アキレス腱障害(Achilles Tendinopathy)のリハビリまとめ。

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以前、Patellar Tendinopathy (膝蓋腱障害)のリハビリについてまとめたこと(12)がありますが、Achilles Tendinopathy (アキレス腱障害)についてもさらりとまとめたいと思います。
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古い論文(↑1998年発表)ではありますが、Alfredson Model1 はやっぱり先駆けでしたよね。この研究では、1) 走るとアキレス腱に痛みが出、既に従来の治療法(休息、抗炎症剤、リハビリ)を試したけど効かなかったという15人の患者(平均44.3±7.01才、男12人、女3人、症状が出始めてから平均18.3ヵ月)を12週間のEccentric Trainingプログラムに、2) 15人の全く同じ症状・状況の患者(平均39.6±7.9才、男11人、女4人、症状が出始めてから平均33.5ヵ月)を手術に、とそれぞれ違うアプローチを施し、Eccentric Training Groupは12ヵ月後に、手術組は24ヵ月後に、痛み(VAS)と筋力(concentric & eccentric Pflex)を計測。ちなみにEccentric Training組は下の写真のような階段のような段差を利用して、怪我をした片足で立ち、最大底屈した状態から3秒かけてゆっくりと最大背屈…というのを一日に2回(朝と夕)、12週間毎日繰り返すというプログラム内容。エクササイズは2種類、膝をまっすぐ(写真A&B: gastroc)と、曲げた状態(写真C: soleus)で、それぞれ15回3セット。最初の1-2週間は痛みが多少増えても「それは想定の範囲内」と被験者には伝えていたそう。
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で、やり方でちょっと注目してほしいのが、「あくまで主役はeccentric contraction」ということですね。踵を上げた状態から、患側の足を3秒かけてゆっくり下ろす。一番下まで降りたら、健側の足に体重を移行し、そちらの足を使ってまたスタートポジションまで上がるというのが面白い点です。徹底して、患側ではconcentric contractionを行わない。で、「とても続けられない、というほどの痛みではなく、痛いけど運動は可能、くらいの痛みを感じているのが理想的なintensity」であり、逆に患者が全く痛みを感じない場合、その運動は「簡単すぎる」と判断され、重りを入れたリュックサックを背負って負荷を増やす(←)必要があります。


結果を言ってしまうと、Eccentric Training組が12ヵ月のトレーニングで痛み・筋力共に怪我をする以前の状態までに回復したのに比べ、手術組は24ヵ月かかって同様の状態まで回復。全員が最終的に痛み無くランニングを再開できるまでに。つまり、「Eccentric Trainingによって手術しかないと思われていた患者が手術したのと同様のレベルまで、より短期間で回復=手術を回避できる」というのがこの論文の結論でした。adverse effectは何も報告されず、dropoutが一人も出ていないというのは評価すべきところですね。比較的エクササイズもシンプルで、特別な道具がなくても家でできるというのもありがたいです。

突っ込みどころとしては、1) intervention前の両グループを比べた時に、年齢・男女比はともかく、「症状が出始めてからの期間」平均が18.3ヵ月vs33.5ヵ月ってのは差がありすぎでは?(p valueが報告されていないけど、まずp<0.05ではなかろうか) 2) 両グループそれぞれ15人ってのはpower analysisの結果でもないし、少ないのでは? 3) bilateral symptomsの患者は除外されているので、そういう患者はEccentric Trainingが使えないということ?(concentric returnができないから、この運動そのものが全くできなくなってしまう?) 4) 患者は各自家でこのトレーニングをやるように口頭指導されていたわけだけど、本当にやっているかどうかの確認は一体どうやってされていたの?そこんとこの記述無し。 というところがありますかねー。blindingなども報告されていないし。まあ古い研究だから作りが少し甘いですよね。

…で、読み比べると面白いのがこちらの比較的最近の研究。2
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Patellar Tendinopathy同様、「Eccentric Trainingじゃなくて、Heavy Slow Resistance (HSR) Trainingはどうよ?」とこちらでも声が上がって、それを直接比較したRCTですね。2015年発表です。

この研究では58人の慢性アキレス腱障害(>3ヵ月)患者をランダムに1) Eccentric Training組と 2) HSR Training組に分け、それぞれ12週間のリハビリを実施。ちなみにEccentric組は上記のプロトコル通りなんですが(前述したAlfredson Modelを採用)、HSR Trainingっていったい何をするのかというと、週3回、両足をついた状態でのエクササイズ3つを徐々に段階を上げながら行うという感じ。下の写真にあるように、A: 座位で膝を屈曲した状態でのヒールレイズ、B: 膝を伸展した状態でバーベルを肩に担ぎ、つま先でプレートの上に立って、そこからヒールレイズ、C: レッグプレスマシーンを使い、膝を伸展位でヒールレイズ…というヒールレイズのオンパレードになっています。それぞれのエクササイズはEccentric phaseもConcentric phaseも等しく重視されるため、踵を上げるときも下げるときもそれぞれに3秒ずつ、つまり、一度上がって下がるのに合計6秒というゆっくりさで、全可動域を使いながら行います。セット数は3-4回、セット間の休憩は2-3分、エクササイズとエクササイズの間の休憩は5分という指定はずっと変わらないのですが、rep数は週を重ねるごとに徐々に減り、逆に負荷はどんどん上がります。指定のプロトコルは以下の通り。
  Week 1: 15RMを3回    Week 2-3: 12RMを3回
  Week 4-5: 10RMを4回   Week 6-8: 8RMを4回
  Week 9-12: 6RMを4回
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で、両プロトコルの更に面白い比較が、「一週間当たり、それぞれのプロトコルを実施するのにどれだけの時間がかかったか」ということ。Eccentricが一週間当たり308分かかったのに比べ(時間にすると5時間ですね)、HSRはその約1/3の107分(2時間未満)。しかもこの数字は一番rep数の多い一週間目の時間であり、Week 2, 3, 4…と進んでいくとその時間はより短くなるわけなので…。ふーむふむ。

