「椎間板ヘルニアには腰椎伸展位が良い」を問い直す。

良い姿勢、ってなんでしょうね?

姿勢は動的に評価してこそ意味があるのではないか、という議論はひとまず置いておいて、今日は静的な面に限った姿勢の話を少ししたいと思います。さて、良い姿勢ってどんなものだろう?と、「Good Posture (良い姿勢)」という言葉で画像検索すると、実に様々な写真が引っ掛かります。
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例えば、とあるウェブサイトで「良い姿勢」の見本としてこんな写真(↑)が使われています。これは私個人に限った経験かもしれませんが、「姿勢が悪いよ、背筋伸ばしなっ」と注意されてこんな風に背筋を「反らす」ヒトって少なくないんじゃないか(↓、こちらも「良い姿勢」で検索)と思うのです。しかし、
私はこれらの姿勢を「良い」とは全く思えないのです。
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腰椎の形状、アラインメントやそのカーブが腰痛や機能不全に与える影響1-5は大きく、中でも椎間板は(様々な定説こそあれ)腰痛の原因となっている可能性は根強く残っています。6 そしてその椎間板にかかる負荷やストレスは、無理矢理外部からの力によって腰椎をへし曲げられているんでもない限りは、他でもない胴回りの筋活動に大きく左右されているのです。7
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ではどういった筋活動、どういった姿勢が椎間板にかかるストレスを増やす・減らすのか?…ということを検証した論文7をひとつ読んだ(↓)のでまとめておきます。
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この論文では腰痛の既往歴の無い18人の健康な被験者(男13人、女5人、平均28.0±6.94歳)を対象に、2種類の姿勢を取らせてそれぞれの脊柱をレントゲン写真に撮り、パソコンに取り込んで特殊なソフトウェアを使って椎間板にかかる力を生体力学的に分析をしています(なるほど、椎間板にかかるストレスってどう可視化、モデル化してるんだろうと思ったらこういうのが一般的なんですね8-10)。

検証対象となる姿勢というのはA: 骨盤を動かさず、しかし胸を前に突き出す姿勢 (Anterior translation of thorax、T1がT12の真上に来るイメージ↓写真A)と、 B: 力を抜いて自然に立ってもらう(↓写真B)の2種類で、実際の脊柱のカーブはこれによってこういう風に変化したそうです(↓写真右)。当たり前ですが、Anterior Postureのほうが脊柱・身体そのものが前方にシフトしており、Center of Mass(COM)もつま先へ前方移動していることは容易に想像できますね。7 前方に移動した体重を何とか後方に引き返そうと脊柱起立筋群が過活動を起こし、腰椎の一部(特にL4-5)を、腰を反るように極端に伸展させているのも見て取れます。さらに特筆すべきは、胸椎もそれに付随するように伸展し、それによって胸椎の前弯が失われて、いわゆる「フラットバック」という状態が生まれていることです(写真右: T4-L3までがほとんど平らです)。その一方で自然に立ってもらったほうの姿勢Bは腰椎は本来のLordotic(前弯)カーブがL1からL5にかけて満遍なく保たれながらも局所的で過度な進展は見られず、胸椎(T1-12)はこれまた全体的にゆるやかに屈曲、つまりKyohotic(後弯)カーブを描いています。加えて、姿勢Bでは脊柱全体が姿勢Aに比べて後方に位置しているため、COMはつま先から踵へ後方移動を起こしていることもわかります。7
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要約すると、Aの姿勢は「腰椎の一部と胸椎全体で過度に伸展/フラットバック」、「つま先体重」と結び付けられる一方で、Bはむしろ「腰椎の全体の滑らかな伸展と胸椎全体のこれまた滑らかな屈曲」、「かかと体重」と深い関係にあることがわかるわけです。これらのVisual findingsは、実験内の統計によっても裏付けられており、1) T1-12の胸椎のポジションは姿勢AとBでは統計学的に有意な差が見られ(p = 0.007); 具体的には、姿勢Aを取ることで、Bと比較して: 2) 胸椎(T1-12)の角度が平均13.1±10.3度失われ(= 胸椎伸展)、3) 腰椎(T12-S1)の角度が平均1.7±12.9度増え(= 腰椎伸展);Ferguson Angle (腰仙角度)は平均9.5±6.7度増えた(= 骨盤前傾)と論文内で報告されています。お、おもしれぇぇぇぇ…!

