Injury-Induced Neuroplastic Changes: 膝の怪我が脳に与える影響?

ちょっと書きなぐりになってまいますが、面白い学びの機会があったので忘れないうちにまとめておきます。

以前Neuroplasticityについて少し書いたことがありましたが、そんであの後、脳梗塞患者さんのリハビリとかについての研究を幾つか読んだりしていたのですが、今回はもっと我々Athletic Trainerにとって身近な、Injury-Induced Neuroplastic Changeというところについて学ぶ機会がありました。
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●いつでも、どこでも
さて、Neutoplasticity (脳の可塑性)という言葉ももうだいぶ知られるようになりましたが、多くの皆さんもご存知のように「脳の機能は我々が思うほど固定されておらず、臨機応変に変化していける能力がある」というこのコンセプトの初期の研究はStroke patient (脳梗塞患者)を対象にしたものが殆どでした。全身不随になり、もう寝たきりにならざるを得ない、と医者に言われた患者が歩けるようになったりとか…。…ですが、脳機能の変化は、何も脳に直接損傷が起こった時に限って見られる現象というわけではありません。私達の脳に病理がなく、完璧に健康だったとしても脳の機能は常に競い合っていて、最も求められ、繰り返し使われる者たちがどんどんその立場を大きくしていくのです(= "what's fired together will be wired together")。極端に言えば、今貴方に縄跳びを渡して「100回前飛びをしてください」とお願いしたとして、縄跳びをする前の脳とした後の脳を比べれば、貴方の脳の中でもその機能に僅かながら、でも確実な変化が見られるはずなのです。こういった変化を生み出すキーワードは「短期集中」。患者が積極的に何度も獲得したい機能のoutputを短期間内に繰り返すことで脳に新しい情報処理回路が生まれ、脳が己をreorganize, remapしていくのです。
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●外傷によっても起こる脳の変化
…で、本題に入ると、膝の障害、例えばACL断裂した患者の脳にもやはり受傷後変化が見られるようです。これを、Injury-induced (怪我に起因する) neuroplastic changeと呼びます。この半年ほど前に発表されたGrooms氏らの論文(↓)1、commentaryではありますがよくまとめられていてオススメです…で、この中でACL断裂を経験した患者が組織の物理的損傷とそれに付随する痛みと腫れ等によってafferentのsomatosensory feedbackが乱れ、それを元に作られるmotor output、そしてmovement planningの要であるfeedforwardまでもが影響を受けること、加えて、その影響でgamma motor neuron functionとperturbation reflexesの低下が患者に見られる、と書かれています。1
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●目で補う
入力がずれ、出力もずれてくる、feedbackとfeedforwardのループが途切れてしまう…その結果、機械受容器が頼れないならば、と、患者は目から入ってくる情報に重きを起き始めるのです。今自分がどこにいて、身体がどういう状況に置かれているのかを解釈するのにVisual feedbackに頼るという、神経学的な情報処理の代償が起きてしまうというわけ。
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この考えはBaumeister et al2,3の行った脳波検査によっても指示されています。ACLの再建手術を受けた患者は健康な被験者と比較して、筋肉の出力2や関節の状態3を感じたり微調整したりする作業中、脳の感覚と注意力を司る部分の活性化がより顕著に見られたのだそう。にも関わらず、パフォーマンスの精度は総じて悪かった。加えて、fMRIを用いたKapreli et al4の研究でもACL断裂した患者が膝の屈曲・伸展を行う間、健康なヒトと比べて1) 次の動きのプランニングをするpresupplementary motor area, 2) 痛みの刺激のやりくりをするposterior secondary somatosensory area、そして 3) 視覚的な情報をプロセスするposterior inferior temporal gyrusに過活動が見られたことが報告されています。言い換えれば、ACL断裂した患者の脳は同じタスクをこなすときに普通のヒトよりもかなり一生懸命に働いているにも関わらず、生産性は悪い (= have to work harder to produce less)。効率の悪い状態に陥っていることが分かるわけです。
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●怪我のリスク
この状況は、言わば脳のメモリの無駄遣い。そうでなくてもアスリートは、例えばバスケットボール選手なんかは、プレー中、意識を払わなければならないことが沢山あるわけです。今ボールはどこにあるのか、周りの選手はどこにいて、どう動いているのか、今コールされたフォーメーションプレーは何なのか…。常に環境が移り変わるコート上で、この「メモリの無駄遣い」が既に起こってしまっているとしたら、本来集中すべきことに使いたいメモリが足りなくなってしまい、結果として他のプレーヤーと衝突してしまったりなど怪我のリスクが高まってしまうことも充分に考えられます(怪我をしないにしても、その状態でのパフォーマンスが最大限まで引き出されることはまずないでしょう)。

