心臓震盪と心挫傷。

母からのメールをきっかけに何となくネットで調べ物をしていたら、
ちょっと面白いことを見つけてしまいました。ので、今日はその話でも。

脳震盪(のうしんとう)って、皆さんにとってたまに耳にする、
わりかしfamiliarなコトバだと思うんですけど、心臓震盪という言葉は聞いたことありますか?

b0112009_11383776.jpg英語ではCommotio Cordisと呼ばれるこの症状、Athletic Trainerである私はもちろん授業で習ったことがあるのですが、実は私、Myocardial Contusion (Heart Contusion)の症状の現れ方のひとつだと思っていました。要は、心臓のContusionをしたときに震盪を起こして心停止する可能性がある、という風に理解していたんです。
実際のメカニズムはほとんどこれで合っているんですが、実は上の文章の書き方では間違いなんですね。と言うのも、調べてみたらどうやらCommotio CordisとMyocardial Contusionでは明確な違いがあるそう。うーむ新発見!

まず、冒頭の“心臓震盪”の説明からいきましょう。
英語名のCommotio Cordisは元はラテン語で、
“commotion of the heart(心臓の動揺・騒擾)という意味。文字通り、
心臓の鼓動に突然の乱れが起こり、死に至ることもある非常に稀ながらも危険な怪我です。
原因となるのは”a blunt, non-penetrating impact to the precordial region”
――つまり、鈍い(突き刺さったり中をえぐるようなタイプのForceではなく、どすっという鈍い感じ)、前胸部表面への衝撃。野球のボールやホッケーのパックが胸を直撃したり、ベンチプレス中にバーを自分の胸の上に落としてしまったりなどした時に、前胸部に受けた強い衝撃が心筋に伝道することによって起こります。当然このMOIから言えば、殴られるor交通事故に遭うor高いところから落ちる等でも起こりうるわけですが、統計的にはやはりスポーツ中、特に若い人の間に起こりやすいと言われています。
この衝撃が運悪くある特定のタイミングで心筋に到達すると、心臓のelectrical activityが乱れを起こし、arrhythmia(不整脈)、ventricular tachycardia(心室頻拍=>100 beats per minの異常に速い脈)、ventricular fibrillation(心室細動=心室の細かい不規則な震え)等を引き起こして心機能が停止し、結果Heart beatが止まり、CPR/AED等の適切な措置無しではまず患者は死亡してしまうことになります。いや、AED使ったって蘇生はそんなに簡単なことじゃないんですが。

…なんて書くとすごい怖いですよね。頼むよ心臓っ!って思いません?
もちろん上記のことは事実なんですけれど、それでも忘れてはいけないのが、
先に言ったようにこれが非常に稀なconditionである、ということ。心臓は強靭な組織ですし、周囲の骨や筋肉に守られていますからそうそうcollapseすることはありません。
私だって幸いなことに今のところコレを生で見たことはありませんしね。

そう、つまーり。逆に言うと。
特定の条件たちがぴったり揃ってしまったときに、心臓震盪が発生する可能性が跳ね上がる
ことになります。この発生率は、実は以下の要素たちに大きく左右されます。

 ・衝撃のかかる場所、角度
   もちろん心臓から少し離れたところに衝撃を喰らうより、
   じかに当たったほうが危険性が高い。角度も同じくです。
 ・Total applied energy
   物体とカラダが衝突したときに、接触面に対してどれだけのエネルギーで
   ぶつかってきたのか。当然、接触面が大きければ力は分散しやすいですし、
   小さければその接触面にかかるエネルギーは強大なものになります。
   成人に置いて心停止を引き起こすには、最低50ジュールのエネルギーが必要。
   ホッケーのパックやラクロスのボールで130ジュール、
   空手等のパンチで450ジュール、それからここまで行くと完全に蛇足ですが、
   かの有名なボクサー・Rocky Marcianoのパンチは1028ジュールもあるそう。
 ・タイミング
   心臓はどくどくbeatを刻んでいく中で、収縮してリラックスして、というサイクルを
   繰り返していますが、このCardiac cycleの中で実はほんのわずかな短い時間だけ、
   心臓が衝撃に対して非常にvulnerableになるんです。タイミング悪く丁度そのときに
   ぼこっと何かを喰らってしまうと、心臓のelectrical activityに大いに乱れが出る
   ことになります。

