運動中の適切な水分補給に関する最新NATA Position Statement。

Hypohydration vs Hyperhydration。防ぐべきはどっち?(2012年6月13日)
EAHおまけ。そしてキャンプ終わり!(2012年6月14日)

脱水を予防しようとするNATAのFluid ReplacementのPosition Statementと、水の飲みすぎを予防しようとするInternational Exercise-Associated Hyponatremia (EAH) ConferenceのConsensus Statementがいかに食い違っているか、Heat Illness/Dehydration予防とEAH予防の境目はどこなのか…などについて昔まとめたことがありました。

『恐らくもう少しでUpdated NATA Fluid Replacement Position Statementも新たに出版されると思うのですが、ここ5年ほどで高まったEAHのawarenessがどれほど反映されるのか、他の問題(高体温症・脱水)と比べてどれにどれほど重きを置くのがATとして相応しいのか等、組織としてNATAがどういう判断をするのかとても楽しみになってきました。』

…と昔の記事は締めくくられていますが、いやー、あれから4年!かかりましたね!ついに新たなPosition Statement1 が発表になったのでまとめておこうと思います。
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まず目に付くのはタイトルの違いですよね。以前のタイトルは『National Athletic Trainers' Association Position Statement: Fluid Replacement for Athletes』だったのが、今回は『for Physically Active』に。より対象を広げることで、例えばレクリエーショナル・ランナーといえども、ultra-distance走ったりトライアスロンしたり、かなりの強度の運動をする人が増えてきているじゃないですか、こういう方たちにもこのガイドラインを活用して欲しいと言う願いが込められているんじゃないかなと思いますよね。

イントロからしてかなり面白いです。個人的に自分にremindしておきたいことを箇条書きにしておきます。
 - 半数以上のプロ、大学、高校のアスリートは、練習に来た時点で既に脱水状態にある
 - 喉の渇きに従い、自主的に水を飲んでいるだけでは、失った水分の2/3程度しかreplaceされない
 - 人体から熱を逃がす最も効率の良いメカニズムが発汗とその蒸発であるから、身体の中の水分が失われると深部体温が上昇することになる(= 効果的な体温調節には適切な水分補給が必要不可欠)
 - そんなわけで脱水しすぎはもちろん良くないが、逆に水を飲みすぎてもEAHになる。EAHはteam sportsで起こることは稀だが、distance athletesの10-20%には起こるという決して珍しくは無いconditionである

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冒頭に各用語の定義があるんですが、これがものすごくhelpfulでした!!私、いくつかの用語を勘違いして理解していた!私なりの理解を図にしてまとめてみました(↑)。まずは体内に理想的な水分がある状態がEuhydration(水分の損失・獲得が本来の体重の±1%以内)、そこから水分を失うプロセスのこと(左方向へのシフト)をDehydrationといい、それによってできた状態のことをHypohydration (体内の水分移行のスペクトラムで水分が不足したendにいること)というんです。逆に水分がありすぎる状態はHyperhydrationと呼ばれます。私、HypohydrationとDehydrationは同義語なのだと思ってた!Hypohydrationの状態が作られるのにDehydrationが起こらなければいけないのは一目瞭然ですが、Dehydrationが必ずHypohydrationを伴うわけじゃないんですね(なぜならHyperhydrationからEuhydrationになるそのプロセスもDehydrationだから)。ほえーすげくアタマがすっきりしーたー。

推奨事項 *私が個人的に覚えておきたいもの
1. 普段の生活において、一日にどのくらいの水分を摂取し、どれほどを排泄で失うのかは個人差が大きく、同様に運動中の発汗率、喉の渇きの感覚や自主的な水分補給の度合いにも大きな個人差が存在する。故に、水分補給の指針もその人に合ったものでなければならない 推奨度・A
全ての人に当てはまる普遍的な推奨事項を作ることは不可能である、とも断言していますね。理想を言うならば、様々な練習環境を想定して、Sweat rateのassessmentを数回行えと。発汗率は一時間当たり少ない人は0.5L、多い人は4.0Lもあったり、発汗による塩分のロスも一時間当たり0.2~7.3gと個人差が大きいから…と確かにそういう数字を示されると…うーむ…もちろん追及していけばそういうことになるんでしょうけど…。でも同じ人でもプレシーズンとインシーズンで数値も変わってくるでしょうし、moving targetを追って何度も計測を繰り返すのは現実なかなか実践が難しいと感じます。特にDivision IIやIIIの大学で、アスリートの数に対してATが見合わないところではまず不可能かと。いや理想なのはわかるんですよ、わかるんですけども。

