をして切れた腱をくっつける、という以外にもそれなりに方法はあるようです。
1. 何もしない。
 指は曲げられないまま。
 断裂した腱がそのまま手に残っているため、掌の痛みが消えない可能性も。
 また、炎症がchronicで起きてしまうとCarpal tunnel syndromeを起こしやすくなる。
 
2. 断裂した腱を切って取り除く
 指は曲げられないまま。
 痛み、炎症は上よりは防げる可能性大。

3. DIPをfuseさせてしまう
 つまりは第一関節を全く動かないように結合。当然指は曲がらない。
 6週間のスプリントを必要とする。
 腱はそのままなので、掌の痛み、炎症の可能性は1同様起こり得る。

3は何がいいの?と思ってしまうのですが、これから彼が恐らくするであろうのは、1と2のコンビネーション。とりあえずシーズンが終わるまでは何もせず、終わってから2をやる、ような感じになりそうです。Carpal tunnelだけは避けねば。これからも彼の手をしっかり見ておこう!
怪我と上手く付き合っていく、というのも、ATCの大事な役目だと思います。
私たちは超能力者じゃありませんから、何かを奇跡的に治すことなどできない。
できるのは、治癒に理想的な環境を創り出すこと。治癒が無理ならば、それと上手く付き合えるようヒトを導いていくこと。今回私に求められているのは後者です。彼の将来のためにもできることをしていこうと思います。頑張れ、戦う高校生。おねいさんもついてるさー。
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  by supersy | 2008-09-08 22:30 | Athletic Training | Comments(5)

Commented by カツ at 2008-09-09 22:51 x
人間って薬指の力が他の指に比べて格段に弱いんですが、確か筋肉だか腱だかが独立してないのが原因と聞いたような・・・。Jersey Fingerは薬指のケースが多いのも同じようなことが原因なんですかね。
Commented by さゆり at 2008-09-10 10:23 x
それについてはちょっとだけ前のBlogで触れたことがあります。
名前のところ(↑)にリンクを張っておくのでお時間があればどうぞ。
筋力が弱い→腱を引っ張る力も弱い→他に比べて腱の弾力性が鍛えられない→つまりは他に比べて弱くなる、という公式は何となくイメージがつきますね。時間があればJersey FingerのArticleでも読み込んでみたいです。
Commented by MABO at 2008-09-10 14:06 x
一生曲げれなくなるとは…。
防ぐ方法ってあるんですか?
Commented by カツ at 2008-09-11 06:43 x
ブログのリンクありがとございます。
なるほど~。こういう風になってたわけなんですね。参考になりました。
ところでさ、Jersey Fingerが中指で起こっちゃうと危険な図になるね(笑)
Commented by さゆり at 2008-09-28 22:42 x
>MABO
ん?Jersey Fingerの予防法?それともtendonがruptureしたときにpermanent disabilityを防ぐ方法?Jersey fingerの予防自体はtraumaticすぎて考えにくいし、今回のように手術をしないオプションをとった場合腱が切れたままなのだから曲げられないのはどうしようもないよね。

>カツさん
ははは、それ、私も思っておりました!

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