Digital Patientについて学んでみました。

以前にStandardized Patient (SP)の話を書きましたが、今回はデジタル患者というか、ヴァーチャル患者について学ぶ機会があったのでまとめておきます。ただの感想記になりますが。

私が今回学んだのはShadow Healthというシステムを通じてのヴァーチャル・ラーニングで、一般には看護学生によく使われているらしいのですが、他にも薬学やATの授業でも用いられているそうな。
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紹介動画はこちら。別に宣伝しているわけじゃありません(私自身購入して使ったわけでも何でもなく、ああこんな手段もあるのねー、と思ってるだけです、念のため)。

用途別に色々な使い方ができて、例えば、下級生には急性の症例を課して、History taking中心の診断経験をさせ、そのあとその患者が3日ほど病院に入院している経過を時間軸と共に追っていく、とか、上級生は慢性的な症例を担当し、DDxからのPlanningに重きを置く、とか…。色々工夫のし甲斐はあるようです。患者さんと対面している最中は時間と言う概念がないので、例えば「えーと、えーと、次は何を聞こうかな…」と考えている間に妙な沈黙が生まれても何も弊害はありません。むしろ学生が一問一問時間をかけて質問を練りこみ、的確なHistoryを取る、つまり、何ていうんでしょうね、質問のmappingとでも言うのでしょうか?そういうスキルが伸びるようです。こうして徐々に「問診時の緩やかな流れ」をつかむことで、実際の患者さんを診断するときにスムーズな会話力が身に着くのだとか。

ここまでで私に浮かんだ疑問は、「患者さんに感情表現はあるのか?例えば、患者さんを怒らせてしまったり、なんてこともある?」「触診やSelective Tissue Assessment Testのような、endfeelなんかを触覚的に感じなければいけない項目はどうやって表現されているんだろう?」でした。担当の方に伺ったところ、前者の質問の答えは「No」。例えば腰痛を訴えてる患者さんが、「仰向けになって/うつ伏せになって」と指示した時に痛みで顔をゆがめたり、ということはあるようですが、不適切な質問をしたり、同じ質問を何度も繰り返しても患者がイライラしたり不快感を示すようなことはないそうです。あくまで、プログラミングされた質問に対して、プログラミングされた答えを述べる、と。そして二つ目の質問の答えは「○○が発見された、というように触覚によってのみしか判断できないfindingは文字にして提供している」そうです。なるほど。

私の率直な感想としては、「なるほど、事実をただ詰め込むより、problem-solving learningとして今の世代の学生とってこういうツールは『ツカむ』のに有効そう」。前回のSPの時も触れたかと思うんですが、clinical reasoningとclinical decision-making skillsってなかなか教えるのが難しい。文献でも、ヴァーチャル体験はそこらへんを教え込むのに良い、とあります。1,2
どうしても疑問だったのはリアリズム。意外なことにGesundheit氏らの研究1によれば、(まだ実習を始めていない)医学部2年生はこの ヴァーチャル体験をSP体験に比べてより “believable (信じるに足る)”そして“appropriately challenging (ちょうど良い難易度)” と評したらしいのですが、私としては、学生の中に「ゲーム感覚」が生まれてしまって、「コイツどこまでついてこれんの?」と、無関係だったり場合によっては不適切な質問をぶつけるようになってしまうのでは、という心配があります (Siriにスリーサイズを聞いたり好きな食べ物を聞いたり…皆さんも身に覚えがあるでしょう?)。これは実際にWebinarの最中にもプレゼンターさんが言及したところで、「あまりに変な質問にいちいち患者が対応してしまわないように、実は返答可能な質問数をかなり最近削ったんです」とのこと。これを実際に授業で用いるとしたら、いくらでも使えるようには敢えてしてしまわずに機会を制限したり、きちんと実際の患者という心持で扱うよう指導することは必要だなぁと思いました。ゲームではない、と一線を引かせないとね。

楽しい、という率直な感想は素晴らしいと思うんですよ。2 楽しく学んでもらえるというのはこういうシステムの強みですよね。それに、まだまだ駆け出しの学生にとってこの学習環境は『安全』であり、時間に追われず、自分自身のペースで考えながら学び進むことができる。焦ったりパニックになったりは、実際の患者を目の前にしているときよりは格段に起こりにくいでしょうからね。ただ、問題は実際の患者さんの診断をしてるときにはもっと考慮・実践すべき要素があるわけです。例えば患者さんがなんだかそわそわ、居心地悪そうにしているなぁ、と思ったらnon-verbal communicationを通じて(i.e. 声のトーンを変えたり、表情を変えたり)患者を安心させる必要もあるし、言葉遣いを細かく選びながら彼らがまだ打ち明けてくれてないかも知れない情報をするすると引き出したり、患者がぼんぼこぶつけて来る情報の塊を整理しながらもスムーズな会話を続ける話術とかもですね、まぁ色々と必要ですよね。ここらへんもひっくるめて『患者との対話力』なんじゃないかと。こういうスキルはどうしてもデジタル患者とのやりとりでは身につかないでしょうし、だからこそ(実習を既に始めている)医学部4年生の子らには(2年生の子らと比較して)現実味があると判断する子が圧倒的に少ない(p≤0.05)なんていうこともあるんだろうな、と。1 結論としては、SPもデジタル患者を通じての教育も、学生からしたら等しく「満足である」らしいのですが、やはり提供している学びの質が少し違うように思いますね。1 私としては、デジタル患者とのやり取りはどちらかというと駆け出しの学生向きなのかなと。新しいコンセプトを学び、実践していく上で (i.e. 良いHistoryを取る, 適切なDDxと治療プランを打ち出していく, etc)、学生をoverwhelmさせることなく、安全に楽しくそのコンセプトをつついたりつまんだり練ったりしながら模索してもらうにはちょうどいいかなと思うんです。で、基礎力がついたところでSPを使う、という流れが私の頭の中でできています。

ちなみに価格は学生ひとりあたり$99と教科書とさほど変わらないほか、一度購入すれば一生アクセス権は保持できるらしいので、卒業しても学びの道具として使い続けることが可能のようです。コストパフォーマンスは良いですね。それぞれの患者との対面が終わった後に自動的に評価レポートがシステムによって作られ、指導者も学生も見直すことができるのもポイント高いです(評価とか採点って、意外と本当に時間がとられる作業なのです…)。私の職場環境から、今すぐに使い始めるってわけにはなかなかいかなそうですけど、機会があればこういったプラットフォームを通じての教育も、これからもっと積極的に取り組んでいきたいです!


1. Gesundheit N, Brutlag P, Youngblood P, Gunning WT, Zary N, Fors U. The use of virtual patients to assess the clinical skills and reasoning of medical students: initial insights on student acceptance. Med Teach. 2009;31(8):739-742.
2. Forsberg E, Ziegert K, Hult H, Fors U. Clinical reasoning in nursing, a think-aloud study using virtual patients - a base for an innovative assessment. Nurse Educ Today. 2014;34(4):538-542. doi: 10.1016/j.nedt.2013.07.010.

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  by supersy | 2016-07-08 09:00 | Athletic Training | Comments(0)

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