2. HypohydrationもHyperhydration(ここではHyperhydrationとEAHがinterchangeablyに使われていますね)も過度になれば命に関わる。初期症状は喉の渇き、倦怠・疲労感、頭痛に嘔吐と酷似しているが(Hyperhydrationでも喉が渇くんだ…)、後期の症状は:
Hypohydration - 喉の渇き、胃痙攣、暑いや寒いなどの体感異常
Hyperthydration - 異常な発汗、精神異常に癲癇
など、区別が付きやすく変化してくる。ここまで進行する前に、少しでも早く正確に診断しようと思ったら血液検査や体重測定が必要である 推奨度・B
なるほど確かにCNS involvementがあるかどうかで患者がHydration Spectrumのどこにいるかはアタリがつけられるかもしれません。しかし、Hypohydration状態でEHSも併発していればEAHとの区別化はほぼ不可能でしょう。この場合はRectal Tempを使っての診断分けが必要不可欠になってくるのではと思いますね。ここらへんは、今回のPosition Statementでは触れられていませんが。

3. 1%のHypohydrationで体温調節能力が低下し、>3%のHypohydrationでExertional Heat Illnessのリスクが中(moderate)から上(severe)へと跳ね上がる 推奨度・B
運動中、1%水分を失うたびに深部体温が0.15~0.20℃上がるという記述もありました。あと、1%失うあたり、毎分心拍数が3-5回上がるとも。面白い、そんな比例関係知らなかった…。めもめも。

4. EAHはHypotonic fluids(水はもちろん、スポーツドリンクも含む)の飲みすぎで起こる。一時間以上の運動をしたあと、体重が増えているということは水分補給に対して排泄が追いついていない、EAHのリスクを高めている、ということなので、運動をするヒトは運動前・後の体重を量り、どの程度が「飲みすぎ」なのか学んでおく必要がある 推奨度・A

5. ATはEuhydration (±1%)をプロモートし、運動後の水分のロスを2%以内に保つ努力をするべきである 推奨度・A

6. Individualized Hydration Planを作る際に考慮すべきは発汗率、練習環境、Acclimatization (acclimatizeしていればいるほど、運動中かく汗の量は増えるが失う電解質は減る=損失を最低限に抑えたまま、効率良く体温を下げる汗がかけるようになる)、身体の大きさに運動の長さ、強度、そして個人の飲み物の好みとfluid tolerance (どの程度の水分を無理なく飲めるか)である。摂取した水分がどれほどの早さで身体を出て行くかは飲んだ水分の量、温度、浸透圧、pH、炭水化物濃度…など、様々なものの影響も受ける 推奨度・A

7. 水分は練習前、中、後の何時でも気軽に手の届くところに準備されているべきである 推奨度・B

8. ATは練習中のWork-to-Rest Ratio (運動vs休憩の割合)、水休憩の頻度などを定めたポリシーを作り、コーチやAdministratorと協力してimplementすべきである 推奨度・B
これ…さらっと書いてはありますが相当な時間と労力のかかることだと思います。なんか…こういう言い方はなんですが、最近は何でもかんでもポリシー作成ですね。重要性は痛いほど分かるのですが、脳震盪に学業復帰、精神疾患に喘息に感染症に歯科の怪我、サプリメントに落雷、熱中症に糖尿病と、我々はいくつのポリシーを作らなければいけないのか。そしてそれを実践するために、どれだけの人数の人たちと日常的なコミュニケーションを積まなければいけないのか。ATの責任は年々膨れ上がるばかりで、このままでは我々自身が潰れてしまう可能性も十分に考えられます。もう少し上手い責任のdelegationの仕方もこれから考えられなければいけない課題なのではないでしょうか。個人的な感想なんですが…。

9. カフェインは運動中の人間にとっての利尿作用はない。なので、過度でさえなければ、運動前、運動の最中のカフェイン摂取をATが止める必要は無い。 推奨度・A
これ、結構長く言われていることだと思うんですけど、未だに「アスリートのカフェイン摂取=悪」だと言う人いますね。推奨度・Aなので知っていなければいけない事実ですね。

10. アルコール濃度は4%以下であれば運動している人間にとっての利尿作用はない。4%より高い場合は利尿作用が買ってしまうので水分補給のドリンクのチョイスとしては不適切である 推奨度・B
まぁ…これは脱水以外の効果もあるのでスポーツ後に嗜むくらいはともかく、スポーツ中にごっきゅごきゅ飲むものではないと思いますが…。

