SCAT5と最新脳震盪コンセンサス・ステイトメント: その2。

前回に引き続きですが、6月4日に福岡で行う講習のご案内もさせていただきます。
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画像はクリックで拡大します。こちらは東京の講習と内容はほとんど一緒なんですが、主催してくださってる団体が違うので、いくつか昨日紹介した講習と異なる点数があります。1) 同じ内容をもう少し時間をかけてゆっくりと、そしてその分多くの文献をレビューします(特に治療編)。2) 主催団体が異なるため、BOC認定CEUはつきません。3) そのぶん、お値段が少し抑えめになっています。

福岡での個人講習は初めてなので、多くの方にお会いできるのを楽しみにしています!エビデンスにもうちょっと強くなりたい、英語文献の苦手意識を減らしたい、という方はぜひー。



さて、昨日の続きです。

7. Refer
成人なら10-14日以上、子供なら4週間以上症状が続く場合を"persistent symptoms"と呼ぶ、と。ひとつ前のリハビリのセクションで話された通り、symptom-limited aerobic exerciseとc-spine, vestibular rehabの使用を推奨する内容になっています。「今のところ、pharmacotherapyに関しては限られたエビデンスしかないが、これらを使用する場合、RTPの際の『無症状』状態は薬を飲んでいない状態での『無症状』であるよう確認すること」とありますが、これはごもっともですね(Amantadineとかのことを言っているのかなー)。

8. Recovery
より回復に長い時間がかかるpredictorとして、意識消失や健忘症など様々な要素が研究されてきていますが、今のところ一番はっきりと分かっているのが、「脳震盪を受傷した一日目の症状が深刻であればあるほど、回復には長い時間を要することが予測できる」ということなんだそう。逆に言うと、「初日の症状が軽ければ軽いほど、その先の見通しも明るい」ということにも。偏頭痛や精神疾患の既往歴がある患者は症状が一ヶ月以上続くリスクが高い一方、ADDやADHDなどの学習障害は脳震盪からの回復には影響が無いようだ、ということも報告されています。

9. Return to Sport
これは百聞は一見に如かず、ということで、第4回と第5回国際スポーツ脳震盪会談のRTPモデルを直接比べてみちゃいましょう!上が第4回から抜粋したもの、1 下が今回のコンセンサス・ステイトメントから抜粋したもの2 です。
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もうステージ1が明確に違いますね。闇雲にただ患者を休ませるのではなく、症状に導かれて(symptom-guided)活動をすることの重要性が改めて強調されています。ここらへんは、整形のケガと同じですよね。昔は足首の捻挫なんかもPRICE (protection, REST, ice, compression, elevation)しろと言われてきたのが、近年はPOLICE (protection, OPTIMAL LOADING, ice, compression, elevation)こそがカギである、3 と言われているのと同様に、脳震盪患者も1-2日しっかり休んで、3日目からは症状が悪化しない範囲で適度な活動をすることが大事、という風に専門家間の価値観が変わってきているのがわかります。

10. Reconsider
「エリート選手であろうがそうでなかろうが、同じマネジメント方法を変えることがあってはならない」というのは納得です。プロスポーツのプレイオフやオリンピックなんかで、あり得ないくらい速い脳震盪からの競技復帰を目にしたことは一度や二度ではありませんから…。

Child (5-12歳)やAdolescent (13-18歳)が脳震盪からの回復により長い時間がかかる(i.e. Childrenの場合は4週間)というのは今更言及するまでもないとは思うのですが、「彼らにまず優先されるべきは完全学業復帰で、その後で競技復帰がなされるべきである」「学校単位でスムーズな学業復帰の指針となるacademic accommodationを設け、サポート体制を整えておくべきである」と書かれているのはいいですね。これはスポーツ医療とは分けて、もう完全に学校側の責任にしてしまってもいいと思うのですが…。もちろん、スポーツと学校側のコミュニケーションと意思疎通は大事だと思うのですが、責任は振り分けたほうがいいとも思うのです…。私だけかな…。

11. Residual Effects and Sequelae (後遺症)
ここではほんの少しだけCTEについて記述されていますが、「繰り返されるhead traumaでCTEが起こる可能性がある」「…が、因果関係はまだ確立されておらず、これからの研究を待つ」という、強い肯定も否定も含まない文章になっています。True prevalenceがまだわからないのですから、この慎重な表現は当然ですよね。私も続報を待っています。

12. Risk Reduction
ヘルメットやマウスガードのエビデンスは限られており、どちらかというと「使用しても脳震盪予防には効果が無い」可能性のほうが高そう。最も確実に脳震盪予防に効果があったのは1) ユースホッケーでのバディーチェッキング禁止ルールの採用; いくばくかのエビデンスがあるのは2) ユースアメフトのコンタクト制限は頭部へのコンタクトを減らす(が、それが脳震盪を減らすかは不明); 3) 大学アメフト選手のビジョン・トレーニングは脳震盪を予防するかもしれない(これについては初めて聞きました…参考文献を読んでみたいけど引用がされていないので知っている方教えてください)だそうで。逆に「予防には無効」だと分かっているのは4) ユースホッケーの「フェアルール」採用; 5) ヘルメット・パッド無しのアメフトのタックル練習 (えー!これ期待していたのになぁ、ダメだったんだ)なんだそうです。ふむふむ。

さぁ、コンセンサス・ステイトメントはここまでなのですが、SCAT54についても手短にまとめておきたいと思います。
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冒頭(p.2前半)に分かりやすく"STEP 1: RED FLAGS"の記述があるのは非常に好感が持てます。なるほど、p.2が"Immediate or On-field Assessment"で、p.3-5が"Office or Off-field Assessment"になってるんですね、患者をいつ動かしていいのか明確で良いと思います。前回SACの後にあったNeck Examinationが今回はCervical Spine Assessmentとしてかなり早い段階で出てくる(p.2の最後)ところも、頸椎損傷をまず除外しようという目的なんでしょうね。しかし、Step 3 Maddocks ScoreとStep 4: Glasgow Coma Scaleは順番が逆なのでは?とどうしても思ってしまうのですが…。うーん、ここだけは少し腑に落ちないなぁ。
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p.4はまるまるSAC…数字も覚える単語もかなりバリエーションが増えていますね。で、p.5でNeurological Screenというのが初登場です。ここにFinger-to-Nose TestにTandem Gaitと、一見消えた風に見せかけられたアイテムたちが隠れています。で、次はそのままmBESS Testで、最後にSACのDelayed Recallやって終わり、と。

つまるところ内容はSCAT3とほぼ一緒。少し順番の入れ替えがあったのと、いつ患者を動かすかのタイミングを明確に表記したところが今回のSCAT5のユニークさでしょうか。"The SCAT5 cannot be performed correctly in less than 10 minutes"と冒頭に明記されていますが、SCAT5そのものは、やはり全てちゃんとやろうと思うと10分以上はどうしてもかかるものです。完全なるサイドラインテストではありません。そういう意味では、「ここまではon-field」「ここらはoff-field」という区別がされることでかなりユーザーフレンドリーにはなったのではと思いますね。個人的に、疑問がないところがないわけではないですが…。

K-D Testみたいな要素も入るのかなと思っていましたが、そういうのはないんですね。やっぱりportability(持ち運びの容易さ)も大事なんだろうし、これだけの小さなスペースに収めるのに無理があるということなんでしょうか。お手軽さ、スピーディーさでいったら大したもんだと思うんだけどなー。

今回のアップデート、Dr. Leddy氏らの研究内容が組み込まれたのはどきどきワクワクで、ある意味パラダイムシフトの始まりと言えそうですが (これを受けてNATA Position Statementも緊急でミニアップデートとかしないのかなー)、それ以外にこれといって目からウロコが落ちるようなびっくりする内容はなかったですね。将来、2020年に発表されるという第6回のコンセンサス・ステイトメントを楽しみに待つことにします。次回はウロコぼろぼろ落としたいです!

1. McCrory P, Meeuwisse WH, Aubry M, et al. Consensus statement on concussion in sport: the 4th International Conference on Concussion in Sport held in Zurich, November 2012. Br J Sports Med. 2013;47(5):250-258. doi: 10.1136/bjsports-2013-092313.
2. McCrory P, Meeuwisse W, Dvorak J, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. Br J Sports Med. 2017;pii:bjsports-2017-097699. doi: 10.1136/bjsports-2017-097699.
3. Bleakley CM, Glasgow P, MacAuley DC. PRICE needs updating, should we call the POLICE? Br J Sports Med. 2012;46(4):220-221. doi: 10.1136/bjsports-2011-090297.
4. Echemendia RJ, Meeuwisse W, McCrory P, et al. The sport concussion assessment tool 5th edition (SCAT5). Br J Sports Med. 2017;pii:bjsports-2017-097506. doi: 10.1136/bjsports-2017-097506.

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  by supersy | 2017-05-12 23:00 | Athletic Training | Comments(0)

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