寝る子は育つ?睡眠時間を延長すると、アスレティック・パフォーマンスは向上するか。その2。

続きです。

色々読んでいると、とにかく「エリートアスリートは睡眠の質が低い」ということが一般的に過去の研究で示されているようですね。オリンピック選手は(age- and sex-matched non-athlete controlと比較して)夜目を覚ます頻度が多く、総合的に効率の悪い眠りを取っている1、とか、オーストラリアの様々な協議のプロスポーツ選手(6.8±1.1時間)、中でもAustralian Football League (AFL)の選手ら(6.7±1.2時間)は2、National Sleep Foundationが成人に推奨する睡眠時間(7-9時間)3に満たない、とか。

そんで、6週間の睡眠介入でAFL選手のWell-beingとパフォーマンスはどう変化するか?を検証したのが今回の論文(↓)4です。シーズン真っ只中にこういった検証を行うのは選手が躊躇するかも、という理由で実験はシーズン直前に行われたようなんですが、何を検証したいかではなく、被験者のWilling ness to participateを一番に研究時期を決めるのは最善と言えるのかな…?と個人的には思ったりします。Applicabilityを考えるならシーズン開始直後からやるべきだったんじゃないかなと。とはいえ、十分な被験者が集まらなければ研究になりませんから、ここらへんのバランスは難しいところなんですけどね。

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冒頭にあるんですがまぁやっぱりというかなんというか、この時期の練習はそれほど強度が高くなく、「一週間に3日、一回につき2.5時間の練習が行われている」程度だった模様。うーん、やはり…シーズン中にトレーニング強度やPhysical demandがあがり、それによって睡眠が阻害されるというなら、この実験はシーズン中に行われてこそ意味があるのではと思ってしまうけどなー、くどいけど。

参加したAFL選手はまずSleep physician (って、初めて聞いたけどどんなCredentialとBackgroundを持ってる人なんだろう?)による睡眠教育のセッションを受け("Sleep hygiene, daytime stimulant avoidance and power napsについて一時間、一対一で話した"とは書いてあるけど、具体的にはどんな内容をどのようにプレゼンしたのが記述なし。詳細が分からないと再現のしようがないんだけどなー)、Self-report睡眠記録とActigraphyを6週間毎日記録。それのデータを元に、Research Assistantが毎週emailか携帯メールの形式で選手に「Feedback」を送信していたそう。具体的な内容はこれも不明で、Research Assistantがどんな有資格者なのかも不明。これに対しての被験者の反応義務があるかも不明なので、この「Feedback」の意図が少し…わからないかな。個人的には、これは介入といっていいの?何を目標としているの?という感じ。最低でも一日7時間寝るよう指導しました、とか書いてくれれば少しは意図がはっきりするんだけど、「睡眠の量と質改善のための指導」だと、具体的に何を目指していたのかさっぱりぷー。

研究の真ん中で(3週目の終わりと思われる。これも詳しいタイミングについては記述なし)、2度目となるSleep Physicianによる教育セッション ― ちなみにこれは一対一ではなく、1時間のグループセッションだったそう ― が再度行われたようです。Self-report平均睡眠時間がここまで7時間以下だった選手には特別指導が行われ、希望者には個別質疑応答カウンセリングタイムも設けられたそうですが、一体何人が「特別指導」されたのか、こういった個人セッションの時間を有効活用したのかも不明

実験開始時と、6週目の終わりに行われたアウトカム測定で測られた項目はこんな感じ。これでもかっ、ってくらいのPatient-based Outcome Measuresですね。ちょっとやりすぎ感あります。
ESS (日中の眠気); PSQI (睡眠の質); MEQ (朝型、夜型などのバイオリズムタイプ分類); Perceived Stress Scale (10-item, 不特定のストレス); 19-item Training Stress Scale (トレーニングによるストレス); POMS (ムード); PVT (反応時間)

