Standardized Patientになってみました。

どうも、年に一度くらいは恒例になっている「ダラスで足止め」を喰らっています。せっかくだから何かプロダクティブなことを、ということで今のうちにブログ更新!
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●教育界のトレンド
Standardized Patient (SP)って知っていますか?直訳するとスタンダード化された患者さん、ってことになるんですけど、スタンダード(基準)が設けられた患者ってどういうことなんですかね?
実はこれ、最近の医療教育界のEmerging Trendなのです。アスレティック・トレーナー(AT)が診る患者さんは「朝起きたら腰が痛くて」「リバウンド取りに行ったら空中で接触されて肩でぱきってなんか音がした」など、様々な主訴(chief complaint)を訴えてきますよね。文字通り頭からつま先まで、男性も女性も、急性も慢性もなんでもアリです。どんな症例が来ようとも、患者とコミュニケーションの限りを尽くし、評価を行ってどう症例を改善していけるか探るのが我々プロのATの仕事ってもんです。

更に言うと、教職を担っている人間にとって、いかに今のAT学生たちにどんな症例にもどんな患者さんにも対応できる臨床力をつけてもらうか、というところは常に大きな課題なわけです。もちろん学生は授業で頭からつま先まで、様々な障害・疾患について学びますが、それら全てに実際対応できる現場力がつくかどうかはまたちょっと別の次元の話なのです。
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●試されるシミュレーション(再現)力
この現場力・臨床力を培うのには繰り返し練習・練習してリアルな経験を積み重ねていく以外の近道はないわけですが、だからといって様々な症例を実際に抱えた患者さんを連れてきて学生相手に診断の練習をさせよう、というのはちょっと現実味に欠けます。…であれば、細部まで再現された模擬症例を実際の現場に限りなく似せた環境下で学生に与え、評価やコミュニケーションの仕方を練習してもらうことで、現実的且つ限りなくリアルに近い体験を学生に積んでもらう、というのはどうでしょう?

まさにこの発想がStandardized Patientなのです。SPになった人物は新しい名前と設定、そして主訴からそこに至るまでの既往歴を与えられます。例えば「鈴木啓一」さんはメタボが気になって3週間前からジム通いを始めたものの、徐々に肩に違和感を覚え、それが痛みに代わり、ついには今朝になって右腕が挙げられなくなってしまって…という感じです。「肩の痛み」を訴えて来院した「鈴木啓一」さんを、学生は「こんにちは、私は○○と申します」と迎え、「今日はどうなさいましたか?」とイチから評価するわけです。え、そんなの結局ウソモノなんでしょって?いえいえ、模擬症例が医療のプロによってきちんと設計され、SPを演じる人が適切なトレーニングさえつめば1-4 98%の学生が「まるで本物だった」というほどの5 リアリティーを出すことが可能なんです。学生からの「自信がついた」「これからの現場での診断にこの経験は絶対に活きてくる」という声にあるように、その見返りも他の方法では得られないものばかり。6

●AT教育に於けるStandardized Patient
ちょっと前置きが長くなりましたが、今回の博士課程の授業ではAT教育に於けるSPの先駆者の一人であるDr. Armstrongからそのノウハウを叩き込んでいただきました。実際に我々もSP側になる体験ができたものよかった。トレーニング、思った以上に細かかった!怪我に関わる諸症状はともかく、家族構成、性格、職業や趣味、(今回の怪我に関係のない)既往歴など、全てがスタンダード化されてるわけですからね。細部にわたってその人物になりきる必要があるのです。全体の流れはこんな感じでした。

1. 事前に先生が用意しておいてくれたトレーニングビデオを見て、小一時間かけて内容を頭に叩き込む(かなりの詳細が含まれていたので、私は約一週間前に一度、前日に一度の合計2回見ました)