最初の二つは物理学的に考えれば問題なく分かると思うのですが、
みっつめのタイミングに関してもうちょっと踏み込んで説明していきましょう。
b0112009_22495589.jpg

上の図は、心臓の断面図と心臓の通常のelectrical activity、つまり心電図を示したものです。線の上がり下がりは“wave”と呼ばれ、最初の部分・P-waveはatria(心房)の活動を、
Q, R, & S-waves(まとめてQRS-complexと呼ばれます)はventricles(心室)の収縮を、
T-waveはrepolarizationと呼ばれる心室のelectrical recoveryをそれぞれ表しています。
b0112009_2331813.jpg
この特別なvulnerable windowは図(←)の青い部分、T-waveの上昇部分に存在します。丁度systole(心室収縮期)からdiastole(心室拡張期)の移行が行なわれている、時間にして10-30 millisecond(0.01~0.03秒)というほんのわずかなperiodです。
これだけwindowが狭い、というのが発生率の低さの理由となる大きな要素になっています。cardiac cycleまるごと一回分(心房収縮→心室収縮→リカバリー)は約1秒に相当しますが、心臓震盪が起きるためにmechanical traumaがwindow内に起こる可能性は単純計算で0.01~0.03 sec/1 sec、つまり確率で言ったら1~3%ほどにしかなりません。
人生で何回、人は前胸部に強い衝撃を受けるでしょうか?
特定の場所に、特定の角度で、特定のエネルギーを持った物体がどんぴしゃで飛んできて、
しかも身体をひねって避ける暇もない、なんてことがですよ、一体何回起きるでしょう?
単純に考えてそういう衝撃を100回受けたとして初めて、1~3回の危険性が出てくる、そういうもんなんです。私だってほら、人生ここまで結構activeに生きてきましたけど、そんなこと1・2回あったかなかったか。この計算だと100回目の打撃を喰らう頃には、1200才くらいになってるかな?
非常に稀、と色んな文献で繰り返されるのも納得ですよね。

同時に、先にスポーツ中に多いと強調した理由もここで見えてくるハズです。
ボールなんかが飛び交う環境にいれば、単純に衝撃を喰らう可能性が上がるというのも
もちろんそうなんですが、それ以上に、運動中って心拍数が上がりますよね。
例えば120 beats per minuteまで上がったとしましょう。そうするとwindowのサイズはほとんど変わらないのに比べ、cardiac cycle自体は一回が0.5秒に縮まるわけですから、0.01~0.03sec /0.5secで、この場合、発生率は2倍に跳ね上がります。
それだって、稀なことには変わりないんですけど、ね。

さてさて、では心臓震盪はこのくらいにして、次はMyocardial contusionについて。
Commotio Cordisに対応して、Contusio Cordisという名前もあるようですが
(ラテン語でcontusion of the heartの意味、つまり心臓の打撲です)、
これですね、心臓震盪との違いをスパっと説明してしまうには、日本語で説明すると分かりやすいんです。Myocardial contusionの日本語名は、心挫傷(しんざしょう)。
心臓震盪が、心臓そのものの構造には全く外傷が無く、直接electrical activityに影響が出るのに比べて、心挫傷では心臓が実際にbruise(挫傷)を起こし、tissue damageが起きている、というのが最大の違いです。
心電が狂ってぶるぶるしてしまうのが心臓震盪、心筋が挫傷を起こすのが心挫傷。
そう、こんな風に日本語にしてみるとアタリマエで一目瞭然なんですけど、
今まで恥ずかしながら知りませんでした。
b0112009_0545561.jpg←図は健康な心臓(左)と、Bruiseした心臓(右)。このtissue damageは、胸部に強い衝撃が加わった場合に、胸骨と胸椎に心臓が挟まれ、圧迫されることによって起こります。構造上、最も怪我をしやすいのは右心室だそう。丁度挟まれてますもんね。
それでも損傷がひどすぎなければ心臓が通常の機能を保てることもあるのですが、チカラがあまりに強いとaorta(大動脈)が破裂してしまうこともあり、こうなると一気に命に関わる状況になってきます。当然心臓震盪のときに話題にしたelectrical upsetも起こりえますし、それ意外にも心筋の一部が死亡してしまうと、その後一生、心臓の収縮力が低下した状態になってしまうことも。

