ひとつのスポーツに特化する高校生アスリートは怪我をしやすい?: マルチスポーツのすゝめ。

アメリカの高校スポーツが面白いのは、シーズン制を採用しているところなんですよね。例えば9月から11月くらいまではアメリカンフットボールとバレーボール、11月から2月までがバスケットボールにサッカー、2月から5月までが野球にソフトボール…という感じで、終わりと始まりがはっきりと決まっているので、ひとりの選手が複数の競技に参加することが可能なのです。私が高校で働いていた頃も、運動神経のいい子はアメフトからバスケットボール、野球へと移行し、ついでに陸上も…、といったように、あちこちにひっぱりだこでなんでも活躍しちゃうマルチな子がたくさんいました。
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一方で、近年アメリカで問題になっているのが、高校のチームのみでなくクラブチームにも所属して、ひとつのスポーツに特化し一年中そのスポーツをプレーし続ける選手が増えていることです。これに関しては、IOC1やAMSSM2などの複数の団体がポジションステートメントを介して「若いうちは複数のスポーツをするほうが良い」と進言しているにも関わらず、それを無視する形で現状は悪化しているようです。3「プロになるには早いうちから専門性を高めなければ」と選手も親御さんも思うのでしょうけれども…、運動能力という意味でも、燃え尽き症候群を防ぐためにも、様々なスポーツを経験しておいたほうがいいのでは、と危惧する声が上がっています。
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もうひとつ、ATとして知っておきたいのが怪我のリスクです。ひとつのスポーツに特化したほうが怪我をしやすいのか、それとも複数するほうが怪我のリスクが高いのか?今回レビューするこの論文(↑)3では、1) どのくらいの高校生アスリートが「特化」しているか、 2) 「特化」するアスリートに、性別、学年、高校の生徒数など、特徴はあるのか、そして 3) 「特化」しているアスリートとマルチスポーツアスリートとで、下肢に起こる慢性傷害の頻度に差はあるか、を検証しています。

研究対象になったのはウィスコンシン州にあるふたつの高校で、ひとつは生徒数が2000を超えるジャイアント校、もうひとつは生徒数が600余りと規模の小さ目の学校。13-18歳のサッカー、バスケットボール、テニスとバレーボール選手302人を対象に、1) 特化かマルチ、自分のスポーツ歴をどのように評価するかと 2) 今までに下肢(股関節、大腿、膝、脹脛、足首、足部)に怪我をしたことがあるかをアスリートにアンケート形式で答えてもらい、結果を分析しました。

ここまでで私がうっかりがっかりした要素を上げておきますね。まずは、あらかじめスポーツの特化を調べてからそれぞれの選手を1シーズン追い、起こる怪我をその都度ATが研究者に報告するようなprospectiveの研究ではなく、後出しで「貴方のスポーツの特化具合はどうなの?あ、ちなみに今までどんな怪我をした?」という尋ねているタイプのretrospectiveな研究であるということ。Retrospectiveは選手の記憶が全てなので、例えば彼らがウソをついたり、わからなくて適当に答えたり、もしくは記憶違い (=recall bias) があればそれだけでデータがskewしてしまいます。
加えて、たったふたつの学校、それにスポーツもたった4競技というのはサンプルとしてどうなのでしょうか。あまりgeneralizabilityがないように思います(=この研究結果を「アメリカ在住の全高校生アスリート」という大きな対象に広げて解釈することはできません)。だってね、これだけサンプルに偏りがあると、コーチによる影響の比率が大きすぎるのではないかと思うんですよね。例えば、その高校のバレーボールコーチがクラブチームのコーチも兼ねていて、高校のチームに所属している子はクラブチームにも入るのが暗黙の了解になってしまっている場合なんか見たこともありますし、逆に高校のコーチが「勝手に変な癖をつけてほしくない」などの理由で、逆にクラブチームの参加に反対だとかという可能性もないことはないと思うんです。そんなコーチが一人でもいれば、かなりこの研究のデータも引っ張られてくるでしょうね。
それから、研究対象になった怪我が「慢性的な下肢傷害」に限定されている理由が明記されていないのが気になります。たぶん、高校スポーツで起きる怪我の半数以上が下肢の怪我だから、そして急性のコンタクトによる怪我はスポーツの特化性とあまり関りがないと判断したからなのでしょうが、それらを文献を引用して説明するのとしないのとではだいぶ印象が変わってきますね。
ここらへんは私は読みながら頭に「??」とクエスチョンマークが浮かぶあたりです。ここらを念頭に置きながら読み進めます。本題に戻ります。

で、結果なのですが。突っ込みどころはここでも多いんですけど、それをなるべく置いておいて、私が面白いと思った結果を中心にまとめますね。

● 規模の大きい高校のほうが、選手がスポーツに特化している傾向にある (↓下グラフ)。
これは理に適っているように感じますね。大きい学校のほうが人材が豊富にある分、それぞれの部活のニーズを満たすのに十分な選手数がそれぞれのチームで確保できる。ロスターに残る競争率も高い分、よりレベルが高くなければチームに所属すらできないということもあるでしょう。あとね、これは、組織の意識による影響も少なからずあるんじゃないかと思うんです。小さい高校ではコーチも複数のスポーツコーチを兼任にしていることも多く、「兼任」が当たり前という雰囲気がある一方で、大きな高校でコーチと環境がそれぞれのスポーツに「特化」していると、「あのーすみません、他のチームの練習があるんで抜けてもいいですかね?」とは選手は言い出しにくいですよね。大きい高校のほうが兼任が許されない雰囲気ができるかなと。
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ちなみにこのグラフの"High" "Moderate" "Low"というのは「どれだけ他のスポーツを排除し、一年を通じて特定のスポーツのトレーニングをしているか」の度合いを示したもので、「ひとつのスポーツに集中するために他のスポーツを辞めたことがあるか」「一年のうち8ヶ月以上をひとつのスポーツのトレーニングに費やしているか」「他のスポーツよりも『重要だ』と感じる特定のスポーツがあるか」という3つの項目に対する「Yes」の数を数えたものです。「Yes」が3つあれば「High Specialization」、2つなら「Moderate」、0-1なら「Low」という風に分類されます。
 
この3-point scaleが研究で使われたのには「スポーツの特化はyes/noの白黒ではなく、白が徐々に黒になるようなスペクトラム状のもののはずだ」という理念を著者らが持っているからなのですが(そしてそこは私も賛成です。例えば、普段はずっとバスケットボールばっかりやっていて、陸上部員として大会の日だけぶっつけ本番で競技に出る、みたいな選手がいた場合、この選手がシングルスポーツかマルチか、と言われれば所属上マルチと分類せざるを得ませんよね。でも、この選手は陸上競技に費やしているトレーニングは実質ゼロなので、事実上シングルに限りなく近いと思うんです。少なくとも、この選手が「陸上とバスケの練習、一日おきに交互に出ています」という選手と全く同じ「マルチ」組に分類されるようではあかんと思うのです。どのスポーツをどのくらいやっているか、もっと可視化して細かく分類する必要があります)、この論文中で述べられているように、3-point scaleによる「スポーツの特化度」の計測が正確で非常に有効である、と断定するのに十分な根拠は乏しいのではと私は感じます。なぜかというと、この計測法も結局選手の自己判断・自己報告に頼っているからです。集計が面倒くさくても、例えばもっと客観的に、各競技のトレーニングに費やしている時間を計測し、記録するべきなのでは?と私は考えます。それぞれの練習ボリュームをvariableにすべきではないかなと。…あ、また話が逸れてしまった。

"High Specialization"のカテゴリーに入った選手は、"Low"の選手らに比べ、膝関節の慢性傷害を経験している可能性が著しく高い(p = 0.048)。
これはなんでORが報告されていないんでしょう?個人的にはp値で言われてもちょっと…という感じ。

「一年のうち8ヶ月以上をひとつのスポーツのトレーニングに費やしているか」の項目に"Yes"と答えた選手は膝関節 (overall knee injury OR 2.32; 95% CI 1.22-4.44; p = 0.009, overuse knee injury OR 2.93; 95% CI 1.16-7.36; p = 0.018) と股関節 (OR 2.74; 95% CI 1.09-6.86; p = 0.026)の怪我の既往歴があることが多い。
なるほど。こうなると「そうか!やっぱりマルチスポーツしてるほうが怪我をしにくいんですね?」と言いたくなるところですが、correlationとcausationは異なる、ということはやっぱり指摘しておかなければなりません。これらの怪我がいつ起こったか分からない以上 (それこそ10年前の怪我だって数に入っちゃうわけですから)、シングルスポーツが怪我のリスクを上げるとは断定できません。もしかしたら、怪我をした選手が泣く泣くマルチを諦め、ひとつのスポーツを選択せざるを得なくなったという真逆の可能性だって考えられますもんね。因果関係をもっとはっきりさせたければ、やはり選手を予めシングル組・マルチ組に分類したあとで、1シーズンの怪我を現在進行形で追う、prospectiveタイプの研究をやらなければダメでしょう。

