足首と横隔膜のつながり: CAI患者の左横隔膜は呼吸筋としての機能が低下している?

ちょっとこれは書かずにはいられねえ!ってんで、こんなブログをアップします。
私の古い友人であり、このブログにもたびたびコメントを書いてくれたりもしていた寺田君がつい最近 (一週間前くらいです、ほんとに)論文を発表しました。彼は慢性足関節不安定症 (Chronic Ankle Instability, 以下CAI)の専門家で、彼自身もう数々の研究を世に送り出しているわけなんですが、なんと今回の内容はCAIの患者にどういった横隔膜の変化が見られるか、という視点からぶった切ってます。PRIとは何の関わりもないところからこんな研究が出てくると思わなかったので (今までの彼の研究とはちょっと路線が違う印象…)、きゃーきゃー言いながらこの論文を読んでました。内容をまとめます!

一応断っておくと、今回は知人の論文であるばかりか、まさかその内容ががっつりどっぷりPRIに深く関わるものでもあり、私自身冷静に判断しきれていない可能性が十分にあります。このまとめは話半分に読んでみて、気になる方はぜひご自分でfull textを読んでみてください。



b0112009_22425813.png
この論文1のイントロで寺田氏らは足関節捻挫がCNSに与える影響を指摘。捻挫から二次的に起こる筋制御および姿勢制御の変化など、CAIという怪我が足首だけでなく全身に広がることを踏まえ、「横隔膜は呼吸だけでなく姿勢制御にも関わる重要な筋肉。もしかしたらCAI患者は横隔膜の機能が低下しているのでは(=姿勢制御力の低下もこれで説明可能?)」と仮説をたて、それを検証しています。

被験者となったのは「日頃から運動している」というCAI患者27人 (男性4名、女性23名、平均22.58±3.33才、但し最も最近の足関節の捻挫から最低でも3ヶ月経過済み)と足首に障害を抱えない健康な28人 (男性9名、女性19名、平均21.04±1.88才)。ちなみに誰がCAIという診断カテゴリーに当てはまるかは既に国際足関節協会(International Ankle Consortium)が推奨しているガイドラインがあり、2 この研究でもそのガイドラインを用いて客観的・主観的の両観点から総合的に定義しています。ふむふむ。ここまでで気になるのは女性被験者の全体的な多さ(76.4%)とグループ間の男女差くらいですかね(CAIグループ女性率: 23/27 = 85.2% vs コントロールグループ: 19/28 = 67.9%)。

実験の手順は至ってシンプル。被験者に仰向けでテーブルに寝てもらい、静かに呼吸を繰り返してもらう(quiet breathing)。その間、息を吐き切ったとき、吸い切ったときのそれぞれの横隔膜の筋の厚みを超音波画像を使って測定するというものです。見え方で言うとこんな感じになるみたい(↓)。…で、横隔膜は呼気でリラックス→薄くなり、吸気で収縮→厚みが増すわけですから、筋肉の厚みの増減を見れば一呼吸によってどれだけ収縮したか、というcontractility(収縮性)が測れますよね、というわけです。
b0112009_18425572.png

結果は…
 左横隔膜
   CAI:    0.14±0.04から0.16±0.05cmへ 収縮率21.62±11.76%
   コントロール: 0.14±0.04から0.19±0.05cmへ 収縮率29.07±12.32%
   グループ間の収縮率の差: p = 0.03, Cohen's d = -0.62 (95%CI -1.14 to -0.07)

 右横隔膜
   CAI:    0.15±0.04から0.18±0.05cmへ 収縮率22.93±14.66%
   コントロール: 0.14±0.04から0.18±0.05cmへ 収縮率27.43±17.78%
   グループ間の収縮率の差: p = 0.31, Cohen's d = -0.28 (95%CI -0.80 to 0.26)

…というわけで、CAI患者にコントロールと比較して著しい(p = 0.03)収縮率の低下が左横隔膜でのみ確認できました。Effect sizeはmoderate (0.40≦d<0.80)のカテゴリーに入り、しかも95%CIがゼロを挟んでいないため、統計的だけでなく臨床的にも有意な発見、ということになります。

