Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその2。

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もうひとつ紹介したかったのはこの論文です。1 これはネパールの研究者によるものですね、珍しい。2015年8月と、比較的最近発表されています。

膝の痛み、グラつき感や引っかかり感などを訴えてスポーツクリニックを受診した20-45歳の患者を対象に、Anterior Drawer Test, Lachman Test, Pivot Shift TestとLelli Test (以下Lever Sign Testと表記します。原文ままだとLelliなんですけど)を実施。のちにArthroscopeを全員に行い、ACL断裂の有無を確認した、という研究です。

ちなみに実際にこの研究に参加した被験者内訳は男性50人、女性30人の合計80人(平均年齢32.12歳)。内視鏡検査の結果、ACL断裂が確認されたのは35人で、そのうち13人がisolated ACL tear、22人が半月板損傷を伴うACL tearだったそうです。ACL tear全体のうち約63%が単独でなかったということは特筆すべきかもしれません(前回の記事で述べた穴の二番目がこれで大きくなりましたね。前十字靭帯断裂時の6割以上は他組織の損傷を伴っている。つまり、前記事の結果が当てはまらない場合のほうが多いわけです)。

さて、それでは一気に結果に飛びましょう。各診断テストと内視鏡検査の結果が以下の表にまとめられています。+LRと-LR値(と、それらの95%CI値)はこの論文では求められていなかったので、私が出して付け加えてみました。統計的に決定的と言えるものには赤い色もつけてみています。
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ひとつひとつ、私見をたっぷり交えて読み解いてみます。Anterior Drawer TestはSpecificityの95%CI底値が80を超えていることから、Rule in (確定)する力に長けていることが分かります。対してSensitivityは、悪くはないんですが95%CI底値が62.53なので「陰性だからってACL損傷が無いとは強く断定できない」ということになりますね。+LR、-LRも同様に「良いんだけど、決定力に欠ける」と言った印象です。
LachmanはSpecificityも+LRもがっつり優秀。Rule in (確定)する力はAnterior Drawerよりも高いです。SensitivityはSpecificityほどではないものの、95%CI最低値が75.81とこれもなかなか。-LRの最大値0.27と合わせてみても、この4つのテストの中ではRule out (除外)する力が最も強いテスト、ということになります。
Pivot Shiftは予想通り、というかなんというか、Rule in (確定)はほぼ確定的、Rule out (除外)はコイントスをして表が出たらACL断裂、というのと変わらないくらいアテにならない、というのが分かりますね。
で、Lever Sign Testはというと全てのpoint valueは優秀なんですけど、95%CIの幅を見るとうむむむむ、という感じですかね。一番いいのはSpecificityの91.11(77.87-97.11)なんですけど、他の3つのテストと比べてみると実は最も低いという結果になっています。Sensitivity (85.71: CI 68.95-95)と-LR (0.16: 95% CI 0.07-0.36)を見る限りではRule out (除外)する力はLachmanに次いで二番目に高いですね。

昔からある3つの診断テストの数値は、依然に発表された文献たちのそれと酷似していると言っていいと思います。特に今までの常識を覆すような発見はないかなと。で、全部をランキングにまとめてみると、
   確定(rule in)力     除外(rule out)力
1位 Pivot Shift       Lachman
2位 Lachman        Lever Sign
3位 Anterior Drawer    Anterior Drawer
4位 Lever Sign       Pivot Shift
こんなところがフェアでしょうか。この研究ではLever SignのSensitivity、Specificityの値と比較して、それぞれのp valueも計算されていて、以下のよう(↓)になっています。赤は統計的有意(はっきりとした違い)を、黄色は統計的傾向(トレンド)を表しています。
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解釈としては、「Lever SignのSensitivityはPivot Shiftのそれよりも著しく(p = 0.000)高い」「Lever SignのSpecificityはPivot Shiftのそれよりもかなり低い傾向にある(p = 0.0625)」「Anterior DrawerとLachmanはSensitivity、Specificity共にLever Signと大差なし(p > 0.05)」ということになるんですが…なんでこれが大事なのかって?つまり、この分析で「Lever Sign TestはどうやらAnterior DrawerとLachmanと等しく優れたテストである」ということが言えるんです。

