Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその1。

私的な告知ですみません。以下の日程で、Evidence-Based Practice (EBP)講習を、東京は立川で行います!興味のある方はぜひ、リンクから詳細を確認してみてください。

5月25日(水) 18:30-21:30pm
  「エビデンスに基づいたスポーツ傷害診断: 基本から応用まで」
  会場: たましんRISURUホール 第6,7会議室   参加費: 8000円
6月1日(水) 18:30-21:30pm
  「エビデンスに基づいた治療介入: 基本から応用まで」
  会場: たましんRISURUホール 第1会議室    参加費: 9000円

お申し込みはリンク下のカレンダーから個別にどうぞ。両方でも、片方だけでも。多くの皆様に会えるのを楽しみにしています。初めての方も、リピーターの方も、学生さんも大歓迎です。エビデンス苦手、英語読むの苦手という皆様、是非!
それでは、この講習のプレビューというわけじゃないですけど、この講習でやるのと非常に似たようなことを今日このブログに書いてみますね。これを楽しいと思ってくださる方は、きっとEBPの勉強をするのに向いていますよ。エビデンスに飲まれず、どうそれを利用していかにより良いクリニシャンになったるか?というところ、ちょっと一緒に考察してみましょう。



Lelli Testについてまとめたのはもう2年も前なんですね!このときに「いずれ文献でも見かけることがあるかもしれません」と書いてシメましたが、その文献が出てきたのでここにまとめておきます。
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今回reviewしたいのはこのビデオ公開から数ヵ月後、Dr. Lelli自身が2014年12月に発表した論文です。1 彼は以前自らの名前を取ってLelli Testと呼んでいたこのテストを、この論文では『Lever Sign Test』(つまり、テコの原理を使ったテスト)という風にさらりと改名して(たぶん欧米診断界のトレンドが、診断テストに個人名をなるべく使うなという風になっていることがあるかと)、その上でこのテストが部分断裂・完全断裂に関係なくACL損傷を発見するのに有効なテストである、と冒頭で述べています。
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せっかくなのでDr. Lelliによるこのテストの描写をこの論文から抜粋しておさらいしてみますね。以前、ビデオでしていた説明と少し異なる部分もあるので。

1. 患者を仰向けに寝かせ、膝を最大伸展させる。
2. 試験者は患者の下腿近位1/3に握ったこぶしを入れ、膝が少し屈曲するようにする。
3. もう片方の手で、大腿四頭筋の遠位1/3を軽く下に押す(apply moderate downward force)。
4. これをすることで、拳を支点にテコの原理が働き、重力に逆らって踵がテーブルから浮くはず(=陰性)であるが、テコが働かず重力が勝って踵が浮かなかった場合、これを陽性とする。これは、前十字靭帯がもはや大腿と下腿に力を伝える機能を果たせていないためである。

近位と遠位の1/3という描写は以前はなかったのではと思いますね。で、Dr. Lelliはさらに「(LachmanやAnterior Drawerなどと比較して)突然不意の力をかけることがない分、患者の痛みやguardingの軽減につながるのでは」とも書いています。ふむふむ。

で、肝心の実験なんですが、これはProspective designを採用して、400人(女=119, 男=281, 平均年齢= 26.4∓14.9歳)のMRIによってACL損傷が確認された患者を対象に行っています。被験者の数が多いのは評価されるべきところかと思います。

で、400人の患者は、それぞれの条件(MRIの結果と受傷からの期間)によって4つのグループ(↓)にカテゴリー分けされているわけです。というか、順番でいうと逆ですね、これらのグループにそれぞれ100人該当患者が現れるまで研究を続けた、という表現のほうが正しいですね。ちなみにこの100人という人数は、実験前のPower analysisで『各グループに最低97人いれば有意なデータが取れる』という結果が出たからです。Power analysisしている点もポイント高いです。注意深くこの研究をデザインしようとしている感じは見て取れます。

  Group A: 急性 完全断裂
  Group B: 慢性 完全断裂
  Group C: 急性 部分断裂
  Group D: 慢性 部分断裂

ちなみに、急性とは受傷20日以内、慢性は20日以上を指すそうです。そんでもって、半月板や関節面軟骨、他の靭帯の損傷なども伴っている患者はここでは対象外になっています。あとは、以前に同側膝に再建手術を受けたことがある患者も除外されてます。

で、グループ分けをした後に、一人の試験者が4つのSpecial Test (Lachman Test; Anterior Drawer Test; Pivot Shift Test; Lever Sign Test)を用いて、患側の膝が陽性か陰性か検査、で、結果を記録。加えて、健側 (コントロール代わり)にも同様にLever Sign Testを使ってデータ集計したそうですよ。論文には、この唯一の試験者はMRIの結果を知らないまま ("blinded to the MRI findings")これらのテストを行ったと表記されています。これもバイアスを軽減するために有効な研究デザインのちょっとしたテクニックです。評価できます。
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で、陽性が出た患者の割合を表した結果は上の通り。これを全て合わせると、
Lachman: Sensitivity 62%
Anterior Drawer: Sensitivity 72%
Pivot Shift: Sensitivity 47%
Lever Sign Test: Sensitivity 100% (95% CI 99.08-100%), Specificity 100% (95% CI 99.08-100%), +LR 無限大, -LR 0)
…というですね、Lever Sign Test無敵じゃん!みたいな結果になっています(っつーか、なんでこの記事で95%CI求めてないんだ。私が計算してしまったやんけ)。おおっ、それじゃあ、このテストはそんなに完璧なの?部分断裂 vs 完全断裂、急性 vs 慢性問わず、前十字靭帯損傷をこれほどまでに正確に感知できるの?

ここが論文を読み解く上で怖いところです。実際、この論文の結論には「一般には診断が難しいと言われる急性ACL損傷をここまで正確に診断できるなんてこれは他のどれより優れた素晴らしいテストだ」と書かれていたりします。それを「ほえー」と鵜呑みにするのは、私の考えるEvidence-Based Practiceとは異なります。ではここで、私が思うこの研究の穴をできる限り挙げていきたいと思います。

1) 比較対象となっている試験がMRI
MRIは前十字靭帯損傷診断にかなり有効ではありますが、ゴールドスタンダードとは言えません (内視鏡がそうですよね)。故に、MRIを「基準」としているところは完璧とは言えない、と。…まぁ、ここは私はそんなに大きな穴だとは思っていませんけれど。まあ、小指くらいの穴ですかね。

2) 他の損傷(半月板、内側側副靭帯etc)もあった場合の診断的価値は不明
これは再建手術済みの患者も然り。こういう患者はこの研究では「対象外」になってますからね。なので、あくまでこの結果はisolated ACL injury onlyの有効性であると認識しなければダメ、ということになります。これは、実用性というところからいくと、そうですね、片手分くらいの穴にはなるかな。だってコンタクトでACL損傷すると、かなりの確率で他の組織も損傷するでしょ?「他の組織の損傷が除外できていない」段階でのLever Sign Testの結果の解釈は我々はどうしていいかわからない、ということになるもの。現実味がなぁ。

3) 被験者に対するバイアス
この研究で調査対象になったのは、あくまで『膝の怪我で医療機関を受診した患者』のみです。逆に言うと、『膝がなんか違和感があるけど、医療機関にかかるほどじゃないかな?』という、極稀にいるACL断裂したのにも関わらず異様に自覚症状のない患者にも同様に有効かというとそこまでは分かりません。『医療機関にかかろうと思うほどしっかりとした自覚症状のある患者である』というのが、この研究では隠れたinclusion criteriaになってしまっているわけです。どんな自覚症状でも、とにかく怪我をした選手を診るようなATからすると、ちょっとpatient populationに微妙にズレが生じてきます。これは、片足くらいの穴かなと思います。

4) 『唯一の試験者』が誰か、どれだけの経験を積んだ人間なのか明記がない
これは非常に大きな懸念材料です。普通こういうのは誰がやったかわかるようにPrimary investigatorのSAが…とか、イニシャルくらいは記載したりとか、「整形外科診断歴20年のベテラン医師が…」とか、多少説明があるものですが、この論文ではそれが全く明記されていません。この一文を加えるのはそんなに労力がかかることではないのに、何故?変な思いを巡らせざるを得ません。
例えばですよ、この人がLever Sign Testだけアホみたいに上手に一貫性を持ってapplyできるような技術があって、他のテストがてんでヘタクソだったとしたらそれは公平に4つのテストを行っていると言えませんよね?Lever Sign Testは比較的シンプルに見えるテストとは言え、拳の位置如何で結果がかなり変わってくるのでは、とか、拳の大きさもひとつの要因になるのでは、とか、そういうことはまだ一切どんな論文でも議論されていないのです。Intra- やInter-rater reliabilityが確立されていないテストでこの制限は怖いです。私が行うLever Sign Testが、この研究者が行ったLever Sign Testと同じかどうかの保証がまだ無いのです。

5) Blindingは意味があったのか?
MRIの詳細結果(完全か部分断裂か)を知らないとはいえ、被験者の全員が前十字靭帯を損傷しているのは分かり切った事実。試験者が、どんな患者が来てもLever Sign Testのみ「ようせーです」と言ってしまうことは簡単にできるのでは?健側に対するテストもまた然りです。健側と分かった状態でテストしているのだから、純粋な結果とは言えません。「いんせーでしたー」と言っちゃえばいいんですから。せっかく文章中で強調されていたblindingですが、私はこれはあってないものと一緒、と解釈しています。

6) 4つのテスト、どのような順番で行ったのかの詳細が不明
これもね、ちょっと上に繋がるんですよ。例えば、Lachman→Anterior Drawer→Pivot Shift→Lever Sign Testの順番でテストをしたとして、LachmanやAnterior Drawer、Pivot Shiftの一つでも派手に陽性が出たとしたら、そのあとのLever Sign Testが「あれ、なんか陰性っぽい?…でも、他のも陽性だったし…これも陽性って言っちゃえ!」という心理的バイアスが作用してくる可能性は否定できません。先に使ったテストの結果が、後に使うテストの結果に影響を与える可能性があるわけです。

