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なぜ風船を使ってエクササイズをするのか?

先週は一学期に一回の博士課程のオンサイト授業でユタ州はプロボまで行っておりました。寒かった…雪がちらついてた…ひー。
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さて、最近PRI(Postural Restoration Institute)という名前がメディアで出回っていたりもするようなので、きちんとした理解を持ちたいと思って下さっている方々のために文献紹介の簡単な記事を書いておきます。

●コアとは
コアとか体幹とかいう言葉がトレーニング界隈で騒がれるようになって久しいですが、それがどういう意味を持つか皆さんご存知ですか?コアの定義はその医療従事者・トレーニング専門家の信じるprincipleによって様々なものがあるかと思いますが、多種多様な定義に必ず含まれているのがThe Lumbo-Pelvic-Hip complex。腰椎、骨盤、股関節にかけて形成されている、その名の通り複雑で緻密な複合体です。胸椎を入れる入れないとか、頚椎を入れる入れないとか、頭蓋骨はどうだとか、そこらへんは諸説あっても、とりあえず腰椎・骨盤・股関節を「コアの一部と考えない」流派はまずいないのではと思います。
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●Intra-Abdominal Pressure (腹圧)
加えて、腹腔内で作られる圧力のコントロールと維持も体幹の安定性に欠かせない要素です。この圧力(Intra-Abdominal Pressure = IAP)は、上部は横隔膜 (diaphragm)、背部は多裂筋 (multifidus)、下部は骨盤底筋群 (pelvic floor)、そして横周りをコルセット状の腹横筋 (transverse abdominis)から四方八方からむぎゅっと囲まれることで初めて安定します。これら4つの筋肉が協調的に活動、拮抗しあいながら適切なIAPを確立・維持するという能力は、スムーズで無駄と負担のない人体の動きを実現するのに必要不可欠なわけです。
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実際この4つの筋肉は英語ではanticipatory musclesと表現されることもあり、文字通り四肢の動きを予期 (anticipate)し、腕や足の筋肉よりもコンマ数秒早く活性化されることは様々な研究でも実証されています。1-7 腕を動かそう、と考えた時点でこれらの筋肉の活動はもう始まっているなんて、せっかちというか頼もしいと言うか。Feedfowardメカニズムともよく言われますね。腹圧管理係4人集なわけです。

b0112009_7195724.pngb0112009_7341988.gif左の写真(腹水症の患者)は、病理によって受動的に腹圧が上がっていますが、この4つの筋肉の拮抗しあう力がかかっていないため、体幹の安定性は確立されてない状態になります。ただ圧がかかっているだけではダメなのです。圧が前方に逃げてしまわないよう包み込むように4つの筋肉それぞれが拮抗して収縮し、そのバランスが取れていないと(写真右)。

●代償
骨盤痛8 や仙腸関節痛9 や腰痛10 の患者は、健康な人に比べて、これらのfeedforward musclesを活性化する能力が低下し、代償的に起こる大腿二頭筋や外腹斜筋、脊柱起立筋などのいわゆるグローバルマッスルの過活動に頼って何とか体幹の安定性を出そうという傾向があると報告されています。言いかえれば、これらの患者を治療していく上で、仙腸関節そのものや、腰椎ばかりを診るのではなく、例の4人集の機能をいかに回復するかが真の症状改善の重要な鍵になるわけです。

中でも横隔膜は実に面白い筋肉です。姿勢筋としての機能はもちろん、呼吸筋としてもっと大事な機能も担っています。「人がこの世に生を受けて一番最初に使う筋肉であり、最期に使う筋肉でもある」なんて聞いたこともあります。理想としては横隔膜が呼吸筋 兼 姿勢筋として、その能力をノビノビと発揮できれば言うことがないわけですが、横隔膜の活動が低下すると胸鎖乳突筋、斜角筋、僧帽筋上部などがその呼吸機能を補おうと過活動を起こし、胸郭を引っ張り上げる形で吸気を行おうとする、いわゆる"Dysfunctional Breathing Pattern"が始まってしまいます。23, 24 呼吸の代償行為です。

●代償の結果
こうして呼吸や姿勢を保つのに本来使うべき筋肉を使えない状態が続くと、前述したようなグローバルマッスル(= prime movers)の過活動がおき、姿勢・呼吸が理想的に保てない・行えないばかりか、スポーツ等のパフォーマンスにも影響が出てくることになってしまいます。最適なスポーツパフォーマンスとは、使うべき筋肉の活性化と、休むべき筋肉の抑制のバランスが取れてこそ実現するからです。例えば、今まさにジャンプをしようと大腿四頭筋を収縮させる時には、対となる大腿二頭筋が抑制されてこそ大腿四頭筋の真価が発揮されるわけですよね?大腿四頭筋と大腿二頭筋の収縮が同時に起こってしまうようなことがあれば、co-contractionと呼ばれるような足の動きの硬さが生まれてしまい、しなやかで流れるようなジャンプの実現は難しいでしょう。これを示唆するかのように、「自覚症状が全くない人でも横隔膜を適切に使えていないとFMSのスコアも低くなる傾向にある」という研究も発表されていたりします。28 いやはや面白い。
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●代償パターンから抜け出す
横隔膜を使った呼吸はヨガ11 やピラティス12、太極拳13 などのトレーニングでも随分昔から使われており、近年ではそういった呼吸法をスポーツ医学やアスレティックパフォーマンス、ストレングス&コンディショニングの分野でも取り入れられることが増えてきました。実際に、呼吸に特化したトレーニングを積むことで、持久力や筋力の向上が見られたと2つのメタ分析論文によって報告されています。14,15 自然な呼吸パターンを取り戻すことで 1) 頭部、頚椎、額関節、肩甲骨に胸椎の姿勢改善が見られること、16 2) 腰椎の痛み低下につながること、17 3) 4人集の機能が回復され、体幹の安定性が取り戻せること18, 19 などが分かっているのです。

本筋からは脱線しますが、横隔膜を使った深い呼吸で副交感神経優位になることから、血圧が下がったり、20 練習後にこうした呼吸トレーニングを足すことで運動誘発性酸化ストレスの程度を下げ、効果的なリカバリーが促進される21とも発表されています。エリート水泳選手を対象にした「週に最低一回の呼吸トレーニングで風邪を引く頻度が減った→免疫力の向上に効果アリか?」という論文22も面白かったなぁー(これに関しては私はまだ懐疑的です)。

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その横隔膜の機能獲得に、風船を使ってエクササイズをしてみたら面白いんじゃない?というのが上の論文です。25 読みやすいので興味がある方には是非読んでいただきたいです。ちなみにこの論文はfree full textですよ、リンクはこちら

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こちらは実験タイプの論文です。26 腰痛・骨盤痛のある患者をOber's Test (= Adduction Drop Test)を用いて評価して、その結果によって2つの異なるエクササイズを処方(両方陽性の場合は左、片方のみ陰性の場合は右)。それぞれの運動をワンセッションのみ試したところ、エクササイズ前と比べて股関節の可動域と痛みが大幅に改善(それぞれp <0.01、p <0.01)されたという報告がなされています。こちらもfree full textですよ。
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こちらの記事はClinical Suggestion。27 横隔膜をターゲットにした呼吸に加えて、IC Adductorと呼ばれる内転筋を活用したエクササイズの臨床に於ける臨床的価値を議論しています。これもfree full text。

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こちらは症例報告。29 21歳の「日常生活に支障が出るほど」の腰痛が主訴の大学生野球選手が取り上げられており、当初3週間かけてMuscle Energyやカイロプラクティック・マニピュレーション、腰椎の安定性を上げるような運動をしてみるも効果が見られず。アプローチを変え、特殊なメガネ(視覚情報のinputに対する治療介入)と、横隔膜を使ったエクササイズとの併用で症状が完全に消失し、競技完全復帰まで持っていけた、という内容です。こちらもfree full text。

そんなわけで、少ないですがPostural Restoration Institute (PRI)に直接関わる文献をここで紹介させていただきました。興味がある方は是非読んでみて下さい。でもね、タイトルこそ「風船を使って…」って書きましたが、PRIエクササイズは風船を使わないものの方が多いんですよ。風船は、まだまだ腹壁が上手く使えない段階で「拮抗」の感覚を出すのに有効なので使っているだけで、腹壁が活性化できるようになれば風船無しでも呼気を意識しながら様々なエクササイズが行えます。

最後に、本家PRIのウェブサイト(英語)と、PRI Japanのウェブサイト(日本語)へのリンクもどうぞ。2016年5月に公式の講習会が名古屋、東京、福岡の3会場で予定されており、申し込み受付は3月14日(月)日本時間午前8時に開始いたします。座席には限りがあり、かなり早いペースで埋まる可能性がありますのでご理解ください。5月に色々な方にお会いできるのを楽しみにしております。

(ちなみに、このブログで初めてPRIを紹介する目的で書いたエントリーがこちらです。個人的なPRIに対しての思いをかなり正直に書いてます。ぶっちゃけすぎた?こちらも宜しければどうぞ)

1. Hodges P. Is there a role for transversus abdominis in lumbo-pelvic stability? Man Ther. 1999;4(2):74-86.
2. Hodges P, Gandevia S, Richardson C. Contractions of specific abdominal muscles in postural tasks are affected by respiratory maneuvers. J Appl Physiol. 1997;83(3).
3. Hodges PW, Butler JE, McKenzie DK, et al. Contraction of the human diaphragm during rapid postural adjustments. J Phys. 1997;505(2):539-48.
4. Sapsford RR, Hodges PW, Richardson CA. Activation of the abdominal muscles is a normal response to contraction of the pelvic floor muscles. In: International Continence Society Conference. Japan, 1998.
5. Hodges PW, Richardson CA. Contraction of the abdominal muscles associated with movement of the lower limb. Phys Ther. 1997;77(2):132-43.
6. Hodges PW, Heijnen I, Gandevia SC. Postural activity of the diaphragm is reduced in humans when respiratory demand increases. J Physiol. 2001;537(3):999-1008.
7. Kolar P, Sulc J, Kyncl M, Sanda J, Neuwirth J, Bokarius AV, Kriz J, Kobesova A. Stabilizing function of the diaphragm: dynamic MRI and synchronized spirometric assessment. J Appl Physiol. 2010;109(4):1064-71. doi: 10.1152/japplphysiol.01216.2009.
8. Bussey MD, Milosavljevic S. Asymmetric pelvic bracing and altered kinematics in patients with posterior pelvic pain who present with postural muscle delay. Clin Biomech. 2015;30(1):71-77. doi: 10.1016/j.clinbiomech.2014.11.002.
9. Shadmehr A1, Jafarian Z, Talebian S. Changes in recruitment of pelvic stabilizer muscles in people with and without sacroiliac joint pain during the active straight-leg-raise test. J Back Musculoskelet Rehabil. 2012;25(1):27-32. doi: 10.3233/BMR-2012-0307.
10. Kolar P, Sulc J, Kyncl M, Sanda J, Cakrt O, Andel R, Kumagai K, Kobesova A. Postural function of the diaphragm in persons with and without chronic low back pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2012;42(4):352-362. doi: 10.2519/jospt.2012.3830.
11. Telles S, Sharma SK, Yadav A, Singh N, Balkrishna A. Immediate changes in muscle strength and motor speed following yoga breathing. Indian J Physiol Pharmacol. 2014;58(1):22-29.
12. Barbosa AW, Guedes CA, Bonifácio DN, de Fátima Silva A, Martins FL, Almeida Barbosa MC. The Pilates breathing technique increases the electromyographic amplitude level of the deep abdominal muscles in untrained people. J Bodyw Mov Ther. 2015;19(1):57-61. doi: 10.1016/j.jbmt.2014.05.011.
13. Lan C, Chen SY, Lai JS, Wong AM. Tai chi chuan in medicine and health promotion. Evid Based Complement Alternat Med. 2013;2013:502131. doi: 10.1155/2013/502131.
