息を「吐く」重要性: 横隔膜への徒手療法で頸椎・腰椎・股関節の可動域が改善する?

b0112009_14201429.jpg
ついさっきですが、スカイプ経由で第二回スポーツ救急サミットにて発表させていただいておりました(日本時間では昼、私には夜10時過ぎでした)。途中コネクショントラブルで会話が切れてご迷惑をおかけしましたが、私の発表後もそのまま繋いでいただいたので思いがけず他の先生の講義を聞く貴重な機会もあり、日本でのスポーツ救急対応にかける皆様の熱意が伝わってきてこちらにもとても良い刺激になりました。山本先生、太田先生を始めとするお世話になった関係者の皆様、ありがとうございます。

それから、引き続き12月25日開催のEBP講習のお申し込みも受け付けております!クリスマスにも関わらず、都内や関東圏はもちろん大阪、滋賀、福岡、熊本に福島など、様々なところからお申込みいただいていて、とても有難い・嬉しいです。楽しい一日にしましょう!広い会場を抑えたのでまだ残席ありますよぉー。

<講習日時>
2016年12月25日
 9:30am-12:30pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
 12:30pm-13:30pm 昼食(各自)
 13:30pm-16:30pm エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
 16:45pm-19:45pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで

参加はお好きなコースひとつだけでも、2つでも3つ全てでも可能です(複数講習参加する場合は、お手数ですがこちらから各イベントひとつずつお申し込みください)。参加資格の指定はありません、エビデンスという言葉が苦手な方や学生さん大歓迎です。ATCのクレデンシャルをお持ちの方には、各コースEBP CEUが3つきます。3つ全て受講すれば3 x 3 = 9 EBP CEUsです。

<会場> 連合会館 402会議室 東京都千代田区神田駿河台3-2-11
 東京メトロ千代田線  新御茶ノ水駅 B3出口すぐ
 東京メトロ丸ノ内線  淡路町駅 B3出口すぐ(B3出口まで地下道徒歩5分)
 都営地下鉄新宿線  小川町駅 B3出口すぐ(B3出口まで地下道徒歩3分)
 JR中央線・総武線  御茶ノ水駅 聖橋口徒歩5分

<定員> 70名

<受講料>セット割引、学割あります! 
  一般 1コース 9,000円
     2コース 16,200円 (10% off - 1,800円引き)
     3コース 22,950円 (15% off - 4,050円引き)
  学生 1コース 8,100円 (10% off - 900円引き)
     2コース 14,400円 (20% off - 3,600円引き)
     3コース 20,250円 (25% off - 6,750円引き)



さて、本題です。今回は読んだ論文のレビューを忘れないうちに書き留めておこうと思います。横隔膜系の論文を読むのは完全に趣味なので、これも個人コレクションに加えなきゃなりませんから…。んで。今回紹介するのはふたつの論文ではありますが、同一の研究チームによるものなので造りは非常に似ています。まずはこちら(↓)1から。
b0112009_10385117.png
この論文ではハムストリングの柔軟性が欠けているとバランスやスポーツパフォーマンスの低下が見られる、且つそのままにしておくと可動域の制限、姿勢異常、痛みや怪我のリスクにつながることから、2 早めの介入の必要性を呼び掛けており、特にShort-Hamstring Syndromeの患者が特定の腰椎異常も持っていることが多い3,4のであれば、腰椎に付着した横隔膜への介入も有効なのでは?というのがバックグラウンドです。ここまでは私もよく見聞き知っている理論ですが、正直なところここまでのLit reviewの引用と文献を用いての論理展開は雑な印象です。あまりそそられません。つーかShort-Hamstring Syndromeの学術的な定義ってなに?伸張位にあるから「張り」を感じるんであって、実際短くなってるわけじゃないでしょ?色々とつっこみたいけれども、まぁでもここはぐっと堪えて最後まで読むです。
b0112009_11214204.png
で、この研究では60人の"Short-Hamstring Syndrome (PAT >15°且つFFD >5cm、上図参照)"の被験者をランダムに1) Diaphragm Technique Groupか2) Placebo Groupにわけ、Diaphragm Technique Groupの患者には下の写真のような、「施術者が徒手療法を使って胸郭を下げ、横隔膜をリラックスさせ、呼気を強調することでそのドーム型をrestoreする」ことを目的とした5-7分間の治療が施され、その前後に計測したoutcome measureを比較しました。長期的な治療を追っかけたものではなくごく短期の、single-session studyですね。データコレクターがグループアサインメントを知らない、ということでsingle-blinded studyというカテゴリー分けになっています。
b0112009_11413815.png
"Doming of the diaphragm is a technique designed to relax the resting state of the diaphragm, enhancing its contraction and relaxation functions (p.344)." 原文より。このテクニックはイギリスのオステオパス医師、Leon Chaitow氏が提案・推奨した横隔膜不全/過呼吸患者へのアプローチテクニックですね。患者は胸椎屈曲位を取り、息を吐いている間に施術者が肋骨を下へ導く、という徒手療法で、肋骨を引き下ろしたらこの位置を5-7分キープするのだそう(吐き切った肋骨の位置を保つことにより、横隔膜が休まった位置をキープできる。これは横隔膜のストレッチと呼ばれたりもしているそうだけど、横隔膜を引っ張って伸ばしているわけでじゃなく、弛ませて休ませているわけだから、個人的にストレッチという名称はどうかと思います。誤解を招きそうかなぁと)。著者らはスペインの大学に勤務する研究者のようですが、これはスペインでよく使われているテクニックなんでしょうか?私は個人的にこれは見聞きしたことがあるだけでfamiliarではないので、一回施術風景を見てみたいです。

で、結果は以下の通り。Placebo組が全てのoutcome measureにおいて治療前後で何も変化がなかったのに比べ(p > 0.05)、Diaphragm組はハムストリングの柔軟性、腰椎と頸椎の可動性の全てが著しく改善。Power Analysisをした上で、最低限必要な被験者の数以上(各グループ28人のところ30人)用意したことは評価されるべきで、95%CIのLower End Valueを見てもこれは統計的に決定的な結果と言うべきでしょう。
b0112009_11475312.png
そんなわけで、呼気を強調し、ドーム型を修復する横隔膜へのアプローチで、頸椎・腰椎の可動域が上がり、ハムストリングの柔軟性が向上する、つまり"Short-Hamstring Syndrome"に有効な治療法である…というのがこの論文の結論です。一回のセッションで得られた効果がどれだけ持続するかはこの研究では検証していませんが、横隔膜へのアプローチでハムストリングの柔軟性が回復するのなら、組織の拘縮はどうやら起こっていないのではないか、日々ストレッチをして軟部組織を「伸ばす」必要はどうやらなさそうではないか、ということも言えるかもしれません。ここんとこは、私の個人的な考察です。

b0112009_14532981.png
もうひとつの研究はこちら(↑)。5
こっちの論文のほうが冒頭の文章がさっきのものより格段に好みなんだけど、やっぱり文献引用がめちゃめちゃ甘い気がするんだけどなー。そんなことないのかなー。とりあえずこちらの論文ではですね、Short-Hamstring Syndromeは置いといて、健康な被験者に対しての横隔膜へのアプローチが脊椎の動きにもたらす影響について掘り下げています。

担当統計学者が研究目的やデザインを知らないままデータ分析を行った/データコレクション担当者もグループアサインメントは知らないままだった(=single blinded)、というところと、被験者はランダムに1) Diaphragm Technique Groupと2) Placebo Groupに分けられたのは先の研究と同じ。検証されたテクニック(横隔膜徒手療法)も上記と同じもの。で、計測されたOutcomeは頸椎のROM、腰椎のROMとFinger-to-Floor Test (FFT - 前回のFFD Testとほぼ同じ)の他に”Abdominal and rib cage excursion"、つまりテープメジャーによる胸囲の計測(2nd intercostal space, xiphoid process, midpoint between the xiphoid and umbilicusの計3箇所)を入れています。明記はされていないのですが、恐らく呼気と吸気の胸部の広がりをcmで記録したものと思われます(数値が高い=胸郭の開閉度が大きい、ということなんじゃないかな)。このMeasurement、私は初めて聞くのですがintra-rater reliabilityとinter-rater reliabilityはそれぞれ0.96-0.98、0.84-0.87だそうです。6 それぞれ問題のない、優秀な数字です。

で、結果は以下の通り。横隔膜のアプローチは頸椎・腰椎の可動域とPosterior Chain Muscleの柔軟性に対する改善が著しかったのに比較して、Placebo Groupは変化なし。これは前回の研究と同様の結果と言えますね。それから、Diaphragm Technique Groupは横隔膜の位置するXiphoid levelでの胸郭の開閉度も平均約2.6cmと大幅に改善。比べて、Placebo Groupは腹部のExcursionのみ1cm程増加…これは、お腹を休めるような恰好を7分間取っていたからでは、というのが著者の考察です。
b0112009_15515151.png
そんなわけで、こちらの研究5でも横隔膜へのアプローチで頸椎・腰椎の可動域が改善、Posterior Chainの筋緊張が取れ、ひと呼吸において胸部がより深く閉じた状態からより大きく、効果的に開けるようになる…というのが結論です。どちらの研究でも、徒手療法て触れてすらいない股関節や頸椎の可動域に影響が出ているのが非常に面白いと思います。使っているテクニックこそ違えど、テクニックの意図とコンセプトは私が勉強しているものと全く同じなので、こういう研究に出会えるのは楽しいですね。この冬に教えるPostural Respirationにも繋がってきそうな内容なので、講習参加予定の方はぜひ今回の論文ふたつ読んでみてほしいです!

1. Valenza MC, Cabrera-Martos I, Torres-Sánchez I, Garcés-García A, Mateos-Toset S, Valenza-Demet G. The effects of doming of the diaphragm in subjects with short-hamstring syndrome: a randomized controlled trial. J Sport Rehabil. 2015;24(4):342-348. doi: 10-1123/jsr.2014-0190.
2. Forman J, Geertsen L, Michael E, Rogers ME. Effect of deep stripping massage alone or with eccentric resistance on hamstring length and strength. J Bodyw Mov Ther. 2014;18(1):139-144. doi: 10.1016/j.jbmt.2013.04.005.
3. Raftry SM, Marshall PW. Does a 'tight' hamstring predict low back pain reporting during prolonged standing? J Electromyogr Kinesiol. 2012;22(3):407-411. doi: 10.1016/j.jelekin.2012.02.008.
4. Biering-Sorensen F. Physical measurements as risk indicators for low-back trouble over a one-year period. Spine. 1984;9:106-119.
5. González-Álvarez FJ, Valenza MC, Torres-Sánchez I, Cabrera-Martos I, Rodríguez-Torres J, Castellote-Caballero Y. Effects of diaphragm stretching on posterior chain muscle kinematics and rib cage and abdominal excursion: a randomized controlled trial. Braz J Phys Ther. 2016;20(5):405-411. doi: 10.1590/bjpt-rbf.2014.0169.
6. Cahalin LP, Braga M, Matsuo Y, Hernandez ED. Efficacy of diaphragmatic breathing in persons with chronic obstructive pulmonary disease: a review of the literature. J Cardiopulm Rehabil. 2002;22(1):7-21.

[PR]

  by supersy | 2016-11-26 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

<< 月刊トレーニングジャーナル1月... ひとつのスポーツに特化する高校... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX