電気治療 (TENS): 「鎮痛効果」のみを狙った対処療法に意味はあるのか? と、ネブラスカ出張。

Electrical Stimulation (通称E-stimもしくはStim、電気治療)と言えば、多くの治療家に「意味がない物理療法」の代名詞として使われることが多いように感じます。英語でも「あの人はIce & Stimしかしないからね」という表現は「症状を一時的にマスクする対処療法をするくらいしか能のない、Old Schoolなセラピスト」という意味でよく使われますしね。

私はIce & E-stimのコンビネーションにこそ意味がないとは思いますが、痛みそのものを治療対象にすることに関しては全く否定的ではありません。個人的な話ですが先学期いわゆる重度の「寝違え」を起こしてしまい、ふとした拍子に左を向こうとすると、そのたびに気が遠のくほどの電流のような激痛が左腕を駆け抜ける、という、ひどく不快で、しんどい思いをした日が2日ほどありました。その痛みたるや仕事にならないほどで、同僚に「この痛みを何とかしてくれるならなんでもする」と泣きついたくらいです。痛みは人から機能を奪い、感情をロックアップさせます。ですから(もちろんcontextによりますが)、痛みそのものを取り除こうという施術者側の努力は、決して周りから嘲笑されるようなものではないと思うのです。以前も書きましたが、there's time and place for everything -鎮痛治療が求められる場面で、適切で最も効果的なそれを選択・deliverできる力はATとして必須だと私は思います。
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さて、話を戻すと数ある電気治療の中でもとくにPain controlに使われることが多いのがいわゆるTENS (transcutaneous electrical nerve stimulation)というモードですが、これに関して読んだ研究を忘れないうちにまとめておきたいと思います。まず一番のお勧めはこの論文―TENSを使って鎮痛効果を狙う場合、どういうパラメーターが最も効果的なのか?というところをエビデンスを通じて振り返り、要約しているのが2008年発表のClaydon & Chesterton1 のSystematic Review(↓)です。
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Claydon & Chesterton1 がこの論文で強調しているのは「High intensity TENS」がどうやら最も効果がありそうだということ。Low-intensity(微弱電流)ではなく、がっつりビリビリくるようなそれなりに強いものがいい、ということなんです。もっと細かく言うと、「high frequency, high intensity, local application ‘intense’ TENS」か「low frequency, high intensity, remote ‘acupuncture-like’ TENS」がよさそうである、と。 他の論文も見てみましょう。Chen氏らのSystematic Review2 によれば、Pulse Durationの長短とそれに反比例するPulse Frequencyはどうやら鎮痛効果の程度に影響がないのでは、という指摘もあるのです。特に様々なPulse Frequencyを使った研究結果を比べてみても鎮痛の程度に大差がなかったことから、1) どのPulse Frequenciesでも等しく効果的である; 2) どのPulse Frequenciesも等しく効果的でない; もしくは 3) 研究のデザインが甘く、Pulse Frequency間の違いを認められるような造りではなかった…という3つの可能性が今のところ考えられますが、鎮痛効果を高める上で、今のところPulse Frequencyを気にしすぎる必要はないようです。

私がTENSをPain Control目的で使う場合、個人的なルーティーンはいつもこうでした。1) Motor level intensity, 2) Low frequency (≤10 Hz), 3) Longer pulse duration. セオリーでいうと、このパラメーターが上脊髄性疼痛抑制 (by releasing endogenous opioid peptides and serotonin)を促し、また脊髄内で上がってくる痛みのシグナルをブロックすることで鎮痛効果が高いと、つまり下行性 (descending) & 上行性(ascending)疼痛抑制の併用が可能だと認識していたもので…、High frequency (≥50 Hz) TENSだと後者のみですからね。3 一般的に疼痛抑制は上脊髄性 (supra-spinal)のメカニズムのほうが効果が長く続くとも言われていますし。でもこうしてエビデンスを読み返してみると、どうやら「Frequencyは治療アウトカムに影響を与えない2、むしろ「大事なのはIntensity1,4なようですね。 “Strong but not painful (ビリビリと強く感じるけど痛くはない程度)” で “sensory” レベルのTENSは"sub-sensory"かプラシーボより格段に鎮痛効果が高い、というのはわりかしはっきりとしたエビデンスのようです。4 なので、これらのエビデンスを加味した上で、これから私が患者にTENSを使うというのであれば、私が新たなルーティーンにすべきば… 1) 患者にhigh- と low-frequency TENSの両方をそれぞれ異なる治療セッション中に試し、どちらが好みか選んでもらい、そちらの周波数を使う。どうせ違いがないというならば、患者が好きだという方を選んでもらった方が不快さは減るかもしれない。2) Intensityは最低でもSensory Levelで。もし患者がもっと強いのが好みなら(Motor Levelが好きな選手も今まで結構出会ったので…ちなみに私もMotor Levelは結構好き)、私はここも好みに応じて上げてしまってもいいと考えます。論文では総じて「最低でもSensory」という表現が使われていたので、「Motorになるとダメ」というわけでもなさそうなので。私が考えていたよりもTENSのパラメーターはもうちょっとフレキシブルなものなのかなー、というのが率直な印象です。これからは患者にももっと多くの選択肢を与えられ、色々試してもらったうえで、その人好みの治療をtailorしていくことが可能かも!

例えば術後の痛み(postoperative pain)とか、どうしても数日間患者の感じる痛みのレベルが上がらさるを得ない場合にも、TENSを使うことで痛み止め薬の服用量が抑えられ、痛み止め薬の副作用というリスクを負わなくてもよくなる、5-9 というのはTENSの二次的な隠れたbenefitであると私は考えています。また、TENSはCryotherapyに並ぶdisinhibitory modalitiesとしても有効な物理療法であり、AMIの治療には欠かせないツールでもあると思うのです。10,11 最近のSystematic Review11 にはTENSのほうがCryotherapyよりも "より強い、一貫性のある効果をもたらす" と報告されており、"現存する最善のdisinhibotory interventionである” ともまとめられています。これは私の個人的な見解ですが、例えば膝の術後の『鎮痛効果』の一部には、もしかしたらdisinhibitoryメカニズムによる鎮痛もいくらか入っているのかもしれませんよね。例えば、効果的にdishinibitionできたから、大腿四頭筋の機能回復が迅速に起こり、それによって膝が安定性を再獲得したことによって歩行時の痛みが減少した、とか…。



さて、話は全く変わりますが、今週末はネブラスカ、リンカーンにあるPRI本部へ行ってきました!8ヶ月ぶりくらいです。詳しいことは諸事情があって書けないのが残念ですが、今年4月にオープンした新しいPRI本部の建物(↓)をたっぷり満喫させてもらい、それからRonやMikeにたくさん質問をぶつける機会があり、本当に充実した2日間を過ごすことができました。なんとカンザスからケニーも片道3.5時間の道のりを運転してきてくれて、夜には12月の日本講習に向けての打ち合わせもがっつりすることができました。遠いところをありがとう、友よ…!
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こんな書き方も自分でどうかと思いますが、今更改めてPRIにドはまりしています。最近楽しくて楽しくて…。やっと少しわかってきた、ような気がする…(数か月後には「やっぱり全然わからない」とか泣いてるかもしれないけど)。Ronの言葉を聞いていると、徐々に「宇宙に飛ばされる」回数よりも「核の部分が見えてきた」感覚のほうが多くなってきてそれが楽しいです。前回の彼の「上腕三頭筋は周波数だ」のコメントじゃないけど、徐々に私が彼の「周波数」に合わせられるようになってきたのかも!昨年12月のRonの「右に脊柱側弯症があるならば、左にも曲げればいいじゃない」というマリー・アントワネットばりの言い回しにわかったつもりになって笑っていましたが、今になってその言葉の本当の意味がわかるようになってきました。彼の言葉をいかにそのまま(でもわかりやすく)日本で伝えるか、まだまだ試行錯誤の日々です!

1. Claydon LS, Chesterton LS. Does transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) produce ‘dose-responses’? A review of systematic reviews on chronic pain. Phys Ther Reviews. 2008;13(6):450-463.
2. Chen CC, Tabasam G, Johnson MI. Does the pulse frequency of transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) influence hypoalgesia? A systematic review of studies using experimental pain and healthy human participants. Physiother. 2008;94:11-20.
3. Resende MA, Sabino GG, Cândido CR, Pereira LS, Francischi JN. Local transcutaneous electrical stimulation (TENS) effects in experimental inflammatory edema and pain. Eur J Pharmacol. 2004;504:217–222.
4. Moran F, Leonard T, Hawthorne S, Hughes CM, McCrum-Gardner E, Johnson MI, Rakel BA, Sluka KA, Walsh DM. Hypoalgesia in response to transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) depends on stimulation intensity. J Pain. 2011;12(8):929-935. doi: 10.1016/j.jpain.2011.02.352.
5. Bjordal JM, Johnson MI, Ljunggreen AE. Transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) can reduce postoperative analgesic consumption. A meta-analysis with assessment of optimal treatment parameters for postoperative pain. Eur J Pain. 2003;7(2):181-188.
6. Unterrainer A, Friedrich C, Krenn MH, Piotrowski WP, Golaszewski SM, Hitzl W. Postoperative and preincisional electrical nerve stimulation TENS reduce postoperative opioid requirement after major spinal surgery. J Neurosurg Anesthesiol. 2010;22(1):1-5. doi: 10.1097/ANA.0b013e3181b7fef5.
7. Kara B, Baskurt F, Acar S, et al. The effect of TENS on pain, function, depression, and analgesic consumption in the early postoperative period with spinal surgery patients. Turk Neurosurg. 2011;21(4):618-624. doi: 10.5137/1019-5149.JTN .4985-11.0.
8. Unterrainer AF, Uebleis FX, Gross FA, Werner GG, Krombholz MA, Hitzl W. TENS compared to opioids in postoperative analgesic therapy after major spinal surgery with regard to cognitive function. Middle East J Anaesthesiol. 2012;21(6):815-821.
9. Eidy M, Fazel MR, Janzamini M, Haji Rezaei M, Moravveji AR. Preemptive analgesic effects of transcutaneous electrical nerve stimulation (TENS) on postoperative pain: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. Iran Red Crescent Med J. 2016;18(4):e35050. doi: 10.5812/ircmj.35050.
10. Gabler CM, Lepley AS, Uhl TL, Mattacola CG. Comparison of transcutaneous electrical nerve stimulation and cryotherapy for increasing quadriceps activation in patients with knee pathologies [published online Jan 5 2015]. J Sport Rehabil. 2015.
11. Harkey MS, Gribble PA, Pietrosimone BG. Disinhibitory interventions and voluntary quadriceps activation: a systematic review. J Athl Train. 2014;49(3):411-421. doi: 10.4085/1062-6050-49.1.04.

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  by supersy | 2016-08-21 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

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