11. 朝一番の尿をサンプルとした尿検査(特にspecific gravity値)は当人のHydration statusを見極めるのに有効である 推奨度・B

12. 本人の水分補給の目安として、喉の渇き、尿の色、どのくらいの頻度でトイレに行っているか…などを考慮することは有意義なバロメーターである 推奨度・C

13. 中(2-5%)・重度(>5%)のHypohydrationの場合でも、可能な限りは経口水分補給を行うべきである。本人が積極的に水分を取れない場合、もしくは脱水が止まらない(嘔吐や下痢など)場合にのみIVが使われるべきである。Hypohydrationが認められない患者に予防目的でのIVは行うべきではない 推奨度・B

14. 子供は成人よりも発汗が低く(推奨度・B)、50歳を超えた人は喉の渇きを感じにくくなる傾向がある(推奨度・A)。これらを考慮に入れた、年齢別の水分補給法が作られるべきである

運動開始時に既にhypohydration状態である、ということを避けるために、そして運動中のリスクを最低限に抑えるために、可能であれば練習に臨む時点で1%くらい(2%未満)うっすらHyperhydrateしているのが理想的なんですね。なるほどなるほど。

少し意外だったのが、「自分の発汗率を把握している場合はそれに沿ったRehydrationを、そうでなければ水を飲みすぎるリスクを防ぐために、喉の渇きを指針に水分を補給するのが恐らく安全だろう」という表記です。以前のPosition Statementは「喉の渇きを指針にしていてはHypohydrationになってしまう(= 渇きを感じる前に積極的に水分を補給せよ)」という書き方がされていたはずですから、ここはInternational Consensus Statementの「喉が渇いたときにのみ水を飲め」という主張が勝ったことになります。しかし…冒頭で「喉の渇きに突き動かされるまま水分を補給していたら失った水分の2/3ほどしか飲まない」とも言っていたではありませんか。「喉の渇きに従えばいい」という急な指針路線変更は先のStatementと自己矛盾していますし、あまりに大雑把では?これは本当に「安全」と呼んでしまっていいのか?これが「安全」ならそもそもどうしてわざわざSweat Rateを計る必要があるのか?と、ここまで気づいてきた理論がガラガラと音を立てて崩れていくのを感じます。文章後半では、「ヒトが喉の渇きを感じるのは水分損失が2%に近づいたとき」とも書いていますから、喉が渇いたことを指針にしてしまっては2%のHypohydrationを許してしまうことになります。これは前述の「ATはEuhydration (±1%)をプロモートし、運動後の水分のロスを2%以内に保つ努力をするべきである 推奨度・A」という推奨事項とも食い違います。「喉の渇きを指針に水分を補給するのが恐らく安全だろう」というこの箇所だけは、今回のPosition Statementで個人的には賛成しかねる箇所です。

私が結局煮え切らないのはここなんですよね。Sweat rate計測してIndividualizedしたHydration Planが理想なのはわかる。それが無理だった場合、どうやってHypohydrationとHyperhydrationのリスクのバランスを取ればいいのか?前述しているエビデンスを見る限りではTeam Sportsで、通常1-2時間程度の練習であればHyperhydrationのリスクのほうが低いのだから、どちらかというと水分補給は気持ち早め、気持ち多めをモットーに、「喉が渇く少し前に意識して」「喉が潤ったと思ってからも一口二口おまけにごくごくっと飲む」くらいにしておいたほうがよっぽど現実的なのではと思ってしまうのですが…。今回の推奨ではそういう表現は全くされていません。

…とまぁ、最後だけ噛みついてしまいましたが。全体的には非常に勉強になることの多い、素晴らしいPosition Statementです。ATCを持ってらっしゃる皆さんはぜひこの機会にご自分でもご一読くださいませ。つーか、255もの参考文献を使い、まとめられた論文って初めて見ました。推賞度も今までのPosition Statementに比べて高いものが多いです。この12ページのPosition Statementに、現存の人間の英知が詰まっていることを実感しますね。これを書いて下さった専門家様の膨大な尽力と費やされた数え切れない時間に感謝して、さぁこの知識が一人でも多くの現場の人間に届くように、我々も我々にできる努力を重ねようではありませんか。

1. McDermott BP, Anderson SA, Armstrong LE, et al. National athletic trainers' association position statement: fluid replacement for the physically active. J Athl Train. 2017;52(9):877-895. doi: 10.4085/1062-6050-52.9.02.

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  by supersy | 2017-10-11 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

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