2. 当日に先生に「貴方の名前は?」「圧痛の箇所は?」「手のしびれの有無は?」など矢継ぎ早に質問され、シナリオが頭に入っていることを確認

3. 実際にクラスメートと組み、患者役とAT役の両方をこなす

…実はこれでも超・短縮版トレーニングだったらしく、本来なら医療の知識が全くない一般の学生をトレーニングするため、数週間にわけて少なくとも4-5時間かけるそう(我々は知識があるので割愛しましたが、例えば触診時にどこを触られたら圧痛があるとか、こういう風に動かされたら痛みを訴えてね、とか指導が必要なので)。演劇科の学生にお願いするといいそうですよ。向こうは向こうで、こういった経験を履歴書にも書けるし、win-winな関係が築けます。
Dr. Armstrong曰く、実際に学生がSPと接しているときは、なるべく1対1の状況を作ってあげたほうがいい、そうで、教官が部屋の隅っこにいてせこせことメモをとっているよりは、部屋にいるのは患者と学生二人きりにして、映像を録画しておいて後で(もしくはこんな立派な施設があればリアルタイムで↓)教官が見て採点する、という流れが理想的なんだそうな。で、学生にはきちんと自分のパフォーマンスを確認するためにも、終了後には動画を見せ反省させるのだと。なるほどなるほど。
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●SP体験を終えて
実際に体験してみて、なるほど、これはいいわ!と素直に感じました。ただ、実際に教育に落とし込んでいこうとすると、いくつかの障害がありそうです。一番はやはり、リソース不足。7 Dr. Armstrongのように研究をバンバン出していて研究費がある大学はSP患者を演じてくれる人に報酬を払えることで十分な人材の確保ができますが、そういった予算が無いところが大半でしょう。報酬無しにこれだけのトレーニングをこなすモチベーションがある一般の人をどうこの教育プログラムのメンバーとして取り込めるかは大きな課題です。加えて、せっかくトレーニングを積むのであれば、そこから2-3年と繰り返し使えるような環境が理想的。例えば、先の「鈴木啓一」のシナリオを、「鈴木啓一・啓子」として男女それぞれ2人ずつ、合計4人の学生をトレーニングしたとします。しかし翌年、そのうちの2人が学業や経済的な事情で大学を離れざるを得なくなったら…下肢や感染症など、他のシナリオ用のSPをトレーニングする傍ら、新たに二人の「鈴木啓一・啓子」さんを探し出し、トレーニングしなければなりません。トレーニングに割く時間がシナリオが増え、SP患者が去るたびに雪だるまのように増えてしまうのはなかなかしんどい。
あとは、実は今、実際にSP用のシナリオを課題で作っているんですが、これもかなり時間のかかる作業です。「全てをスタンダード化しなければならない」というところがね。せっかくだから学びの多いシナリオを…ひとクセつけて、でも明確に…学生のパフォーマンスの採点基準は…とやっていると、これは軽く数日以上かかる作業です。さらにこのあとトレーニング方法を考えたりしなきゃいけないわけですから…。数名の教授やATスタッフとコラボレーションできればともかく、一人でこれをやっていく時間は今の私にはないかも。

ともあれ、これが将来的に医療教育の標準装備になっていくことは確かです。興味が出た方は、下の文献など読んでみることをお勧めします。全米でも様々なトレーニングがあるようですし、Dr. ArmstrongもNATAで幾つか講演をするそうですよ。私ももっともっと勉強を重ねていきたい分野です。

1. Walker SE, Armstrong KJ. Standardized patients, part 1: teaching interpersonal and clinical skills. Int J Athl Ther Train. 2011;16(2):38–41.
2. Armstrong K, Walker S. Standardized patients, part 2: developing a case. Int J Athl Ther Train. 2011;16(3):24–29.
3. Armstrong K, Walker S, Jarriel A. Standardized patients, part 3: assessing student performance. Int J Athl Ther Train. 2011;16(4):40–44.
4. Walker SE, Armstrong KJ, Jarriel A. Standardized patients, part 4: training. Int J Athl Ther Train. 2011;16(5):29–33.
5. Walker SE, Weidner TG. Standardized patients provide realistic and worthwhile experiences for athletic training students. Athl Train Educ J. 2010;5(2):77-86.
6. Armstrong KJ, Jarriel AJ. Standardized patient encounters improved athletic training students’ confidence in clinical evaluations. Athl Train Educ J. 2015;10(2):113–121.
7. Walker SE, Weidner TG. The use of standardized patients in athletic training education. Athl Train Educ J. 2010;5(2):87-89.

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  by supersy | 2016-06-14 13:00 | Athletic Training | Comments(0)

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