んで。参加した25人のAFL選手(平均年齢23.7±2.0歳)のデータを分析。しかしね、こんなふわふわした感じの研究なのでね、ほとんど有意な変化がないのもあんまり驚かないですよ。計測してるOutcomeも多いし、百聞は一見に如かずなので、結果はこちらにまとめておきますね(↓)。統計的に有意な差があったのは4項目(下で黄色でハイライトしてます)ですけど、SDも高いし臨床的に有意とは考えにくいです。睡眠時間と睡眠効率の上昇も、Actigraphyもほうでは反映されてませんし、一貫性がないですしね。これが単なるoverestimationならいいんですけど、「やべっ寝てねーとなんか言われるから長めに書いとこ」でこうなったんだったらもう何の意味もないですしね。
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この研究の筆者はこれらの「改善」について考察であれこれ述べていますけど、あまり芯に響くものがありません。最も好意的に解釈すれば、「シーズン前のワークアウトが始まって本来ストレスが溜まってきたり、睡眠が不規則になってきたりするはずだったところがこの介入で未然に防げた(悪化せず現状維持できた)」ということにもなるのかもしれませんが…。うーん、久しぶりにがっかりな論文!

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さー気を取り直してつぎー!こちらはレビュー論文です5

冒頭に紹介されていた論文で書き残しておきたいものがあったのでひとつだけ。「17-19時間寝ていないだけで血中アルコール濃度が0.05%(体重70kgの成人が750mlのビールを飲む程度、飲酒運転で捕まる)と、28時間寝ていないと血中アルコール濃度が0.10%(体重70kgの成人が1.5ℓのビールを飲む程度、もちろん捕まる)なのと同じくらい認知・運動能力が落ちる」というアレ!今まで文章で目にしたことはあったけど、引用があって感動!これ6がその研究なのかー!お初お目にかかりまするー!

本筋に戻って。この論文は1) 睡眠がアスレティック/神経認知パフォーマンスに及ぼす影響; 2) 睡眠と肉体的健康の関連性; 3) 理想的な睡眠とは、という観点からまとめられたNarrative Reviewです。それぞれのセクションで私が面白いと思ったことをまとめると、

1) 徹夜すると同じ時間内に走行できる距離が低下したり、早く疲労感を感じるようになったり、心拍数が上がり、休息時に酸素消費量と二酸化炭素生成量が増え、乳酸血が上がるなど、つまるところスピードと持久力が低下する。リフティングに関しては「一日の徹夜ではそれほど影響がなくても、3日睡眠量が減ると挙げられる重量が低下する?」という少しバラツキのある結果が報告されており、具体的に4-5時間の睡眠ではテニスのサーブの正確性、ダーツの正確性が低下するようである。神経認知の観点からは、注意力、判断力と実行力、学習能力の低下も確認されている…とまぁ、睡眠が短くなると悪影響が出る、という研究は数多くある一方、前述のとおり睡眠時間を増やせば良い影響があるのかについて検証した研究は少ない。ここで昨日紹介した男子バスケ、テニスの研究も紹介されており、加えて「あまり寝られなかった日の翌日に30分の昼寝をすると、しなかった場合に比べてAlertnessとスプリントタイムが向上する」と報告された研究も紹介されている。

2) 不十分な睡眠は怪我と病気のリスクを高める。具体的には「8時間未満の睡眠しか取っていない中・高校生は怪我のリスクが1.7倍(95% CI 1.0-3.0)に高ま」り7、「同じ量の活性風邪ウィルスを鼻から注入されても、7時間に満たない睡眠を取っている人は8時間以上取っている人に比べて2.94倍(95%CI 1.18-7.30)風邪を引きやすく8、睡眠時間が5-6時間や5時間を切った場合、風邪を引くリスクはさらにそれぞれ、4.24倍(95% CI 1.08-16.71)と4.50倍(95% CI1.08-18.69)に跳ね上がる9」んだそうである(後者のふたつ…すごい研究だ)。他にも、短い睡眠時間と食生活・代謝ホルモン分泌の乱れの関連性を認める論文や、結果BMIが高くなる、という報告もある。興味深いのは「痛みへの耐性」で、これは睡眠不足によって著しく減るという研究もあれば、増えるという研究もある。未解明の事柄も多いので、ここらへんはより詳しくこれからの研究で解明してほしいところ。

