医療と環境問題: Sustainabilityという言葉を引き続き考える。

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前回に引き続いてsustainabilityの文献を読んでいます。こうして読んでみると、前回紹介した3つのAT関連のsustainabilityの論文は、かなり流行りの最先端だったんじゃないかという気がします。他の医療職と、後れを取っていない!あれを書いた人たち、すごいなー!
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#4 Anaker & Elf, 2014
スウェーデンの文献、舞台はATから看護師界へ。環境破壊が進み、異常気象、土地が枯渇し、海水が上昇し、食べ物がなくなって健康にも影響が出始めているにも拘わらず、看護界に現存するsustainabilityに関する文献はごくごく限られていることを指摘。これからこのコンセプトが看護教育の中で"sustainability curriculum"として根付いていくことの必要性、そして環境保護を意識した看護臨床での実践が行われていく重要性を強調しています。

看護界隈の文献で、sustainabilityに関してどんな定義付けがおこなわれ、どのような実践が提案されているのか?というのをまとめたのがこのnarrative review。14の文献をレビューし、要約しています(看護界って新しいトレンドに敏感で、色々なことを活発に話しているイメージがあったのでこの少ない数字は個人的には意外。探し方に問題があったのかもしれないけど)。ではまずは言葉の定義から。

sustainability/sustainableという言葉の語源はラテン語の"sustinere (= to hold)"からきており、そこから派生した意味として現在では1) able to continue for a long time (長く続けられる)、2) causing little to no damage to the environment and therefore able to continue for a long time (環境を破壊することなく、長く続けられること)という意味で使われるようです。ここで紹介されていたひとつのsustainabilityの定義、"a development that meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own need (まだ見ぬ世代の未来の人々の生きる選択肢を妨げることなく、今日の我々のニーズを満たすこと)"は中でも秀逸だなぁと。

Sustainabilityを理解、実践する上で重要な単語は1) Ecology (生態系のバランスを保つ); 2) Environment; 3) Future (この二つはsustainabilityの中心となる単語と言っても過言ではない、と筆者); 4) Globalism (地球規模で考える); 5) Holism (我々はHolistic practitionerである以上、holistic perspectiveでsustainabilityを考えていかなければいけない、とのこと);6)Maintenance (…これはholdともほぼ同じ意味ですね)。
例えば、看護師の勤務するsurgical unitでモーションセンサー式スイッチの導入でスタンドバイ電力消費を減らしたり、麻酔ガスのリサイクル(…なんていうのができるんですね!ここらへんは全く不慣れなので分からないです)などを通じてmedical waste (医療廃棄物)の削減をしたり、牧場運営関係の温室効果ガス発生を減らすため、病院での食事は週に二回は肉無しにしたり(これは、一概に素晴らしいともいえないのでは、という気もしますが…職員、患者さんの声は聞いているのかな)…という取り組みを提案しています。

ユニークだったのが「Antecedents and Consequences」というセクションですかね。Sustainabilityが生まれるまでに起こらなければいけない「前提」があるのだとしたら、1) climate change (気候の変化、特に温室効果ガスの影響が大きい); 2) environmental awareness (それに気づくものがいること); 3) confidence in future (未来への希望が無ければ、we have nothing to build upon…とは耳に痛い一言); 4) responsibility (個人もそうだが、社会と政府レベルでも); 5) willingness to change (これら全ての前提が意味を成すかはコレにかかっていると言っても過言ではない)…の5つなんだそうで。

Sustainabilityに関する人々の知識、態度、実践をobservation, interviews, surveyを通じてこれからも積極的に推し測っていく必要があるでしょうし、実際に環境に起こせる変化はCO2排出量などの具体的な数値を使っても示していくことができますね。

…うーん、concept analysisという、「今産声を上げたばかりのコンセプトを検証してみました」という、こういうタイプの論文を読んだことがなかったからかもしれませんが、よくこの(どちらかというと薄い)内容でこの(多くの)ページ数書いたなぁという、なんというか、読みにくい文章でした…。あんまりピンとこない…、そんな意味のある情報があるように感じられなかった…。もう一回後で読んでみよう…。
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#5 Grose & Richardson, 2016
こちらも看護学、2016年発表の比較的新しい文献。イギリス。
「医療は温室効果ガスの『大いなる出元』であり、リソースを著しく消耗している」― という入口から、sustainability literacyをcore competencyとしてprofessional levelの学生に学ばせる必要があるのでは、という近年の提言も紹介。Sustainabilityを教育に組み込んでいくために、こんなことをしてみたんですけど、皆さんも参考にしてみてはいかが?と教育案を提示しています。
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さて、この論文で紹介されているのは2年生の看護学生を対象に行った、シナリオ・ベースのsustainabilityへのアプローチ。まずは「将来的にプラスチックが手に入りにくくなり、価格が上昇する」という想定(シナリオ)を聞かされたあとで、学生たちはグループに分かれ、プラスチックという資源はどのように作られるのか、それによって我々の提供する医療がどう影響を受けるかディスカッションを行います。そのあとで、プラスチックで作られている「日常品」がどれくらいあるか、他に同様に影響を受けそうなマテリアル(綿や紙など)についても協議。インターネットを使ってそれぞれの物質がどれほど普及しているのか、どんな代用品が可能なのかを調べながら、無くなった場合の影響が大きい順番に並べていきます。順位を付けたところで、それぞれの物質に対し、医療の現場でそれぞれがどのように使われているかを明確にしながら、clinical waste, general waste, recycle/reuseのうち、どの処理法が適切かさらに議論。その「処理法」のコストも考慮に入れながら、「これはこういう用途だと血がつくので臨床廃棄しかないね」「これはもう一回使えるんじゃない」とわいわい話し合うわけです。

この経験を通じて学生が何を学び、何を考えたかアンケートを取り、レビュー。学習に参加した293人のうち、290人から回答(任意だったため)。98.97%の参加者が「役に立った」、97.57%が「現実味があった」と答え、具体的には「特に影響順に並べたのがよかった」「毎日やっている臨床との関連性がはっきりしていた」「結果を考えずにモノを使っていたんだなぁと実感した」とポジティブなコメントが並ぶ一方で、廃棄処理に関しては「病院のwaste management policyやinfection control policyと反するところもあり、今回話した内容をそのまま現場で実践するのは難しい」という懸念も多くあがったそう。

「実際にこのトレーニングを受けてみて、これからどんな行動をとりますか?」という項目では、「他のスタッフとも話し合ってみようと思う」「ゴミの分別などもう少し注意してみてみようと思う」「ポリシーに疑問をぶつけてみようと思う」という回答が。「何か他にコメントはありますか?」という最後の質問では、「3年時にsustainabilityについてのリサーチプロジェクトを設けては」「一方的な講義ではなく、参加型の話し合いスタイルだったのがいい」という好意的、積極的な意見が見られた一方で、「司法からの介入の必要性を感じる。一人で行動し、ライセンスを失うのはリスクが大きすぎる」という心配をシェアしたものも。