逆に非常に面白いなぁと思ったのは8ヶ月という数字ですかね。実は「ひとつのスポーツを一年のうち8ヶ月以上プレーすべきでない、年間を通じて休息時間を設けるべきだ」という提案は他の論文でもこれまでにいくつかされているんです。4-6 今回の研究もこれ(=8ヶ月)が結局のところ一番の怪我のpredictorということで、「8ヶ月」という時間軸がマジックナンバーである?という説を支持する結果になっています。こうなってくると本当に8ヶ月が適切なcutofffなのか、さらに検証する必要がありそうですね。例えばひとつのスポーツを6ヶ月やっている選手たち、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月…なとどグループ分けして怪我の頻度を追えば、どの期間が境界線として最も相応しいかデータ化が可能です。他にも「ユースの選手は自分の年齢以上の時間を一週間に練習に費やしてはいけない」なんていう提案も以前にされてましたけど(i.e. 15歳なら一週間練習も15時間以内)、5 これも併せてぜひ検証していただきたいものです。こうすることで怪我のリスクを下げられるのか、気になります。

色々書きましたが、この論文をまとめると「どうやらマルチスポーツをしたほうが怪我のリスクは総じて低そう?」ということは抜き出せるかと思います。この研究の質は決して高いものではないですが、マルチスポーツをすることに関する不利益は今のところなさそうですし…どちらがより安全?と聞かれたらマルチ、と答えたくなるのが私の脳内の現状です。早期特化派のママさんなんかからは「でもそんなに呑気に色々なスポーツに手を出していたら遅れを取ってしまう、うちの息子がスポーツ推薦もらっていい大学にいけなくなってしまうわ!」と言われそうですが、実はそれを否定するエビデンスはあるんですよ。NCAA Division Iの選手のほとんどは、実は高校を通じてひとつのスポーツに特化せず、マルチスポーツ選手として活躍している場合が多かった、7というのがね。もしかしたら「複数のスポーツをプレーできる環境」というのは、怪我のリスクを下げるだけでなく、燃え尽き症候群を防ぎ、しかも高い運動能力を兼ね備えられる、やはり優れたモデルなのかもしれない、という気がしてきますね。日本でもこういう機会、若い子が持てればいいのですが…。

1. Bergeron MF, Mountjoy M, Armstrong N, et al. International Olympic Committee consensus statement on youth athletic development. Br J Sports Med. 2015;49(13):843-851.
2. DiFiori JP, Benjamin HJ, Brenner JS, et al. Overuse injuries and burnout in youth sports: a position statement from the American Medical Society for Sports Medicine. Br J Sports Med. 2014;48(4):287-288.
3. Bell DR, Post EG, Trigsted SM, Hetzel S, McGuine TA, Brooks MA. Prevalence of sport specialization in high school athletics: a 1-year observational study. Am J Sports Med. 2016;44(6):1469-1474. doi: 10.1177/0363546516629943.
4. Brenner JS, American Academy of Pediatrics Council on Sports Medicine and Fitness. Overuse injuries, overtraining, and burnout in child and adlescent athletes. Pediatrics. 2007;119(6):1242-1245.
5. Jayanthi NA, LeBella CR, Fischer D, Pasulka J, Dugas LR. Sports specialized intensive training and the risk of injury in young athletes: a clinical case-control study. Am J Sports Med. 2015;43(4):794-801.
6. Valovich McLeod TC, Decoster LC, Loud KJ, et al. National athletic trainers' association position statement: prevention of pediatric overuse injuries. J Athl Train. 2011;46(2):206-220.
7. Post EG, Thein-Nissenbaum JM, Stiffler MR, et al. High school sport specialization patterns of current division I athletes [published online on November 2, 2016]. Sports Health. 2016;pii:1941738116675455.

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  by supersy | 2016-11-16 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

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