考察で寺田氏らは1) CAIによるsensory inputの変化がneuromusularレベルでのmaladaptationを引き起こし(=本来『通常』でないaltered sensationを『通常』と認識するようになる)、それが慢性的に患者の身体で続いた結果、左横隔膜の収縮率の低下として我々の目に見えるようになるのか、それとも 2) 受傷によって起こされる精神的なストレスが交感神経を優位にし、その結果、呼吸が変わって左横隔膜に病理が出るのか…というふたつの説を挙げています。

ここらは論文から直接の引用になりますが、
"Incorporating diaphragmatic breathing exercises might have beneficial effects in patients with CAI."
慢性足関節不安定症のある患者は、横隔膜を使った呼吸エクササイズで症状の改善が見られるかもしれない

"[Therefore,] altered diaphragm contractility could be a potential source for clinical deficiencies within patients with CAI."
慢性足関節不安定症の患者に生じている臨床的欠陥は、変わってしまった横隔膜の収縮性によるものなのでは

"Because of neural and mechanical differences between right and left hemi-diaphragms, an alteration only in the left hemi-diaphragm may strengthen asymmetrical patterns by relying more on the right side, possibly leading to the loss of the ability to work the right and left hemi-diaphragms together."
左右の横隔膜は神経的、物理的にそもそも異なる。故に、(今回の研究で実証されたような)左だけの横隔膜に見られる変化は「(呼吸を)右横隔膜に頼りがち」という横隔膜の左右非対称性を更に強めるものとなり、結果として右・左横隔膜の協調性は加速をつけて失われてゆく

…まさかこういう言葉や表現がPRIの教育を全く受けていない人間から出るとは…!という感じで、私自身感動に近い感情を覚えています。もちろん、この研究は完璧完全ではありません。例えば、この研究では患者を仰向けに寝かせた状態で横隔膜の活動を見ていますが、これは実際に我々がupright(抗重力)の姿勢を保っているときの呼吸と等しいと言えるのか (これは著者自身も研究で「limitation」として挙げています)?「ゆっくり」「普通に」呼吸をして、と言われて、各被験者が全く同じレベルでの呼吸を実現できたのか (これも著者ら自身、spirometerなどで実際の呼吸量を計測する方法もあったと本文内で述べています)?CAIは右・左足関節のどちらに多く確認されて、それは横隔膜の左右差と関連性は見られたのか?これらの患者に実際diaphragmatic breathingの治療介入をして、左横隔膜の収縮率がどれだけ上がるのか?…まだまだこれからの研究で確認されなければいけないことは多々ありますが、とりあえず「足首に問題のある患者さんの横隔膜、左があまり呼吸筋として活発に動いてないっすわ!」という結果が出たというだけでも私には十分面白いものです。

ちなみに寺田君は今年の4月から日本に完全帰国して立命館大学で教授として活躍中です。日本にはマジでこういう宝がごろごろいるんですから、一人でも多くの方にそのbenefitが行くようにしてほしいです!「ブログに書いてもいい?」と聞いてすぐに「いいよ!」と言ってくれるその瞬発性、ありがとう!これからも私のような非・研究者に色々教えてください。

1. Terada M, Kosik KB, McCann RS, Gribble PA. Diaphragm contractility in individuals with chronic ankle instability [published online May 26 2016]. Med Sci Sports Exerc.. 2016. doi: 10.1249/MSS.0000000000000994.

2. Gribble PA, Delahunt E, Bleakley CM, et al. Selection criteria for patients with chronic ankle instability in controlled research: a position statement of the International Ankle Consortium. J Athl Train. 2014;49(1):121-127. doi: 10.4085/1062-6050-49.1.14.

[PR]

  by supersy | 2016-06-02 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

<< 月刊トレーニングジャーナル7月... PRI福岡講習終了。PRIの夏... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX