運動前のアイシングは、パフォーマンスを向上する?

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運動前にあなたが身体の痛むところがあったとして(膝や肩など)、あなたはその患部を温めますか?冷やしますか?

Pain Control (鎮痛効果)
とりあえず、現時点でCryotherapy (冷却療法 - i.e. postop wrist,1 knee,1,2 acute ankle sprains,3 neck and back strains,4 LBP5)もThermotherapy (温熱療法 - i.e. neck and back strains,4LBP,5 chronic pain,6bluebottle stings7)も鎮静効果アリ、というのはエビデンスとしてはっきり出ていると思うんですよね。で、じゃあ比べたときにどちらのほうがより効果が大きいのかな?と疑問に思い、直接比較をしている研究を探してみたらふたつのRCTが見つかりました。一つ目は60人の頸・胸・腰椎の痛みを抱える患者(平均37.8±14.7歳、被験者の51.5%が女性)を使ったRCTで4 は鎮静効果は冷却と温熱で「等しい」という結論。もうひとつのほう(患者87人、平均34.48歳、被験者の51.72%が女性)では5急性腰痛には温熱のほうが冷却よりも効果が高かったという報告が(McGill Pain Questionnaireを使って計測した痛みの減少度 - 温熱治療 12.70±3.7から0.75±0.37へ vs 冷却治療 12.06±2.6から2.20±2.12, p≤0.05)されています。うーん、もうちょっと見てみないとわからないですね。現時点で決定的にこっちが優秀!と断言できるわけでもないみたい。
大前提として、施術者は冷却と温熱ではとりあえず身体に働きかけるメカニズムと、その生理学的効果が真逆である、ということは考慮すべきですよね。鎮痛効果に加えて、冷却療法は組織の温度を下げ、代謝を下げ、血流を遅らせ、炎症とtissue extensibilityを低下させるなどの変化を引き起こすに対して、温熱療法ではその逆が起こる。8,9 なので、今のところ私個人の解釈としては、Pain controlに冷却か温熱を使おうと思ったら、今のところどちらも有効であるから、患部にアクティブな炎症が見られるかどうかでやはり判断しようかな、という感じです。患部が熱を持って赤みを帯びていれば冷却を、そうでなければどちらでも害がないと判断し、患者の好みを考慮した上でケースバイケースで決めようかな、という。

Prior to Activity (運動前)というタイミング
で、次に考えたいのが「運動前」というタイミングで痛みを抑えたい場合、どちらがより相応しいのか?という切り口。運動前にアイシングなんかしたら筋肉が縮こまっちゃってダメなのでは?という一般的な見解とは裏腹に、「暑い場所で運動をする前ならば(例えば夏場、Footballの2-a-daysとか)、冷却療法の使用は非常に良い」という結論を出したのは2013年発表のMeta-Analysis。10 運動前はもちろん、運動中のアイシングもアリだ、と論じています。このMeta-Analysis10で報告された唯一の「悪影響」は「スプリント競技のパフォーマンスは低下する」というところでしたが、でも「中・長時間 (intermittent & prolonged)の運動ならばパフォーマンス、キャパシティー共に著しく向上する」というのです。10 もうひとつのシステマティックレビューでも11 運動前の外・内部からのクーリング (i.e. air, water, ice)を推奨する結果が報告されています。運動前に冷やすことで、体温調節能力 (thermoregulatory - core, skin and or body temperature)、心肺機能 (cardiovascular - heart rate, sweat rate)、そして精神的 (psychological - thermal sensation of comfort, rating of perceived exertion)機能値が上がり、長期的(prolonged)パフォーマンスが向上するとのこと。11 しかし例によって、先ほどのMeta-Analysis10と同様、爆発的で短期間のスプリントのような運動、そしてこのReviewでは中期(intermittent)の運動も少し悪影響を受ける ("minimally affected")と書かれてもいるんですけども。11 良い効果は、運動後にも続くようです。Mila-Kierzenkowska氏ら12 はsubmaximal exercise前の全身冷却 (whole-body cryotherapy)は酸化ストレス度を減少させ、リカバリーを早める効果があると報告しています。これは選手にはありがたいですね。
「運動前のアイシング反対派」の意見としては、Bleakley氏ら13が自身のシステマティックレビューで「運動前にCryotherapyを20分以上使用すると筋力、スピード、パワー、アジリティー、手先の動きの正確さなどが低下する」と論じていますが、Pritchard & Saliba14氏らはこのシステマティックレビューの臨床的実用性に疑問を呈しています。彼ら曰く、運動前のアイシングはほとんどの場合が20分以下であるし、それにしっかりとしたウォームアップを組み合わせればその冷却効果が害になることは少ないはずだ、と。これにね、もう2つくらい研究を加えると面白い全体像が見えてくるかなと思うんです。 1) あるControlled laboratory study15 によれば10分間の足首をアイシングするとDynamic postural-stability ability (Star Excursion Balance Test Score)が低下する、という報告がある一方で、 2) 最近発表されたRCT16 には10分間の足首のアイシングをしても筋肉の反応時間 (Reaction time)は影響を受けなかった、とある。 つまるところ、運動前に行う冷却療法の『悪影響』というのは 1) duration-specific (どれくらいの間、冷却を続けたかに影響を受ける、≤10分がより安全?) であり、 2) task-specific (その後に行う運動がどういったタイプなのかに左右される、i.e. short-, intermittent- vs prolonged activity)であるのではないか、というのが私の導いた結論です。
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Clinical Bottom Line
臨床的にこのエビデンスをどう使うべきか?と考えたときに、私の個人的な見解としては、運動前、痛みを軽減するためには運動が暑い中行われる、もしくは長期的な運動 (且つ、スピード系、パワー系ではない運動)である場合には率先して冷却療法を使おうと思います。その際、使う長さは短め(10分かそれ以下)に押さえたほうが賢明でしょうね。また、部位が指や手で、そのスポーツが指先の細かいmotor controlを必要とするようなスポーツの場合は (i.e. 野球や弓道、射的など)、悪影響が優る恐れがあるので冷却療法は避けたほうが良さそうです。温熱療法のほうがface validityがありますし (=選手も運動前にはあたたかくする、がアタリマエで、より理に適ってると考える子が多いでしょう)、あとは個人的にはやはり練習前には患部を温めることを好む選手のほうが多いかなとも感じるので…温熱が患者の抵抗も少なく、色々な意味で安全なチョイスかと。温熱療法が好きだ、と特に強く感じている選手には私もそれに反論することはないかと思います。唯一私が「いや、温めないほうがいい」というのは、くどいですが、アクティブな炎症が見られる場合のみかな。

まだまだ世の中アンチCryotherapyの人が多いみたいですけど、私は使いどころさえ正しければ(アイシングに関わらずですけど、どんな療法でも)絶対に良い効果を発揮すると思ってます。しかし今回、「運動前にアイシングはcontraindicated(禁忌)」くらいに教わったことのある私には、運動前のアイシングがパフォーマンスが向上するようなことがあるとは、なかなか衝撃的でした。いやいや、まだまだ勉強が足らんみたいっす。

1. Bleakley C, McDonough S, MacAuley D. The use of ice in the treatment of acute soft-tissue injury: a systematic review of randomized controlled trials. Am J Sports Med. 2004;32(1):251-261.
2. Raynor MC, Pietrobon R, Guller U, Higgins LD. Cryotherapy after ACL reconstruction: a meta-analysis. J Knee Surg. 2005;18(2):123-129.
3. Bleakley CM, McDonough SM, MacAuley DC, Bjordal J. Cryotherapy for acute ankle sprains: a randomised controlled study of two different icing protocols. Br J Sports Med. 2006;40(8):700-705.
4. Garra G, Singer AJ, Leno R, Taira BR, Gupta N, Mathaikutty B, Thode HJ. Heat or cold packs for neck and back strain: a randomized controlled trial of efficacy. Acad Emerg Med. 2010;17(5):484-489. doi: 10.1111/j.1553-2712.2010.00735.x.
5. Dehghan M, Farahbod F. The efficacy of thermotherapy and cryotherapy on pain relief in patients with acute low back pain, a clinical trial study. J Clin Diagn Res. 2014;8(9):LC01-LC04. doi: 10.7860/JCDR/2014/7404.4818.
6. Masuda A, Koga Y, Hattanmaru M, Minagoe S, Tei C. The effects of repeated thermal therapy for patients with chronic pain. Psychother Psychosom. 2005;74(5):288-294.
7. Loten C, Stokes B, Worsley D, Seymour JE, Jiang S, Isbister GK. A randomised controlled trial of hot water (45 degrees C) immersion versus ice packs for pain relief in bluebottle stings. Med J Aust. 2006;184(7):329-333.
8. Malanga GA, Yan N, Stark J. Mechanisms and efficacy of heat and cold therapies for musculoskeletal injury. Postgrad Med. 2015;127(1):57-65.
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11. Ross M, Abbiss C, Laursen P, Martin D, Burke L. Precooling methods and their effects on athletic performance : a systematic review and practical applications. Sports Med. 2013;43(3):207-225. doi: 10.1007/s40279-012-0014-9.
12. Mila-Kierzenkowska C, Jurecka A, Woźniak A, Szpinda M, Augustyńska B, Woźniak B. The effect of submaximal exercise preceded by single whole-body cryotherapy on the markers of oxidative stress and inflammation in blood of volleyball players. Oxid Med Cell Longev. 2013;2013:409567. doi: 10.1155/2013/409567.
13. Bleakley CM, Costello JT, Glasgow PD. Should athletes return to sport after applying ice? A systematic review of the effect of local cooling on functional performance. Sports Med. 2012;42(1):69-87. doi: 10.2165/11595970-000000000-00000.
14. Pritchard KA, Saliba SA. Should athletes return to activity after cryotherapy? J Athl Train. 2014;49(1):95-6. doi: 10.4085/1062-6050-48.3.13.
15. Fullam K, Caulfield B, Coughlan GF, McGroarty M, Delahunt E. Dynamic postural-stability deficits after cryotherapy to the ankle joint. J Athl Train. 2015;50(9):893-904. doi: 10.4085/1062-6050-50.7.07.
16. Thain PK, Bleakley CM, Mitchell AC. Muscle reaction time during a simulated lateral ankle sprain after wet-ice application or cold-water immersion. J Athl Train. 2015;50(7):697-703. doi: 10.4085/1062-6050-50.4.05.


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  by supersy | 2016-08-17 21:20 | Athletic Training | Comments(0)

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