Clinical Prediction Rules Aren't Prefect: 落とし穴を理解する。

ハヤリものを叩いて楽しむ、という風習は好きではありませんし、そういうつもりもないのですが、面白い論文を見かけたのでまとめておきます。注意喚起と言う意味でも医療界の誰もが心に留めておいて損はない内容かなと思いますし。こういうハナシもいつかEBPのAdvanced courseをできるようになったら掘り下げて話してみたいなぁー。
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さて、Clinical Prediction Rule (CPR)が最近エビデンス界で大ハヤリですよね!有名なものでは恐らく誰もが知っているOttawa Ankle Rules1 なんかがあります。このルールは「足部の怪我をしたときにいつレントゲンを撮るべきか」という的確な診断のプロセスの一部として使うのに有効ですし、他に有名な例として挙げられるWells’ Score2 は「こういう条件がより多く当てはまればよりDeep Vein Thrombosisの可能性が濃くなるぜ!」と言う風に、こちらも診断の手助けに使えます。あとはですね、例えば貴方が腰痛を持っていたとして、
  1)現在の痛みレベルが10段階評価で7以下
  2)この腰痛が始まったのは5日以内である
  3)腰痛の病歴は今までに一回以下である
この3つの条件全てが貴方に当てはまれば、特に治療をせずともこの腰痛が1週間以内に自然に改善する可能性は60%、12週間以内に改善する可能性は95%…という風にprognostic information (予後診断)として使えたりするのもあります。3 まぁこのCPRがどれだけ実用性があるかはともかくとして(個人的には12週間何もせずにただただ改善を待つくらいなら、何かして早く治したい)、様々な用途のCPRがドンドン医療系ジャーナルで発表されていて、CPRはEvidence-Based Practice (EBP)の流行のど真ん中、最先端と言えますね。
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さて、今回ご紹介したいのはこの論文(↑)。4 この記事の著者らは、特に治療に特化したCPRに対して、「イヤイヤ待った!もうちょっと解釈には気をつけないといけないんじゃないの?」と問題提起しています。

この論文のタイトルに書いてあるprescriptive CPRというのはCPR for interventionと同義で、「こういう患者にはこういう治療法が効くぜ!」という治療方針を決めるのに役立つもののことです。例えば、「こういう肩の傷みのある患者には鎖骨・肋骨・胸郭のマニピュレーションが効くぜ!」5 とか、「こういう膝の痛みのある患者には足底板が実は効果を発揮するぜ!」6 とか、なかなか面白い切り口のCPRがあったりするのです。長く現場にいる方は分かるかと思いますが、患者の体は一人ひとり違うもの。同じ怪我をした患者2人でも、こっちの患者に効いた治療があちらの患者には全く効果が出ないとか、色々なことがありますよね(だからこそ私はATは道具箱に色々一通りの治療アプローチは入れておくのが理想的、と思っていますし教えているのですが、まぁこれはまた別の機会に…)。よって、最善の治療を見つけるプロセスは必然的にtrial & errorの繰り返しになるわけですが、場合によっては「これもダメか…」「あれも効かないか…」と、理想の治療にたどり着くまでにかなりの時間やお金がかかることもあるわけです。だからこそ、「この患者にこれは効くであろう」「これはダメだろう」と実際に治療を試さずとも事前に予期できるようなルールがあればこんなに有り難いことはありません。

しかし、この論文でHaskins & Cook氏ら4 が述べているのは、治療系CPRの信憑性や実用性は以下の要素に大きく左右される、ということです。中でも大きな論点3つは、
1)比較対象になった治療は何なのか―あくまでそれと比較しての効果しか論じていないということを理解すべし
2)何を持って治療成功と定義していたのか―本当にその『成功』で貴方の患者さんは満足する?
3)サンプルサイズが不十分で、統計的にunderpoweredであり、95% CIの幅が広いことが多い。―Point valueに騙されるな!
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この3つの角度から、例の「膝の痛みと足底板」のCPR(↑)6 をちょっとreviewしてみましょうか。この論文では…
1)あくまで足底板治療のみを試した人達を被験者対象にしており、効果があった人たちと無かった人たちをグループ分け・比較をしている。つまり、他の治療アプローチ(例えばリハビリとかテーピングとか)と比べて足底板がより優れた効果がある、という結論は出せるものではない。
2)[著しく改善した、少し改善した、変化なし、少し悪化した、著しく悪化した]の5段階評価で患者に自らの状態を評価してもらい、「著しく改善した」を選んだ患者を「成功」とする。これは、患者のself-reportのみとはいえ、まぁまぁハッキリとして良い基準なのではと思いますね。
3)統計、見てみましょうか。下の表は記事から抜粋した、1)患者の年齢が25歳より上; 2) 身長が165cm未満; 3) 一番痛いときで痛みレベルが100mm VASで53.25mm未満; 4) 中足幅がFWB vs NWBで10.96mm以上差が出る、という4条件の3つを患者が満たしていた場合、患者が足底板を12週間使って「著しく回復する」可能性を示しています。結果は…
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95%CIも含めて唯一優秀なのはSpecificityの96% (95% CI 78-99%)ですね。Sensitivityは問題外で低すぎ、+LRは8.8 (95%CI 1.2-66.9)なので、下限値が5.0を割ってしまっている以上、これは決定的な数値とは言えません。例え8.8がそこそこ優秀な値でも、下限値が1.2という低さだと、Haskins & Cook氏らの言うとおり、これは”Underpowered study”と言わざるを得ないかと。

