ACL再建手術からの競技復帰は、「最低9ヶ月」かけろ?

秋学期ももう終盤。年末の帰国時期が迫ってきています、やっほうー。と、いうことは帰国翌日から始まるEBP講習までもあと2週間ほどです。新たな講習もあるので今回は特にわくわくです。

<講習日時>
2017年12月17日(日)
9:30am-12:45pm  エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習
12:45pm-14:00pm 昼食(各自)
14:00pm-16:00pm エビデンスに基づく治療アプローチ: AMIと抑制解除療法 (NEW!)
16:20pm-18:20pm エビデンスに基づく治療アプローチ: 腱障害リハビリ (NEW!)

2017年12月20日(水)
18:20pm-21:35pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習

2017年12月21日(木)
18:20pm-21:35pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習

まだ申込受付中ですので興味のある方は是非!詳しくは以前のブログ記事からどうぞー。



先週末の話になるのですが、Thanksgiving Breakはオハイオはクリーブランドにお邪魔していました。中山佑介(ゆっけ)さんの「好きな時にいつでも遊びに来てください」というお誘いを真に受け、遊びに行くならこのタイミングしかないー!と飛んでいったのです。すみません、誘われると私はいちいち本気にします。

11月22-25日の三泊四日の小旅行でしたが、11月22日のvs Nets戦と24日のvs Hornets戦の2試合を観戦させてもらったばかりか、Cleveland Cavaliersの練習施設も見学させていただいたりと非常に充実していました。Thanksgivingに休暇の旅行をしたのは10年ぶりくらい…羽を伸ばすとはこういうことかー!という幸せなひとときでした。
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この業界にいるひとつの楽しみに、友人の働くチームの活躍を心の底から応援できる、つまり、応援できるチームが各リーグにたくさんできる、というのがあります。試合中、コートやフィールドを走り回っている選手を見ながら、この選手一人一人が元気でプレーできている裏に何十、何百、何千時間というメディカルスタッフの尽力、努力、苦労があるのだろうなぁと勝手に妄想を膨らませてしんみりしたり感動したりするのがそれはそれはとても楽しいのです。観戦した2試合ともCavaliersは接戦を制し、7連勝と勢いに乗っていました(その連勝記録を今日までに11に伸ばしているようです)。あー楽しかったー。ゆっけさん、ありがとうございます!この写真は昨年Spurs戦にSan Antonioにいらしたときにゆっけさんと撮ったやつです。
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さて、話は変わりまして。ACL(前十字靭帯)断裂はアスリートにとって脅威ですよね。中でも「ACL再建手術を経験した若年スポーツ選手のうち、その30%程が術後2-3年の間に二度目のACL断裂を経験する」1,2 という統計はかなり深刻で、「どう(理想的に)ACL再建手術から回復していくか」という分野はまだまだ掘り下げる余地がありそうです。
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で。Level I sports (jumping, cutting, pivotingのあるスポーツ、上記の表3 参照)に競技復帰するにあたって、ACL再建手術をした患者の術後2年以内の再受傷率はどのくらいなのか?競技復帰のタイミングや競技復帰時の機能にそれはどのように影響されるのか?を検証した論文がこちら。4 タイトルが興味深いですね、とりあえず読んでみましょー。
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対象となったのは106人のACL再建手術を受けた患者。Inclusion criteriaは1) 3ヶ月以内に片方の膝にACL再建手術を受けていること、2) KT-1000で3mm以下の左右差があり(= 手術成功した、という基準に使っているのかなと解釈)、3) 13-60歳で(ちょっと年齢幅が広い…競技復帰など、この結果がapplicableになる患者層を考えれば13-35歳くらいに限定してもよかったのでは)、4) Level IかIIのスポーツを少なくとも一週間に2回の頻度で受傷前に参加している、ということ(Level Iの競技復帰を検証するのに、どうしてLevel IIのみしかしていない患者を含むのかは疑問)。Exclusion criteriaは1) 膝(健側患側のいずれかも)の怪我受傷の既往歴があること(何故これがダメなんだろう?)、2) 患側の膝にグレード3の靭帯損傷やfull-thicknessの軟骨の損傷が認められること、3) ACL断裂に付随する半月板の損傷が有り、且つそれが受傷3ヶ月後にplyometric exerciseをしていると痛みもしくは腫れが出ること。ここらへんは個人的にはもう少し説明をしてほしいというか、何故グレード2はオッケーでグレード3がダメなのか、「再建手術をここ3ヶ月以内に受けた」の患者が対象で、「受傷から3ヶ月経ってもPlyo最中に痛み・腫れが出る」というタイムラインは合わないのではないか、など疑問が残ります(= 再建手術後3ヶ月以内でplyoが元気にできるケースのほうがレアなのでは?など、理に適っていない部分が多いと感じます)。