まとめると、懸念として挙げられたのは1) 上記の通り、現場で定められている廃棄法と環境保護を理想とした場合の廃棄法とのギャップ; 2) non-sterile gloveの過使用 ― 必要でないときにも手袋をする傾向(overuse, misuse)が多く示唆されたが、「手袋をしていないとpoor practiceだと思われる」というプレッシャーもどうやらあるのでは…。しかし、手袋のmisuseはかえってcross-contaminationを招くこともあり、ここは更なる研究が求められる分野かも、とのこと。ふーむ、これは看護師ならでばの面白い視点!あんまり考えたことなかった(ATの多くはまだまだunder-useが問題なので)。この論文は面白かったなー!やっぱりqual中心でもデータがあるほうが楽しい。
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#6 Bretti et ai., 2014
こちらはOncology (腫瘍学)界からの論文、イタリア発信。
1980年代にbiomedical modelが主流となり、医療は化学、物理と分子生物学の影響のみを受け、一人の医師が一人の患者を担当するのが当たり前の時代がしばらく続きました。この時代、患者のアイデンティティーはなく、「あなたはこの病気だからこういう治療をする」という一直線のレシピ本のようなアプローチが多く見られたといいます。
1977年あたりに台頭してきたbiopsychosocial modelという考え方が徐々に広まり、患者の人生を考慮に入れ、患者自身が病気をどう見ているか、どういう人生を送りたいと思っているかに医療判断が大きく影響されることがよしとされ、一直線ではなく、holisticなもっと複雑なアプローチが許されるようになったのです。一人の医師が全てを担うのではなく、multi-professional teamによって、複数のプロが患者の快方に関わっていくのも、そう考えると至極当然です。
さて、筆者らは「現代の医療はとにかく治療効果が重視され、cost-effectivenessとsustainabilityは後回しだが、それでいいのか」と問題提起しています。「効果のある」治療を受けるためには法外ともいえるような退学の治療費を払わないといけない…なんてケース、TVなどでも目にしますよね。Oncologyはそういった問題の一番の被害者といっても過言ではないかもしれません。今出現すべきは環境にも配慮を払ったecological model」なのかもしれません。アウトカムを落とさず、患者一人一人の個性をappreciateした上で、コスト的に最も効率のよく、更に環境への悪影響が最も少ない選択肢も同時に選んでいきましょうよ、というわけです。

イタリアの"Italian College of Hospital Medical Oncology Directors"という団体は"Position Paper of Green Oncology"という公衆声明を発表したそうですよ。その中には大きく以下の11の項目が含まれています。

1. プラスチックの使用は最小限に。
2. 経済的負担を軽減するために、risk sharingと結果に基づく医療費請求が行われるべきである。Drug Day Therapyは可能であればどんどん採用されるべきだし、t使われなかった薬は回収されるべきだ。
3. 効果と安全さえ確立されたならば、biosimilar drugsの使用は大いに歓迎されるべきである。
4. 細胞増殖抑制剤のprepでは、teratogenic, mutational, そしてcarcinogenic riskは最小限に抑えられるべきである。
5. Oral chemotherapeutic treatmentは適切なケースでは一刻も早く開始されるべきである。
6. emailやインタネットを介してのコミュニケーションは患者と医師の関係を補完するためにも積極的に行われるべきである。
7. エビデンスとclinical guidelineに基づき、不要なfollow-up visitsは軽減
8. biomedical modelではなく、biopsychosocial modelが使われるべきである。
9. 可能であれば、トレーニングや教育はオンラインで行うべきである。
10. Overtreatmentはunacceptableなものであるとみなされるべきである。これは患者、医療従事者の両者にとって脅威にしかならない。
11. 癌の予防医療、そして生態系への配慮はいかなるときも行われるべきである。

こういうのが2013年に発表されているんだとしたら、イタリア腫瘍学界、最先端まっしぐら恐るべしですね!やはりヨーロッパのほうがこういう取り組みはアメリカの10年は先を行ってるんでしょうか。
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#7 Aditya & Rattan, 2014
さて、今回のまとめ最後の論文は薬学の世界から、インドの文献。
飲み残しや期限切れの薬は「医療リソースの無駄遣いであり、ひいてはlost opportunities to achieve therapeutic outcomesの反映、環境への負担である」という強いstatementから始まるこの論文。イギリスでは€300、アメリカでは$4180億という額のお金が年間で「薬剤廃棄」によってドブに捨てられているんですって。「薬学」に関わる医療廃棄物というと、まぁ前述したように、処方されたものの使われなかった薬や期限以内に使用されなかった薬、汚染されてしまった薬のことを指すわけですけども、こういうのを文字通り「水に流してしまう」ことで川や池、そしてそこに住む魚たちの生態系が変わってしまってきているという報告もあるんですって。私知らなかったんですけど、薬って28年とか経ってもactive ingredientのほとんどは90%以上の濃度を保ったままactiveだというのだからびっくり(じゃなんでそんなにさっさと「期限切れ」になっちゃうんだろう?)!NSAIDsとかホルモン剤、抗生物質は特に危ないそうです。抗生物質なんか、あれですね、薬の効かないおっそろしい化け物ができそう…。抗うつ剤やカルシウムチャンネル抑制剤なんかも水への影響が強いとか。