そんなわけで今日も長々と書いてしまったんですけど、
個人的にはvulnerable windowなるものが存在するっていうのが非常に興味深かったです。本当は何故そのときに弱くなるのかを突っ込んで調べてみたい気もしますが、
そうするとかなりまた時間がかかってしまいそうなので、とりあえず今回はやめておきます。
repolizeしようとしてた電気が衝撃でどっかに逃げちゃったりするのかなー。

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My Study RoomAnatomy Picturesを追加しました。
一般の方の好みには全く合わないと思いますが、人体大好きなAT関係の方はどうぞ!
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  by supersy | 2007-07-29 23:59 | Athletic Training | Comments(7)

Commented by 慶太郎 at 2007-07-31 06:43 x
ども。オレもCommotio Cordisについてリサーチペーパー書いたよ。
心電図つけた豚にバッティングマシーンで球当てて、どのタイミングで心臓止まるか、っていうリサーチも中にはあってさ。
興味深かったからペーパーが苦にならなかったな。ちょっとおもしろいよね。
Commented by さゆり at 2007-07-31 14:36 x
このトピックは久しぶりにビリビリきました。めちゃめちゃ面白かった!もう2歩くらい突っ込んで勉強してみたいと思わされました。そうそう、動物実験を昔重ねた、という話はあちこちで見かけましたね。想像するとむごいけど、そのお陰で今のこの理解があるわけなんですよね。細胞レベルで何が起きてるかはマダマダ研究中らしいので、目を離せないトピックですねぇー。
Commented by kohira at 2007-07-31 15:14 x
こんにちは、ご無沙汰です。
心臓震盪、ちらほらニュースでも聞きますよ。AEDで助かったってのも。
予防用のパッドが発売されているみたいです。

そうそう、完全に出遅れましたが最近まともに書き始めたんで
リンク貼らせてもらっていいですか??
Commented by カツ at 2007-07-31 22:11 x
昔、サッカーやってた頃に、キーパーがシュートされたボールを手で受ける代わりに、抱き込むように胸で受けたことがあったんですよ。1~2秒後に目を剥いてぶっ倒れたんですが、あれは心臓震盪だったんしょうねぇ?救急車が来て彼は無事に復活しましたが。
Commented by さゆり at 2007-08-02 15:15 x
>Kohiraさん
お久しぶりです!スポーツ例としてはやっぱり野球が多いんでしょうか、パッドを作るだけの価値はありそうですよね。
リンクの件はもちろんOKです!私も近々リンクをまたいじりますので、そのときに是非加えさせていただきますね。

>カツさん
目を剥いてぶっ倒れたというと脳震盪っぽいので、もしかしたら胸→頭に衝撃がいった可能性も考えられますね。どっちにしても、体の芯の怪我は怖いです。。。無事で何よりでした。
Commented by kohira at 2007-08-02 16:55 x
ありがとうございます。
やはり競技は野球が多いですね。
パッドはこんな感じです↓
http://senichi-ad.worldtimes.co.jp/release/2007/04/post_43.html
http://shop-world-japan.upper.jp/
Commented by さゆり at 2007-08-03 13:53 x
ありがとうございます!時間のあるときに覗いてみますね。

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