同じステロイド剤を入れるなら、注射がいいのかiontophoresisがいいのか?

私、たまに「手技しかしないヒト」となぜか誤解されたりするんですが、実は物理療法大好きです。バランスの取れたクリニシャンでありたいと思っていますし、患者を改善させていくにあたって物理療法と運動療法、そして徒手療法を併用してこそ最も効果が出ると思っています。そんなわけで、今日は物理療法の話を。
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物理療法の中でも特に私が「ポイントを抑えて使えば大きな効果が期待できる」と思っているものがいくつかあるのですが、そのひとつがiontophoresis(イオン導入療法)です。抗炎症剤や鎮痛剤など患者が医師から処方された場合、その薬を体内に導入する投与経路は1) 経口投与、2) 皮下、経静脈、経動脈や筋肉内などの注射投与などなど色々ありますが、3) 薬剤をイオン化し、電解質溶液にしてそこに直流電流を流し、例えば薬剤が+の電荷を持つ電解質になったならばそこに+電極を持ってきて、同じ電荷をぶつけあい、反発を促すことで薬剤を物理的に動かし、体の深部に浸透させる…という面白い方法もあるのです。これがiontophoresisです。
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一般的に経口投与はどうしても全身の血流に乗って薬が巡るため、効果が局所ではなく全身に広がってしまうこと、そして、肝臓や腎臓に負担がかかることなどが短所です。注射による投与は、局所的な投与が可能という利点こそあれ、やはり注射が痛い・怖いという患者が一定数いること(アメリカは特に多い印象があります、国民性かなー…)、そしてinvasive(肌を突き破り、侵入的である)な治療なので感染症のリスクがあることなどが挙げられます。そうなると、iotophoresisはなかなか魅力的な選択肢に思えます。局所的な治療が可能で、肝臓や腎臓に負担をかけず、針を刺す痛みもなく、感染症のリスクも生むことなく薬の投与が可能なんですから。

比較研究: そんなわけで、効果と危険性をざっとreviewしたくて、iontophoresisと注射によるステロイド剤の投与の比較研究を引っ張り出して読んでみました。 直接比較している論文は4つしか見つけられなかったです。さっくりまとめます。

1. Gökoğlu氏らの1 研究では30人のCarpal Tunnel Syndrome (CTS、手根管症候群)患者をランダムに1) 40mg methylprednisolone acetate injection (1回ポッキリ) もしくは2) iontophoresis経由でのdexamethasone sodium phosphate (一日おきに一週間)組にわけて治療。治療から2週間後と8週間後の経過を追いました。 両グループとも痛み、諸症状、機能共に著しい回復が見られましたが、回復の度合いは注射組のほうが高かったそう。Adverse effect, side effect, complicationなどの悪影響はどちらのグループでも報告されず、だそうです。

2. Karatay氏らは2 45人のCTS患者にdexamethasoneを 1) injection、2) iontophoresis、3) phonophoresis による投与の3組(どれもn = 15)にわけて治療。結論としてはiontophoresis/phonophresisの効果は3ヶ月と持たなかったのに対して、注射による症状改善は治療開始後1ヶ月から如実に出始め、4ヶ月をピークに6ヶ月後まで保たれていた、 と。悪影響については記事では一切触れておらず(なかったともあったとも記述なし)、こちらのほうの比較はできませんでした。

3. Stefanou氏らは3 1) 10mg dexamethasone iontophoresis, 2) 10mg dexamethasone injection, と 3) 10mg triamcinolone injection組のいずれかに82人の外側上顆炎 (lateral epicondylitis)患者を分類。3つ全てのグループが等しく痛み・機能が短・長期的(治療終了直後と6ヶ月後)共に回復したのですが、短期的に見たグリップストレングスと職場復帰はIontophoresis組が格段に良かったとのこと(『制限を感じずに職場復帰できた』患者の割合 – 82% in ionto group, 29% in dexamethasone injection and 33% in triamcinolone injection, p < 0.05)。合計7人の患者が改善が見られず結局手術に踏み切ったそうですが、著者によれば「数が少なすぎるため」統計的に分析することは不可能、だそうで、どのグループが特に手術のリスクが高い云々とは断言できない、とのこと。それでもcomplicationsについてはこんな記述がありました: 1) 注射組患者の10%未満が注射後に患部の痛みを訴えたが、2日以内に全てなくなった、2) iontophoresisを受けた患者のひとりが薬剤パッチを張った部位に皮膚のかぶれを訴えたが、パッチを取ってから3日以内に完治、3) パッチを張る前に患部の毛を剃ったことで、同様に2人の患者が皮膚荒れを訴えた…とのこと。どれも比較的すぐに回復する、マイナーなものばかりという印象ですね。

4. 最後、これは整形外科の怪我ではないのですが、Mehrsai氏ら460人のPeyronie's diseaseの患者を集めて行った研究も一応紹介を。1) 10mg verapamil and 4mg dexamethasone via iontophoresisと2) 同じ薬をinjectionした場合 (どちらもn = 30)を比較したこの研究では、どちらのグループもplaque size、erectile dysfunction、penile deviations等について等しく著しい改善が見られたとのこと。ただ、erectile painに関してより大きい減少が見られたのはIonto組だったそう(from 5.1 to 1.0 in the Ionto, from 5.4 to 3.6 in the injection group, p = 0.006)。Complicationsやadverse effectsについてはこの研究では一切言及がなく、ここんとこは不明のままです。

比較研究からは安全性に関して十分な情報が得られなかったので、リスクなどを論じている論文をiontophoresis, injectionそれぞれで別途で探してみました。こちらもさっくりまとめます。

Iontophoresisとその安全性: やはり電流を使う物理療法である、ということで、Warden5氏はiontophoresisのcontraindication(禁忌)に 1) 電流に対するhypersensitivityや、以前使用したときに有害反応が見られたことがある、もしくは2) 処方された薬物そのものの副作用を感じたことがある、という2項目を挙げています。肌荒れやかぶれ(skin irritation)は決して珍しくはない、とした上で、「稀ではあるが」と前置きして、電流が非常に強い場合、やけどなどの熱性の怪我が起こる確率もゼロではない、とも書いています。しかし、この論文で Warden氏は5 iontophoresisの利益は不利益をはるかに上回るものであり、治療者が患者としっかりコミュニケーションを取りさえすれば(例えばどこまでがこの治療の「アタリマエ」で、どんな感覚が生まれたら「報告すべき異常」なのかとか) iontophoresisの危険性は最小限に保たれ、「安全な物理療法」と呼ぶに足る、と結論を出しています。Patane氏ら6はウサギを使ってiontophoresis (dexamethasone)をカラダの中でも最もsensitiveな部位である目に使用してみたらしいのですが(ひー!)、この治療はウサギちゃんにとって"well-tolerated(耐容性良好)"であり、一時的にmild complicationsが出たくらいで(i.e. conjunctival hyperemia, chemosis, and mild corneal opacity)『安全』だったそうな。次のステップは人体実験ですが、著者らはこの動物実験に基づき「iontophoresisは長期的、もしくは反復的なステロイド剤の使用を必要とする炎症系眼疾患を治療するには有効な治療法かもしれない」と結論づけています。へー。

ステロイド剤注射とその安全性: やはりどうしても針が体内に入る関係で、例えば手術前に関節内にステロイド剤を注射した患者は、注射しなかった場合に比べて格段に手術後の感染症のリスクは高まるそうな。7 あと、ご存知の方も多いかと思いますが、軟部組織に使った場合(特に複数回)、損傷や組織の弱化、症例でいうと足底筋膜8 腸腰靭帯(IT Band),9それからアキレス腱10などの断裂につながったという報告はありますね。 あと、疲労骨折や骨の壊死が起こったケースもあるんですって。11 こういうのは症例ベースの報告が主体なもので、残念ながら何人当たり何件、とか、こういう条件に当てはまる人のリスクが何%、とか、そういうのを計算できる公式のようなものは現時点で存在しないですし、実際のprevalenceがどんぴしゃで何%くらいなのかというのも分かっていません。あ、あとね、文献を読んでいたらびっくりするような症例もありまして、えーと、51才の 2型糖尿病、甲状腺機能低下症、PTSDと不安症・鬱と両側の膝関節症がある女性患者さんが(これもすごいリストですけど)膝のOA治療にステロイド注射を打った後、自殺衝動を訴えて病院に緊急入院、ということがあったそうで。12 これだけなら因果関係はわからないじゃん、と言われそうですが、この患者、数ヶ月経って心の症状が安定したので、また膝のOAの注射を打ちに行った→自殺衝動再発→緊急入院→退院…をこのあと2回、合計3回繰り返したそうで、これはもう偶然ではないと。ステロイド注射にどうやら起因するのではないか、ということで、精神医学的副作用が出た最初の症例ということで論文に報告されています。12そんなこともあるんか…。

こうして文献を色々見てみると、直接リスクを比較した研究が無いのと、Iontophoresisに関してはまだまだ長期的(年単位とか)に患者を追った研究が欠如しており、決定的な結論を出すのは難しそうですが(今回reviewした研究も障害、治療期間、薬剤、服用量ともに異なりますしねぇ)、私の個人的な見解としてはiontophoresisの副作用・有害反応は総じて軽く、一時的なものが多い反面、ステロイド剤注射のそれは中には長期的なdisabilityにつながる(i.e. soft tissue ruptures, bone disruptions)ものもあるなぁと。頻度、深刻度、両方の観点から、iontophoresisのほうがより安全な選択肢であるようだ、というのが今のところの私の結論です。iontophoresisの長期的効果を追った研究、これから出ますかねー、見てみたいなー。

1. Gökoğlu F, Fındıkoğlu G, Yorgancoğlu ZR, Okumuş M, Ceceli E, Kocaoğlu S. Evaluation of iontophoresis and local corticosteroid injection in the treatment of carpal tunnel syndrome. Am J Phys Med Rehabil. 2005;84(2):92-96.
2. Karatay S, Aygul R, Melikoglu MA, Yildirim K, Ugur M, Erdal A, Akkus S, Senel K. The comparison of phonophoresis, iontophoresis and local steroid injection in carpal tunnel syndrome treatment. Joint Bone Spine. 2009;76(6):719-721. doi: 10.1016/j.jbspin.2009.02.008.
3. Stefanou A, Marshall N, Holdan W, Siddiqui A. A randomized study comparing corticosteroid injection to corticosteroid iontophoresis for lateral epicondylitis. J Hand Surg Am. 2012;37(1):104-109. doi: 10.1016/j.jhsa.2011.10.005.
4. Mehrsai AR, Namdari F, Salavati A, Dehghani S, Allameh F, Pourmand G. Comparison of transdermal electromotive administration of verapamil and dexamethasone versus intra-lesional injection for Peyronie's disease. Andrology. 2013;1(1):129-132. doi: 10.1111/j.2047-2927.2012.00018.x.
5. Warden GD. Electrical safety in iontophoresis. Rehab Manag. 2007;20(2):20,22-23.
6. Patane MA, Schubert W, Sanford T, Gee R, Burgos M, Isom WP, Ruiz-Perez B. Evaluation of ocular and general safety following repeated dosing of dexamethasone phosphate delivered by transscleral iontophoresis in rabbits. J Ocul Pharmacol Ther. 2013;29(8):760-769. doi: 10.1089/jop.2012.0175.
7. Werner BC, Cancienne JM, Burrus MT, Park JS, Perumal V, Cooper MT. Risk of infection after intra-articular steroid injection at the time of ankle arthroscopy in a medicare population. Arthroscopy. 2016;32(2):350-354. doi: 10.1016/j.arthro.2015.07.029.
8. Acevedo JI, Beskin JL. Complications of plantar fascia rupture associated with corticosteroid injection. Foot Ankle Int. 1998;19(2):91-97.
9. Pandit SR, Solomon DJ, Gross DJ, Golijanin P, Provencher MT. Isolated iliotibial band rupture after corticosteroid injection as a cause of subjective instability and knee pain in a military special warfare trainee. Mil Med. 2014;179(4):e469-472. doi: 10.7205/MILMED-D-13-00438.
10. Turmo-Garuz A, Rodas G, Balius R, et al. Can local corticosteroid injection in the retrocalcaneal bursa lead to rupture of the Achilles tendon and the medial head of the gastrocnemius muscle? Musculoskelet Surg. 2014;98(2):121-126. doi: 10.1007/s12306-013-0305-9.
11. Nichols, A. W. Complications associated with the use of corticosteroids in the treatment of athletic injuries. Clin J Sport Med. 2005;15(5);E370.
12. Malladi AS, Gratton SB, Stone D, Scalapino KJ, Charles JF. Recurrent adverse psychiatric effects following intra-articular corticosteroid injection. J Clin Rheumatol. 2011;17(5):284-285. doi: 10.1097/RHU.0b013e318227ab11.

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  by supersy | 2016-07-22 10:00 | Athletic Training | Comments(2)

Commented by 秋吉直樹 at 2016-08-09 06:57 x
いつも興味深いブログ、ありがとうございます。
自分も物理療法をうまく使っていきたいと思っているのですが、まだ現場で活用できていません。文献では否定的なものでも選手の主観的なもので採用しているものもあったりして選択に悩みます。
今回ご紹介いただいたiontophoresisも恥ずかしながら初めて知りました。日本での使用例なども含めて勉強してみたいと思います。いつもありがとうございますm(_ _)m
Commented by さゆり at 2016-09-04 23:21 x
秋吉さん、コメントありがとうございます。物理療法界は金の卵がゴロゴロしていますよ!最近では質の高いRCTも増えていてそれぞれが小さな宝箱のよう…現場の施術者さんにこそ色々パカパカ開けて中身を楽しんでもらいたいです。否定的なものでも統計的パワーが十分でなければ決定的に否定的、というわけではないはずなのでそこらへんは秋吉さんと患者さんの意見のバランス次第で「使う」という決断をすることは何ら悪いことではないと思いますよ。iontoは他に頭痛治療なんかにも面白そうです。phonophresisも腱障害や異所性骨化になかなか使いどころがありそうです。ぜひ色々読んでみてください。

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