Orbital Floor Fracture。

ぶはは。もう笑いたくなっちゃいます。
今日も指のDislocationがひとり出ました。慣れたもんで、もう一発で入れられました。
練習が終わってからHead coachに“今日も指が出たんだって?”と聞かれたので、
“はい、お陰さまでもうすっかりプロです”と答えたらコーチも笑ってました。
いやいや、こんな脱臼の叩き売りセールされても嬉しかありません。願わくばこれが最後でありますように。しかしHawthorneでは1回もなかったのに、Buchholzに来て一週間くらいで3回なんて。何ていうか、怪我って起きるときは同じもんがどどっと起きたりするから怖いですね!

さて。今日はOrbital Floor Fractureについて書きたいと思います。
日本に帰って高校の友人と会っていたときに、彼がつい最近この怪我をして入院・手術していた
と言うのでびっくりしました。そういえばこの怪我についてあんまり知らないかも…と思ったので
これを機会にまとめておきます。(ちなみにその友人は後遺症もなくもうすっかり元気です)
Orbital=眼の、Floor=床、Fracture=骨折というその意味の通り眼の周辺に起こる骨折。
日本語では眼底骨折と言う人が多いですが、正しくは眼窩底(がんかてい)骨折だそうです。
Blowout Fracture(日本語では同様に“吹き抜け骨折”)という別名もありますが、
これはこの怪我のMOIに起因します。
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怪我の説明に入る前に、まずは簡単なEye Anatomyから。
頭蓋骨(↑)を想像してもらえば分かるのですが、眼球の周辺というのはぽっかりと空洞になっています。その中に眼球があり、目を動かす筋肉たちがそれを包み、さらにその後方から神経が出ているという、トンネルの中を走るような構造になっています。

この時、眼球に対して直接前方からボールがぶつかる、ヒトの拳がぶつかる等して衝撃が加わったとしたらどうなるでしょう。Compression forceを受けた眼球は後方に押され、眼球後方の圧力(intraorbital pressure)が急激に上昇し、その衝撃はトンネルの壁--つまりはwalls of the orbitへtransmitされることになります。頭蓋骨というと強固なイメージがあるかも知れませんが---そしてそれは大部分事実なのですが---眼球を包むトンネルのうち、上と外側の壁はしっかりしているものの、内側と下の壁は紙のように薄い骨でできています。指で摘んで少しチカラをかければ壊れてしまうような脆さです。なので、逃げ場を失ったその衝撃は必然的に一番脆い骨を突き破ってしまうことになります。
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ボールがぶつかって、眼球が押されて、圧力が上がって、骨がぱりゃっと折れる。
チカラが眼の周辺の構造を吹き抜けていく感じ。だから、Blowout。この一連のイメージ沸きます?

理論的には、medial wall骨折のほうがfloor骨折よりも頻度が多くあるべきだそうなんです。
と言うのも、medial wallは0.25mm、floorは0.50mmと、ごく僅かながら薄さに違いがあるからです。
でも、実際に一番多いのはFloor fracture
これは恐らくethmoid sinusesにある無数の蜂の巣状になったseptumがextra supportとしてmedial wallを支える役割を果たしている分、結果としてfloorより急激な圧力の変化に耐えられるのではと言われています。そんなわけで、Isolated floor fracture、もしくはfloorとmedial wallの両方のfractureは良く起こりますが、Isolated medial wall fracutreは非常に稀だそうです。

症状としては目がかすんだり物が二重に見えたりなどといった視覚異常が出たり、Floor内部を通るsensory nerveに損傷が起きてしまうと目のすぐ下の頬の部分や、上の歯茎がnumbになったりすることも。こういうときに鼻をかむなどして余計に目の周辺に圧力をかけてしまうと毛細血管を損傷してしまう原因となり、目から出血したり、瞼に腫れが出たりします。
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それだけではありません。実はもっと厄介なのは骨折によるmuscleのentrapment。上の写真はBlowout Fractureのレントゲン写真ですが、黒い矢印が骨折を起こしたOrbital Floor、そして白い矢印が指しているInferior rectus muscleが骨折によってmaxillary sinusに落ちてしまった形になり、挟まって動けなくなっている様子が映し出されています。こういう風に眼の筋肉がentrapされてしまうと、当然その分眼球の動きが制限されてしまい、例えばこのケースなら“Restriction in upward and downward gaze & diplopia when trying to look in these directions”が起こり得るというわけです。

