膝の前十字靭帯再建時に、前外側靭帯(ALL)も再建されるべきなのか?最新エビデンスまとめ。

膝に靭帯が新しく見つかった!? - Anterolateral Ligament of the Knee (2013年12月23日)

膝の新しい靭帯、Anterolateral ligament (ALL)が見つかった、という記事をまとめたのはもう4年も前なんですね。その際、記事の最後にこんなことを書いていたようです。

『ACLの再建手術って、実は成功率が高いとも言えなかったりする。グラフトが切れてしまうこともあるし、慢性的な術後の膝の痛み、グラグラ感、カタさを訴える患者さんは多く、骨関節炎を若いうちに発症する可能性も上がる。これらは、もしかしたら私達がALLという靭帯を全く視野に入れてなかったことから起こっているのかも?もしかしたら、ACLの再建手術の前に、患者のALLの状態が健全なのかも調べ、もし損傷があればこちらも再建したほうが、膝の安定性・機能回復には理想的なのかも知れない。』

…んで。その再建手術に関する研究も4年の歳月の間にじわりじわりと進んでいるようです。今回は今年8月に発表されたこの論文(↓)1 を読んでみようと思います。
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ALL再建テクニックはここまでに数種類報告されているらしいのですが、中には内旋制限を生みすぎてしまうのでは?という懸念も出てきていたりするんだそうです。そんなわけで、このシステマティックレビューではここまで文献で紹介されたALL再建の各テクニック、そのテクニックが生むバイオメカニカルな影響と、臨床的アウトカムのレビューと比較をおこなっております。あんまりこのトピックは追いかけていなかったので、こうしてさらっと色々カバーしてくれているところがありがてえー。

最終的に分析に含まれたのは12の文献で、うちテクニックに言及したものは6つ、バイオメカニックス分析をした研究が5つ、clinical outcomeを推し測った研究は1つだったそうな。

●再建テクニック
5つの研究はACL + ALLのコンビネーション再建テクニックについて、ひとつはALLの単独再建についてだったそうなんですが、気になったのがALL再建時のProximal Attachmentの違いです。全6テクニックのうち(↓)、A・B・C・Eは"Posterior and proximal to the femoral attachment of the LCL"、D・Fは"anterior and distal to the lateral epicondyle (大腿骨の外側上顆)"なんですよね、distal attachmentはGerdy tubercleとFibular headの中間と、一貫性があるんですけど。
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●バイオメカニックス分析
Anterior Tibial Translation(脛骨前方移動量)、脛骨IR(内旋)に対する耐性、 Pivot Shift Testの結果などが報告されているそう。言及しておきたいのが、Posterior/Proximal Attachmentを使った2つの研究がIRに過度な制限(overconstraint)が認められた一方で、Anterior/Distal Attachmentを使った2つの研究ではIR過制限なしだった、というところでしょうか。
もうひとつ、膝の0-120°の屈曲・伸展の動きの中でどういうグラフト位置だとグラフトにかかるテンションが代わるか調べたものもあり、この研究によれば「Posterior/Proximal、詳しくは大腿骨の外側上顆から4mm後方、8mm近位をグラフト位置として使うと、膝伸展時にもグラフトにテンションがかかりにくい」んだそう。ALRIをコントロールするにはPosterior/Proximalがいいのでは、というのがこの論文の結論ですね。伸展時にALRIが出やすいということなので。
そんなわけで、Posterior/Proximalのほうが膝が安定させやすいが、そのぶん過制限も生むのでは?みたいな傾向は見て取れますね。うーむ、stabilityとoverconstraintを取るのか、instabilityとnon-constraintを取るのか?『最善』はもちろんその間にあるんでしょうなぁ、現時点でこのグラフト位置が最高!というのは一概に言えないようです。