14. Illi SK, Held U, Frank I, Spengler CM. Effect of respiratory muscle training on exercise performance in healthy individuals: a systematic review and meta-analysis. Sports Med. 2012 Aug 1;42(8):707-24. doi: 10.2165/11631670-000000000-00000.
15. HajGhanbari B, Yamabayashi C, Buna TR, Coelho JD, Freedman KD, Morton TA, Palmer SA, Toy MA, Walsh C, Sheel AW, Reid WD. Effects of respiratory muscle training on performance in athletes: a systematic review with meta-analyses. J Strength Cond Res. 2013 Jun;27(6):1643-63. doi: 10.1519/JSC.0b013e318269f73f.
16.Neiva PD, Kirkwood RN, Godinho R. Orientation and position of head posture, scapula and thoracic spine in mouth-breathing children. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2009;73(2):227-236. doi: 10.1016/j.ijporl.2008.10.006.
17. Lamberg EM, Hagins M. The effects of low back pain on natural breath control during a lowering task. Eur J Appl Physiol. 2012;112(10):3519-3124. doi: 10.1007/s00421-012-2328-6.
18. Vieira DS, Mendes LP, Elmiro NS, Velloso M, Britto RR, Parreira VF. Breathing exercises: influence on breathing patterns and thoracoabdominal motion in healthy subjects.
Braz J Phys Ther. 2014;18(6):544-552. doi: 10.1590/bjpt-rbf.2014.0048.
19. Kim E, Lee H. The effects of deep abdominal muscle strengthening exercises on respiratory function and lumbar stability. J Phys Ther Sci. 2013;25(6):663-665. doi: 10.1589/jpts.25.663.
20. Lee JS, Lee MS, Lee JY, Cornélissen G, Otsuka K, Halberg F. Effects of diaphragmatic breathing on ambulatory blood pressure and heart rate. Biomed Pharmacother. 2003;57 Suppl 1:87s-91s.
21. Martarelli D, Cocchioni M, Scuri S, Pompei P. Diaphragmatic breathing reduces exercise-induced oxidative stress. Evid Based Complement Alternat Med. 2011;2011:932430. doi: 10.1093/ecam/nep169.
22. Wright PA, Innes KE, Alton J, Bovbjerg VE, Owens JE. A pilot study of qigong practice and upper respiratory illness in elite swimmers. Am J Chin Med. 2011;39(3):461-475.
23. Hruska R. Influences of dysfunctional respiratory mechanics on orofacial pain. Dent Clin North Am. 1997;41(2):211-227.
24. De Troyer A. Effect of hyperinflation on the diaphragm. Eur Respir J. 1997;10(3):708-13.
25. Boyle KL, Olinick J, Lewis C. The value of blowing up a balloon. N Am J Sports Phys Ther. 2010;5(3):179-188.
26. Tenney HR, Boyle KL, Debord A. Influence of hamstring and abdominal muscle activation on a positive ober's test in people with lumbopelvic pain. Physiother Can. 2013;65(1):4-11. doi: 10.3138/ptc.2011-33.
27. Boyle KL. Clinical application of the right sidelying respiratory left adductor pull back exercise. Int J Sports Phys Ther. 2013;8(3):349-358.
28. Bradley H, Esformes J. Breathing pattern disorders and functional movement. Int J Sports Phys Ther. 2014;9(1):28-39.
29. Robey JH, Boyle K. The role of prism glass and postural restoration in managing a collegiate baseball player with bilateral sacroiliac joint dysfunction: a case report. Int J Sports Phys Ther. 2013;8(5):716-728.

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  by supersy | 2016-02-18 18:30 | PRI | Comments(0)

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