…で、結果としては、ランニング中の痛み(VAS)、ヒールレイズ中の痛み(VAS)、機能(VISA-A)、A-P tendon thickness(US)、neovascularizationの程度(Color Doppler)とActivity Levelは両方のグループで等しく、著しく改善。トレーニング前(Week 0)、トレーニング完了直後(Week 12)、トレーニング修了から10ヵ月後(Week 52)の三つの時間軸で、どれもしっかりとした回復傾向が確認されました。EccentricとHSRの効果の大きさは大差なーし。

さて、ここだけなら「どっちやってもよさそうでした」で終わるところですが、ひとつ考えるべきはトレーニングにかかる時間と労力です。同じ効果が得られるなら、貴方は一日に2回、朝夕にやらなければいけない痛みを伴うトレーニングと、週に3回で済むトレーニングと、どちらが好ましいと感じますか?貴方だって仕事もあるし生活もあるし、時間が無限にあるわけじゃない。患者の立場になると、答えは比較的明確になってきますね。これが数値として出たのが患者のCompliance rate (78% vs 92%, p<0.005)と満足度(80%の患者が満足と回答 vs 100%, p=0.052)。予想通りというかなんというか、HSR組の鮮やかな勝利。「同じ結果を出すなら、より手間がかからず、痛くないほうが良い」というのは、患者側の至極真っ当な感想ですよねぇ。

で、結論としては「どちらも長期的に確かな効果があるが、HSRのほうが手軽で満足度・コンプライアンス度共に高い」「そんなに意固地にconcentricを避けなくてもいいのでは?」に要約できるかなと思います。この研究の優れている点としては、pre-interventionのPatient Characteristicsに大差ないことを事前に確認してからの実感開始であるということ、アキレス腱障害の診断はPhysical examのみでなく、超音波画像を使って確認もしているというところ、Power analysisをし、各グループ18人集めればいい、と分析したうえで、それを上回る25人に人数目標を設定し、十分な人数を確保した点。それから11人いたdropoutも(結構多いですね)何故研究からwithdrawしたのか理由が提示してあり、intention-to-treatアプローチが使われたところも評価できます。エクササイズをしっかりやったかどうかは相変わらず患者のself-report頼りではありますが、Training Diaryを提出させたりと、Alfredsonの研究に比べてそれでもなんとか書面で確認しようという努力は見られます。でも、やっぱりセラピストがきちんと毎回目で確認したわけではないからなー。

EccentricがHSRに勝っている部分がひとつあるとしたら、「家で十分誰もができる」手軽さですかね。HSRはジムのような施設にアクセスがある人でないと、出来ませんよね。ここ、何故か論文では触れられていませんが、結構一般の方には大きな問題かと思うんですが。

ちなみにどちら1,2 も患者のアキレス腱の痛みは「真ん中へん(midportion)」にあるケースのみで、踵に近い「insertional tendinopathy」はまた勝手が違うみたい。3 Midportion Achilles Tendinopathyでも、「本当にAlfredson modelみたいなすごい数のrepetitionをする必要あるの?もっと少なくても同じ結果出るけど?」という研究結果も出ており、4 総合すると、「Alfredson Modelがどうやら効果をもたらすのは事実のようではあるけれども、一日に2回、毎日、痛みを伴うエクササイズをしろ、というのが患者の目にどう映るかというのは甚だ疑問であり、このプロトコルが最善と決まったわけでもない」 という感じで、私は個人的には、ジム施設が身近にあるのならHSRのほうがアリなのでは、と勝手に今のところ思っています。まだまだ研究が出てきそうな分野なので、楽しみに待つことにしますー。

1. Alfredson H, Pietilä T, Jonsson P, Lorentzon R. Heavy-load eccentric calf muscle training for the treatment of chronic Achilles tendinosis. Am J Sports Med. 1998;26(3):360-366.
2. Beyer R, Kongsgaard M, Hougs Kjær B, Øhlenschlæger T, Kjær M, Magnusson SP. Heavy slow resistance versus eccentric training as treatment for Achilles tendinopathy: a randomized controlled trial. Am J Sports Med. 2015;43(7):1704-1711. doi: 10.1177/0363546515584760.
3. Kedia M, Williams M, Jain L, Barron M, Bird N, Blackwell B, Richardson DR, Ishikawa S, Murphy GA. The effects of conventional physical therapy and eccentric strengthening for insertional achilles tendinopathy. Int J Sports Phys Ther. 2014;9(4):488-497.
4. Stevens M, Tan CW. Effectiveness of the Alfredson protocol compared with a lower repetition-volume protocol for midportion Achilles tendinopathy: a randomized controlled trial. J Orthop Sports Phys Ther. 2014;44(2):59-67. doi: 10.2519/jospt.2014.4720.

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  by supersy | 2016-04-25 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

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