患者群は受傷後、5週間のpre-operativeリハビリプログラムを全員一貫して終了したのち、手術をするか保存療法で行くかを決めたという記述があるので、そこで手術をしようと判断された患者がこの研究に流れてきたってことなんでしょうね。しかし、どういう患者が「手術が必要」と判断されたのかという記述はありません。手術の際のグラフトはBPTBかHamstringかの二択があったらしいんですが、これも統一されていない→outcomeに影響を及ぼす可能性は大いにアリで、postoperativeのリハビリに関しても、preoperativeと異なり個々の患者に合ったものが作られたらしいんですが、リハビリの多様性もoutcomeに影響を及ぼすのではと思いますね。ぼややっと「postoperativeのリハビリは全部共通の3 phasesがあり、それぞれのphaseではこういう目標がありました」という概要は明記されているのですが、一体何人のPTがリハビリデザインをし、実践したのか、どれだけの多様性が実際存在したのかなど細かい説明はありません。こういうのは大いにこの実験のInternal validityを脅かす要素だと思いますね。

実験期間中、患者はonline surveyを使って毎月参加したactivityや膝の怪我を報告(self-reportなので真実でない可能性、報告を忘れる可能性、recall biasなどが入る可能性あり)。期間中、再受傷した場合はクリニックに戻って再受診をしたそうな。ふむふむ。

で。結果です。106人中、脱落者が6名おり(一人はwithdrawn、残り5人はonline surveyをやらず)、最終分析に含まれたのは100人(男46人、女54人、 平均24.3±7.3歳)。受傷前にLevel Iスポーツに参加していた患者のうち、74人が競技復帰(89.16%)を果たし、まぁ当然というかなんというか、もともとLevel Iスポーツに参加していなかった患者17人はのうち、Level Iスポーツを手術後するようになった患者はおらず(0/17, 0%)。
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100人中、術後2年間以内に膝の怪我を再受傷した患者は24人(24/100、24%)で、詳しい怪我の内訳は上(Table 2 ↑)通り。このうち、Level Iスポーツに復帰した74人中再受傷したのは22人(29.7%)で、うち、45.5%の怪我は競技復帰してから2ヶ月以内に起こったものだったそう。年齢に関して統計的修正を加えて分析すると、「ACL再建手術の後、Level Iスポーツに競技復帰した患者は、より低いレベルのスポーツに競技復帰した患者に比べて、膝の再受傷リスクが4.32倍(95%CI 1.01-18.40, p = 0.048)上がる」という結果が出たそうな。95%CI幅がちょっと広いなー。ぎりぎり統計的に有意ですね。

復帰のタイミングも大きな要素だったよう。全体としては「競技復帰のタイミングが遅いほうが再受傷のリスクも低い」という結果で、競技復帰を一ヶ月遅らせるごとに再受傷率は51%下がっていくという数字は非常に興味深いです。具体的には、手術後5ヶ月以内に競技復帰した4人のうち4人全員が、競技復帰して2ヶ月以外に再受傷(4/4、100%)したのに対して、9ヶ月未満に復帰した患者 vs 9ヶ月以上かけた患者の再受療率は39.5% (15/38)と19.4% (7/36)。9ヶ月以上遅らせてもadditional benefitはない、つまり、9ヶ月という数字がcutoffになりそうだ、とのことです。へぇー。