3) 介入としては、まずは2週間ほど自分の睡眠パターンを記録して現状を知り、そこから30-60分くらい睡眠時間を増やしてみて、例えば短距離走のタイムがどう変わるかを自分の身体を使って実験してみることをお勧めする(これらは実際に検証されたわけでなく、あくまで著者の個人的意見に基づくもののようですけど)。同時に、涼しく、暗く、静かで落ち着ける睡眠環境を確保すること、寝る前のRoutineを決めて実行すること、カフェインやアルコール摂取は避けるなど…まぁ、こういうのは一般常識ですかね。いちいちここに書かなくていいですかね。

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最後はこんな論文を。エリートアスリートには国境とTime Zoneを越えた遠征はつきもの。時差ボケをどう理解し、どのように付き合うか、という論文がこちら10。例えば、「生活リズムを調節するのは、早めるより遅くするほうが簡単」「故に、Time Zoneを超えて移動する場合、西より東に移動したほうが楽である(時差ボケになりにくい)」などと言われますが、これは本当なのか?実際に、アスレティック・パフォーマンスに影響がでるのか?についてはあまり研究されてきませんでした。これを検証しちゃおうというわけです。

ところで私初めて聞いたんですけど、「長距離の移動をすると、グリップストレングスが落ちる」というのは結構よく知れた事実なんですって。11-13 知ってました?ジャンプテストのパフォーマンスが落ちたりもするらしい。14 へー。へー。

また話が逸れた。この研究では10人の大学生アスリート(全員男性、平均年齢20.6±2.7歳)が被験者となり(少ないですね、お金がかかりそうな研究デザインだから仕方ないのかもしれないけど)、あちこちに移動しながら、15分のスタンダード・ウォームアップをしたのち、1) ジャンプテスト; 2) 20m走; 3) YYIR1テスト(持久力とリカバリーを図るテスト、動画参照)のパフォーマンス計測と、時差ボケ自覚症状チェック、そして睡眠状態の計測を行なったんだそうな。

パフォーマンス計測セッションは大別して4回。
#1: 遠征の2週間前に朝9時と夕方5時の一日二回、4日連続ベースラインデータを計測; #2: オーストラリアからカタール(西方向)に移動してからの4日間、*ちなみに時差は8時間、3便の飛行機(エコノミークラス)を乗り継いで、総移動時間は21時間にも及んだそうな; #3: カタールで4日間過ごした後(wash out)、カタールからオーストラリアに戻る(東方向)前の2日間と; #4: 移動してからの4日後。計測の24時間前はカフェイン、アルコールの摂取と極端な運動は禁止。なかなかややこしいですね!大変そう。

で。結果です。
興味深いことに、睡眠時間はベースラインと比較して、西への移動時は変わらなかったものの(06:28±00:48 vs 06:40±0.36)、東移動時は著しく減少(05:46±00:57, p < 0.05)。睡眠効率は、どれも大差なし(88.2±3.1%, 87.0± 4.7% vs 87.4±4.5%)。時差ボケ自覚症状は、西と東どちらに移動した場合もベースラインより悪化したものの(p < 0.05)、東のほうが西よりも著しく時差ボケ自覚症状が見られ、機能の低下、モチベーションの低下ともに東のほうが著しかった。移動の影響は、西方向よりも東のほうが大きく出る。ここまでの結果は、先の説と一致しますね。
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パフォーマンス計測の結果は上にまとめました。ジャンプテストの結果(上左)も同様に、Peak Forceが西・東どちらの計測も移動の影響を受けて悪化(p = 0.04)したものの、より東へ移動した際のほうが西よりも悪化(p = 0.03)。20m走(タイムなのでグラフの上に行けば行くほど悪いパフォーマンス、上中央)はやはり全体的にベースラインと比較しての悪化が確認できたが、中でも計測2日目は東(〇)に移動したときのほうが西(●)より悪化(p = 0.03)していた。YYIR1(これは走行できた距離を示しているので、下に行けば行くほど悪いパフォーマンス、上右)は一日目は西(〇)のほうが東(●)より著しく優れたパフォーマンスを見せたが(p < 0.001)、4日目には東のほうが高いパフォーマンスに(d = 1.00)なるなど、バラツキが見られた。

