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キツツキは脳振盪にこそならないが、長期的に脳のダメージは蓄積している可能性がある。

ひゃー面白い論文が出ましたね!2月2日発表なのでつい4日前ですよ!

以前「キツツキは何故脳振盪にならないのか、フクロウの頸動脈は何故切れないのか」という話を書いたことがありましたが、今回は「キツツキは脳振盪にこそならないものの、頭をぶつけることで起こる長期的な脳の進行性委縮の徴候が見られるのではないか?」という可能性を示唆した論文1 を紹介したいと思います。全文無料(オープンアクセス)なので、読みたい方は是非どうぞ。
キツツキは脳振盪にこそならないが、長期的に脳のダメージは蓄積している可能性がある。_b0112009_07554580.png
Boston UniversityはBrain Bankがあり、CTEの研究が盛んなことで有名2 ですが、まさかこういう人間以外をサンプルに使った動物実験もしているとは…!以前にいかにキツツキの頭蓋骨の造りが人間のそれと異なり、それによって効果的に脳を守れているか、そしていかに脳振盪を防げているか(ついでにいかに我々がそれらを応用したより安全なヘルメットを作ろうとしているか…)3 という話をまとめたのでこちらは割愛しますが、「キツツキは木をつついても脳の損傷はないみたいです」とハッキリ断言した論文は、実は1976年にひとつ5 発表されたっきりなんだそうです。今回の論文の著者に言わせれば細胞レベルの分析もあやふやで、信憑性に欠けるという厳しい指摘をしており、科学の進んだ今、より詳しい方法で脳の損傷が起こっていないことをしっかり確認しましょうよ、というのがこの論文の目的です。

2018年現在、CTEの診断に最も強く結び付けられている診察的所見は死後患者の脳を検死解剖し、染色することによって確認できるFocal accumulations of tau protein (局所的なタウ蛋白の蓄積)なのですが4、今回の実験での検証方法もそれに沿っており至ってシンプル。木をつつく習性のある10羽のキツツキ(実験群)と木をつつく習性の無い10羽の木をつつかないハゴロモガラス(コントロール群、英名 Red-Winged Black Birds、カラスという名前ですが種類としてはスズメのほうに近いらしい)の脳を取り出して染色し、その細胞を分析した、というものです。
キツツキは脳振盪にこそならないが、長期的に脳のダメージは蓄積している可能性がある。_b0112009_08574797.png
結果、軸索損傷の指針となるGallayas silver stainはキツツキの10羽中8羽に確認された一方で、ハゴロモガラスは5羽中1羽も変色が見られなかったとのこと(p.6にはn = 10とありますが、前後の文章と合わないのでn = 5の誤植なのではと推測します)。80% vs 0%という圧倒的な数字ですね。タウ蛋白の染色は少し残念なことが起こっていて、この分析のためのハゴロモガラスの脳は先ほどと同じ5羽分用意されたそうなんですが、キツツキの脳の保存状態が悪く、3羽分の脳でしかこの実験を行えなかったそう。そんなわけで制限はありながらですが、タウ蛋白の染色によってその蓄積が確認ハゴロモガラスは5羽中0羽、キツツキは3羽中2羽に確認できたそうです。限られたサンプルですが、パーセンテージにすると66.7% vs 0%ですね。まとめると、こんな感じ。

Gallayas silver stain woodpeckers 8/10 (80.0%) vs red-winged black birds 0/5 (0%)
Tau accumulation woodpeckers 2/3 (66.7%) vs red-winged black birds 0/5 (0%)

そんなわけでこの論文の結論は「キツツキの木をつつく習性とタウ蛋白蓄積の関係性が認められる」というものでしたが、それを少しばかり飛躍させると「キツツキは(脳振盪こそ起こさないかもしれないが)、長期に渡って木をつつくことで、キツツキも自覚症状がないレベルで脳の病理的変化、委縮が進んでいる」「sub-concussive forceの蓄積が、CTEにつながるという人間に見られる現象がキツツキにも起こっているかも」ということまでも言えるかもしれません。もちろん、それを断言するにはあまりに少ないサンプル数で、バイアスがある可能性は否定できませんが。どちらにしても、非常に興味深い研究です。続報を待ちたいです!

1. Farah G, Siwek D, Cummings P. Tau accumulations in the brains of woodpeckers. PLoS ONE. 2018;13(2):e0191526. doi: 10.17605/osf.io/cvupw.
2. Mez J, Daneshvar DH, Kiernan PT, et al. Clinicopathological evaluation of chronic traumatic encephalopathy in players of american football. JAMA. 2017;318(4):360-370. doi: 10.1001/jama.2017.8334.
3. Gibson LJ. Woodpecker pecking: how woodpeckers avoid brain injury. J Zoo. 2006;270(3):462-465.
4. Traumatic Brain Injury Resource Page. National Institute of Neurological Disorders and Stroke. 2017. Available from: https://www.ninds.nih.gov/Disorders/All-Disorders/Traumatic-Brain-Injury-InformationPage.
5. May PR, Fuster JM, Newman P, Hirschman A. Woodpeckers and head injury. Lancet. 1976;1(7957):454-455.

  by supersy | 2018-02-06 22:00 | Athletic Training

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