あと、Haskins & Cook氏はこの論文4では触れていませんが、患者のinclusion / exclusion criteriaも注意深く読むべきですよねぇ。膝の痛みと足底板の研究に更に言及するならば、「過去に膝の手術をしたことがある、膝蓋大腿周辺組織の弛緩がある、膝に腫れがある、オスグッド・シュラッター病やシンディングラルセン病の病歴あり、股関節や腰椎の痛みがある、過去一年にリハビリをした、以前に足底板を使ったことがある、抗炎症剤を使っている…」のいずれかに当てはまる患者は被験者対象から外れていたので、貴方の目の前の膝の痛みを訴えている患者さんがこの条件にひとつでも当てはまった場合、このCPRはそもそも全くアテにならない、使うべきではない、ということにもなります。

(もっと現実的なところでひとつ突っ込むと、12週間も足底板のみを使って改善するかしないかという治療アプローチは、多くのスポーツの現場では現実的ではないでしょう。時間軸が長すぎるのと、やはり他の治療法、例えばリハビリなんかも併用してもいいものなのか?効果が相殺しあったりはしてしまわないか?というところまで調べていただけないと…。あとは、年齢が25歳より上で、身長が165cm未満のアスリートって、アメリカにはほとんどいない、という単純なトコロも…)

そんなわけで、私もHaskins & Cook氏4が最後に述べているように、CPRには大きな可能性があり、我々の臨床を大いに助けるものに成り得ると信じてはいるものの、それらの研究の解釈には最善の注意を払うべきだとも思っています。つまるところ、やっぱり面倒くさくてもちゃんと論文をフルテキストで手に入れて、一字一句きちんと読んで内容を深く理解する必要がある、ということです。

(先の膝の痛みと足底板の研究も、結論だけ読んで鵜呑みにしてしまうと、「そうか、年齢が25歳より上で、身長が165cm未満、痛いって言っても「そこそこ痛む」ぐらいのレベルの患者で、立った時に舟状骨がスコンと落ちるタイプの人には足底板使えばいいのね!と思ってしまうかもしれない。そこまでgeneralizedできる研究結果ではないのにも関わらず、です)

それでもどうしても論文が手に入らない、もしくは全文を読んでいる暇がどうしてもない、という方にはこの本(↓)7 がおススメです。この本は医療界で世に出ているCPRを診断・予後・治療のカテゴリーに分けて、ひとつひとつの研究をなかなかに詳しく紹介しています。スマホのアプリ版もあるみたいですよ、こちらは使ったことがないので使い心地は保証できませんが。論文まるごとを読むに優ることは決してありませんが、next best thing, かもしれません。
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1. Stiell IG, McKnight RD, Greenberg GH, McDowell I, Nair RC, Wells GA, Johns C, Worthington JR. Implementation of the Ottawa ankle rules. JAMA. 1994;271(11):827-832.
2. Miron MJ, Perrier A, Bounameaux H. Clinical assessment of suspected deep vein thrombosis: comparison between a score and empirical assessment. J Intern Med. 2000;247(2):249-254.
3. Hancock MJ, Maher CG, Latimer J, Herbert RD, McAuley JH. Can rate of recovery be predicted in patients with acute low back pain? Development of a clinical prediction rule. Eur J Pain. 2009;13(1):51-55. doi: 10.1016/j.ejpain.2008.03.007.
4. Haskins R, Cook C. Enthusiasm for prescriptive clinical prediction rules (eg, back pain and more): a quick word of caution. Br J Sports Med. 2016. pii: bjsports-2015-095688. doi: 10.1136/bjsports-2015-095688.
5. Mintken PE, Cleland JA, Carpenter KJ, Bieniek ML, Keirns M, Whitman JM. Some factors predict successful short-term outcomes in individuals with shoulder pain receiving cervicothoracic manipulation: a single-arm trial. Phys Ther. 2010;90(1):26-42. doi: 10.2522/ptj.20090095.
6. Vicenzino B, Collins N, Cleland J, McPoil T. A clinical prediction rule for identifying patients with patellofemoral pain who are likely to benefit from foot orthoses: a preliminary determination. Br J Sports Med. 2010;44(12):862-866. doi: 10.1136/bjsm.2008.052613.
7. Glynn PE, Weisbach PC. Clinical prediction rules: a physical therapy reference manual. Sudbury, MA: Jones & Barlett Learning;2011.

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  by supersy | 2016-04-05 19:00 | Athletic Training | Comments(0)

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