●脳も一緒にリハビリする
では、競技復帰を目指す中で、どのようにこの脳の変化もリハビリしていけば良いのか?単純なタスクはメモリ不足の状態でもやりくり出来てしまう。かといって複雑なタスクをそのままやらせては、Neuroplastic change (視覚ばかりに頼る傾向)がどんどん色濃くなってしまう。この状況を脱するには、複雑なタスクを視覚的情報に頼らずにする練習を取り入れるべき、とGrooms氏らは提唱します。1 Disrupted Visual Feedbackと呼ばれるこの手法は、目を閉じさせたり目隠しをしたりするような方法でも従来リハビリに取り込まれていたものではありますが、完全に視界を遮ってしまうと単純な片足バランス以上の難易度のエクササイズをすることはなかなか難しいですよね。もっとダイナミックで複雑なタスクをさせようと思ったら、視界を全て奪うこと無く、部分的に制限をかけることが重要になってきます。1
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Grooms氏ら1Stroboscopic eyewear(↑)というデバイスの使用をオススメしています。市場に出回っているものにはいくつかの種類があるようですが(Nikeとか、カナダの会社日本、京都市にある会社も製造しているようです)、超高速で視界が『通常』⇔『暗くて見難い』に切り替わるのが共通した特徴です。Grooms氏は、患者がこれを着用した状態で、例えば1) 片足ジャンプからの着地→そこにバスケットボールを投げ、片足でバランスを保ったままキャッチ、とか、2) 両足で大きく前方にホップ→空中に投げ上げられたボールの方角から、着地と同時にカットしてボールをキャッチ、などの視覚的刺激に反応するタイプの高度な運動をすべきだと提唱。1 視覚情報をneuromuscular controlの名目でなく、(本来使うべき)ボールや選手の判断に使うことで、neuromuscular controlはちゃんとpririoceptive inputsから作り出しましょうよ、という、メカニズムを原点に戻すことを促すのが目的なわけです。1
こういったリハビリ法がどういったneuroplasticな変化をもたらすのかはこれからの研究が示すところではありますが、ストロボメガネというものを使ったリハビリを私は見たことがなかったので斬新で興味深いです!これから色々と論文が出そうな分野なので要チェックやー。

ちなみに下はYouTubeで見つけたStrobe glassesの動画たちです。特に私が個人的にどの会社のどの製品をサポートしているというつもりはありませんが、面白いかなと思ったので貼っつけておきます。興味がある方は是非!私も試してみたいなー。こちらは無声動画


日本語の動画です

1. Grooms D, Appelbaum G, Onate J. Neuroplasticity following anterior cruciate ligament injury: a framework for visual-motor training approaches in rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(5):381-393. doi: 10.2519/jospt.2015.5549.
2. Baumeister J, Reinecke K, Schubert M, Weiss M. Altered electrocortical brain activity after ACL reconstruction during force control. J Orthop Res. 2011;29(9):1383-1389. doi: 10.1002/jor.21380.
3. Baumeister J, Reinecke K, Weiss M. Changed cortical activity after anterior cruciate ligament reconstruction in a joint position paradigm: an EEG study. Scand J Med Sci Sports. 2008;18(4):473-484.
4. Kapreli E, Athanasopoulos S, Gliatis J, Papathanasiou M, Peeters R, Strimpakos N, Van Hecke P, Gouliamos A, Sunaert S. Anterior cruciate ligament deficiency causes brain plasticity: a functional MRI study. Am J Sports Med. 2009;37(12):2419-2426. doi: 10.1177/0363546509343201.

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  by supersy | 2016-01-31 16:20 | Athletic Training | Comments(0)

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