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●臨床的アウトカム
この論文で紹介されているひとつの研究(↑)2 は、比較研究ではなくあくまでcase seriesなので、強いエビデンスとは言えないのですが…。ざっとまとめると、ACL + ALL再建手術を受けた92人の患者(平均24±9歳)を平均32.4±3.9ヶ月(最低でも2年)経過後にfollow-upした結果、15人(16.3%)に合併症が認められたそう。詳しくは、1人(1.09%)がACL再断裂、7人(7.61%)が逆側のACL断裂、1人(1.09%)がcyclops lesionのため、二度目の内視鏡手術を受け、1人(1.09%)が部分的外側半月板除去手術を、5人(5.43%)が部分的外側半月板除去手術を受けたそうな。最終的には、92人中65人(70.1%)がpre-injury level of activityに戻れた、と。ACL再建のみと比較していないのでなんとも言えませんが、手術した膝に限っての再断裂率(1/92, 1.09%)は決して悪くないのでは?と思いますね。
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これに関しては、実はもうひとつ興味深い論文(↑)3 が出ています。これは今年6月に発表された新しいものなので、今回のシステマティックレビューでは言及されていません。少しだけまとめておきますね。103人のACL損傷患者(全て男性)をランダムにGroup A: ACL + ALL再建手術組(53人、平均26歳)と、Group B: ACL再建手術組(50人、平均26歳)にわけ、平均27ヶ月後に1) 諸症状の有無、2) Anterior Drawer Test, Lachman Test, Pivot Shift Testの結果、3) KT-1000、4) Lysholm Knee Score, Tegner Activity Score, IKDC Scoreをチェックした、というこの研究。結果をざっくり言ってしまうと、KT-1000意外の結果はグループ間に大差なし(p > 0.05)…なんですが、KT-1000だけはグループAが20 poundのチカラで平均1.3mmのtranslationが生まれたのに対し、グループBは平均1.8mm (p < 0.001)と0.5mmの差が確認されました。グラフトのテンションに関して、0.5mmという差は確かに大きいような気もします。Complicationは両グループ共にほとんど報告されず(グループAの患者のひとりにsuperficial wound infectionがあったのみで、抗生物質の投与で問題なく完治)、機能や諸症状に差が無かったことを考えればこれはあくまで「この脛骨前方移動量の差は統計学的に有意でも臨床的に有意ではない」と言えるのかもしれませんが、これを3年、4年と長期的なアウトカムを追っていくともっと如実になったりはしないのか…?再断裂に繋がったりはしないのか…?という疑問は沸きます。

さぁ、そんなわけでこれらの論文をまとめてしまうと、「論文で発表されたテクニックに一貫性がなく、比較研究も少ないため、まだまだわからないことが多い」という元も子もない結論になってしまうのですが、個人的な印象としては「ACL再建時にはALLも再建したほうがいいのでは、という統計的エビデンスがin vitroやin vivoで薄っすら出始めているが、臨床的有意さにはまだつながっていない」「環境が許せば(= コストやグラフトのavailability、手術医の経験が問題でさえなければ)、disadvantageは今のところ認められないし、試してみてもいいのでは?」という感じでしょうか。Posterior/Proximal vs Anterior/DistalでRCTやって長期的(個人的には5年くらい)にアウトカムを追ってみる、みたいな研究が将来的に出てこないかなーと楽しみにしています。

1. DePhillipo NN, Cinque ME, Chahla J, Geeslin AG, LaPrade RF. Anterolateral ligament reconstruction techniques, biomechanics, and clinical outcomes: a systematic review. Arthroscopy. 2017;33(8):1575-1583. doi: 10.1016/j.arthro.2017.03.009.
2. Sonnery-Cottet B, Thaunat M, Freychet B, Pupim BH, Murphy CG, Claes S. Outcome of a combined anterior cruciate ligament and anterolateral ligament reconstruction technique with a minimum 2-year follow-up. Am J Sports Med. 2015;43(7):1598-1605. doi: 10.1177/0363546515571571.
3. Ibrahim SA, Shohdy EM, Marwan Y, et al. Anatomic reconstruction of the anterior cruciate ligament of the knee with or without reconstruction of the anterolateral ligament: a randomized clinical trial. Am J Sports Med. 2017;45(7):1558-1566. doi: 10.1177/0363546517691517.

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  by supersy | 2017-10-08 21:30 | Athletic Training | Comments(0)

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