寝る子は育つ?睡眠時間を延長すると、アスレティック・パフォーマンスは向上するか。その1。

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PRIマイオキネマティック・リストレーション in 横浜、ポスチュラル・レスピレーション in 東京の両講習が年末無事に終わりました!この冬でPRI日本講習の延べ受講者数が1000を超えたらしく(!)、なんと申しますか、感慨無量です。今までは年に夏と冬の二回、まとめて地道におこなっていたPRI日本講習ですが、2018年はもっと少人数での定期開催が可能になると思いますので、今まで時期が合わなかった、申し込みそびれていた方もこの機会に是非ご参加ください。

さて。私はこれらの講習が仕事納めで、年始は少しゆっくりしようと旦那と二人で台湾に旅行にも行ってきました。高雄に台北に夜市に九份に楽しかった!この冬も充実した日本滞在でしたー。5日前にテキサスの自宅に戻ってきたところです。お世話になった皆様ありがとうございます。
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さて、新年の抱負などここにぐだぐだ書いても仕方ないので、2018年もいつも通り読んだ論文のまとめから始めたいと思います。

個人的な話ですが、こうして日本とアメリカを定期的に渡り合ったり、それから元々肝っ玉の大きいほうではないので一日や二日の大掛かりな講習をしたりすると緊張して充分な睡眠が取れなくなることは多いです。若いころはそれでも元気にやれていたけど、年齢を重ねるとなかなか一晩の睡眠不足から回復するにも時間がかかるなぁと実感している最中です。今回は睡眠とヒトとしての機能の繋がり、特にアスリートのパフォーマンスに関する論文を少しまとめて読んでみました。いやー、この分野は興味深い研究が多いですね!全部はとても読めないや。
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まずは有名な「スタンフォード大男子バスケットボールチームの研究」1 から(↑)。研究が開始されたのが1-3月にまたがってある冬学期中だったため、その時期にシーズンを迎えるスポーツ選手をメインに被験者にリクルートしたそうな。チームあたり5人以上の選手から回答があり、現在睡眠障害がなく、健康状態が良好で、現在試合や練習に参加していることを条件に絞り込んだ結果、男子バスケットボールチームに白羽の矢が立ったのだと。被験者は11人(平均19.4±1.4歳)とかなり少なめ

2-4週間に渡る「Baseline Period」では、それぞれの選手が一日当たり6-9時間の睡眠をとっていることを確認したのち、5-7週間を「実験期間(Sleep Extension Period)」とし、普段よりも長い睡眠時間(最低でも10時間)取るように指導したとのこと。もちろん期末試験と重なったり、遠征と重なったりすることもあるので、どうしても不規則になるときはあったようなんですが、その場合は昼寝を推奨という形で補ったそう。

IV: 被験者はDaily Sleep Log/Journalを付け、いつ寝たかを各自記録したのに加え、手首に装着するタイプのアクティビティー・モニター(Actigraphy)も用い、これらのデータをマッチさせながら睡眠・行動時間を計測(データ同士に矛盾があった場合はどうしたのかな?)。これらのActigraphyは「Accepted Methodである」「Validatedされている」という記述はあるものの、そのStatementをサポートする論文として具体的に引用されているのが2003年発表のReview Articleひとつのみ2 なので、論理として確立されているかというと少し薄みを感じます。こういったデバイスが年々性能を上げているのは明らかなのでしょうけれど、この実験が行われた段階(2005-2008年)で使われたそれがどれほどの誤差を含んだものだったのか、個人的には考慮しないわけにはいかないのではと思います。しかし、被験者の主観的なSelf-Reportと、客観的データを提供するActigraphyを併用したのは評価されるべきではないでしょうか
DV: 計測されたOutcomeは大別して5種類。
●Epworth Sleepiness Scale (ESS): 0-24の得点形式で、昼間の眠気の高さを図る。得点が高ければ高いほど眠気も高いと判定される。Baseline時とSleep extension終了時の2回計測。
●Profile of Mood States (POMS): 感情・ムードの変異を推し量る。毎週実施。これらのスケールを選んだ理由は明記されていませんが、個人的には両方とも一般的によく使われる、Well-establishedなツールであると記憶しています
282フィート走のタイム; 10本のフリースローの成功数; 15本のスリーポイント・シュートの成功数: 毎練習後に計測。タイムはストップウォッチで測ったのかな?「同一人物が計測した」という記述はあるけど、blindingがあったとは書いてないし、誤差やバイアスの可能性は否定できない
●毎試合・練習後に、試合・練習中のMental & Physical Well-beingを10段階評価で自己評価したもの: シンプルであるとは思うけど、これがValidated Methodであるという根拠は
●午前中と午後にそれぞれ一回ずつ、一日二回、決まった時間に計測されるPsychomotor Vigilance Task (PVT): 視覚的刺激が現れたらできる限り速くボタンを押し、その反応時間を推し量るもの(動画参照)。こちらもValidationに関する記述なし。私は初耳のテストです。

…で、結果です。
睡眠時間はSleep Journalが470.0±65.9分(約7.8時間)から624.2±68.4分(約10.4時間)、Actigraphyでは400.7±61.8分(約6.7時間)から507.6±78.6分(約8.5時間)へと、どちらも著しく上昇(p < 0.001)。日中の眠気と(9.64±3.8 vs 3.36±1.7, p < 0.001)、疲労や鬱、怒りといったネガティブな感情も著しく減少(13.76±17.17 vs -10.36±9.62, p < 0.001)。PVTによる反応時間も、例えば午前中の平均反応時間が329.64±45.44秒から285.86±34.26秒(p < 0.001)と著しく改善し、282フィート走は16.2±0.61秒から15.5±0.54秒へ(p < 0.001)、フリースロー成功数は10本中7.9±0.99本から8.8±0.97本へ(↑9.0%、p < 0.001)、スリーポイント・シュートは15本中10.2±2.14本から11.6±1.50本へ(↑9.2%、p < 0.001)、そして練習中のWell-beingと試合のそれも6.9±1.41から8.8±1.06へ(p < 0.001)、7.8±1.07から8.8±1.19へ(p < 0.001)、それぞれ著しく上昇しました。

結論としては睡眠時間を習慣となっている長さから2.5時間ほど増やすと、日中の眠気が吹き飛び、気分が高揚し、走るのも速くなり、シュート成功率も上がり、反応も良くなって、より充実した試合や練習時間を過ごせる、というところでしょうか。まぁこれはところどころOver-generalizationかなぁとも思いますけど、結果だけ見るとすごいですね、一石七鳥くらいですね。

今回計測した、282フィート走る、や、フリースローを決める、というのはあくまでControlled Environmentで行われたものなので、これらのパフォーマンス向上が実際の試合での得点や勝利に結びつくかまでは分かっていないということは言及されなければいけませんね。比較対象として、コントロール群も設けられていなかったのも痛かった。たまたまイケイケノリノリのシーズンで、シーズンが進むにつれチーム全体が活気に溢れ、(睡眠時間が原因でなく)パフォーマンスが向上したり、気分が高まったりしたという可能性も否めません。コントロール群を使わないなら、A-B-A-Bデザインを用いても良かったのでは?

しかし私はこの研究が、「シーズン中」に行われたこと、そして与えられた指示が「いつもよりなるべく長めに、最低でも10時間くらい寝るように心がけて」という緩いものであったことにこそ意味があるとも思うんです。選手を特定の時間になったら無理矢理寝室に引っ張ったとか、そういう介入ではなく、「なるべく早く就寝して、10時間の睡眠を確保する」「寝足りなければ昼寝をする」という、誰にでもできる「心がけ」程度の介入だったことに実用性があるなと思ったんですよね。完全に被験者の睡眠をコントロールしなかった、そこに我々が実践できる現実味があると言っていいんじゃないかなと。ふーむ、面白い。

