アメリカ大学スポーツにおける脳震盪の受傷頻度と傾向。

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脳震盪の話題が前回の論文で上がっていたので、最新(今月発表)の脳震盪Epidemiologyの論文1も読んでみることにしました。

こちらの論文(↑)は、2009年から2014年までの5年間に起きたスポーツ脳震盪の症例数を集計・分析したもの。25のスポーツ全てのデータを合せて、5年間で1670件の脳震盪が起こり、その割合は怪我全体の6.2%を占めていました。全体的には増加していると断言はできなかったものの、アメフト、女子アイスホッケー、男子ラクロスなどの特定のスポーツを筆頭に、他のスポーツでも統計的有意にかなり近づくような増加傾向は確認されたそう。これは、昨日紹介したDick et alの報告2 を裏付けるものですね。
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●練習 vs 試合
イベント別に分けると、試合中が888件(53.2%)と練習中が782件(46.8%)。もちろん試合と練習の絶対数が違うので、それを考慮に入れて分析すると試合中のリスクは練習中の4.99倍 (95%CI 4.53-5.49) という、Dick et al2が男子バスケットボールについて分析して出した練習→試合のリスク増加 (RR = 2.7, 95%CI 2.6-2.8) のおよそ倍という結果に。Exposure毎の分析を見てみても、Dick et al2のまとめた男子バスケに特化した0.12/0.32 per 1000 AEs (練習/試合)と数字と比べて今回の25種目合計はは0.26/1.28 per 1000 AEsと、かなり高くなっていますね。

●スポーツ別のリスク
絶対数を比較すると、最も脳震盪数が多かったトップ3のスポーツは:
  1. Men's Football (36.1%)
  2. Men's Ice Hockey (13.4%)
  3. Women's Soccer (8.1%)
という結果ですが、アメフトは選手数も大学規模だとひとチーム100人くらいいますし、それほど驚く数字でもないかも知れません。少し意外に感じるのは、ひと選手あたりの受傷率に換算して同じデータを見てみると、一番リスクが高いのはMen's Wrestlingという結果です。練習受傷率、試合受傷率、それから合計受傷率を順に比較してみると(単位は全てper 1000 AEs、つまり一人の選手が1000回練習、試合、又は両方に参加して、脳震盪を受傷する確率は…?ということ)、

  Men's Wresting  0.568 (0.392-0.744) 5.546 (3.943-7.148) 1.092 (8.62-13.23)
  Men's Football   0.420 (0.375-0.464) 3.007 (2.643-3.371) 0.671 (0.617-0.724)
  Men's Basketball  0.342 (0.254-0.431) 0.560 (0.345-0.775) 0.389 (0.306-0.472)

  Women's Soccer  0.214 (0.143-0.285) 1.938 (1.560-2.316) 0.631 (0.525-0.737)
  Women's Basketball 0.443 (0.336-0.550) 1.092 (0.789-1.395) 0.595 (0.487-0.704)
  Women's Volleyball 0.269 (0.173-0.365) 0.575 (0.354-0.796) 0.375 (0.264-0.451)


別にこれはトップ3じゃないです。私の好みで並べてみただけ。25のスポーツ全てのデータが見たい方は是非元記事にアクセスしてみてください。でもこういうデータ眺めてると色々面白いですよね。単純なリスク率でいうと、男子バスケの脳震盪率は例えば女子バレーと全然変わらないじゃん!とか、男子と女子バスケの比較すると、女子バスケのほうがリスクが格段 (約2倍) に高いじゃん!とか、試合中のレスリングはホントにやばくない?とか、色々なことが見えてきます。
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●脳震盪の再受傷率
この論文には「脳震盪全体の9.0%が再受傷(recurrent)であった」というもの興味深い一文も含まれています。つまり、起こる脳震盪の11件に一件は再受傷である、と。これをスポーツ別に、脳震盪の再受傷率男女別トップ3を見てみると、
  男子
 Men's Ice Hockey 20.02%
 Men's Basketball 13.1%
 Men's Wrestling 8.1%

  女子
 Women's Field Hockey 13.3%
 Women's Soccer 12.5%
 Women's Basketball 10.3%

ふーむ、面白いんですけどこれはどう解釈すればいいのか…。もうちょっと色々な研究を重ねてみて、「初回脳震盪を起こしやすいスポーツ」と、「脳震盪受賞歴がある人が、とくに再受傷しやすいスポーツ」とか見てみたいですね。そこから生まれる予防法なんかもあるかも。
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●まとめ
…で、やっぱり思うのが、女性のほうが男性と同じスポーツをやっていても脳震盪を起こしやすい、というのはもうずっと前から言われていて、この研究でもはっきりとそれをサポートする結果がでています。女性のほうが競技中の首の振れ具合が大きいとか、サッカーで頭とボールのサイズの率が男性よりも高いからだとか、女性のほうが素直に脳震盪の症状をきちんと医療従事者に報告する傾向にあるからだ、とか色々言われていますが、詳しいことはまだまだ分かりません。恐らくは複数の要素が複雑に絡みあって起きている現象かとは思いますけれど。

ちなみにコレと対になるもうひとつの論文3の結果もさらりとまとめると、脳震盪を受傷した患者は、
1. 平均5.29 ± 2.94個の症状を訴える
2. 中でも多いのは頭痛 (92.2%) と目眩 (68.9%) という訴え
3. そのうち、半数以上 (60.1%) の患者の症状は一週間以内に完全に消えるが、
 少数 (6.2%) の患者は4週間たっても症状が続いたままであった
4. 脳震盪の回復の早さに男女差は見られなかったが、
 男性の脳震盪患者は記憶障害や精神錯乱などの症状の訴えが多かったのに比べ、
 女性は頭痛、倦怠感、吐き気を訴えることのほうが多かった。
5. 再受傷患者のほうが、初受傷患者に比べて、1) より訴える症状の数が多く (5.99±3.43
 vs5.22±2.88, p = .01), 2) その症状が消えるまでに長い時間がかかる可能性が高く
 (14.6% vs 5.4%, p < .001)、 3) 競技復帰までにかかる時間も長かった
 (21.2% vs 7.7%, p < .001) そうな。つまり、再受傷の患者のほうが総じて
 重度が高い
、と。

ここらへんは、私の今までの知識に反するものではないので驚きはありませんが、これから脳震盪関係の論文を書いたりプレゼンをまとめたりする上で、必要不可欠な情報のソースになりそうですね、これらの研究たち!

1. Zuckerman SL, Kerr ZY, Yengo-Kahn A, Wasserman E, Covassin T, Solomon GS. Epidemiology of Sports-Related Concussion in NCAA Athletes From 2009-2010 to 2013-2014: Incidence, Recurrence, and Mechanisms. Am J Sports Med. 2015;43(11):2654-62. doi: 10.1177/0363546515599634.
2. Dick R, Hertel J, Agel J, Grossman J, Marshall SW. Descriptive epidemiology of collegiate men's basketball injuries: National Collegiate Athletic Association Injury Surveillance System, 1988-1989 through 2003-2004. J Athl Train. 2007;42(2):194-201.
3. Wasserman EB, Kerr ZY, Zuckerman SL, Covassin T. Epidemiology of Sports-Related Concussions in National Collegiate Athletic Association Athletes From 2009-2010 to 2013-2014: Symptom Prevalence, Symptom Resolution Time, and Return-to-Play Time. Am J Sports Med. 2015. pii: 0363546515610537.

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  by supersy | 2015-11-30 22:45 | Athletic Training | Comments(0)

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