こういう骨折をしてしまった場合、手術をして治すしか方法はありません。
でも、手術をいつするか、というのは医者によっても色々意見の分かれるところのようです。
特に整形外科の手術に多いですけど、敢えて少し待って、腫れが引いてからのほうが後の経過が順調になる、ってケースも実はよくあるんですよね。fibrosisやcontractureを防ぐためには2週間以内には絶対、というwindowがあるみたいですが、あとは骨折の程度、筋肉の挟まれ具合などから考えてスケジュールを決めていくようです。私としては、モノがマトモに見られないと気持ち悪いんで、感覚器が関わる手術はなるべく早くやったほうがいいんじゃ、なんて思っちゃうんですけどね(患者が小さなコドモの場合、視覚異常の影響で吐き気を訴えるケースもよくあるそうで、その場合はなるべく早くに手術をするみたいです)。

もっとしっかり壁の骨を厚くしておけばいいのに、と思うヒトもいるかもしれませんが、
いやいやいや、これが、こういうところこそが人体の神秘だと思うのです。
だって、こういった衝撃が眼にかかったときに、液圧という媒介を通してチカラを他に流し、
眼球そのものにダメージを受けないようにしている。もしがっつり硬いトンネルで囲まれていたら、モロに眼球が潰れてしまうことになるでしょう。敢えて脆い骨を作り、いざというときにはそこからチカラが逃げられるように計算されている…と考えると、ううむ、実に人体とは不思議に満ちていると思うのです。

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さて。現在フロリダ南部に大きなTropical Stormが近づいてきています。
その名はTropical Storm Fay。ハイチやドミニカ共和国で既に5人の死者を出している大型熱帯低気圧です。ハイチで起こったバス事故が一部の報道通りこのFayを原因とするものならば、その被害者は30人を超えることになります。あと数日でGville付近を直撃するとかしないとか、ちょっとした騒ぎになっていますが、個人的にはここに来る頃には大部弱まっているんじゃないのとか、楽観視してますけど…どうなんでしょう。今日は自動車保険の会社からもalertのメールが来ました。Buchholzは普通にそのまま今のところ授業もあるみたいですが、Countyによっては休校になったところも。まぁ、こればっかりは天に祈っておくことにします。
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  by supersy | 2008-08-18 21:00 | Athletic Training | Comments(3)

Commented by かや at 2008-08-19 21:23 x
連チャンで指の脱臼!?
これまで皆無だったのに,いきなり3症例・・・ある意味すごいね! お疲れ様です。
でも,単純な脱臼で良かったね。指は折れやすいので,併発してたらやっかいだし。
それにしても,何で指の脱臼が続いたのかなぁ? 予防対策って何かアイデアある?

眼科底骨折はボクシングやK1なんかの格闘技でもよく見られるよね。殴られて目をぷっくらはらしているとたいがいいってるかな!?
それにしても篩骨蜂巣に見られるハニカム構造はホントに強くて,飛行機の壁(羽根?)なんかにも応用されているよね(段ボールもその一種だったかな?)。
Commented by さゆり at 2008-08-22 09:12 x
予防はまずないんじゃないかと思います。Linemanならガチガチに指をテープ等で固めてもいいかと思いますが、WRとかではプレーに支障が出ますしね。怪我が続いたのは運が悪かったのだろうと思いますが、チカラのかかる方向、強さ…やっぱりランダムすぎて予防は難しいと思います。実際3回のうち、lateral1回、 posterior2回と方向ばらばらでしたしねぇ。
ハニカム構造っていうんですか、名前がいいですね(笑)。あっ、でも確かにダンボールの内部ってそうかも!蜂もあったまいいなぁー。
Commented by かや at 2008-08-23 09:03 x
WR・・・ 確かにテープ類はちょっときついね。
スキルアップしてもらうのと,運を付けてもらうしかないね。

蜂巣(ほうそう)構造(ハニカム構造)だと,薄い材質で(つまり軽い)高い強度を得られるみたいね。 ほんとにハチはすごい!

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