そんなわけで、多少の一貫性の欠如はあるものの総じて「東方向に移動したときのほうが、西へ移動するときよりも睡眠、時差ボケ、スポーツパフォーマンスへの悪影響が著しく出る」ということが言えそうです。遠征のスケジュールを組む場合、東方向の遠征は数日余裕を持ってつくようにして、リカバリーの時間を十分に設けることなどが具体的な臨床への応用法でしょうか。私の個人的な体感でいうと、逆なんですけどねー…。日本に帰るときのほうが(西)、アメリカに戻ってくる時より(東)時差ボケが思いっきり出て、長いことしんどい。でもこれはn = 1ですし、アメリカに戻ってくるときはいつも「学期が始まるぞっ」っていう緊張感があるからかも。

まぁそんなわけで、睡眠に関する文献をざざっと読みましたがどれも興味深かったです。もちろん、何時間寝たか、という時間量だけではないと思うんですけど(= 睡眠の質をいかに高めるかも充分大事だと思うんですけど)、やはり多くのアスリートにおいては睡眠の絶対量が単純に足りていない、という一般的事実はあるのではないかと思います。ここまで文献を読んで、「アスリートが普段寝ている時間よりも2時間ほど睡眠を延長することによって得られる利益は、思っているよりも多くあるのかもしれない」とは感じます。まぁでも実際問題…9時間睡眠を確保するのは難しいですよね…7時間だってなかなか厳しいのに…。私ももう少し寝たいなー、どうすんべかなー・

1. Leeder J, Glaister M, Pizzoferro K, Dawson J, Pedlar C. Sleep duration and quality in elite athletes measured using wristwatch actigraphy. J Sports Sci. 2012;30(6):541-545. doi: 10.1080/02640414.2012.660188.
2. Lastella M, Roach GD, Halson SL, Sargent C. Sleep/wake behaviours of elite athletes from individual and team sports. Eur J Sport Sci. 2015;15(2):94-100. doi: 10.1080/17461391.2014.932016.
3. Hirshkowitz M, Whiton K, Albert SM, et al. National Sleep Foundation's updated sleep duration recommendations: final report. Sleep Health. 2015;1(4):233-243. doi: 10.1016/j.sleh.2015.10.004.
4. Van Ryswyk E, Weeks R, Bandick L, et al. A novel sleep optimisation programme to improve athletes' well-being and performance. Eur J Sport Sci. 2017;17(2):144-151. doi: 10.1080/17461391.2016.1221470.
5. Simpson NS, Gibbs EL, Matheson GO. Optimizing sleep to maximize performance: implications and recommendations for elite athletes. Scand J Med Sci Sports. 2017;27(3):266-274. doi: 10.1111/sms.12703.
6. Williamson AM, Feyer AM. Moderate sleep deprivation produces impairments in cognitive and motor performance equivalent to legally prescribed levels of alcohol intoxication. Occup Environ Med. 2000;57(10):649-655.
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8. Cohen S, Doyle WJ, Alper CM, Janicki-Deverts D, Turner RB. Sleep habits and susceptibility to the common cold. Arch Intern Med. 2009;169(1):62-67. doi: 10.1001/archinternmed.2008.505.
9. Prather AA, Janicki-Deverts D, Hall MH, Cohen S. Behaviorally assessed sleep and susceptibility to the common cold. Sleep. 2015;38(9):1353-1359. doi: 10.5665/sleep.4968.
10. Fowler PM, Knez W, Crowcroft S, et al. Greater effect of east versus west travel on jet lag, sleep, and team sport performance. Med Sci Sports Exerc. 2017;49(12):2548-2561. doi: 10.1249/MSS.0000000000001374.
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14. Chapman DW1, Bullock N, Ross A, Rosemond D, Martin DT. Detrimental effects of west to east transmeridian flight on jump performance. Eur J Appl Physiol. 2012;112(5):1663-1669. doi: 10.1007/s00421-011-2134-6.

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  by supersy | 2018-01-13 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

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