この論文の穴
1) 80人という人数はPower analysisに基づいたものではないため、これが十分な被験者数という保証はない。もっと被験者が多ければ、95%CIの幅も狭まったはず。
2) やっぱり誰が、どういう順番と条件でそれぞれの診断テストをしたのが記述がない。
3) 受傷から診断までどのくらい時期が経過していたかの情報が全くない。これは、痛みの度合いやGuarding/spasmの有無にも影響してくるため、私にとっては結構重要な情報。特に、Anterior Drawer Testの正確性に関しては急性のACL損傷には低く、慢性のACL損傷には高い報告がされているため、無視するわけにはいかない要素。
4) 男女別や損傷程度別(isolated vs combined)の分析は無し。せっかく情報があったのだからそういう分析も見てみたかった。
5)あと…これは全然関係ないかも知れませんが、この論文、構成ミスが多すぎです。スペースの使い方、大文字小文字の使い分け、参考文献の並べ方…このJournal of Institute of Medicineというジャーナルも聞いたことないですし、Impact Factor低そう。内容は決して悪くないと思うんですけど、こういう細かいところが気を配られてないと、怪しさは増します。

この論文の良いところ
1) Inclusion Criteriaが明確で、あくまで膝の異常を訴えてきた全患者が対象だったこと。「ACL損傷でなかった患者も被験者に含まれていた(人数にして55人)」のは大きいですね。前回のDr. Lelli氏の論文は「ACL断裂していることが既にMRIで確認された患者のみ」でしたから、今回の論文のほうがより我々の現場環境(『どうやら膝を怪我した、でもどんな怪我かまだ未確定』)に各段に近いと言えます。
2) 診断のゴールドスタンダードである、内視鏡検査が全患者に使われている。これはMRIよりも絶対的です。
3) 95% CIを計算している。…+LRと-LRは出しておいてくれなかったですけどね。

さて、個人的な最終意見をまとめると、診断統計的にLachmanが総合的にやはり一番使える診断テストと言えそうだけど、その次くらいにLever Sign Testはありかなと。Lachman、Anterior Drawerとcomparableでありながら、そのアホみたいなシンプルさはやっぱり捨てがたい。その他3つの診断テストのlimitations (Lachman: 試験者の手の大きさと患者の腿の大きさの不一致、Anterior Drawer: 90°の膝屈曲が不可欠、ハムストリングの緊張や内側半月板後方の損傷が 偽陰性の要因になる、急性損傷の診断力の欠如、Pivot Shift: MCLとIT Bandがintactでなければいけない、患者に意識がある場合の不快感とguardingの高さ)がはっきりと文献で指摘されているのに対して、Lever Signがそういった要素にどうやら影響されにくそうなのは大きな利点です。はっきりと影響がないと証明されるにはまだまだ研究が必要ですし、もしかしたらLever Sign Test特有のLimitationというのも将来見つかる可能性は否定できませんが。個人的には子供にも使用可能なのか(拳のサイズに対して足が小さくなるので)、他の組織の損傷があった場合で正確性がどう変わるのかなどは興味があります。
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今、目の前で膝を怪我した患者がいて、私が使うのは骨折や脱臼をRule outしたあとではまず現時点ではLachmanでしょうけれども(長年使ってますし、100kgくらいまでの選手ならmanipできるような気がします)、次はLever Signですかね。私は急性の患者にAnterior Drawerはできればラッキー、陽性なら考慮に入れるくらいで、陰性を除外の根拠にすることはありません。Pivot shiftに関しては恐らくattemptすらしないと思います。うーむ、Lever Sign Test、確実にスタメンには入ってくる感じですね。これからの研究にも期待してます。面白い!

1. Thapa SS, Lamichhane AP, Mahara DP. Accuracy of Lelli test for anterior cruciate ligament tear. J Inst Med. 2015;37(2):91-94.
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  by supersy | 2016-03-18 15:00 | Athletic Training | Comments(0)

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