さて、それではこの姿勢の違いがどんな椎間板へのストレスの差を呼んだかというと、わかりやすいグラフはこちら(↓)。一つ目のグラフがCompressive Stress(圧縮応力)、二つ目がShear Stress(剪断応力)を示しています。
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一目瞭然、という感じではありますが、グラフが示すように、姿勢Aは姿勢Bに比べて、T9-10からL5-S1の椎間板にかけて(Compressive Stress)、そして、ST6-7からL5-S1の椎間板にかけて(Shear Stress)、ハッキリと高い負荷がかかっていることが分かったのです。これらの差は統計的に有意(p < 0.05)で、中でも最大の負荷上昇率が見られたのはCompressiveでL5-S1椎間板の92.2%、Shearに至ってはL3-4椎間板で609%、つまり約6倍ものストレスが確認されました。L5-S1椎間板にかかる負担は、数字にすると400N(= 40弱kg重分の重さ)にもなるのでは、と著者らは予測しています。加えて、それに伴うように脊柱起立筋群の負荷もT7以下では942%も高まっており、「姿勢Aは筋肉がより頑張らなきゃいけない上に、椎間板にかかるストレスも格段に増える、非常に生きていく上で効率の悪い姿勢」ということがわかります。

この論文7は「矢状面での姿勢・脊柱アラインメント異常(Anterior Trunk Translationとそれに伴う胸椎伸展、腰椎伸展、骨盤の前傾)は脊柱起立筋群の過活動を促し、下位胸椎及び腰椎の椎間板にかかるストレスを増やす」という結論を述べていますが、これは従来の「椎間板ヘルニアに屈曲は悪い、伸展してNucleus pulposus(髄核)を押し返せ!」という『伸展推奨』理論の真逆を言っています。見る人が見たら非常に衝撃的な結論かも知れません。ええー!?と気になる方は、ご自分でこの研究の全文を読むことをお勧めします。面白いのでオススメです。
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「椎間板ヘルニアに伸展位はむしろ悪い。屈曲位のほうが良いのでは」という『屈曲推奨』説をサポートする論文はもうひとつあります。こちらの論文(↑)11は最新型のフルオープンMRIを用いれば患者のポジションを様々に変えながらでも画像を撮ることが可能になったので、「同じ患者でも、患部をよりはっきりと写すにはどういったポジションで画像を撮るのが理想的か?」という観点から、色々試し撮りをおこない、その報告をまとめているわけです。こんな論文滅多に出会えないですね、これも面白い…。
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中でも見ていただきたいのが上の比較画像です。これは、実は全く同じ「椎間板ヘルニア」持ちの患者の腰を撮ったもので、左は立位・伸展位(↓左)で、右は立位・屈曲位(↓右)で撮影がおこなわれました。右の画像(↑)はL4-5とL5-S1椎間板にヘルニアがはっきりと見て取れますが、左の画像(↑)を見て「ヘルニアが認められる」と判断する医師や画像技師はいないのではないでしょうか。
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著者らはこの研究で最も意味のある発見のひとつとして「立・伸展位のMRIは、ヘルニアが悪化しより狭窄が顕著に出る一方で、立・屈曲位のMRIではその度合いが小さくなるか、場合によっては完全に狭窄が消失することがある("complete resolution of the same central canal and neural foramen narrowing")」と記しています。



そんなわけで、椎間板ヘルニアの患者を治療するにあたって、カギはいかに「骨盤前傾、胸椎伸展、腰椎伸展のポジションに陥らない」かじゃないかと思うんですよね。先日、ちょうどまさに腰椎間板ヘルニアの選手のコンサルティングをする機会があったのですが、座位でも立位でも伸展しっぱなしのこの選手を伸展位から脱させることに重きを置き、一時間半ほどセッションをしました。癖ですぐに背を反らせてしまうので、いかに屈曲が素晴らしいポジションなのかを分かりやすい言葉で話し、「ここ(伸展位)から出てもいいんだよー」「ここ(屈曲位)にいってもいいんだよー」と、それをまず理解・実感してもらうことにたっぷり時間を費やしました。
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こういうことを書くと、「屈曲って、こういう姿勢がいいって言ってるの?(↑写真左)」と怪訝に思われる方もいるかもしれませんが、そうではありません。左の写真の女のヒト、一見すると「屈曲位」にいるように見えるかもしれませんが、実は彼女がしているのは「伸展位からの屈曲(しているように見せかけているだけ」で、真の屈曲ではないのです。この人は一度も伸展位を出ていないんですよ…線を付けるとよりわかりやすいでしょうか(↓)。
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こんな風に「猫背」に見える人が屈曲の達人かというとそうではなくて、実は進化しただけの伸展の達人ということはよくあります。見た目の脊柱のカーブに捕らわれず、安易に屈曲を悪者にせず、 患者にとっての理想的な姿勢を作り上げていくことって、大事じゃないかなぁと思っていたりします。

1. Colloca CJ, Keller TS, Peterson TK, Seltzer DE. Comparison of dynamic posteroanterior spinal stiffness to plain film radiographic images of
lumbar disk height. J Manipulative Physiol Ther. 2003;26:233–241.
2. Harrison DD, Cailliet R, Janik TJ, Troyanovich SJ, Harrison DE, Holland B. Elliptical modeling of the sagittal lumbar lordosis and segmental rotation angles as a method to discriminate between normal and low back pain subjects. J Spinal Disord. 1998;11:430–439.
3. Jackson RP, McManus AC. Radiographic analysis of sagittal plane alignment and balance in standing volunteers and patients with low back pain matched for age, sex, and size. A prospective controlled clinical study. Spine. 1994;19:1611–1618.
4. Janik TJ, Harrison DD, Cailliet R, Troyanovich SJ, Harrison DE. Can the sagittal lumbar curvature be closely approximated by an ellipse? J Orthop Res. 1998;16:766–770.
5. Troyanovich SJ, Cailliet R, Janik TJ, Harrison DD, Harrison DE. Radiographic mensuration characteristics of the sagittal lumbar spine from a normal population with a method to synthesize prior studies of lordosis. J Spinal Disord. 1997;10:380–386.
6. Harrington JF, Messier AA, Bereiter D, Barnes B, Epstein MH. Herniated lumbar disc material as a source of free glutamate available to affect pain signals through the dorsal root ganglion. Spine. 2000;25(8):929-936.
7. Harrison DE, Colloca CJ, Harrison DD, Janik TJ, Haas JW, Keller TS. Anterior thoracic posture increases thoracolumbar disc loading. Eur Spine J. 2005;14(3):234-242.
8. Keller TS, Nathan M. Height change caused by creep in intervertebral discs: a sagittal plane model. J Spine Discord. 1999;12:313-324.
9. Keller TS, Harrison DE, Colloca CJ, Harrison DD, Janik TJ. Prediction of osteoporotic spinal deformity. Spine. 2003;28:455-462.
10. Nagurka ML, Hayes WC. An interactive graphics package for complex shapes. J Biomech. 1980;13:59-64.
11. Jinkins, JR, Dworkin, JS, Green, CA, et al. Upright, Weight-Bearing, Dynamic-Kinetic MRI of the Spine: pMRI/kMRI. Rivista di Neuroradiologia. 2002;15:333-357.


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  by supersy | 2017-08-09 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

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