7) なぜ他の3つのテストも健側に行わなかったのか
健側にもLever Sign Testをやって、「コントロールとして試しましたー」と言っていますが、これも上と同様です。もともとACL損傷が起きていないと分かっている膝をテストして、「ようせいー!」というおバカさんが、果たしているでしょうか。コントロールとして機能は十分にしていないと思います。他の3つのテストを何故同様に健側に行わなかったのか、という疑問もあります。4つのテストを比較するというなら、 これも同様に実施すべきでした。

8) 部分断裂と完全断裂を区別せずに、まとめて陽性というのは…
急性に対する診断力があるのは評価できるところかもしれないし、素晴らしい。でも部分断裂か完全断裂を区別することなく「陽性」とまとめることに価値は果たしてあるのか。例えば、LachmanやAnterior Drawerはそのtranslationの程度とか、end-feelからGrade I, II, IIIの区別がある程度は可能ですよね。対して、Lever Sign Testは踵が浮くか浮かないか、陽性か陰性かの選択肢がなく、この研究結果を鵜呑みにするとしても、「部分断裂と完全断裂の区別は全くつかない」というテストになります。私が現場の人間だったらreferする基準にLever Sign Test陽性を使うのはいいかもしれないけど、不安になる患者を安心させるためにも、もうちょっと損傷の程度に関する情報がほしいところです。

…というわけで、全てまとめて、皆さん改めてこのLever Sign Testをどう思いますか?個人的にはこの研究には大きな穴がぼっこぼこ開いており、「うさんくさっ!」という感想が率直なところです。Sensitivity 100% Specificity 100%というのは恐らく正確な数字ではないでしょう。
では、Lever Sign Testは現場で使うべきではない?それも違うと思います。Lever Sign Testが、他のテストに比べて技術力を要しない(Lachmanとか、初心者には難しいです。あと、太腿のでっかい体の大きな選手とか)、痛みやGuardingを起こさせるような大きな負担を患者にかけにくい、というのは事実ですし、このテストを行うのに必要な可動域も最小限で済む。例えばこんなシナリオはどうですか?1) 受傷直後、患者が痛みで膝を20-30°程度しか屈曲できない、そして2) 患者がアメフトのラインマンで、太腿が貴方の手と比べてかなり大きい。足を掴んで効果的に動かすことはできないかも…。この場合、Anterior DrawerやPivot Shiftは使えませんし、Lachmanを試してみるのはいいですが、陰性をどこまで信用すべきか怪しいですよね。こういう環境下では、Lever Sign Testしかまともに使えない場合もありますし、思いがけず力を発揮してくれるかもしれません。

エビデンスに基づく医療とは、エビデンスを鵜呑みにするわけでもなければ、エビデンスがないものを完全否定するわけでもない。エビデンスと現場での実用性、そして患者の状態や気持ちを加味して、その状況状況でベストな医療を提供するような判断ができることを言います。こういう一見「ダメダメ」な論文でも、掘り下げてみると面白いし、Lever Sign Testの隠れた現場力も見えてきたりするでしょ?

され、前述したように、私のEBP講習ではこういう論文や統計の解釈を現場レベルで掘り下げて、参加者さんとわいわい討論することが一番の目標です。頭でっかちにならず、エビデンスの使い手となって皆さんが帰ってくだされば幸いです。初心者で苦手意識のほうがまだまだ強いという方にこそ学びやすい講義をと思って作ったものです。お気軽に参加くださいませ。



さて、Lever Sign Testについてですが、実はもうひとつ紹介したい論文があります…が、長くなってしまったので今日はここまで!近々その2を更新します!

1. Lelli A, Di Turi RP, Spenciner DB, Dòmini M. The "Lever Sign": a new clinical test for the diagnosis of anterior cruciate ligament rupture. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2014. DOI:10.1007/s00167-014-3490-7
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  by supersy | 2016-03-16 23:00 | Athletic Training | Comments(2)

Commented by Yoshi at 2016-04-03 18:14 x
いつも大変勉強になってます.茨城県水戸市の総合病院で理学療法士として勤務しています.Lelli tsst,習った事なかったです.やってる方も見たことありませんが,今度試してみます.

また別の話ですが,以前に別の講習会で行っていたと思うのですが「瘢痕組織の治療」の話はまたどこか(日本)で聞けるのでしょうか? 最近,Graston Techniqueを知り,今まで改善できなかった症状が良くなるもので,もう少し勉強したいと思いまして.

また,今後とも色々と質問させてください.宜しくお願いします.
Commented by さゆり at 2016-04-03 20:51 x
Yoshi様、コメントありがとうございます。現在自分で企画、展開している講習はEBPのみですが、希望や要望があれば他の内容の講習も(もちろん私のできる範囲内でですが)日本各地へ行って是非やってみたいという気持ちはあります。でも私自身かなりマイナーな存在なのでそういう話もなかなかないのかなと思います、申し訳ないです。アクティブスカーは非常に面白いコンセプトなので、ご自身で勉強してみるのもいいかもしれません。

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