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さて、それでは他のスポーツではどうなのかも気になりますよね。こちらの論文3ではテニス選手を対象にした検証を行っています。テニスのサーブは脳の殆どの箇所を活性させなければいけないほど複雑なタスクであるから、睡眠の影響が何らかの形で出るとしたらサーブが影響されないわけはない!という少し強引で、でも斬新で面白い観点から、12人のNCAA D-IIIテニス選手(うち、男5人、女7人、平均年齢20.2歳)を被験者に採用しています。この被験者のn数はやっぱり少ないと思うし、何より被験者のDemographic Dataが全く提供されていないのが個人的に気になるなぁ

b0112009_15522684.png介入は至ってシンプルで、「最初の一週間は普通に過ごし、二週間目は一日あたり9時間睡眠をとるように」という指示を与えたのみ。被験者は毎日自分の睡眠パターン、昼寝を含む睡眠時間を日記に記録して、これを実験期間中の合計14日間続けたそうです。先の研究を違ってActigraphyは使わなかったようなので、睡眠時間のデータは完全に被験者のself-report頼りですね。昼間の眠気を推し量るESSは研究開始時、一週目終了時と二週目終了時に計3回実施、疲労度を測るStanford Sleepiness Scaleは実験期間中毎日実施したそうな。それから、テニスのサーブ計測は実験開始7日目(介入なし)と14日目(睡眠延長時)の2回行われました。5分のウォームアップを各自行ったのち(これはスタンダード化されたわけではなさそう)、50球のサーブを図の★の位置(↑)から打たせ、相手側コートの逆側サービスボックスの外側・深いところ(画像の赤丸)に入ったものを「成功」とし、数を数えたとのこと(Aで25球、Bで25球、合計50球)。天気や風の影響を受けぬよう、室内の施設で計測を行ったところは評価できます。ちなみに、サーブ計測前48時間はカフェインとアルコール摂取は禁止(しかし、指示のみで確認はせず)されていた…というころは、カフェインもしくはアルコールを摂取したら今回の結果は再現できない可能性ありということにもなりますね。

…で。結果です。
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もー一番わかりやすいかなと思って表にまとめてみました。まとめると、睡眠時間は著しく上昇、眠気と疲労が著しく減少し、サーブ成功数も著しく上昇した、と。結果としては、睡眠時間を2時間くらい増やすとテニスのサーブの正確性上がるね、ってことなんですけど、これは単にLearning Effectsってことも考えられるので、やっぱりControl群を採用するか、もしくはA-B-A-Bデザインしてほしかったです(くどい)。あとは、個人のパフォーマンス見てると、ひとりめっちゃ正確性が下がった人もいますね(32%悪化! ↓)。サーブは水物、と言ってしまえばそれまでだけど、そうなると他の選手のパフォーマンス向上もミズモノ、つまりたまたま偶然向上しただけってことになってしまいます。どちらにしても、興味深い結果ではありますが、やはりサンプル数が不十分に思えますし、実際の試合でのパフォーマンス向上に直接的なつながりがあるかは断定できません。
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では、長くなるのでもうひとつだけ。少しマイナーですが、ボート競技ではどうなのか?4
高い強度のトレーニングは睡眠に悪影響を与えるとする過去の研究5-7を紹介し、早朝から高い強度のトレーニングをこなす、55人のジュニアのドイツ代表ボート選手(男30人、女25人、平均年齢17.7±0.6歳)の睡眠について検証してみましたぜ!というのがこの論文。被験者の数が多いけどこりゃ、年齢層が若いなー!個人的には若いころは寝なくても平気で、年齢を重ねるにつれてどんどん「寝ないとダメ」になってきたんだけど、このくらいはどうなんだろう?他の年齢層、成人層にデータを十分にtransferできるのかな

オリンピックのための強化合宿4週間(正確には26日間)を使ったこの検証。選手は基本、21:30には自室に戻り、寝ることこそ強制されないものの、22:00には「静かに」しなければいけない、練習は翌朝6:30に開始…というスケジュールだったそうです。朝の練習(6:30-8:30am)はボートの上で、そこから一時間から一時間半のウェイトトレーニングを挟んで、午後からまたボートの上で練習、場合によってはその後、夜間にさらにウェイトをこなすこともあったのだとか(4部練!)。合宿の前半(Week 1~2)は練習の強度が特に高めで、後半(Week 3~4)は練習が少なめの日が多かったそう。55人は毎朝睡眠記録を付けており、うち、18人(男13人、女5人)はアームバンドタイプのActigraphも装着。Short Recovery and Stress Scaleも毎日計測していたんだそうな。

で、結果なんですけど、特に何も介入していなかったわけなんですが、比較してみるとWeek 1と2の睡眠量は(self-report睡眠記録でそれぞれ408.9±18.5分、419.1±15.5分、Actigraphyで342.9±30.3分、340.4±32.0分)、Week 3と4のそれに比べて(self-report睡眠記録で422.9±17.3分、481.3±18.4分、Actigraphyで357.0±24.6分、368.7±44.8分著しく低かったんですって。これは練習の強度が関係しているのか、それとも「合宿」という新しい環境に身を置いたからかな。その両方かな?

