遺伝する感情。

これは全然ATに直接関係ない内容なんですが、しばらくつらつらと考えていたことで、どこかに書き残しておきたかったので。備忘録のような内容ですみません。

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恐怖は遺伝する、という実に興味深い現象が動物実験によって2014年に実証されているんですね。1 それまでは赤子は親の感情を見ながら良き悪きを学ぶ(=「お母さんが怖がっているのだから、悪いものに違いない。僕も怖がろう」)、というsocial learningのコンセプトが主流でしたが、この研究では『母親が恐怖だと思った対象に生まれた子が初めて接触したとき、子も同じように恐怖を覚えるのか?』という感情の遺伝性について調査しています。
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Debiec & Sullivan1 が行った実験は至ってシンプル。メスのネズミに「ペパーミントの香りがすると電気ショックを受ける」というペアとなる刺激を繰り返し、恐怖を刷り込ませておいて、そのあと妊娠・出産した赤ちゃんネズミがペパーミントの香りを恐れるかを検証するというものでした。実験結果をみてみるとあら不思議。学習された「恐怖」は母親ネズミ妊娠前に刷り込まれたものであったにも関わらず、赤子もちゃんと初めて嗅ぐ「ペパーミントの香り」を恐れたというんですね。ネズミの赤ちゃんは生まれたばかりでは目も開かず、耳も聞こえないため、母親と同じ巣にいる状態で示したこの反応が「母親の行動を見て、それを真似たもの」であることは考えにくいのですが、念の為、と研究者は1) 親ネズミが巣にいない場合と2) (刷り込みをされていない)代理母ネズミが赤ちゃんネズミと一緒にいる場合なども検証。母親ネズミがいる、いないに関わらず、赤ちゃんネズミはペパーミントの匂いを嗅ぐと恐怖を示すという結果が確認されました。

母親が「後天的に」学んだ恐怖が、世代を超えて子供に「先天的に」植えつけられるようになる、というのは実に興味深い発見です。この「恐怖の遺伝」が一世代という短い期間で起こり、少なくとも2世代先まで伝えられることが別の研究2でも実証されています。母親のみでなく、父親が学んだ恐怖でも同様の遺伝が起こるようです。2 文字通り、感情が遺伝子に刻まれるわけですね、考えてみると面白いです。
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元々感情って生存確率を上げるために大いに意味があったものだと思うんですよね。我々が脂肪分や糖分のたっぷりのケーキやピザを食べて「おいしい!」と思ってしまうのも、それらが非常に効率のいいエネルギー源で、それを食べてきた種や個体が多く生き残ってきたからこそ。逆にカラフルな色彩を持つヘビやカエルやクモを見て「なんかやばい、怖い」という感情を持つのも、こういった生き物が毒を持っていることが多く、「恐れる」をいう感情を覚えた種や個体がその毒にやられることなく生き延びたからでしょう。

上に紹介した実験で検証されていたのは「恐怖」に限定したphenomenonでしたが、生存と言う観点から考えると「喜び」の感情も遺伝されてしかるべきという気もします。これらも是非似たような研究で見てみたいものです。例えばペパーミントの香りを嗅いで、同時に餌を与え続けると、子供もペパーミントの香りを嗅いで興奮するようになるのかとか…。面白いのが「ペパーミントの香りを嗅ぐと興奮する母親」と「ペパーミントの香りを嗅ぐと恐怖を感じる父親」と交配させたときですね。遺伝として、喜びと恐怖と、どちらの感情が勝つのか?もしくは母親と父親、どちらの遺伝子力がより強いのか?様々な研究ができそうです。わくわく…。あとは、どれだけ早く遺伝をひっくり返すことができるのか?先天的に「ペパーミントの香りは怖い」という遺伝子をもって生まれてきた子供に「ペパーミントの香りは実はいいものだ」と真逆のことを覚えこませ、それを遺伝子に上書きするのに一世代で十分なのか、数世代かかるのか?今のところ、「遺伝子の感情によるアップデートは我々が思うより早い」ように私には見えるので、ここらへんもすごく興味があります。

科学的な観点から、この結果を自分たち自身に反映させると、これもまた面白いディスカッションが引き出せそうです。何を遺伝子に残すか、その究極のコントロールをしているのは我々の全てのDriving Forceの源である脳のはず。ヒトに渡される遺伝子すら感情によって書き換えられるのだとしたら、我々の所有物である脳が受ける影響はそれよりも大きいのではと私は考えます。湧き上がる感情に引っ張られ、脳は刻一刻と変化する…『脳の可塑性(neuroplasticity)』というコンセプトが改めて浮かび上がってくるんですよね。我々のなかで日々うねっている「感情」は我々の脳に確実に刻まれ、そして恐らくその脳が「これは後世に伝えるべき重要な感情だ」と認識したら遺伝子にも書き残されるということになるんではないかな、と思うのです。
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あなたが「好き」で見ると興奮するような事柄を、あなたの子供も同じように「好き」になるのでしょうか?となれば、あなたが「大嫌い」なものも同様にあなたの子供は「嫌う」のでしょうか?あなたが「これは子供に遺伝して欲しくないなぁ…」なんて思う感情はありますか?そうであれば、手遅れになる前にあなたの感情そのものも修正すべきでしょうか?ううむ?

例えば私は少し潔癖症なところがあって、回し食いなどできないタイプの人間なのですが、自分の子供はそんなに神経質にならないといいなぁ、なんて無責任に思います。ふふふ、我ながら、自分を棚に上げてなんて勝手な欲求でしょう。自分に起こる「いやだな、汚いな」という感情をもう少しコントロールできるようになれば、後世にも良い影響が残せるかも知れません(笑)…少し努力してみようかな。なんだか頭の中を、小さな誰かに覗かれている気分です。自分の頭の中の感情で影響を受ける人が未来にいるのかもしれないと考えると、少しばかり背筋が伸びますね。

1. Debiec J, Sullivan RM. Intergenerational transmission of emotional trauma through amygdala-dependent mother-to-infant transfer of specific fear. Proc Natl Acad Sci. 2014;111(33):12222-12227. doi: 10.1073/pnas.1316740111.
2. Dias BG, Ressler KJ. Parental olfactory experience influences behavior and neural structure in subsequent generations. Nat Neurosci. 2014;17(1):89-96. doi: 10.1038/nn.3594.

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  by supersy | 2016-08-26 17:00 | Just Thoughts | Comments(0)

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