さて、薬剤師は適切な薬の廃棄法について知っているのか?この重要な知識の有無と、患者への説明の仕方についてsurvey形式で調査したのがこの研究です。北インドに住む薬剤師を無作為に選び、そのうち56%にあたる、84人から回答がありました。多くの薬剤師が未使用の余った薬はdistributor(支給会社)に送り返していたそうですが、固形の薬、しかも少数の場合は一般ゴミとして廃棄してしまっていると回答する者も多かった(29%)そう(もちろんこれは不適切)。90%の薬剤師が「定期的に期限切れの薬を撤去するシステムがある」と回答していたのは喜ばれるべきことですが、ほぼ同数の89%が「適切な廃棄法については学校で習ったことがない」とも答えていたというのにはびっくり。教育の根本的な改善が求められますね。「distributorがどう薬を廃棄しているか知らない」という人も21-37%いたそうで、「焼却が最も適切な薬の廃棄法である(=正解)」と答えたのは69%、つまり31%が不正解。98%が「患者に薬の廃棄法について聞かれるたことはない(=教育をしたことがない)」と答え、58%が「薬の不適切な廃棄は環境汚染につながるであろう」と回答しています。うーーーむ。これは色々と課題の見えてくる結果です。

薬学はproduct-orientedからpatient-oriented serviceへと変わるべきだ、とは筆者。FDAの規定に従えば、薬の多くはトイレに流したりではなく(流していいものも26種類あるようですが)、例えば固形の薬である場合、猫のフン入れとか、ヒトが触らなさそうな容器に入れて捨てるか、コミュニティー内の薬回収プログラム(Take-backサービス)を通じて返却したりするといいそうです。液体のものは塩や小麦粉と混ぜ、ヒトが寄らなそうな匂いをつけてから捨てるなど、やっぱり一工夫するのがいいみたいですね。もちろん、中毒性が高いようなcontrolled substanceに関してはstate-licensed facilityに書類を提出して処分する、といったようなもっと細かい決めごとがあるようですが。ちょっと先に書いたように、汚染を起こさない方法としてはincineration (焼却)が最も良いそうです。で、燃えカスを漏れない容器に入れ、薬剤廃棄物として特別廃棄する、と。
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Take-backサービスという地域単位の取り組み、私は初めて耳にしました。使わなかった薬を郵送で送り返したり、ボックスに返却したりするようなシステムなんだそう(↑)。こういうのには今回調査対象になった薬剤師さんの中にも「こういったサービスはもっと行われるべきである」という積極的な態度の人は多い(73%)ようで。こういうの、薬剤師学生も巻き込んで各地域が積極的に取り組めば、コミュニティーにも個人にも根付いていいかもですね!あとは処方する際のタイムスパンを短くする(i.e. 何ヶ月分と出す代わりに数週間区切りにする)とか、新しい薬が効くかどうか試す際は一週間だけのトライアル処方にするとか…。

この調査はインドでおこなわれたものですが、この薬社会アメリカではどうなのかものすごく気になります。しかし、薬剤師という職業、薬を調合し生み出すチカラだけではもうだめな時代ですね。きちんと廃棄できて処理できて、環境への配慮ができて確かに「一人前」なのかもしれません。こちらも非常に興味深い内容でした。

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  by supersy | 2017-02-25 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

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