それから興味深いのことに、研究開始6日目にサッカーワールドカップの決勝が夜遅い時間にTV放送されていた関係で(ドイツが決勝に残っていたと予想されます…)、この夜は選手の睡眠時間が平均して1.5時間減(self-reportで347.6±38.4分、p<0.001)。逆に22日目はトレーニングのないオフ日だったので、睡眠時間が2時間弱増加(533.5±38.6分、p<0.001)したそうなんです。睡眠が短かった晩(6日目)の翌朝には多くの選手がその眠りを「less restful (3.1 ± 0.9」と評価、足りない眠りを平均52.8 ± 31.6分の昼寝で補おうとしたのに対して、十分に睡眠の取れた22日目の翌朝は選手が「more restful (1.9 ± 0.7」と感じ、肉体的・精神的な充実感と感情のバランスが十分に取れており、研究期間中最も「回復した」状態にあったそうです。

いやー、Activeな介入があったわけでもないのに関わらず自然とA-B-A-B的なデザインが出来上がっていて興味深いですね!同じ合宿生活を送っていただけに、かなりの要素(i.e. 食事、トレーニング時間・内容)がコントロールできているのもいい。直接的なパフォーマンスの計測がなかったのが残念ですが(合宿中だしコントロール群もないしで、このデザインでは難しいですよね。フツーに考えれば合宿中で技術や体力がアップするのが目的なんだろうし、パフォーマンスが後半にかけて向上していても、それは恐らく睡眠よりもトレーニングそのものの影響である可能性が高い…)、それでもなかなか妄想しがいのある論文でした。

あと数個、睡眠とアスレティック・パフォーマンスに関する論文を見つけたので、これは次回にまとめます!いかんいかん、時差ボケも真っ只中だし、このままでは私の睡眠時間が削られてします。ぐっすり寝ようー。


1. Mah CD, Mah KE, Kezirian EJ, Dement WC. The effects of sleep extension on the athletic performance of collegiate basketball players. Sleep. 2011;34(7):943-950. doi: 10.5665/SLEEP.1132.
2. Littner M, Kushida CA, Anderson WM, et al. Practice parameters for the role of actigraphy in the study of sleep and circadian rhythms: an update for 2002. Sleep. 2003;26(3):337-341.
3. Schwartz J, Simon RD Jr. Sleep extension improves serving accuracy: A study with college varsity tennis players. Physiol Behav. 2015;151:541-544. doi: 10.1016/j.physbeh.2015.08.035.
4. Kölling S, Steinacker JM, Endler S, Ferrauti A, Meyer T, Kellmann M. The longer the better: Sleep-wake patterns during preparation of the World Rowing Junior Championships. Chronobiol Int. 2016;33(1):73-84. doi: 10.3109/07420528.2015.1118384.
5. Taylor SR, Rogers GG, Driver HS. Effects of training volume on sleep, psychological, and selected physiological profiles of elite female swimmers. Med Sci Sports Exerc. 1997;29(5):688-693.
6. Fietze I, Strauch J, Holzhausen M, Glos M, Theobald C, Lehnkering H, Penzel T. Sleep quality in professional ballet dancers. Chronobiol Int. 2009;26(6):1249-1262. doi: 10.3109/07420520903221319.
7. Hausswirth C, Louis J, Aubry A, Bonnet G, Duffield R, LE Meur Y. Evidence of disturbed sleep and increased illness in overreached endurance athletes. Med Sci Sports Exerc. 2014;46(5):1036-1045. doi: 10.1249/MSS.0000000000000177.

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  by supersy | 2018-01-12 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

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