やはり最低でもACL再建手術からは9ヶ月競技復帰まで見たほうがいい、というのがこの研究の最終結論です。アメリカではACL再建手術からの復帰は「6ヶ月」というのがスタンダードになっており、一昔前には「Accelerated rehab」という、ACL断裂から4-5ヶ月での競技復帰が称賛されたりしたこともありましたね。日本では、というと、以前知り合いに「日本ではACL再建手術からの復帰に必ず10ヶ月かける」と聞いて、「えー、問答無用で10ヶ月って長くない?もっと短くできるでしょ」と思ったことも正直ありました。でもこういう論文を読んだり、Ligamentizationという体内のプロセスを理解するにつれて、いやいややっぱり結局なんだかんだで一年弱かかるよな、と思うようになったんですよね。日本がまだ「最低10ヶ月」というタイムラインを使っているんだとしたら、それはアメリカの「6ヶ月くらい、なんだったらできる限り短く」とする基準よりも遥かにいいものなのかもしれない、と今は考えています。急げばいいってもんじゃないですもんね。患者の身体に徐々に起こる変化をリスペクトできてこそ、セラピストの役目を果たせるってもんなのかもしれません。

1. Paterno MV, Rauh MJ, Schmitt LC, Ford KR, Hewett TE. Incidence of second ACL injuries 2 years after primary ACL reconstruction and return to sport. Am J Sports Med. 2014;42:1567–1573.
2. Webster KE, Feller JA, Leigh WB, Richmond AK. Younger patients are at increased risk for graft rupture and contralateral injury after anterior cruciate ligament reconstruction. Am J Sports Med. 2014;42:641–647.
3. Hefti F, Müller W, Jakob RP, Stäubli HU. Evaluation of knee ligament injuries with the IKDC form. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 1993;1:226–234.
4. Grindem H, Snyder-Mackler L, Moksnes H, Engebretsen L, Risberg MA. Simple decision rules can reduce reinjury risk by 84% after ACL reconstruction: the Delaware-Oslo ACL cohort study. Br J Sports Med. 2016;50(13):804-808. doi: 10.1136/bjsports-2016-096031.

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  by supersy | 2017-12-03 23:30 | Athletic Training | Comments(4)

Commented by やっさん at 2017-12-05 10:36 x
こんにちはー
また登場しましたー
毎度楽しく下を良いポジションに置きながら拝見させていただいております。

早く復帰させられたらいいみたいな風潮は確かにあるかもしれないですね・・・・・
選手を不幸にしないよう気をつけたいと思います。

EBP勉強させて頂ければと思っているのですが、20日と21日内容は同じでしょうか???
Commented by さゆり at 2017-12-05 11:31 x
やっさんさん、お久しぶりです、こんにちは!20日と21日は違う内容になっております。

20日―エビデンスに基づいた予防医学 基本から応用まで:EBP初級者向けに、予防医学という分野におけるエビデンスを理解するために基本的な用語と統計学の基礎をご紹介します。さらに臨床への応用につなげるため、具体的な論文を読み解きながら予防プログラムの効果をどう検証、理解していけばいいのかも議論します。
・基本用語(odds ratio, risk ratio, number needed to treat, etc)と予防統計学の基礎
・予防プログラムによる介入前後リスクの比較と解釈、判断と応用
・論文を用いての知識の応用(脳震盪の予防に有効な手段は?足首のテーピング・サポーターは本当に捻挫のリスクを減らせるの?怪我をしやすい選手を見極めるために実用的なスクリーニングやテストは存在するの?など)

21日―エビデンスに基づいたスポーツ傷害診断 基本から応用まで:EBP初級者向けに、基本的な用語や診断統計学の基礎などをご紹介します。さらに具体的な臨床への応用などについてもご紹介します。
・基本用語(sensitivity, specificity, +LR/-LR, pre- and post-test probability, QUADAS, QUADAS-2 etc)と診断統計学の基礎
・スペシャルテスト陽性・陰性時の解釈、判断と応用
・教科書や論文を用いての知識の応用(前十字靭帯断裂、半月板損傷、足関節の捻挫、肩のインピンジメント症候群など)

…という感じです。20日は予防について、21日はスポーツ障害の評価についてそれぞれ掘り下げていく予定です。お時間が合えば是非!お会いできたら嬉しいです。
Commented by やっさん at 2017-12-05 20:53 x
ご丁寧にありがとうございます!
2日間行けるように頑張って調整します!

最初のコメントのところでこの前の「舌」のブログネタにかけて書こうとしたら「下」って書いちゃって一人で勝手にスベって恥かいてることだけは内緒にしておいてください。
Commented by さゆり at 2017-12-06 13:03 x
あっホントだ(笑)!勝手に脳内で「舌」に変換して普通に読んでいました。

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